新型コロナワクチンの有効性に関する研究
〜国内多施設共同症例対照研究〜

Vaccine Effectiveness Real-Time Surveillance for SARS-CoV-2 (VERSUS) Study、第12報
長崎大学熱帯医学研究所
掲載日:2025年6月10日
要約

 長崎大学熱帯医学研究所を中心とする研究チームは、全国の医療機関 (病院および診療所)と協力し、2021年7月1日より新型コロナワクチンの有効性を評価する研究を実施しており、2024年10月からはインフルエンザワクチンの有効性の評価も開始した。本報告 (第12報)では、2024年10月1日から2025年3月31日の調査結果をもとに、JN.1系統対応1価ワクチンの発症予防および入院予防の有効性を報告する。
 発症予防の有効性の評価には、18歳以上の4,680名 (うち検査陽性者990名)を解析対象とした。対象者の年齢中央値は51歳で、65歳以上が32.7%、男性が48.1%、基礎疾患を有するものが33.7%であった。18歳以上において、JN.1系統対応1価ワクチン接種なしと比較したJN.1系統対応1価ワクチン接種(接種後7日以上経過)の発症予防の有効性は54.6% (95%信頼区間: 29.9~70.6%)であった。接種後の日数で分けた解析では、接種後7~60日の有効性が55.5% (95%信頼区間: 20.7~75.0%)、接種後61日以上では53.5% (95%信頼区間: 12.8~75.2%)であった。年齢別の解析では、18~64歳において、JN.1系統対応1価ワクチン接種なしと比較したJN.1系統対応1価ワクチン接種(接種後7日以上経過)の有効性は60.0% (95%信頼区間: 11.6~81.9%)、接種後7~60日では52.4% (95%信頼区間: -12.4~79.9%)であった。65歳以上では、JN.1系統対応1価ワクチン接種なしと比較したJN.1系統対応1価ワクチン接種(接種後7日以上経過)の有効性は52.5% (95%信頼区間: 15.9~73.2%)、接種後7~60日では56.2% (95%信頼区間: 1.1~80.6%)、61日以降では34.8% (95%信頼区間: -32.0~67.8%)であった。
 入院予防の有効性の評価には、60歳以上の883名 (うち検査陽性者171名)を解析対象とした。対象者の年齢中央値は83歳で、男性が59.0%、基礎疾患を有するものが98.3%、高齢者施設の入所者が29.9%だった。60歳以上において、JN.1系統対応1価ワクチン接種なしと比較したJN.1系統対応1価ワクチン接種(接種後7日以上経過)の入院予防の有効性は63.2% (95%信頼区間: 14.5~84.1%)と推定された。さらに、入院時に呼吸不全を伴う患者、CURB-65スコアに基づいた重症度が中等症以上の患者、肺炎がある患者に限定した解析においても、同様の有効性が確認された。
 本報告は、JN.1系統対応1価ワクチンの発症予防および入院予防を評価したものである。JN.1系統対応1価ワクチンの接種により、発症予防、入院予防において追加的な予防効果が得られる可能性が示された。なお、本報告は2025年5月30日時点の暫定結果であり、公衆衛生学的意義を鑑みて速報として報告するものである。対象期間中のデータの一部は未集計であるため、今後結果が変わる可能性があり、引き続き経時的な評価を行い、随時アップデートした結果を報告する予定である。

背景

 2021年7月1日より、長崎大学熱帯医学研究所を中心とした研究チームは、全国の医療機関 (病院および診療所)と協力し、検査陰性デザイン (test-negative design:TND)を用いた症例対照研究を使って(1, 2)、新型コロナワクチンの有効性を経時的に評価するサーベイランス研究 (Vaccine Effectiveness Real-time Surveillance for SARS-CoV-2 [VERSUS] study)を実施している(3)。これまでに、国内で導入されている新型コロナワクチンの発症予防・入院予防・重症化予防の有効性を評価し、その結果を公表してきた。また、2024年10月1日からは、新型コロナワクチンに加えて、インフルエンザワクチンの有効性評価も開始している。
 国内では、2024年2月に新型コロナウイルス感染症が予防接種法に基づくB類疾病に分類され、65歳以上の高齢者に加え、60歳~64歳で心臓・腎臓・呼吸器に機能障害があり、身の回りの生活が極端に制限される人、およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫機能障害を持つ人が、定期接種の対象とされた。それ以外の人々は、医療従事者を含めて任意接種となっている。2024年度秋冬シーズンの新型コロナワクチン定期接種では、オミクロン株JN.1系統に対応した1価ワクチンが採用され、mRNAワクチン (ファイザー社、モデルナ社、第一三共社)、蛋白組み換え型ワクチン(武田社)、およびレプリコンワクチン (Meiji Seikaファルマ社)の5種類が使用された。
 本報告では2024年10月1日から2025年3月31日の調査結果をもとに、JN.1系統対応1価ワクチンの発症予防および入院予防の有効性を評価した結果を報告する。

方法

1) 発症予防の有効性に関する研究

 2024年10月1日から2025年3月31日までの期間に、全国9都県 (福島県、東京都、神奈川県、千葉県、愛知県、奈良県、高知県、福岡県、長崎県)に所在する計14か所の病院または診療所を、新型コロナウイルス感染症が疑われる症状 (注1)で受診し、新型コロナウイルス検査を受けた18歳以上の患者を対象とした。なお、受診時に新型コロナワクチンの接種歴が不明かつインフルエンザワクチンの接種歴が不明の場合は、研究対象としていない。対象者からは、患者基本情報、症状、新型コロナワクチン接種歴 (接種の有無、接種回数、接種日、接種したワクチンの種類)、新型コロナウイルス検査結果に関する情報を収集した。新型コロナウイルスの検査には、核酸増幅法、抗原定量検査、抗原定性検査を対象とした。新型コロナウイルス検査陽性者を症例群、陰性者を対照群とする検査陰性デザイン(test-negative design)を用いた症例対照研究を実施した (図1)。

図1.発症予防の有効性に関する研究の研究デザイン
(検査陰性デザインを用いた症例対照研究)

 本報告では、JN.1系統対応1価ワクチンの有効性を評価することを目的としており、①JN.1系統対応1価ワクチンを接種していない場合と比較した、JN.1系統対応1価ワクチンの有効性 (接種後7日以上経過)を算出した。加えて、新型コロナワクチン接種歴の違いによる影響を評価するため、②(1)新型コロナワクチン未接種、(2)従来型ワクチンのみを接種、(3)オミクロン対応2価ワクチンを接種、(4)オミクロンXBB対応1価ワクチンを接種した場合の各群と比較したJN.1系統対応1価ワクチンの有効性 (接種後7日以上経過)を評価した。接種したワクチンの種類が不明であっても、最終接種日から推定可能な場合は、該当するワクチン群に分類し、解析に含めた。接種したワクチンの種類、最終接種日が不明であるが、JN.1系統対応1価ワクチンを接種していないことが明らかな場合は、①の解析ではJN.1系統対応1価ワクチンを接種していない場合に含め、②の解析では「ワクチンの種類不明」に分類した。一方、新型コロナワクチン接種歴自体が不明な場合には解析から除外した。18歳以上全体を対象とした解析に加えて、年齢群別 (18~64歳、65歳以上)の解析および、ファイザー社製のJN.1系統対応1価ワクチンに限定した解析も実施した。(他の会社のワクチンについては、接種が確認されている解析対象者が少ないため、本報告では解析を行っていない。)発症から15日以降に検査を受けた患者および同一患者は定義 (注2)に基づいて除外した。また、ワクチン接種に対する態度が交絡となる可能性を考慮し、インフルエンザ陽性者は対照群から除外した(4, 5)。
 検査結果 (陽性・陰性)に接種歴を含む種々の要因が与える影響を、混合効果ロジスティック回帰モデルを構築して調整オッズ比と95%信頼区間を算出して評価した。新型コロナワクチンの有効性は、(1-調整オッズ比)×100%で算出した。回帰モデルには、検査結果 (陽性・陰性)を被説明変数とし、説明変数としては、新型コロナワクチン接種歴、年齢、性別、基礎疾患(注3)の有無、検査が実施されたカレンダー週、医療従事者であるかどうか、新型コロナウイルス感染症の既往歴を固定効果 (fixed effect)として組み込み、検査を実施した医療機関を変量効果 (random effect)とした。一部の対象者では正確な新型コロナワクチン接種日が不明であり、接種日をどのように推定するかによって接種後の経過日数に影響を受ける可能性がある。そのため、感度分析として、複数の方法で接種日を推定した上での解析も実施した。
 本研究は、長崎大学熱帯医学研究所の倫理委員会で中央一括での倫理審査を受け、承認された後に実施された (承認番号: 240919316「呼吸器感染症ワクチンの有効性研究」)。


2) 入院予防の有効性に関する研究

 2024年10月1日から2025年3月31日の期間に、全国11都府県 (福島県、東京都、神奈川県、千葉県、愛知県、京都府、奈良県、高知県、福岡県、長崎県、沖縄県)に所在する計11か所の病院において、急性呼吸器感染症が疑われる症状 (発熱、咳、喀痰、胸膜痛、呼吸苦、頻呼吸、急性疾患による酸素投与)のうち2つ以上の症状がある、または新たに出現した肺炎像を認められ入院した60歳以上の患者を対象とした。なお、入院時の新型コロナワクチンの接種歴が不明かつインフルエンザワクチンの接種歴が不明の場合は研究対象としていない。対象者からは、患者基本情報、症状、新型コロナワクチン接種歴 (接種の有無、接種回数、接種日、接種したワクチンの種類)、新型コロナウイルス検査結果、入院時のバイタルサインなどの情報を収集した。新型コロナウイルスの検査には、核酸増幅法、抗原定量検査、抗原定性検査を対象とした。新型コロナウイルス検査陽性者を症例群、陰性者を対照群とした検査陰性デザイン (test-negative design)を用いた症例対照研究を行った (図2)。検査陽性群と陰性群で入院時の重症度が異なる可能性を考慮し、市中肺炎の重症度分類に用いられるCURB-65スコア(注4) (6)を用いて入院時の重症度の評価も行った。

図2.入院予防の有効性に関する研究の研究デザイン
(検査陰性デザインを用いた症例対照研究)

 本報告では、発症予防の有効性に関する研究と同様に、JN.1系統対応1価ワクチンの有効性の評価を目的としており、ワクチンの有効性として、①JN.1系統対応1価ワクチン接種していない場合と比較したJN.1系統対応1価ワクチンの有効性を算出した。加えて、新型コロナワクチン接種歴の違いによる影響を評価するため、②(1)新型コロナワクチン未接種、(2)従来型ワクチンのみを接種、(3)オミクロン対応2価ワクチンを接種、(4)オミクロンXBB対応1価ワクチンを接種した場合の各群と比較したJN.1系統対応1価ワクチンの有効性 (接種後7日以上経過)を評価した。接種したワクチンの種類が不明であっても、最終接種日から推定可能な場合は、該当するワクチン群に分類し、解析に含めた。接種したワクチンの種類、最終接種日が不明であるが、JN.1系統対応1価ワクチンを接種していないことが明らかな場合は、①の解析ではJN.1系統対応1価ワクチンを接種していない場合に含め、②の解析では「ワクチンの種類不明」に分類した。一方、新型コロナワクチン接種歴自体が不明な場合には解析から除外した。また、発症から15日以降に検査を受けた患者および、14日以内に同一患者が複数回入院していた場合は除外した。加えて、ワクチン接種に対する態度が交絡となる可能性を考慮し、インフルエンザ陽性者は対照群から除外した (4, 5)。
 新型コロナウイルス検査結果 (陽性・陰性)に、新型コロナワクチン接種歴を含む種々の要因が与える影響を、混合効果ロジスティック回帰モデルを構築し、調整オッズ比と95%信頼区間を算出して評価した。新型コロナワクチンの有効性は、(1-調整オッズ比)×100%で算出した。回帰モデルには、検査結果 (陽性・陰性)を被説明変数、新型コロナワクチン接種歴、年齢、性別、基礎疾患 (注3)の有無、入院日のカレンダー週、新型コロナウイルス感染症の既往歴を固定効果 (fixed effect)として、入院医療機関を変量効果 (random effect)の説明変数として組み込んだ。さらに、入院時に呼吸不全を伴う患者 (注5)に限定した解析、入院時のCURB-65スコアに基づいた重症度が中等症以上の患者に限定した解析、入院時に肺炎がある患者に限定した解析も実施した。
 本研究は、長崎大学熱帯医学研究所の倫理委員会で中央一括での倫理審査を受け、承認された後に実施された (承認番号: 240919316「呼吸器感染症ワクチンの有効性研究」)。

結果

1) 発症予防の有効性に関する研究

 全国9都県に所在する計14か所の医療機関において、2024年10月1日から2025年3月31日までの期間に、新型コロナウイルス感染症が疑われる症状 (注1)があり、新型コロナウイルス検査を受けた18歳以上の患者6,141名が登録された。このうち、同一患者 (注2)の重複と判定された112名、新型コロナウイルス検査未実施の48名、インフルエンザ陽性の1,094名、発症日から15日以降に検査を受けた67名、新型コロナワクチン接種歴が不明の140名を除外し、合計4,680名を解析対象とした (図3)。このうち、新型コロナウイルス検査陽性者は990名 (21.2%)であった。

図3.研究フローチャート

 解析対象者の基本情報および新型コロナワクチン接種歴を表1に示す。年齢中央値 (四分位範囲)は51歳 (34~72歳)であり、男性は2,251名 (48.1%)、1,577名 (33.7%)に基礎疾患 (注3)があった。また、医療従事者は576名 (12.3%)であった。解析対象者のうち、JN.1系統対応1価ワクチン接種あり (接種後7日以上経過)は192名 (4.1%) 、JN.1系統対応1価ワクチン未接種は3,100名 (66.2%)、ワクチン接種歴はあるが、JN.1系統対応1価ワクチン接種の有無が不明であったものは1,371名 (29.3%)であった。JN.1系統対応1価ワクチン未接種の内訳は以下のとおりである。新型コロナワクチン未接種は470名 (10.0%)、従来型ワクチンのみ接種は678名 (14.5%)、オミクロン対応2価ワクチン接種は468名 (10.0%)、オミクロンXBB対応1価ワクチン接種は412名 (8.8%)、従来型、オミクロン対応2価ワクチン、オミクロンXBB対応1価ワクチンいずれかは接種しているが、種類が特定できなかった者は1,066名 (22.8%)であった。

表 1:発症予防の有効性に関する研究における解析対象者 (18歳以上)の基本情報と新型コロナワクチン接種歴
全体
(n=4,680)
検査陽性
(n=990)
検査陰性
(n=3,690)
年齢 n. (%)
18-29歳 864 (18.5)151 (15.3)713 (19.3)
30-39歳 701 (15.0)140 (14.1)561 (15.2)
40-49歳 673 (14.4)132 (13.3)541 (14.7)
50-59歳 656 (14.0)165 (16.7)491 (13.3)
60-69歳 490 (10.5)122 (12.3)368 (10.0)
70-79歳 574 (12.3)148 (14.9)426 (11.5)
80-89歳 522 (11.2)100 (10.1)422 (11.4)
90歳以上 200 (4.3)32 (3.2)168 (4.6)
年齢 n. (%)
18-64歳 3,151 (67.3)655 (66.2)2,496 (67.6)
65歳以上 1,529 (32.7)335 (33.8)1,194 (32.4)
性別 n. (%)
男性 2,251 (48.1)458 (46.3)1,793 (48.6)
女性 2,429 (51.9)532 (53.7)1,897 (51.4)
高齢者施設の入所 n. (%) 159 (3.4)24 (2.4)135 (3.7)
基礎疾患の有無 n. (%)
1,577 (33.7)307 (31.0)1,270 (34.4)
2,940 (62.8)642 (64.8)2,298 (62.3)
不明 163 (3.5)41 (4.1)122 (3.3)
基礎疾患詳細 n. (%)
慢性心疾患 529 (11.3)106 (10.7)423 (11.5)
慢性呼吸器疾患 535 (11.4)85 (8.6)450 (12.2)
肥満 70 (1.5)18 (1.8)52 (1.4)
悪性腫瘍 412 (8.8)76 (7.7)336 (9.1)
糖尿病 465 (9.9)111 (11.2)354 (9.6)
慢性腎疾患 249 (5.3)47 (4.7)202 (5.5)
透析 58 (1.2)12 (1.2)46 (1.2)
肝硬変 16 (0.3)1 (0.1)15 (0.4)
免疫抑制剤の使用 111 (2.4)24 (2.4)87 (2.4)
妊娠 45 (0.7)8 (0.6)37 (0.7)
新型コロナウイルス感染症の既往 n. (%) 1,530 (32.7)243 (24.5)1,287 (34.9)
医療従事者 n. (%) 576 (12.3)137 (13.8)439 (11.9)
新型コロナウイルス感染症患者との接触 n. (%)
あり 439 (9.4)258 (26.1)181 (4.9)
なし 3,591 (76.7)591 (59.7)3,000 (81.3)
不明 650 (13.9)141 (14.2)509 (13.8)
検査方法 n. (%)
核酸増幅法検査 157 (3.4)42 (4.2)115 (3.1)
抗原定量検査 1,879 (40.1)406 (41.0)1,473 (39.9)
抗原定性検査 2,644 (56.5)542 (54.7)2,102 (57.0)
検査日 n. (%)
2024年10月 809 (17.3)170 (17.2)639 (17.3)
2024年11月 620 (13.2)92 (9.3)528 (14.3)
2024年12月 1,122 (24.0)205 (20.7)917 (24.9)
2025年1月 1,028 (22.0)237 (23.9)791 (21.4)
2025年2月 559 (11.9)156 (15.8)403 (10.9)
2025年3月 542 (11.6)130 (13.1)412 (11.2)
新型コロナワクチン接種歴 n. (%)
JN.1系統対応1価ワクチン接種あり
(接種後7日未満)
17 (0.4)3 (0.3)14 (0.4)
JN.1系統対応1価ワクチン接種あり
(接種後7日以上)
192 (4.1)28 (2.8)164 (4.4)
接種後7~60日 110 (2.4)15 (1.5)95 (2.6)
接種後61日以上 82 (1.8)13 (1.3)69 (1.9)
JN.1系統対応1価ワクチン接種なし 3,100 (66.2)643 (64.9)2,457 (66.6)
新型コロナワクチン未接種 470 (10.0)92 (9.3)378 (10.2)
従来型ワクチンのみ接種 678 (14.5)114 (11.5)564 (15.3)
オミクロン対応2価ワクチン接種 468 (10.0)109 (11.0)359 (9.7)
オミクロンXBB対応1価ワクチン接種 412 (8.8)98 (9.9)314 (8.5)
その他 6 (0.1)06 (0.2)
いずれか不明 1,066 (22.8)230 (23.2)836 (22.7)
JN.1系統対応1価ワクチン接種の有無不明a 1,371 (29.3)316 (31.9)1,055 (28.6)

a 新型コロナワクチン接種歴はあるが、JN.1系統対応1価ワクチンの接種の有無がわからないもの

 18歳以上において、JN.1系統対応1価ワクチンを接種なしと比較したJN.1系統対応1価ワクチンの有効性(接種後7日以上経過)は、54.6% (95%信頼区間: 29.9~70.6%)であった (表2、図4)。接種後の日数で分けた解析では、接種後7~60日の有効性は55.5% (95%信頼区間: 20.7~75.0%)、接種後61日以上では53.5% (95%信頼区間: 12.8~75.2%)であった。年齢群別の解析では、18~64歳ではJN.1系統対応1価ワクチンを接種なしと比較したJN.1系統対応1価ワクチンの有効性 (接種後7日以上経過)は、60.0%(95%信頼区間: 11.6~81.9%)、接種後7~60日では 52.4% (95%信頼区間: -12.4~79.9%)であった。なお、18~64歳における接種後61日以上の有効性は、データ数が少なかったため評価していない。65歳以上では、JN.1系統対応1価ワクチンを接種なしと比較したJN.1系統対応1価ワクチンの有効性(接種後7日以上経過)は52.5% (95%信頼区間: 15.9~73.2%)、接種後7~60日では56.2% (95%信頼区間: 1.1~80.6%)、接種後61日以上では34.8% (95%信頼区間: -32.0~67.8%)であった。また、18歳以上において、ファイザー社製のJN.1系統対応1価ワクチンに限定した解析では、JN.1系統対応1価ワクチンを接種なしと比較した有効性 (接種後7日以上経過)は、53.7% (95%信頼区間: 10.8~75.9%)、接種後7~60日では74.1% (95%信頼区間: 26.0~90.9%)、接種後61日以上では36.9% (95%信頼区間: -41.3~71.8%)であった。

表 2: 18歳以上におけるJN.1系統対応1価ワクチンを接種していない場合と比較したJN.1系統対応1価ワクチンの発症予防の有効性
新型コロナワクチン接種歴 新型コロナ
ウイルス検査
最終接種からの日数 JN.1対応ワクチンの有効性%
(95%信頼区間)
陽性 (n) 陰性 (n) 中央値
(四分位範囲)
最終接種が
わかる人数 (n)
18歳以上
JN.1ワクチン接種なしa 6432,457729 (450–943)1,367Reference
JN.1ワクチン接種あり
(接種後7日以上)
28 164 53 (31–86.5) 192 54.6 (29.9 to 70.6)
JN.1ワクチン接種あり
(接種後7~60日)
15 95 35 (19–48) 110 55.5 (20.7 to 75.0)
JN.1ワクチン接種あり
(接種後61日以上)
13 69 94 (77–122) 82 53.5 (12.8 to 75.2)
18~64歳
JN.1ワクチン接種なしa 4641,845778 (532–996)959Reference
JN.1ワクチン接種あり
(接種後7日以上)
8 48 36 (17–59) 56 60.0 (11.6 to 81.9)
JN.1ワクチン接種あり
(接種後7~60日)
7 36 30 (13–40) 43 52.4 (-12.4 to 79.9)
65歳以上
JN.1ワクチン接種なしa 179612502 (388-731)408Reference
JN.1ワクチン接種あり
(接種後7日以上)
20 116 62 (38-93.5) 136 52.5 (15.9 to 73.2)
JN.1ワクチン接種あり
(接種後7~60日)
8 59 38 (22-50) 67 56.2 (1.1 to 80.6)
JN.1ワクチン接種あり
(接種後61日以上)
12 57 93 (78-123) 69 34.8 (-32.0 to 67.8)
ファイザー社製JN.1ワクチンのみ
JN.1ワクチン接種なしa 6432,457729 (450-943)1,367Reference
ファイザー社製JN.1ワクチン接種あり
(接種後7日以上)
12 85 53 (33-99) 97 53.7 (10.8 to 75.9)
ファイザー社製JN.1ワクチン接種あり
(接種後7~60日)
4 49 35 (21-45) 53 74.1 (26.0 to 90.9)
ファイザー社製JN.1ワクチン接種あり
(接種後61日以上)
8 36 103.5 (84.5-123.5) 44 36.9 (-41.3 to 71.8)

a いずれのワクチン接種を受けたか不明だが、JN.1系統対応1価ワクチン接種はないものも含む。

図4.18歳以上におけるJN.1系統対応1価ワクチンを接種していない場合と
比較したJN.1系統対応1価ワクチンの発症予防の有効性

 18歳以上において、JN.1系統対応1価ワクチン接種 (接種後7日以上経過)の発症予防の有効性を、異なる新型コロナワクチン接種歴 ((1)新型コロナワクチン未接種、(2)従来型ワクチンのみ接種、(3)オミクロン対応2価ワクチン接種、(4)オミクロンXBB対応1価ワクチン接種)と比較した結果を表3、図5に示す。18歳以上において、(1)新型コロナワクチン未接種と比較した場合のJN.1系統対応1価ワクチン接種 (接種後7日以上経過)の有効性は51.5% (95%信頼区間: 19.6~70.8%)、 (2)従来型ワクチンのみ接種と比較した場合の有効性は46.8% (95%信頼区間: 12.9~67.5%)、(3)オミクロン対応2価ワクチンを接種と比較した場合の有効性は60.4% (95%信頼区間: 35.7~75.6%)、(4)オミクロンXBB対応1価ワクチン接種と比較した場合の有効性は54.3% (95%信頼区間: 25.7~71.9%)であった。さらに、ファイザー社製のJN.1系統対応1価ワクチンに限定した解析を行った結果、18歳以上において、(1)新型コロナワクチン未接種と比較した場合の有効性は55.2% (95%信頼区間: 10.3~77.6%)、 (2)従来型ワクチンのみ接種と比較した場合の有効性は50.6% (95%信頼区間: 2.4~75.0%)、(3)オミクロン対応2価ワクチンを接種と比較した場合の有効性は63.7% (95%信頼区間: 28.9~81.5%)、(4)オミクロンXBB対応1価ワクチン接種と比較した場合の有効性は57.9% (95%信頼区間: 17.5~78.5%)であった。

表 3:18歳以上における、JN.1系統対応1価ワクチンを接種していない各場合と比較したJN.1系統対応1価ワクチンの発症予防の有効性
新型コロナワクチン接種歴 新型コロナ
ウイルス検査
最終接種からの日数(日) JN.1対応ワクチンの有効性%
(95%信頼区間)
陽性 (n) 陰性 (n) 中央値
(四分位範囲)
最終接種が
わかる人数 (n)
18歳以上
新型コロナワクチン接種なし 92378NANAReference
JN.1ワクチン接種ありa 28 164 53 (31-86.5) 192 51.5 (19.6 to 70.8)
従来型ワクチンのみ接種 114 564 1,010 (924-1,113) 489 Reference
JN.1ワクチン接種ありa 28 164 53 (31-86.5) 192 46.8 (12.9 to 67.5)
オミクロン対応2価ワクチン接種あり 109 359 711 (582-759) 457 Reference
JN.1ワクチン接種ありa 28 164 53 (31-86.5) 192 60.4 (35.7 to 75.6)
オミクロンXBB対応ワクチン接種あり 98 314 379 (333-427) 403 Reference
JN.1ワクチン接種ありa 28 164 53 (31-86.5) 192 54.3 (25.7 to 71.9)
18歳以上、ファイザー社製JN.1ワクチンのみ
新型コロナワクチン接種なし 92378NANAReference
JN.1ワクチン接種ありa 12 85 53 (33-99) 97 55.2 (10.3 to 77.6)
従来型ワクチンのみ接種 114 564 1,010 (924-1,113) 489 Reference
JN.1ワクチン接種ありa 12 85 53 (33-99) 97 50.6 (2.4 to 75.0)
オミクロン対応2価ワクチン接種あり 109 359 711 (582-759) 457 Reference
JN.1ワクチン接種ありa 12 85 53 (33-99) 97 63.7 (28.9 to 81.5)
オミクロンXBB対応ワクチン接種あり 98 314 379 (333-427) 403 Reference
JN.1ワクチン接種ありa 12 85 53 (33-99) 97 57.9 (17.5 to 78.5)

a 接種後7日以上

図5.18歳以上のJN.1系統対応1価ワクチンの発症予防の有効性

 正確なワクチン接種日が不明であった患者については、接種日の推定法が接種後の経過日数、接種完了の有無の判断にも影響しうるため、今回は感度分析として複数の方法で接種日を推定した解析結果を比較したが、調整オッズ比に与える影響は限定的であった。

2) 入院予防の有効性に関する研究

 全国11都府県に所在する11か所の医療機関において、2024年10月1日から2025年3月31日の期間に、急性呼吸器感染症が疑われる症状 (発熱、咳、喀痰、胸膜痛、呼吸苦、頻呼吸、急性疾患による酸素投与)のうち2つ以上の症状があるか、新たに出現した肺炎像を認めて入院した60歳以上の患者1,033名が登録された。登録された患者のうち、14日以内に同一患者が再入院していた2名、インフルエンザ陽性の137名、発症日から15日以降に検査を受けた5名、新型コロナワクチン接種歴が不明な6名を除外し、合計883名を解析対象者とした (図6)。このうち、新型コロナウイルス検査陽性者は171名 (19.4%)であった。

図6.研究フローチャート

 解析対象者の基本情報および新型コロナワクチン接種歴を表4に示す。年齢中央値 (四分位範囲)は83歳 (76~89歳)、男性521名 (59.0%)、868名 (98.3%)に基礎疾患 (注3)があり、高齢者施設入所者は264名 (29.9%)であった。市中肺炎の重症度分類に用いられるCURB-65スコアに基づく重症度が一般的に入院治療が検討される中等症以上と判定されたものは、解析対象者のうち758名 (85.8%)、検査陽性者では151名 (88.3%)、検査陰性者では607名 (85.3%)であり、検査陽性群と陰性群でほぼ同等であった。入院時に呼吸不全を伴うものは562名 (63.6%)、入院時肺炎があったものは741名 (83.9%)であった。新型コロナワクチン接種歴に関して、67名 (7.6%)がJN.1系統対応1価ワクチンを接種しており (接種後7日以上経過)、350名 (39.6%)がJN.1系統対応1価ワクチンを接種していなかった。462名 (52.3%)は新型コロナワクチン接種歴はあるが、JN.1系統対応1価ワクチンを接種したかどうかは不明であった。JN.1系統対応1価ワクチン未接種の内訳としては、新型コロナワクチン未接種が70名 (7.9%)、従来型ワクチンのみ接種が38名 (4.3%)、オミクロン対応2価ワクチン接種が74名 (8.4%)、オミクロンXBB対応1価ワクチン接種が106名 (12.0%)、従来型、オミクロン対応2価ワクチン、オミクロンXBB対応1価ワクチンのいずれを接種したか不明が62名 (7.0%)であった。

表 4:入院予防の有効性に関する研究における解析対象者 (60歳以上)の基本情報と新型コロナワクチン接種歴
全体
(n=883)
検査陽性
(n=171)
検査陰性
(n=712)
年齢 n. (%)
60-69歳 87 (9.9)15 (8.8)72 (10.1)
70-79歳 237 (26.8)36 (21.1)201 (28.2)
80-89歳 348 (39.4)75 (43.9)273 (38.3)
90歳以上 211 (23.9)45 (26.3)166 (23.3)
性別 n. (%)
男性 521 (59.0)103 (60.2)418 (58.7)
女性 362 (41.0)68 (39.8)294 (41.3)
基礎疾患の有無 n. (%)
868 (98.3)167 (97.7)701 (98.5)
15 (1.7)4 (2.3)11 (1.5)
基礎疾患詳細 n. (%)
慢性心疾患 397 (45.0)82 (48.0)315 (44.2)
慢性呼吸器疾患 237 (26.8)30 (17.5)207 (29.1)
肥満 3 (0.3)1 (0.6)2 (0.3)
悪性腫瘍 201 (22.8)35 (20.5)166 (23.3)
糖尿病 219 (24.8)47 (27.5)172 (24.2)
慢性腎疾患 126 (14.3)28 (16.4)98 (13.8)
透析 30 (3.4)10 (5.8)20 (2.8)
肝硬変 9 (1.0)2 (1.2)7 (1.0)
免疫抑制剤の使用 28 (3.2)6 (3.5)22 (3.1)
高齢者施設の入所 n. (%)
264 (29.9)56 (32.7)208 (29.2)
614 (69.5)114 (66.7)500 (70.2)
不明 5 (0.6)1 (0.6)4 (0.6)
喫煙歴 n. (%)
喫煙歴なし 330 (37.4)68 (39.8)262 (36.8)
過去に喫煙歴あり 75 (8.5)9 (5.3)66 (9.3)
現在喫煙している 275 (31.1)47 (27.5)228 (32.0)
不明 203 (23.0)47 (27.5)156 (21.9)
新型コロナウイルス検査方法 n. (%)
核酸増幅法検査 35 (4.0)10 (5.8)25 (3.5)
抗原定量検査 561 (63.5)101 (59.1)460 (64.6)
抗原定性検査 283 (32.0)59 (34.5)224 (31.5)
入院時のCURB65スコア n. (%)
0-1点 (軽症) 112 (12.7)18 (10.5)94 (13.2)
2点以上 (中等症・重症) 758 (85.8)151 (88.3)607 (85.3)
不明 13 (1.5)2 (1.2)11 (1.5)
入院時呼吸不全あり n. (%) 562 (63.6)103 (60.2)459 (64.5)
肺炎像ありn. (%) 741 (83.9)123 (71.9)618 (86.8)
入院日 n. (%)
2024年10月 136 (15.4)22 (12.9)114 (16.0)
2024年11月 120 (13.6)20 (11.7)100 (14.0)
2024年12月 196 (22.2)36 (21.1)160 (22.5)
2025年1月 181 (20.5)35 (20.5)146 (20.5)
2025年2月 144 (16.3)37 (21.6)107 (15.0)
2025年3月 106 (12.0)21 (12.3)85 (11.9)
新型コロナワクチン接種歴 n. (%)
JN.1系統対応1価ワクチン接種あり
(接種後7日未満)
4 (0.5)04 (0.6)
JN.1系統対応1価ワクチン接種あり
(接種から7日以上)
67 (7.6)10 (5.8)57 (8.0)
JN.1系統対応1価ワクチン接種なし 350 (39.6)81 (47.4)269 (37.8)
新型コロナワクチン未接種 70 (7.9)21 (12.3)49 (6.9)
従来型ワクチンのみ接種 38 (4.3)9 (5.3)29 (4.1)
オミクロン対応2価ワクチン接種 74 (8.4)15 (8.8)59 (8.3)
オミクロンXBB対応1価ワクチン接種 106 (12.0)22 (12.9)84 (11.8)
いずれか不明 62 (7.0)14 (8.2)48 (6.7)
JN.1系統対応1価ワクチン接種の有無不明a 462 (52.3)80 (46.8)382 (53.7)

a 新型コロナワクチン接種歴はあるが、JN.1系統対応1価ワクチンの接種の有無がわからないもの

 60歳以上において、JN.1系統対応1価ワクチンを接種していない場合と比較した、JN.1系統対応1価ワクチン接種(接種後7日以上経過)の入院予防の有効性を評価した (表5、図7)。JN.1系統対応1価ワクチン接種なしと比較したJN.1系統対応1価ワクチン接種(接種後7日以上経過)の入院予防の有効性は63.2% (95%信頼区間: 14.5~84.1%)であり、入院時呼吸不全を伴う患者に限定した解析では68.3% (95%信頼区間:1.1~89.8%)、入院時のCURB-65スコアに基づいて重症度が中等症以上と評価された患者に限定した解析では53.9% (95%信頼区間: -9.7~80.6%)、入院時肺炎がある患者に限定した解析では67.4% (95%信頼区間: 7.4~88.5%)であった。60歳以上において、(1)新型コロナワクチン未接種と比較した場合のJN.1系統対応1価ワクチン接種 (接種後7日以上経過)の有効性は72.9% (95%信頼区間: 22.8~90.5%)、 (2)従来型ワクチンのみ接種と比較した場合の有効性は57.5% (95%信頼区間: -48.5~87.9%)、(3)オミクロン対応2価ワクチンを接種と比較した場合の有効性は63.6% (95%信頼区間: -6.3~87.5%)、(4)オミクロンXBB対応1価ワクチン接種と比較した場合の有効性は61.7% (95%信頼区間: -4.1~85.9%)であった。

表 5:60歳以上におけるJN.1系統対応1価ワクチンを接種していない場合と比較したJN.1系統対応1価ワクチンの入院予防の有効性
新型コロナワクチン接種歴 新型コロナ
ウイルス検査
最終接種からの日数(日) JN.1系統対応1価ワクチンの有効性%
(95%信頼区間)
陽性 (n) 陰性 (n) 中央値
(IQR)
最終接種が
わかる人数 (n)
Total
JN.1ワクチン接種なしa 81269487 (380-753)219Reference
JN.1ワクチン接種ありb 10 57 60 (24-91) 67 63.2 (14.5 to 84.1)
新型コロナワクチン接種なし 21 49 NA NA Reference
JN.1ワクチン接種ありb 10 57 60 (24-91) 67 72.9 (22.8 to 90.5)
従来型ワクチンのみ接種 9 29 1,022.5 (896-1,113) 38 Reference
JN.1ワクチン接種ありb 10 57 60 (24-91) 67 57.5 (-48.5 to 87.9)
オミクロン対応2価ワクチン接種あり 15 59 679 (558-739) 74 Reference
JN.1ワクチン接種ありb 10 57 60 (24-91) 67 63.6 (-6.3 to 87.5)
オミクロンXBB対応ワクチン接種あり 22 84 380 (338-430) 106 Reference
JN.1ワクチン接種ありb 10 57 60 (24-91) 67 61.7 (-4.1 to 85.9)
呼吸不全のある患者に限定した解析
JN.1ワクチン接種なしa 44 167 469 (367-732) 127 Reference
JN.1ワクチン接種ありb 7 41 60 (24-95.5) 48 68.3 (1.1 to 89.8)
中等症以上の重症度の患者に限定した解析
JN.1ワクチン接種なしa 69 232 481.5 (377-730.5) 188 Reference
JN.1ワクチン接種ありb 10 49 60 (20-92) 59 53.9 (-9.7 to 80.6)
肺炎がある患者に限定した解析
JN.1ワクチン接種なしa 58 235 487.5 (381-737) 186 Reference
JN.1ワクチン接種ありb 6 50 60 (22.5-90) 56 67.4 (7.4 to 88.5)

a いずれのワクチン接種を受けたが不明だが、JN.1系統対応1価ワクチン接種はないものも含む
b 接種から7日以上経過

図7.60歳以上でのJN.1系統対応1価ワクチンの入院予防の有効性

 正確なワクチン接種日が不明であった患者については、接種日の推定法が接種後の経過日数、接種完了の有無の判断にも影響しうるため、今回は感度分析として複数の方法で接種日を推定した解析結果を比較したが、調整オッズ比に与える影響は限定的であった。

考察

 本報告では、国内においてJN.1系統対応1価ワクチン接種が開始された2024年10月1日から2025年3月31日の期間における、JN.1系統対応1価ワクチンの発症予防および入院予防の有効性を評価した。本期間は、国内ではJN.1系統およびKP.3系統が流行し、その後XEC系統が主流となった時期であった(7)。18歳以上を対象とした発症予防の有効性に関する解析では、JN.1系統対応1価ワクチン接種なしと比較して、接種後7日以上経過した有効性は54.6% (95%信頼区間: 29.9~70.6%)であり、接種後の日数で分けた解析では、接種後7~60日の有効性は55.5% (95%信頼区間: 20.7~75.0%)、61日以上では53.5% (95%信頼区間: 12.8~75.2%)であった。60歳以上を対象とした入院予防の有効性に関する解析では、JN.1系統対応1価ワクチン接種なしと比較して、接種後7日以上経過した有効性は63.2% (95%信頼区間: 14.5~84.1%)であり、入院時呼吸不全を伴う患者に限定した解析、入院時のCURB-65に基づいた重症度が中等症以上の患者に限定した解析、入院時肺炎がある患者に限定した解析など、より重症な集団に限定した解析においても、ほぼ同等の有効性が確認された。特に発症予防の有効性においては、JN.1系統対応1価ワクチンを接種していない群の中で、新型コロナワクチン未接種や、最後に接種した新型コロナワクチンの種類(従来型、オミクロン対応2価ワクチン、オミクロンXBB対応1価ワクチン)ごとに比較した解析において、いずれの群と比較しても、JN.1系統対応1価ワクチン接種による追加的な有効性が示された。本解析は、サンプルサイズが小さく信頼区間が広いという制限があるものの、JN.1系統対応1価ワクチンを追加接種によって、発症および入院予防に対して追加的な有効性が得られる可能性が示された。
 2024–2025年シーズンの新型コロナワクチン政策について、使用された新型コロナワクチンの種類や接種対象者は、国によって異なる (表6)。米国ではKP.2対応1価ワクチン(ファイザー社製、モデルナ社製)およびJN.1系統対応1価ワクチン(ノババックス社製)が使用され、6か月以上のすべての人が接種対象となり、特に65歳以上には追加接種が推奨された(8-10)。英国では、2024年秋、2025年春に接種が行われ、それぞれ主に65歳以上および75歳以上が対象となり、JN.1対応ワクチン(ファイザー社製、モデルナ社製)が使用された。使用されているワクチンの種類や、流行している変異株が国によって異なるため、本報告の結果と直接比較することは難しいが、米国からの報告では、18歳以上において、救急外来受診に対する2024–2025年シーズンの新型コロナワクチンの有効性は、接種後7~119日で33%(95%信頼区間:28~38%)、65歳以上における入院予防の有効性は、接種後7~119日で45~46%(95%信頼区間:26~60%)と推定された(11)。別の米国の研究では、ファイザー社製KP.2新型コロナワクチンの有効性が評価されており、外来受診に対する有効性は56%(95%信頼区間:36~69%)、救急外来受診に対する有効性は57%(95%信頼区間:46~65%)、入院に対する有効性は68%(95%信頼区間:42~82%)と報告されている (12)。また、査読前の研究ではあるが、モデルナ社製KP.2新型コロナワクチンの入院予防の有効性は52.8%(95%信頼区間:34.8%~65.8%)、医療機関の受診に対する有効性は39.4%(95%信頼区間:35.0%~43.5%)と推定されている (13)。


表 6:米国、英国における2024年秋以降の新型コロナワクチン接種の推奨
米国 英国
接種シーズン 2024-2025 2024 秋 2025 春

対象者

✓ 6か月以上

✓ 65歳以上および6か月~64歳の中等度から重度に免疫機能が低下している人は追加接種を推奨

✓ 65歳以上

✓ 高齢者施設入所者

✓ 6か月以上の免疫抑制状態にある人

✓ 75歳以上

✓ 高齢者施設入所者

✓ 6か月以上の免疫抑制状態にある人

使用ワクチン

KP.2対応

✓ ファイザー社製

✓ モデルナ社製

JN.1 対応

✓ ノババックス社製

JN.1対応

✓ ファイザー社製

✓ モデルナ社製

JN.1対応

✓ ファイザー社製

✓ モデルナ社製

死亡

(8)

(14, 15)

(14, 15)

制限

 本報告にはいくつかの制限がある。1つ目は、研究対象患者が限られており、現時点ではサンプルサイズが極めて限定的である。95%信頼区間が広いため、点推定値のみでの結果の解釈は困難であり、注意が必要である。2つ目は、現在日本では医療機関において受診者のワクチン接種歴を正確な記録として確認できるシステムは整備されていないため、接種歴は主に患者 (または患者家族)に対する問診で得られた記録を基にしており、思い出しバイアスの影響を否定できない。正確なワクチン接種日が不明な患者については、「接種日」の推計方法を複数定めた感度分析を行ったが、調整オッズ比の変動は小さく、一定の妥当性は担保されていると考える。3つ目は、新型コロナウイルス検査結果について、偽陽性/偽陰性の可能性がある。特に本報告では実臨床に即して核酸増幅法検査より感度が低いとされる抗原定性検査も研究対象に含めているため、偽陰性が一定数含まれワクチンの有効性を過小評価している可能性がある (8)。4つ目は、新型コロナワクチン接種歴がわかっている患者のみが研究に含まれており、結果に影響している可能性がある。 本報告は2025年5月30日時点での暫定結果であり速報値であるが、公衆衛生学的に意義があると判断して公開した。今後も研究を継続し経時的な評価を行うなかで、公衆衛生学的な意義を鑑みつつ結果について共有する予定である。

注釈
  • 発熱 (37.5℃以上)、咳、倦怠感、呼吸困難、筋肉痛、咽頭痛、鼻汁・鼻閉、頭痛、下痢、味覚障害、嗅覚障害

  • 同一患者の扱いは以下の定義を使用した。
    ・陽性結果が出る前または陽性結果が出た後3週間以内に採取した陰性検査は、偽陰性の可能性があるため除外する。
    ・同じ発症日に対して行われた陰性の検査は除外する。
    ・前回の陰性判定から7日以内に実施された陰性の検査は除外する。
    ・各人については、無作為に選んだ3回までの検査を含める。
    ・90日以内に複数回陽性になった場合は初めての陽性のみを組み込む。

  • 慢性心疾患、慢性呼吸器疾患、肥満 (BMI≧30)、悪性腫瘍 (固形癌または血液腫瘍)、糖尿病、慢性腎不全、透析、肝硬変、免疫抑制薬の使用、妊娠

  • CURB-65スコア(10)
     意識レベルの異常、尿素窒素値>20mg/dl、呼吸回数≧30回/分、収縮期血圧<90mmHg、年齢65歳以上をそれぞれ1点とし、合計点が0~1点は軽症、2点は中等症、3点以上を重症と定義する。国内の臨床現場では、呼吸状態を評価する際に、呼吸回数ではなく、酸素飽和度 (SpO2)や酸素投与の必要性を使用することが多いため、本研究では呼吸回数≧30回/分に代えて、SpO2<90%または酸素投与が必要な場合のいずれかを満たせば1点とした。

  • 以下のいずれかを満たす場合を本研究では呼吸不全ありと定義した。
    ①呼吸回数≧30回/分
    ②SpO2<90%
    ③酸素投与が必要

研究チーム
長崎大学熱帯医学研究所 呼吸器ワクチン疫学分野

前田 遥、森本 浩之輔

長崎大学熱帯医学研究所 ケニア拠点

齊藤 信夫

東京大学大学院 薬学系研究科 医療政策・公衆衛生学

五十嵐 中、藤澤 あずさ

長崎大学病院 総合感染症科 国際感染症予防診療センター

増田 真吾

飯塚病院

的野 多加志

沖縄県立中部病院

喜舎場 朝雄

亀田総合病院

大澤 良介、細川 直登、中島 啓

川崎市立多摩病院

本橋 伊織

北福島医療センター/福島県立医科大学

山藤 栄一郎

五本木クリニック

桑満 おさむ

市立奈良病院

森川 暢

仁さくらクリニック

大原 靖二

近森病院

石田 正之

東京都立多摩総合医療センター

織田 錬太郎

虹が丘病院

寺田 真由美

早川内科医院

早川 友一郎

福岡青洲会病院

杉本 幸弘

みずほ通りクリニック

勅使川原 修

武蔵野徳洲会病院

淺見 貞晴、工藤 智史、秋月 登

洛和会音羽病院

井村 春樹

ロコクリニック中目黒

嘉村 洋志

研究協力
国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所 感染症疫学センター

鈴木 基

研究資金

本研究は、厚生労働省科学研究費補助金「ワクチンの有効性と安全性を評価する体制の構築に関する実証的研究」、東京大学大学院薬学系研究科医療政策・公衆衛生学講座自己資金による支援を受けた。

利益相反の開示

長崎大学熱帯医学研究所呼吸器ワクチン疫学分野は、ファイザー社より本研究に関連のない研究助成金を受けている。

長崎大学熱帯医学研究所呼吸器ワクチン疫学分野は、ファイザー社と本研究とは関連のない共同研究を行なっている。

東京大学大学院薬学系研究科医薬政策学は、武田薬品工業株式会社より本研究に関係のない研究助成金を受けている。

前田遥はMeiji Seikaファルマ社と本研究とは関係のない共同研究を行っている。

前田遥、五十嵐中はモデルナ社より講演料およびコンサルタント料を受けている。

森本浩之輔はモデルナ社よりコンサルタント料を受けている。

森本浩之輔は、ファイザー社、武田薬品工業株式会社より講演料を受けている。

参考資料
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問い合わせ先

長崎大学熱帯医学研究所 呼吸器ワクチン疫学分野:前田 遥
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