長崎大学 高度感染症研究センター 新興ウイルス研究分野/熱帯医学研究所 新興感染症学分野

アジア・アフリカにおける新興ウイルス感染症研究モデル拠点の形成 SATREPS ガボン共和国におけるウイルス感染症プロジェクト
長崎大学熱帯医学研究所
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研究紹介

感染症は、人類誕生以来今日に至るまで常に我々にとって大きな脅威として存在してきました。
現在もなお次々と新たな感染症(新興感染症)が出現し続けています。
新興感染症学分野では、特に高病原性ウイルスに注目し、その増殖機構を分子レベルから動物個体レベル、更には生態系レベルでも解析することにより、その制圧を目指しています。


【高病原性ウイルスの増殖機構の解明】

エボラウイルス、マールブルグウイルス、ラッサウイルスなどの出血熱ウイルスや重症熱性血小板減少症候群(SFTS)など重篤な疾患を引き起こすウイルスが宿主細胞内でどのようなメカニズムで増殖しているのかを解析しています。

これまでに我々はエボラウイルス、マールブルグウイルス、ラッサウイルスなどのウイルス粒子形成の過程を明らかにしてきました (左下図、EMBO Rep. 3(7):636-40. 2002; J Virol. 77(18):9987-92. 2003; J Virol. 80(8):4191-5. 2006; J Virol. 81(9):4895-9. 2007; J Gen Virol. 91(1):228-34. 2010; J Gen Virol. 96(7):1626-35. 2015; J Virol. 90(6):3257-61. 2016; J Gen Virol. 100(7):1099-111. 2019; Front Microbiol. 11:562814. 2020)。

また、感染細胞からの子孫ウイルス粒子産生を阻害する細胞性因子Tetherin/BST-2の抗ウイルス活性解析をはじめ、細胞内で起こるウイルス複製の全体像を明らかにする研究も進めています(右下図、J Virol. 83(5):2382-5. 2009; PLoS One. 4(9):e6934. 2009; PLoS One. 6(3):e18247. 2011; PLoS One. 7(7):e41483. 2012; PLoS Pathog. 14(7):e1007172. 2018; J Gen Virol. 101(6):573-86. 2020)。


高病原性ウイルスの増殖機構の解明


【新興ウイルス感染症の病態解析】

SFTS、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの新興ウイルス感染症の病態発現メカニズム解明に取り組んでいます。

最近では、遺伝子改変マウスを用いた解析からIFN経路に重要なSTAT2を欠損させたマウスを用いることで、SFTSVの種特異性のメカニズムを解明しています(下図、https://www.ccpid.nagasaki-u.ac.jp/20190228_research/. J Virol. 93(10):e02226-18. 2019)。


新興ウイルス感染症の病態解析

【新規抗ウイルス薬の探索・開発】

エボラウイルス、ラッサウイルス、クリミア・コンゴ出血熱ウイルスなどの出血熱ウイルスや新型コロナウイルスに対して、ハイスループット感染評価系やin vitro病態モデルを構築しています。そして、それらを用いてウイルス増殖や病態発現に重要な因子の探索とそれらを阻害する化合物のスクリーニングを行い、動物個体レベルで感染・発症を抑制することができる新規抗ウイルス療法の開発を進めています。また、国内外のアカデミアグループや製薬企業との共同研究も行っており、iPS細胞や人工知能(AI)等の最先端技術も積極的に取り入れながら創薬研究を実施しています。

最近では、イメージング技術を基に独自に確立したハイスループット感染評価系を用いて、新型コロナウイルスに対する感染阻害剤を同定しています(Biochem Biophys Res Commun. 545:203-7. 2021)。


新規抗ウイルス薬の探索・開発
図:イメージング機器(左図)と新型コロナウイルス感染阻害剤同定の概略(右図)


【ウイルス検出法の開発】

新興・再興感染症の病原体を迅速・簡便かつ高感度に検出できる新規検査法を開発しています。これまでに、エボラウイルス、マールブルグウイルス、ラッサウイルス、ジカウイルスを迅速に検出する蛍光LAMP法を開発・報告してきました(J Clin Microbiol. 48(7):2330-6. 2010; Microbiol Immunol. 55(1):44-50. 2011;PLoS Negl Trop Dis. 10(2):e0004472. 2016; J Virol Methods. 238:42-7. 2016; J Infect Dis. 214(suppl 3):S229-33. 2016; J Virol Methods. 238:42-7. 2016; J Virol Methods. 246:8-14. 2017; Sci. Rep. 7(1):13503. 2017; J Virol Methods. 269:30-7. 2019; PLoS Negl Trop Dis. 14(11):e0008855. 2020)。

特に、2019年末に中国武漢市で突如出現し、瞬く間にパンデミックとなった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して、蛍光LAMP法を原理とする新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の迅速・簡便検査法をキヤノンメディカルシステムズ社と共同開発しました(https://www.ccpid.nagasaki-u.ac.jp/20200326-2/)。2020年3月には厚労省から行政検査法に採用され、保険適用の検査法として国内で広く活用されています。長崎に寄港したクルーズ船コスタ・アトランティカ号で発生した集団感染においては、乗員全員の検査を上記迅速検査法で実施し、同船における迅速な感染症対策に大きく貢献しました。現在、さらに簡便な検査法の開発を行っています。


ウイルス検出法の開発
図:蛍光LAMP検出装置(左図)と検査法の概略(右図)


【海外フィールドにおけるウイルス感染症の疫学調査・病態解析】

現在の国境なき世界ではウイルス感染症は地球規模の問題です。これまでに、ラッサ熱が毎年流行するナイジェリア、エボラウイルス病による大被害を受けたギニア共和国やシエラレオネ、コンゴ民主共和国、ジカウイルスが流行したブラジルにおいて、上記で開発したウイルス検出法の導入や技術指導を行ってきました。また、疫学調査を行い、疫学調査に基づいた新規診断法の開発や病態発現機構の解析を行っています(PLoS Negl Trop Dis. 12(11): e0006971. 2018; Int J Infect Dis. 91:129-36. 2020; J Med Virol. 92(2):251-6. 2020; J Viral Hepat. 27(11):1234-42. 2020)。

2016年からは地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS: http://www.tm.nagasaki-u.ac.jp/emerging/satreps/)に採択され、中部アフリカのガボン共和国で公衆衛生上問題となっているウイルス感染症の把握と実験室診断法の確立に向けて研究を行っています。


疫学調査・病態解析
写真:2015年ギニア共和国(左)と2019年コンゴ民主共和国(右)での活動