W12 地理空間的視点からの取り組み
日時: | 2006年10月12日(木)16:00-18:30 |
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場所: | 第4会場(会議室4-5) |
座長: | 鈴木宏(新潟大学大学院医歯薬学総合研究科),谷村晋(長崎大学熱帯医学研究所) |
W12-1
ルサカ市の未計画居住区におけるコレラ流行の空間的疫学解析
Spatial analysis of cholera outbreak in an unplanned settlement in Lusaka
1新潟大学大学院医歯学総合研究科国際感染医学講座
1.はじめに 1997年からJICA(国際協力事業団)プライマリ・ヘルス・ケア(PHC)プロジェクトとして、ザンビア国の首都であるルサカ市の未計画居住区の5歳以下の疾病対策を行ってきた。また、毎年コレラ流行が見られ、対策としてJICAが深井戸を掘り、水の保存・使用方法、手洗いの励行、衛生的トイレ設置や小川の清掃などの衛生環境整備運動も行った。 地理情報システム(Geographical information system, GIS)の歴史的最初となったJ. Snowの発表から150周年となる2004年にコレラが流行し、GISによる空間疫学解析に行う機会を得た。2.方法 デジタル地図を人工衛星から作製し、プロジェクト地域ではGPSを用いて住居を地図に表示する事に併せて経済、教育等の住民調査を行った。コレラ発生時には患者の家庭訪問時にコレラ予防・制御対策を行うことに加え、GPSによる場所の特定と衛生・環境情報も収集し、GIS様解析ソフトを用いて空間疫学解析を行った。3.結果と考察 雨期に入り近隣諸国からコレラ菌が国内に侵入しコレラ流行となり、雨量と患者発生のピークの相関性が統計学的に明確に示された。他の地域から大人がコレラ菌を未計画居住区に持ち込み、子供へと伝播して地域での大きな流行へと変化した。行政区分別の流行と患者情報の解析から、下水施設と便所の無いことが患者発生増加に繋がることが明らかになった。また、全市における患者発生の地域的発生状況を検討し、鉄道路線を境として西側に患者の約8割を占める地域的な偏重が見られ、これは英国の植民地時代の都市計画に帰因することが強く示唆された。更には、発生地の多くが台地に位置することに加え排水施設の不備が考えられ、今後の都市整備の方向性が示された。4.結論 GIS解析によりコレラ流行と衛生環境との関係が明示でき、本手法の有用性が示された。
W12-2
大阪湾岸に移入されたセアカゴケグモの空間解析とそれに及ぼす防除活動の影響評価
Spatial analysis of redback spider, Latrodectus hasseltii, imported in the Osaka Bay shore and effects and evaluations of the pest control activity on it.
1国立感染症研究所昆虫医科学部
2いきもの研究社
3西宮市環境衛生課
4パスコ
グローバリゼーションは、国境を越えた有害動物の移動にも関わる。日本における輸入有害動物の分布拡散と防除そしてその評価に関わる技術は、有害動物の生態の解明や対策の政策決定に貢献すると考えられる。オーストラリアから日本に輸入された毒グモ、セアカゴケグモLatrodectus hasseltiiが1995年に大阪湾岸地域の造成地で発見されて以来、近畿地方の内陸部にかけて生息域が急速に拡大した。特に近年大阪府では新興住宅地だけでなく開発の古い、人口密度の高い市街地へと広がってきており、咬症例も増加している。一方兵庫県西宮市においても、2000年10月に埋め立て島の西宮浜で発見され、定期的な実態調査や駆除を実施してきた。今回は防除対策の違い、自然災害と復興、土地開発の影響などをGISや空中写真・既往資料から検証した。 解析に供したセアカゴケグモの捕集数は、大阪府立公衆衛生研究所・西宮市環境衛生課などが、道路や公園の側溝にあるグレーチング、駐車場・工場・住宅などでの調査より、雌個体の大・中・小型の合計値としてまとめた。GISのソフトウヱアとしてはArcGIS 9.1(ESRI, USA)を用い、町丁目ごとに年度別に捕集数をまとめた。特に西宮市については、約1:10,000空中写真をデジタル化して用いた。 大阪府では分布調査に力点を置いてセアカゴケグモの実際の防除は伴っていなかった。西宮市では発見された虫体および卵嚢はできる限り捕獲して冷凍して殺し、数を数えた。定期調査を実施している西宮浜では2000年10月以来の捕集数は、年変化が大きくその動向の地域差は顕著であった。捕獲数の少ない地域は1995年以前に開発された防除対策の実施地域であり、多い地域は震災後に住宅地として用途変更され、建設された高層住宅や不特定多数の人の集まる施設で、防除対策が不十分な地域であった。セアカゴケグモの監視体制および防除の方法によっては、咬症のリスクを低減する可能性が示唆された。
W12-3
Spatial and socio-demographic dynamics of dengue outbreak in 2000 in Dhaka, Bangladesh
1Department of Epidemiology, Graduate School of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukuba, Ibaraki, Japan
2International Institute for Geo-information Science and Earth Observation, Enschede, The Netherlands
3International Vaccine Institute, Seoul, Korea
【Objective】Prediction of dengue risk based on socio-economic factors and its possible spatial relationships was investigated in the dengue epidemic area of Dhaka city. 【Methods】A larval and KAP (knowledge, attitudes and practice survey followed by spatial survey was conducted in all 90 administrative wards of Dhaka City Corporation (DCC) to generate information about breeding habitats and density of Aedes mosquitoes for suggesting an effective surveillance system and control strategy. 【Results and Conclusion】In the multinomial logistic regression model, seven variables were selected to assess the combined effect of the disease spreading. To assess the socio-economic risk factor for spreading Aedes mosquito, house type together with other seven variables were used to calculate combined risk score. Individual risk factors were added to the positional databases and we used inverse distance for weight method to identify the most vulnerable area of Dhaka city. Low, medium and high-risk areas were identified. 14% of Dhaka city was found as a high-risk area where more effort would be required for preventing the outbreaks.
W12-4
スリランカ津波被災地域での、リモートセンシングと地理情報システムの緊急救援活動時における活用とその評価に関する研究
Evaluation of Tsumami affected Area in Sri Lanka by using Remote sensing (RS) and Geographic information systems (GIS) for the capacity development of rapid emergency response
1岡山大学 環境学研究科 国際保健学分野
2長崎大学熱帯医学研究所
3岡山大学医学部保健学科
4日本医科大学大学院
5足立保健所中央本町保健総合センター
【目的】
2004年12月26日にインド洋スマトラ沖で発生した地震は、広範囲にわたって甚大な被害をもたらした。スリランカにおいても30000人を超える死者が報告されている。被害時に早急な緊急救援を行うためには、迅速なる災害情報収集が重要な役割を果たす。そこで、より的確で質の高い救援活動を行うため、近年において災害の迅速な情報収集ツールとして認識されているリモートセンシング(RS)を用いて、スリランカにおいてRSを用いた津波被害の評価を実施し、その評価を行う上での課題について検討する。
【方法】
津波災害地であるスリランカのアンパラ、ゴール地区の災害直後の人工衛星データー(IKONOSとQuickBird)を国連機関UNOSATより入手し、その画像を用いて被災状況の解析を行った。そして、人工衛星画像から評価した被害地域において、その妥当性を確かめるために、ゴール地区において被害状況の現地調査を実施した。
【結果・考察】
RSの画像より、多くの家と道路が海岸線に面していることが確認できた。また、RSの画像上で予測した被害地域が我々のフィールド調査においても、実際に被害があったことを確認することができた。これら、解析において、災害前後における衛星画像の比較がより、効果的な評価を行うことができることが予測された。そのためには、常時におけるRSデーターのアーカイビングが重要であることが示唆された。
【結論】
RSと災害時の情報システムの研究の必要性がより効果的な災害活動につながることが論証された。迅速な災害救援活動のために、衛星画像を受信、分析できる災害救援活動のためのシステム作りが必要であると考えられる。
【謝辞】
本研究は、文部科学省「魅力ある大学院教育」イニシアティブ「いのち」をまもる環境学教育、ESRIジャパン株式会社「大学向けGIS利用支援プログラム」によって行われた。
2004年12月26日にインド洋スマトラ沖で発生した地震は、広範囲にわたって甚大な被害をもたらした。スリランカにおいても30000人を超える死者が報告されている。被害時に早急な緊急救援を行うためには、迅速なる災害情報収集が重要な役割を果たす。そこで、より的確で質の高い救援活動を行うため、近年において災害の迅速な情報収集ツールとして認識されているリモートセンシング(RS)を用いて、スリランカにおいてRSを用いた津波被害の評価を実施し、その評価を行う上での課題について検討する。
【方法】
津波災害地であるスリランカのアンパラ、ゴール地区の災害直後の人工衛星データー(IKONOSとQuickBird)を国連機関UNOSATより入手し、その画像を用いて被災状況の解析を行った。そして、人工衛星画像から評価した被害地域において、その妥当性を確かめるために、ゴール地区において被害状況の現地調査を実施した。
【結果・考察】
RSの画像より、多くの家と道路が海岸線に面していることが確認できた。また、RSの画像上で予測した被害地域が我々のフィールド調査においても、実際に被害があったことを確認することができた。これら、解析において、災害前後における衛星画像の比較がより、効果的な評価を行うことができることが予測された。そのためには、常時におけるRSデーターのアーカイビングが重要であることが示唆された。
【結論】
RSと災害時の情報システムの研究の必要性がより効果的な災害活動につながることが論証された。迅速な災害救援活動のために、衛星画像を受信、分析できる災害救援活動のためのシステム作りが必要であると考えられる。
【謝辞】
本研究は、文部科学省「魅力ある大学院教育」イニシアティブ「いのち」をまもる環境学教育、ESRIジャパン株式会社「大学向けGIS利用支援プログラム」によって行われた。
W12-5
途上国のGISマッピングにおける高解像度衛星データの適用
On the Application of High Resolution Satellite Data to GIS mapping in Developing Country
1長崎大学熱帯医学研究所
2National Institute of Hygiene and Epidemiology
3International Vaccine Institute
正確な地図が未整理である途上国フィールドにおいて、疫学研究者が、感染症罹患家屋や罹患地域などの位置情報が欲しい場合、従来の手法としては、現地でGPSを用いて測量し、Geocodingを行わなければならなかった。このため、人件費、旅費などの経済的な負担を考慮する必要があった。効率性を高めるために地図の代わりに航空写真を用いることも考えられるが、この場合においても、経済的負担がかなり大きくなってしまう。
しかし、最近では、1999年にIKONOS、2001年にQuickBirdといった高分解能衛星が打ち上げられ、航空写真に匹敵するほどの解像度を持つデータを入手することが可能となった。特にQuickBirdの解像度は白黒画像の場合0.61mであり、家屋を特定するには十分な値で、疫学分野におけるマッピングにも十分に利用できる解像度である。
そこで、本研究では、ベトナムのニャチャンにおける都市部と郊外地における1ブロック(約200世帯)をパイロットエリアとし、高解像度衛星QuickBirdのデータを用いてパイロットスタディーを行うことで、高解像度衛星データのGISマッピングへの適用について検討した。研究で用いた衛星データは2003年8月13日観測のQuickBirdデータである。位置を確認しやすくするため、解像度0.61mである白黒画像のパンクロマチックデータと解像度2.44mでカラー合成画像の作成が可能なマルチスペクトルデータから、解像度0.61mのカラー合成データを作成し、このデータを基にして家屋レベルでの家屋、道路、河川などのGISデータを構築した。精度の検証においては、踏査による現地調査結果と照らし合わせることで行った。また、既存手法とのコスト面での比較検討も行った。
しかし、最近では、1999年にIKONOS、2001年にQuickBirdといった高分解能衛星が打ち上げられ、航空写真に匹敵するほどの解像度を持つデータを入手することが可能となった。特にQuickBirdの解像度は白黒画像の場合0.61mであり、家屋を特定するには十分な値で、疫学分野におけるマッピングにも十分に利用できる解像度である。
そこで、本研究では、ベトナムのニャチャンにおける都市部と郊外地における1ブロック(約200世帯)をパイロットエリアとし、高解像度衛星QuickBirdのデータを用いてパイロットスタディーを行うことで、高解像度衛星データのGISマッピングへの適用について検討した。研究で用いた衛星データは2003年8月13日観測のQuickBirdデータである。位置を確認しやすくするため、解像度0.61mである白黒画像のパンクロマチックデータと解像度2.44mでカラー合成画像の作成が可能なマルチスペクトルデータから、解像度0.61mのカラー合成データを作成し、このデータを基にして家屋レベルでの家屋、道路、河川などのGISデータを構築した。精度の検証においては、踏査による現地調査結果と照らし合わせることで行った。また、既存手法とのコスト面での比較検討も行った。
W12-6
デング熱流行に影響を与える地域要因の検討−MCMCによる階層的空間ポアソン回帰モデルの適用−
Regional risk factors affecting spatial clustering of dengue fever: application of Bayesian hierarchical models
1長崎大学熱帯医学研究所社会環境分野
2National Institute of Hygiene and Epidemiology, Hanoi, Vitnam
3東京大学大学院医学系研究科国際保健計画学教室
【はじめに】ベトナムではデング熱が毎年流行する。我々はデング熱
流行に顕著な季節変動および地域集積性があることを示した。デング熱の地域
集積はベトナムの中部と南部で観察され、年々徐々に移動していることがクリ
ギング空間最適補間法により明らかになった。本研究では、デング熱が地域集
積を形成することに影響を与える地域要因を探索することを目的とした。
【対象と方法】1999年から2003年までの省別デング熱患者報告数およ び2001年の人口データから省別のSMRを求めた。2001年の交通機関の省別乗客 数および月平均収入を共変量として、MCMCによる階層的空間ポアソン回帰モデ ルを用いて、SMRを補正した。このモデルでは、共変量、空間ランダム効果、 非空間ランダム効果で地域相対リスクを説明する。MCMC(マルコフ連鎖モンテ カルロ法)を用いて、省別乗客数のみ、月平均収入のみ、省別乗客数及び月平 均収入の両方を入れた3つのモデルを検討した。
【結果と考察】 DIC (Deviance Information Criterion)によるモデル比較の結果、省別乗 客数のみを用いたモデルが最もあてはまりがよく、省別乗客数が増加するとデ ング熱が増加した。一方、月平均収入はほとんどリスクを説明しないことが明 らかになった。省別乗客数で調整した地域相対リスクの地理的分布を無調整の 地域相対リスクと比較すると、全体的な傾向は変わらないが、特にベトナムの 南端沿岸部で調整済み地域相対リスクの減少が認められた。本研究の結果から、 デング熱流行に住民の移動が寄与していることが示唆された。
【対象と方法】1999年から2003年までの省別デング熱患者報告数およ び2001年の人口データから省別のSMRを求めた。2001年の交通機関の省別乗客 数および月平均収入を共変量として、MCMCによる階層的空間ポアソン回帰モデ ルを用いて、SMRを補正した。このモデルでは、共変量、空間ランダム効果、 非空間ランダム効果で地域相対リスクを説明する。MCMC(マルコフ連鎖モンテ カルロ法)を用いて、省別乗客数のみ、月平均収入のみ、省別乗客数及び月平 均収入の両方を入れた3つのモデルを検討した。
【結果と考察】 DIC (Deviance Information Criterion)によるモデル比較の結果、省別乗 客数のみを用いたモデルが最もあてはまりがよく、省別乗客数が増加するとデ ング熱が増加した。一方、月平均収入はほとんどリスクを説明しないことが明 らかになった。省別乗客数で調整した地域相対リスクの地理的分布を無調整の 地域相対リスクと比較すると、全体的な傾向は変わらないが、特にベトナムの 南端沿岸部で調整済み地域相対リスクの減少が認められた。本研究の結果から、 デング熱流行に住民の移動が寄与していることが示唆された。
(オーガナイザー:谷村晋)