熱帯性ウイルス医薬品開発分野

当分野は、2022年度に国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が開始した「ワクチン開発のための世界トップレベルの研究開発拠点の形成事業」において、長崎大学が研究開発の中核を担うシナジー拠点の一つとして採択されたことにより、その研究開発計画の一つである「デング熱ワクチン開発をはじめとする熱帯ウイルス感染症医薬品開発にかかわる研究の遂行」を実施するために2023年 4月に熱帯医学研究所に設置された。
スタッフ
- 教 授
- Buerano Corazon Cerilla
- (兼)教授
- 森田公一
- (兼)准教授
- Mya Myat Ngwe Tun
- (兼)准教授
- Nguyen Thi Thanh Ngan
- (兼)准教授
- Muhareva Raekiansyah
- 特任研究員
- 福田健太
- 特任研究員
- 高山野火子
- 特任研究員
- Naderi Maliheh
- 特任研究員
- 田中由佳
- 技能補佐員
- 川端寛子
- 事務補佐員
- 渡邊貴美子
研究活動
私たちの研究活動は以下の項目を重点的に実施している。
- 新規生デング熱ワクチンの開発と特性評価:生ワクチンのヒト臨床試験における免疫応答を、中和抗体だけでなく抗体依存性感染増強現象(ADE)を当研究室で開発した評価・解析システムを用いて定量的に実施している。
- すべてのデングウイルス(DENV)血清型および主要な遺伝子型を代表する17種類の単回感染性粒子(SRIP)の包括的パネルを設計・構築し、DENV特異的モノクローナル抗体や臨床検体について網羅的な中和・ADEアッセイにより検証。これらのアッセイは、不死化ヒト細胞株を用いたハイスループットのin vitro評価系にて実施している。
- 検出精度を向上させるために、各種FcγRノックアウトK562細胞株を用いた改良ADEアッセイを開発中であり、さらにFcγRIIaおよびFcγRIIIaを発現するレンチウイルス導入BHK-21細胞およびHuh-7細胞を使用した検証実験をウイルス学分野と共同で行っている。
- ADE機構の構造的基盤の解明を、ウイルス学分野とウプサラ大学との共同で進めている。
- マウスモデルを用いてDENV、重症熱性血小板減少症候群ウイルス(SFTSV)、および新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のワクチンの評価を行っている。
- デングウイルスの病原性解明のために、新たに開発したADEによる重症化を再現できるマウスモデルを構築して種々の解析を実施中である。
- フィリピン、インドネシア、ベトナム、ミャンマーなどのデング流行地域における長期的な流行・アウトブレイク・感染転帰における中和抗体およびADEの評価を実施している。
- アジアの各国(ミャンマー、ベトナム、ネパール、フィリピン、スリランカ、マレーシア)におけるアルボウイルス(DENV、日本脳炎ウイルス、ジカウイルス、チクングニアウイルス、SFTSV)およびSARS-CoV-2の血清・分子疫学的研究を実施。これらのデータはワクチン開発や将来のワクチン接種プログラムの影響評価において重要である。
- ベトナムにおいて、フラビウイルス感染における交差反応性免疫の役割を中和抗体と増強抗体に着目し調査、臨床管理およびワクチン戦略に役立てる研究をしている。
- その他、ワクチン開発を目的としたマウスモデルにおけるDENVの比較病原性研究、天然薬用植物由来の化合物探索と既存薬のリポジショニングという2つの補完的アプローチを組み合わせ、SARS-CoV-2およびアルボウイルス(フラビウイルスおよびFTSV)に対する薬剤/化合物の開発と、それらがウイルス感染または複製を阻害する作用機序の研究、 SFTSVに対するPOC診断法の開発、COVID-19パンデミック前にベトナムで採取された血清検体に対し、SARS-CoV-2およびその変異株由来の交差反応性ペプチドの検出などの研究も海外の研究機関と共同で実施している。
上記の研究をシナジー拠点のメンバーとして、熱帯医学研究所ウイルス学分野や、高度感染症研究センター、医歯薬学総合研究科の他分野との共同実験を行いながら、熱帯性ウイルス医薬品開発に必要な基礎研究や疫学研究に邁進している。
最近の主な業績
- Ngwe Tun et al. J Infect Public Health 2025; 18(5): 102709.
- Ngwe Tun et al. J Infect Public Health 2024; 17(6): 1050-1056.
- Ngwe Tun et al. Pathogens 2024; 13(9): 818.
- Balingit et al. Virus Res 2024; 348: 199445.
- Thoresen et al. J Virol 2024; 98(5): e0023924.