※ これは9月20日現在の予定であり、予告なく変更されることがあります。
L5 特別講演: 開発・生活・ヒューマンセキュリティー −ベトナム発−
日時: | 2006年10月12日(木)13:30-14:10 |
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場所: | 第1会場(大ホール) |
座長: | 神馬征峰(東京大学大学院 医学系研究科 国際保健学) |
開発・生活・ヒューマンセキュリティーーベトナム発
Development, Life, and Human Security: A Case of Vietnam
1慶応義塾大学総合政策学部
開発・生活・ヒューマンセキュリティーーベトナム発 開発政策は今でこそ「成長至上主義」という単純な目標の呪縛から離れつつある。だが、1970年代初頭からの東アジアにおける経済発展(韓国、香港などNIEsプラスASEAN諸国)の経験こそ繰り返されるべき先例であるとする開発論者はあとを絶たない。 しかし、東アジアの成功例が繰り返し可能な先例であるのかどうかという大きな疑問とならんで、軽視できない点がある。国民経済という単位で把握される「経済成長」が達成されたとしても、その波及効果が社会の隅々にまで及ぶには早くても10年、場合によっては30年近くかかるという点である。この10年から30年の間、人間の生活はどのような変容にさらされているのか。開発政策は従来の生活基盤を揺るがしつつ促進されるため、生活は来るべき改善をただ待つための仮の生活ではありえない。 この危うい基盤の上にあっても生活を維持しようとする人間に注目するのが、1994年以来の国際アジェンダともいうべきヒューマンセキュリティである。「価値あるものと考えることができるような生活を追求する自由」(人間の安全保障委員会、2003年)は限られた資源を前提に生活の維持を試みる人間の創意を重視する。限られた資源からより多くの効用を生み出そうとする創意である。 このヒューマンセキュリティの視点から、私はベトナムの、100万から300万といわれる枯葉剤(エージェント・オレンジ)被曝者ならびにその家族の生活を追っている。大半が完治不可能な疾患をかかえる家族(被害者はすでに第3世代に及びつつある)を持つ世帯である。過去20年近くのベトナムの経済成長の波及効果も及んでいない。こうした世帯や地域にとっての問題が解決された状態――「価値あるものと考えることができるような生活」――を考え、それを追求する人間の創意の実践を掘り起こしたい。