細菌学分野

本研究分野は、腸炎ビブリオやコレラ菌、サルモネラを含めた腸管病原細菌を対象に、環境における疫学的調査から感染発症機構の分子生物学的解析まで幅広く研究を行なっている。現在、薬剤耐性菌が世界で急速に広がっており、2050年には現在の10倍以上にあたる、年間1千万人が薬剤耐性菌の感染に関連して死亡すると予想されている。私達の研究成果が、抗菌薬のみに頼らない治療法、ワクチンの開発や感染コントロール対策に役立つことを期待して研究を進めている。今後国内外問わず多くの共同研究を通じて、グローバルに活躍できる優秀な研究者を育成することを目指している。

スタッフ

教 授
児玉年央
准教授(有期)
日吉大貴
助教(有期)
Tandhavanant Sarunporn
技能補佐員
松本由美子
技能補佐員
日吉あづさ
技能補佐員
児玉早織

研究活動

  • 腸炎ビブリオの病原性発揮機構の解明
    腸炎ビブリオが保有する2セットのIII型分泌装置(T3SS1とT3SS2)のうちT3SS2が、感染患者の下痢発症に必須であることを見出してきた(Hiyoshi et al., Infect Immune,2010)。さらにT3SS2から分泌されるエフェクタータンパクの同定と生物活性の決定(Kodama et al., Cell Microbiol, 2007; Hiyoshi et al., Cell Host Microbe, 2011; Hiyoshi et al., PLoS Pathog, 2015)、それら遺伝子群の発現誘導機構を解明してきた(Kodama et al., PLoS One, 2010; Gotoh et al., PLoS One, 2011; Tandhavanant et al., mBio, 2018)。また、腸炎ビブリオ発見当初から知られていた溶血毒(TDH)が分泌経路の違いにより異なる病原性に寄与することを報告した(Matsuda et al., Nat Microbiol, 2019)。しかしながら、本菌がどのように宿主腸管内に定着し、下痢を誘導しているのか、詳細なメカニズムは未だに明らかでない。現在、新規動物感染モデルの構築、生体内におけるT3SS2遺伝子群の発現機構やエフェクターの生物活性の解析および腸内細菌との相互作用等、多角的な視野から解析を行うことで腸炎ビブリオの下痢誘導活性の全容を解明したいと考えている。
  • ビブリオ属の感染流行地域での疫学調査および流行株出現の原因究明
    腸炎ビブリオやコレラ菌を含む病原性ビブリオ属菌を、感染の多いアジア流行地域の患者や、環境水および汚染が疑われる食品から分離し、病原性ビブリオ属菌の流行株の動向をゲノム疫学的な解析により理解することを目指す。またそれらの解析から、世界的な拡散に起因する因子を同定し、機能的な役割を明らかにしたいと考えている。
  • サルモネラの病原性発揮機構の解明
    全身感染に必須なサルモネラ病原性遺伝子島2(SPI-2)上にコードされる3型分泌装置(T3SS-2)のエフェクタータンパクの分子生物活性や菌体表面の構造を解析することで、サルモネラがどのように好中球やマクロファージ等による自然免疫に抵抗し、全身感染を起こすのか評価してきた(Hiyoshi et al., Cell Rep, 2018; Hiyoshi et al., Cell Host Microbe, 2022; Zhang et al., mBio, 2022)。現在はそれら解析以外にも、チフス菌やパラチフス菌、また他の血清型のサルモネラが、どのようなメカニズム全身感染を引き起こすのかについて、様々なin vitroの実験やネズミチフス菌・パラチフスC菌を用いたマウス全身感染モデル、または遺伝学的・疫学的背景を含めた総括的な解析を行うことで明らかにすることを目指している。将来的には、得られた知見を元に新規治療法およびワクチン開発基盤研究に結び付けたいと考えている。

最近の主な業績

  1. Anggramukti et al. PLoS Pathog 2024; 20: e1012094.
  2. Prithvisagar et al. Microb Pathog 2023; 178: 106069.
  3. Zhang LF et al. mBio 2022; e0273322.
  4. Liou MJ et al. Cell Host Microbe 2022; 30(6): 836-847
  5. Hiyoshi et al. Cell Host Microbe 2022; 30(2): 163-170.

業績一覧