ケニアで狂犬病の現場診断のためのトレーニングを実施しました

ケニアで狂犬病の現場診断のためのトレーニングを実施しました

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― ケニア中央獣医検査施設と共同で実施、ケニア全土の獣医検査施設・野生動物機関が参加 ―

2025年7月30日、ケニア・ナイロビ近郊のKabeteにある国立獣医中央検査施設(National Veterinary Reference Laboratory: NVRL)にて、狂犬病の迅速診断と全国的なサーベイランス体制の強化を目的とした現場対応トレーニングを実施しました。

このトレーニングは、**長崎大学熱帯医学研究所ケニア拠点(副拠点長/准教授 齊藤信夫)が研究代表者を務める「ケニア狂犬病プロジェクト」**の一環として、NVRLと共同で開催されました。

迅速診断法のハンズオントレーニング風景

■ 背景:なぜ今、現場での診断力が必要なのか?

狂犬病は、適切なワクチン接種で予防できるにもかかわらず、毎年アフリカやアジアを中心に多数の命が失われています。特にケニアでは、検体を扱える専門ラボが限られており、迅速な診断と対応が困難な地域が多く存在します。

この課題に対し、日本の大分大学とアドテック(大分県宇佐市)が共同開発した狂犬病迅速診断キット(LFD:Lateral Flow Device)を用いることで、専門機材のない現場でも短時間で診断を行うことが可能になります。

また、陽性となったLFDキットからRNAを抽出し、ゲノム解析を行うことで、ウイルスの系統や地域内での伝播経路、野生動物との関連性などを明らかにする全国規模のサーベイランス体制の構築を目指しています。

この取り組みは、ケニアおよびザンビアで狂犬病制圧に向けた現場主導の体制強化に尽力してきた齊藤信夫 准教授(長崎大学熱帯医学研究所ケニア拠点 副拠点長)が中心となって推進しており、LFDを活用した診断とゲノム監視を両立する新しいアフリカ発のモデルとして、他国への展開も期待されています。

参加者と研究代表者齊藤(中央)

■ トレーニングの内容と流れ

トレーニングは、齊藤准教授が本事業の背景と目的について説明することから始まりました。特に、ケニアにおける狂犬病の診断体制を全国的に強化することの重要性と、LFDを用いた迅速かつ安全な現場診断の可能性について参加者に共有しました。

続いて、狂犬病検査を安全に実施するための標準的な個人防護具(PPE)の装着・脱衣訓練、狂犬病の検査原理とLFD使用法に関する講義が行われ、午後には脳検体のサンプリング方法とLFDによる診断のハンズオン(実地)トレーニングが実施されました。

個人防護具(PPE)の装着・脱衣訓練

さらに、研修終了後には、すぐに現場での検査が開始できるように、参加機関それぞれに対してLFDキットおよび必要な器具が供与されました。これにより、研修が単なる学習に終わることなく、即時の実践へとつながる仕組みが整えられました。

野生動物保護管へ迅速診断キットの供与

■ 全国各地・多機関からの参加

本トレーニングには、NVRL傘下の**地方検査施設7か所(Nakuru、Mariakani、Witu、Kericho、Garissa、Karatina、Eldoret)に加え、野生動物の保護・研究に関わる5機関およびナイロビ大学(University of Nairobi)**の専門家が参加しました。

◆ 野生動物関連機関(計5機関)

  • Kenya Wildlife Services (KWS)
  • Vetin Wild
  • Wildlife Research and Training Institute (WRTI)
  • Kenya Society for the Protection & Care of Animals (KSPCA)
迅速診断法のトレーニング風景

■ 今後の展望:LFDによる全国サーベイランス体制の構築へ

今回のトレーニングは、ケニア国内の遠隔地域を含むあらゆる現場で、狂犬病を迅速に検出・報告できる体制づくりの第一歩となります。また、LFD陽性キットを収集しゲノム解析を行うことにより、狂犬病ウイルスの伝播経路やスピルオーバー(家畜から野生動物への感染、あるいはその逆)を解明し、より効果的なワクチン戦略や政策立案へとつなげていく予定です。

これらの取り組みは、2030年までに犬媒介性ヒト狂犬病をゼロにするという国際目標に貢献するものです。


■ 本事業の支援について

本プロジェクトは、日本学術振興会(JSPS)科研費(課題番号:24KK0174)の支援を受け、**長崎大学熱帯医学研究所 ケニア拠点(研究代表者:齊藤信夫 准教授)**が主導しています。