W16 結核-エイズ -アジア-アフリカのフィールド研究活動と人材育成のネットワーク構築へ向け-

日時:2006年10月13日(金)13:00-15:30
場所:第2会場(国際会議場)
座長:石川信克(結核研究所),有吉紅也(長崎大学熱帯医学研究所)
W16-1
エイズと結核の国際共同研究と人材育成システムとの連携:タイ国チェンライ県での経験より
Human Resource Development and International Cooperative Research: Experiences from Chiang Rai, Thailand
山田 紀男1、 野内 英樹2、 今津 里沙1、 石川 信克1
1結核研究所    2長崎大学国際連携研究戦略本部及び熱帯医学研究所   
【背景と目的】結核研究所HIV結核プロジェクトは、結核予防会結核研究所の研究事業の一環として1995年にタイを拠点に発足し2002年よりは日本に本拠を確立し活動をしている。本プロジェクトの主要目的は、結核とHIV感染の予防対策の向上につながる研究開発であるが1999年に新たにHIV/TBリサーチフェロープログラムを設立した。フェロープログラムの目的は、研究活動と連携を図り、日タイにおいて、エイズと結核分野において更なる教育を希望する者に必要な支援を提供することである。今回、結核研究所HIV結核プロジェクトが実施している上記フェローシステムの意義を検討し、フィールドの国際共同研究と人材育成の連携の意義を検討した。【方法】日本の結核とエイズ分野の国際協力に関連した人材育成のプログラムをレビューして、今後のあり方を考えた。また、上記のフェローシステムに参加している日本人7名、タイ人9名(卒業は6名)に関してケーススタデイ(事例検討)を参加型にて実施した。【結果と考察】結核研究所研究部のHIV/TBリサーチフェローは現在まで、数多くの学会発表と論文(例:英文論文20編)を発表し、カロリンスカ大学(博士1名)、ロンドン大学(博士1名+1名が12月終了)、ソンクラ大学(博士1名、デプロマ1名)、チュラロンコン大学(修士2名)、東京大学(1名予定)、ホプキンス大学(修士1名)を輩出している。また、WHOやJICA専門家になるものの他に、海外青年協力隊(JOCV)のエイズ隊員となり実践に向かっている者も出た。実際の研究フィールドを抱える研究プロジェクトが、教育機関である大学側と協力関係を調整をしながら、人材育成をする意義が大きい事が示唆された。HIV・TBフェローシステムも現場の研究活動と連携をし、日本でも海外でも即戦力となる人材育成に力を入れたい。文部科学省の海外拠点プロジェクトもフィールドとリンクした人材育成システムを構築する事が期待される。
W16-2
コミュニティにおける結核/HIVマネージメント JICA「ザンビアHIV/AIDSおよび結核対策プロジェクト」における試行
Community-based management of TB/HIVin Zambia, operational research in JICA Zambia HIV/AIDS and TB control project
村上 邦仁子1、 Monze Mwaka2、 御手洗 聡1、 石川 信克1
1結核予防会結核研究所研究生    2University Teaching Hospital, Lusaka, Zambia    3独立行政法人国際協力機構   
ザンビアでは、HIVの蔓延と1990年代の結核対策の弱体化などを背景として、結核患者数が激増し、2003年の新規結核患者数は約58,000人(新登録率580/100,000)と、高い値を示した。更に結核患者のHIV重複感染率は、都市部で83.2%(UNAIDS/WHO 2004)と報告され、いまやHIV対策ぬきに結核対策は存在せず、そのまた逆も然りと考えられている。ザンビアの公的医療機関における抗HIV治療(ART)は、2004年以降段階的に無料化され、HIV感染者の治療へのアクセスは改善されつつある。今後更なる拡大に伴い、鍵となるのは以下の二点である。1)早期にARTを導入すべき患者の効率的な発見: これまで主な窓口とされたVCT、PMTCTに加え、結核もHIV患者発見の重要な窓口のひとつである。2)治療開始後患者のマネージメント:TB/HIVの治療では、薬剤相互作用、副作用、免疫再構築症候群などの懸念も認められ、さらに服薬アドヒアランスの維持は最大の課題である。このような課題を背景とし、JICA「ザンビアHIV/AIDSおよび結核対策プロジェクト」では、コミュニティ TB-DOTSを入り口としてHIV感染者を早期発見し、ARTに乗せ、患者モニタリングを試みていくoperational researchが試行された。研究期間中、138名の肺結核患者中、130名がHIV検査に同意し、うち76%がHIV陽性であり、高いTB/HIV相互感染率を裏付けた。91名が正式登録され、プロジェクト終了時点で、25名が12ヶ月フォローを終了したが、死亡した患者も15名に上った。現在、結核患者を窓口としたHIV検査の推進とARTの導入が、ザンビア国の結核対策に盛り込まれ、我々の活動が反映されたと考えられる。一方で長期的に見れば、よりきめ細かな対応が必要とされる。今回の発表では、この研究を通じて得られた他の詳細なdataを基とし、TB/HIV研究・対策を推進していく上でのさらなる課題を検討する。
W16-3
タイ国ランパーン県におけるHAART療法治療失敗の関連因子とアドへレンスモニタリング・評価方法に関する研究
Risk factor of treatment failure in HAART and monitoring of adherence among HIV patients in Lampang,Thailand
土屋 菜歩1、 PATHIVANICH PANITA2、 安田 直史3、 向山 由美4、 SAWANPANYALERT PATHOM5、 有吉 紅也1
1長崎大学熱帯医学研究所感染症予防治療分野    2Day Care Center, Lampang hospital    3ユニセフ    4佐久総合病院    5タイ国立衛生研究所   
【背景・目的】途上国でもHAART療法が急速に普及しつつあるが、治療効果を見るためのウイルス量測定は未だ困難である。また、高率のアドへレンスを保てず治療に失敗すれば薬剤耐性ウイルスの発生につながる。本研究は治療失敗のリスクファクターを明らかにし、長期にわたり良好なアドへレンスを保つためのモニタリングと評価方法を構築することを目的とした。【方法】タイ国ランパーン県立病院HIV外来で2002年4月 ̄2004年1月に同国生産の抗HIV薬”GPOvir®”による治療を開始し、同意を得たすべてのHIV陽性患者409名を対象とした。治療開始前にCD4とウイルス量を測定し、開始時に患者の臨床情報と社会的背景についての情報を収集した。開始後6ヶ月、24ヶ月に血液採取・ウイルス量測定とアドへレンスに関するインタビューを実施し、カルテを参照して臨床情報を得、治療失敗例のリスク因子解析を行った。【結果】過去のARV治療歴、服薬状況に対する自己評価の結果は有意に治療成績と関連していた。アドへレンスが治療開始時に比べ「向上した」と答えた感染者では治療失敗例が多かった。ほとんどの社会的、人類学的因子は治療成績と関連がなかったが、男性は失敗例が多い傾向にあった。過去に治療歴のある群では6ヶ月の治療成績と子供の有無に相関が見られた。治療が長期に及ぶと、金銭的な負担、服薬忘れや遅れの増加が治療失敗の要因となっていた。【考察】簡便な質問でも治療成績を予測しうることが分かった。アドへレンスが治療開始時に比べ「向上した」と答えた感染者で治療失敗例が多かったことは、治療開始直後に高率なアドへレンスを獲得し、それを維持することの重要性を改めて示す結果と言える。その点では6ヶ月よりも早い時点での評価の必要性も示唆される。治療が長期に及ぶと治療成績に関連する因子も変化していた。治療開始時のみならず継続的にモニタリングを行い、適切に介入することが必要だと考えられる。
W16-4
アフリカでの結核・エイズ: タンザニアでの結核対策へのHIV検査及びカウンセリング(TC)の導入事例から
TB/HIV in Africa: Lessons learnt from Piloting Diagnostic Testing and Counseling in TB clinics in rural Tanzania.
竹中 伸一1
1長崎大学国際連携研究戦略本部   
HIV感染の拡大に伴い、サブサハラ・アフリカでは結核が急増する一方、結核がHIV感染者の死因トップとなっている。世界保健機構(WHO)は、2003年、TB/HIV戦略枠組みを定め、(1)結核患者のHIV感染の負担削減、(2)HIV感染者の結核の負担削減、(3)TB/HIV調整メカニズムの構築を目的として、結核/HIVの重感染に取り組んでいる。特に、HIV検査及びカウンセリング(Testing & Counseling: TC)を中核的なアプローチとして位置づけ、南部アフリカ諸国での試験的にTC導入を行い、現在、他地域のHIV高蔓延国の結核対策にTC導入・拡大を推進している。

タンザニアでも、昨年2005年7月から2006年2月までの8か月間、WHO/CDCの協力の下、結核クリニックへのTC導入のパイロットをNTLPが行った。結核クリニック3施設(保健センター2か所、ディスペンサリー1か所)を選び、保健ワーカーにDiagnostic Testing & Counseling(DTC)の研修を行った後、すべての結核患者を対象に保健ワーカー主導によるTC提供を行った。パイロットの結果、この3施設での結核患者のHIV検査の受検率は高く、HIV感染率も高い数値を示していた。しかし他方、HIV検査キットの見直しや非臨床検査技師以外の保健医療従事者の検査実施に係る職域拡大等、プログラム上の課題も残した。現在、タンザニア保健社会福祉省は、このパイロットの経験を基に、他結核施設へのTC導入・拡大を計画、準備している。

本集会では、タンザニアのこのパイロットの他、先行して導入した南アフリカ、マラウイ、ザンビアの経験にも触れながら、結核クリニックへのTC導入・拡大に伴うインパクトの他、プログラム実施・運営上の課題に焦点をあて発表を行う予定。またあわせて、本年2006年3月に開始されたJICAの「HIV感染予防のための組織能力強化プロジェクト」で取り組んでいる同国のTCサービス向上のためのシステム強化も紹介したい。
(オーガナイザー:野内英樹)