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研究交流目標

全期間を通じた研究交流目標

東南アジアの国々では経済発展とマラリアコントロールの成果により、都市部ではマラリアがなくなり、主として森林地域や国境地域にのみ見られるようになった。本申請事業の相手国であるベトナムでも同様の現象が見られ、カンホア省では流行地として残った森林地域のマラリア対策をコントロールする努力がなされている。このような努力の結果、カンホア省森林地域のマラリアもいずれなくなると予想されていたが、予想に反し、マラリアを根絶することができなかった。一方、近年、東南アジアの各地でサルマラリア原虫によるヒトへの感染例が報告されていたため、日本側とベトナム側のコーディネーターが予備的調査したところ、カンホア省森林地域の多くのマラリア感染者が実は従来知られているヒト感染性マラリアではなくてサルマラリアの感染であることが分かった。このような事態が発生する背景として、マラリア流行に対する環境変容による影響、マラリアコントロールによる影響、潜在的にあったものの顕在化などが予想されるが、実際にどのようにサルとヒトの間でマラリアの伝播が起きるようになったのかは明らかでなく、サルマラリアの人への感染を制御するための基盤として、流行の生態的・疫学的実態を明らかにすることが必要である。

そこで本事業では、カンホア省森林地区における(1)木材伐採やそれに伴う水場の変化等の環境変容調査、(2)サル、媒介蚊、ヒトの行動の生態学的・文化人類学的評価、(3)サル、媒介蚊、ヒトでのサルマラリア原虫感染状況の疫学的調査、(4)サル、媒介蚊、ヒトから得た原虫集団の遺伝子型分布の比較および採取地区間の比較による宿主による隔離・地理的隔離に関する集団遺伝学的解析を行う。これらにより、森林地域で流行するサルマラリアの伝播の実態を明らかにし、環境保全・野生動物保護と両立するサルマラリア伝播制御に向けた基盤情報を整えるとともに、共同事業・共同研究を通じた二国間の永続的協力関係を構築する。本事業を通して日本とベトナムの大学院生を含む若手研究者の野外・研究室における研究能力の向上を図る。

平成23年度研究交流目標

(1)「研究協力体制の構築」に関する今年度の目標

2009年の8月9日にサルマラリアに関する共同研究の実施に合意をして以来、現在まで、住民情報と蚊の情報を豊富に有するベトナム側と、分子生物学・マラリア免疫に強い長崎大学熱研の間で共同研究を進めてきた。本事業では、この共同研究チームをより学際的な研究組織にするために、森林環境評価、文化人類学、霊長類学のフィールド調査に強い専門家を加えた。多様な分野の研究者間の有機的連携を強化するために、1.得られたデータの共有、解析などの双方向のやり取りを刺激するために電子メール・チャット機能を利用したITネットワーク構築を行う。2.情報のさらなる共有と議論の深化を目的に、国内研究チーム全員を集めた国内セミナーを開催し、3.年度末には、日本・ベトナムチーム全員を含めた情報交換をさらに促進するために、ベトナムで国際シンポジウムを開催する。

(2)「学術的観点」に関する今年度の目標

環境、ヒトとサルの行動、媒介蚊分布、サルマラリア原虫分布の調査を開始する。

  1. カンフー・コミューンの森林利用状況、蚊の繁殖する水場の調査に着手する。
  2. カンフー・コミューン住民のマラリアの罹患率を明らかにし、行動との関係を明らかにする。
  3. 野生サルの生息地域を明らかにする。
  4. サルの糞から原虫を検出する方法を確立する。
  5. サルマラリア感染蚊の存在地域を明らかにする。
  6. 上記情報を総括し、感染の予備的なリスクアセスメントを行う。

(3)「若手研究者養成」に関する今年度の目標

日本側チームに所属する大学院生は基本的には指導教員の下で国内研究(分子生物学的、免疫学的手法、住民調査手法、統計学)を行うが、若手研究者は可能な限り、ベトナムでの野外調査(森林、サル、媒介蚊、住民)へ参加する機会を与え、経験のある研究者と一緒に現場で調査や討論をすることにより、野外調査の組み立て方、研究の推進手法、霊長類学では個体識別、野外観察などの研究手法を体得させる。また、大学院生、ポスドク、若手教員には、国内セミナーと国際シンポジウムへの積極的な参加と発表を推奨する。

ベトナム側若手研究者にも、可能な限り本計画に参画させ実地トレーニングを行う。基本的にベトナム側研究者が指導を行うが、日本側が得意とする分子生物学的手法などについては、日本側参加者が現地に赴いている際に実地指導を行う。日本で開催する合同シンポジウムへの積極的な参加と発表を推奨するため、研究テーマを与えて研究指導を行う。研究能力の底上げのため、可能であれば、長崎大学が開講している熱帯医学修士課程への進学や、優秀なものには博士課程への進学やJSPS論博事業への参加を促す。

(4)課題独自の今年度の目標

本事業ではベトナムと日本の研究機関が共同で研究を進めるための基盤を形成することに対して支援が行われるが、研究課題そのものをサポートする競争的研究資金の獲得に向けた努力を継続する。

また、ベトナムには、マラリア研究に対し影響力のある、ベトナム国立マラリア寄生虫学昆虫学研究所がある。この研究所とは、2000年度から2009年度まで拠点大学交流事業でマラリアの共同研究調査を実施した実績があるが、本事業実施の為に再びこの研究所と学術協定締結に向けた交渉を開始する。

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