保健指標の地理情報システムの一例
−WebGISによる視覚化−
○谷村 晋1 門司和彦2
溝田 勉1
【はじめに】地理情報システム(Geographical Information System: GIS)とは、地理情報を電子化し、コンピュータ上で地理情報を効率的に収集・保管・更新・分析・視覚化するツールである。近年、WebアプリケーションとGISを組み合わせたWebGISが開発されるようになり、1)インターネットを通じた情報公開、2)高度な専門知識が不要なインターフェイスの実現という2点から、今後ますます普及すると考えられる。保健指標の情報データベースを構築する際には空間的側面の検討が不可欠であり、GISまたはWebGISを主軸とした情報データベースの構築が望まれる。今回、WebGISの第一歩として、保健指標の統計地図を作成する試作システムを開発した。本報告では、試作システムの問題点と有効性について考察、また、感染症データへの発展性について述べたい。
【保健指標の視覚化のニーズ】保健行政関係者が担当地域外の情報を得て他の地域と比較することは一般的に困難であり、関係者がデータを持ち寄って視覚化することが望まれている。特に、地域保健計画立案の点では、データ視覚化の意義は非常に大きいと言えよう。
【システムの概要】本試作システムの主機能は、1)保健行政関係者による担当地域データのアップロード、2)集まった保健指標の視覚化(統計地図作成)である。データのアップロードの際は認証を必要とし、保健行政関係者以外は行えない仕組みを採用した(現時点ではデータ閲覧も認証が必要)。
本試作システムでは、デスクトップパソコンにフリーウェアと自作CGIを組み合わせる構成 を採用し、長崎大学熱帯医学研究所社会環境分野に設置した
。
【システムの有効性と問題点】操作容易性:ユーザが使い慣れたWWW閲覧ソフトを使用し、他のWebアプリケーションと同等の操作性を確保していることから、大変高い操作性を持っていると言える。データの信頼性:ユーザが任意にデータをアップロードするため、入力ミスなどデータの質に問題が生じる場合がある。一般公開:統計地図作成エンジンのライセンスの関係上、限定ユーザを対象とした情報配信となる。視認性:視認性を高めるには階調色が必要であるが、全体傾向の把握には現在の7色で十分であると思われる。安定性と処理能力:負荷試験は行っていないため計量的評価はできないが、ユーザサイドの言語を使用していないため、ユーザの環境に依存せずに高速・安定している。
【システムの可能性】本試作システムは、厚生労働省の保健福祉統計地図データベースと同じ単純な統計地図描画機能のみであった。しかし、統計地図作成エンジンの代わりに、高機能GISソフトウェアであるGRASS
(Geographic Resources Analysis Support System) 及びGRASSLinks6
などを使用して本格的なWebGISを構築すれば、統計地図にとどまらず、幾何計測、属性情報の論理演算、近隣分析、バッファーリング、オーバレイ分析、ネットワーク分析、ボロノイ分析などユーザに情報検索と分析の便宜を与えることができる。
【感染症流行の情報ネットワークへの応用】本試作システムは、1)インターネットを通じたデータのアップロード(高いデータ収集力)、2)関係者がそれぞれデータを持ち寄る(データの統合)、3)持ち寄ったデータが即時に反映される(即時性)、4)インターネットを通じてユーザが指定する統計地図をダウンロードできる(データの分析・視覚化)という点から、感染症流行(発生拡大)の情報ネットワーク構築には好適だと判断される。しかし、本システムは、区域データのみを扱うため、点データが入手可能な場合はその情報量を著しく減らしてしまう。この場合、点データを含めたより詳細な分析と視覚化を可能にするために本格的なWebGISの構築が必要である。
途上国などITインフラが十分に発展していない場所においても、インマルサットM4など携帯性に優れた衛星通信機器と発電器を用いれば、どのような場所からも感染症データをアップロード・ダウンロード可能であり、今後ますます通信事情はよくなることが期待される。
【おわりに】本システムは、WebGISの第一歩であるが、これを基礎として高機能なWebGISを構築することは、感染症流行(発生拡大)の情報ネットワークの構築に多大な貢献をすると考えられる。
【謝辞】統計地図作成エンジン Map of Japan の使用を承諾していただいた群馬大学社会情報学の青木繁伸先生に感謝いたします。
1長崎大学熱帯医学研究所社会環境分野 〒852-8523 長崎県長崎市坂本1-12-4
TEL 095-849-7865 FAX 095-849-7867 e-mail umusus@net.nagasaki-u.ac.jp
2長崎大学医療技術短期大学部看護学科
3ハードウェアPower Macintosh 9500 (Apple社)、基本ソフトVineLinux 2.0 (Project
Vine)、WWW(World Wide Web) サーバソフト Apache 1.3 (The Apache Software Foundation)、統計地図作成エンジン(青木繁伸,
群馬大学社会情報学)、統計地図Webプログラム (谷村晋,長崎大学熱帯医学研究所)
4URL: http://shakan2.tm.nagasaki-u.ac.jp/map/index.html
5URL: http://www.baylor.edu/grass/
6URL: http://www.regis.berkeley.edu/grasslinks/
プログラム
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