W07 アジアの貧困-環境-文化における感染症対策の現状と課題
日時: | 2006年10月12日(木)10:30-12:00 |
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場所: | 第4会場(会議室4-5) |
座長: | 伊藤 亮(旭川医科大学医学部寄生虫学教室),溝田 勉(長崎大学熱帯医学研究所社会環境分野) |
W07-1
アジアにおけるテニア症・嚢虫症の現状と課題
The present situation and the problem of taeniasis and cysticercosis in Indonesia
1旭川医科大学医学部寄生虫学教室
旭川医科大学寄生虫学講座ではアジアにおける寄生虫病流行阻止に向けた国際協力を念頭に置いた共同研究を展開してきている。主な対象疾患は人畜共通条虫症であるエキノコックス症と嚢虫症である。本ワークショップでは東南アジア・太平洋地域で流行している嚢虫症を取り上げる。特にインドネシア・スマトラ島、バリ島、パプア(イリアン・ジャヤ)島における嚢虫症の流行の実態と、嚢虫症を引き起こす寄生虫である有鉤条虫ならびに近縁種である無鉤条虫、アジア条虫の流行の現状を紹介し、その社会的背景、伝統的な文化、風習(食習慣)、宗教、歴史、経済の概要についても言及したい。
教科書的には人体寄生テニア属条虫は有鉤条虫、無鉤条虫の2種類である。しかし、アジア各国から第3の条虫、アジア条虫が発見されたことから、アジア・太平洋地域には3種のテニア属条虫が同所的に分布していることが判明しつつある(伊藤亮.2004.医学の歩み 211, 781-4)。これら3種のテニア属条虫は人体内でのみ成虫に発育する(ヒトが終宿主)。これらの条虫から排泄される虫卵はそれぞれブタ、ウシ、ブタに飲み込まれるとそれぞれの全身、全身、内臓で嚢虫と呼ばれる幼虫に発育する(これらの家畜動物が中間宿主)。嚢虫が寄生している肉、内臓を十分火を通さずに食べたヒトが感染し、数メートルから10メートルにおよぶキシメン状のサナダムシを宿すことになる。上記3種の条虫のうち、”ヒトから排泄された虫卵がブタのみならずヒトにも感染する”有鉤条虫が医学的、公衆衛生学的に特に重要である。現在、世界で最も突然死を引き起こしやすい疾患として脳嚢虫症(有鉤条虫の虫卵を経口摂取したヒトの大脳で嚢虫が発育する疾患)が、また発展途上国における遅発性の癲癇も大部分が脳嚢虫症による症状であると考えられている。
教科書的には人体寄生テニア属条虫は有鉤条虫、無鉤条虫の2種類である。しかし、アジア各国から第3の条虫、アジア条虫が発見されたことから、アジア・太平洋地域には3種のテニア属条虫が同所的に分布していることが判明しつつある(伊藤亮.2004.医学の歩み 211, 781-4)。これら3種のテニア属条虫は人体内でのみ成虫に発育する(ヒトが終宿主)。これらの条虫から排泄される虫卵はそれぞれブタ、ウシ、ブタに飲み込まれるとそれぞれの全身、全身、内臓で嚢虫と呼ばれる幼虫に発育する(これらの家畜動物が中間宿主)。嚢虫が寄生している肉、内臓を十分火を通さずに食べたヒトが感染し、数メートルから10メートルにおよぶキシメン状のサナダムシを宿すことになる。上記3種の条虫のうち、”ヒトから排泄された虫卵がブタのみならずヒトにも感染する”有鉤条虫が医学的、公衆衛生学的に特に重要である。現在、世界で最も突然死を引き起こしやすい疾患として脳嚢虫症(有鉤条虫の虫卵を経口摂取したヒトの大脳で嚢虫が発育する疾患)が、また発展途上国における遅発性の癲癇も大部分が脳嚢虫症による症状であると考えられている。
W07-2
日本・アジアにおけるダニ媒介性疾患の概説
Overview of Tick Borne Diseases in Asia and Japan
1チューレーン大学医療センター公衆衛生熱帯医学大学院
ダニは、単に人に吸着して吸血するだけではなく、ある種のウイルス、リッケチア、細菌、原虫疾患を媒介する感染源として知られている。日本を含むアジア諸国においては、ツツガムシ病、ライム病、野兎病、日本紅斑熱、バベシアが重要である。
ツツガムシ病の特徴は、特有の刺し口、高熱、発疹などでテトラサイクリン系抗生物質が有効である。年次推移を見ると1965年-1975年にツツガムシ病の発生件数は著名な低下を示しており抗生物質の世代交代が関係した興味深い症例といえる。またツツガムシ病は日本紅斑熱との鑑別が重要であり、いくつかの鑑別点がある。
ライム病は、欧米では年間数万人の患者が発生しているが、わが国でも1987年に最初の患者が発見されてから、毎年数例―数十例の報告がある。本症の分布は日本紅斑熱とは対象的に本州の中部以北、特に北海道に多い。
野兎病は、米国の生物化学兵器における重要疾患で、バベシアはマラリアとの鑑別が重要である。
感染症新法ではダニ媒介性疾患では4類に属し、診断後直ちに届けなければならない。日本、アジアに広く分布するダニ媒介性疾患の概要を理解することは、感染症理解の上で重要なことと思われる。
ツツガムシ病の特徴は、特有の刺し口、高熱、発疹などでテトラサイクリン系抗生物質が有効である。年次推移を見ると1965年-1975年にツツガムシ病の発生件数は著名な低下を示しており抗生物質の世代交代が関係した興味深い症例といえる。またツツガムシ病は日本紅斑熱との鑑別が重要であり、いくつかの鑑別点がある。
ライム病は、欧米では年間数万人の患者が発生しているが、わが国でも1987年に最初の患者が発見されてから、毎年数例―数十例の報告がある。本症の分布は日本紅斑熱とは対象的に本州の中部以北、特に北海道に多い。
野兎病は、米国の生物化学兵器における重要疾患で、バベシアはマラリアとの鑑別が重要である。
感染症新法ではダニ媒介性疾患では4類に属し、診断後直ちに届けなければならない。日本、アジアに広く分布するダニ媒介性疾患の概要を理解することは、感染症理解の上で重要なことと思われる。
W07-3
アジアにおけるメコン住血吸虫症
Mekong schistosomiasis in Asia
1獨協医科大学熱帯病寄生虫学教室
2国立国際医療センター研究所適正技術開発・移転研究部
3National Center for Parasitology Entomology and Malaria Control
メコン住血吸虫症はラオス南部およびカンボジア北東部のメコン川流域に分布する。淡水産の巻貝を中間宿主とし、水中に遊出した感染幼虫がヒトに経皮的に浸入する。成虫は門脈内に寄生し血管内で産卵するが、虫卵の一部は肝臓に蓄積して炎症を起こし、放置すれば肝硬変を経て死に至る疾患で、両国にとっては社会・経済的な問題である。
ラオスでは1989年から1998年までWHO/保健省による集団駆虫が実施された。1994年及び1999年に実施された検便による調査では対策の効果が評価され(虫卵陽性率0.4 −0.8%)、本症は終息したかに思われた。ところが2002年にWHO/保健省の合同調査、2003年には演者らがコーン島周辺地域で実施した糞便検査により虫卵陽性率は10.8%から50%にもおよぶことが明らかになり、集団駆虫プログラム終了後短期間で本症の再興が確認された。ラオスの本症有病地には数千の島が存在し、感染が起こる地域は川岸以外にも無数にある。こうしたラオス特有の状況が、本症の実態把握や対策を一層困難にしている。
一方、カンボジアにおいては多くの国際支援を受け、保健省/WHO/MSF/SMHF等による集団駆虫が1995年より実施され、8万人とも推定される流行地住民における感染率は激減した。本症のヒトへの感染が低水位期の数ヶ月間に限られていることや、ラオスとは異なり人の住む島が少ないことが対策の効果を挙げていると考えられる。演者らは1997年より血清疫学調査を実施し、流行地の略全貌を明らかにした。さらに、隠れた浸淫地を見出すことも可能となった。今後、現状に即した監視体制の確立と継続が必要であり、急速に進む観光ブームに向けて両国政府の慎重な対応が望まれる。
最近の知見では、本症の腹部超音波画像や実験感染動物における病理像が、同じアジアに分布する日本住血吸虫症とは異なることが明らかになってきた。
ラオスでは1989年から1998年までWHO/保健省による集団駆虫が実施された。1994年及び1999年に実施された検便による調査では対策の効果が評価され(虫卵陽性率0.4 −0.8%)、本症は終息したかに思われた。ところが2002年にWHO/保健省の合同調査、2003年には演者らがコーン島周辺地域で実施した糞便検査により虫卵陽性率は10.8%から50%にもおよぶことが明らかになり、集団駆虫プログラム終了後短期間で本症の再興が確認された。ラオスの本症有病地には数千の島が存在し、感染が起こる地域は川岸以外にも無数にある。こうしたラオス特有の状況が、本症の実態把握や対策を一層困難にしている。
一方、カンボジアにおいては多くの国際支援を受け、保健省/WHO/MSF/SMHF等による集団駆虫が1995年より実施され、8万人とも推定される流行地住民における感染率は激減した。本症のヒトへの感染が低水位期の数ヶ月間に限られていることや、ラオスとは異なり人の住む島が少ないことが対策の効果を挙げていると考えられる。演者らは1997年より血清疫学調査を実施し、流行地の略全貌を明らかにした。さらに、隠れた浸淫地を見出すことも可能となった。今後、現状に即した監視体制の確立と継続が必要であり、急速に進む観光ブームに向けて両国政府の慎重な対応が望まれる。
最近の知見では、本症の腹部超音波画像や実験感染動物における病理像が、同じアジアに分布する日本住血吸虫症とは異なることが明らかになってきた。
(オーガナイザー:伊藤亮,溝田勉)