S2 シンポジウム2: 国際学校保健 −政策から実践へ−
日時: | 2006年10月12日(木)14:10-16:30 |
---|---|
場所: | 第1会場(大ホール) |
座長: | 竹内 勤(慶應義塾大学医学部熱帯医学・寄生虫学教室),神馬征峰(東京大学大学院医学系研究科国際地域保健学教室) |
S2-1
国際学校保健:政策から実践へ
International School Health: Putting Policy into Practice
1東京大学大学院医学系研究科国際地域保健学教室
2国立国際医療センター国際医療局
3長崎大学熱帯医学研究所
4慶應義塾大学医学部 熱帯医学・寄生虫学教室
日本の学校保健は、歴史的にみて、公衆衛生の専門家や小児科医を中心とした保健医療関係者と学校現場教師を中心とした教育関係者によって同時に担われてきた。いっぽう、国際学校保健に目を向けてみると、具体的な活動の担い手はこれまで保健医療関係者が多かった。それに比べて、教育関係者による国際学校保健活動は比較的新しい。そのため、本学会においても、これまでの国際学校保健関連の演題発表の多くは保健医療関係者によってなされてきた。 今回のシンポジウムでは、学校保健の政策と実践に注目しつつ、保健医療・教育の両者による国際学校保健の実践活動を紹介したい。第1に、東南アジアを舞台に、寄生虫対策から始まり包括的学校保健の政策づくりに関わってきた国際寄生虫対策センタープロジェクト(ACIPAC)の活動成果を語ってもらう。政策のあるなしがその後の実践活動の展開にどのような影響をもたらしたかに注目したい。次は、ラオスにおいて感染症対策を持続的に実施するためになされた教育分野からのアプローチについて語ってもらう。政府の方針に実践がいかにリンクしたかが興味のあるところである。第3は、ユニセフの経験である。WHO、UNESCO、UNICEF、世界銀行などとの連携によって構築された包括的学校保健の枠組み「FRESH」に基づき、ユニセフが世界各地でどのような実践活動を行ってきたか、枠組みと実践との関連について発表していただく。最後は舞台を東アジアに移す。先進国における学校保健の課題は途上国の場合とは若干異なっている。しかしながら、Healthy School Movementにみられるような包括的学校保健アプローチには、次から次へと現れ出る新たな課題に対応していくためのポテンシャルがある。世界に広がりつつある健康的な学校づくりアプローチが、東アジアでどれだけ可能性に満ちたものであるかに注目したい。
S2-2
ACIPACによる、メコン圏各国での学校保健支援 ーなぜ途上国で包括的学校保健アプローチが必要かー
Spreading the comprehensive school health approach among Mekong countries by ACIPAC
1国立国際医療センター国際協力局派遣協力課
メコン圏各国において学校保健の導入、普及において、パートナーシップ形成の重要性と、包括的学校保健アプローチの導入が極めて重要であった。2000年にタイ、マヒドン大学に設置されたACIPAC: Asian Center of International Parasite Controlはメコン地域における学校ベースの寄生虫対策の普及を試みてきた。学校保健には、寄生虫対策を初めとする感染症対策、歯科口腔衛生等のヘルスサービスを中心とした支援、カリキュラム構成等の教育セクター支援等、数多くのドナーが関わってきているといえる。しかし各国が独自に学校保健を政策の一環として実施していくにはまずドナーパートナーシップの形成が重要であったといえる。この上で教育省と保健省を中心とした学校保健の実施母体が形成されていった。さらにACIPACでは学校保健政策ペーパーの作成支援に踏み込んでいったが、これは教育セクター、保健セクターの狭間において重要性が見えにくい学校保健について実現性、継続性を考える上で重要なステップであったと考えられる。 途上国における学校保健活動の実現性、継続性を考える上で、各学校での包括的学校保健アプローチの導入が有効であるといえる。学校保健のドナーの支援は保健セクターでは駆虫や口腔歯科といったヘルスサービス、教育セクターではカリキュラムや教材策定に特化することが多いといえる。しかしながら各学校が自主的にポリシーを作成し、できる範囲内での環境整備や健康教育を進めていくことが、継続性のある学校保健活動につながっていくと考えており、今回この重要性についても議論したいと考えている。
S2-3
「教科」としての感染症対策
Prevention of infectious diseases as school curriculum
1長崎大学熱帯医学研究所
「感染症対策」は、地域や国、感染経路・伝播経路、経済状況などによりその方法が全く異なってくる。特定の国を対象とするにしても、対策に取り組む主体が政府レベルにあるのか個々の学校レベルなのか、政府組織か非政府組織かなどにより、対策の方法が全く異なってくる。したがって、あるところで感染症対策のモデルづくりに成功したとしても、他の地域で同じように成功するとは限らない。その中で、どれだけ他の地域でも応用可能な対策方法を見いだすことができるのかが一つの課題となる。その一案として、「教科」の中に健康教育を定着させることを提唱したい。今回はラオスの学校保健、とりわけラハナム村でのタイ肝吸虫症を例に採りあげて考えてみたい。
2004年9月から1年間、村の全小学生を対象に3カ月ごとに糞便検査を実施した。その結果から、1)入学する時点で、すでに約62%がタイ肝吸虫に感染している、2)男女差は統計的には有意差が認められたが、大きくは違わない、3)感染に著しい季節的偏りはないなどといったことが明らかにされた。これらのことから肝吸虫症に関する健康教育は、1年次よりカリキュラムの中に導入すべきであることが指摘された。ラオスでは初等教育での健康教育は、「私たちの身のまわり」に位置づけられており、1−3年生は年間66コマ(1単位は50分)、4、5年生は99コマが配分されている。学習内容は、自分のからだ(12%)、家族(6%)、植物(12%)、学校(15%)、動物(18%)、地域社会(12%)、自然環境(25%)である。これらのコマの中に、いかにして病気や魚に対する知識などについて学習する時間を設定するかを検討する必要がある。また、健康教育という観点からは、ラオス語、芸術・音楽、特別活動といった時間も活用できる。このように、健康教育を学習指導要領にもとづいた「教科」の中に位置づけることにより、段階的、かつ継続的な学習が期待できる。
2004年9月から1年間、村の全小学生を対象に3カ月ごとに糞便検査を実施した。その結果から、1)入学する時点で、すでに約62%がタイ肝吸虫に感染している、2)男女差は統計的には有意差が認められたが、大きくは違わない、3)感染に著しい季節的偏りはないなどといったことが明らかにされた。これらのことから肝吸虫症に関する健康教育は、1年次よりカリキュラムの中に導入すべきであることが指摘された。ラオスでは初等教育での健康教育は、「私たちの身のまわり」に位置づけられており、1−3年生は年間66コマ(1単位は50分)、4、5年生は99コマが配分されている。学習内容は、自分のからだ(12%)、家族(6%)、植物(12%)、学校(15%)、動物(18%)、地域社会(12%)、自然環境(25%)である。これらのコマの中に、いかにして病気や魚に対する知識などについて学習する時間を設定するかを検討する必要がある。また、健康教育という観点からは、ラオス語、芸術・音楽、特別活動といった時間も活用できる。このように、健康教育を学習指導要領にもとづいた「教科」の中に位置づけることにより、段階的、かつ継続的な学習が期待できる。
S2-4
FRESHの枠組みにおけるスキル重視の保健教育
Skills-based health education within the framework of FRESH
1早稲田大学大学院アジア太平洋研究科
健康を促進するにあたって健康教育が注目されている。特にスキル(技能)を基礎とした健康教育に期待が寄せられている。他方、健康的な学習環境も重要である。例えば、適切な水・衛生施設が学校になければ、劣悪な学習環境のために出席率が低下する。また逆に、予防接種や寄生虫駆除など、保健や栄養のサービスが学校で提供されれば、子どもの健康状態は良くなり、出席率や学習効果も上がる。『ダカール行動枠組』の目標3と6はライフスキルを強調している。更に、戦略8は「安全で、健康で、包括的で、均等に投資された学習環境」を目指している。その構成要素として、「適切な水と衛生の施設」「保健・栄養サービスへのアクセスまたは連携」「教員と学習者の肉体的・心理社会的・情緒的な健康を向上させる政策と行動規範」「自尊心・健康・個人の安全に必要とされる知識・態度・価値・ライフスキルにつながる教育内容および実践」の四つがあげられている。これらの内容は特に新しくない。以前から、WHOは「健康を促進する学校」、UNICEFは「子どもに優しい学校」を提唱してきたからである。この戦略8はFRESHと呼ばれるようになった。2000年の「世界教育フォーラム」において、WHO、UNESCO、UNICEF、世界銀行が共同で推進することを合意した。中核的な構成要素が四つあり、「保健分野の学校政策」「健康的な学習環境へ向けた安全な水と衛生の提供」「スキルを基礎とした健康教育」「学校での保健・栄養サービス」である。ところで、日本の学校保健の歴史を見れば、FRESHアプローチが提示するものは特別に新しい内容ではないが、多様な開発パートナーがグローバルに連携するための共通の枠組として、その今日における意義は大きい。また、スキルを基礎とした健康教育は「ソフト」の部分であり、現場での実践例から学ぶことが重要である。多様な実践例とその教訓を国際的なレベルで共有していくことが望まれる。
S2-5
東アジアにおけるHealthy School Movementと思春期の人々のSocial Capital −日本、台湾、韓国での調査経験から−
Healthy school movement, and social capital and health among adolescents in the East Asia; Based on empirical research in Japan, Taiwan, and Korea
1東京学芸大学教育学部養護教育講座
国際学校保健あるいは国際健康教育という場合に、途上国を対象とした、日本の保健医療、健康教育の専門家による援助がイメージされることが多いと思う。しかしながら、東アジア地域において開発国とされる、日本、韓国、台湾、香港、シンガポールは、その社会の“豊かさ”ゆえに児童生徒あるいは思春期・青年期の人々は共通した今日的健康問題を抱えているのではないか。そして、その解決に対して、社会文化的背景は異なりながらも、やはり同様の悩みを抱えているのではないだろうか。たとえば、精神的ストレスや自殺などメンタルヘルスの問題、薬物、性行動、事故・安全、いじめ・暴力、信頼、働く意欲や将来の希望の問題などである。
また、情報化とグローバリゼーションの進展によって、互いの国の若者文化が影響を及ぼし合っているのも見逃せない事実であろう。たとえば日本のアニメ、ゲーム、Jポップはかなり他の東アジアの国に浸透しているし、逆方向の流れもあるだろう。したがって、これらの国において、児童生徒あるいは思春期青年期の健康問題を考える際に、互いに協力し合いながら学校保健やヘルスプロモーションを進めていくという課題も、国際学校保健のひとつの重要な課題ではないかと考える。いわば、欧米の影響を強く受けた非西欧文化(東アジア文化)を共有している国々が、“東アジアモデル”ともいうべき取り組みを模索できないだろうか、と期待している。
演者は、まだ以上の点に関する経験は乏しいのだが、日本、韓国、台湾における中高生のSocial capitalやHealthy School Movementに関する調査研究を実施しているところであり、その経験と文献検討などを基に報告を行う予定である。
また、情報化とグローバリゼーションの進展によって、互いの国の若者文化が影響を及ぼし合っているのも見逃せない事実であろう。たとえば日本のアニメ、ゲーム、Jポップはかなり他の東アジアの国に浸透しているし、逆方向の流れもあるだろう。したがって、これらの国において、児童生徒あるいは思春期青年期の健康問題を考える際に、互いに協力し合いながら学校保健やヘルスプロモーションを進めていくという課題も、国際学校保健のひとつの重要な課題ではないかと考える。いわば、欧米の影響を強く受けた非西欧文化(東アジア文化)を共有している国々が、“東アジアモデル”ともいうべき取り組みを模索できないだろうか、と期待している。
演者は、まだ以上の点に関する経験は乏しいのだが、日本、韓国、台湾における中高生のSocial capitalやHealthy School Movementに関する調査研究を実施しているところであり、その経験と文献検討などを基に報告を行う予定である。
(オーガナイザー:竹内 勤,神馬征峰,金田英子)