次世代の若手臨床医研究者(フィジシャンサイエンティスト)を育てるケニア拠点での挑戦

次世代の若手臨床医研究者(フィジシャンサイエンティスト)を育てるケニア拠点での挑戦

2026-02-09

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結核臨床研究を通じた若手感染症医の育成

2026年2月5日から10日まで、研修医であり熱帯医学研究所(熱研)研究員でもある上杉先生がケニアに渡航し、ケニア拠点において齊藤准教授および彦根助教が実践する結核臨床研究に参加した。本渡航は、結核蔓延国の現場における臨床研究を若手医師が直接学ぶことを目的としたものであり、日本医療研究開発機構(AMED)地球規模保健課題解決推進のための研究事業の若手研究者支援のもとで実施され、2025年度に3名の若手医師・研究者の渡航が実現した。

本事業の支援により、ケニア拠点では、結核をはじめとする感染症に対する実装・臨床研究と人材育成を両立させた取り組みを進めている。研究成果の創出に加え、日本の将来を担う若手臨床医研究者(フィジシャン・サイエンティスト)を育成することも、この取り組みの大きな目的である。

若手感染症医がアフリカの現場で学ぶ意義

今回渡航した上杉先生は、東京大学医学部卒業後、麻生飯塚病院で初期研修を行っている研修医2年目である。学生時代より熱帯医学・途上国医療に強い関心を持ち、日本熱帯医学会学生部会やNTD Youthの会において主導的役割を担ってきた、活動的かつ将来性の高い若手医師である。

学生時代には、当時フィリピンに赴任していた齊藤准教授のもとに約1か月半滞在し、熱帯感染症を現場で学んだ経験を持つ。来年度からは、長崎大学病院 総合感染症科(国際感染症予防診療センター)において、感染症専門医取得を目指した専門研修プログラムを開始する予定である。

今回の短期渡航では、齊藤が代表を務め、彦根助教が主導する結核臨床研究に参加した。ケニア国内の複数の結核診療施設、すなわち Level 6 のケニヤッタ国立病院、Level 5 のムガバディ郡病院、ならびに Level 2 の Rhodes Chest Clinic を訪問し、結核患者の診療を見学するとともに、各施設における診療体制や役割分担について理解を深めた。また、研究の参加者登録の流れ、検体の採取・処理方法、研究データの管理手法など、結核臨床研究の実施手法について学んだ。

さらに、長崎大学ケニア拠点では、ラボにおいて現在進行中の結核研究に参加し、BSL3ラボでの手技を含む実験手法を実地で学んだ。加えて、結核菌株の全ゲノム解析研究にも参加することになり、ナイロビのような大都市環境において、結核がどのように伝播しているのかを明らかにする研究を今後進めていく。

結核蔓延国の現場で、診療と研究の双方を同時に経験できたことは、日本国内では得難く、感染症専門医として貴重な学びとなった。本経験を踏まえ、今後も本研究への継続的な参加を通じて、結核蔓延国における臨床研究の実践力を高め、臨床と研究の双方に強い感染症医としての成長が期待される。また、上杉先生は将来的に、アフリカに長期滞在し研究に従事することも検討している。

ケニアでの人材育成型国際研究としての意義

本取り組みは、結核蔓延国で進行中の臨床研究に若手医師が実際に参加し、アフリカの現場で学びながら研究を遂行する「人材育成型国際研究」として大きな意義を有する。研究課題の設定、倫理対応、データ収集、現地スタッフとの協働といった一連のプロセスを、OJTとしてアフリカの地で学ぶことは、非常に貴重な実践的経験である。

本結核研究は彦根助教が主導し、アフリカの臨床現場に根差して進められている。彦根助教は、アフリカにおいて臨床研究を実践してきた臨床医研究者のロールモデルであり、そのもとで若手医師は、結核蔓延国の現場における臨床研究の実施方法を実践的に学ぶことができる。アジア・アフリカでの将来の活躍を目指す若手女医にとっても、海外の臨床研究に実際に参加する経験は、キャリア形成を考えるうえで重要な学びの機会となる。

研究サイトであるケニアッタ国立病院の前で、上杉先生と彦根助教

日本の未来につながる経験

結核は世界的な公衆衛生課題であり、同時に日本においても重要性が高い感染症である。一方で、日本国内では、感染症専門医を志す若手が十分な結核臨床経験を積むことは容易ではない。そのような中で、結核蔓延国の現場で臨床と研究を同時に学ぶ経験は、将来、日本の医療を支える感染症医・臨床医研究者の育成に大きく寄与するはずである。

キベラスラムから多くの患者を診療するMbagathi county hospital にて 結核患者登録について見学
現地clinical officer と写真

ケニア拠点では、今後も現場に根差したアフリカでの臨床研究を通じて、次世代を担う若手医師が成長する機会を継続して設けていく。

謝辞

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)地球規模保健課題解決推進のための研究事業(令和6~9年度)
「全自動LAM測定装置器(PATHFAST TB-LAM Ag)を用いた抗結核薬治療効果判定法の有用性評価:ケニアでの臨床研究」(研究代表者:齊藤 信夫、課題番号:24jk0110031h0001)の支援のもとで実施している。
若手臨床医研究者の育成に関する活動は、若手研究者育成を目的とした2025年度AMED追加予算により実現した。若手渡航にあたり多大なるご理解とご支援を賜った関係者の皆様に、心より御礼申し上げます。