2021年 オンラインセミナー熱研夏塾 「様々な感染症との攻防」


2021年7月11日(日)熱帯医学研究所は,感染症研究教育拠点連合及び感染症共同研究拠点との共催で、熱研夏塾2021を開催しました。日本国内に加えて、カナダ、米国、タイなど海外からも参加があり、その総数は95枠155名でした。セミナーは講演の部と質疑応答の部の2部構成で、後者では、50分間に35問の質問(質問のいくつかは同一のもの有)が出され活発な質疑応答がなされました。詳細は以下の通りです。

第一部 講演

1.北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所 古田 芳一 先生
 「ゲノムを見て、細菌が病気を引き起こす仕組みを調べる」

2.東京大学医科学研究所 小栁 直人 先生
 「ヘルペスウイルス感染症の制圧に向けて」

3.大阪大学微生物病研究所 山中 敦史 先生
 「デング熱流行国で13年間ウイルスの研究を行ってみた」

4.長崎大学熱帯医学研究所 佐倉 孝哉 先生
 「抗マラリア薬のつくり方」

第一部の講演については、学術論文に投稿予定の内容や、現在実施している研究が他機関との共同研究であることなどの理由から、動画を公開することができません。何卒、ご理解頂きますようお願い申し上げます。

第二部 質疑応答

詳細は下記の通りです。内容が重複する質問については質問を一つにまとめています。

●古田先生への質問

Q. 私は中学生ですが今,理学部でクマムシの研究をしています。炭疽菌の芽胞が,クマムシの環境に耐性を持つという能力に似ていると思ったのですが,クマムシの場合は常に耐性を持っているわけではありません。炭疽菌の場合は,常に芽胞を形成しているのでしょうか。
A. (古田先生)
大変いい質問だと思います。クマムシも環境が乾燥した時には丸くなって耐え,水をかけると生き返るという能力が有名です。炭疽菌の場合も常に芽胞なわけではなく,土の中にいるときだけ,あるいは二酸化炭素濃度が低いときだけ芽胞を形成します。人や動物の体に入ると二酸化炭素濃度が高い状態になるので,それを感知して,芽胞ではない状態になって細胞分裂をまた開始することができる、というメカニズムです。
 
Q. 私は感染症のワクチンや治療法の研究がしたいと思っているのですが,そのような研究をするとなると,先生のようにプログラミング等ができないといけないのでしょうか。
A. (古田先生)
プログラミングができなくても研究はできますが,できたほうが武器になるのは間違いないです。ゲノム配列や遺伝子情報は昨今かなり情報蓄積がされておりますので,それを自由自在に操れた方が,治療法を考えたり,調べたりするときに実験以外の切り口を持っているという強みになると思います。絶対できなければいけませんとは言いませんが,できたほうが面白いことができます。
A. (奥村)
今の時点でプログラミングができないから無理といったことはあまり考える必要はないと思います。大学に入って,自分のしたい研究を考えながら,その時代に合ったソフト等を使って勉強することもできます。ただ,パソコン等に拒否感があるといったことがあれば,慣れる練習をするくらいだと思います。いかがでしょうか,古田先生?
A. (古田先生)
そうですね,そういったアレルギー反応というと非科学的ですけど,パソコン等に拒否感を持ってしまう方もいらっしゃいます。ただ今の時代,なにか一つくらいプログラミング言語を書けると楽しいですよ。
A. (奥村)
そうですね,マストではないけれども,パソコンやプログラミングに興味を持って少し遊び感覚でやってみるというのがいいかもしれませんね。
 
Q. 炭疽菌に効く薬はありますか。
A. (古田先生)
炭疽菌はバクテリアですのでよくある抗生物質が効くのは知られています。
ただし,炭疽菌は感染してから毒素を出すタイプなので,感染初期であればそれで十分治るのですが,感染してから時間が経ち毒素がたくさん出て細胞が死に始めているという状態だと手遅れになることもあります。炭疽の場合もワクチンがあるにはありますが,効きが大変悪いという点からあまり普及していません。テロ対策をするアメリカ軍の兵士等が打つこともありますが,屈強な兵士が寝込むほどの副作用があり,かなり頻繁に打つ必要があるという点から,目下のところ、実用的なヒトワクチンはありません。
 
Q. 炭疽菌が人間に感染した時には,皮膚や肺や腸に影響がでると伺いましたが,動物に感染した時にはどのような影響がでるのでしょうか。
A. (古田先生)
ヒトの場合と同様に皮膚なら触れたところが黒くかさぶたになります。飲み込めば腸等に感染し炎症を起こしますので,人間と同じですね。
 
Q. ゲノム解析はLinuxを使っていますか。
A. (古田先生)
Linuxという単語が出てきたことに非常に驚いていますが,使っています。Linuxを使ったり,普段使いだとMacです。Macの中にLinuxが組み込まれているようなものですし,最近ではWindowsでもLinux系のOSが使えるようになりました。WSL2という単語で探していただけるとわかるかと思います。ここ最近は,プラットフォームはあまり関係なくどれでも使えるようになってきています。
 
●小柳先生への質問

Q. 小柳先生に質問です。私も口唇ヘルペスを繰り返します。
発症し内科を受診したところ口唇に塗布する抗ウイルス薬を処方されましたが,症状は悪化しました。翌年,再発し皮膚科を受診したところ抗ウイルス薬の内服薬が処方され軟膏は抗生物質でした。皮膚科医によると内服の方が効果的とのことでした。経過は良好で外見もひどくなりませんでした。内科医にも最新の最適な治療法が浸透するいいのではと感じましたが,医療界での情報の伝達はどのようになっているのでしょうか。
A. (小柳先生)
私は,医師ではないので明確な返答は難しいのですが,やはり口唇ヘルペスかなと思ったら,まず皮膚科を受診いただくのがいいかと思います。ドラッグストア等でも市販のヘルペスの軟膏は販売されているのですが,自分で判断せずに医師に診てもらうことをお勧めします。内科の軟膏を塗って悪化したとのことで,塗ってない状態と塗った状態を比較できないのでその薬が悪化の原因かはわからないのですが,今後ももし再発するようなことがあれば病院にご相談されるといいと思います。情報として,ヘルペスの薬として内服薬は最も一般的ですし,同時に軟膏を塗るという治療法もよくとられます。ですので,大方の先生方,特に皮膚科の先生ならご存じかと思います。
A. (奥村)
私は薬剤師ですが,同じく口唇ヘルペスを繰り返したことがあります。自分の経験から申しますと,軟膏は塗るタイミングも関係あるかもしれません。まだピリピリしている時期に軟膏を塗ると比較的効果があったが,つぶれて潰瘍ができてしまってからだと軟膏はなかなか効かないということを経験したことがあります。内服薬と軟膏が同時に出ているとすれば,タイミング次第なところがあり,どっちがいいとはあまり言えないかもしれません。
小柳先生,ヘルペスウイルスが軟膏の成分に耐性化してしまい効かないということがありますか?
A. (小柳先生)
単純ヘルペスウイルスにはあまり耐性ができないと言われています。ですので,薬を塗って耐性ウイルスが増えてしまうということも,新しくできてしまうということもあまりないと思います。
A. (奥村)
ありがとうございます。そうすると,やはりタイミングで効いたり効かなかったりもありますし,早期に受診するとまた違う可能性もありますね。
 
Q. 80種のウイルスタンパク質全部を調べるのはどのぐらい大変ですか?
A. (小柳先生)
世界のヘルペス研究者は,ほとんど一人一つのたんぱく質,もしくは一つの現象を研究するのでいっぱいいっぱいといったところです。一人で何個もやるというのは非常に大変ですが,できるだけ多くのメンバーでいろんな分野,いろんなたんぱく質を研究すると,それで80種類のうちいくつも研究することができることもあります。一つのたんぱく質を知るということだけでも,一人の研究者が一生かけて研究するといった分野なので,80種のたんぱく質を全部調べるのはとても大変な作業になります。
 
●山中先生への質問

Q. デングウイルスは二度目の方が重症化してデング出血熱となると伺いましたが,それはなぜでしょうか。
A. (山中先生)
これもまだ仮説の段階ではあるのですが,一度目にかかった時に抗体ができます。抗体はできますが,ある程度時間が経つと薄まってきます。抗体が薄まってくると,今日の発表でもありましたが,ADEという現象が起こります。そうすると,薄まった時にまた違う型のウイルスに感染した人はさらにウイルスに感染することになり,デング出血熱を発症するということが定説となっています。
 
Q. デングウイルスの感染経路が異なっていて,蚊の活動とデングウイルスの活動が比例しているという話を聞いたのですが,もし蚊を駆除してデングウイルスを止めようとした場合に,ボウフラが減って川をはじめとする自然環境に影響が出るのではと思うのですがその辺はどうなのでしょうか。
A. (山中先生)
実はシンガポールという国は,閉鎖的な小さい国ですので,以前蚊をコントールして蚊の数をゼロにしたことがあります。そうすると,ヒトはデングウイルスに対して免疫がなくなってしまいました。数年間はデング熱発症者もゼロだったのですが,どうしても海外との人の移動はありますので,抗体がなくなった状態で感染することで,感染者が爆発的に増えました。ですので,蚊を完全に駆除してデング熱をなくすということは現実的に無理だと思います。また,蚊がいなくなるのが一番いいと思いますが,おっしゃるように,生態系的にも蚊を完全に駆除するということはしない方がいいのかなと思います。
 
Q. 実際にデング熱が流行している地域で研究することについて不安などはなかったのですか。
A. (山中先生)
最初インドネシアに渡航した時は,確かに蚊に対してとてもセンシティブで,ちょっとでも蚊がいたらすぐに殺虫剤をまいていたのですが,やがて慣れます。
また,大人は免疫がちゃんと働いて多少刺されても発症することはほとんどありませんので,今はそんなに怖さはありません。
 
Q. デング熱とマラリアは宿主がどちらも蚊ですが,(マラリアを媒介する)ハマダラカがデングウイルスを吸ってヒトに刺したとしてもヒトはマラリアに感染するのですか?
A. (山中先生)
回答はNoです。ハマダラカはアノフェレスという種類の蚊でして,デングウイルスはこの蚊の中で増えることはできません。ですので,デングウイルスをアノフェレスが伝播することはできません。
逆も同じでデング熱の媒介蚊の中でマラリアウイルスが増えることはありません。よってここが入れ替わるということはありません。
 
Q. 山中先生が開発されたデングワクチン候補は,どのくらいの期間効果がありますか。
A. (山中先生)
DNAワクチンという戦略は何回も打たないと効果が出ないというデメリットもあります。例えば3回打ったとして,効果は1~2年くらいが限界ではないかと思います。
A. (奥村)
1~2年効果があるとすれば,もしデング熱流行国にいるのであれば,定期的に接種する必要があるということですね。
 
Q. そもそもDNAワクチンとRNAワクチンはどう違うのでしょうか。
A. (山中先生)
RNAワクチンというのは,RNAそのものですので,RNAからたんぱくが翻訳されて出てくるという2ステップになります。DNAワクチンはDNAがRNAになって,RNAからたんぱくがでてくるというシステムですので,1ステップDNAワクチンの方が多くなります。ですので,読み間違えがあったりというデメリットがあります。ただ,RNAは皆さんもご存じだと思いますが,不安定で-80℃や-20℃といった環境での保存が必要になりますので,開発途上国ではなかなか管理が難しくなります。DNAワクチンだと例えば4℃でも運ぶことができますので,そういった面でメリットもあります。
 
Q. 海外でフィールドワークなどをする際に語学力はどれくらいのレベルが必要ですか。
英語のほかに身につけるべき言語はありますか。
A. (山中先生)
僕は英語ボロボロの状態で現地に行きました。おそらく当時の僕より今参加されている皆さんの方が英語力はあると思います。インドネシアにいた時は,インドネシア人も英語ネイティブではないので,お互い伝えようという気持ちでなんとか伝わっていました。また現地の言葉,例えばインドネシア語ですが,3~4年も現地にいれば現地語でのコミュニケーションも問題なくなります。インドネシア語で言えば,文字として使われているのはアルファベットだったので,とっつきやすい部分はありました。逆にタイ語は文字が全くなじみのないタイ文字だったので大変でした。
結論から言えば,英語は多少できなくてもフィールドワークはできます。
 
Q. 日本では蚊の対策として蚊取り線香があると思うのですが,現地ではどのくらい普及していて,どのくらい効果があるのでしょうか。
A. (山中先生)
僕もインドネシアに赴任が決まって,日本制の蚊取り線香をいっぱい買って持っていきましたが,結論から言うと日本の蚊取り線香は海外の蚊には効きません。現地の蚊取り線香や殺虫剤しか効かないというのが経験談としてあります。
A. (奥村)
現地で使われているものが最も効果的ということですね。
 
●佐倉先生への質問

Q. 今後もしかしたら新型コロナウイルスの影響もあって,マラリア感染の死者数も増えるかもしれないと言われていましたが,なぜ新型コロナウイルスが流行することによってマラリアの感染者が増えるのでしょうか。
A. (佐倉先生)
現地でマラリア対策をする時には,日本のように医療が整備されているわけではなく,みんなが病院にアクセスできる環境がないことの方が多いです。各地域の小さい診療所に出向いていって,その地域のマラリア患者の数を調べるために一人一人チェックして,その場で薬を処方するといった方法で対策をしていきます。しかし,新型コロナウイルスが流行すると,医療従事者の感染リスクもあり,地域レベル・コミュニティレベルの対策に支障をきたしてしまい,今までであればフォローアップされた患者さんが検査や治療をされなくなってしまうという懸念があります。
 
Q. マラリア創薬においてより多くの人に届けるために,薬の価格を1ドル以下に抑える必要があるとおっしゃっていましたが,抗マラリア薬のコストをどのような方法で押さえることができるのでしょうか。
A. (佐倉先生)
コストについてはなかなか回答するのが難しいのですが,僕らが関わるところはかなり基礎的なところで,薬のタネ(薬の候補となる物質)を探すような段階です。実際にその後製品になるまでには,製薬企業が多大な努力をしてコストを下げるステップを踏んでいきます。おそらく,いざこれは薬になりそうなので開発を進めようと決まったら,できるだけ安く作るためのアイディアを出したり,安く作るための方法をさらに研究して進めていくことになります。それは先進国向けの創薬とはまた違って難しい点だと思います。
 
Q. 現在地球温暖化が問題になっており,日本の気温も上昇してきていると思いますが,これからもっと地球の気温が上昇していったら,今熱帯・亜熱帯にいるハマダラカが日本に来ることもあるのでしょうか。
A. (佐倉先生)
マラリアが日本で流行る可能性があるかということですよね。そういう話はよく聞くのですが,僕はあまりないだろうと考えています。日本にも日本固有のハマダラカはいます。しかし,日本のハマダラカはマラリアを媒介する能力が非常に低く,あまり広がらずに対策できたという環境にあるので,すぐにマラリアが流行るということはないと思います。またもう一つ,ハマダラカはヒトスジシマカのようなデング熱の媒介蚊とは違って,非常にきれいな水の中でしか増えることができないため,街中にはあまりいません。そうすると,僕らが暮らしているような場所で蚊が増えることはあまり考えられず,日本でマラリアが広がることはおそらくないのではないかと思います。
 
Q. 平清盛はマラリアで亡くなったと言われているとおっしゃっていましたが,その時からマラリアはあって,流行っていたのでしょうか。
A. (佐倉先生)
実際は,その文献の記述からマラリアだったのではないかという仮説を立てているだけです。他にもインフルエンザ等いろいろと可能性はあります。もちろんその時代ではマラリアについて知られていないので,実際はどうだったかというところまではわかっていません。
 
Q. 数年前,マラリアを増やさないため,不妊の蚊を大量に放す試みがあったように記憶していますが,うまくいったのでしょうか。
A. (佐倉先生)
不妊の蚊の話は聞いたことがありますが,確か遺伝子組み換えで不妊にしたということで放ったのですが,実際には卵を産んで増えてしまっていたということだったと思います。組み換えを行った生き物になるので,そういった点は厳密にコントロールしながら実施しなければならなかったけれども,やはり自然の力は強くて、結果的には増えてしまったのでこの方法は使えないとされたニュースを見た記憶があります。
 
Q. 途上国では経済的な問題があり,抗マラリア薬やワクチンの開発によるマラリアへの支援は現実的には難しいと思います。薬以外ではどのようなことが支援になると思いますか。
A. (佐倉先生)
難しい質問ですね。一般的な答えとしては教育が重要ということをよく聞きます。しかし,僕もあまりフィールドで活動していたわけではないですが,現地の人がそこまでマラリアのことをわかっていないのかというと,そうでもないと思います。ですので,やはり薬を作るのにはお金がかかってしまいますが,それを貧しい人に届けるときに,国連等の機関がサポートして,使用を推奨するような形で対策していくのが現実的ではないかと思います。
 
Q. 抗マラリア薬を作ることが難しいようにワクチンを作ることも難しいのでしょうか。
A. (佐倉先生)
ワクチンを作ることも難しくて,今のところ実用に耐えうるレベルのワクチンはまだできていません。研究レベルで,数か月前に臨床試験で非常に効果のあるワクチンが出てきたという論文は出ていましたが,そこから製品化されるにはまだ時間がかかると思います。
 
Q. 鎌状赤血球症の方はマラリアに感染しにくいと聞いたことがあるのですが,鎌状赤血球症の方のマラリア原虫の生活環での肝細胞期ではどうなるのですか?
A. (佐倉先生)
具体的でかなり難しいですね。僕も答えは持っていないですが,鎌状赤血球の中でもマラリア原虫は普通に増えるそうです。ただ,今日はほとんど話をしなかったのですが,マラリア原虫に感染すると赤血球がお互いにくっついて,それが血管に詰まって症状を起こすというのもマラリアのポイントで,鎌状赤血球の人は感染した赤血球がくっつきにくいため,普通の方より症状が抑えられるそうです。肝細胞期は症状としては全くでないのでそこはあまり変わらないのではないかと思います。
 
●総合的な質問

Q. 文系でも感染症の撲滅に役に立てますか。
A. (古田先生)
我々科学者は病気がどうやって起きるのかを解析することや,どういった治療薬を開発できるかということを仕事としていますが,そうやって作った治療薬等をどう国中,世界中に広めるかということは,文系の方でも仕事としてあると思います。もちろん病気等に関する知識を持っていたほうがいいとは思いますが,活躍の場はいくらでもあると思います。
A. (奥村)
そうですね。ユニセフ等は非常に文系の方が多いです。そういったお仕事であれば感染症対策・熱帯感染症の対策にも関わることができるのではないかと思います。
A. (小柳先生)
私が研究しているヘルペスウイルスを例に出すと,この単純ヘルペスウイルスは性感染症としてもかなり問題になっていて,出産のときに影響する可能性がある点やパートナーにうつしてしまうという点から特に女性が悩まれることが多いです。あまり周りに言い出せなかったり,病院に行くことが恥ずかしいということで隠してしまうことも多く,病気としても苦しいですが,精神的にもかなり苦しい病気として知られています。ですので,そういった面のケアや教育の仕事も,感染症の撲滅には非常に大事だろうと考えています。
A. (山中先生)
僕も全くの素人から感染症に関わりだしたので,技術の面で言えばスタート時点では文系の方とほぼ変わらないと思います。ただ,試薬を調整する際には, 化学についてある程度の知識があるほうがいいかと思います。もし文系の方でも感染症研究に進みたければ可能だと思います。
A. (奥村)
あとはラボだと化学物質アレルギーの方は申し訳ないけれど実験ができないという方はいらっしゃいますね。そういった関係で文系理系問わず実験系の研究が難しい方もいらっしゃいます。
A. (佐倉先生)
マラリアに関していうと,いい薬を作っても,流行国では偽の薬が出回りそれで命を落としたという報告もありました。薬を開発する仕事は理系が中心となってやることになりますが,最終的に現地で感染している人たちにどうその薬を届けていくかという仕事やその方法について政策提言する仕事は文系の方でも関われるし,とても重要だと思います。
A. (奥村)
文系の方でも必ずしもあきらめる必要はないということで,希望を持って勉強していただければと思います。
 
Q. 熱帯感染症について研究をする職業に就きたいのですが高校生の時にどのようなことをしておくといいですか。
どのような本を読んでいたらいいでしょうか。
A. (小柳先生)
本で言えば,基礎研究をされてきた方が書いた研究についての本が販売されています。。そういった本を読むと,どういった気持ちで,どういったことを目指して研究しているのかを知ることができ,将来の参考になると思います。
高校生の時やっておくことは,何かに熱中して全力で取り組むということをやってほしいと思います。研究は見えないものとの闘いなので,すべてうまくいくとは限りません。ですので,根気や忍耐力やあきらめない力が非常に重要になります。
また,私も苦手ですが,国内だけで仕事をすることがなかなか難しい時代ですので,ぜひ英語を話せるように勉強していただけると活躍の場が広がるかと思います。
A. (奥村)
そうですね。仕事の定義にもよりますが,研究者はどうしても学会で発表したり,海外へ向けて国際誌で論文を発表したりということが必要になります。英語が共通言語としてとても重要ですね。国際学会で何とか発表はできても,質疑応答で英語がわからずしどろもどろになるとせっかくのいい研究も評価されない可能性があります。英語は今のうちから勉強されたほうがいいかもしれませんね。
A. (佐倉先生)
熱帯感染症ということなので,海外に興味を持っておくといいと思います。今は[COVID-19蔓延下で] 海外に行けるような状況ではないですが,チャンスがあったら行ってみる,外国人の方がいたら交流してみるといったことを高校生のうちからやっておくと,実際にそういう状況になった時に対応できるのではないかと思います。
本に関しては,感染症という意味では,フランスのパスツールとドイツのコッホが近代細菌学の祖と言われています。この二人の本はたくさん出ているので,それを読んでおくと歴史的に人類がどの様に感染症と戦ってきたかというのも分かるのでいいのではと思います。また寄生虫に関しては「寄生虫のはなし ―この素晴らしき,虫だらけの世界―」(朝倉書店)が昨年出版されました。多数の寄生虫研究者が様々な寄生虫を紹介する目的で執筆したものなので、興味がある方は手に取ってみて下さい(後日追記)。
 
Q. 研究者として大事にしていることは何ですか。
A. (古田先生)
常に新しいことに興味を持つことです。そこをキャッチアップしていかないと,古いことばかりすることになりますので,何か新しい技術が出たら,好奇心をもってがんばってついていくことを大事にしています。
A. (小柳先生)
研究者は,僕の場合は特に,毎日同じことを続けていくので,やはり継続する力を大事に研究しています。
A. (奥村)
忍耐力と地道な努力が大事だということですね。
A. (山中先生)
矛盾するかもしれませんが,海外にいると研究だけではなく,人間関係の大切さというのも痛感します。人間関係・研究・家庭などいろんなことを平均的にやっていくということが大事なことだと思います。
A. (奥村)
とても大事なことだと思います。人間関係がうまくいっていると,どこかで誰かがサポートしてくれるかもしれないし,精神的に支援してくれるかもしれません。それがいい研究にもつながるかもしれませんね。
A. (佐倉先生)
最後のスライドで説明しましたが,大事にしていることはチャンスが来たらなんでも失敗を恐れずにトライするということかと思います。
 
以上