S4 シンポジウム4: 国際保健人材の育成と確保(国際協力機構JICAとの共同シンポジウム)

日時:2006年10月12日(木)16:30-18:30
場所:第1会場(大ホール)
座長:仲佐 保(国立国際医療センター),石井利和(長崎大学国際連携研究戦略本部)
S4-1
国際保健人材の育成と確保
Enhancement of human resource development in international health
仲佐 保1、 石井 利和2、 松山 章子2、 石井 羊次郎3
1国立国際医療センター国際医療協力局    2長崎大学国際連携研究戦略本部    3国際協力機構   
本シンポジウムでは、国際保健医療分野で働きたいという熱い気持ちを持つ若者と、人材不足を嘆く国際協力実務団体の認識のギャップを明らかにし、国内外における日本の若者の活躍の場を広げるにはどうすればよいかを話し合う機会を提供します。最初に、木曽氏より、「国際保健における人材育成に関する現状調査」で明らかにされた、国際保健を目指す若手の考え方と実際に若手人材を雇用する側の意見を発表していただきます。これに続き、学生を代表として、将来国際保健を目指すものとして、国際保健に関わる魅力が伝わりづらい現状に関しての考えと提案を発表していただきます。次に雇用者側として、石井氏より、JICAが従来の個別課題の技術移転型の協力から保健セクターへの包括的な取り組みに重点が移行しつつあり、必要とされる援助人材には事業マネージメントの能力が求められていることなど雇用側の視点を提示していただきます。また、仲佐氏より、国立国際医療センターの立場から、長年の実務から得られた経験を基にした国際保健医療人材の育成のために取り組みを紹介していただきます。松山氏からは、熱帯医学研究や研修を実施してきた長崎大学の立場として、立案中の国際協力の現場で即戦力となる人材を育成する独立研究科設置構想を紹介していただきます。今回の議論では、単に各分野で活躍している先輩のサクセス・ストーリーを聞くという趣向ではなく、具体的に、若手人材がどのように活躍の場を与えられているのか、雇用側はどういう技術、経験を持った人を欲しているのか、人材育成をすべき大学などの機関はその役割をはたしているのか、そして若手人材はインターナショナルなレベルで国際協力活動を担う一員となりうる資質を持っているのか、などに関して忌憚の無い意見交換をし、最終的には、若手のための人材育成に関しての具体的な仕組みづくりの方策についても議論できればと考えております。
S4-2
国内における国際保健医療若手人材の現状に関する調査
The current situation of Japanese young proffesionals in international health cooperation
木曽 正子1
1東京大学大学院医学系研究科国際保健専攻国際保健計画学教室   
近年、大学や大学院において国際協力に関するコースが数多くみられるようになり、国際協力の現場に出ることを希望している人材も増加している。しかし、国際協力におけるポストは限られており、大学及び大学院を修了後、その実務に就ける人は少ないのが現状ではないだろうか。国際保健領域においても、若手人材にはどのようなキャリアパスの選択肢が存在するのかなど、人材育成についての議論が既に始まっているが、未だ十分とはいえない。本調査は、国際協力の現場で実務に就いている若手の人達、国際協力の実務に就いてはいないが希望している人達が、国際協力の現場で戦力となるために何が必要であると考えているのか、また国際協力の実務を行っている現場では若手人材に何を求めているのかを明らかにすることを目的として行われた。本調査は、平成18年7月から9月にかけて行われた。調査方法は、求職側と雇用側へのキーインフォーマントインタビューを行った後、その結果を基に質問紙調査を求職側と雇用者側へ別々に行った。質問紙は無料アンケートソフトを利用して作成し、web上に公開されユーザー名とパスワードが対象者に知らされ、質問紙へアクセスして回答をするというものだった。回答対象者として求職側は、国際保健関連のメーリングリスト、長崎大熱帯医学研修修了者リストへ登録をしている方々、雇用側としてJICA、コンサルタント会社、NGO,研究機関等の人材養成・採用部署の方々とした。回答対象者へは、本調査の趣旨に賛同を頂いた上で回答を依頼した。平成15年・16年度に行われた、厚生労働省研究事業「わが国の国際協力を担う国内の人材育成及び供給強化並びにキャリアパス拡充のために医学教育が果たすべき役割の研究」と平成17年度のJICA・アイシーネット株式会社「国際協力人材確保・養成に係る基本方針(案)策定のための調査研究」の結果をも考慮し、今回の調査結果の発表を行う。
S4-3
国立国際医療センターの人材育成戦略
Strategy for human resource development in International Medical Center of Japan
仲佐 保1
1国立国際医療センター国際医療協力局   
学生時代には、国際医療協力に興味を持ちながらも、卒業直後には、医師では前期研修医として2年、後期研修医として3年間、看護師では、最初の3年間は専門職としての実際を学ぶ時間に取られ、それらに接する機会が無いのも事実である。国立国際医療センターでは、これまでの国際医療協力の実践の中で得られた知見をもとにして、国際保健医療協力人材育成に取り組んでいる。その枠組みは、国際保健人材となるまでを三段階と考え、そのステージを基礎ステージ、実践ステージ、実務ステージからなる三である。基礎ステージとしては、国際保健医療協力人材候補が明確化し、身につけるべきものとして、国際保健に関して明確な動機があること、自らの国際保健としてのキャリア方向性に関するある程度のオリエンテーションあること、国際保健医療協力の入門知識、能力の三つに関してそろっている状況を条件とする。特に若手の医療従事者のために、この基礎ステージのための継続的な場を提供しているのでここに紹介する。 まず初めに、国際協力のために定期的に海外の様々なプロジェクトの紹介や、プロジェクト実施経験者らによるシンポジウムなどを実施している。また、国際医療協力を目指すものたちのボランティア的な活動グループに対しての戦略的な支援を行っている。後期研修医に対しては、二つのプログラムを実施している。一つは、レジデント2,3年目の研修医に対して、3ヶ月間の1ヶ月を超える海外実習を含む国際医療に関しての選択研修や全てのレジデントを対象として希望者に国際医療協力を実施してきたボリヴィアやカンボジアの医療施設との間にレジデント交換プログラムを実施しており、1ヶ月以内の海外実習を開始している。さらに、国際医療協力の派遣希望者には、年に1回、「国際医療協力人材養成研修」と「国際感染症等専門家要請研修」を実施している。
S4-4
JICAが求める国際保健医療協力分野の人材
Expected talent for the implementation of JICA health development programs
石井 羊次郎1
1独立   
近年の世界の開発援助の潮流を俯瞰すると、グローバル化に伴う地球規模の環境変化、紛争・テロ、感染症、経済危機など多様な課題を抱えて、新しい効果的な援助枠組みを作り出そうとする取り組みがうかがえる。セクターワイドアプローチ(SWAPs)やミレニアム開発目標(MDGs)といった援助協調や共通目標の設定がおこなれ、援助国にとっては効率的で被援助国にとっては受入負担が少ない効果的な援助方法が模索されている。一方、わが国ODA(政府開発援助)の近況を見ると、援助協調の流れの中で地球規模での感染症対策や復興支援等のあらたな援助対象への取り組みを図っているが、その予算規模は1997年度の1兆1,687億円をピークに減少、2006年度は7,897億円とピーク年の3分の2を下回る規模にまで縮小した。 こうした状況下で2003年10月に独立行政法人として発足した新生JICAでは1.現場主義、2.「人間の安全保障」の視点、3.事業の効果・効率的実施の3つを留意した組織改革を行っている。事業面での大きな変革ではプロジェクトを有機的に束ねたプログラム化、事業の選択と集中、より効率的な実施を図るための事業の委託化が図られている。保健医療分野においても、個別課題の技術移転型の協力から保健セクターの制度、組織、人材のキャパシティ・ディベロップメント(CD)を図る包括的な取り組みに重点が移行しつつある。事業実施の担い手となる専門家や事業委託先機関においても、途上国の保健セクターの現況を的確に捉え、個々の人々のニーズに応えつつ組織、制度の強化整備を図る事業マネージメントの能力が今後は一段と求められている。 JICAではこうした新たに必要とされる援助人材を育成確保するために、大学、コンサルタント、研究機関、NPO等と一段と緊密な連携体制を作り上げていく方針である。
S4-5
国際保健の人材育成と確保:長崎大学の人材人育戦略
Enhancement of human resource development in international health: Strategy of Nagasaki University
松山 章子1
1長崎大学国際連携研究戦略本部   
国際協力分野で仕事を志す若者が増え続ける中で、援助や開発分野の実務者が不足しているという現場の声も後を絶たない。このギャップを埋めるために大学が果たすべき役割はあるのか。あるとしたら、どのような創意工夫が必要なのか。現在長崎大学で立案中の国際協力の現場で即戦力となる人材を育成する独立研究科設置構想を紹介しながら、さまざまな立場で国際協力を担う人たちと、大学の人材育成の役割を議論したい。長崎大学はわが国唯一の熱帯医学を専門に研究する熱帯医学研究所を有し、アフリカ、アジアを中心とした熱帯地方における疾病研究と対策へ寄与してきた。また、過去30年近くにわたり、保健医療協力現場の若手人材に対して国内で熱帯医学の知識を短期(3ヶ月)で研修できる場を提供してきた。さらに、今年からは医歯薬総合科に医師を対象として臨床熱帯医学に重点を当てた修士コース、保健学科修士コースに国際リプロダクティブ専攻を設置するなど、熱帯医学・国際保健医療分野における研究、人材育成を積極的に行っている。現在、国際協力の現場の実務を担い途上国のパートナー機関と協働でプロジェクトを牽引できる人材を育てるために国際協力独立研究科(修士)(仮称)の設置準備を進めている。当研究科では、学際的な知見を持ちつつ途上国の現場で即戦力となる人材を輩出するため、長崎大学が現在実施している海外拠点プロジェクトやJICAなどの機関の協力を得ながら、援助プロジェクトサイトでのインターンシップなどに重点をあてる予定である。このような構想の一部を紹介しながら、国際協力分野で仕事を求める若手人材と人を求める国際協力団体のマッチングに大学が役割を果たすためには、既存の大学のプログラムにはないどのような工夫をしていくべきかを議論したい。
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国際保健人材の育成と確保
Upbringing and ensuring of an international health talented person
長嶺 由衣子1
1長崎大学医学部医学科   

国際保健医療に感じる魅力:学生の視点
文責:長嶺由衣子(長崎大学医学部医学科4年)私が『国際保健』に関わろうと考える最大の理由は、『国際』と『保健』の2つの視点がクロスする場所であることです。『国際』関係を志向するのは、国家という枠組みで実現されつつある、人々が快適に暮らすためのシステム作りを、地球、世界という枠組みで実現したいという思いからきています。『保健』分野に関わりたいと考えるのは、「健康」という視点から人々の生活水準の向上に寄与できると思うからです。
「健康」であることは誰もが最低限供与する権利を持つものであると考えるのです。現状では、学生時代にこうした国際保健に関わる魅力を感じづらくなっています。その理由は、まず入り口として触れる機会が少ないこと、そして出口として将来が見えづらいことの2点に集約されると思います。これらのことから、学生の立場から、魅力ある国際保健を将来できるようになるため、いくつか提案があります。まず大学内の環境改善として、国際保健について知り、考える講義の提案・設置が挙げられます。
また、卒業後については、学会として国際保健に関わりながら臨床の勉強もできるような道・就業環境の提案・整備、学生に協力してくださる先生方の裾野を広げることなどが挙げられます。他方、学生の立場からも先生方のご協力の下、自分たちの環境を改善すべく学生部会の活動に取り組んでいます。現在、学生部会では、全国の学生と海外にフィールドを持つ学会の先生方の間をつなぐ「マッチング」、国際保健に関する幅広い情報を提供する「HPの運営」、ネットワーク構築のため、東西地方会・総会で開かれる「ユース・フォーラムの開催」の3つを柱とする活動を行っています。今後とも、先生方のご協力の下、少しでも国際保健を志す学生の手助けになるような活動を今後とも続けていきたいと思っています。よろしくお願いいたします。
(オーガナイザー:仲佐 保,石井羊次郎,石井利和,松山章子 )