発足と経過

熱帯医学研究会の発足と経過

大阪大学名誉教授 森下薫

近来熱帯各国との交渉がとみに活発化し、学術・技術の交流や移民事業がいよいよ盛となるに伴い、それらの背景をなすものとして熱帯医学の重要性が急速に認識されてきた。然るに熱帯医学とは熱帯環境において発生する疫病ならびに生理、衛生上の諸問題について攻究する学問であると解するならば、我が国内にも多くの課題がある。したがって熱帯医学は我が国医学の一部門として、実際上の必要性からのみでなく、学問的にも当然存在すべき理由がある。

かかる見地から、既にその研究の必要を認め、これに手を染める人たちが漸次見られるに至ったが、その強力な推進には全国的な組織をつくる必要があるので、本年4月第15回日本医学会総会が東京で開催された機会に、有志が集まり「熱帯医学に関する懇親会」をもち、その実現について種々論議の結果(1).全国的な学術団体を組織し、当分「熱帯医学研究会」と呼ぶが、将来「熱帯医学会」と改称し、日本医学会の分科会たらしめる。(2).会員は広く臨床、衛生、伝染病、細菌学、寄生虫学、薬学等の諸分野に求める。(3).本年7月頃第1回総会を近畿地方で開催し、森下薫がこれを準備する。などを申し合わせ、会則を審議して一応形をつくり、正式発足までの世話人として、佐々学、沢井芳男(以上伝研)、田多井吉之助(公衆衛生院)の諸氏を煩わせることとし、事務所を伝研内に置き、一般事務については椎尾辨章氏(伝研事務)の助力を得ることを決定快諾を得た。

この会合の後直ちに発起人の依頼状を関係各方面に発送したが、第1回総会までにすでに約160名(1部会員として)の承諾を得た。

7月の予定であった第1回総会は種々なる事情で10月となり、同月14日大阪において開催されることとなったので、その前日集合し得る範囲で発起人会を催し、(1)人事として、a).評議員は各大学、研究所などの講座または研究室主任を選出し、b).幹事は庶務、会計、編集のほか総務を設け、前者には既に世話人として仕事を担当される佐々、沢井、田多井氏を、また総務幹事には然るべき人を選考することとし、事務所の所在および一般事務の担当はそれぞれ伝研および椎尾氏とする。c).会長は毎年総会を開催する地から選ぶ。(2).当分簡単な刊行物「熱帯医学研究会会報」を発行、会員に配布する。(3).会名は次回医学総会(昭和38年)を期して「熱帯医学会」とする。(4).会名の欧語はJapan Society of Tropical Medicineとする。などを決定した。また先にできていた会則(案)を再検討して、若干の訂正を加えた(別項)。更に次回開催地を従来この問題に非常な熱意を示して居られる鹿児島県とし、会長に鹿大医学部長佐藤八郎博士を推すこととなった。

以上の諸項は本日の第1回総会においてこれを諮り、承認を得たいと思う。

これで本会も正式に形づくられ、今後の発展を期して第一歩を踏み出すこととなった。諸彦の絶大な支援をお願いする次第である。

「日本熱帯医学研究会報」第1巻1号より抜粋 昭和35年4月20日刊行