S3 シンポジウム3: MDGs目標4:子供の死亡低減のために何をすべきか(国際協力機構JICAとの共同シンポジウム)

日時:2006年10月12日(木)13:30-16:00
場所:第5会場(リハーサル室)
座長:中村安秀(大阪大学人間学部),國井修(UNICEF本部Health Section)
S3-1
MDGs目標4:子供の死亡低減のために何をすべきか
What should we do for the reduction of child mortality? - Millennium Development Goals -
國井 修1、 中村 安秀2
1UNICEFProgramme Division    2大阪大学大学院人間科学研究科   
「MDGs目標4:子供の死亡低減のために何をすべきか」 1. ワークショップのねらい: ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)は、国連ミレニアム・サミットで採択された国連ミレニアム宣言と過去の主要な国際会議やサミットで採択された国際開発目標を統合したもので、現在、世界がその到達に向けて努力しているところである。8 目標のうち目標4は次世代を担う子供の健康改善を目指し、1990年を基準として 2015年までに 5歳未満死亡( U5MR)を3分の2減らそうというものであるが、この到達が困難な国がサブサハラアフリカには多い。それには何をなすべきか。MDGs が生まれた背景には、国際社会がこれまで多くの開発援助を実施しながらも、必ずしも援助が必要な人々に届き、成果につながっていたとは言い難いことへの反省がある。本ワークショップでは、これまでの援助を振り返り、MDGs 目標4を達成するには何をすればよいのか、真に援助が必要な人々にサービスを届け、結果・成果を出していくにはどうしたらよいのかを議論したい。
S3-2
MDGs目標4に向けたJICAの取組み
JICA's development work concerning the MDGs for child survival
小林 尚行1
1独立行政法人国際協力機構   
開発途上国においては子どもの死亡率は依然高い状況にある。子どもの生存に関わる脅威を取り除いていくことにより、「人間の安全保障」を確保していくことは協力を行う上での重要な視点であり、保健医療サービスの強化に関しては、周産期における子どものケアや予防接種等による疾病予防などの取り組みを行ってきた。
死亡率を継続的に低減していくためには、開発途上国の自立性と持続性を念頭に協力の枠組みを構築していくことも重要である。この点に関しては「ザンビア国ルサカ市プライマリー・ヘルスケア」に見られるような、低コストでかつ住民が協力して主体的に子どもの健康確保に努めていく協力や、「ラオス国子どものための保健サービス強化」のように保健行政サービス機関が主体的に課題の改善を図っていく仕組みづくりを行う等の協力を展開してきている。
子どもの健康に関する今後の協力展開にあたっては、開発途上国の自立性と持続性を確保することを念頭に、周産期の子どものケアの向上、病気の予防、異常の早期発見、治療・療育等の改善に配慮する。より具体的には、周産期の子どものケアの向上に関しては、胎児期のケアの改善、出生時のリスクの低減、新生児ケアの改善等を検討する。病気の予防に関しては、予防接種の改善、栄養改善、学校保健等コミュニティーレベルでの予防活動等について検討する。異常の早期発見に関しては、母子健康手帳や医療従事者の能力向上を通じた異常の早期発見等を検討する。また、治療・療育の改善に関しては、開発途上国の事情に応じ、コミュニティーレベルにおける治療、一次保健医療サービスの改善、二次、三次レベルの医療施設における小児医療の改善や階層の異なる保健医療施設間のレファラルシステムの構築等を検討する。なお、貧困層の子どもの生存確保という観点からは、コミュニティーレベルの治療や一次保健医療サービスの改善に配慮する。
S3-3
子どもの死亡削減のために日本は何をすべきか ―現場からの提言―
What should Japan do for reduction of child mortality in developing countries
野田 信一郎1
1国立国際医療センター国際医療協力局派遣協力第1課   
昨年は2000年9月の国連ミレニアムサミットにてミレニアム開発目標(MDGs)が設定されて5年が経過し数々の進捗レビューが行われた。そこで明らかになったことの一つとして、現在のペースでは目標4の子どもの死亡削減達成がかなり困難であるということである。特に、新生児死亡の低下は緩慢で、結果として5歳未満児死亡に占める割合が増加してきている。事実、これまで新生児への取り組みはSafe Motherhood InitiativeとChild Survival Initiativeの狭間で積極的に取り組まれることなく放置されてきた分野である。2005年の世界保健レポートは “継続ケア”の概念の基、新生児にも着目し、母、新生児、乳幼児のプログラムのインテグレーションの必要性を指摘している。また、MDGsのレビューで指摘されているもう一つの重要な点は、保健人材や医薬品供給を含む保健システム強化の必要性である。 演者の所属する国立国際医療センターでは、2000年以降11の小児に関連のあるJICA技術協力プロジェクトに専門家を派遣している。特徴として、EPIなど小児に焦点を絞ったプロジェクトは4つのみで、リプロダクティブ・ヘルスを含む母子保健プロジェクトの中で母と新生児の継続的なケアという視点で取り組まれたものや地域保健強化プロジェクトなど保健システム強化の一環として取り組んだものが多い。以上のような現場経験をもつ国立国際医療センターの中で、子どもの死亡削減に向けた今後の取り組みに関し戦略レベルと戦術レベルの検討が行われた。このディスカッションの結果を基に、専門家の視点からこの分野における今後の日本の援助について提言を試みる。
S3-4
MDGs目標4に向けて日本ができること・すべきこと:専門家の立場から(2)
What Japan can do and should do to achieve MDG-4: From the viewpoint of expert
中野 博行1
1聖マリア病院国際協力部   
現在、途上国における子どもの死亡低減を直接に目指した活動として、IMCIが展開されている。IMCIにはclinical、health systemおよびcommunityの3成分があり、いずれの成分も重要といえるが、とくにcommunity-based IMCI(CB-IMCI)が重視される。ネパールにおけるCB-IMCIはヘルスボランティアを中心としたcommunity peopleを巻き込むことによって、子どものemergency medical careに対応できるようになり、死亡率の低下に大きく寄与している。しかしながら、CB-IMCIは有力な戦略である反面、コストがかさむこと、中央レベルでの強力なリーダーシップの必要性、薬剤の安定供給、モニタリングのための人材確保など課題も少なくない。これらの課題に対し、支援機関が互いに役割分担して協力することが求められる。
一方、小児栄養の改善や予防接種は疾病予防の観点から重要な活動であり、当然のことながらIMCIの中にもこれらは含まれる。しかしながら、IMCIがケースマネジメントを軸にしているのに対し、これらの予防活動は集団を対象としている違いがある。また、IMCIが疾病罹患のeventとして把握されるのに対し、とくに栄養はlife-styleに関与した日常的なものである。したがって、この両者の活動をどのように効果的に結びつけていくのかが重要な課題といえる。UNICEFは小児栄養の改善やkey family practicesを積極的に推進しており、この面でもCB-IMCIの新たな展開が期待される。
近年、新生児疾患やHIV/AIDSによる死因が相対的に増大し、これらの疾患もまたIMCIとして対応が迫られている。新生児を対象とすることは、必然的に妊婦を対象とすることであり、今後community-based maternal careをも視野に入れた活動が重要と思われる。
S3-5
MDGs目標4に向けたUNICEFの戦略と実践そして課題
UNICEF's strategies, actions and challengies for achieving MDGs Goal 4
國井 修1
1UNICEF本部Health Section   
国連の一機関として世界の子供の生存と発達を守る使命をもつUNICEFには、MDGs8目標すべてが関連し、それぞれの目標達成のためのUNICEFの戦略と活動指針が明文化されている。中でもMDGs目標4はUNICEFの最優先課題のひとつであり、国連機関の中でWHOと共にその目標達成に向けた重要な役割を持っている。
世界で一年間に死亡する5歳未満児約1000万人のうち3分の2は、既存の効果的なサービスを展開することで予防または治療が可能であり、MDGs目標4は達成不可能な数字ではないと考えられている。
ただし、そのためには、これらの効果の高い介入方法に限られた資源を集中させ、その実施にあたっては事業を標準化・単純化し、5歳未満の死亡率および死亡数の高い国や地域を優先し、中でも貧困・紛争地域等サービスの到達が困難な地域に積極的にサービスを展開し、カバー率を向上させていくことが重要である。UNICEFではこれらを中期戦略計画(2006〜09年)や保健栄養戦略計画(2006〜2015年)などで明示すると共に、さらに具体的な戦略や実施方法を現在も検討している。
しかしながら、MDGsを達成するには事業支援のみならず、子供の死亡・罹患やそれに対する政策を含めた現状分析、事業とその効果に関するモニタリング・評価、国の政策・制度作りに対する支援なども重要である。UNICEFでは、MICS、DevInfoなどのモニタリング・評価手法、Marginal Budgeting for Bottlenecks (MBB)などの保健政策分析・計画手法を開発・推進し、MDGs達成のための環境や基盤を整備している。
MDGsにより成果が問われる中、援助環境や途上国のオーナーシップとリーダーシップにも大きな変化がみられている。UNICEFが抱える課題についても、ワークショップでは私見を述べたい。
(オーガナイザー:中村安秀,國井修)