オンラインセミナー 「熱研夏塾」 2020年 特別講義 「人類とウイルスの攻防」


 2020年7月19日(日),熱帯医学研究所及び感染症共同研究拠点の共催で,オンラインセミナー「熱研夏塾」を開催しました。例年,地域の皆様,特に中学生・高校生に熱帯医学研究所の取り組みを知っていただく目的で実施しておりました「熱研サマースクール」の代替イベントとして,新型コロナウイルス感染防止の観点から,オンラインセミナーの形で実施いたしました。103名の方々が参加し,うち87%が中高生または小学生でした。



新型コロナウイルス
オンラインセミナーの様子


 講師は,本研究所新興感染症学分野の吉川禄助助教が担当しました。吉川先生は,従来のPCR法よりも検査時間を短縮できる,LAMP法を使ったCOVID-19診断キットを開発した新興感染症学分野の安田二朗教授の研究チームに所属しております。このLAMP法は長崎港で先日発生した大型客船コスタ・アトランチカ号での集団感染の診断でも活躍しました。
 今回は,「人類とウイルスの攻防」をテーマに,ウイルスの仕組みや歴史,COVID-19対策について,質疑応答も併せて約1時間のセミナーとなりました。
 講演に続く質疑応答では,現在ニュース等で見聞きした情報の中から疑問に思っていたことを,今回のセミナー内容を踏まえてさらに深く質問されている印象でした。どうしてもウイルスの悪い面ばかりが見えてしまう時代ですが,ウイルスと戦う方法だけではなく,人類の進化という側面から見たウイルスのいい面やウイルス研究の意義・面白さもお伝えすることができたのではないかと思います。

 講義動画はこちらから視聴できます。



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質疑応答抜粋:
質疑応答では高校生を中心に活発に質問が行われました。いくつかについて簡単にご紹介します。

Q. 今ニュースで毎日見る,唾液によるPCR検査と先生方が開発された蛍光LAMP法は検査の種類が違うのでしょうか。
A. PCR法とLAMP法のどちらの方法でも,唾液や鼻腔ぬぐい液(スワブ)といった検体からウイルス遺伝子を検出することができます。しかし,検出するメカニズムが違います。
 
Q. ニュースで政府が検査体制を拡充すると言われていますが,LAMP法の検査体制を拡充するわけではないのですか?LAMP法は速く検査できる技術なのに,あまり大々的にLAMP法を使おうとされていないのはなぜでしょうか。
A. 一般的に検査体制の拡充と報道されるときには,PCR法とLAMP法が一緒に扱われていることも多くあります。例えば,長崎県ではすでにLAMP法での検査も多く行われています。また,PCR法とLAMP法は検出する機械が大きく違います。PCR法の方の機械はすでに多くの施設に導入されていますが,LAMP法の方の機械は,まだ台数が少なく初期投資が必要です。今は,LAMP法による検査時間の短縮や簡単さをアピールして,どんどん増やしていこうとしている段階です。初期投資が従来のPCR法より安価という利点があるうえに、すでに国の公的医療保険の適応対象となっていますので、今後増えていく可能性はあります。また、LAMP法の機械はA4サイズくらいでだいたい1 Kgくらいなので、小型のものでもその重量が20 Kg以上となるPCR検査装置に比べて持ち運びし易く,離島や途上国等での使用を容易にできるというメリットがあります。
 
Q. わたしたち高校生が感染拡大防止の為にできることは何ですか?
A. 3密を避けるというのが一番ではないでしょうか。また,すでに皆さんにやっていただいている2メートル離れる,毎日手を洗う,うがいをする,マスクをする,これらが感染症を抑制するには一番だと思います。それを他の方,家族や知り合い,近所の人にも皆さんから教えてあげてください。ポスターなどを作って地域の方に広げてもいいかもしれませんね。みんながこういったことを守れば,ウイルスが伝播しなくなるので抑えられるのではないかと思います。
 
Q. 長崎大学では抗ウイルス薬の研究は進んでいるのでしょうか。
A. はい。抗ウイルス薬についても我々の研究室や他の研究室で進んでいます。ただ新しくゼロから薬を作るのはとても難しいので,すでに他のウイルスや病気で使われている薬が新型コロナウイルスSARS-CoV-2にも効くかというのを検証しています。まずは培養細胞を用いて効果を明らかにし,その後はハムスターやマウスなどの動物を使って、生体で有効かどうかという点を検証していこうと思っています。
 
Q. アビガンという薬は遺伝子を作るところを止めるというお話をいただいたかと思いますが,アビガンはあまり効き目がないというニュースも出てきていると思います。他にはどんな手段があるのでしょうか。他にもいろんなところで止めることができるのでしょうか,それとも遺伝子を作るところを止めるのが一番効果的だから,そういった薬を開発していく方法になるのでしょうか。
A. アビガンはもともとインフルエンザ用に作られたのですが,これは遺伝子を作るところを止めることをターゲットにしただけであって,コロナはいろんなところで抑えようという試みがあります。そもそも感染するところを止めるものもあれば,抗体を使ってウイルスをブロックする方法もあります。
 
Q. では,コロナウイルスに対して遺伝子を作るところを止めようというアプローチがうまくいかなかったわけではなく,既存のインフルエンザ用に作られた薬では効かなかっただけであって,他のアプローチでの開発もするし,このアプローチも続けていくということでしょうか。
A. その通りです。例えば同じ遺伝子を作るところをターゲットにした薬だと「レムデシビル」という薬がアメリカの製薬会社から出ていますが,これはエボラに対して遺伝子の増幅を止める薬です。これもコロナに効くのではと言われていまして,こちらを利用しようという話もあります。他のところもこのアプローチにこだわらずいろんな点をターゲットに薬を作ろうとしているようです。(補足:アビガンのCOVID-19に対する効果は現在も検証中であり、有効か無効かはまだ確定しておりません。)
 
Q. 天然痘が,人類が根絶できた唯一のウイルスとおっしゃっていましたが,ウイルスの根絶というのはやはり大変なものなのでしょうか。
A. 非常に難しいと思います。天然痘ウイルスが根絶できたのはとても運がよかったのだと思います。ウイルス自体変異をあまりしなかった,ワクチンに対抗してウイルスが変わることが少なかったという理由が一つあります。また,人にしかかからないというのも理由の一つです。例えば,人にもかかるし動物にもかかるという場合だと,人間界で根絶できたとしても,動物界では生き残ってしまって,それがまた人に戻ってくるということもあります。天然痘の場合は,人の間でしか増えることができなかったので,他の動物への逃げ場がなかったと言えます。いままで例えばHIVに対していろいろなワクチンが作られてきましたが,HIVはどんどん変わっていくタイプのウイルスなので,ワクチンを作ってもそれを超えるウイルスがでてくるという「いたちごっこ」になっています。なので根絶はなかなか難しいかもしれないです。
 
Q. それではやはり弱毒化や宿主と同化というのもウイルスと人間が付き合っていくのに重要なのだろうと思いますが,これには長いスパンが必要になるのでしょうか。
A. そうですね,特に同化というのは何千年,何万年,何億年の世界です。たぶん我々が生きている間にその状態を計測することは難しいかと思います。ただ弱毒化についてはもしかしたら可能性がありますし,共存という観点では薬でコントロールするという手もあります。例えばHIVは,数十年前は不治の病だと言われていましたが,現在はいい薬ができていますので,薬を飲み続ければ寿命を全うすることができるようになってきました。そういった意味では,薬でコントロールするというのも共存の1つの形だと思います。
 
Q. 宿主と同化するという話の中で,人のDNAの8%はウイルス由来という話がありましたが,ウイルス由来のDNAともともと人にあったDNAとどのように区別しているのでしょうか。
A. 人のゲノムDNAにはタンパク質をコードしている領域があります。その領域の塩基配列を調べると、ヒト特有の配列かウイルス特有の配列かがわかるので、ウイルス由来のDNA配列を見つけることができます。
 
Q. インフルエンザは熱が上がってその後少し下がらないと陽性がわからないと言われていると思います。コロナウイルスの場合は,感染して無症状の場合でも,検査をして陽性かどうかがインフルエンザ等と比べてわかりやすいのかどうか教えてください。
A. とても難しい質問で,今後の研究課題だと思います。今までは発症者に対してだけ行っていたので見つかりやすかったのですが,無症状の方の検査は最近始まったばかりで,これから知見を重ねていかなければわからないことだろうと思います。
 
Q. LAMP法で検出時間を大きく短縮できたと思うが,今後もっと時間を短縮することは可能なのでしょうか。
A. 実はすでに検討中です。今のLAMP法の一番のネックは検体から核酸を抽出するのにとても時間がかかるという点です。なので,その抽出するステップを除く方法を検討しています。例えば,検体をそのまま機械にかけることができれば,抽出のステップがなくなるので10分,20分はさらに短くすることができるのではと考えています。
 
Q. コロナウイルスは型が変異すると聞いたことがあるのですが,抗ウイルス薬で治療することが可能なのでしょうか。
A. これはやってみないとわからないというのが正直なところなのですが,コロナウイルスはインフルエンザほど型の変異はないのでおそらく効くのではないかと思います。ただ今後、新しい型が出れば随時調べていく必要が出てくるだろうと思います。