※ これは9月20日現在の予定であり、予告なく変更されることがあります。
LL 学会長講演: 熱帯医学と国際保健における人類生態学的アプローチ
日時: | 2006年10月13日(金)9:00-9:30 |
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場所: | 第1会場(大ホール) |
座長: | 中村安秀(大阪大学・次期日本国際保健医療学会総会 大会長) |
LL-1
熱帯医学と国際保健における人類生態学的アプローチ
Human Ecological Approaches in Tropical Medicine and Health
1長崎大学熱帯医学研究所附属熱帯感染症研究センター
30年ほど前、土木衛生工学を勉強した若者がパプアニューギニアで約1年間のフィールドワークを行い、「生業と生存:太平洋地区における農村の生態」という論文集を同僚と編集出版した。その中で、フィールドワークに基づいた「人類生態学としての衛生工学」という水系感染症の論文の他に、全章のレビューとして「人類生態学者はスーパーマンか?」という序論を書いた。研究者がある地域に長期滞在し、参与観察的に人々の活動を観察し、時には砂金採りと間違えられ、また時には専門外の社会人類学的手法を用いて専門家から批判を浴びながらも、そこに住む人々の生存や健康の成り立ちを考えることが何を意味するのか、また、そのような学問領域として広まりつつあった人類生態学に何ができるかという問であった。彼は、その当時、大規模に実施された国際生物学事業計画(IBP)などが、multi-mono-disciplinaryな研究に終わっていること、また、アフリカでは同種の研究が少なく、不適切な介入計画が実施されていることをあげて、このような個人の小規模な人類生態学的研究の重要性を指摘した。 Professor Richard Feachemはその後、アフリカ等で多くの仕事に就き、ロンドン熱帯医学校の校長となり、世界基金の総裁として活躍している。彼の行動原理の基礎にはEngaの人々と暮らした経験が横たわっていると思う。夫人と二人の長期のコミュニティとの距離の近い調査を実施し、それを科学的にまとめる過程は、熱帯医学や国際保健の重要な訓練の一つになるであろう。若いときに経験してもらいたいアプローチである。 一方、果たしてそれだけで良いのだろうか?30年間の学問の進歩を考えれば、そこにとどまってはいられない。また、当然ながら、人類生態学者はスーパーマンではない。人類生態学的視点をもった熱帯医学者、国際保健専門家を如何に組織的に育成し、研究成果を組織的に蓄積・活用していくべきか、を考えたい。