6 特別事業費による事業
6.1 熱帯医学研修課程
平成11年度(第22回)熱帯医学研修課程は,平成11年6月1日から8月31日までの3ヶ月間にわたり実施され無事終了した。今年度の研修課程は日本の国際化の大きな胎動が実感されたものであり,今後の当研究所や研修課程の有り方についても改めてその重要性が問われるものであった。
実施に先立ち,所外関連領域機関長および専門家13名による運営委員会を平成10年12月22日に開催し,所内教務委員会によって討議され教授会により承認された平成11年度カリキュラム(案)と研修課程の運営が討議された。当研修課程の特色として国内第一級の講師陣による幅広い分野での総論講義に加えて,各種病原体の取り扱い,診断・治療・予防法の講義実習がより熱帯現地での知識としても役立つようにカリキュラムが組まれている点にある。きわめて厳しい予算の中で相当の工夫がなされていることは各委員に認められつつも,さらに大きく発展させる方策が必要であるとの討議がなされた。
運営面でも応募者の増加に対応したハード面の充実がまだ不十分な状況の中で,研修の実を挙げるべく定員枠をあまりオーバーすることが適切ではないことも話し合われた。特に昨年度は定員10名に2倍の20名,本年も16名の応募者があり,応募者の増加は定着しつつある。本年は教務委員会,教授会での慎重な審議を経て12名を合格と判定し受け入れた。研修生は医師,看護婦・助産婦などが毎年多くを占めるが,最近の研修生の応募増加の背景ともなっている熱帯地途上国の経験を踏まえて熱帯病の再教育に強い意欲をもって臨む人々,特に若者の増加があげられる。
研修内容も,半数以上を占める医師以外の研修生を考慮に入れつつ,分かり易い講義と実習となるよう配慮されたものであり,研究所にて文部省国費留学生,JICA研修生さらには私費留学生として研修中の世界各地からの研修生とも親密な交流がなされるよう種々の企画が研修期間中実行されている。
研修生との最終日の反省会では必ず次の年度の研修生の為の研修内容に関する提言を求めている。最終日の討論内容からも研修目標はかなり達成されたものと考えられた。
来年度には15名への定員増も計画されており,今後この熱帯医学研修課程をさらに充実したものとするための研究所としての提言を以下に述べる。
1.熱帯医学研修課程の拡充
研修希望者を出来るだけ受け入れる為の専門の教職員と教育スペースの充実を計る。特に人的には研修教員として外国人講師の招へいも一つの方法と考えている。
2.研修生を受け入れる宿泊施設の拡充
大学には外国人留学生用の長期滞在用施設や短期滞在用の施設はすでに存在して活用されている。しかるに,日本の将来を担い国際貢献の最前線に立つこれら研修生の為の中長期滞在型の施設が今日必要であることが痛感される。長崎での研修の為に教職員が安価な民間の宿舎を確保する為に毎年奔走する状況は研修生にも教職員にも望ましいことではない。教育活動を一層充実させる為にも宿泊施設拡充の方策が求められている。
6.2 熱帯地域における主要肝疾患に関する研究
(病変発現機序分野が中心になり熱研全体を取りまとめたもの)
タイ北部の住民を対象にウイルス肝炎の血清疫学的調査を病理学的調査と並行して行っている。同時に住民のHIVの感染状況および肝炎ウイルス感染に与える影響等を調査している。またチェンマイ大学医学部病理学教室において,ウイルス肝炎,肝硬変,肝細胞癌およびその他の肝疾患の病理組織学的検索を継続している。タイ,マレーシア,ベトナム,フィリピンなどにおいて,それぞれの調査最適地域で各種マラリア媒介蚊の発生環境調査,HCV等の分子疫学的研究,赤痢アメーバのシストの病原性株と非病原性株の分布環境調査,熱帯環境下における比較生理学的研究等を継続して行っている。
6.3 後天性免疫不全症候群(エイズ)に関する研究
アジア,アフリカ,南米などの熱帯地を中心とする途上国におけるエイズ患者の急増は深刻な国際的社会問題となっている。特にアフリカでは,1980年代後半から今日まで患者,感染者の割合が急増しており,感染者が全人口の10%を越すウガンダなどの東アフリカで若い人々の間での合併感染症による高い死亡がみられている。これらの患者救命の為にも有効性が高くかつコストイフェイクティブネスの高い治療法の開発,途上国でも使い得る早期診断の為の診断技術の普及などが求められていた。これまでウガンダの首都カンパラのマケレレ大学医学部と長崎大学熱帯医学研究所の間で「エイズに合併する感染症の診断と治療に関する共同研究」を推進し,結核症,口腔カンジダ症,クリプトコッカス髄膜炎などでの有効な診断・治療法を確立し共同で報告してきた。現在,急性呼吸器感染症(ARI)に関する共同 |
研究が進行中であるが,サイトカイン研究の導入によってエイズおよび合併感染症の発症や重症化のメカニズムの解明に取り組んでおり,現地における共同研究の体制も整備しつつある。毎年少なくとも2回は現地を訪問して,共同研究の成果と問題点について討議すると共に必要に応じたウガンダ研究者の研修を目的にした招聘事業も努力して行ってきたことから,本特例事業費による研究の進展も目覚しいものとなりつつある。今後,アフリカエイズの諸問題に対する国際医療協力の実をあげるべく継続して行う予定である。
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