長崎大学 熱帯医学研究所 病原体解析部門 原虫学分野 熱研75周年記念誌

熱研75周年記念誌(長崎大学熱帯医学研究所創立75周年記念)2017より


原虫学分野

 原虫学部門は1984(昭和59)年に新設され、神原廣二教授が7月に大阪大学微生物病研究所より、8月に柳哲雄助手、9月に福間利英助教授が着任した。神原と柳はシャーガス病の病原体Trypanosoma cruziの病原性や細胞感染性、機能分化に関する研究を行った。福間は1985(昭和60)年から1986(昭和61)年の期間、ケニアの国際動物病研究所に赴き、睡眠病の病原体Trypanosoma bruceiの研究を行い、1986年から1989年には柳が同研究所にて研究を継続した。設立から1990(平成2)年まで、中村文子と松尾美智子が技能補佐を行った。1990(平成2)年には木下美紀を技能補佐員として迎え現在に至る。1985(昭和60)年4月に中澤秀介助手が着任し、熱帯熱マラリアの病原体Plasmodium falciparumの研究を開始し、1986(昭和61)年から1990(平成2)年にはタイのチェンマイ大学と共同で熱帯熱マラリア患者から分離した原虫を用いて、症状との関連解析を行った。部門設立当初は共同研究室の4部屋を間借りしていたが、1985(昭和60)年8月には研究所本館第三次増築が完了し新しい研究室に移動した。1987(昭和62)年4月に上村春樹助手が着任しT. cruziの研究グループに参加した。上村は1989(平成元)年-1991(平成3)年の期間、ニューヨーク大学へ留学し、T. cruziのトランス・シアリダーゼの機能解析を開始した。1990(平成2)年4月に福間が久留米大学医学部教授として異動し、1992(平成4)年には上村が講師となった。1990(平成2)年頃より熱帯熱マラリア原虫メロゾイトの表面抗原の遺伝子多型の共同研究とBCG菌を用いたマラリア・ワクチンの共同研究を行った。1991(平成3)年から1993(平成5)年には日本学術振興会の支援によりインドネシアのアイルランガ大学とロンボク島でのマラリア疫学調査を行った。さらに2001(平成13)年から2004(平成16)年には、国際協力事業団開発パートナー事業によるロンボクおよびスンバワ島におけるマラリアコントロールプロジェクトを実施した。上村は現在もアイルランガ大学とマラリア原虫の薬剤耐性遺伝子の分子疫学研究を行っている。柳は1993(平成5)年から1996(平成8)年にグァテマラに赴任し、シャーガス病の簡便診断法開発プロジェクトに参加した。2001(平成13)年には柳が動物実験施設に異動し、2007(平成19)年3月には神原が定年を迎えた。神原が教授を務めていた期間に、技能補佐員として久原絵里子、冨丸紅、吉永一未、森崎めぐみらが、助手として村田建一郎、永尾敬美らが、客員教授として相川正道が、客員研究員として蛭海啓行が教室の研究・運営に携わった。この間に13名の大学院生が博士の学位を授与され、博士研究員としてソースクリ・ワルニー、リベラ・ウィンデル・ラベリント、アンドリュー・ジョナサン・ノック、シュアイブ・モハマドゥ・ナシル、リリアナ・ペラヨ・デュラン、アーマド・レザ・エスマエリが在籍した。また、2002(平成14)年にはソムチャイ・ジョングウティヴェスが熱研分子疫学分野の客員教授として研究に参画した。2006(平成18)年の「第47回日本熱帯医学会・第21回日本国際保健医療学会合同大会」を始めとする多数の学術研究集会も主催した。

 2007(平成19)年5月に愛媛大学から金子修が第二代教授として、11月には矢幡一英が助教として着任し、マラリア原虫の赤血球侵入と寄生赤血球改変の分子機構、熱帯熱マラリア原虫フィールド分離株を用いた研究を開始した。2008(平成20)年1月にリチャード・カレトン(現、熱研病理学分野准教授)がテニュア・トラック助教として着任し、媒介蚊を用いたマラリア原虫の遺伝学的研究を開始、2011(平成23)年にマラリア研究室として独立した。2009(平成21)年4月に坂口美亜子特任助教(2013(平成25)年から熱研電顕室助教)が着任した。中澤は2011(平成23)年から3年間、アジア・アフリカ学術基盤形成事業によるベトナムでのサルマラリアの疫学研究を技能補佐員の松尾佳美らとともに推進し、2012(平成24)年に日本熱帯医学会「第一回相川正道賞」を受賞した。また、2016(平成28)年3月の定年までラオスでのマラリア疫学研究にも参画した。上村はシャーガス病の薬剤開発研究を開始した。2013(平成25)年2月に麻田正仁助教が着任し、マラリア研究に加えて、ハキミ・ハッサン博士研究員とともにバベシア原虫の研究を開始した。麻田は2015(平成27)年に日本寄生虫学会奨励賞を受賞した。2013(平成25)年からサルマラリア原虫P. knowlesiに関する研究を開始した。2010(平成22)年から2016(平成28)年の期間、ゲイツ財団の支援により、3名の博士研究員(後藤美穂、パンパディット・サンサヤラート、キッティサク・タナション)が三日熱マラリア原虫の培養系確立に向けた研究を推進し、現在は三日熱マラリアの休眠現象の解明に向けた国際共同研究へと展開している。また、2011(平成23)年から2015(平成27)年には、新学術領域研究「マトリョーシカ型進化原理」に計画研究班として参画し、宮崎真也博士研究員を中心に、マラリア原虫の赤血球改変機序に関する研究を推進した。2013(平成25)年から、麻田と熱研分子疫学分野の客員教授トーマス・テンプルトン、竹田美香特任研究員を中心にチュラロンコン大学獣医学部のモラコット・カエタマソーン(本教室OB)と共同で、偶蹄類マラリアに関する研究を開始した。矢幡は博士研究員のペドロ・フェレイラとキショール・パンディーとともにマラリア原虫の細胞内カルシウム濃度の評価系を開発した。この間、研究支援員・技能補佐員として宮下さつき、市丸優子、林田望、シェン・ポール・スー、大越桃子、田中玲子、高M幸絵、松本菜奈が参加した。博士研究員として五十棲理恵とラ・ミヤ・モンが上村と、姜寧、ソフィア・ボルゲス、ジョー・ムトゥンギらが金子と研究を行った。8名の大学院生に博士の学位が授与され、3名の他学大学院生の博士論文研究を推進した(ティッパワン・スンカポン、唐建霞、加賀谷渉)。2017(平成29)年にはジェッセ・ギタカに論文博士の学位が授与された。2017(平成29)年9月現在、博士課程に5名が在学中である。

2000年 春

2009年 春

2015年 春


 

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