新型コロナワクチンの有効性に関する研究
〜国内多施設共同症例対照研究〜

Vaccine Effectiveness Real-Time Surveillance for SARS-CoV-2 (VERSUS) Study、第8報
長崎大学熱帯医学研究所
掲載日:2023年2月2日
要約

 長崎大学熱帯医学研究所を中心とする研究チームは、全国の医療機関 (病院および診療所)と協力し、新型コロナワクチンの有効性を評価する研究を2021年7月1日から行っている。第8報では全国的に新型コロナウイルスのオミクロン株の亜系統であるBA.5が流行した2022年7月1日から9月30日に、急性呼吸器感染症を疑う症状または新規の肺炎像があり入院を要した16歳以上の患者情報を用い、検査陰性デザインの症例対照研究を用い、国内での同期間の16歳以上における新型コロナワクチンの入院予防の有効性を評価した。加えて、オミクロン株が流行した2022年1月1日から9月30日に新型コロナウイルス感染症で入院した16歳以上の患者情報を使用し、国内での同期間の入院患者における新型コロナワクチンの重症化予防の有効性をまとめた。
 入院予防の有効性の評価では、16歳以上の727名 (うち検査陽性者299名)が解析対象となった。年齢中央値は80歳であり、71.4%に基礎疾患があった。ファイザー社製 (BNT162b2)またはモデルナ社製 (mRNA-1273)いずれかの新型コロナワクチンの2回接種完了 (接種後14日以上経過)の入院予防の有効性は58.2% (95%信頼区間: 2.7~82.0%)、3回接種完了の有効性は72.8% (95%信頼区間: 46.6~86.2%)、4回目接種完了の有効性は84.8% (95%信頼区間: 66.4~93.1%)と推定された。
 重症化予防の有効性の評価では、16歳以上の789名 (うち重症者98名)が解析対象となった。年齢中央値は79歳であり、67.4%に基礎疾患があった。ファイザー社製 (BNT162b2)またはモデルナ社製 (mRNA-1273)いずれかの新型コロナワクチンの2回接種完了の重症化予防の有効性は16.3% (95%信頼区間: -70.0~58.8%)、3回接種完了の有効性は56.9% (95%信頼区間: 8.7~79.6%)、4回目接種完了の有効性は78.2% (95%信頼区間: 18.2~94.2%)と推定された。
 本報告は2022年7月1日から9月30日の16歳以上における新型コロナワクチンの入院予防の有効性および2022年1月1日から9月30日の16歳以上の入院した新型コロナウイルス感染症患者において、新型コロナワクチンの重症化予防の有効性を評価したものである。上記期間において、2回以上の新型コロナワクチン接種の入院予防の有効性および3回以上の新型コロナワクチン接種の入院患者における重症化予防の有効性を確認した。接種回数が増えるにつれて、有効性が上昇しているが、接種回数の少ないものは最終接種日からの経過日数が長い傾向にあるため、最終接種日からの時間経過による有効性の低下を示している可能性がある。
 本報告は暫定値であるが公衆衛生学的意義を鑑みつつ報告した。本報告は長期サーベイランス研究の一部であり、2022年1月1日から9月30日の対象期間内でも未集計の情報も多数あるため、今後結果が変わる可能性があり、随時アップデートした結果を報告する予定である。

背景

 2021年7月1日から長崎大学熱帯医学研究所を中心とした研究チームは、全国の医療機関 (病院および診療所)と協力し、新型コロナワクチンの有効性を経時的に評価するサーベイランス研究 (Vaccine Effectiveness Real-time Surveillance for SARS-CoV-2 (VERSUS) study)を開始した (1)。これまでに、国内で導入されている新型コロナワクチンに関して発症予防の有効性を評価し、明らかにしてきた (2-8)。本研究チームは、発症予防研究に加えて、2022年7月1日から入院予防・重症化予防の研究を開始した。
 第8報では、全国的に新型コロナウイルスのオミクロン株の亜系統であるBA.5が流行した2022年7月1日から9月30日に、急性呼吸器感染症を疑う症状または新規の肺炎像があり入院を要した16歳以上の患者情報を用い、国内での同期間の16歳以上における新型コロナワクチンの入院予防の有効性を評価した。加えて、オミクロン株が流行した2022年1月1日から9月30日に新型コロナウイルス感染症で入院した16歳以上の患者情報を使用し、国内での同期間の入院患者における新型コロナワクチンの重症化予防の有効性を評価したため報告する。

方法

1) 入院予防の有効性に関する研究

 2022年7月1日から9月30日の期間に全国8都県 (福島県、東京都、千葉県、愛知県、奈良県、高知県、福岡県、沖縄県)、計10か所の病院で、急性呼吸器感染症を疑う症状(発熱、咳、喀痰、胸膜痛、呼吸苦、頻呼吸、急性疾患による酸素投与)のうち2つ以上の症状があるか、新たに出現した肺炎像を認め入院した16歳以上の患者を対象に、患者基本情報、症状、新型コロナワクチン接種歴 (接種の有無、接種回数、接種日、接種したワクチンの種類)、新型コロナウイルス検査結果、入院時のバイタルサインなどのデータを収集した。新型コロナウイルスの検査は、現在国内で診断に使用されている核酸増幅法検査 (PCRやLAMPなど)および抗原定量検査を対象とした。新型コロナウイルス検査陽性者を症例群、陰性者を対照群とした (図1)。検査陽性者と陰性者において、入院時の重症度が異なる可能性も考え、市中肺炎の重症度分類に用いられるCURB-651)(9)を使用して入院時の重症度も同時に評価した。

 新型コロナウイルス検査結果 (陽性・陰性)に新型コロナワクチン接種歴を含む種々の要因が与える影響を、混合効果ロジスティック回帰モデルを構築して調整オッズ比と95%信頼区間を算出して評価した。新型コロナワクチンの有効性は、(1-調整オッズ比)×100%で算出した。回帰モデルには、検査結果(陽性・陰性)を被説明変数、新型コロナワクチン接種歴、年齢、性別、基礎疾患2)の有無、検査実施カレンダー週、新型コロナウイルス感染症患者との接触の有無を固定効果 (fixed effect)、入院医療機関を変量効果 (random effect)の説明変数として組み込んだ。新型コロナワクチン接種状況は、それぞれの回数において、接種後から14日以上経過した場合を「接種完了」と定義した。新型コロナワクチンの種類については、ファイザー社製 (BNT162b2)、モデルナ社製 (mRNA-1273)以外の新型コロナワクチンを接種した研究対象者はおらず、接種したワクチンの種類が不明な研究対象者に関しては、国内で接種された新型コロナワクチンの99%以上がファイザー社製またはモデルナ社製であることを考慮し (10)、いずれかのワクチンを接種していると仮定した。今回の解析ではサンプルサイズが限られていたため、接種後からの日にちで区切った解析、ワクチン種類を限定した解析は行わなかった。加えて、従来型ワクチンと2価ワクチンの区別はしなかった。16歳以上の解析に加え、60歳以上に限定した解析も行った。


2) 入院患者における重症化予防の有効性に関する研究

 2022年1月1日から9月30日の期間に全国9都県 (福島県、東京都、千葉県、愛知県、奈良県、高知県、福岡県、長崎県、沖縄県)、計11か所の病院で、急性呼吸器感染症を疑う症状(発熱、咳、喀痰、胸膜痛、呼吸苦、頻呼吸、急性疾患による酸素投与)のうち2つ以上の症状があるか、新たに出現した肺炎像を認め入院した16歳以上の新型コロナウイルス感染症患者を対象に、入院予防研究の情報に加え、入院後の重症度および新型コロナウイルス感染症の治療薬などの情報を収集した。重症化予防研究では、入院した病院で核酸増幅法検査 (PCRやLAMPなど)および抗原定量検査で陽性と判断された患者に加え、抗原定性検査で陽性と診断された患者および他医療機関などで陽性と診断された患者も研究対象に含めた。重症度に関しては、WHOの重症度分類 (11)を参考とし、High flow nasal therapy・非侵襲的陽圧換気/挿管・人工呼吸器/ECMO・血液浄化療法を使用している場合または死亡した場合または重症化し高次医療機関に転院した患者を重症と定義した3)。なおICU入室に関しては、医療機関によって対応が異なり、画一的な評価はできないと判断し、重症度評価として今回の解析では用いなかった。入院した新型コロナウイルス感染症患者のうち、重症新型コロナウイルス感染症患者を症例群、非重症新型コロナウイルス感染症患者を対照群とし (図2)、重症者(症例群)のワクチン接種歴状況と非重症者(対照群)のワクチン接種状況を比較することにより、ワクチン接種によって入院した新型コロナウイルス感染症患者が重症化するリスクをどれだけ低減できたかを評価した。

 新型コロナワクチン接種状況は、入院予防研究と同様にそれぞれの回数において、接種後から14日以上経過した場合を「接種完了」と定義した。重症化の有無(重症・非重症)に新型コロナワクチン接種歴を含む種々の要因が与える影響を、混合効果ロジスティック回帰モデルを構築して調整オッズ比と95%信頼区間を算出して評価した。新型コロナワクチンの有効性は、(1-調整オッズ比)×100%で算出した。回帰モデルには、重症化の有無(重症・非重症)を被説明変数、新型コロナワクチン接種歴、年齢、性別、基礎疾患2)の有無、診断時のカレンダー週、新型コロナウイルス感染症の治療薬使用の有無を固定効果 (fixed effect)、入院医療機関を変量効果 (random effect)の説明変数として組み込んだ。新型コロナワクチン接種歴については、入院予防研究と同様に扱った。16歳以上の解析に加え、60歳以上に限定した解析も行った。

 入院予防・重症化予防研究のいずれにおいても、正確な新型コロナワクチン接種日が不明であった研究対象者については、接種日の推定法が接種後の経過日数、さらには接種完了の有無の判断にも影響しうる。感度分析として、複数の方法で接種日を推定した解析を行った。
 本研究は長崎大学熱帯医学研究所および研究参加医療機関における倫理審査委員会で審査を受け、承認された後、実施した (長崎大学熱帯医学研究所倫理委員会における承認番号:210225257)。(倫理審査委員会がない医療機関については、長崎大学熱帯医学研究所倫理委員会に諮り、同委員会で一括審査により承認された。)

結果

1) 入院予防の有効性に関する研究

 全国8都県10か所の医療機関において、2022年7月1日から9月30日に、急性呼吸器感染症を疑う症状(発熱、咳、喀痰、胸膜痛、呼吸苦、頻呼吸、急性疾患による酸素投与)のうち2つ以上の症状があるか、新たに出現した肺炎像を認め入院した16歳以上の患者727名が解析に含まれた。このうち、新型コロナウイルス検査陽性者は299名 (41.1%)であった。解析対象者の基本情報を表1に示す。年齢中央値 (四分位範囲)は80歳 (72~87歳)、男性452名 (62.2%)、519名 (71.4%)に基礎疾患があり、124名 (17.1%)に新型コロナウイルス感染症患者との接触歴があった。高齢者施設入所者が169名 (23.2%)含まれていた。CURB-65スコアでは、0-1点が209名 (28.7%)、2点が227名 (31.2%)、3-5点が254名 (34.9%)、不明が37名 (5.1%)であった。

表 1:入院予防研究の解析対象者 (16歳以上)の基本情報と検査方法
全体
(n=727)
検査陽性
(n=299)
検査陰性
(n=428)
年齢 n.(%)
16-29歳 10 (1.4) 6 (2.0) 4 (0.9)
30-39歳 9 (1.2) 8 (2.7) 1 (0.2)
40-49歳 20 (2.8) 9 (3.0) 11 (2.6)
50-59歳 34 (4.7) 22 (7.4) 12 (2.8)
60-69歳 62 (8.5) 24 (8.0) 38 (8.9)
70-79歳 204 (28.1) 86 (28.8) 118 (27.6)
80-89歳 270 (37.1) 102 (34.1) 168 (39.3)
90歳以上 118 (16.2) 42 (14.0) 76 (17.8)
性別 n.(%)
男性 452 (62.2) 169 (56.5) 283 (66.1)
女性 275 (37.8) 130 (43.5) 145 (33.9)
基礎疾患の有無 n.(%)
519 (71.4) 205 (68.6) 314 (73.4)
207 (28.5) 93 (31.1) 114 (26.6)
不明 1 (0.1) 1 (0.3) 0
基礎疾患詳細 n.(%)
慢性心疾患 209 (28.7) 79 (26.4)  130 (30.4)
慢性呼吸器疾患 187 (25.7) 64 (21.4) 123 (28.7)
肥満 9 (1.2) 6 (2.0) 3 (0.7)
悪性腫瘍 146 (20.1) 55 (18.4) 91 (21.3)
糖尿病 161 (22.1) 69 (23.1) 92 (21.5)
慢性腎疾患 76 (10.5) 39 (13.0) 37 (8.6)
透析 15 (2.1) 11 (3.7) 4 (0.9)
肝硬変 6 (0.8) 3 (1.0) 3 (0.7)
免疫抑制剤の使用 27 (3.7) 14 (4.7) 13 (3.0)
妊娠 2 (0.3) 2 (0.7) 0
高齢者施設の入所 n. (%)
169 (23.2) 63 (21.1) 106 (24.8)
554 (76.2) 234 (78.3) 320 (74.8)
不明 4 (0.6) 2 (0.7) 2 (0.5)
喫煙歴 n.(%)
なし 269 (37.0) 117 (39.1) 152 (35.5)
過去に吸っていた 233 (32.0) 96 (32.1) 137 (32.0)
現在吸っている 79 (10.9) 31 (10.4) 48 (11.2)
不明 146 (20.1) 55 (18.4) 91 (21.3)
新型コロナウイルス感染症患者との接触 n.(%)
124 (17.1) 109 (36.5) 15 (3.5)
381 (52.4) 109 (36.5) 272 (63.6)
不明 222 (30.5) 81 (27.1) 141 (32.9)
新型コロナウイルス検査方法 n.(%)
核酸増幅法検査 541 (74.4) 229 (76.6) 312 (72.9)
抗原定量検査 186 (25.6) 70 (23.4) 116 (27.1)
入院時のCURB65スコア
0-1点 209 (28.7) 100 (33.4) 109 (25.5)
2点 227 (31.2) 88 (29.4) 139 (32.5)
3-5点 254 (34.9) 100 (33.4) 154 (36.0)
不明 37 (5.1) 11 (3.7) 26 (6.1)

 解析対象者の新型コロナワクチン接種歴を表2に示す。解析対象者のうち12.2% (89名)が未接種者、9.8% (71名)が2回接種完了者、34.8%(253名)が3回接種完了者、17.3% (126名)が4回接種完了者であった。2回接種完了者の中で、接種完了からの時間経過がわかっている解析対象者 (33名)のうち84.8% (28名)が2回接種完了後181日以上経過していた。3回接種完了者の中で、接種完了からの時間経過がわかっている解析対象者 (136名)のうち25.0% (34名)が接種完了から90日以内、63.2% (86名)が91日~180日、11.8% (16名)が181日以上経過していた。4回接種完了者の中で、接種完了からの時間経過がわかっている解析対象者 (96名)のうち96.9% (93名)が接種完了から90日以内、3.1% (3名)が91日~180日であった。

表 2:入院予防研究の解析対象者の新型コロナワクチン接種歴
新型コロナワクチン接種歴 n.(%) 全体
(n=727)
検査陽性
(n=299)
検査陰性
(n=428)
ワクチン接種なし 89 (12.2) 62 (20.7) 27 (6.3)
1回接種後13日以内 1 (0.1) 0 1 (0.2)
1回接種完了(接種後14日以上経過) 10 (1.4) 6 (2.0) 4 (0.9)
2回接種後13日以内 2 (0.3) 1 (0.3) 1 (0.2)
2回接種完了(接種後14日以上経過) 71 (9.8) 43 (14.4) 28 (6.5)
3回接種後13日以内 3 (0.4) 2 (0.7) 1 (0.2)
3回接種完了(接種後14日以上経過) 253 (34.8) 113 (37.8)  140 (32.7)
4回接種後13日以内 35 (4.8) 13 (4.3) 22 (5.1)
4回接種完了(接種後14日以上経過) 126 (17.3)  32 (10.7) 94 (22.0)
接種歴不明 137 (18.8) 27 (9.0) 110 (25.7)

 未接種に対する新型コロナワクチン接種の新型コロナウイルス検査陽性の調整オッズ比を表3に示す。ファイザー社製・モデルナ社製いずれかの新型コロナワクチンについて、未接種に対する新型コロナウイルス検査陽性の調整オッズ比は、2回接種完了では0.418 (95%信頼区間: 0.180~0.973)、3回接種完了では0.272 (95%信頼区間: 0.138~0.534)、4回接種完了では0.152 (0.069~0.336)であった。60歳以上に限定した解析では、2回接種完了では0.389 (95%信頼区間: 0.148~1.019)、3回接種完了では0.222 (95%信頼区間: 0.108~0.456)、4回接種完了では0.123 (0.054~0.282)であった。

表 3:新型コロナワクチン接種・未接種で比較した新型コロナウイルス検査陽性の調整オッズ比
新型コロナワクチンa接種歴 新型コロナ
ウイルス検査
調整オッズ比
(95%信頼区間)
陽性 (n) 陰性 (n)
全体
ワクチン接種なし 62 27 1.000
2回接種完了b 43 28 0.418 (0.180~0.973)
3回接種完了 113 140 0.272 (0.138~0.534)
4回接種完了 32 94 0.152 (0.069~0.336)
60歳以上
ワクチン接種なし 52 23 1.000
2回接種完了b 27 19 0.389 (0.148~1.019)
3回接種完了 98 132 0.222 (0.108~0.456)
4回接種完了 31 94 0.123 (0.054~0.282)

a ファイザー社製またはモデルナ社製
b 接種後14日以上経過

 上記の調整オッズ比を用いて新型コロナワクチンの入院予防の有効性を算出したところ (図3)、16歳以上においてファイザー社製・モデルナ社製いずれかの新型コロナワクチンについて、2回接種完了の有効性は58.2% (95%信頼区間: 2.7~82.0%)、3回接種完了の有効性は72.8% (95%信頼区間: 46.6~86.2%)、4回接種完了の有効性は84.8% (95%信頼区間: 66.4~93.1%)であった。60歳以上に限定した解析では、2回接種完了の有効性は61.1% (95%信頼区間: -1.9~85.2%)、3回接種完了の有効性は77.8% (95%信頼区間: 54.4~89.2%)、4回接種完了の有効性は87.7% (95%信頼区間: 71.8~94.6%)であった。

2) 入院患者における重症化予防の有効性に関する研究

 全国9都県計11か所の医療機関において、2022年1月1日から9月30日に急性呼吸器感染症を疑う症状(発熱、咳、喀痰、胸膜痛、呼吸苦、頻呼吸、急性疾患による酸素投与)のうち2つ以上の症状があるか、新たに出現した肺炎像を認め入院した16歳以上の新型コロナウイルス感染症患者789名が解析に含まれた。このうち、重症者は98名 (12.4%)であった。解析対象者の基本情報を表4に示す。年齢中央値 (四分位範囲)は79歳 (66~86歳)、男性450名 (57.0%)、532名 (67.4%)に基礎疾患2)があり、高齢者施設入所者が186名 (23.6%)含まれていた。重症患者は非重症患者と比較して高齢で、基礎疾患を有していた。重症例の内訳としては、High flow nasal therapy・非侵襲的陽圧換気の使用が35名(35.7%)、挿管・人工呼吸器使用が36名(36.7%)、ECMO・血液浄化療法の使用が1名(1.0%)、死亡が46名(46.9%)、重症化し高次医療機関に転院した患者が2名(2.0%)であった。(なお、High flow nasal therapy・非侵襲的陽圧換気の使用と挿管・人工呼吸器の両方を使用した場合は、挿管・人工呼吸器に分類した。)

表 4:入院患者における重症化予防研究の解析対象者 (16歳以上)の基本情報と重症度
全体
(n=789)
重症者
(n=98)
非重症者
(n=691)
年齢 n.(%)
16-29歳 25 (3.2) 1 (1.0) 24 (3.5)
30-39歳 28 (3.5) 2 (2.0) 26 (3.8)
40-49歳 34 (4.3) 2 (2.0) 32 (4.6)
50-59歳 58 (7.4) 3 (3.1) 55 (8.0)
60-69歳 89 (11.3) 11 (11.2) 78 (11.3)
70-79歳 185 (23.4) 30 (30.6) 155 (22.4)
80-89歳 252 (31.9) 30 (30.6) 222 (32.1) 
90歳以上 118 (15.0) 19 (19.4) 99 (14.3) 
性別 n.(%)
男性 450 (57.0) 62 (63.3) 388 (56.2)
女性 339 (43.0) 36 (36.7) 303 (43.8)
基礎疾患の有無 n.(%)
532 (67.4) 79 (80.6) 453 (65.6)
253 (32.1) 17 (17.3) 236 (34.2)
不明 4 (0.5)  2 (2.0) 2 (0.3)
基礎疾患詳細 n.(%)
慢性心疾患 181 (22.9) 31 (31.6) 150 (21.7)
慢性呼吸器疾患 153 (19.4) 20 (20.4) 133 (19.2)
肥満 30 (3.8) 3 (3.1) 27 (3.9)
悪性腫瘍 133 (16.9) 17 (17.3) 116 (16.8)
糖尿病 198 (25.1) 34 (34.7) 164 (23.7)
慢性腎疾患 93 (11.8) 18 (18.4) 75 (10.9)
透析 28 (3.5) 5 (5.1) 23 (3.3)
肝硬変 7 (0.9) 0 7 (1.0)
免疫抑制剤の使用 34 (4.3) 4 (4.1) 30 (4.3)
妊娠 5 (0.6) 0 5 (0.7)
高齢者施設の入所 n. (%)
186 (23.6) 30 (30.6) 156 (22.6)
597 (75.7) 67 (68.4) 530 (76.7)
不明 6 (0.8) 1 (1.0) 5 (0.7)
喫煙歴 n.(%)
なし 344 (43.6) 41 (41.8) 303 (43.8)
過去に吸っていた 235 (29.8) 32 (32.7) 203 (29.4)
現在吸っている 86 (10.9) 11 (11.2) 75 (10.9)
不明 124 (15.7) 14 (14.3) 110 (15.9)

 解析対象者の新型コロナワクチン接種歴を表5に示す。解析対象者のうち20.4% (161名)が未接種者、30.3% (239名)が2回接種完了者、27.4%(216名)が3回接種完了者、6.7% (53名)が4回接種完了者であった。2回接種完了者の中で、接種完了からの時間経過がわかっている解析対象者 (175名)のうち62.9% (110名)が2回接種完了後181日以上経過していた。3回接種完了者の中で、接種完了からの時間経過がわかっている解析対象者 (141名)のうち29.1% (41名)が接種完了から90日以内、63.1% (89名)が91日~180日、7.8% (11名)が181日以上経過していた。4回接種完了者の中で、接種完了からの時間経過がわかっている解析対象者 (41名)のうち97.6% (40名)が接種完了から90日以内、2.4% (1名)が91日~180日経過していた。

表 5:入院患者における重症化予防研究の解析対象者の新型コロナワクチン接種歴
新型コロナワクチン接種歴 n.(%) 全体
(n=789)
重症者
(n=98)
非重症者
(n=691)
ワクチン接種なし 161 (20.4) 24 (24.5) 137 (19.8)
1回接種後13日以内 0 0 0
1回接種完了(接種後14日以上経過) 10 (1.3) 1 (1.0) 9 (1.3)
2回接種後13日以内 1 (0.1) 0 1 (0.1)
2回接種完了(接種後14日以上経過) 239 (30.3) 34 (34.7) 205 (29.7)
3回接種後13日以内 11 (1.4) 2 (2.0) 9 (1.3)
3回接種完了(接種後14日以上経過) 216 (27.4) 19 (19.4) 197 (28.5)
4回接種後13日以内 23 (2.9) 4 (4.1) 19 (2.7)
4回接種完了(接種後14日以上経過) 53 (6.7) 3 (3.1) 50 (7.2)
接種歴不明 75 (9.5) 11 (11.2) 64 (9.3)

 未接種に対する新型コロナワクチン接種の重症化の調整オッズ比を表6に示す。ファイザー社製・モデルナ社製いずれかの新型コロナワクチンについて、未接種に対する重症化の調整オッズ比は、2回接種完了では0.837 (95%信頼区間: 0.412~1.700)、3回接種完了では0.431 (95%信頼区間: 0.204~0.913)、4回接種完了では0.218 (0.058~0.818)であった。また、60歳以上に限定した解析では、2回接種完了では0.945 (95%信頼区間: 0.421~2.122)、3回接種完了では0.491 (95%信頼区間: 0.224~1.074)、4回接種完了では0.235 (0.062~0.894)であった。

表 6:入院患者における新型コロナワクチン接種・未接種で比較した重症化の調整オッズ比
新型コロナワクチンa接種歴 重症度 調整オッズ比
(95%信頼区間)
重症 (n) 非重症 (n)
全体
ワクチン接種なし 24 137 1.000
2回接種完了b 34 205 0.837 (0.412~1.700)
3回接種完了 19 197 0.431 (0.204~0.913)
4回接種完了 3 50 0.218 (0.058~0.818)
60歳以上
ワクチン接種なし 20 97 1.000
2回接種完了 31 148 0.945 (0.421~2.122)
3回接種完了 19 172 0.491 (0.224~1.074)
4回接種完了 3 48 0.235 (0.062~0.894)

a ファイザー社製またはモデルナ社製
b 接種後14日以上経過

 上記の調整オッズ比を用いて入院患者における新型コロナワクチンの重症化予防の有効性を算出したところ (図4)、16歳以上においてファイザー社製・モデルナ社製いずれかの新型コロナワクチンについて、2回接種完了の有効性は16.3% (95%信頼区間: -70.0~58.8%)、3回接種完了の有効性は56.9% (95%信頼区間: 8.7~79.6%)、4回接種完了の有効性は78.2% (95%信頼区間: 18.2~94.2%)であった。60歳以上に限定した解析では、2回接種完了の有効性は5.5% (95%信頼区間: -112.2~57.9%)、3回接種完了の有効性は50.9% (95%信頼区間: -7.4~77.6%)、4回接種完了の有効性は76.5% (95%信頼区間: 10.6~93.8%)であった。

 入院予防・重症化予防においても、正確なワクチン接種日が不明であった患者については、接種日の推定法が接種後の経過日数、接種完了の有無の判断にも影響しうるため、今回は感度分析として複数の方法で接種日を推定した解析結果を比較したが、調整オッズ比に与える影響は限定的であった。

考察

 本報告では、国内でBA.5が流行した2022年7月1日から9月30日の期間において16歳以上の新型コロナワクチン (ファイザー社製新型コロナワクチン (BNT162b2)、モデルナ社製新型コロナワクチン (mRNA-1273))の入院予防の有効性およびオミクロン株が流行した2022年1月1日~9月30日の入院患者における新型コロナワクチンの重症化予防の有効性を評価した。
 ファイザー社製・モデルナ社製いずれかの新型コロナワクチン2回以上接種した場合には、入院予防の有効性が認められた。接種回数が増えるにつれて、有効性の点推定値は上昇しているが、2回接種完了者は、最後のワクチン接種から半年以上経過している症例が3回・4回接種完了者と比較して多いため、回数による影響か最終接種からの時間経過による影響かは現段階では不明である。サンプルサイズが限られていたため、接種間隔で区切った解析は行っていない。60歳以上に限定した解析では、全体の解析と比較して点推定値では高い傾向が認められた。入院新型コロナウイルス感染症患者における重症化予防の有効性では、3回・4回接種完了の有効性を認めた。入院予防の研究と同様に、接種回数が増えるにつれて有効性の点推定値は上昇しているが、最終接種からの時間経過が影響している可能性がある。
 海外での研究と比較すると、英国の研究では、65歳以上においてオミクロン株に対する新型コロナワクチンの入院予防の有効性は、2回接種後25週以上では50.5~53.7%、3回接種2~39週間以降では63.1%~89.5%と推定されている (12)。米国の研究では、オミクロン株流行期における新型コロナワクチン3回接種の入院予防の有効性に関して、接種後7~119日では73% (95% 信頼区間: 51~64%)、接種後120日以降では32% (26~38%)、4回接種から7日以降では80% (71~85%)と推定されている (13)。本報告では、接種からの日数を分けての解析はできていないが、解析に含まれる研究対象者の接種からの日数を考慮すると、英国、米国との研究と同等の結果と考える。
 本報告は本サーベイランス研究の暫定結果であり、2022年1月1日から9月30日においても今回の報告で集計できていない研究対象患者情報も多数あるため、今後の患者情報の蓄積と解析により変動する見込みである。

制限

 本報告にはいくつかの制限がある。1つ目は、対象患者が2022年1月1日から9月30日の全国11か所の医療機関に限られており、現時点ではサンプルサイズが極めて限定的である。2つ目は、現在日本では医療機関において受診者のワクチン接種歴を正確な記録として確認できるシステムは整備されていないため、接種歴は主に患者 (または患者家族)に対する問診で得られた記録を基にしており、思い出しバイアスの影響を否定できない。正確なワクチン接種日が不明な患者については、「接種日」の推計方法を複数定めた感度分析を行ったが、調整オッズ比の変動は小さく、一定の妥当性は担保されていると考える。3つ目は、新型コロナウイルス検査には限界があり、症例・対照の誤分類は否定できない。4つ目は、本研究において陽性例の新型コロナウイルスゲノム解析を行っていないため、各ウイルス株に対する正確なワクチンの有効性を算出することは現時点では不可能である。5つ目は、現在新型コロナワクチン未接種者が少なく、サンプルサイズが限られてしまうため、結果の解釈には注意が必要である。6つ目は、ワクチン接種後からの日数を区切っての解析は行っておらず、最終接種からの時間経過の影響を評価していない。
 本報告は2023年2月2日時点の暫定結果であり速報値であるが、公衆衛生学的に意義があると判断して報告した。今後も研究を継続し経時的な評価を行うなかで、公衆衛生学的な意義を鑑みつつ結果について共有する予定である。

注釈
  • CURB-65(9)
    意識レベルの異常、尿素窒素値>20 mg/dl、呼吸回数≧30回/分、収縮期血圧<90 mmHg、年齢65歳以上をそれぞれ1点とし、合計点が0~1点は軽症、2点は中等症、3点以上を重症と定義する。
    国内の臨床現場では、呼吸状態を評価する際に、呼吸回数ではなく、酸素飽和度 (SpO2)や酸素投与の必要性を使用することが多いため、本研究では呼吸回数≧30回/分に加え、SpO2<90%または酸素投与が必要な場合も1点とした。

  • 慢性心疾患、慢性呼吸器疾患、肥満 (BMI≧30)、悪性腫瘍 (固形癌または血液腫瘍)、糖尿病、慢性腎不全、透析、肝硬変、免疫抑制薬の使用、妊娠

  • 本研究での重症度分類 (WHO clinical progression scale(11)を参照にして作成)
    入院した新型コロナウイルス感染症患者において、表7の重症度6点以上を重症、それ以外を非重症と定義した。


表 7:重症度分類
患者状況 詳細 重症度
感染なし 感染なし 0
軽症 無症候性病原体保有者 1
症状あり、活動制限なし 2
症状あり、介護必要 3
入院、中等症 入院、酸素なし 4
入院、マスクまたは鼻カニューラでの酸素投与必要 5
入院、重症 入院、high flow nasal cannula therapy または非侵襲的陽圧換気が必要 6
挿管・人工呼吸器使用 7
挿管・人工呼吸器使用に加え、ECMOまたは血液浄化療法の使用 8
死亡 死亡 9
研究チーム
長崎大学熱帯医学研究所 呼吸器ワクチン疫学分野

前田 遥、森本 浩之輔

大分大学 医学部 微生物学講座

齊藤 信夫

横浜市立大学 医学部 公衆衛生学・東京大学大学院 薬学系研究科 医薬政策学

五十嵐 中

長崎大学病院 感染症内科(熱研内科)

増田 真吾

今回の報告に含まれる研究参加医療機関および2022年12月現在の研究参加医療機関 (50音順、敬称略)
飯塚病院

的野 多加志

沖縄県立中部病院

喜舎場 朝雄

亀田総合病院

大澤 良介、細川 直登、中島 啓

川崎市立多摩病院

本橋 伊織

北福島医療センター/福島県立医科大学

山藤 栄一郎

公立陶生病院

武藤 義和

五本木クリニック

桑満 おさむ

市立奈良病院

森川 暢

髙木整形外科・内科

大原 靖二

近森病院

石田 正之

東京ベイ・浦安市川医療センター

織田 錬太郎、保科 ゆい子

虹が丘病院

寺田 真由美

早川内科医院

早川 友一郎

福岡青洲会病院

松坂 俊、杉本 幸弘

みずほ通りクリニック

勅使川原 修

武蔵野徳洲会病院

淺見 貞晴、工藤 智史、秋月 登

洛和会音羽病院

井村 春樹、井上 弘貴

ロコクリニック中目黒

嘉村 洋志

研究協力
国立感染症研究所 感染症疫学センター

鈴木 基

研究資金

本研究は、厚生労働省科学研究費補助金「新型コロナワクチン等の有効性及び安全性の評価体制」による支援を受けている。

利益相反の開示

長崎大学熱帯医学研究所呼吸器ワクチン疫学分野は、ファイザー社より本研究に関連のない研究助成金を受けている。

東京大学大学院薬学系研究科医薬政策学は、武田薬品工業株式会社より本研究に関係のない研究助成金を受けている。

前田遥、五十嵐中はモデルナ社より講演料および顧問料を受けている。

森本浩之輔はモデルナ社より顧問料を受けている。

参考資料
問い合わせ先

長崎大学熱帯医学研究所 呼吸器ワクチン疫学分野:森本 浩之輔
komorimo*nagasaki-u.ac.jp(*を@にして送信して下さい)