長崎大学はこのたび、国立健康危機管理研究機構(Japan Institute for Health Security: JIHS)が実施する「令和7年度 医療技術等国際展開推進事業」において、
『ケニアにおける超音波気管支鏡導入と専門看護師・臨床工学士育成』が採択されました。
本事業では、ケニア最大の三次医療機関であるケニヤッタ国立病院(KNH)において、肺がん診断に不可欠な超音波気管支鏡(EBUS)技術の導入と、医師・看護師・臨床工学技士への研修者研修(ToT)を実施します。日本の高度な呼吸器内視鏡診療、内視鏡看護、機器メンテナンスの知見を、アフリカ・ケニアの現地状況に適合させ、ケニア国内に自立的な研修体制を構築し、医療水準の底上げに貢献してまいります。
■何をするプロジェクトなの?
本プロジェクトでは、日本の先進技術である超音波気管支鏡(EBUS)の導入と、気管支鏡診療をケニアに広く根づかせるための人材育成を進めていきます。その中心となるのが、
“研修者研修(ToT: Training of Trainers)”です。
ケニアの医師・看護師・臨床工学技士を対象に、
- 気管支鏡検査の実技
- 内視鏡看護の基礎
- 機器メンテナンス技術
といった多領域にわたる研修を実施し、将来的にはケニア人自身が教育者となって研修を継続・展開できる体制の確立を目指します。

また、日本国内で使用されなくなった中古の気管支鏡(故障や耐用年数超過によるもの)を再活用し、シミュレーターなどと組み合わせて、ケニアでのトレーニング教材としての活用も検討されています。
臨床現場に近い環境で、実践的な技術習得を促すことが期待されています。
■なぜケニアで?なぜ今?
ケニアでは結核やHIVに加え、近年がんの増加が深刻な課題となっています。特に肺がんに関しては、診断や治療を行う医療体制が非常に限られています。
その大きな要因は「機材・技術・保守の不足」。私たちはこれらの“空白”を埋め、ケニアの医療の底上げを図ります。
このプロジェクトの出発点は、2024年、永安学長がケニヤッタ国立病院(KNH)の気管支鏡室を視察した際にさかのぼります。その現場では、機器の故障やメンテナンス体制の不備といった課題が明らかになり、早急な支援の必要性が共有されました。

その後、ケニア拠点(長崎大学熱帯医学研究所)副拠点長の齊藤准教授が中心となり、長崎大学病院と協議を開始。齊藤准教授は、病院内の呼吸器内科・看護部・臨床工学(ME)部門と個別に調整・検討を重ね、ケニアの現場に即した医療技術移転と人材育成を行うプランをまとめ上げ、今回の応募に至りました。
■どんなメンバーが関わっているの?
- 長崎大学
長崎大学病院の医師・看護師・臨床工学技士に加え、熱帯医学研究所ケニア拠点(齊藤、彦根)が現地との協働を担います。病院長補佐(国際)松本教授、呼吸器内科 竹本先生、感染症内科 田中先生を始め、看護部、ME機器センターから多数が参画します。 - オリンパス株式会社
超音波気管支鏡(EBUS)を含む気管支鏡機材の提供と技術支援を行います。 - AA Health Dynamics(ケニア)
現地に根ざした医療教育の専門企業として、教育素材の開発や研修運営を担当します。 - ケニヤッタ国立病院(KNH)
ケニア最大の三次医療機関として、研修の実施と普及の中心的な役割を担います。

■超音波気管支鏡(EBUS)とは?
EBUSとは、超音波を搭載した内視鏡で、肺やリンパ節の深部にある病変をリアルタイムで映し出し、組織採取(生検)までを安全に行える画期的な検査機器です。
肺がんの早期診断に不可欠であり、すでに日本や欧米では標準技術となっています。
■オリンパス
オリンパス株式会社(Olympus Corporation)は、日本を代表する内視鏡機器メーカーであり、気管支鏡や超音波気管支鏡(EBUS)を世界で初めて実用化した企業です。2004年には実用的な EBUS‑TBNA システムを製品化し、以降、診断精度の高い検査手法として世界中に広まりましたまた、オリンパスは世界の内視鏡市場で約70%のシェアを占めるトップ企業とされ、特に呼吸器内視鏡の分野において高い信頼と実績があります
■KNH
ケニヤッタ国立病院(KNH)は、ケニアの首都ナイロビに位置する国内最大・最上級の三次医療機関で、ベッド数は約1,800床。結核・HIVに加え、がん診療の中核病院として今後の発展が期待されています。
■AA Health Dynamicsとは?
Asia Africa Health Dynamics(AAHD) は、ケニア・ナイロビに拠点を置き、新興国における医療教育・トレーニング事業を展開する企業です特に、超音波診断(POCUS)や心臓カテーテル技術などの研修を通じてアフリカ現地の医療従事者の能力向上に取り組んでおり、CPD認定を付与する教育プログラムを展開しています医療機器のファイナンス支援やクリニック運営など、多面的な実務支援を通じて、アフリカの医療インフラの強化に貢献しています
■医療技術等国際展開推進事業とは?
この事業は、国立健康危機管理研究機構(JIHS)が実施する国際医療連携事業です。
日本の医療技術・制度・製品の知見を活かし、相手国の医療水準向上と人材育成を支援することを目的としています。専門家の派遣や、現地・日本国内での研修、オンライン研修などを通じて、医療人材の育成や制度整備を多面的にサポートします。こうした取り組みを通じて、相手国の公衆衛生や医療体制の強化を図るとともに、日本との信頼関係を深める国際協力のモデルを目指しています。このたび、その令和7年度公募において、長崎大学熱帯医学研究所ケニア拠点 副拠点長の齊藤准教授を中心に、長崎大学病院とともに申請したプロジェクトが採択されました。
▶ 採択一覧はこちら:
https://kyokuhp.jihs.go.jp/activity/open/entry2025/R7_tenkaisuisin_saitaku_ichiran.pdf

■今後のスケジュール(予定)
- 2025年9–10月: ケニア人研修生(医師・看護師・技師)を日本に受け入れ(長崎大学で研修)
- 2025年11–12月: 日本チームがケニアに渡航し、現地研修を実施
- 2026年以降: ケニヤッタ国立病院医師・看護師・医療工学技士が中心となって継続的な研修プログラムを自走化予定
このプロジェクトが成功すれば、ケニア国内の肺がん診療体制が大きく変わります。
医師だけでなく、看護師や臨床工学士も含めたチーム医療の力で、命を救う未来をつくっていきます。
今後の進捗も随時報告してまいります。どうぞご注目ください!■