アフリカでの早期研究経験から、次世代の熱帯医学を担う医師研究者へ

アフリカでの早期研究経験から、次世代の熱帯医学を担う医師研究者へ

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早期の海外研究経験が、将来のキャリアを拓く

長崎大学熱帯医学研究所ケニア拠点臨床研究チーム(齊藤准教授、彦根助教)では、若手医師がキャリアの早い段階からアフリカの臨床・研究現場を経験し、将来の熱帯医学を担う医師研究者(Physician-Scientist)として成長できる環境づくりに取り組んでいます。

近年、日本では臨床と研究を両立する医師の減少が懸念されており、特に基礎医学や熱帯医学分野における次世代の研究者育成は重要な課題となっています。また、専門医取得までの研修期間も長く、専門医資格を取得してから海外研究を始めようとすると、医師7~10年目となることも少なくありません。その頃には、臨床での責任や生活環境の変化などにより、長期間海外に滞在して研究を始めることが難しくなる場合があります。

だからこそ、初期研修中や研修修了後の早い段階で海外に出て、実際に研究を経験することが重要だと考えています。

私たちが目指すのは、単なる海外視察や短期研修ではありません。現地の医療従事者や研究者とともに感染症の課題に向き合い、自ら問題を発見し、科学的な手法を用いて解決する力を養うことです。

高泉先生(前列中)、上杉先生(前列中)、ケニア拠点臨床研究チーム 齊藤・彦根・研究チーム雇用プロジェクトスタッフ

医師3年目で研究に専念 ― 高泉先生の挑戦

2026年7月から、長崎大学病院で初期研修を修了した高泉先生がケニア拠点に長期滞在し、結核の臨床研究に取り組んでいます。

高泉先生は研修医1年目から大学院に入学し、臨床研修と研究を両立してきました。そして医師3年目に臨床を一時中断し、約1年間研究に専念する道を選びました。ケニアには約半年間滞在し、結核患者の尿や胸水を用いた新たな診断法の開発、各種バイオマーカーの臨床評価に取り組んでいます。

高泉先生、とケニア人ローカルスタッフ

研究は、ケニアで結核臨床研究を主導する彦根助教の指導のもとで進められています。高泉先生は、現地医療機関での患者リクルート、検体採取からラボでの検査、データ解析まで幅広く担当し、ケニア人研究スタッフとともに日々研究を進めています。

また、2年目を迎えたケニア気管支鏡プロジェクトでも中心的な役割を担っています。研修マニュアルの制作やトレーニングの運営に加え、今年度は現地での活動を主導するなど、プロジェクトに欠かせない存在となっています。

来年度以降は関東の研修病院で専門研修に戻り、臨床経験をさらに積む予定です。将来はアジア・アフリカで国際保健に従事することを目指しており、今回の経験と早期の博士号取得が、そのキャリアの大きな基盤になると期待しています。

高泉先生真ん中、日本気管支鏡研修で、ケニア人スタッフに指導

感染症専門医を目指しながら研究を続ける ― 上杉先生

2026年11月からは、長崎大学病院総合感染症内科の内科専攻医である上杉先生も、約3週間ケニア拠点で研究に参加しています。

上杉先生は麻生飯塚病院で初期臨床研修を修了後、医師3年目に長崎大学病院総合感染症内科に入局し、感染症専門医を目指して研鑽を積んでいます。 研修医時代にもケニアを短期訪問し、齊藤准教授・彦根助教のチームで結核研究に参加した経験があります。今回は、ケニア拠点と長崎大学病院総合感染症内科/熱研・臨床感染症学分野の強い協力関係のもと、再びケニアで研究に取り組む機会を得ました。

今回の滞在では、ケニアで進めている狂犬病研究や結核研究で収集された検体を活用し、全ゲノム解析(WGS)に関する研究に取り組んでいます。検体処理やシーケンスに向けた実験操作(wet lab)から、得られた配列データの解析、臨床情報との統合(dry lab)まで、一連の研究工程を自ら実践しています。

上杉先生は将来、感染症分野の研究者として活躍することを目指しています。感染症専門医としての臨床経験に加え、分子生物学的な実験技術やゲノム解析技術を身につけ、将来的には世界を舞台に感染症研究を牽引する研究者へと成長してもらいたいと期待しています。

上杉先生とケニア人医療スタッフ(結核研究)

若手医師を支えるロールモデル ― 彦根助教

こうした若手医師の研究活動を支える存在の一人が、ケニア拠点臨床研究チームの彦根助教です。

彦根助教は、救急科・感染症科の専門医資格を持つ女性医師であり、現在はケニアで結核の臨床研究を主導しています。臨床医としての専門性を生かしながら、アフリカの医療現場で研究を実践する医師研究者です。

臨床経験を積み、専門医資格を取得した後に、海外で臨床研究を展開する。 彦根助教は、こうしたキャリアを実際に歩んでいる先輩医師であり、若手医師にとって身近なロールモデルとなっています。

海外で研究を実践する先輩医師のもとで学び、ともに研究に取り組めることは、若手医師が将来のキャリアを具体的に描くうえでも大きな意味を持っています。

彦根助教が上杉先生にラボ指導

学生時代からつながる熱帯医学への思い

実は、高泉先生と上杉先生は出身大学こそ異なりますが、学生時代から日本熱帯医学会学生部会(J-Trops)でともに活動してきた仲間です。

学生時代にはJ-Tropsの狂犬病関連活動を通じて齊藤准教授と知り合い、当時齊藤准教授が研究活動を行っていたフィリピンにも足を運んでいます。学生時代からの熱帯医学への関心と、こうした研究者とのつながりが、今回のケニアでの研究活動につながりました。

仕事も遊びも全力! ケニアでの研究生活

ケニアでの日々は、研究活動だけではありません。

平日は現地の病院での臨床研究やラボでの実験に取り組む一方、早朝や夕方にはテニスやバドミントンなどのスポーツを楽しんでいます。週末には仲間とスポーツで汗を流し、時にはサファリや周辺地域への旅行にも出かけるなど、アフリカならではの生活を満喫しています。

休日カルーラフォレストで散歩

臨床も研究も真剣に、そして遊ぶときは思い切り楽しむ。 こうしたメリハリのある生活も、海外で研究を続ける大きな魅力の一つです。現地でのさまざまな出会いや経験は、研究者としてだけでなく、一人の医師としての成長にもつながると考えています。

ケニアの臨床研究基盤を活かし、次世代の医師研究者を育てる

長崎大学熱帯医学研究所ケニア拠点臨床研究チーム(齊藤准教授、彦根助教)は、現在ケニアの3つの医療施設で結核の臨床研究を実施しています。現地医療機関との連携を通じて、患者リクルートから臨床検体の収集、ラボでの実験、データ解析まで一貫して実施できる研究体制を整えてきました。

この研究基盤を活用することで、若手医師が現地で臨床を経験しながら、自ら研究課題を見つけ、実験や解析まで主体的に取り組むことができる環境が整っています。また、ケニア拠点と長崎大学病院総合感染症科(熱研 臨床感染症学分野)との協力関係により、国内での臨床研修と海外での研究経験をつなぐことが可能となっています。

海外で研究を続けるためには、専門的な研究技術だけでなく、現地の医療従事者や研究者との信頼関係、異なる文化や環境の中で研究を進める経験が欠かせません。こうした力は短期間で身につくものではなく、若い時期から現地に入り、継続的に関わることで培われていくものです。

早い時期に海外研究を経験し、博士号を取得した後に臨床専門研修を積み、再び海外の研究現場に戻る。 こうしたキャリアパスも、熱帯医学を志す若手医師にとって重要な選択肢の一つです。

高泉先生、上杉先生には、今後専門医を目指して臨床経験を積む中でも、定期的にケニアを訪れ、研究を継続してもらいたいと考えています。

ケニア拠点臨床研究チームでは、これまで築いてきた臨床研究基盤を活かし、今後も若手医師が早期からアフリカで研究に挑戦できる機会を提供していきます。そして、将来、アジア・アフリカをはじめ世界の熱帯医学・感染症研究を牽引する医師研究者(Tropical Medicine Physician-Scientists)を育てていきたいと考えています。


研究支援

関連事業は、長崎大学感染症研究出島特区(DEJIMA Infectious Disease Research Alliance, Nagasaki University)、AMED「地球規模保健課題解決推進のための研究事業」(研究代表者:齊藤准教授、課題番号:24jk0110031h0001)およびAMED「感染症危機対応医薬品等の研究開発プラットフォーム事業(PF事業)」診断薬開発チーム、の支援を受けて実施されています。

文責:齊藤信夫