熱帯性ウイルス医薬品開発分野

当分野は令和4年度に国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が開始した「ワクチン開発のための世界トップレベルの研究開発拠点の形成事業」において長崎大学が研究開発の中核を担う、シナジー拠点の一つとして採択されたことによりその研究開発計画の一つである「デング熱ワクチン開発をはじめとする熱帯ウイルス感染症医薬品開発にかかわる研究の遂行」を実施するために令和5年4月に熱帯医学研究所に設置された新分野である。

スタッフ

教授
Buerano Corazon Cerilla
(兼)教授
森田公一
(兼)准教授
高松由基
助教(有期)
Balingit Jean Claude Palma
助教(有期)
Aung Bhone Myat
助教(有期)
丹下寛也
客員研究員
Mya Myat Ngwe Tun
技能補佐員
山口小百合
事務補佐員
渡邊貴美子

研究活動

デングウイルス感染症は蚊で媒介される急性熱性感染症であり、毎年世界で4億人が感染し、約1億人近くが発症すると見積もられている。とくに小児では重症化して致死性の病態になることがあり、熱帯性ウイルス感染症のなかでも重要な感染症の一つであるが、いまだ有効なワクチンはなく、デング熱ワクチンの開発は上記AMED事業での重点感染症と位置づけられている。当分野では九州に拠点を置くKMバイオロジクス社のデング熱4価生ワクチンの開発に協力するとともに、mRNAワクチンの開発を推し進めることでAMED 事業の目的の一つである「100日ワクチン構想」へ寄与してゆく。
デング熱ワクチンの開発の困難さは、このウイルスに特徴的な抗体依存性感染増強現象(ADE)による重症化が危惧されることによる。これはデングウイルスには4つの血清型があり、1つの血清型ウイルスの感染後に誘導される抗体により他の血清型のウイルス感染が増強されることで重症化するという現象で、さらに我々の研究では同じ血清型でも異なる遺伝子型のウイルス間では抗原性に差異があり ADE現象がみられることを明らかにしている。デング熱ワクチンの開発ではすべての血清型とその遺伝子型について ADEの評価をしておくことが必要であり、当分野で開発したハイスループットに再現性良くADEを定量評価できる in vitro 検査系(図1)を活用して研究を推し進めている。
また当分野は現在、 in vivo でのADE検査系や遺伝子組換えデング弱毒生ワクチンも準備中であり、加えてウイルス学分野、ベトナム拠点との共同で、デング熱ワクチン開発に必要な血清疫学調査、ならびに分子疫学調査をアジアを中心に実施している。


(図1)一回増殖性ウイルス粒子(SRIPs)を用いてハイスループット、かつ定量的にADEを計測する方法を確立した。



(図2)フィリピン国で観察された、デング2型ウイルスによる長期の流行継続は遺伝子型の
  異なる2つのデング2型ウイルス間のADE現象がその原因の1つと示唆された。

最近の主な業績

  1. Ngwe Tun MM et al. Microbes Infect 2023;6:105129.
  2. Ngwe Tun MM et al. Viruses 2021;13(8):1444.
  3. Balingit JC et al. Vaccines 2020;8(2):297.
  4. Ngwe Tun MM et al. Am J Trop Med Hyg 2020;102(6):1217-1225.