W11 腸管感染寄生虫症
日時: | 2006年10月12日(木)16:00-17:30 |
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場所: | 第3会場(会議室1-3) |
座長: | 橘裕司(東海大学医学部基礎医学系),宇賀昭二(神戸大学医学部保健学科) |
W11-1
アカゲザルから単離された赤痢アメーバ株の性状解析
Characterization of an Entamoeba histolytica strain isolated from Macaca mulatta
1東海大学医学部基礎医学系
2長崎大学熱帯医学研究所感染細胞修飾機構分野
赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)はサル類にも感染すると考えられている。しかし、赤痢アメーバと形態的に区別できない非病原性のEntamoeba disparと鑑別した上での報告例は少ない。今回、ネパールでアカゲザルの糞便から単離されたアメーバ1株について、ヒト由来の赤痢アメーバ標準株と遺伝子レベルでの比較を行った。また、アカゲザル由来株の抗原性や病原性についても検討した。田辺・千葉培地で分離培養されたアカゲザル由来のE. histolytica/E. disparを、BI-S-33培地を用いてCrithidia fasciculataとの共棲条件下で継代培養した。ゲノムDNAを単離し、peroxiredoxin遺伝子をPCR増幅してE. histolytica/E. disparの鑑別を行ったところ、赤痢アメーバと判定された。しかし、rRNA遺伝子をPCR増幅して塩基配列を調べた結果、赤痢アメーバHM-1:IMSS株と約0.8%の差異が認められた。また、多型性がよく解析されているserine-rich E. histolytica protein遺伝子について調べたところ、これまでに知られていない遺伝子型であった。TechLabの赤痢アメーバ抗原検出キットを用いて培養虫体の反応性を調べたところ、陽性反応が認められ、表面レクチンの抗原性は赤痢アメーバ類似であると考えられた。また、培養虫体をハムスターの肝臓に接種した結果、肝膿瘍形成が認められた。以上の結果から、サル由来のこの赤痢アメーバ株は、病原性があるものの、ヒト由来赤痢アメーバ株と遺伝子レベルで異なり、ヒトの赤痢アメーバとは別種である可能性が考えられた。
W11-2
多地域由来のジアルジアの遺伝子型解析:複数遺伝子座による系統樹解析
Genotyping of Giardia intestinalis from various geographical areas : A phylogenetic analysis using multiple gene loci
1金沢大学大学院医学系研究科寄生虫感染症制御学
2防衛医科大学校衛生学公衆衛生学
3前澤工業中央研究所
4Eijkman Molecular Biology Institute, Jakarta, Indonesia
5Victor Babes University of Medicine and Pharmacy, Timisoara, Romania
【背景】Giardia intestinalis (syn. G. lamblia , G. duodenalis)の種内には遺伝子型としてA、B、C、D、E、F、G の7つのassemblage が分類されているが、その地域性および宿主特異性に関する知見は限られている。そこで、分子疫学的データ収集を目的とし多地域および異なる宿主由来のジアルジアによる遺伝子型解析を実施した。【方法】解析にはヒト由来検体(ルーマニア2、ネパール9、インドネシア18、パレスチナ8、日本5)に加えて、ペットショップのイヌ由来検体および野鼠由来検体を用い、複数遺伝子座をターゲットとしたPCR・ダイレクトシークエンスによる遺伝子型決定をおこなった。【結果と考察】ヒト由来検体は基本的にassemblage AまたはBに分類された。動物由来検体では、イヌ由来検体はすべてassemblage CまたはDに、野鼠由来検体はげっ歯類特異的なジアルジアであるG. murisに分類され、これまでに報告されてきた宿主特異性を裏付ける結果となった。しかし、一部のヒト由来検体はイヌ特異的とされるassemblage C 及びDに分類され、遺伝子型と宿主特異性については、さらなる検討が必要と考えられた。また、今回実施した複数遺伝子座における解析結果では、遺伝子座によって異なる遺伝子型を示すサンプルが存在し、現在さらに詳細な解析が進行中である。また、各遺伝子座のシークエンスの解析結果は、核酸レベルでは、ほぼ全ての分離株が新たな亜型に分類される高い多様性を示していた。しかし、ハウスキーピング酵素をコーディングする遺伝子座のアミノ酸レベルでの解析では、G. intestinalis内には、機能的制約によって保存されていると考えられる少なくとも3種のアミノ酸型が存在し、核酸レベルでの亜型の多様性はすべてこの3種に集約されていた。以上の結果は、G. intestinalisにおける種内変異が3種の保存的な系統に分類されることを示唆し、その由来を考察する上で重要な知見と考えられた。
W11-3
ヒトおよび動物から検出されたCryptosporidiumの種と遺伝子型の解析
Genotyping of Cryptosporidium spp. isolates from humans and animals in Japan
1大阪市立大学大学院医学研究科原虫感染症学
2大阪市立環境科学研究所微生物保健課
3大阪女子学園短期大学
4金沢大学大学院医学研究科寄生虫学
ヒトおよび動物から検出されたCryptosporidiumの種と遺伝子型の解析木俣 勲1)、阿部仁一郎2)、松林 誠3)、井関基弘4)1)阪市大・院医・原虫感染症、2)大阪市・環科研・微生物保健、3)大阪夕陽丘学園短大、4)金沢大・院医・寄生虫 Cryptosporidiumは胞子虫類に属する消化管寄生原虫で、激しい水様下痢、とくにエイズなど免疫不全患者における致死的慢性下痢の原因として重要である。1907年に新属・新種の原虫としてCryptosporidium muris が報告され、1912年にはマウスの腸に寄生するC. parvumも記載されたが、C. parvumがヒトの下痢の原因になることが判明したのは1976年である。20世紀末までに150種以上の哺乳類、各種鳥類、爬虫類、魚類など広範な脊椎動物から本原虫が検出され、独立種として8種が記載された。本原虫の分類は、オーシストの大きさと形状、寄生部位、宿主特異性の違いによってなされるが、オーシストの形態はどれも酷似しており、宿主特異性を証明する感染実験の実施も困難なため、患者や動物から検出された虫体の種の鑑別は極めて難しい。過去10年間、PCR-RFLP法や遺伝子解析による分類が進展し、現在では独立種として14種、遺伝子型として20型以上が報告されている。人獣共通感染性の種の存在も明らかになり、ヒトからは7種が検出されている。また、本原虫は環境水や飲料水を介した集団感染も起こしやすく、汚染源の特定など疫学的研究には遺伝子解析が欠かせない。 演者らは、国内のヒトと動物から分離した原虫株の遺伝子を解析し、ヒトからC. hominisとC. parvumの2種、ラットからC. muris、ウシからC. andersoniとC. parvum、イヌからC. canis、フェレットからC. parvum ferret g.、マングースからCryptosporidium sp. mongoose g.、タヌキからC. parvum bovine g. を同定した。また、60kD糖蛋白遺伝子の解析ではC. hominisに3つの亜型、C. parvumに3つの亜型の存在を明らかにした。
W11-4
ネパールおよびラオスの下痢症患者におけるCyclospora cayetanensisの感染実態調査
Study on Cyclospora cayetanensis Associated with Diarrheal Disease in Nepal and Lao PDR
1神戸大学医学部医学医療国際交流センター
2Department of Microbiology, Nepal Medical College,
3Department of Pathology, Birendra Police Hospital
4Center for Laboratory and Epidemiology, Ministry of Health
5神戸大学医学部保健学科
Cyclospora cayetanensis はヒトを固有宿主とするコクシジウム目の原虫であり、ヒトに経口感染して下痢の原因となる。ネパールでは1993年に旅行者と居住者からC. cayetanensisが最初に分離されて以来その分布は知られているが、その正確な侵淫実態は必ずしも明らかにされていない。一方、ラオスでは本原虫に関する報告は全く行われていない。そこで演者らはこれら両国から集めた2,083検体の下痢便を対象としてC. cayetanensis感染の疫学調査を実施した。検査方法は採取した下痢便を等量の2%重クロム酸カリウム溶液し、その10μlを落射蛍光顕微鏡と微分干渉装置を用いて直接観察する方法である。ネパールにおけるC. cayetanensisの陽性率は全体で9.2%(128/1,397)であった。季節別では高温・多雨の夏季(6月〜8月)における陽性率(12.6%)が、他の3季節におけるそれを有意(P < 0.05)に上回っていた。患者の発生状況をカトマンズ盆地内とその外で比較したところ、前者の陽性率が後者のそれを上回って(P < 0.05)いた。これに対してラオスでは調査した686検体のうちC. cayetanensisが検出されたのは4歳の少年からの1例のみ(0.1%: 1/686)であった。ネパールでの結果とは対照的に、ラオスでは1例の陽性しか得られなかったその理由については明らかではないが、ラオスにおいてもネパール同様雨期は存在し季節条件の差異は否定できるため、スラム化等による人口密集といった人為的な環境要因がその理由ではないかと考えた。
W11-5
ラオスにおける原虫感染下痢症の疫学調査
Epidemiology of diarrhea caused by protozoan infection in Lao PDR
1神戸大学医学部医学医療国際交流センター
2Center for Laboratory and Epidemiology, Ministry of Health
3Khammouane Province Hospital
4神戸大学医学部保健学科
ラオスの下痢症患者を対象として、原虫感染の実態を把握することを目的に,2002年2月より2005年1月まで首都ビエンチャン市内とその近郊の6病院、およびターケーク市内の2病院の下痢症患者合計1290検体(それぞれ686検体、 604検体)の調査を実施した。採取された下痢便検体は, Cryptosporidiumの検査にはショ糖浮遊法後の検体を位相差顕微鏡で、その他の原虫類の検査には落射蛍光顕微鏡および微分干渉顕微鏡を用いた直接検鏡法で検査した。 調査の結果、ビエンチャン市では6.0%、ターケーク市では16.1%の割合で合計5属5種の原虫類が検出された。それらの種類ならびにビエンチャン市とターケーク市における寄生率はGiardia intestinalis (2.5%、 5.0%)、Cryptosporidium parvum (0.4%、 0.2%)、 Cyclospora cayetanensis (0.1%、 2.0%)、Isospora belli (0.1%、 0%)、およびSarcocystis sp. (2.3%、8.9%)であった。検出された原虫類のうち最優占種はSarcocystis sp.であり、次いでG. intestinalisであった。また、地域的にはビエンチャン市よりターケーク市の陽性率が高かったが、性別、年齢層、あるいは季節による陽性率の差は認められなかった。 今回の調査ではSarcocystis sp.が多く検出され、近隣諸国における結果とは異なる原虫相を呈していた。
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ラオス国ルアンパバーン県におけるメベンダゾールを用いた消化管寄生虫駆虫効果の検討
Study on the efficacy of Mebendazole against intestinal parasaites in LuangPrabang Province,LAO P.D.R
1青森県立保健大学看護学科
2関西医科大学公衆衛生学講座
3ラオス国ルアンパバーン看護学校
4ラオス国ルアンパバーン県マラリアセンター
5ラオス国保健省治療局
【背景と目的】我々は2003年よりラオス製のメベンダゾール(MBZ)を用いて駆虫効果の評価を行っているが、500mgの単回投与では鞭虫・鉤虫に対し十分な駆虫効果が期待できないという結果を得ている。そこで、今回MBZの投与量や投与期間による駆虫効果を評価することを目的に調査をおこなった。【対象と方法】2005年1月 ̄2006年1月、ルアンパバーン県の6校の学童418人を対象に、セロハン厚層塗沫法による虫卵検出を行い、MBZの投薬を行った。投薬方法は、MBZ 500mgを1回投与(A法)、MBZ 250mgを2日間連続投与(B法)、MBZ 100mgを朝夕2回3日間連続投与(C法)の3法を試みた。投薬後3週間目に後検便を行い、回虫、鞭虫、鉤虫に対する薬効を検討した。さらに、A法を行った2校のうち1校に、同様の投与法を4ヶ月毎に3回行い、継続投与による駆虫効果を検討した。【結果】陰転率は、A法(n=113)回虫75.5%、鞭虫27.5%、鉤虫20.0%、B法(n=124)回虫90.3%、鞭虫28.6%、鉤虫76.2%、C法(n=181) 回虫92.6%、鞭虫95.1%、鉤虫88.1%であった。回虫に対してはどの投薬方法でも陰転化がみられたが、鞭虫、鉤虫に対してはC法で最も陰転率が高かった。また、A法の4ヶ月毎の追加投与(n=97)では、3回の投与後の陰転率は回虫88.9%、鞭虫57.1%、鉤虫83%であった。A法の4ヶ月毎の追加投薬を3回行うことで、回虫・鉤虫に対しC法と同等の陰転化がみられたが、鞭虫に対しては同等の陰転化はみられなかった。【まとめ】今回のラオスにおける調査では、現在ラオスの治療指針として一般化しているMBZ 500mg1回の投与法は、本邦標準投与法であるMBZ 100mg6回投与法に比較し、回虫、鞭虫、鉤虫の虫卵陰転率が低かった。また、MBZ 500mgを使用し、同等の効果を得るためには、少なくとも4ヶ月毎3回以上の投薬が必要であった。【謝辞】本研究は社団法人協力隊を育てる会、日本財団の助成によるものである。
(オーガナイザー:)