新型コロナワクチンの有効性に関する研究
〜国内多施設共同症例対照研究〜

Vaccine Effectiveness Real-Time Surveillance for SARS-CoV-2 (VERSUS) Study、第11報
長崎大学熱帯医学研究所
掲載日:2024年5月24日
要約

 長崎大学熱帯医学研究所を中心とする研究チームは、全国の医療機関 (病院および診療所)と協力し、新型コロナワクチンの有効性を評価する研究を2021年7月1日から行っている。第11報では、オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)の国内接種開始後の2023年10月1日から2024年3月31日の調査結果から、同期間の国内でのオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)の発症予防および入院予防の有効性をまとめた。
 発症予防の有効性の評価では、16歳以上の6,311名 (うち検査陽性者1,330名)が解析対象となった。年齢中央値は43歳、22.4%が65歳以上、46.8%が男性、26.9%に基礎疾患があった。16歳~64歳において、オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種なしと比較したオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了 (接種から7日以上)から90日以内の有効性は29.6% (95%信頼区間: 0.5~50.2%)、90日以上の有効性は-26.9% (95%信頼区間: -109.5~23.1%)、新型コロナワクチン未接種と比較した有効性は接種完了後90日以内で35.9% (95%信頼区間: 3.0~57.6%)、90日以上で-18.0% (95%信頼区間: -105.0~32.1%)、従来型新型コロナワクチンのみ接種と比較した有効性は接種完了後90日以内で27.9% (95%信頼区間: -4.5~50.3%)、90日以上で-32.6% (95%信頼区間: -123.3~21.2%)、オミクロン対応2価ワクチン接種と比較した有効性は接種完了後90日以内で26.8% (95%信頼区間: -7.3~50.0%)、90日以上で-34.8% (95%信頼区間: -128.4~20.5%)であった。65歳以上において、オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種なしと比較したオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了 (接種から7日以上経過)の有効性は8.5% (95%信頼区間: -29.0~35.1%)、新型コロナワクチン未接種と比較した場合の有効性は-11.1% (95%信頼区間: -93.1~36.0%)、従来型新型コロナワクチンのみ接種と比較した場合の有効性は17.2% (95%信頼区間: -38.1~50.4%)、オミクロン対応2価ワクチン接種と比較した場合の有効性は0.5% (95%信頼区間: -52.5~35.1%)であった。
 入院予防の有効性の評価では、60歳以上の1,110名 (うち検査陽性者221名)が解析対象となった。年齢中央値は83歳、59.6%が男性、77.0%に基礎疾患があり、29.2%が高齢者施設入所者であった。60歳以上において、オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種なしと比較したオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了 (接種から7日以上経過)の有効性は44.7% (95%信頼区間: 8.0~66.7%)、新型コロナワクチン未接種と比較した場合の有効性は57.9% (95%信頼区間: 20.6~77.7%)、従来型新型コロナワクチンのみ接種と比較した場合の有効性は33.3% (95%信頼区間: -33.6~66.7%)、オミクロン対応2価ワクチン接種と比較した場合の有効性は32.6% (95%信頼区間: -28.5~64.7%)であった。入院時呼吸不全のある患者、中等症以上の重症度の患者、肺炎がある患者に限定した分析も行ったが、ほぼ同等の値であった。
 本報告はオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)の発症予防および入院予防の有効性を評価したものである。オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)を接種することで発症予防については限定的ではあるが、入院予防に関しては追加の予防効果が得られる可能性があることがわかった。一方、接種からの時間経過により有効性が低下する可能性が示唆された。本報告は暫定値であるが公衆衛生学的意義を鑑みつつ報告した。本報告は長期サーベイランス研究の一部であり、2023年10月1日から2024年3月31日の対象期間内でも未集計の情報も多数あるため、今後結果が変わる可能性があり、随時アップデートした結果を報告する予定である。

背景

 2021年7月1日から長崎大学熱帯医学研究所を中心とした研究チームは、全国の医療機関 (病院および診療所)と協力し、これまでにインフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの有効性を評価する研究で使用されている検査陰性デザイン (test-negative design:TND)を用いた症例対照研究を使って (1, 2)、新型コロナワクチンの有効性を経時的に評価するサーベイランス研究 (Vaccine Effectiveness Real-time Surveillance for SARS-CoV-2 (VERSUS) study)を開始した (3)。これまでに、国内で導入されている新型コロナワクチンに関して発症予防・入院予防・重症化予防の有効性を評価し、公表してきた。国内では2023年当初からXBB系統の流行が拡大したが、オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)はXBB系統に対して高い中和抗体の誘導が認められており (4, 5)、2023年9月20日から生後6か月以上のすべての人を対象として、オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)の接種が開始された。第10報では、2023年10月1日~2024年1月31日の調査結果からオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)の発症予防および入院予防の有効性を評価したが、第11報では2023年10月1日~2024年3月31日の調査結果から、よりサンプル数を増やしたオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)の発症予防および入院予防の有効性を評価した。加えて入院予防の有効性については、入院時呼吸不全を呈した患者に限定した解析、入院時のCURB-65で評価した重症度が中等症以上の患者に限定した解析、入院時肺炎を呈した患者に限定した解析も行った。なお上調査期間において国内では、2023年10月1日からオミクロン株EG.5.1が流行し、2024年1月頃からオミクロン株JN.1が流行した期間であった。

方法

1) 発症予防の有効性に関する研究

 2023年10月1日から2024年3月31日までに全国9都県 (福島県、東京都、神奈川県、千葉県、愛知県、奈良県、高知県、福岡県、長崎県)、計14か所の病院または診療所を新型コロナウイルス感染症が疑われる症状1)で受診し、新型コロナウイルス検査を受けた16歳以上の患者を対象に、患者基本情報、症状、新型コロナワクチン接種歴 (接種の有無、接種回数、接種日、接種したワクチンの種類)、新型コロナウイルス検査結果の情報を収集した。新型コロナウイルスの検査は、核酸増幅法検査、抗原定量検査、抗原定性検査を対象とした。新型コロナウイルス検査陽性者を症例群、陰性者を対照群とした検査陰性デザイン (test-negative design)を用いた症例対照研究を行った (図1)。発症から15日以降に検査を受けた患者および同一患者は定義2)に基づいて除外した。16歳~64歳、65歳以上でわけた解析を行った。

 本報告では、オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)の評価を行うことを目的としていたため、ワクチンの有効性として、①オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)を接種していない場合と比較したオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)の有効性 (接種から7日以上経過)を求めた。加えて、② (1)新型コロナワクチン未接種、 (2)従来型ワクチンのみ接種、 (3)オミクロン対応2価ワクチンを接種した場合と比較したオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)の有効性 (接種から7日以上経過)を求めた。なお、接種から7日以上経過したものを「接種完了」と定義した。接種したワクチンが不明の場合は、接種日や接種回数から推定できる場合は推定し解析に含めた。ワクチンの詳細は不明だがオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)を接種していない場合は、①の解析ではオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)を接種していない場合に含め、②の解析ではワクチンの種類不明に含めた。また、ファイザー社製、モデルナ社製以外の新型コロナワクチン接種を受けた研究対象者が極めて少数であったため、解析から除外した。ワクチン接種歴が不明な場合、ワクチン接種回数が不明の場合は解析から除外した。
 検査結果 (陽性・陰性)に接種歴を含む種々の要因が与える影響を、混合効果ロジスティック回帰モデルを構築して調整オッズ比と95%信頼区間を算出して評価した。新型コロナワクチンの有効性は、 (1-調整オッズ比)×100%で算出した。回帰モデルには、検査結果 (陽性・陰性)を被説明変数、新型コロナワクチン接種歴、年齢、性別、基礎疾患3)の有無、検査実施カレンダー週、医療従事者であるか、新型コロナウイルス感染症の既往歴の有無、を固定効果 (fixed effect)、検査実施医療機関を変量効果 (random effect)の説明変数として組み込んだ。正確な新型コロナワクチン接種日が不明であった研究対象者については、接種日の推定法が接種後の経過日数、さらには接種完了の有無の判断にも影響しうる。感度分析として、複数の方法で接種日を推定した解析を行った。
 本研究は長崎大学熱帯医学研究所および研究参加医療機関における倫理委員会で審査を受け、承認された後、実施した (長崎大学熱帯医学研究所倫理委員会における承認番号:210225257)。 (倫理委員会がない医療機関では、長崎大学熱帯医学研究所倫理委員会で一括して審査を行った。)


2) 入院予防の有効性に関する研究

 2023年10月1日から2024年3月31日の期間に全国9都府県 (福島県、東京都、千葉県、愛知県、京都府、奈良県、高知県、福岡県、沖縄県)、計12か所の病院で、急性呼吸器感染症を疑う症状 (発熱、咳、喀痰、胸膜痛、呼吸苦、頻呼吸、急性疾患による酸素投与)のうち2つ以上の症状があるか、新たに出現した肺炎像を認め入院した16歳以上の患者を対象に、患者基本情報、症状、新型コロナワクチン接種歴 (接種の有無、接種回数、接種日、接種したワクチンの種類)、新型コロナウイルス検査結果、入院時のバイタルサインなどの情報を収集した。新型コロナウイルスの検査は、核酸増幅法検査、抗原定量検査、抗原定性検査を対象とした。新型コロナウイルス検査陽性者を症例群、陰性者を対照群とした検査陰性デザイン (test-negative design)を用いた症例対照研究を行った (図2)。検査陽性者と陰性者において、入院時の重症度が異なる可能性も考え、市中肺炎の重症度分類に用いられるCURB-654) (6)を使用して入院時の重症度も評価した。

 発症予防の有効性に関する研究と同様に、本報告では、オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)の評価を行うことを目的としていたため、ワクチンの有効性として、①オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)を接種していない場合と比較したオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)の有効性を求めた。加えて、② (1)新型コロナワクチン未接種、 (2)従来型ワクチンのみ接種、 (3)オミクロン対応2価ワクチンを接種した場合と比較したオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)の有効性を求めた。なお、接種から7日以上経過したものを「接種完了」と定義した。接種したワクチンが不明の場合は、接種日や接種回数から推定できる場合は推定し解析に含めた。ワクチンの詳細は不明だがオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)を接種していない場合は、①の解析ではオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)を接種していない場合に含め、②の解析ではワクチンの種類不明に含めた。ワクチン接種歴が不明な場合は解析から削除した。また、ファイザー社製、モデルナ社製以外の新型コロナワクチン接種を受けた研究対象者が極めて少ないため、解析から除外した。ワクチン接種歴が不明な場合、ワクチン接種回数が不明の場合は解析から除外した。 新型コロナウイルス検査結果 (陽性・陰性)に新型コロナワクチン接種歴を含む種々の要因が与える影響を、混合効果ロジスティック回帰モデルを構築して調整オッズ比と95%信頼区間を算出して評価した。新型コロナワクチンの有効性は、 (1-調整オッズ比)×100%で算出した。回帰モデルには、検査結果 (陽性・陰性)を被説明変数、新型コロナワクチン接種歴、年齢、性別、基礎疾患3)の有無、入院日カレンダー週、新型コロナウイルス感染症の既往歴の有無、を固定効果 (fixed effect)、入院医療機関を変量効果 (random effect)の説明変数として組み込んだ。今回は60歳以上に限定した解析を行った。また、入院時呼吸不全を呈した患者5)に限定した解析、入院時のCURB-65で重症度が中等症以上の患者に限定した解析、入院時肺炎を呈した患者に限定した解析も行った。
 本研究は長崎大学熱帯医学研究所および研究参加医療機関における倫理委員会で審査を受け、承認された後、実施した (長崎大学熱帯医学研究所倫理委員会における承認番号:210225257)。 (倫理委員会がない医療機関では、長崎大学熱帯医学研究所倫理委員会で一括して審査を行った。)

結果

1) 発症予防の有効性に関する研究

 全国9都県計14か所の医療機関において、2023年10月1日から2024年3月31日までに新型コロナウイルス感染症が疑われる症状1)があり、新型コロナウイルス検査を受けた16歳以上の患者7,486名が登録された。このうち、発症日から15日以降に検査を受けた93名、同一患者2)の85名、ファイザー社製・モデルナ社製以外の新型コロナワクチンを接種した9名、ワクチン接種歴が不明の988名を解析から除外し、合計6,311名を解析に含めた (図3)。このうち、新型コロナウイルス検査陽性者は1,330名 (21.1%)であった。

 解析対象者の基本情報を表1に示す。年齢中央値 (四分位範囲)は43歳 (29-62歳)、男性2,952名 (46.8%)、1,698名 (26.9%)に基礎疾患3)があり、医療従事者は960名 (15.2%)であった。

表 1:発症予防の有効性に関する研究における解析対象者 (16歳以上)の基本情報
全体
(n=6,311)
検査陽性
(n=1,330)
検査陰性
(n=4,981)
年齢 n. (%)
16-29歳 1,709 (27.1)273 (20.5)1,436 (28.8)
30-39歳 1,133 (18.0)211 (15.9)922 (18.5)
40-49歳 937 (14.8)213 (16.0)724 (14.5)
50-59歳 773 (12.2)214 (16.1)559 (11.2)
60-69歳 618 (9.8)157 (11.8)461 (9.3)
70-79歳 600 (9.5)143 (10.8)457 (9.2)
80-89歳 390 (6.2)91 (6.8)299 (6.0)
90歳以上 151 (2.4)28 (2.1)123 (2.5)
性別 n. (%)
男性 2,952 (46.8)622 (46.8)2,330 (46.8)
女性 3,359 (53.2)708 (53.2)2,651 (53.2)
高齢者施設の入所 n. (%) 81 (1.3)11 (0.8)70 (1.4)
基礎疾患の有無 n. (%)
1,698 (26.9)377 (28.3)1,321 (26.5)
4,399 (69.7)904 (68.0)3,495 (70.2)
不明 214 (3.4)49 (3.7)165 (3.3)
基礎疾患詳細 n. (%)
慢性心疾患 477 (7.6)105 (7.9)372 (7.5)
慢性呼吸器疾患 587 (9.3)110 (8.3)477 (9.6)
肥満 107 (1.7)15 (1.1)92 (1.8)
悪性腫瘍 342 (5.4)69 (5.2)273 (5.5)
糖尿病 488 (7.7)112 8.4)376 (7.5)
慢性腎疾患 224 (3.5)59 (4.4)165 (3.3)
透析 31 (0.5)6 (0.5)25 (0.5)
肝硬変 33 (0.5)8 (0.6)25 (0.5)
免疫抑制剤の使用 112 (1.8)29 (2.2)83 (1.7)
妊娠 45 (0.7)8 (0.6)37 (0.7)
新型コロナウイルス感染症の既往 n. (%) 1,699 (26.9)174 (13.1)1,525 (30.6)
喫煙歴あり n. (%) 1,505 (23.8)282 (21.2)1,223 (24.6)
医療従事者 n. (%) 960 (15.2)211 (15.9)749 (15.0)
新型コロナウイルス感染症患者との接触 n. (%)
あり 652 (10.3)369 (27.7)283 (5.7)
なし 5,040 (79.9)792 (59.5)4,248 (85.3)
不明 619 (9.8)169 (12.7)450 (9.0)
新型コロナウイルス検査方法 n. (%)
核酸増幅法検査 158 (2.5)42 (3.2)116 (2.3)
抗原定量検査 2,736 (43.4)550 (41.4)2,186 (43.9)
抗原定性検査 3,417 (54.1)738 (55.5)2,679 (53.8)
検査日 n. (%)
2023年10月 1,043 (16.5)155 (11.7)888 (17.8)
2023年11月 1,031 (16.3)99 (7.4)932 (18.7)
2023年12月 1,174 (18.6)181 (13.6)993 (19.9)
2024年1月 1,332 (21.1)399 (30.0)933 (18.7)
2024年2月 958 (15.2)293 (22.0)665 (13.4)
2024年3月 773 (12.2)203 (15.3)570 (11.4)

 解析対象者の新型コロナワクチン接種歴を表2 (16~64歳)、表3 (65歳以上)に示す。16歳~64歳では、解析対象者のうち9.1% (446名)がオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種あり (接種から7日以上経過)、56.1% (2,750名)がオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)未接種、34.2% (1,674名)がワクチン接種歴はあるがオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)の接種の有無不明であった。オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)未接種の詳細としては、ワクチン未接種が16歳~64歳の研究対象者全体の11.1% (545名)、従来型のみ接種が29.5% (1,444名)、オミクロン対応2価ワクチン接種が13.8% (677名)、従来型かオミクロン対応2価ワクチン接種のいずれか不明が1.7% (84名)であった。新型コロナワクチン接種歴はあるが、オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)未接種者において、接種からの日数は中央値 (四分位範囲) 471日 (339-649日)であった (n=1,775)。オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了 (接種から7日以上)において、接種からの日数は中央値 (四分位範囲) 64.5日 (34-93日)であった (n=400)。
 65歳以上では、解析対象者のうち31.4% (444名)がオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種あり (接種から7日以上経過)、38.6% (545名)がオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)未接種、28.5% (403名)がワクチン接種歴はあるがオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)の接種の有無不明であった。オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)未接種の詳細としては、ワクチン未接種が研究対象者全体の7.6% (107名)、従来型のみ接種が9.3% (131名)、オミクロン対応2価ワクチン接種が19.8% (280名)、従来型かオミクロン対応2価ワクチン接種のいずれか不明が1.9% (27名)であった。新型コロナワクチン接種歴はあるが、オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)未接種者において、接種からの日数は中央値 (四分位範囲) 265.5日 (144-453日)であった (n=440)。オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了 (接種から7日以上)において、接種からの日数は中央値 (四分位範囲) 58日 (30-94日)であった (n=312)。

表 2: 発症予防の有効性に関する研究における解析対象者 (16歳~64歳)の新型コロナワクチン接種歴
新型コロナワクチン接種歴 全体
(n=4,898)
検査陽性
(n=990)
検査陰性
(n=3,908)
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種あり
(接種から7日未満)
28 (0.6)4 (0.4)24 (0.6)
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了
(接種から7日以上)
446 (9.1)97 (9.7)349 (8.9)
接種完了から90日以内 320 (6.5)59 (6.0)261 (6.7)
接種完了から90日以上 92 (1.9)34 (3.4)58 (1.5)
接種からの期間不明 34 (0.7)4 (0.4)30 (0.8)
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種なし 2,750 (56.1)511 (51.6)2,239 (57.3)
ワクチン未接種 545 (11.1)112 (11.3)433 (11.1)
従来型のみ接種 1,444 (29.5)259 (26.2)1,185 (30.3)
オミクロン対応2価ワクチン接種 677 (13.8)124 (12.5)553 (14.2)
従来型かオミクロン対応2価ワクチンかは不明 84 (1.7)16 (1.6)68 (1.7)
不明* 1,674 (34.2)372 (37.6)1,302 (33.3)

* 新型コロナワクチン接種歴はあるが、オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)の接種の有無がわからないもの

表 3: 発症予防の有効性に関する研究における解析対象者 (65歳以上)の新型コロナワクチン接種歴
新型コロナワクチン接種歴 全体
(n=1,413)
検査陽性
(n=340)
検査陰性
(n=1,073)
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種あり
(接種から7日未満)
21 (1.5)2 (0.6)19 (1.8)
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了
(接種から7日以上)
444 (31.4)118 (34.7)326 (30.4)
接種完了から90日以内 274 (19.4)67 (19.7)207 (19.3)
接種完了から90日以上 74 (5.2)21 (6.2)53 (4.9)
接種からの期間不明 96 (6.8)30 (8.8)66 (6.2)
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種なし 545 (38.6)124 (36.5)421 (39.2)
ワクチン未接種 107 (7.6)25 (7.4)82 (7.6)
従来型のみ接種 131 (9.3)33 (9.7)98 (9.1)
オミクロン対応2価ワクチン接種 280 (19.8)56 (16.5)224 (20.9)
従来型かオミクロン対応2価ワクチンかは不明 27 (1.9)10 (2.9)17 (1.6)
不明* 403 (28.5)96 (28.2)307 (28.6)

* 新型コロナワクチン接種歴はあるが、オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)の接種の有無がわからないもの

 16歳~64歳、65歳以上における①オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)を接種していない場合に対するオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了 (接種から7日以上経過)の新型コロナウイルス検査陽性の調整オッズ比、および② (1)新型コロナワクチン未接種、 (2)従来型ワクチンのみ接種、 (3)オミクロン対応2価ワクチンを接種した場合に対するオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了 (接種から7日以上経過)の新型コロナウイルス検査陽性の調整オッズ比を表4に示す。16歳~64歳において、①オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)を接種していない場合に対するオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了の新型コロナウイルス検査陽性の調整オッズ比は接種完了後90日以内で0.704 (95%信頼区間:0.498~0.995)、接種完了後90日以上で1.269 (95%信頼区間:0.769~2.095)であった。また、② (1)新型コロナワクチン未接種、 (2)従来型ワクチンのみ接種、 (3)オミクロン対応2価ワクチンを接種した場合に対するオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了後90日以内の新型コロナウイルス検査陽性の調整オッズ比はそれぞれ0.641 (95%信頼区間:0.424~0.970)、0.721 (95%信頼区間:0.497~1.045)、0.732 (95%信頼区間:0.500~1.073)、オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了後90日以上の新型コロナウイルス検査陽性の調整オッズ比はそれぞれ1.180 (95%信頼区間:0.679~2.050)、1.326 (95%信頼区間:0.788~2.233)、1.348 (95%信頼区間:0.795~2.284)であった。65歳以上において、①オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)を接種していない場合に対するオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了 (接種から7日以上経過)の新型コロナウイルス検査陽性の調整オッズ比は0.915 (95%信頼区間:0.649~1.290)であった。また、② (1)新型コロナワクチン未接種、 (2)従来型ワクチンのみ接種、 (3)オミクロン対応2価ワクチンを接種した場合に対するオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了 (接種から7日以上経過)の新型コロナウイルス検査陽性の調整オッズ比はそれぞれ1.11 (95%信頼区間:0.640~1.931)、0.828 (95%信頼区間:0.496~1.381)、0.995 (95%信頼区間:0.649~1.525)であった。
 これらの調整オッズ比を用いて①オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)を接種していない場合、② (1)新型コロナワクチン未接種、 (2)従来型ワクチンのみ接種、 (3)オミクロン対応2価ワクチンを接種した場合と比較したオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了 (接種から7日以上経過)の発症予防の有効性 (%)を求めた (表4、図4、図5)。16歳~64歳において、オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)を接種していない場合と比較したオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了の有効性は、接種完了後90日以内で29.6% (95%信頼区間: 0.5~50.2%)、接種完了後90日以上で-26.9% (95%信頼区間: -109.5~23.1%)であった。② (1)新型コロナワクチン未接種と比較した場合の有効性は、オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了後90日以内で35.9% (95%信頼区間: 3.0~57.6%)、接種完了後90日以上で-18.0% (95%信頼区間: -105.0~31.1%)、 (2)従来型ワクチンのみ接種と比較した場合の有効性は、オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了後90日以内で27.9% (95%信頼区間: -4.5~50.3%)、接種完了後90日以上で-32.6% (95%信頼区間: -123.3~21.2%)、 (3)オミクロン対応2価ワクチンを接種と比較した場合の有効性はオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了後90日以内で26.8% (95%信頼区間: -7.3~50.0%)、接種完了後90日以上-34.8% (95%信頼区間: -128.4~20.5%)であった。65歳以上において、オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)を接種していない場合と比較したオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了 (接種から7日以上経過)の有効性は8.5% (95%信頼区間: -29.0~35.1%)、 (1)新型コロナワクチン未接種と比較した場合の有効性は-11.1% (95%信頼区間: -93.1~36.0%)、 (2)従来型ワクチンのみ接種と比較した場合の有効性は17.2% (95%信頼区間: -38.1~50.4%)、 (3)オミクロン対応2価ワクチンを接種と比較した場合の有効性は0.5% (95%信頼区間: -52.5~35.1%)であった。

表 4:新型コロナワクチン接種状況で比較した新型コロナウイルス検査陽性の調整オッズ比およびオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)の発症予防の有効性
新型コロナワクチン接種歴 新型コロナ
ウイルス検査
調整オッズ比
(95%信頼区間)
オミクロン対応1価ワクチン
(XBB.1.5)の有効性%
(95%信頼区間)
陽性 (n) 陰性 (n)
16歳~64歳
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種なしa 5112,2391.000Reference
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了b
(接種完了から90日以内)
59 261 0.704 (0.498 to 0.995) 29.6 (0.5 to 50.2)
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了b
(接種完了から90日以上)
34 58 1.269 (0.769 to 2.095) -26.9 (-109.5 to 23.1)
ワクチン接種なし 1124331.000Reference
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了b
(接種完了から90日以内)
59 261 0.641 (0.424 to 0.970) 35.9 (3.0 to 57.6)
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了b
(接種完了から90日以上)
34 58 1.180 (0.679 to 2.050) -18.0 (-105.0 to 32.1)
従来型のみ接種あり 2591,1851.000Reference
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了b
(接種完了から90日以内)
59 261 0.721 (0.497 to 1.045) 27.9 (-4.5 to 50.3)
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了b
(接種完了から90日以上)
34 58 1.326 (0.788 to 2.233) -32.6 (-123.3 to 21.2)
オミクロン対応2価ワクチン
接種あり
5531701.000Reference
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了b
(接種完了から90日以内)
59 261 0.732 (0.500 to 1.073) 26.8 (-7.3 to 50.0)
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了b
(接種完了から90日以上)
34 58 1.348 (0.795 to 2.284) -34.8 (-128.4 to 20.5)
65歳以上
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種なしa 124 4211.000Reference
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了b 118 326 0.915 (0.649 to 1.290) 8.5 (-29.0 to 35.1)
ワクチン接種なし 25 82 1.000Reference
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了b 118  326  1.111 (0.640 to 1.931) -11.1 (-93.1 to 36.0)
従来型のみ接種あり 33 98 1.000Reference
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了b 118 326 0.828 (0.496 to 1.381) 17.2 (-38.1 to 50.4)
オミクロン対応2価ワクチン
接種あり
562241.000Reference
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了b 118 326 0.995 (0.649 to 1.525) 0.5 (-52.5 to 35.1)

a いずれのワクチン接種を受けたか不明だが、オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種はないものも含む。
b 接種から7日以上経過

 正確なワクチン接種日が不明であった患者については、接種日の推定法が接種後の経過日数、接種完了の有無の判断にも影響しうるため、今回は感度分析として複数の方法で接種日を推定した解析結果を比較したが、調整オッズ比に与える影響は限定的であった。

2) 入院予防の有効性に関する研究

 全国9都府県12か所の医療機関において、2023年10月1日から2024年3月31日に、急性呼吸器感染症を疑う症状 (発熱、咳、喀痰、胸膜痛、呼吸苦、頻呼吸、急性疾患による酸素投与)のうち2つ以上の症状があるか、新たに出現した肺炎像を認め入院した16歳以上の患者1,794名が登録された。このうち、発症日から15日以降に検査を受けた6名、ファイザー社製・モデルナ社製以外の新型コロナワクチンを接種した1名、ワクチン接種歴が不明の592名、16歳~59歳の85名を解析から除外し、合計1,110名を解析に含めた (図6)。このうち、新型コロナウイルス検査陽性者は221名 (19.9%)であった。

 解析対象者の基本情報・新型コロナワクチン接種歴を表5に示す。年齢中央値 (四分位範囲)は83歳 (76-90歳)、男性662名 (59.6%)、855名 (77.0%)に基礎疾患があり、高齢者施設入所者が324名 (29.2%)であった。CURB-65で評価した重症度が一般に入院治療が検討される中等症以上の研究対象者の割合は、研究対象者のうち86.8% (964名)、検査陽性者のうち85.1% (188名)、検査陰性者のうち87.3% (776名)であり、検査陽性者と陰性者でほぼ同等であった。新型コロナワクチン接種歴については、23.0% (255名)がオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種あり (接種から7日以上経過)、37.7% (418名)がオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)未接種、38.3% (425名)がワクチン接種歴はあるがオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)の接種の有無不明であった。オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)未接種の詳細としては、ワクチン未接種が10.8% (120名)、従来型のみ接種が10.6% (118名)、オミクロン対応2価ワクチン接種が15.5% (172名)、従来型かオミクロン対応2価ワクチン接種のいずれか不明が0.7% (8名)であった。新型コロナワクチン接種はあるが、オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)未接種者において、接種からの日数は中央値 (四分位範囲) 301日 (153-466日)であった (n=250)。オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了 (接種から7日以上)において、接種からの日数は中央値 (四分位範囲) 56.5日 (31-95日)であった (n=166)。

表 5:入院予防の有効性に関する研究における解析対象者 (60歳以上)の基本情報と新型コロナワクチン接種歴
全体
(n=1,110)
検査陽性
(n=221)
検査陰性
(n=889)
年齢 n. (%)
60-69歳 99 (8.9)22 (10.0)77 (8.7)
70-79歳 295 (26.6)67 (30.3)228 (25.6)
80-89歳 438 (39.5)88 (39.8)350 (39.4)
90歳以上 278 (25.0)44 (19.9)234 (26.3)
性別 n. (%)
男性 662 (59.6)130 (58.8)532 (59.8)
女性 448 (40.4)91 (41.2)57 (40.2)
基礎疾患の有無 n. (%)
855 (77.0)160 (72.4)695 (78.2)
253 (22.8)59 (26.7)194 (21.8)
不明 2 (0.2)2 (0.9)0
基礎疾患詳細 n. (%)
慢性心疾患 405 (36.5)68 (30.8)337 (37.9)
慢性呼吸器疾患 329 (29.6)57 (25.8)272 (30.6)
肥満 6 (0.5)4 (1.8)2 (0.2)
悪性腫瘍 248 (22.3)50 (22.6)198 (22.3)
糖尿病 251 (22.6)52 (23.5)199 (22.4)
慢性腎疾患 140 (12.6)29 (13.1)111 (12.5)
透析 22 (2.0)5 (2.3)17 (1.9)
肝硬変 6 (1.1)06 (1.3)
免疫抑制剤の使用 50 (4.5)14 (6.3)36 (4.0)
高齢者施設の入所 n. (%)
324 (29.2)43 (19.5)281 (31.6)
782 (70.5)178 (80.5)604 (67.9)
不明 4 (0.4)04 (0.4)
喫煙歴 n. (%) 467 (42.1)90 (40.7)377 (42.4)
新型コロナウイルス検査方法 n. (%)
核酸増幅法検査 265 (23.9)61 (27.6)201 (22.6)
抗原定量検査 725 (65.3)120 (54.3)605 (68.1)
抗原定性検査 120 (10.8)40 (18.1)80 (9.0)
入院時のCURB65スコア n. (%)
0-1点 (軽症) 143 (12.9)31 (14.0)112 (12.6)
2点以上 (中等症・重症) 964 (86.8)188 (85.1)776 (87.3)
不明 3 (0.3)2 (0.9)1 (0.1)
入院時呼吸不全あり n. (%) 793 (71.4)142 (64.3)651 (73.2)
肺炎像ありn. (%) 945 (85.1)169 (76.5)776 (87.3)
入院日 n. (%)
2023年10月 222 (20.0)41 (18.6)181 (20.4)
2023年11月 183 (16.5)20 (9.0)163 (18.3)
2023年12月 215 (19.4)36 (16.3)179 (20.1)
2024年1月 215 (19.4)49 (22.2)166 (18.7)
2024年2月 143 (12.9)48 (21.7)95 (10.7)
2024年3月 132 (11.9)27 (12.2)105 (11.8)
新型コロナワクチン接種歴 n. (%)
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種から7日未満 12 (1.1)012 (1.3)
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了
(接種から7日以上)
255 (23.0)37 (16.7)218 (24.5)
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種なし 418 (37.7)91 (41.2)327 (36.8)
ワクチン未接種 120 (10.8)35 (15.8)85 (9.6)
従来型のみ接種 118 (10.6)21 (9.5)97 (10.9)
オミクロン対応2価ワクチン接種 172 (15.5)31 (14.0)141 (15.9)
従来型かオミクロン対応2価ワクチンかは不明 8 (0.7)4 (1.8)4 (0.4)
不明* 425 (38.3)93 (42.1)332 (37.3)

* 新型コロナワクチン接種歴はあるが、オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)の接種の有無がわからないもの

 60歳以上において、①オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)を接種していない場合に対するオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了 (接種から7日以上経過)の新型コロナウイルス検査陽性の調整オッズ比は0.533 (95%信頼区間:0.333~0.920)であった (表6)。また、② (1)新型コロナワクチン未接種、 (2)従来型ワクチンのみ接種、 (3)オミクロン対応2価ワクチンを接種した場合に対するオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了 (接種から7日以上経過)の新型コロナウイルス検査陽性の調整オッズ比はそれぞれ0.421 (95%信頼区間:0.223~0.794)、0.667 (95%信頼区間:0.333~1.336)、0.674 (95%信頼区間:0.353~1.285)であった。入院時呼吸不全を呈した患者に限定した解析では、オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)を接種していない場合に対するオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了 (接種から7日以上経過)の新型コロナウイルス検査陽性の調整オッズ比は0.547 (95%信頼区間:0.292~1.024)、入院時のCURB-65で重症度が中等症以上の患者に限定した解析では0.525 (95%信頼区間:0.304~0.906)、入院時肺炎を呈した患者に限定した解析では0.614 (95%信頼区間:0.344~1.096)であった。
 これらの調整オッズ比を用いて①オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)を接種していない場合、② (1)新型コロナワクチン未接種、 (2)従来型ワクチンのみ接種、 (3)オミクロン対応2価ワクチンを接種した場合に対するオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了 (接種から7日以上経過)の入院予防の有効性を求めた (表6、図7)。オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)を接種していない場合と比較したオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了 (接種から7日以上経過)の有効性は44.7% (95%信頼区間: 8.0~66.7%)、 (1)新型コロナワクチン未接種と比較した場合の有効性は57.9% (95%信頼区間: 20.6~77.7%)、 (2)従来型ワクチンのみ接種と比較した場合の有効性は33.3% (95%信頼区間:-33.6~66.7%)、 (3)オミクロン対応2価ワクチンを接種と比較した場合の有効性は32.6% (95%信頼区間: -28.5~64.7%)であった。入院時呼吸不全を呈した患者に限定した解析では、オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)を接種していない場合と比較したオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了 (接種から7日以上経過)の有効性は45.3% (95%信頼区間:-2.4~70.8%)、入院時のCURB-65で重症度が中等症以上の患者に限定した解析では47.5% (95%信頼区間:9.4~69.6%)、入院時肺炎を呈した患者に限定した解析では38.6% (95%信頼区間:-9.6~65.6%)であった。

表 6:60歳以上での新型コロナワクチン接種状況で比較した新型コロナウイルス検査陽性の調整オッズ比およびオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)の入院予防の有効性
新型コロナワクチン接種歴 新型コロナ
ウイルス検査
調整オッズ比
(95%信頼区間)
オミクロン対応1価ワクチン
(XBB.1.5)の有効性%
(95%信頼区間)
陽性 (n) 陰性 (n)
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種なしa 91 327 1.000Reference
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種ありb 37 218 0.533 (0.333 to 0.920) 44.7 (8.0 to 66.7)
ワクチン接種なし 35 85 1.000Reference
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種ありb 37 218 0.421 (0.223 to 0.794) 57.9 (20.6 to 77.7)
従来型のみ接種あり 21  97  1.000 Reference
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種ありb 37 218 0.667 (0.333 to 1.336) 33.3 (-33.6 to 66.7)
オミクロン対応2価ワクチン
接種あり
31  141  1.000 Reference
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種ありb 37 218 0.674 (0.353 to 1.285) 32.6 (-28.5 to 64.7)
呼吸不全のある患者に限定した解析
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種なしa 60 236 1.000 Reference
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種ありb 25 162 0.547 (0.292 to 1.024) 45.3 (-2.4 to 70.8)
中等症以上の重症度の患者に限定した解析
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種なしa 76 281 1.000 Reference
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種ありb 31  196 0.525 (0.304 to 0.906) 47.5 (9.4 to 69.6)
肺炎がある患者に限定した解析
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種なしa 69  290 1.000 Reference
オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種ありb 28  188 0.614 (0.344 to 1.096) 38.6 (-9.6 to 65.6)

a いずれのワクチン接種を受けたか不明だが、オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種はないものも含む。
b 接種から7日以上経過

 正確なワクチン接種日が不明であった患者については、接種日の推定法が接種後の経過日数、接種完了の有無の判断にも影響しうるため、今回は感度分析として複数の方法で接種日を推定した解析結果を比較したが、調整オッズ比に与える影響は限定的であった。

考察

 本報告では、国内でのオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種開始後の2023年10月1日から2024年3月31日の期間におけるオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)の発症予防の有効性および入院予防の有効性を評価した。16歳~64歳において、オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種なしと比較したオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了の発症予防の有効性は接種完了から90日以内では29.6% (95%信頼区間: 0.5~50.2%)、90日以上では-26.9% (95%信頼区間: -109.5~23.1%)であり、時間経過による有効性の低下が示唆された。65歳以上において、オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種なしと比較したオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了の発症予防の有効性は8.5% (95%信頼区間: -29.0~35.1%)であった。入院予防の有効性については、60歳以上において、オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種なしと比較したオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種完了の入院予防の有効性は44.7% (95%信頼区間: 8.0~66.7%)であった。入院時呼吸不全を呈した患者に限定した解析では45.3% (95%信頼区間:-2.4~70.8%)、入院時のCURB-65で評価した重症度が中等症以上の患者に限定した解析では47.5% (95%信頼区間:9.4~69.6%)、入院時肺炎を呈した患者に限定した解析では38.6% (95%信頼区間:-9.6~65.6%)であり、より重症な集団に限定してもほぼ同等の有効性を示していた。サンプルサイズが小さく信頼区間も広いが、オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)を追加接種することで得られる追加の有効性に関して、発症予防においては限られているが、入院予防に関しては中程度の予防効果を得られる可能性があり、加えてより重症な患者に限定してもほぼ同等の有効性があることがわかった。
 オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)の有効性についてのデータは海外でも限られている。米国の研究では本研究と同様にオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)の接種がない場合と比較した有効性を求めているが、発症予防の有効性に関して、18歳~64歳においてオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種後7~59日では52% (95%信頼区間: 45~58%)、接種後60~119日で45% (95%信頼区間: 34~55%)、65歳以上で接種後7~59日で49% (95%信頼区間: 44~54%)、接種後60~119日で37% (95%信頼区間: 29~44%)の有効性があった (7)。入院予防の有効性に関して、65歳以上においてオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)のワクチン接種がない場合と比較したオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)の有効性は、接種後7-59日では54% (95%信頼区間: 47~60%)、接種後60~119日で50% (95%信頼区間: 39~59%)であった (7)。この米国の研究と比較して、発症予防の有効性に関して本研究の結果は低値であるが、その理由の一つとして次のように考えられる。米国の研究、本研究ともにオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)の有効性をオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)を接種していない群と比較した相対的な値として評価している。比較対象のオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)を接種していない群は、ワクチン未接種、従来型のみ接種、オミクロン対応2価ワクチン接種を合計したものであり、従来型のみ接種、オミクロン対応2価ワクチン接種群がもつ予防の有効性が高い場合には、相対的にオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)接種の有効性は低い値として算出される。本研究ではオミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)を接種していない群の最終新型コロナワクチン接種からの日数の中央値が16歳~64歳で471日、65歳以上で265.5日と、米国の研究の697日、509日と比較して短く、本研究での従来型のみ接種群、オミクロン対応2価ワクチン接種群がもつ予防の有効性が米国の研究より高く、オミクロン対応1価ワクチン (XBB.1.5)の有効性が低い値になっている可能性がある。

制限

 本報告にはいくつかの制限がある。1つ目は、研究対象患者が限られており、現時点ではサンプルサイズが極めて限定的である。95%信頼区間が広いため、点推定値のみでの解釈は困難であり、結果の解釈に注意が必要である。2つ目は、現在日本では医療機関において受診者のワクチン接種歴を正確な記録として確認できるシステムは整備されていないため、接種歴は主に患者 (または患者家族)に対する問診で得られた記録を基にしており、思い出しバイアスの影響を否定できない。正確なワクチン接種日が不明な患者については、「接種日」の推計方法を複数定めた感度分析を行ったが、調整オッズ比の変動は小さく、一定の妥当性は担保されていると考える。また、打ったワクチンがオミクロン対応1価ワクチン (XBB1.5)かその他のものかがわからない症例については、国内では2023年9月20日以降はオミクロン対応1価ワクチン (XBB1.5)のみの接種を行っているため、接種日から推定をしているものもある。3つ目は、新型コロナウイルス検査結果について、偽陽性/偽陰性の可能性がある。特に本報告では実臨床に即して核酸増幅法検査より感度が低いとされる抗原定性検査も研究対象に含めているため、新型コロナウイルス検査結果が偽陽性/偽陰性の可能性はあり、ワクチンの有効性を過小評価している可能性がある (8)。4つ目は、本報告書に含まれている期間は、全国的にインフルエンザが流行した期間であり、検査陰性者についてインフルエンザの患者が含まれている可能性がある。本研究では、インフルエンザ検査結果の情報は収集していないためインフルエンザ検査陽性者を除外することができず、ワクチンの有効性を過小評価している可能性がある (9)。
 本報告は2024年5月7日での暫定結果であり速報値であるが、公衆衛生学的に意義があると判断して報告した。今後も研究を継続し経時的な評価を行うなかで、公衆衛生学的な意義を鑑みつつ結果について共有する予定である。

注釈
  • 発熱 (37.5℃以上)、咳、倦怠感、呼吸困難、筋肉痛、咽頭痛、鼻汁・鼻閉、頭痛、下痢、味覚障害、嗅覚障害

  • 同一患者の扱いは以下の定義を使用した。
    ・陽性結果が出る前または陽性結果が出た後3週間以内に採取した陰性検査は、偽陰性の可能性があるため除外する。
    ・同じ発症日に対して行われた陰性の検査は除外する。
    ・前回の陰性判定から7日以内に実施された陰性の検査は除外する。
    ・各人については、無作為に選んだ3回までの検査を含める。
    ・90日以内に複数回陽性になった場合は初めての陽性のみを組み込む。

  • 慢性心疾患、慢性呼吸器疾患、肥満 (BMI≧30)、悪性腫瘍 (固形癌または血液腫瘍)、糖尿病、慢性腎不全、透析、肝硬変、免疫抑制薬の使用、妊娠

  • CURB-65 (10)
     意識レベルの異常、尿素窒素値>20mg/dl、呼吸回数≧30回/分、収縮期血圧<90mmHg、年齢65歳以上をそれぞれ1点とし、合計点が0~1点は軽症、2点は中等症、3点以上を重症と定義する。国内の臨床現場では、呼吸状態を評価する際に、呼吸回数ではなく、酸素飽和度 (SpO2)や酸素投与の必要性を使用することが多いため、本研究では呼吸回数≧30回/分に代えて、SpO2<90%または酸素投与が必要な場合のいずれかを満たせば1点とした。
    5) 以下のいずれかを満たす場合を本研究では呼吸不全ありと定義した。
    ①呼吸回数≧30回/分
    ②SpO2<90%
    ③酸素投与が必要

研究チーム
長崎大学熱帯医学研究所 呼吸器ワクチン疫学分野

前田 遥、森本 浩之輔

長崎大学熱帯医学研究所 ケニア拠点

齊藤 信夫

東京大学大学院 薬学系研究科 医療政策・公衆衛生学

五十嵐 中、藤澤 あずさ

長崎大学病院 感染症内科 (熱研内科)

増田 真吾

飯塚病院

的野 多加志

沖縄県立中部病院

喜舎場 朝雄

亀田総合病院

大澤 良介、細川 直登、中島 啓

川崎市立多摩病院

本橋 伊織

北福島医療センター/福島県立医科大学

山藤 栄一郎

公立陶生病院

武藤 義和

五本木クリニック

桑満 おさむ

市立奈良病院

森川 暢

仁さくらクリニック

大原 靖二

近森病院

石田 正之

東京都立多摩総合医療センター

織田 錬太郎

虹が丘病院

寺田 真由美

早川内科医院

早川 友一郎

福岡青洲会病院

杉本 幸弘

みずほ通りクリニック

勅使川原 修

武蔵野徳洲会病院

淺見 貞晴、工藤 智史、秋月 登

洛和会音羽病院

井村 春樹

ロコクリニック中目黒

嘉村 洋志

研究協力
国立感染症研究所 感染症疫学センター

鈴木 基

研究資金

本研究は、厚生労働省科学研究費補助金「ワクチンの有効性及び安全性をモニタリングする体制の構築に関する研究」による支援を受けている。

利益相反の開示

長崎大学熱帯医学研究所呼吸器ワクチン疫学分野は、ファイザー社より本研究に関連のない研究助成金を受けている。

東京大学大学院薬学系研究科医薬政策学は、武田薬品工業株式会社より本研究に関係のない研究助成金を受けている。

前田遥、五十嵐中はモデルナ社より講演料およびコンサルタント料を受けている。

森本浩之輔はモデルナ社よりコンサルタント料を受けている。

参考資料
  • Hahne S. Vaccination Programmes: Routledge; 2022.

  • World Health Organization. Evaluation of COVID-19 vaccine effectiveness Available from: https://www.who.int/publications/i/item/WHO-2019-nCoV-vaccine_effectiveness-measurement-2021.1.

  • VERSUS Group. VERSUS (Vaccine Effectiveness Real-time Surveillance for SARS-CoV-2) Available from: http://www.tm.nagasaki-u.ac.jp/versus/.

  • Chalkias S, McGhee N, Whatley JL, Essink B, Brosz A, Tomassini JE, et al. Interim report of the reactogenicity and immunogenicity of SARS-CoV-2 XBB-containing vaccines. J Infect Dis. 2024.Feb 13:jiae067.

  • Stankov MV, Hoffmann M, Gutierrez Jauregui R, Cossmann A, Morillas Ramos G, Graalmann T, et al. Humoral and cellular immune responses following BNT162b2 XBB.1.5 vaccination. Lancet Infect Dis. 2024;24:e1-e3.

  • Ministry of Health,Labour and Welfare. Data and Materials Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/data.html.

  • DeCuir J, Payne AB, Self WH, Rowley EAK, Dascomb K, DeSilva MB, et al. Interim Effectiveness of Updated 2023-2024 (Monovalent XBB.1.5) COVID-19 Vaccines Against COVID-19-Associated Emergency Department and Urgent Care Encounters and Hospitalization Among Immunocompetent Adults Aged ≥18 Years - VISION and IVY Networks, September 2023-January 2024. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2024;73:180-8.

  • Jackson ML, Rothman KJ. Effects of imperfect test sensitivity and specificity on observational studies of influenza vaccine effectiveness. Vaccine. 2015;33:1313-6.

  • Doll MK, Pettigrew SM, Ma J, Verma A. Effects of Confounding Bias in Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) and Influenza Vaccine Effectiveness Test-Negative Designs Due to Correlated Influenza and COVID-19 Vaccination Behaviors. Clin Infect Dis. 2022;75:e564-e71.

  • Barlow G, Nathwani D, Davey P. The CURB65 pneumonia severity score outperforms generic sepsis and early warning scores in predicting mortality in community-acquired pneumonia. Thorax. 2007;62:253-9.

問い合わせ先

長崎大学熱帯医学研究所 呼吸器ワクチン疫学分野:森本 浩之輔
komorimo*nagasaki-u.ac.jp (*を@にして送信して下さい)