長崎大学 熱帯医学研究所 病原体解析部門 原虫学分野 熱研50年の歩み

熱研50年の歩み(長崎大学熱帯医学研究所創立50周年記念)1992;p46-48より


原虫学部門

 原虫学部門は1984年(昭和59年)に開設され、神原教授(1984年7月〜現在)が大阪大学微生物病研究所から転任して以来、9年目となっている。当部門では、アフリカ・トリパノソーマ症(アフリカ睡眠病)、南アメリカ・トリパノソーマ症(シャーガス病)、そして熱帯地における最も重要な原虫性疾患であるマラリアを対象として研究を行っている。

1)アフリカ・トリパノソーマ症に関して
  福間助教授(1984年9月〜1990年3月、現久留米大学医学部教授)、柳助手(1984年8月〜現在)は、T. bruceiの全発育ステージをin vitroで安定に培養する系の開発を行った。二人はJICAの派遣専門家としてILRADでも同方向の研究を進め、柳助手は培養系を用いて原虫の弱毒化に成功し、病原力の研究へと進展させている。また大学院生ピーターさん(1985年4月〜1989年3月)はこの培養系を用いて、各種単糖類の原虫への影響を研究して学位を取得した。

2)南アメリカ・トリパノソーマ症に関して
  神原教授と柳助手は阪大微研の時から継続して病原体T. cruziの生活環に応じた形態変化の研究を行ってきて、原虫を低pHにさらすことによって変化が促進されることを明らかにした。現在、生化学的因子の解明へと進んでいる。また、タイからの客員研究員ワルニーさん(1988年3月〜1989年2月)と大学院生マリー・ローズさん(1990年10月〜現在)は電子顕微鏡を用いて、形態変化に伴う細胞内小器官の微細構造の変化を追いかけている。上村助手(1987年4月〜現在)は、本原虫が宿主細胞へ侵入する際に重要な役割をしているトランス・シアリダーゼの遺伝子をクローニングして、その機能についてニューヨーク大学と共同研究を行っている。

3)熱帯熱マラリア原虫に関して
  熱帯熱マラリアの重症化は、原虫感染赤血球が血管内皮細胞に付着して血液循環にのらないことに起因する。中澤助手(1985年4月〜現在)は、一貫してその機構について研究している。1986年からはタイ北部地域に出かけて熱帯熱マラリア患者から新鮮株を得、付着能の差と患者症状の重症度との関連について検討を行った。得られた分離株を用いて、大学院生ソムチャイさん(1989年2月〜現在)は、メロゾイトの表面抗原p190の多様性について大阪工業大学田辺教授との共同研究を行っている。1990年からは柳助手、村田助手(1991年1月〜1991年10月)が、長崎大学歯学部山田教授との共同で、BCG菌をマラリアワクチン開発に応用するための基礎研究を開始した。

 この間に研究補助の女性たちもすっかりかわり、我々もいろいろな実験結果を得てきているが、次への新しい展開も期待されている。その意味では、今年1月から4月に客員教授としてケースウェスタンリザーブ大学から相川正道先生においでいただけたことは有意義であった。
  スタッフ全員で始めた夕方のランニングは、ただ一人、神原教授のみが続けている。しかし、週に一日ぐらい休みの日もあり、9年の歳月の経過が感じられる。


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