新型コロナワクチンの有効性に関する研究
〜国内多施設共同症例対照研究〜

Vaccine Effectiveness Real-Time Surveillance for SARS-CoV-2 (VERSUS) Study、第9報
長崎大学熱帯医学研究所
掲載日:2023年7月25日
要約

 長崎大学熱帯医学研究所を中心とする研究チームは、全国の医療機関 (病院および診療所)と協力し、新型コロナワクチンの有効性を評価する研究を2021年7月1日から行っている。第9報では、オミクロン対応2価ワクチンの国内での接種開始後の2022年10月1日から2023年3月31日に、研究参加医療機関で新型コロナウイルス検査を受けた16歳以上の患者情報を用い、国内での同期間の発症予防および入院予防におけるオミクロン対応2価ワクチンの有効性をまとめた。
 発症予防の有効性の評価では、16歳以上の7,893名 (うち検査陽性者3,394名)が解析対象となった。年齢中央値は43歳であり、27.5%に基礎疾患があった。16歳~64歳において、ワクチン未接種と比較したオミクロン対応2価ワクチン接種完了 (接種後14日以上経過)の有効性は55.7% (95%信頼区間:42.1~66.1%)、従来型新型コロナワクチンのみ接種完了 (接種後14日以上経過)と比較したオミクロン対応2価ワクチン接種完了の相対的な有効性は、従来型のみ接種完了 (接種完了後91~180日以内)との比較では、29.7% (95%信頼区間:7.1~46.8%)、従来型のみ接種完了 (接種完了後181日以上)との比較では、36.9% (95%信頼区間:20.2~50.1%)であった。65歳以上では、ワクチン未接種と比較したオミクロン対応2価ワクチン接種完了の有効性は73.0% (95%信頼区間:51.2~85.1%)、従来型新型コロナワクチンのみ接種完了と比較したオミクロン対応2価ワクチン接種完了の有効性は31.2% (95%信頼区間:-2.8~53.9%)であった。
 入院予防の有効性の評価では、16歳以上の1,306名 (うち検査陽性者316名)が解析対象となった。年齢中央値は83歳であり、74.6%に基礎疾患があり、88.6%が65歳以上であった。ワクチン未接種と比較したオミクロン対応2価ワクチン接種完了の有効性は79.6% (95%信頼区間:57.1~90.3%)、従来型新型コロナワクチンのみ接種完了と比較したオミクロン対応2価ワクチン接種完了の相対的な有効性は、従来型のみ接種完了 (接種完了後91~180日以内)との比較では、38.5% (95%信頼区間:-35.1~72.0%)、従来型のみ接種完了 (接種完了後181日以上)との比較では、41.8% (95%信頼区間:-26.4~73.2%)であった。
 本報告はオミクロン対応2価ワクチンの発症予防および入院予防における有効性を評価したものである。ワクチン未接種者と比較した場合の有効性は、発症予防・入院予防において高い有効性を認めたが、従来型のみを接種した場合と比較した場合には、発症予防・入院予防において中程度の相対的な有効性を認めた。本報告は暫定値であるが公衆衛生学的意義を鑑みつつ報告した。本報告は長期サーベイランス研究の一部であり、2022年10月1日から2023年3月31日の対象期間内でも未集計の情報も多数あるため、今後結果が変わる可能性があり、随時アップデートした結果を報告する予定である。

背景

 2021年7月1日から長崎大学熱帯医学研究所を中心とした研究チームは、全国の医療機関 (病院および診療所)と協力し、これまでにインフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの研究で使用されている検査陰性デザイン (test-negative design:TND)を用いた症例対照研究を使って (1, 2)、新型コロナワクチンの有効性を経時的に評価するサーベイランス研究 (Vaccine Effectiveness Real-time Surveillance for SARS-CoV-2 (VERSUS) study)を開始した (3)。これまでに、国内で導入されている新型コロナワクチンに関して、2021年7月~9月のB.1.617.2株 (デルタ株)流行期での発症予防における有効性 (4-6)、2022年1月~3月のオミクロン株の亜系統のBA.1流行期での発症予防における有効性 (7-9)、2022年7月1日~10月31日のオミクロン株の亜系統のBA.5流行期での発症予防における有効性 (10, 11)、2022年7月1日~9月30日における入院予防における有効性および2022年1月1日~9月30日での入院患者における重症化予防における有効性を評価した (12)。
 従来型の新型コロナワクチンは、デルタ株に対して国内外で発症予防において高い有効性を示したが、オミクロン株に対しては有効性が低下することが認められた。加えて、ワクチンの有効性が接種後の時間経過とともに低下することが明らかになった。そのため、オミクロン株に対応した新型コロナワクチンが開発され、国内では2022年9月20日からBA.1対応2価ワクチン、10月からBA.4/5対応2価ワクチンの接種が開始された。
 第9報では、本サーベイランス研究の2022年10月1日~2023年3月31日の調査結果から、オミクロン対応2価ワクチンの発症予防および入院予防における有効性を評価したため報告する。

方法

1) 発症予防の有効性に関する研究

 2022年10月1日から2023年3月31日までに全国10都府県 (福島県、東京都、神奈川県、千葉県、愛知県、京都府、奈良県、高知県、福岡県、長崎県)、計15か所の病院または診療所を新型コロナウイルス感染症が疑われる症状1)で受診し、新型コロナウイルス検査を受けた16歳以上の患者を対象に、患者基本情報、症状、新型コロナワクチン接種歴 (接種の有無、接種回数、接種日、接種したワクチンの種類)、新型コロナウイルス検査結果のデータを収集した。新型コロナウイルスの検査は、現在国内で診断に使用されている核酸増幅法検査 (PCRやLAMPなど)および抗原定量検査を対象とした。新型コロナウイルス検査陽性者を症例群、陰性者を対照群とした (図1)。発症から15日以降に検査を受けた患者および同一患者は定義2)に基づいて除外した。65歳以上は新型コロナワクチン優先接種対象であり、接種時期やワクチン接種後の経過期間などに交絡がある可能性を考慮して、16歳~64歳、65歳以上に分けての解析を行った。

 新型コロナワクチン接種状況は、それぞれの回数において、接種後から14日以上経過した場合を「接種完了」と定義した。本報告では、オミクロン対応2価ワクチンの評価を行うことを目的としていたため、ワクチンの有効性としてワクチン未接種と比較したオミクロン対応2価ワクチン接種完了の有効性、ワクチンの相対的な有効性として従来型ワクチンのみ接種完了 (2回以上接種)と比較したオミクロン対応2価ワクチン接種完了の有効性を評価した。接種したワクチンが、従来型ワクチンかオミクロン対応2価ワクチンのいずれであるかが不明な場合、2022年10月1日から2023年3月31日に3回目以降の接種として使用された新型コロナワクチンの99%以上がオミクロン対応2価ワクチンであることを考慮し (13)、2価ワクチンであると判断して解析に組み込んだ。ファイザー社製、モデルナ社製以外の新型コロナワクチン接種を受けた研究対象者数が極めて少ないため、ファイザー社製、モデルナ社製以外の新型コロナワクチン接種を受けた研究対象者は解析から除外した。接種したワクチンの会社が不明な研究対象者に関しては、国内で接種された新型コロナワクチンの99%以上がファイザー社製またはモデルナ社製であることを考慮し(13)、いずれかのワクチンを接種していると仮定した。最終接種からの時間経過により、新型コロナワクチンの有効性の低下が報告されているため (14, 15)、16歳~64歳における相対的な有効性の解析では、比較対象である従来型のみ接種群について、接種完了後からの経過時間で区切った評価を行った。65歳以上では、サンプルサイズが小さく、相対的な有効性の解析において、従来型のみ接種群について接種完了からの時間経過で区切った評価は行っていない。また、オミクロン対応2価ワクチンについては解析にふくまれた約90%が接種完了後90日以内であったため、接種後からの時間経過で区切った評価は行っていない。
 検査結果 (陽性・陰性)に接種歴を含む種々の要因が与える影響を、混合効果ロジスティック回帰モデルを構築して調整オッズ比と95%信頼区間を算出して評価した。新型コロナワクチンの有効性は、(1-調整オッズ比)×100%で算出した。回帰モデルには、検査結果(陽性・陰性)を被説明変数、新型コロナワクチン接種歴、年齢、性別、基礎疾患3)の有無、検査実施カレンダー週、新型コロナウイルス感染症患者との接触の有無、医療従事者であるかどうか、を固定効果 (fixed effect)、検査実施医療機関を変量効果 (random effect)の説明変数として組み込んだ。医療従事者はワクチン接種スケジュールがその他と異なることに加え、非医療従事者と比較して感染対策や検査を受ける頻度が異なる可能性を考え、「医療従事者であるかどうか」を回帰モデルに組み込んだ。正確な新型コロナワクチン接種日が不明であった研究対象者については、接種日の推定法が接種後の経過日数、さらには接種完了の有無の判断にも影響しうる。感度分析として、複数の方法で接種日を推定した解析を行った。
 本研究は長崎大学熱帯医学研究所および研究参加医療機関における倫理委員会で審査を受け、承認された後、実施した (長崎大学熱帯医学研究所倫理委員会における承認番号:210225257)。(倫理委員会がない医療機関では、長崎大学熱帯医学研究所倫理委員会で一括審査を行った。)


2) 入院予防の有効性に関する研究

 2022年10月1日から2023年3月31日の期間に全国9都府県 (福島県、東京都、千葉県、愛知県、京都府、奈良県、高知県、福岡県、沖縄県)、計11か所の病院で、急性呼吸器感染症を疑う症状 (発熱、咳、喀痰、胸膜痛、呼吸苦、頻呼吸、急性疾患による酸素投与)のうち2つ以上の症状があるか、新たに出現した肺炎像を認め入院した16歳以上の患者を対象に、患者基本情報、症状、新型コロナワクチン接種歴 (接種の有無、接種回数、接種日、接種したワクチンの種類)、新型コロナウイルス検査結果、入院時のバイタルサインなどのデータを収集した。新型コロナウイルスの検査は、現在国内で診断に使用されている核酸増幅法検査 (PCRやLAMPなど)および抗原定量検査を対象とした。新型コロナウイルス検査陽性者を症例群、陰性者を対照群とした (図2)。検査陽性者と陰性者において、入院時の重症度が異なる可能性も考え、市中肺炎の重症度分類に用いられるCURB-654)(16)を使用して入院時の重症度も同時に評価した。

 発症予防の有効性に関する研究と同様に、新型コロナワクチン接種状況はそれぞれの回数において、接種後から14日以上経過した場合を「接種完了」と定義した。本報告では、オミクロン対応2価ワクチンの評価を行うことを目的としていたため、ワクチンの有効性としてワクチン未接種と比較したオミクロン対応2価ワクチン接種完了の有効性、ワクチンの相対的な有効性として従来型ワクチンのみ接種完了 (2回以上接種)と比較したオミクロン対応2価ワクチン接種完了の有効性を評価した。接種したワクチンが、従来型ワクチンかオミクロン対応2価ワクチンのいずれであるかが不明な場合、2022年10月1日から2023年3月31日に3回目以降の接種として使用された新型コロナワクチンの99%以上がオミクロン対応2価ワクチンであることを考慮し (13)、2価ワクチンであると判断して解析に組み込んだ。ファイザー社製、モデルナ社製以外の新型コロナワクチン接種を受けた研究対象者数が極めて少ないため、ファイザー社製、モデルナ社製以外の新型コロナワクチン接種を受けた研究対象者は解析から除外した。接種したワクチンの会社が不明な研究対象者に関しては、国内で接種された新型コロナワクチンの99%以上がファイザー社製またはモデルナ社製であることを考慮し (13)、いずれかのワクチンを接種していると仮定した。最終接種からの時間経過により、新型コロナワクチンの有効性の低下が報告されているため (14, 15)、相対的な有効性の解析では、比較対象である従来型のみ接種群について、接種完了後からの経過時間で区切った評価を行った。また、オミクロン対応2価ワクチンについては解析にふくまれた約85%が接種完了後90日以内であったため、接種後からの時間経過で区切った評価は行っていない。
 新型コロナウイルス検査結果 (陽性・陰性)に新型コロナワクチン接種歴を含む種々の要因が与える影響を、混合効果ロジスティック回帰モデルを構築して調整オッズ比と95%信頼区間を算出して評価した。新型コロナワクチンの有効性は、(1-調整オッズ比)×100%で算出した。回帰モデルには、検査結果(陽性・陰性)を被説明変数、新型コロナワクチン接種歴、年齢、性別、基礎疾患3)の有無、検査実施カレンダー週、新型コロナウイルス感染症患者との接触の有無を固定効果 (fixed effect)、入院医療機関を変量効果 (random effect)の説明変数として組み込んだ。研究対象者全体の解析と、60歳以上に限定した解析を行った。

結果

1) 発症予防の有効性に関する研究

 全国10都府県計15か所の医療機関において、2022年10月1日から2023年3月31日までに新型コロナウイルス感染症が疑われる症状1)があり、新型コロナウイルス検査を受けた16歳以上の患者8,139名が登録された。このうち、発症日から15日以降に検査を受けた112名、同一患者2)の113名、ファイザー社製・モデルナ社製以外の新型コロナワクチンを接種した21名を解析から除外し、合計7,893名を解析に含めた (図3)。このうち、新型コロナウイルス検査陽性者は3,394名 (43.0%)であった。
 解析対象者の基本情報を表1に示す。年齢中央値 (四分位範囲)は43歳 (29~62歳)、男性3,645名 (46.2%)、2,172名 (27.5%)に基礎疾患3)があった。1,657名 (21.0%)に新型コロナウイルス感染症患者との接触歴があり、医療従事者は1,422名 (18.0%)であった。

表 1:発症予防の有効性に関する研究における解析対象者 (16歳以上)の基本情報と検査方法
全体
(n=7,893)
検査陽性
(n=3,394)
検査陰性
(n=4,499)
年齢 n.(%)
16-29歳 2,092 (26.5) 869 (25.6) 1,223 (27.2)
30-39歳 1,441 (18.3) 604 (17.8) 837 (18.6)
40-49歳 1,209 (15.3) 574 (16.9) 635 (14.1)
50-59歳 986 (12.5) 493 (14.5) 493 (11.0)
60-69歳 790 (10.0) 383 (11.3) 407 (9.0)
70-79歳 750 (9.5) 288 (8.5) 462 (10.3)
80-89歳 479 (6.1) 142 (4.2) 337 (7.5)
90歳以上 146 (1.8) 41 (1.2) 105 (2.3)
性別 n.(%)
男性 3,645 (46.2) 1,634 (48.1) 2,011 (44.7)
女性 4,248 (53.8) 1,760 (51.9) 2,488 (55.3)
基礎疾患の有無 n.(%)
2,172 (27.5) 839 (24.7) 1,333 (29.6)
5,470 (69.3) 2,415 (71.2) 3,055 (67.9)
不明 251 (3.2) 140 (4.1) 111 (2.5)
基礎疾患詳細 n.(%)
慢性心疾患 622 (7.9) 237 (7.0) 385 (8.6)
慢性呼吸器疾患 579 (7.3) 184 (5.4) 395 (8.8)
肥満 110 (1.4) 43 (1.3) 67 (1.5)
悪性腫瘍 452 (5.7) 145 (4.3) 307 (6.8)
糖尿病 605 (7.7) 243 (7.2) 362 (8.0)
慢性腎疾患 210 (2.7) 77 (2.3) 133 (3.0)
透析 31 (0.4) 14 (0.4) 17 (0.4)
肝硬変 24 (0.3) 6 (0.2) 18 (0.4)
免疫抑制剤の使用 131 (1.7) 58 (1.7) 73 (1.6)
妊娠 112 (1.4) 59 (1.7) 53 (1.2)
新型コロナウイルス感染症の既往 n. (%) 656 (8.3) 80 (2.4) 576 (12.8)
喫煙歴 n.(%)
なし 4,202 (53.2) 1,878 (55.3) 2,324 (51.7)
過去に吸っていた 856 (10.8) 308 (9.1) 548 (12.2)
現在吸っている 1,033 (13.1) 407 (12.0) 626 (13.9)
不明 1,802 (22.8) 801 (23.6) 1,001 (22.2)
医療従事者 n. (%) 1,422 (18.0) 557 (16.4) 865 (19.2)
新型コロナウイルス感染症患者との接触 n.(%)
1,657 (21.0) 1,188 (35.0) 469 (10.4)
5,520 (69.9) 1,847 (54.4) 3,673 (81.6)
不明 716 (9.1) 359 (10.6) 357 (7.9)
新型コロナウイルス検査方法 n.(%)
核酸増幅法検査 5,199 (65.9) 2,523 (74.3) 2,676 (59.5)
抗原定量検査 2,694 (34.1) 871 (25.7) 1,823 (40.5)

 解析対象者の新型コロナワクチン接種歴を表2 (16歳~64歳)、表3 (65歳以上)に示す。16歳~64歳では、解析対象者のうち11.1% (681名)が未接種、47.8% (2,933名)が従来型のみ接種完了 (2回以上接種)、9.4% (577名)がオミクロン対応2価ワクチン接種完了であった。20.8% (1,276名)がワクチン接種歴はあるが、オミクロン対応2価ワクチンの接種の有無が不明、6.4% (392名)がワクチン接種歴不明であった。従来型のみ接種者の中で、接種完了からの時間経過がわかっている解析対象者 (2,423名)のうち16.6% (402名)が接種完了後90日以内、21.9% (531名)が接種完了後91日から180日以内、61.5% (1,490名)が接種完了後181日以上経過していた。オミクロン対応2価ワクチン接種完了の中で、接種完了からの時間経過がわかっている解析対象者 (569名)のうち89.8% (511名)が接種完了後90日以内であった。65歳以上では、解析対象者のうち6.0% (106名)が未接種、36.1% (635名)が従来型のみ接種完了 (2回以上接種)、16.5% (291名)がオミクロン対応2価ワクチン接種完了であった。27.9% (490名)がワクチン接種歴はあるが、オミクロン対応2価ワクチンの接種の有無が不明、6.7% (117名)がワクチン接種歴不明であった。従来型のみ接種者の中で、接種完了からの時間経過がわかっている解析対象者 (575名)のうち40.9% (235名)が接種完了後90日以内、35.8% (206名)が接種完了後91日から180日以内、23.3% (134名)が接種完了後181日以上経過していた。オミクロン対応2価ワクチン接種完了の中で、接種完了からの時間経過がわかっている解析対象者 (284名)のうち91.2% (259名)が接種完了後90日以内であった。

表 2:発症予防の有効性に関する研究における解析対象者 (16歳~64歳)の新型コロナワクチン接種歴
新型コロナワクチン接種歴 n.(%) 全体
(n=6,134)
検査陽性
(n=2,731)
検査陰性
(n=3,403)
ワクチン接種なし 681 (11.1) 353 (12.9) 328 (9.6)
1回接種後13日以内、2回接種後13日以内 64 (1.0) 26 (1.0) 38 (1.1)
従来型のみ接種完了 (2回以上接種) 2,933 (47.8) 1,266 (46.4) 1,667 (49.0)
オミクロン対応2価ワクチン接種
(3-5回接種、接種後13日以内)
177 (2.9) 77 (2.8) 100 (2.9)
オミクロン対応2価ワクチン接種完了
(3-5回接種、接種後14日以上経過)
577 (9.4) 178 (6.5) 399 (11.7)
ワクチン接種あるがワクチン種類不明 1,276 (20.8) 599 (21.9) 677 (19.9)
ワクチン接種あるが回数が不明 34 (0.6) 13 (0.5) 21 (0.6)
接種歴不明 392 (6.4) 219 (8.0) 173 (5.1)
表 3:発症予防の有効性に関する研究における解析対象者 (65歳以上)の新型コロナワクチン接種歴
新型コロナワクチン接種歴 n.(%) 全体
(n=1,759)
検査陽性
(n=663)
検査陰性
(n=1,096)
ワクチン接種なし 106 (6.0) 63 (9.5) 43 (3.9)
1回接種後13日以内、2回接種後13日以内 8 (0.5) 5 (0.8) 3 (0.3)
従来型のみ接種完了 (2回以上接種) 635 (36.1) 224 (33.8) 411 (37.5)
オミクロン対応2価ワクチン接種
(3-5回接種、接種後13日以内)
101 (5.7) 47 (7.1) 54 (4.9)
オミクロン対応2価ワクチン接種完了
(3-5回接種、接種後14日以上経過)
291 (16.5) 97 (14.6) 194 (17.7)
ワクチン接種あるがワクチン種類不明 490 (27.9) 179 (27.0) 311 (28.4)
ワクチン接種あるが回数が不明 11 (0.6) 0 11 (1.0)
接種歴不明 117 (6.7) 48 (7.2) 69 (6.3)

 未接種、従来型のみ接種完了に対するオミクロン対応2価ワクチン接種完了の新型コロナウイルス検査陽性の調整オッズ比を表4に示す。16歳~64歳において、未接種に対するオミクロン対応2価ワクチン接種完了の新型コロナウイルス検査陽性の調整オッズ比は0.443 (95%信頼区間: 0.339~0.579)、従来型ワクチンのみ接種完了 (接種完了後91日~180日)に対しては0.703 (95%信頼区間: 0.532~0.929)、従来型ワクチンのみ接種完了 (接種完了後181日以上)に対しては0.631 (95%信頼区間: 0.499~0.798)であった。65歳以上において、未接種に対するオミクロン対応2価ワクチン接種完了の新型コロナウイルス検査陽性の調整オッズ比は0.270 (95%信頼区間: 0.149~0.488)、従来型ワクチンのみ接種完了に対しては0.688 (95%信頼区間: 0.461~1.028)であった。

表 4:発症予防の有効性に関する研究における新型コロナワクチン接種歴で比較した新型コロナウイルス検査陽性の調整オッズ比
新型コロナワクチン接種歴 新型コロナ
ウイルス検査
調整オッズ比
(95%信頼区間)
陽性(n) 陰性(n)
16歳~64歳
ワクチン接種なし 353 328 1.000
オミクロン対応2価ワクチン接種完了a 178 399 0.443 (0.339~0.579)
従来型のみワクチン接種完了
(2回以上、接種完了後91~180日)
229 302 1.000
オミクロン対応2価ワクチン接種完了a 178 399 0.703 (0.532~0.929)
従来型のみワクチン接種完了
(2回以上、接種完了後181日以上)
636 854 1.000
オミクロン対応2価ワクチン接種完了a 178 399 0.631 (0.499~0.798)
65歳以上
ワクチン接種なし 63 43 1.000
オミクロン対応2価ワクチン接種完了a 97 194 0.270 (0.149~0.488)
従来型のみワクチン接種完了 224 411 1.000
オミクロン対応2価ワクチン接種完了a 97 194 0.688 (0.461~1.028)

a 新型コロナワクチン種類不明で、接種日から推定も含む。

 上記の調整オッズ比を用いてオミクロン対応2価ワクチンの発症予防における有効性および、従来型のみ接種完了と比較した相対的な有効性を図4に示す。16歳~64歳においてオミクロン対応2価ワクチン接種完了の有効性は55.7% (95%信頼区間: 42.1~66.1%)、従来型のみ接種完了 (接種完了後91日~180日)と比較した相対的な有効性は29.7% (95%信頼区間: 7.1~46.8%)、従来型のみ接種完了 (接種完了後181日以上)と比較した相対的な有効性は36.9% (95%信頼区間: 20.2~50.1%)であった。65歳以上においてオミクロン対応2価ワクチン接種完了の有効性は73.0% (95%信頼区間: 51.2~85.1%)、従来型のみ接種完了と比較した相対的な有効性は31.2% (95%信頼区間: -2.8~53.9%)であった。

 正確なワクチン接種日が不明であった患者については、接種日の推定法が接種後の経過日数、接種完了の有無の判断にも影響しうるため、今回は感度分析として複数の方法で接種日を推定した解析結果を比較したが、調整オッズ比に与える影響は限定的であった。

2) 入院予防の有効性に関する研究

 全国9都府県11か所の医療機関において、2022年10月1日から2023年3月31日に、急性呼吸器感染症を疑う症状 (発熱、咳、喀痰、胸膜痛、呼吸苦、頻呼吸、急性疾患による酸素投与)のうち2つ以上の症状があるか、新たに出現したの肺炎像を認め入院した16歳以上の患者1,316名が登録された。このうち、発症日から15日以降に検査を受けた10名を解析から除外し、合計1,306名を解析に含めた (図5)。このうち、新型コロナウイルス検査陽性者は316名 (24.2%)であった。解析対象者の基本情報を表5に示す。年齢中央値 (四分位範囲)は83歳 (74~89歳)、男性799名 (61.2%)、974名 (74.6%)に基礎疾患があり、高齢者施設入所者が324名 (24.8%)、148名 (11.3%)に新型コロナウイルス感染症患者との接触歴があった。CURB-65スコアでの重症度は、軽症 (0-1点)が259名 (19.8%)、中等症 (2点)が421名 (32.2%)、重症 (3-5点)が555名 (42.5%)、不明が71名 (5.4%)であった。検査陽性群、陰性群でCURB-65スコアによる重症度を比較したところ、両群で重症度に差がなかった。

表 5:入院予防の有効性に関する研究における解析対象者 (16歳以上)の基本情報と検査方法
全体
(n=1,306)
重症者
(n=316)
非重症者
(n=990)
年齢 n.(%)
16-64歳 149 (11.4) 34 (10.8) 115 (11.6)
65歳以上 1,157 (88.6) 282 (89.2) 875 (88.4)
性別 n.(%)
男性 799 (61.2) 180 (57.0) 619 (62.5)
女性 507 (38.8) 136 (43.0) 371 (37.5)
基礎疾患の有無 n.(%)
974 (74.6) 235 (74.4) 739 (74.6)
326 (25.0) 81 (25.6) 245 (24.7)
不明 6 (0.5) 0 6 (0.6)
基礎疾患詳細 n.(%)
慢性心疾患 454 (34.8) 118 (37.3) 336 (33.9)
慢性呼吸器疾患 356 (27.3) 82 (25.9) 274 (27.7)
肥満 9 (0.7) 5 (1.6) 4 (0.4)
悪性腫瘍 239 (18.3) 48 (15.2) 191 (19.3)
糖尿病 306 (23.4) 88 (27.8) 218 (22.0)
慢性腎疾患 168 (12.9) 53 (16.8) 115 (11.6)
透析 29 (2.2) 12 (3.8) 17 (1.7)
肝硬変 12 (0.9) 3 (0.9) 9 (0.9)
免疫抑制剤の使用 59 (4.5) 10 (3.2) 49 (4.9)
妊娠 1 (0.1) 1 (0.3) 0
高齢者施設の入所 n. (%)
324 (24.8) 84 (26.6) 240 (24.2)
971 (74.3) 229 (72.5) 742 (74.9)
不明 11 (0.8) 3 (0.9) 8 (0.8)
喫煙歴 n.(%)
なし 507 (38.8) 133 (42.1) 374 (37.8)
過去に吸っていた 432 (33.1) 79 (25.0) 353 (35.7)
現在吸っている 109 (8.3) 20 (6.3) 89 (9.0)
不明 258 (19.8) 84 (26.6) 174 (17.6)
新型コロナウイルス感染症患者との接触 n. (%)
148 (11.3) 119 (37.7) 29 (2.9)
762 (58.3) 90 (28.5) 672 (67.9)
不明 396 (30.3) 107 (33.9) 289 (29.2)
新型コロナウイルス検査方法 n. (%)
核酸増幅法検査 632 (48.4) 147 (46.5) 485 (49.0)
抗原定量検査 674 (51.6) 169 (53.5) 505 (51.0)
入院時のCURB65スコア
0-1点 259 (19.8) 66 (20.9) 193 (19.5)
2点 421 (32.2) 94 (29.7) 327 (33.0)
3-5点 555 (42.5) 133 (42.1) 422 (42.6)
不明 71 (5.4) 23 (7.3) 48 (4.8)

 解析対象者の新型コロナワクチン接種歴を表6に示す。解析対象者のうち10.6% (139名)が未接種、27.9% (364名)が従来型のみ接種完了 (2回以上接種)、12.9% (169名)がオミクロン対応2価ワクチン接種完了であった。27.0% (353名)がワクチン接種歴はあるが、オミクロン対応2価ワクチンの接種の有無が不明、17.5% (228名)がワクチン接種歴不明であった。従来型のみ接種完了の中で、接種完了からの時間経過がわかっている解析対象者 (311名)のうち26.0% (81名)が接種完了後90日以内、36.7% (114名)が91日から180日以内、37.3% (116名)が181日以上経過していた。オミクロン対応2価ワクチン接種完了の中で、接種完了からの時間経過がわかっている解析対象者 (168名)のうち84.5% (142名)が接種完了後90日以内であった。

表 6:入院予防の有効性に関する研究における解析対象者の新型コロナワクチン接種歴
新型コロナワクチン接種歴 n.(%) 全体
(n=1,306)
重症者
(n=316)
非重症者
(n=990)
ワクチン接種なし 139 (10.6) 64 (20.3) 75 (7.6)
1回接種後13日以内、2回接種後13日以内 17 (1.3) 6 (1.9) 11 (1.1)
従来型のみ接種完了 (2回以上接種) 364 (27.9) 104 (32.9) 260 (26.3)
オミクロン対応2価ワクチン接種
(3-5回接種、接種後13日以内)
30 (2.3) 12 (3.8) 18 (1.8)
オミクロン対応2価ワクチン接種完了
(3-5回接種、接種後14日以上経過)
169 (12.9) 32 (10.1) 137 (13.8)
ワクチン接種あるがワクチン種類不明 353 (27.0) 68 (21.5) 285 (28.8)
ワクチン接種あるが回数が不明 6 (0.5) 2 (0.6) 4 (0.4)
接種歴不明 228 (17.5) 28 (8.9) 200 (20.2)

 未接種、従来型のみ接種完了に対するオミクロン対応2価ワクチン接種完了の新型コロナウイルス検査陽性の調整オッズ比を表7に示す。未接種に対するオミクロン対応2価ワクチン接種完了の新型コロナウイルス検査陽性の調整オッズ比は0.204 (95%信頼区間: 0.097~0.429)、従来型ワクチンのみ接種完了 (接種完了後91日~180日)に対しては0.615 (95%信頼区間: 0.280~1.351)、従来型ワクチンのみ接種完了 (接種完了後181日以上)に対しては0.582 (95%信頼区間: 0.268~1.264)であった。60歳以上に限定した解析では、未接種に対するオミクロン対応2価ワクチン接種完了の新型コロナウイルス検査陽性の調整オッズ比は0.199 (95%信頼区間: 0.091~0.438)、従来型ワクチンのみ接種完了 (接種完了後91日~180日)に対しては0.633 (95%信頼区間: 0.280~1.433)、従来型ワクチンのみ接種完了 (接種完了後181日以上)に対しては0.644 (95%信頼区間: 0.286~1.447)であった。

表 7:入院予防の有効性に関する研究における新型コロナワクチン接種歴で比較した新型コロナウイルス検査陽性の調整オッズ比
新型コロナワクチン接種歴 新型コロナ
ウイルス検査
調整オッズ比
(95%信頼区間)
陽性(n) 陰性(n)
全体
ワクチン接種なし 64 75 1.000
オミクロン対応2価ワクチン接種完了a 32 137 0.204 (0.097~0.429)
従来型のみワクチン接種完了
(2回以上、接種完了後91~180日)
33 81 1.000
オミクロン対応2価ワクチン接種完了a 32 137 0.615 (0.280~1.351)
従来型のみワクチン接種完了
(2回以上、接種完了後181日以上)
36 80 1.000
オミクロン対応2価ワクチン接種完了a 32 137 0.582 (0.268~1.264)
60歳以上
ワクチン接種なし 57 59 1.000
オミクロン対応2価ワクチン接種完了a 29 123 0.199 (0.091~0.438)
従来型のみワクチン接種完了
(2回以上、接種完了後91~180日)
32 76 1.000
オミクロン対応2価ワクチン接種完了a 29 123 0.633 (0.280~1.433)
従来型のみワクチン接種完了
(2回以上接種、接種完了後181日以上)
33 71 1.000
オミクロン対応2価ワクチン接種完了a 29 123 0.644 (0.286~1.447)

a 新型コロナワクチン種類不明で、接種日から推定も含む。

 上記の調整オッズ比を用いてオミクロン対応2価ワクチン接種完了の入院予防における有効性および従来型のみ接種完了と比較した相対的な有効性を図6に示す。オミクロン対応2価ワクチン接種完了の有効性は79.6% (95%信頼区間: 57.1~90.3%)、従来型のみ接種完了 (接種完了後91日~180日)と比較した相対的な有効性は38.5% (95%信頼区間: -35.1~72.0%)、従来型のみ接種完了 (接種完了後181日以上)と比較した相対的な有効性は41.8% (95%信頼区間: -26.4~73.2%)であった。60歳以上に限定した解析では、オミクロン対応2価ワクチンの有効性は80.1% (95%信頼区間: 56.2~90.9%)、従来型のみ接種完了 (接種完了後91日~180日)と比較した相対的な有効性は36.7% (95%信頼区間: -43.3~72.0%)、従来型のみ接種完了 (接種完了後181日以上)と比較した相対的な有効性は35.6% (95%信頼区間: -44.7~71.4%)であった。

 正確なワクチン接種日が不明であった患者については、接種日の推定法が接種後の経過日数、接種完了の有無の判断にも影響しうるため、今回は感度分析として複数の方法で接種日を推定した解析結果を比較したが、調整オッズ比に与える影響は限定的であった。

考察

 本報告では、オミクロン対応2価ワクチンの接種が国内で開始された2022年10月1日から2023年3月31日の期間において、オミクロン対応2価ワクチンの発症予防における有効性および入院予防における有効性を評価した。発症予防における有効性の評価では、16歳~64歳において、オミクロン対応2価ワクチンの有効性は55.7% (95%信頼区間:42.1~66.1%)、65歳以上では73.0% (95%信頼区間:51.2~85.1%)であった。一方、従来型のみを接種した場合と比較した相対的な有効性については同年代ともに30~35%と同等であった。入院予防における有効性の評価では、オミクロン対応2価ワクチンの有効性は79.6% (95%信頼区間:57.1~90.3%)、相対的な有効性は従来型のみ接種 (91~180日経過)と比較した場合は38.5% (95%信頼区間:-35.1~72.0%)、従来型のみ接種 (181日以上経過)と比較した場合は41.8% (95%信頼区間:-26.4~73.2%)であった。
 発症予防・入院予防における有効性について、米国の研究結果 (発症予防の有効性:56% (95%信頼区間: 49-62%)、入院予防:57% (95%信頼区間: 41-69%) (17)、58.7% (95%信頼区間: 43.7-69.8)(18))と比較すると、16歳~64歳の発症予防の有効性においては同等であった。一方、65歳以上の発症予防の有効性および研究対象者の約9割が65歳以上の入院予防の有効性については、米国の研究結果と比較して高い値であり、国内の高齢者は感染による抗体保有率が国内の若年者・米国と比較して低いため、ワクチン未接種者において感染による抗体保有率が低く、ワクチン未接種者と比較して算出されるワクチンの有効性が、国内の高齢者においては高く推定されると考えた。
 一方、従来型ワクチンのみを接種した場合と比較した相対的な有効性について、発症予防の有効性の評価では、米国の研究結果 (従来型のみ接種、接種後5-7か月と比較:42% (95%信頼区間: 32-50%)、接種後8-10カ月と比較:53% (95%信頼区間: 46-60%)、接種後11カ月以上と比較:50% (95%信頼区間: 43-57%) (17))と比較してやや低い値であった。本報告では、従来型のワクチン接種完了から90~180日経過および、接種完了後181日以上を経過した研究対象者と比較し、相対的な有効性を算出したが、ワクチン接種後からの時間経過による従来型ワクチンの有効性の低下が緩徐であれば、相対的な有効性は低く推定される。発症予防の有効性に関して、国内では時間経過によるワクチンの有効性の低下の程度が緩徐である可能性があり (19)、米国での研究結果より低い値となった理由の一つと考えた。一方、入院予防の有効性評価では、米国での研究結果 (従来型のみ接種、接種後5-7か月と比較:38% (95%信頼区間:13-56%)、接種後8-10カ月と比較:42% (95%信頼区間:19-58%)、接種後11カ月以上と比較:45% (95%信頼区間:25-60%) (17)、65歳以上のみを対象:37.8% (95%信頼区間:3.2-69.9%) (18))、英国での研究結果(従来型のみ接種と比較:45~50% [2価ワクチン接種後14週以内])と比較してほぼ同等の値であった。
 入院予防の有効性に関する研究に関して、症例群 (新型コロナウイルス感染症患者)と対照群 (他の呼吸器感染症患者)において、入院基準が異なる可能性を考慮し、入院時の両群のCURB-65スコアを比較した。その結果、今回の報告ではCURB-65での入院時の重症度に両群で差がないことが示された。
 オミクロン対応2価ワクチンは、従来型ワクチンを接種後の追加接種での使用となるため、従来型ワクチンのみを接種した場合と比較した相対的な有効性評価が特に重要だと考える。今回の結果では、オミクロン対応2価ワクチンの追加接種により発症予防の有効性は中程度上昇することがわかった。入院予防の有効性に関しては、サンプルサイズが限られていることもあり、今後の症例の集積が必要である。本報告は本サーベイランス研究の暫定結果であり、2022年10月1日から2023年3月31日においても今回の報告で集計できていない研究対象患者情報も多数あるため、今後の患者情報の蓄積と解析により変動する見込みである。

制限

 本報告にはいくつかの制限がある。1つ目は、研究対象患者が限られており、現時点ではサンプルサイズが極めて限定的である。2つ目は、現在日本では医療機関において受診者のワクチン接種歴を正確な記録として確認できるシステムは整備されていないため、接種歴は主に患者 (または患者家族)に対する問診で得られた記録を基にしており、思い出しバイアスの影響を否定できない。正確なワクチン接種日が不明な患者については、「接種日」の推計方法を複数定めた感度分析を行ったが、調整オッズ比の変動は小さく、一定の妥当性は担保されていると考える。また、オミクロン対応2価ワクチンか従来型ワクチンかがわからない症例については、接種日から推定を行っているため、誤分類は否定できない。3つ目は、新型コロナウイルス検査には限界があり、症例・対照の誤分類は否定できない。
 本報告は2023年7月19日での暫定結果であり速報値であるが、公衆衛生学的に意義があると判断して報告した。今後も研究を継続し経時的な評価を行うなかで、公衆衛生学的な意義を鑑みつつ結果について共有する予定である。

注釈
  • 発熱 (37.5℃以上)、咳、倦怠感、呼吸困難、筋肉痛、咽頭痛、鼻汁・鼻閉、頭痛、下痢、味覚障害、嗅覚障害 (20, 21)

  • 同一患者の扱いは以下の定義を使用した。
    ・陽性結果が出る前または陽性結果が出た後3週間以内に採取した陰性検査は、偽陰性の可能性があるため除外する。
    ・同じ発症日に対して行われた陰性の検査は除外する。
    ・前回の陰性判定から7日以内に実施された陰性の検査は除外する。
    ・各人については、無作為に選んだ3回までの検査を含める。
    ・90日以内に複数回陽性になった場合は初めての陽性のみを組み込む。

  • 慢性心疾患、慢性呼吸器疾患、肥満 (BMI≧30)、悪性腫瘍 (固形癌または血液腫瘍)、糖尿病、慢性腎不全、透析、肝硬変、免疫抑制薬の使用、妊娠

  • CURB-65 (16)
    意識レベルの異常、尿素窒素値>20mg/dl、呼吸回数≧30回/分、収縮期血圧<90mmHg、年齢65歳以上をそれぞれ1点とし、合計点が0~1点は軽症、2点は中等症、3点以上を重症と定義する。国内の臨床現場では、呼吸状態を評価する際に、呼吸回数ではなく、酸素飽和度 (SpO2)や酸素投与の必要性を使用することが多いため、本研究では呼吸回数≧30回/分に加え、SpO2<90%または酸素投与が必要な場合も1点とした。

研究チーム
長崎大学熱帯医学研究所 呼吸器ワクチン疫学分野

前田 遥、森本 浩之輔

大分大学 医学部 微生物学講座

齊藤 信夫

横浜市立大学 医学部 公衆衛生学・東京大学大学院 薬学系研究科 医薬政策学

五十嵐 中

長崎大学病院 感染症内科 (熱研内科)

増田 真吾

今回の報告に含まれる研究参加医療機関および2023年6月現在の研究参加医療機関 (50音順、敬称略)
飯塚病院

的野 多加志

沖縄県立中部病院

喜舎場 朝雄

亀田総合病院

大澤 良介、細川 直登、中島 啓

川崎市立多摩病院

本橋 伊織

北福島医療センター/福島県立医科大学

山藤 栄一郎

公立陶生病院

武藤 義和

五本木クリニック

桑満 おさむ

市立奈良病院

森川 暢

仁さくらクリニック

大原 靖二

近森病院

石田 正之

東京ベイ・浦安市川医療センター

織田 錬太郎、保科 ゆい子

虹が丘病院

寺田 真由美

早川内科医院

早川 友一郎

福岡青洲会病院

松坂 俊、杉本 幸弘

みずほ通りクリニック

勅使川原 修

武蔵野徳洲会病院

淺見 貞晴、工藤 智史、秋月 登

洛和会音羽病院

井村 春樹、井上 弘貴

ロコクリニック中目黒

嘉村 洋志

研究協力
国立感染症研究所 感染症疫学センター

鈴木 基

研究資金

本研究は、厚生労働省科学研究費補助金「新型コロナワクチン等の有効性及び安全性の評価体制」による支援を受けている。

利益相反の開示

長崎大学熱帯医学研究所呼吸器ワクチン疫学分野は、ファイザー社より本研究に関連のない研究助成金を受けている。

東京大学大学院薬学系研究科医薬政策学は、武田薬品工業株式会社より本研究に関係のない研究助成金を受けている。

前田遥、五十嵐中はモデルナ社より講演料およびコンサルタント料を受けている。

森本浩之輔はモデルナ社よりコンサルタント料を受けている。

参考資料
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問い合わせ先

長崎大学熱帯医学研究所 呼吸器ワクチン疫学分野:森本 浩之輔
komorimo*nagasaki-u.ac.jp (*を@にして送信して下さい)