長崎大学熱帯医学研究所を中心とする研究チームは、全国の医療機関 (病院および診療所)と協力し、新型コロナウイルス感染症を疑う症状があり、研究参加医療機関を受診し、新型コロナウイルス検査を受けた患者の情報を用いて、新型コロナワクチンの有効性を評価する研究を2021年7月1日から行っている。今回、新型コロナウイルスのオミクロン株の亜系統であるBA.5による感染が全国で拡大した2022年7月1日から8月26日に、研究参加医療機関で新型コロナウイルス検査を受けた16歳~64歳について、発症予防における有効性をまとめた。
16歳~64歳の1,294名 (うち検査陽性者844名)が解析対象となった。16歳~64歳では、ファイザー社製 (BNT162b2)またはモデルナ社製 (mRNA-1273)いずれかの新型コロナワクチンの2回接種完了(2回接種後14日以上経過)後181日以上経過の発症予防の有効性は50.6% (95%信頼区間: 14.4~71.5%)、3回接種完了 (3回接種後14日以上経過)の有効性を完了後の経過日数別に見ると、完了後90日以内では75.3% (95%信頼区間: 56.9~85.9%)、完了後91日~180日では70.7% (95%信頼区間: 51.5~82.3%)、完了後181日以上では56.8% (95%信頼区間: 6.6~80.1%)と推定された。また、2回接種完了後181日以上経過を比較対象として3回接種完了の相対的な有効性を評価したところ、3回接種完了後90日以内では50.1% (95%信頼区間: 18.4~69.4%)、91日~181日では40.7% (95%信頼区間: 9.0~61.3%)、181日以上では12.7% (95%信頼区間: -81.2~57.9%)と推定された。
ファイザー社製新型コロナワクチンに限定した解析では、新型コロナワクチン2回接種完了後181日以上経過の発症予防の有効性は40.0% (95%信頼区間: -13.9~68.4%)、3回接種完了では接種完了後90日以内では70.4% (95%信頼区間: 39.4~85.5%)、91日~180日では71.8% (95%信頼区間: 47.7~84.8%)、181日以上では48.8% (95%信頼区間: -26.1~79.2%)と推定された。一方、モデルナ社製新型コロナワクチンに限定した解析では、新型コロナワクチン2回接種完了後181日以上経過の発症予防の有効性は57.5% (95%信頼区間: 12.1~79.5%)、3回接種完了では接種完了後90日以内では79.2% (95%信頼区間: 51.6~91.1%)、91日~180日では54.0% (95%信頼区間: 7.2~77.2%)と推定された。1、2回目がファイザー社製新型コロナワクチン、3回目がモデルナ社製新型コロナワクチンを接種した対象者に限定した解析では、3回接種完了後91日~180日の有効性は67.0% (95%信頼区間: 20.3~86.3%)と推定された。
本報告は全国的にBA.5による感染が拡大した2022年7月~8月の16歳~64歳における新型コロナワクチンの発症予防における有効性を評価したものである。前回の第5報で報告したBA.1流行期の新型コロナワクチンの有効性と比較して、2回接種、3回接種ともにその有効性は同等と考えられた。3回接種後には有効性が上昇したが、時間経過により再度低下する可能性が示された。
本報告は暫定値であるが公衆衛生学的意義を鑑みつつ報告した。本報告は長期サーベイランス研究の一部であり、2022年7月1日から8月26日の対象期間内でも未集計の情報も多数あるため、今後結果が変わる可能性があり、随時アップデートした結果を報告する予定である。
2021年7月1日から長崎大学熱帯医学研究所を中心とした研究チームは、全国の医療機関 (病院および診療所)と協力し、これまでにインフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの研究で使用されている検査陰性デザイン (test-negative design:TND)を用いた症例対照研究を使って (1, 2)、新型コロナワクチンの有効性を経時的に評価するサーベイランス研究 (Vaccine Effectiveness Real-time Surveillance for SARS-CoV-2 (VERSUS) study)を開始した (3)。これまで、国内で導入されている新型コロナワクチンに関して、2021年7月~9月のB.1.617.2株 (デルタ株)流行期での発症予防における有効性 (4-6)、2022年1月~3月のオミクロン株の亜系統のBA.1流行期での発症予防における有効性 (7-9)を報告し、デルタ株流行期と比較してオミクロン株流行期には新型コロナワクチンの発症予防における有効性は低下していることを明らかにした。
第6報では、全国的に新型コロナウイルスのオミクロン株の亜系統であるBA.5が流行した2022年7月~8月に、新型コロナウイルス感染症を疑う症状があり、新型コロナウイルスの検査を受けた患者情報を用い、国内における同期間での新型コロナワクチンの発症予防における有効性を評価したため報告する。
2021年7月1日から開始しているサーベイランス研究 (VERSUS study) (3)のうち、2022年7月1日から8月26日までに全国8都県 (福島県、東京都、神奈川県、千葉県、愛知県、奈良県、福岡県、長崎県)、計9か所の病院または診療所を新型コロナウイルス感染症が疑われる症状1)で受診し、新型コロナウイルス検査を受けた16歳以上の患者を対象に、患者基本情報、症状、新型コロナワクチン接種歴 (接種の有無、接種回数、接種日、接種したワクチンの種類)、新型コロナウイルス検査結果のデータを収集した。新型コロナウイルスの検査は、現在国内で診断に使用されている核酸増幅法検査 (PCRやLAMPなど)および抗原定量検査を対象とした。新型コロナウイルス検査陽性者を症例群、陰性者を対照群とした (図1)。発症から15日以降に検査を受けた患者および同一患者は定義2)に基づいて除外した。65歳以上は新型コロナワクチン優先接種対象であり、接種時期やワクチン接種後の経過期間などに交絡がある可能性を考慮して、16歳~64歳、65歳以上に分けての解析を行った。今回は研究対象者のうち、65歳以上で新型コロナワクチン未接種者数が限られていたため、16歳~64歳に限定し解析を行った。
新型コロナワクチン接種状況は、それぞれの回数において、接種後から14日以上経過した場合を「接種完了」と定義した。接種後からの時間経過により、新型コロナワクチンの有効性の低下が報告されているため (10, 11)、有効性の解析の際には、接種完了後からの経過時間で区切って評価を行った。検査結果 (陽性・陰性)に接種歴を含む種々の要因が与える影響を、混合効果ロジスティック回帰モデルを構築して調整オッズ比と95%信頼区間を算出して評価した。新型コロナワクチンの有効性は、(1-調整オッズ比)×100%で算出した。回帰モデルには、検査結果(陽性・陰性)を被説明変数、新型コロナワクチン接種歴、年齢、性別、基礎疾患の有無、検査実施カレンダー週、新型コロナウイルス感染症患者との接触の有無、医療従事者であるかどうか、を固定効果 (fixed effect)、検査実施医療機関を変量効果 (random effect)の説明変数として組み込んだ。医療従事者はワクチン接種スケジュールがその他と異なることに加え、非医療従事者と比較して感染対策や検査を受ける頻度が異なる可能性を考え、回帰モデルに組み込んだ。未接種と比較した新型コロナワクチンの有効性に加え、2回接種完了後181日以上経過と比較した3回接種完了の相対的な有効性も評価した。新型コロナワクチンの種類については、ファイザー社製 (BNT162b2)、モデルナ社製 (mRNA-1273)以外の新型コロナワクチン接種を受けた研究対象者数が極めて少ないため、ファイザー社製、モデルナ社製以外の新型コロナワクチン接種を受けた研究対象者は解析から除外した。2回接種または3回接種の有効性の解析では、ファイザー社製・モデルナ社製の両方を含めた解析および各新型コロナワクチンに限定した解析 (1~3回目すべてにおいて、同一種類の新型コロナワクチン接種を受けた場合)を行い、加えて3回接種の有効性の解析では、交差接種 (1,2回目がファイザー社製新型コロナワクチン、3回目がモデルナ社製新型コロナワクチンを接種)に限定した解析も行った。接種したワクチンの種類が不明な研究対象者に関しては、国内で接種された新型コロナワクチンの99%以上がファイザー社製またはモデルナ社製であることを考慮し (12)、いずれかのワクチンを接種していると仮定し、ファイザー社製・モデルナ社製の両方を含めた解析に含めた。
正確な新型コロナワクチン接種日が不明であった研究対象者については、接種日の推定法が接種後の経過日数、さらには接種完了の有無の判断にも影響しうる。感度分析として、複数の方法で接種日を推定した解析を行った。
本研究は長崎大学熱帯医学研究所および研究参加医療機関における倫理委員会で審査を受け、承認された後、実施した (長崎大学熱帯医学研究所倫理委員会における承認番号:210225257)。(倫理委員会がない医療機関では、長崎大学熱帯医学研究所倫理委員会で一括審査を行った。)
全国8都県計9か所の医療機関において、2022年7月1日から8月26日までに新型コロナウイルス感染症が疑われる症状1)があり、新型コロナウイルス検査を受けた16歳以上の患者1,615名が登録された。このうち、発症日から15日以降に検査を受けた47名、同一患者2)の27名、アストラゼネカ社製新型コロナワクチンを接種した4名、65歳以上の243名を解析から除外し、合計1,294名を解析に含めた (図2)。このうち、新型コロナウイルス検査陽性者は844名 (65.2%)であった。
解析対象者の基本情報を表1に示す。年齢中央値 (四分位範囲)は35歳 (27~47歳)、男性は574名 (44.4%)、200名 (15.5%)に基礎疾患3)があった。367名 (28.4%)に新型コロナウイルス感染症患者との接触歴があり、医療従事者は257名 (19.9%)であった。
全体 (n=1,294) |
検査陽性 (n=844) |
検査陰性 (n=450) |
|
---|---|---|---|
年齢n.(%) | |||
16-29歳 | 446 (34.5) | 280 (33.2) | 166 (36.9) |
30-39歳 | 353 (27.3) | 236 (28.0) | 117 (26.0) |
40-49歳 | 253 (19.6) | 162 (19.2) | 91 (20.2) |
50-59歳 | 183 (14.1) | 128 (15.2) | 55 (12.2) |
60-64歳 | 59 (4.6) | 38 (4.5) | 21 (4.7) |
性別n.(%) | |||
男性 | 574 (44.4) | 399 (47.3) | 175 (38.9) |
女性 | 720 (55.6) | 445 (52.7) | 275 (61.1) |
基礎疾患の有無n.(%) | |||
有 | 200 (15.5) | 125 (14.8) | 75 (16.7) |
無 | 1,017 (78.6) | 671 (79.5) | 346 (76.9) |
不明 | 77 (6.0) | 48 (5.7) | 29 (6.4) |
基礎疾患詳細n.(%) | |||
慢性心疾患 | 41 (3.2) | 30 (3.6) | 11 (2.4) |
慢性呼吸器疾患 | 58 (4.5) | 32 (3.8) | 26 (5.8) |
肥満 | 27 (2.1) | 16 (1.9) | 11 (2.4) |
悪性腫瘍 | 21 (1.6) | 11 (1.3) | 10 (2.2) |
糖尿病 | 38 (2.9) | 23 (2.7) | 15 (3.3) |
慢性腎疾患 | 12 (0.9) | 6 (0.7) | 6 (1.3) |
透析 | 2 (0.2) | 0 | 2 (0.4) |
肝硬変 | 2 (0.2) | 1 (0.1) | 1 (0.2) |
免疫抑制剤の使用 | 10 (0.8) | 6 (0.7) | 4 (0.9) |
妊娠 | 30 (2.3) | 23 (2.7) | 7 (1.6) |
新型コロナウイルス感染症の既往n(%) | 57 (4.4) | 31 (3.7) | 26 (5.8) |
喫煙歴 n. (%) | |||
なし | 705 (54.5) | 473 (56.0) | 232 (51.6) |
過去に吸っていた | 165 (12.8) | 116 (13.7) | 49 (10.9) |
現在吸っている | 192 (14.8) | 119 (14.1) | 73 (16.2) |
不明 | 232 (17.9) | 136 (16.1) | 96 (21.3) |
医療従事者n.(%) | 257 (19.9) | 138 (16.4) | 119 (26.4) |
新型コロナウイルス感染症患者との接触n.(%) | |||
有 | 367 (28.4) | 286 (33.9) | 81 (18.0) |
無 | 731 (56.5) | 415 (49.2) | 316 (70.2) |
不明 | 196 (15.1) | 143 (16.9) | 53 (11.8) |
新型コロナウイルス検査方法n.(%) | |||
核酸増幅法検査 | 869 (67.2) | 593 (68.2) | 276 (61.3) |
抗原定量検査 | 425 (32.8) | 251 (29.7) | 174 (38.7) |
解析対象者 (16歳~64歳)の新型コロナワクチン接種歴を表2に示す。解析対象者のうち23.1% (299名)が2回接種完了者、57.3%(742名)が3回接種完了者、0.8% (10名)が4回接種完了者であり、未接種者は13.1% (169名)であった。一方で、検査陽性率は2回接種完了者では71.9% (215/299)、3回接種完了者では60.9% (452/742)、未接種者では84.0% (142/169)であった。2回接種完了者のうち接種完了からの時間経過がわかっている解析対象者 (226名)のうち89.4% (202名)が2回接種完了後181日以上経過していた。3回接種完了者のうち接種完了からの時間経過がわかっている解析対象者 (565名)のうち25.5% (144名)が接種完了から90日以内、62.3% (352名)が91日~180日、12.2% (69名)が181日以上経過していた。
新型コロナワクチン接種歴n.(%) | 全体 (n=1,294) |
検査陽性 (n=844) |
検査陰性 (n=450) |
---|---|---|---|
なし | 169(13.1) | 142 (16.8) | 27 (6.0) |
1回接種後13日以内 | 1 (0.1) | 1 (0.1) | 0 |
1回のみ接種完了(接種後14日以上経過) | 17 (1.3) | 13 (1.5) | 4 (0.9) |
2回接種後13日以内 | 0 | 0 | 0 |
2回接種完了(接種後14日以上経過) | 299 (23.1) | 215 (25.5) | 84 (18.7) |
3回接種後13日以内 | 10 (0.8) | 2 (0.2) | 8 (1.8) |
3回接種完了(接種後14日以上経過) | 742 (57.3) | 452 (53.6) | 290 (64.4) |
4回接種後13日以内 | 3 (0.2) | 1 (0.1) | 2 (0.4) |
4回接種完了(接種後14日以上経過) | 10 (0.8) | 5 (0.6) | 5 (1.1) |
接種歴不明 | 43 (3.3) | 13 (1.5) | 30 (6.7) |
新型コロナワクチンの種類 (2回接種完了者のみ) n. (%) |
全体 (n=299) |
検査陽性 (n=215) |
検査陰性 (n=84) |
ファイザー社製 | 156 (52.2) | 116 (54.0) | 40 (47.6) |
モデルナ社製 | 93 (31.1) | 69 (32.1) | 24 (28.6) |
交差接種 | 4 (1.3) | 3 (1.4) | 1 (1.2) |
ファイザー社製またはモデルナ社製(種類不明者も含む) | 46 (15.4) | 27 (12.6) | 19 (22.6) |
新型コロナワクチン2回接種完了からの時間経過 (接種からの時間がわかる者のみ)n. (%) |
全体 (n=226) |
検査陽性 (n=168) |
検査陰性 (n=58) |
90日以内 | 6 (2.7) | 3 (1.8) | 3 (5.2) |
91~180日 | 18 (8.0) | 13 (7.7) | 5 (8.6) |
181日以上 | 202 (89.4) | 152 (90.5) | 50 (86.2) |
新型コロナワクチンの種類 (3回接種完了者のみ) n. (%) |
全体 (n=742) |
検査陽性 (n=452) |
検査陰性 (n=290) |
ファイザー社製 | 308 (41.5) | 185 (40.9) | 123 (42.4) |
モデルナ社製 | 153 (20.6) | 109 (24.1) | 44 (15.2) |
1,2回目ファイザー社製、3回目モデルナ社製 | 72 (9.7) | 47 (10.4) | 25 (8.6) |
1,2回目モデルナ社製、3回目ファイザー社製 | 47 (6.3) | 33 (7.3) | 14 (4.8) |
上記以外の交差接種 | 2 (0.3) | 1 (0.2) | 1 (0.3) |
ファイザー社製またはモデルナ社製 (種類不明者も含む) |
161 (21.6) | 77 (17.0) | 83 (28.6) |
新型コロナワクチン3回接種完了からの時間経過 (接種からの時間がわかる者のみ) n. (%) |
全体 (n=565) |
検査陽性 (n=361) |
検査陰性 (n=204) |
90日以内 | 144 (25.5) | 83 (23.0) | 61 (29.9) |
91~180日 | 352 (62.3) | 234 (64.8) | 118 (57.8) |
181日以上 | 69 (12.2) | 44 (12.2) | 25 (12.3) |
16歳~64歳において、未接種に対する新型コロナワクチン接種の新型コロナウイルス検査陽性の調整オッズ比を表3に示す。ファイザー社製・モデルナ社製いずれかの新型コロナワクチンについて、2回接種完了後181日以上経過では0.494 (95%信頼区間: 0.285~0.856)、3回接種完了後90日以内では0.247 (95%信頼区間: 0.141~0.431)、91日~180日では0.293 (95%信頼区間: 0.177~0.485)、181日以上経過では0.432 (95%信頼区間: 0.199~0.934)であった。ファイザー社製新型コロナワクチンに限定した解析では、未接種に対する検査陽性の調整オッズ比は、2回接種完了後181日以上経過では0.600 (95%信頼区間: 0.316~1.139)、3回接種完了後90日以内では0.296 (95%信頼区間: 0.145~0.606)、91日~180日では0.282 (95%信頼区間: 0.152~0.523)、181日以上経過では0.512 (95%信頼区間: 0.208~1.261)であった。モデルナ社製新型コロナワクチンに限定した解析では、未接種に対する検査陽性の調整オッズ比は、2回接種完了後181日以上経過では0.425 (95%信頼区間: 0.205~0.879)、3回接種完了後90日以内では0.208 (95%信頼区間: 0.089~0.484)、91日~180日では0.460 (95%信頼区間: 0.228~0.928)であった。
新型コロナ ウイルス検査 |
調整オッズ比 (95%信頼区間) |
||
---|---|---|---|
陽性 (n) | 陰性 (n) | ||
ファイザー社製あるいはモデルナ社製* | |||
未接種者 | 142 | 27 | 1.000 |
2回接種完了後181日以上 | 152 | 50 | 0.494 (0.285~0.856) |
3回接種完了後90日以内 | 83 | 61 | 0.247 (0.141~0.431) |
3回接種完了後91日~180日 | 234 | 118 | 0.293 (0.177~0.485) |
3回接種完了後181日以上 | 44 | 25 | 0.432 (0.199~0.934) |
ファイザー社製 | |||
未接種者 | 142 | 27 | 1.000 |
2回接種完了後181日以上 | 84 | 25 | 0.600 (0.316~1.139) |
3回接種完了後90日以内 | 35 | 24 | 0.296 (0.145~0.606) |
3回接種完了後91日~180日 | 82 | 50 | 0.282 (0.152~0.523) |
3回接種完了後181日以上 | 41 | 21 | 0.512 (0.208~1.261) |
モデルナ社製 | |||
未接種者 | 142 | 27 | 1.000 |
2回接種完了後181日以上 | 56 | 20 | 0.425 (0.205~0.879) |
3回接種完了後90日以内 | 24 | 16 | 0.208 (0.089~0.484) |
3回接種完了後91日~180日 | 76 | 23 | 0.460 (0.228~0.928) |
1,2回目ファイザー社製、3回目モデルナ社製 | |||
未接種者 | 142 | 27 | 1.000 |
3回接種完了後91日~180日 | 37 | 14 | 0.330 (0.137~0.797) |
*新型コロナワクチン種類不明者も含む。
新型コロナワクチン2回接種完了後181日以上経過に対する3回接種完了の検査陽性の調整オッズ比を表4に示す。3回接種完了後90日以内では0.499 (95%信頼区間: 0.306~0.816)、91日~180日では0.593 (95%信頼区間: 0.387~0.910)、181日以上経過では0.873 (95%信頼区間: 0.421~1.812)であった。
新型コロナ ウイルス検査 |
調整オッズ比 (95%信頼区間) |
||
---|---|---|---|
陽性 (n) | 陰性 (n) | ||
ファイザー社製あるいはモデルナ社製* | |||
2回接種完了後181日以上 | 152 | 50 | 1.000 |
3回接種完了後90日以内 | 83 | 61 | 0.499(0.306~0.816) |
3回接種完了後91日~180日 | 234 | 118 | 0.593 (0.387~0.910) |
3回接種完了後181日以上 | 44 | 25 | 0.873 (0.421~1.812) |
*新型コロナワクチン種類不明者も含む。
上記の調整オッズ比を用いて新型コロナワクチンの発症予防における有効性を算出したところ (図3)、16歳~64歳においてファイザー社製・モデルナ社製いずれかの新型コロナワクチンについて、2回接種完了後181日以上経過の有効性は50.6% (95%信頼区間: 14.4~71.5%)であった。3回接種完了後90日以内では75.3% (95%信頼区間: 56.9~85.9%)、91日~180日では70.7% (95%信頼区間: 51.5~82.3%)、181日以上経過では56.8% (95%信頼区間: 6.6~80.1%)であった。
ファイザー社製新型コロナワクチンに限定した解析では、2回接種完了後181日以上経過では40.0% (95%信頼区間: -13.9~68.4%)であった。3回接種完了後90日以内では70.4% (95%信頼区間: 39.4~85.5%)、91日~180日では71.8% (95%信頼区間: 47.7~84.8%)、181日以上経過では48.8% (95%信頼区間: -26.1~79.2%)であった。
モデルナ社製新型コロナワクチンに限定した解析では、2回接種完了後181日以上経過では57.5% (95%信頼区間: 12.1~79.5%)であった。3回接種完了後90日以内では79.2% (95%信頼区間: 51.6~91.1%)、91日~180日では54.0% (95%信頼区間: 7.2~77.2%)であった。
1、2回目ファイザー社製、3回目モデルナ社製新型コロナワクチンを接種した場合の有効性は、3回接種完了後91日~180日では67.0% (95%信頼区間: 20.3~86.3%)であった。
2回接種完了後181日以上と比較した3回接種完了の相対的な有効性の評価を上記の調整オッズ比を用いて行った (図4)。16歳~64歳においてファイザー社製・モデルナ社製いずれかの新型コロナワクチンについて、2回接種完了後181日以上経過と比較した場合の相対的な有効性は、3回接種完了後90日以内では50.1% (95%信頼区間: 18.4~69.4%)、3回接種完了後91日~180日では40.7% (95%信頼区間: 9.0~61.3%)、3回接種完了後181日以上経過では12.7% (95%信頼区間: -81.2~57.9%)であった。
正確なワクチン接種日が不明であった患者については、接種日の推定法が接種後の経過日数、接種完了の有無の判断にも影響しうるため、今回は感度分析として複数の方法で接種日を推定した解析結果を比較したが、調整オッズ比に与える影響は限定的であった。
本報告では、国内でBA.5が流行した2022年7月1日から8月26日の期間において、新型コロナウイルス感染症を疑う症状があり、研究参加医療機関を受診し、新型コロナウイルスの検査を受けた患者情報を使用し、同期間における16歳~64歳の新型コロナワクチン(ファイザー社製新型コロナワクチン (BNT162b2)、モデルナ社製新型コロナワクチン (mRNA-1273))の発症予防における有効性を評価した。
16歳~64歳において、ファイザー社製・モデルナ社製いずれかの新型コロナワクチン2回接種完了後181日以上経過した場合でも、未接種と比較し、有効性を認めたが (50.6%、95%信頼区間:14.4~71.5%)、3回接種を行うことによりその有効性が上昇することが示された (3回接種完了後90日以内: 75.3%、95%信頼区間:56.9~85.9%)。しかし、3回接種後であっても、時間の経過とともに有効性が低下する可能性が示唆され (3回接種完了後181日以上: 56.3%、95%信頼区間:6.6~80.1%)、諸外国からも報告されている時間経過による有効性の減弱が本邦でも起きていると考えた。3回接種完了後181日以上経過した場合には、2回接種完了後181日以上経過した場合と比較した相対的な有効性に関して、有意な有効性は認めなかった (2回接種完了後181日以上経過と比較した3回接種完了後181日以上経過の相対的な有効性: 12.7%、95%信頼区間:-81.2~57.9%)。今回、BA.5流行期の新型コロナワクチンの発症予防における有効性は、本サーベイランス研究のBA.1流行期 (9)と比較して同等と推定されたが (図3)、今回の解析では未接種者のサンプルサイズが小さく、95%信頼区間も広いため、注意が必要であり、今後の研究対象者の集積が必要である。
ファイザー社製新型コロナワクチン、モデルナ社製新型コロナワクチンに限定した解析を行ったところ、2回接種完了後181日以上経過と3回接種完了後90日以内では、モデルナ社製新型コロナワクチン接種の方が点推定値ではファイザー社製新型コロナワクチン接種より高い値であった。一方、3回接種完了後91日~180日では、ファイザー社製新型コロナワクチン接種の方が、点推定値でモデルナ社製新型コロナワクチンより高い有効性を認めた。しかし、いずれも95%信頼区間が広く、現段階で有意な差であるとは考えられない。
現在までに、BA.5に対する新型コロナワクチンの有効性に関するデータは限られている。新型コロナワクチン3回接種後の血清の中和能は、BA.1/BA.2に対するものと比較し、BA.5に対しては低下するという報告がいくつか示されており(13, 14)、BA.5はBA.1/BA.2と比較して、免疫回避能力が高い可能性が示唆されている。一方、英国保健相の新型コロナワクチンの有効性 (vaccine effectiveness)を評価するサーベイランス研究では、暫定的な報告にはなるが、新型コロナワクチンの有効性はBA.1/BA.2流行期とBA.5流行期では大きく変わらないと報告している (15)。本報告では、BA.1に対する有効性と比較して、同等と評価されたが、95%信頼区間も広く、注意が必要である。新型コロナワクチンの有効性の時間経過による減弱については、2回接種後に低下した有効性が3回接種後には上昇するが、3回接種後の時間経過にその有効性が低下する可能性が示された。
本報告は本サーベイランス研究の暫定結果であり、2022年7月1日から8月26日においても今回の報告で集計できていない研究対象患者情報も多数あるため、今後の患者情報の蓄積と解析により変動する見込みである。また、新型コロナワクチンの入院予防・重症化予防に対する有効性、Long-COVIDに対する有効性は本研究では評価ができないため、新型コロナワクチンの新型コロナウイルス感染症全体に対する評価については、今後多方面からの研究が必要である。
本報告にはいくつかの制限がある。1つ目は、対象患者が2022年7月1日から8月26日の全国9か所の医療機関に限られており、現時点ではサンプルサイズが極めて限定的である。2つ目は、現在日本では医療機関において受診者のワクチン接種歴を自動的に確認できるシステムは整備されていないため、接種歴は主に患者 (または患者家族)に対する問診で得られた記録を基にしており、思い出しバイアスの影響を否定できない。正確なワクチン接種日が不明な患者については、「接種日」の推計方法を複数定めた感度分析を行ったが、調整オッズ比の変動は小さく、一定の妥当性は担保されていると考える。3つ目は、新型コロナウイルス検査には限界があり、症例・対照の誤分類は否定できない。4つ目は、本研究において陽性例の新型コロナウイルスゲノム解析を行っていないため、各ウイルス株に対する正確なワクチンの有効性を算出することは現時点では不可能である。5つ目は、現在新型コロナワクチン未接種者が少なく、サンプルサイズが限られてしまうため注意が必要である。6つ目は、今回の解析では65歳以上のサンプルサイズが限られていたため評価は行っていない。
本報告は2022年9月9日での暫定結果であり速報値であるが、公衆衛生学的に意義があると判断して報告した。今後も研究を継続し経時的な評価を行うなかで、公衆衛生学的な意義を鑑みつつ結果について共有する予定である。
発熱 (37.5℃以上)、咳、倦怠感、呼吸困難、筋肉痛、咽頭痛、鼻汁・鼻閉、頭痛、下痢、味覚障害、嗅覚障害(16, 17)
同一患者の扱いは以下の定義を使用した (18)。
慢性心疾患、慢性呼吸器疾患、肥満 (BMI≧30)、悪性腫瘍 (固形癌または血液腫瘍)、糖尿病、慢性腎不全、透析、肝硬変、免疫抑制薬の使用、妊娠
前田 遥、森本 浩之輔
齊藤 信夫
五十嵐 中
的野 多加志
喜舎場 朝雄
大澤 良介、細川 直登、中島 啓
本橋 伊織
山藤 栄一郎
武藤 義和
桑満 おさむ
木村 祐也、小美野 勝、新井 博美
森川 暢
大原 靖二
石田 正之
織田 錬太郎、保科 ゆい子
寺田 真由美
早川 友一郎
松坂 俊、杉本 幸弘
勅使川原 修
淺見 貞晴
井村 春樹、井上 弘貴
嘉村 洋志
鈴木 基
本研究は、厚生労働省科学研究費補助金「新型コロナワクチン等の有効性及び安全性の評価体制」による支援を受けている。
長崎大学熱帯医学研究所呼吸器ワクチン疫学分野は、ファイザー社より本研究に関連のない研究助成金を受けている。
東京大学大学院薬学系研究科医薬政策学は、武田薬品工業株式会社より本研究に関係のない研究助成金を受けている。
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長崎大学熱帯医学研究所 臨床研究部門:森本 浩之輔
komorimo*nagasaki-u.ac.jp(*を@にして送信して下さい)