※ これは9月20日現在の予定であり、予告なく変更されることがあります。

L6 特別講演: 文化人類学と開発援助 −グシイの家族計画を中心に−

日時:2006年10月13日(金)9:30-10:20
場所:第1会場(大ホール)
座長:青木克己(長崎大学 熱帯医学研究所)
文化人類学と開発援助―グシイの家族計画を中心に
Cultural anthropology and international cooperation for development: Reflections from field studies on family plannning among the Gusii of Western Kenya
松園 万亀雄1
1国立民族学博物館   
報告者が1970年代後半から継続的に行ってきた西ケニア、グシイ民族の調査研究のうち、とくに保健医療に関連するテーマについて報告する。グシイその他の民族がそれぞれ独特のやりかたで家族計画に反応している。その実態と理由を理解するためには、アカデミックな要請と実践的な要請の両方の点からも、社会文化的な分析が不可欠だと思われる。医療を含む開発援助に対して文化人類学がどのように貢献できるのか、いくつかの論点を提示したい。
1996年から97年にかけてグシイにおける家族計画と彼らの性行動・性観念との関連性について集中的に調査した。ここでは、家族計画における男性参加の問題に焦点をあてる。調査が進むにつれて報告者は、夫婦間での、またクライエントと医療関係者・家族計画普及員との間での微妙な決定過程をよりよく知るには人類学的な調査が必要であること、また人々が実際にどのような避妊法を採用するかは、ジェンダー関係、世代間の関係、倫理観、セクシュアリティをめぐる恥の観念など、グシイの伝統的な価値観に大きく左右されていることを確信するにいたった。
たとえば、グシイの男性が精管切除に否定的ないし敵対的であるのは、男らしさに関するグシイ独特の見方に由来している。この否定的な態度は、子だくさんの複婚大家族を希求する彼らの文化理念に直結しており、同時に男性の再生産能力についての観念とも結びついている。近年、複婚男性の数は激減しているが、複婚慣行と結びついた男らしさの観念は今なおグシイ男性の心を占領しており、そうした観念は家族計画一般および精管切除に関する彼らの態度に大きな影響を及ぼしている。
家族計画を普及させるうえで障害になっていると思われる、クライエントに対する医療関係者の対応にもふれたい。