近年、マレーシア、タイ、ベトナムなどの東南アジア地域においてサルの間で流行しているサルマラリア原虫がヒトに感染する事例が報告され始め、死亡例も出てきた。さらには、東南アジアを旅行し、帰国してからサルマラリアを発症する事例も報告されている。従来行われてきたマラリアコントロールはヒトとヒトの間で伝搬するヒト感染性マラリアを対象として行われてきており、サルをリザーバーとするサルマラリアのコントロールには全く新たなコントロール戦略が要求される。しかし、現在のところ、どのような状況下でサルからヒトへサルマラリアが感染するようになったのか、その背景は全くわかっていない。本研究交流課題では、このように東南アジア地域で問題となっているサルマラリアが濃厚に流行しているベトナム・カンホア省の森林地区を対象として、サルマラリアがどのようにしてヒトに伝播するようになったのか、その背景を森林生態学、霊長類学、昆虫学、集団遺伝学を糾合した学際的アプローチで明らかにし、カンホア省の流行地におけるサルマラリアのコントロールに向けた基盤を確立することを目的として行う。
アジア地区の感染症を軽減することは、この地区への訪問者が多い日本にとり重要な課題である。また、マラリア対策は国際貢献において重要な位置を占めるが、欧米諸国が南アメリカ・アフリカを中心に活動しているのに対し、アジア地区で日本が主導を取ることは我が国の国益につながる。
長崎大学熱帯医学研究所
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