長崎大学熱帯医学研究所を中心とする研究チームは、全国の医療機関 (病院および診療所)と協力し、新型コロナウイルス感染症を疑う症状があり、研究参加医療機関を受診し、新型コロナウイルス検査を受けた患者の情報を用いて、新型コロナワクチンの有効性を評価する研究を2021年7月1日から行っている。今回、新型コロナウイルスのオミクロン株の亜系統であるBA.5による感染が全国で拡大した2022年7月1日から10月31日に、研究参加医療機関で新型コロナウイルス検査を受けた16歳以上において、発症予防における有効性をまとめた。
16歳以上の6,919名 (うち検査陽性者3,914名)が解析対象となった。16歳~64歳において、ファイザー社製 (BNT162b2)またはモデルナ社製 (mRNA-1273)いずれかの新型コロナワクチンの2回接種完了 (2回接種後14日以上経過)後181日以上経過の発症予防の有効性は20.5% (95%信頼区間: 1.2~36.1%)、3回接種完了 (3回接種後14日以上経過)の有効性を完了後の経過日数別に見ると、完了後90日以内では50.9% (95%信頼区間: 37.5~61.5%)、完了後91日~180日では35.5% (95%信頼区間: 21.1~47.3%)、完了後181日以上では35.4% (95%信頼区間: 13.9~51.5%)と推定され、4回目接種完了の有効性は47.8% (95%信頼区間: 21.6~65.3%)と推定された。65歳以上において、ファイザー社製またはモデルナ社製いずれかの新型コロナワクチンの2回接種完了の有効性は38.1% (95%信頼区間: -43.6~73.3%)、3回接種完了では41.2% (95%信頼区間: -10.5~68.7%)、4回接種完了では67.0% (95%信頼区間: 33.9~83.5%)であった。
2回接種完了に対する3回接種完了、3回接種完了に対する4回接種完了の相対的な有効性も評価した。16歳~64歳において、ファイザー社製またはモデルナ社製いずれかのワクチンについて、2回接種完了後181日以上経過を比較対象として3回接種完了の相対的な有効性を評価したところ、3回接種完了後90日以内では38.2% (95%信頼区間: 22.1~51.0%)、91日~181日では18.9% (95%信頼区間: 1.9~32.9%)、181日以上では18.7% (95%信頼区間: -7.5~38.5%)と推定された。同様に3回接種完了後181日以上経過を比較対象として4回接種完了の相対的な有効性を評価したところ、19.2% (95%信頼区間: -22.6~46.8%)であった。65歳以上において、ファイザー社製またはモデルナ社製いずれかのワクチンについて、3回接種完了に対する4回接種完了の有効性は43.8% (95%信頼区間: 15.0~62.9%)であった。
本報告は全国的にBA.5による感染が拡大した2022年7月1日~10月31日の16歳以上における新型コロナワクチンの発症予防における有効性を評価したものである。16歳以上において、本研究で評価したBA.1/BA.2流行期の新型コロナワクチンの有効性と比較して、2回接種、3回接種ともに点推定値では低下がみられた。16歳~64歳において、3回接種により有効性が上昇するが時間経過により再度低下する可能性が示された。加えて、4回接種により点推定値では有効性が上昇したが、3回接種と比較して有意な有効性は示されなかった。65歳以上においては、3回接種と比較して4回接種が有効であると推定された。
本報告は暫定値であるが公衆衛生学的意義を鑑みつつ報告した。本報告は長期サーベイランス研究の一部であり、2022年7月1日から10月31日の対象期間内でも未集計の情報も多数あるため、今後結果が変わる可能性があり、随時アップデートした結果を報告する予定である。
2021年7月1日から長崎大学熱帯医学研究所を中心とした研究チームは、全国の医療機関 (病院および診療所)と協力し、これまでにインフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの研究で使用されている検査陰性デザイン (test-negative design:TND)を用いた症例対照研究を使って (1, 2)、新型コロナワクチンの有効性を経時的に評価するサーベイランス研究 (Vaccine Effectiveness Real-time Surveillance for SARS-CoV-2 (VERSUS) study)を開始した (3)。これまでに、国内で導入されている新型コロナワクチンに関して、2021年7月~9月のB.1.617.2株 (デルタ株)流行期での発症予防における有効性 (4-6)、2022年1月~3月のオミクロン株の亜系統のBA.1流行期での発症予防における有効性 (7-9)を報告し、デルタ株流行期と比較してオミクロン株流行期には新型コロナワクチンの発症予防における有効性は低下していることを明らかにした。第6報では、2022年7月1日~8月26日のオミクロン株の亜系統のBA.5流行期における16歳~64歳における発症予防における有効性を評価した (10)。
第7報では、全国的に新型コロナウイルスのオミクロン株の亜系統であるBA.5が流行した2022年7月1日~10月31日に、新型コロナウイルス感染症を疑う症状があり、新型コロナウイルスの検査を受けた患者情報を用い、国内における同期間での16歳以上における新型コロナワクチンの発症予防における有効性を、4回接種の有効性を含めて評価したため報告する。
2021年7月1日から開始しているサーベイランス研究 (VERSUS study) (3)のうち、2022年7月1日から10月31日までに全国10都府県 (福島県、東京都、神奈川県、千葉県、愛知県、京都府、奈良県、高知県、福岡県、長崎県)、計15か所の病院または診療所を新型コロナウイルス感染症が疑われる症状1)で受診し、新型コロナウイルス検査を受けた16歳以上の患者を対象に、患者基本情報、症状、新型コロナワクチン接種歴 (接種の有無、接種回数、接種日、接種したワクチンの種類)、新型コロナウイルス検査結果のデータを収集した。新型コロナウイルスの検査は、現在国内で診断に使用されている核酸増幅法検査 (PCRやLAMPなど)および抗原定量検査を対象とした。新型コロナウイルス検査陽性者を症例群、陰性者を対照群とした (図1)。発症から15日以降に検査を受けた患者および同一患者は定義2)に基づいて除外した。65歳以上は新型コロナワクチン優先接種対象であり、接種時期やワクチン接種後の経過期間などに交絡がある可能性を考慮して、16歳~64歳、65歳以上に分けての解析を行った。
新型コロナワクチン接種状況は、それぞれの回数において、接種後から14日以上経過した場合を「接種完了」と定義した。接種からの時間経過により、新型コロナワクチンの有効性の低下が報告されているため (11, 12)、16歳~64歳における有効性の解析では、接種完了後からの経過時間で区切って評価を行った。65歳以上では、サンプルサイズが小さく、接種完了からの時間経過で区切った評価は行っていない。検査結果 (陽性・陰性)に接種歴を含む種々の要因が与える影響を、混合効果ロジスティック回帰モデルを構築して調整オッズ比と95%信頼区間を算出して評価した。新型コロナワクチンの有効性は、(1-調整オッズ比)×100%で算出した。回帰モデルには、検査結果(陽性・陰性)を被説明変数、新型コロナワクチン接種歴、年齢、性別、基礎疾患の有無、検査実施カレンダー週、新型コロナウイルス感染症患者との接触の有無、医療従事者であるかどうか、を固定効果 (fixed effect)、検査実施医療機関を変量効果 (random effect)の説明変数として組み込んだ。医療従事者はワクチン接種スケジュールがその他と異なることに加え、非医療従事者と比較して感染対策や検査を受ける頻度が異なる可能性を考え、回帰モデルに組み込んだ。未接種と比較した新型コロナワクチンの有効性に加え、16歳~64歳においては、2回接種完了後181日以上経過と比較した3回接種完了の相対的な有効性および3回接種完了後181日以上経過と比較した4回接種完了の相対的な有効性を、65歳以上においては3回接種完了と比較した4回接種完了の相対的な有効性を評価した。新型コロナワクチンの種類については、ファイザー社製 (BNT162b2)、モデルナ社製 (mRNA-1273)以外の新型コロナワクチン接種を受けた研究対象者数が極めて少ないため、ファイザー社製、モデルナ社製以外の新型コロナワクチン接種を受けた研究対象者は解析から除外した。3回接種、4回接種の有効性の解析では、ファイザー社製・モデルナ社製の両方を含めた解析に加えて、3回目・4回目の新型コロナワクチンの種類ごとの解析を行った。接種したワクチンの種類が不明な研究対象者に関しては、国内で接種された新型コロナワクチンの99%以上がファイザー社製またはモデルナ社製であることを考慮し(13)、いずれかのワクチンを接種していると仮定し、ファイザー社製・モデルナ社製の両方を含めた解析に含めた。3回接種、4回接種者にはファイザー社製・モデルナ社製ともにオミクロン株対応2価ワクチンを接種している研究対象者も含まれるが、きわめて限られているため、解析時には従来型ワクチンと区別はしなかった。新型コロナウイルス感染症の既往の有る場合には、感染によって得られた抗体による予防効果も考えられるため (14, 15)、新型コロナウイルス感染症の既往のない研究対象者だけに限定した解析も追加で行った。正確な新型コロナワクチン接種日が不明であった研究対象者については、接種日の推定法が接種後の経過日数、さらには接種完了の有無の判断にも影響しうる。感度分析として、複数の方法で接種日を推定した解析を行った。
本研究は長崎大学熱帯医学研究所および研究参加医療機関における倫理委員会で審査を受け、承認された後、実施した (長崎大学熱帯医学研究所倫理委員会における承認番号:210225257)。(倫理委員会がない医療機関では、長崎大学熱帯医学研究所倫理委員会で一括審査を行った。)
全国10都府県計15か所の医療機関において、2022年7月1日から10月31日までに新型コロナウイルス感染症が疑われる症状11)があり、新型コロナウイルス検査を受けた16歳以上の患者7,146名が登録された。このうち、発症日から15日以降に検査を受けた101名、同一患者2)の113名、ファイザー社製・モデルナ社製以外の新型コロナワクチンを接種した13名を解析から除外し、合計6,919名を解析に含めた (図2)。このうち、新型コロナウイルス検査陽性者は3,914名 (56.6%)であった。
解析対象者の基本情報を表1に示す。年齢中央値 (四分位範囲)は40歳 (28~56歳)、男性3,151名 (45.5%)、1,486名 (21.5%)に基礎疾患3)があった。301名 (4.4%)に新型コロナウイルス感染症の既往が、2,092名 (30.2%)に新型コロナウイルス感染症患者との接触歴があり、医療従事者は1,140名 (16.5%)であった。
全体 (n=6,919) |
検査陽性 (n=3,914) |
検査陰性 (n=3,005) |
|
---|---|---|---|
年齢 n.(%) | |||
16-29歳 | 1,900 (27.5) | 1,085 (27.7) | 815 (27.1) |
30-39歳 | 1,453 (21.0) | 861 (22.0) | 592 (19.7) |
40-49歳 | 1,229 (17.8) | 762 (19.5) | 467 (15.5) |
50-59歳 | 857 (12.4) | 540 (13.8) | 317 (10.5) |
60-69歳 | 567 (8.2) | 310 (7.9) | 257 (8.6) |
70-79歳 | 509 (7.4) | 226 (5.8) | 283 (9.4) |
80-89歳 | 296 (4.3) | 92 (2.4) | 204 (6.8) |
90歳以上 | 108 (1.6) | 38 (1.0) | 70 (2.3) |
性別 n.(%) | |||
男性 | 3,151 (45.5) | 1,832 (46.8) | 1,319 (43.9) |
女性 | 3,768 (54.5) | 2,082 (53.2) | 1,686 (56.1) |
基礎疾患の有無 n.(%) | |||
有 | 1,486 (21.5) | 714 (18.2) | 772 (25.7) |
無 | 5,242 (75.8) | 3,091 (79.0) | 2,151 (71.6) |
不明 | 191 (2.8) | 109 (2.8) | 82 (2.7) |
基礎疾患詳細 n.(%) | |||
慢性心疾患 | 404 (5.8) | 194 (5.0) | 210 (7.0) |
慢性呼吸器疾患 | 379 (5.5) | 155 (4.0) | 224 (7.5) |
肥満 | 115 (1.7) | 71 (1.8) | 44 (1.5) |
悪性腫瘍 | 304 (4.4) | 118 (3.0) | 186 (6.2) |
糖尿病 | 393 (5.7) | 182 (4.6) | 211 (7.0) |
慢性腎疾患 | 190 (2.7) | 84 (2.1) | 106 (3.5) |
透析 | 38 (0.5) | 14 (0.4) | 24 (0.8) |
肝硬変 | 26 (0.4) | 10 (0.3) | 16 (0.5) |
免疫抑制剤の使用 | 93 (1.3) | 44 (1.1) | 49 (1.6) |
妊娠 | 75 (1.1) | 51 (1.3) | 24(0.8) |
新型コロナウイルス感染症の既往 n.(%) | 301 (4.4) | 87 (2.2) | 214 (7.1) |
喫煙歴 n.(%) | |||
なし | 4,047 (58.5) | 2,332 (59.6) | 1,715 (57.1) |
過去に吸っていた | 1,051 (15.2) | 588 (15.0) | 463 (15.4) |
現在吸っている | 1,088 (15.7) | 607 (15.5) | 481 (16.0) |
不明 | 733 (10.6) | 387 (9.9) | 346 (11.5) |
医療従事者 n.(%) | 1,140 (16.5) | 587 (15.0) | 553 (18.4) |
新型コロナウイルス感染症患者との接触 n.(%) | |||
有 | 2,092 (30.2) | 1,548 (39.6) | 544 (18.1) |
無 | 3,982 (57.6) | 1,857 (47.4) | 2,125 (70.7) |
不明 | 845 (12.2) | 509 (13.0) | 336 (11.2) |
新型コロナウイルス検査方法 n.(%) | |||
核酸増幅法検査 | 4,602 (66.5) | 2,650 (67.7) | 1,952 (65.0) |
抗原定量検査 | 2,317 (33.5) | 1,264 (32.3) | 1,053 (35.0) |
解析対象者の新型コロナワクチン接種歴を表2 (16歳~64歳)、表3 (65歳以上)に示す。16歳~64歳では、解析対象者のうち13.3% (766名)が未接種者、23.6% (1,355名)が2回接種完了者、54.5%(3,134名)が3回接種完了者、2.7% (154名)が4回接種完了者であった。一方で、検査陽性率は未接種者では68.5% (525/766)、2回接種完了者では63.8% (865/1,355)、3回接種完了者では57.1% (1,791/3,134)、4回接種完了者では41.6% (64/154)であった。2回接種完了者の中で、接種完了からの時間経過がわかっている解析対象者 (962名)のうち91.5% (880名)が2回接種完了後181日以上経過していた。3回接種完了者の中で、接種完了からの時間経過がわかっている解析対象者 (2,391名)のうち22.9% (548名)が接種完了から90日以内、60.7% (1,451名)が91日~180日、16.4% (392名)が181日以上経過していた。4回接種完了者の中で、2名 (1.3%)がファイザー社製オミクロン株対応2価ワクチンを接種していた。65歳以上では、解析対象者のうち4.9% (57名)が未接種者、5.0% (58名)が2回接種完了者、50.4%(589名)が3回接種完了者、23.9% (279名)が4回接種完了者であった。一方で、検査陽性率は未接種者では56.1% (32/57)、2回接種完了者では44.8% (26/58)、3回接種完了者では44.1% (260/589)、4回接種完了者では23.9% (98/279)であった。2回接種完了者の中で、接種完了からの時間経過がわかっている解析対象者 (39名)のうち79.5% (31名)が2回接種完了後181日以上経過していた。3回接種完了者の中で、接種完了からの時間経過がわかっている解析対象者 (407名)のうち13.5% (55名)が接種完了から90日以内、79.6% (324名)が91日~180日、6.9% (28名)が181日以上経過していた。
新型コロナワクチン接種歴 n.(%) | 全体 (n=5,751) |
検査陽性 (n=3,425) |
検査陰性 (n=2,326) |
---|---|---|---|
なし | 766 (13.3) | 525 (15.3) | 241 (10.4) |
1回接種後13日以内 | 1 (0) | 1 (0) | 0 |
1回接種完了(接種後14日以上経過) | 48 (0.8) | 31 (0.9) | 17 (0.7) |
2回接種後13日以内 | 2 (0) | 0 | 2 (0.1) |
2回接種完了(接種後14日以上経過) | 1,355 (23.6) | 865 (25.3) | 490 (21.1) |
3回接種後13日以内 | 28 (0.5) | 4 (0.1) | 24 (1.0) |
3回接種完了(接種後14日以上経過) | 3,134 (54.5) | 1,791 (52.3) | 1,343 (57.7) |
4回接種後13日以内 | 76 (1.3) | 33 (1.0) | 43 (1.8) |
4回接種完了(接種後14日以上経過) | 154 (2.7) | 64 (1.9) | 90 (3.9) |
接種歴不明 | 187 (3.3) | 111 (3.2) | 76 (3.3) |
3回目の新型コロナワクチンの種類 (3回接種完了者のみ) n.(%) |
全体 (n=3,134) |
検査陽性 (n=1,791) |
検査陰性 (n=1,343) |
ファイザー社製 | 1,375 (43.9) | 788 (44.0) | 587 (43.7) |
モデルナ社製 | 804 (25.7) | 492 (27.5) | 312 (23.2) |
不明 | 955 (30.5) | 511 (28.5) | 444 (33.1) |
4回目の新型コロナワクチンの種類 (4回接種完了者のみ) n.(%) |
全体 (n=154) |
検査陽性 (n=64) |
検査陰性 (n=90) |
ファイザー社製 | 62 (40.3) | 28 (43.8) | 34 (37.8) |
モデルナ社製 | 41 (26.6) | 20 (31.3) | 21 (23.3) |
不明 | 51 (33.1) | 16 (25.0) | 35 (38.9) |
新型コロナワクチン接種歴 n.(%) | 全体 (n=1,168) |
検査陽性 (n=489) |
検査陰性 (n=679) |
---|---|---|---|
なし | 57(4.9) | 32 (6.5) | 25 (3.7) |
1回接種後13日以内 | 0 | 0 | 0 |
1回接種完了(接種後14日以上経過) | 3 (0.3) | 2 (0.4) | 1 (0.1) |
2回接種後13日以内 | 1 (0.1) | 0 | 1 (0.1) |
2回接種完了(接種後14日以上経過) | 58 (5.0) | 26 (5.3) | 32 (4.7) |
3回接種後13日以内 | 6 (0.5) | 2 (0.4) | 4 (0.6) |
3回接種完了(接種後14日以上経過) | 589 (50.4) | 260 (53.2) | 329 (48.5) |
4回接種後13日以内 | 78 (6.7) | 43 (8.8) | 35 (5.2) |
4回接種完了(接種後14日以上経過) | 279 (23.9) | 98 (20.0) | 181 (26.7) |
接種歴不明 | 97 (8.3) | 26 (5.3) | 71 (10.5) |
3回目の新型コロナワクチンの種類 (3回接種完了者のみ) n.(%) |
全体 (n=589) |
検査陽性 (n=260) |
検査陰性 (n=329) |
ファイザー社製 | 214(36.3) | 96 (36.9) | 118 (35.9) |
モデルナ社製 | 82 (13.9) | 39 (15.0) | 43 (13.1) |
不明 | 292 (49.6) | 124 (47.7) | 168 (51.1) |
4回目の新型コロナワクチンの種類 (4回接種完了者のみ) n.(%) |
全体 (n=279) |
検査陽性 (n=98) |
検査陰性 (n=181) |
ファイザー社製 | 129 (46.2) | 49 (50.0) | 80 (44.2) |
モデルナ社製 | 59 (21.1) | 26 (26.5) | 33 (18.2) |
不明 | 91 (32.6) | 23 (23.5) | 68 (37.6) |
未接種に対する新型コロナワクチン接種の新型コロナウイルス検査陽性の調整オッズ比を表4に示す。16歳~64歳において、ファイザー社製・モデルナ社製いずれかの新型コロナワクチンについて、未接種に対する新型コロナウイルス検査陽性の調整オッズ比は、2回接種完了後181日以上経過では0.795(95%信頼区間: 0.639~0.988)、3回接種完了後90日以内では0.491(95%信頼区間: 0.385~0.625)、91日~180日では0.645 (95%信頼区間: 0.527~0.789)、181日以上経過では0.646 (95%信頼区間: 0.485~0.861)、4回接種完了では0.522 (0.347~0.784)であった。3回目にファイザー社製新型コロナワクチンを接種した患者に限定した解析では、未接種に対する検査陽性の調整オッズ比は、3回接種完了後90日以内では0.520(95%信頼区間: 0.382~0.707)、91日~180日では0.679 (95%信頼区間: 0.533~0.863)、181日以上経過では0.672 (95%信頼区間: 0.481~0.938)であった。4回目にファイザー社製新型コロナワクチンを接種した患者に限定した解析では、未接種に対する検査陽性の調整オッズ比は、0.471(95%信頼区間: 0.261~0.852)であった。3回目にモデルナ社製新型コロナワクチンを接種した患者に限定した解析では、未接種に対する検査陽性の調整オッズ比は、3回接種完了後90日以内では0.614(95%信頼区間: 0.415~0.909)、91日~180日では0.650 (95%信頼区間: 0.503~0.841)であった。65歳以上において、ファイザー社製・モデルナ社製いずれかの新型コロナワクチンについて、未接種に対する新型コロナウイルス検査陽性の調整オッズ比は、2回接種完了では0.619 (95%信頼区間: 0.267~1.436)、3回接種完了では0.588(95%信頼区間: 0.313~1.105)、4回接種完了では0.330(95%信頼区間: 0.165~0.661)であった。
新型コロナワクチン接種歴 | 新型コロナ ウイルス検査 |
調整オッズ比 (95%信頼区間) |
|
---|---|---|---|
陽性 (n) | 陰性 (n) | ||
16歳~64歳 | |||
未接種者 | 525 | 241 | 1.000 |
ファイザー社製あるいはモデルナ社製a | |||
2回接種完了後181日以上 | 564 | 316 | 0.795 (0.639~0.988) |
3回接種完了後90日以内 | 294 | 254 | 0.491 (0.385~0.625) |
3回接種完了後91日~180日 | 893 | 558 | 0.645 (0.527~0.789) |
3回接種完了後181日以上 | 199 | 193 | 0.646 (0.485~0.861) |
4回接種完了 | 64 | 90 | 0.522 (0.347~0.784) |
3回目がファイザー社製b | |||
3回接種完了後90日以内 | 142 | 114 | 0.520 (0.382~0.707) |
3回接種完了後91日~180日 | 392 | 241 | 0.679 (0.533~0.863) |
3回接種完了後181日以上 | 145 | 140 | 0.672 (0.481~0.938) |
4回目がファイザー社製c | |||
4回目接種完了 | 28 | 34 | 0.471 (0.261~0.852) |
3回目がモデルナ社製b | |||
3回接種完了後90日以内 | 87 | 57 | 0.614 (0.415~0.909) |
3回接種完了後91日~180日 | 340 | 197 | 0.650 (0.503~0.841) |
65歳以上 | |||
未接種者 | 32 | 25 | 1.000 |
ファイザー社製あるいはモデルナ社製a | |||
2回接種完了 | 26 | 32 | 0.619 (0.267~1.436) |
3回接種完了 | 260 | 329 | 0.588 (0.313~1.105) |
4回接種完了 | 98 | 181 | 0.330 (0.165~0.661) |
a 新型コロナワクチン種類不明者も含む。
b 1回目・2回目の新型コロナワクチンはファイザー社製、モデルナ社製のいずれか問わず、新型コロナワクチン種類不明も含む。
c 1回目・2回目・3回目の新型コロナワクチンはファイザー社製、モデルナ社製のいずれか問わず、新型コロナワクチン種類不明も含む。
新型コロナワクチン2回接種完了に対する3回接種完了および3回接種完了に対する4回接種完了の検査陽性の調整オッズ比を表5に示す。(16歳~64歳においては、2回または3回接種完了後181日以上経過に対する3回または4回接種完了の検査陽性の調整オッズ比を示す。)16歳~64歳において、ファイザー社製・モデルナ社製いずれかの新型コロナワクチンについて、2回接種完了後181日以上経過と比較した3回接種完了の検査陽性の調整オッズ比は、3回接種完了後90日以内では0.618 (95%信頼区間: 0.490~0.779)、91日~180日では0.811 (95%信頼区間: 0.671~0.981)、181日以上経過では0.813 (95%信頼区間: 0.615~1.075)であった。3回接種完了後181日以上経過と比較した4回接種完了の検査陽性の調整オッズ比は、0.808 (95%信頼区間: 0.532~1.226)であった。65歳以上において、ファイザー社製・モデルナ社製いずれかの新型コロナワクチンについて、3回接種完了と比較した4回接種完了の検査陽性の調整オッズ比は0.562 (95%信頼区間: 0.371~0.850)であった。
新型コロナワクチン接種歴 | 新型コロナ ウイルス検査 |
調整オッズ比 (95%信頼区間) |
|
---|---|---|---|
陽性 (n) | 陰性 (n) | ||
16歳~64歳 | |||
2回接種完了後181日以上経過と3回接種完了の比較 | |||
2回接種完了後181日以上(ファイザー社製あるいはモデルナ社製a) | 564 | 316 | 1.000 |
ファイザー社製あるいはモデルナ社製a | |||
3回接種完了後90日以内 | 294 | 254 | 0.618 (0.490~0.779) |
3回接種完了後91~180日 | 893 | 558 | 0.811 (0.671~0.981) |
3回接種完了後181日以上 | 199 | 193 | 0.813 (0.615~1.075) |
3回目がファイザー社製b | |||
3回接種完了後90日以内 | 142 | 114 | 0.647 (0.479~0.873) |
3回接種完了後91日~180日 | 392 | 241 | 0.845 (0.670~1.064) |
3回接種完了後181日以上 | 145 | 140 | 0.836 (0.603~1.160) |
3回目がモデルナ社製b | |||
3回接種完了後90日以内 | 87 | 57 | 0.773 (0.525~1.137) |
3回接種完了後91日~180日 | 340 | 197 | 0.818 (0.639~1.048) |
3回接種完了後181日以上経過と4回接種完了の比較 | |||
3回接種完了後181日以上(ファイザー社製あるいはモデルナ社製a) | 199 | 193 | 1.000 |
4回接種完了(ファイザー社製あるいはモデルナ社製a) | 64 | 90 | 0.808 (0.532~1.226) |
4回接種完了(4回目がファイザー社製c) | 28 | 34 | 0.724 (0.397~1.319) |
65歳以上 | |||
3回接種完了と4回接種完了の比較 | |||
3回接種完了(ファイザー社製あるいはモデルナ社製a) | 260 | 329 | 1.000 |
4回接種完了(ファイザー社製あるいはモデルナ社製a) | 98 | 181 | 0.562 (0.371~0.850) |
a 新型コロナワクチン種類不明者も含む。
b 1回目・2回目の新型コロナワクチンはファイザー社製、モデルナ社製のいずれか問わず、新型コロナワクチン種類不明も含む。
c 1回目・2回目・3回目の新型コロナワクチンはファイザー社製、モデルナ社製のいずれか問わず、新型コロナワクチン種類不明も含む。
上記の調整オッズ比を用いて新型コロナワクチンの発症予防における有効性を算出したところ (図3、図4)、16歳~64歳においてファイザー社製・モデルナ社製いずれかの新型コロナワクチンについて、2回接種完了後181日以上経過の有効性は20.5% (95%信頼区間: 1.2~36.1%)、3回接種完了後90日以内の有効性は50.9% (95%信頼区間: 37.5~61.5%)、91日~180日では35.5% (95%信頼区間: 21.1~47.3%)、181日以上経過では35.4% (95%信頼区間: 13.9~51.5%)、4回接種完了の有効性は47.8% (95%信頼区間: 21.6~65.3%)であった。3回目にファイザー社製新型コロナワクチンを接種した患者に限定した解析では、3回接種完了後90日以内の有効性は48.0% (95%信頼区間: 29.3~61.8%)、91日~180日では32.1% (95%信頼区間: 13.7~46.7%)、181日以上経過では32.8% (95%信頼区間: 6.2~51.9%)であった。4回目にファイザー社製新型コロナワクチンを接種した患者に限定した解析では、4回目接種完了の有効性は52.9% (95%信頼区間: 14.8~73.9%)であった。3回目にモデルナ社製新型コロナワクチンを接種した患者に限定した解析では、3回接種完了後90日以内の有効性はでは38.6% (95%信頼区間: 9.1~58.5%)、91日~180日では35.0% (95%信頼区間: 15.9~49.7%)であった。65歳以上においてファイザー社製・モデルナ社製いずれかの新型コロナワクチンについて、2回接種完了の有効性は38.1% (95%信頼区間: -43.6~73.3%)、3回接種完了の有効性は41.2% (95%信頼区間: -10.5~68.7%)、4回接種完了の有効性は67.0% (95%信頼区間: 33.9~83.5%)であった。
新型コロナワクチン2回接種完了に対する3回接種完了および3回接種完了に対する4回接種完了の検査陽性の調整オッズ比を用いて、相対的な有効性を算出した (図5)。16歳~64歳において、ファイザー社製・モデルナ社製いずれかの新型コロナワクチンについて、2回接種完了後181日以上経過と比較した相対的な有効性は、3回接種完了後90日以内では38.2% (95%信頼区間: 22.1~51.0%)、3回接種完了後91日~180日では18.9% (95%信頼区間: 1.9~32.9%)、3回接種完了後181日以上経過では18.7% (95%信頼区間: -7.5~38.5%)であった。3回接種完了後181日以上経過と比較した4回接種完了の相対的な有効性は、19.2% (95%信頼区間:-22.6~46.8%)であった。65歳以上において、ファイザー社製・モデルナ社製いずれかの新型コロナワクチンについて、3回接種完了と比較した4回接種完了の相対的な有効性は43.8% (95%信頼区間:15.0~62.9%)であった。
新型コロナウイルス感染症の発症予防における有効性について、新型コロナウイルス感染症の既往のない研究対象者だけに限定した解析結果を図6、図7に示す。図3、図4で示した結果と比較して、16歳~64歳においては、3回接種、4回接種の有効性に関して点推定値はやや高い傾向になった。
正確なワクチン接種日が不明であった患者については、接種日の推定法が接種後の経過日数、接種完了の有無の判断にも影響しうるため、今回は感度分析として複数の方法で接種日を推定した解析結果を比較したが、調整オッズ比に与える影響は限定的であった。
本報告では、国内でBA.5が流行した2022年7月1日から10月31日の期間において、新型コロナウイルス感染症を疑う症状があり、研究参加医療機関を受診し、新型コロナウイルスの検査を受けた患者情報を使用し、同期間における16歳以上の新型コロナワクチン(ファイザー社製新型コロナワクチン (BNT162b2)、モデルナ社製新型コロナワクチン (mRNA-1273))の発症予防における有効性を評価した。
16歳~64歳において、ファイザー社製・モデルナ社製いずれかの新型コロナワクチン2回接種完了後181日以上経過した場合には、発症予防における有効性は限られており (20.5%、95%信頼区間:1.2~36.1%)、3回接種を行うことによりその有効性が上昇することが示された (3回接種完了後90日以内: 50.9%、95%信頼区間:37.5~61.5%)。しかし、3回接種後であっても、時間の経過とともに有効性が低下する可能性が示唆され (3回接種完了後181日以上: 35.4%、95%信頼区間:13.9~51.5%)、時間経過による有効性の減弱が起きていると考えた。4回目接種によって再度有効性が上昇する可能性はあるが (4回接種完了後: 47.8%、95%信頼区間:21.6~65.3%)、95%信頼区間も広く、解釈には注意が必要である。65歳以上においては、3回接種と比較して4回接種で有意な有効性があると示された。今回のBA.5流行期の新型コロナワクチンの発症予防における有効性は、本サーベイランス研究のBA.1/BA.2流行期 (図3、図4参照)と比較して点推定値では低い傾向があった。前回の第6報 (BA.5流行期の2022/7/1~2022/8/26)と比較して、今回の有効性は低い結果となっているが、第6報の解析では未接種者のサンプルサイズが小さく、結果が安定していなかったと考える。
16歳~64歳における3回目に接種した新型コロナワクチンの種類で分けた解析では、95%信頼区間から考えると、有効性に関して、新型コロナワクチンの種類による有意な差は認めなかった。
現在までにBA.5に対する新型コロナワクチンの有効性に関するデータは世界的にも限られている。新型コロナワクチン3回接種後の血清の中和能は、BA.1/BA.2に対するものと比較し、BA.5に対しては低下すると報告されており(16, 17)、BA.5はBA.1/BA.2と比較して、免疫回避能力が高い可能性が示唆されている。本研究と同様にワクチンの有効性 (vaccine effectiveness)を評価した研究においては、米国での検査陰性デザインを用いた研究によると、BA.4/BA.5に対するファイザー社製ワクチン2回接種による有効性は外来患者において50%以下、3回接種後3カ月以内では50%以上であったが、3回接種後でも接種から3カ月を超えると有効性は50%以下であった。4回目接種による有効性に関しては、4回目の接種対象となる50歳以上において、3回接種後6カ月以上経過し低下した有効性が、4回目接種により再度上昇した (18)。ポルトガルの研究では、感染に対する2回接種の有効性はBA.2と比較してBA.5でも同等であったが、3回接種の有効性はBA.5に対して低下することが示された (19)。本報告での結果は、米国、ポルトガルの研究と同様の傾向が認められている。しかし、特に4回接種においてはサンプルサイズも小さく、今後の症例の集積が必要である。
本報告は本サーベイランス研究の暫定結果であり、2022年7月1日から10月31日においても今回の報告で集計できていない研究対象患者情報も多数あるため、今後の患者情報の蓄積と解析により変動する見込みである。また、新型コロナワクチンの入院予防・重症化予防に対する有効性、Long-COVIDに対する有効性は本研究では評価ができないため、新型コロナワクチンの新型コロナウイルス感染症全体および社会における影響に対する評価は、今後多方面からの研究が必要である。
本報告にはいくつかの制限がある。1つ目は、対象患者が2022年7月1日から10月31日の全国15か所の医療機関に限られており、現時点ではサンプルサイズが極めて限定的である。2つ目は、現在日本では医療機関において受診者のワクチン接種歴を正確な記録として確認できるシステムは整備されていないため、接種歴は主に患者 (または患者家族)に対する問診で得られた記録を基にしており、思い出しバイアスの影響を否定できない。正確なワクチン接種日が不明な患者については、「接種日」の推計方法を複数定めた感度分析を行ったが、調整オッズ比の変動は小さく、一定の妥当性は担保されていると考える。3つ目は、新型コロナウイルス検査には限界があり、症例・対照の誤分類は否定できない。4つ目は、本研究において陽性例の新型コロナウイルスゲノム解析を行っていないため、各ウイルス株に対する正確なワクチンの有効性を算出することは現時点では不可能である。5つ目は、現在新型コロナワクチン未接種者が少なく、サンプルサイズが限られてしまうため、結果の解釈には注意が必要である。
本報告は2022年12月9日での暫定結果であり速報値であるが、公衆衛生学的に意義があると判断して報告した。今後も研究を継続し経時的な評価を行うなかで、公衆衛生学的な意義を鑑みつつ結果について共有する予定である。
発熱 (37.5℃以上)、咳、倦怠感、呼吸困難、筋肉痛、咽頭痛、鼻汁・鼻閉、頭痛、下痢、味覚障害、嗅覚障害(20, 21)
同一患者の扱いは以下の定義を使用した。
慢性心疾患、慢性呼吸器疾患、肥満 (BMI≧30)、悪性腫瘍 (固形癌または血液腫瘍)、糖尿病、慢性腎不全、透析、肝硬変、免疫抑制薬の使用、妊娠
前田 遥、森本 浩之輔
齊藤 信夫
五十嵐 中
増田 真吾
的野 多加志
喜舎場 朝雄
大澤 良介、細川 直登、中島 啓
本橋 伊織
山藤 栄一郎
武藤 義和
桑満 おさむ
森川 暢
大原 靖二
石田 正之
織田 錬太郎、保科 ゆい子
寺田 真由美
早川 友一郎
松坂 俊、杉本 幸弘
勅使川原 修
淺見 貞晴、工藤智史、秋月 登
井村 春樹、井上 弘貴
嘉村 洋志
鈴木 基
本研究は、厚生労働省科学研究費補助金「新型コロナワクチン等の有効性及び安全性の評価体制」による支援を受けている。
長崎大学熱帯医学研究所呼吸器ワクチン疫学分野は、ファイザー社より本研究に関連のない研究助成金を受けている。
東京大学大学院薬学系研究科医薬政策学は、武田薬品工業株式会社より本研究に関係のない研究助成金を受けている。
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長崎大学熱帯医学研究所 臨床研究部門:森本 浩之輔
komorimo*nagasaki-u.ac.jp(*を@にして送信して下さい)