ベトナムにおけるコウモリの研究

長谷部博士は、平成16年3月から平成18年3月までの2年間WHO西太平洋地域事務局に出向し、ラボラトリー専門家として勤務した後、 長崎大学熱帯医学研究所に戻り、平成18年7月から長崎大学ベトナム拠点プロジェクトに参加、 ベトナム国立衛生疫学研究所・長崎大学フレンドシップ・ラボ(NIHE-NU Friendship Lab, NNFL)に赴任しております。 以下、長谷部博士による現地での研究活動報告です。


ベトナムに来て最初に手がけたのがコウモリ調査です。近年、いろいろなコウモリ種からヒトに感染し重篤な症状を引き起こす新興ウイルスが見つかっております。ベトナム北部には5万平方キロメートルを超える広大な地域が石灰岩によるカルスト地形を形成しており、 大小さまざまな洞窟があり、多くのコウモリ種が生息しています。 コウモリ捕獲


洞窟にコウモリ捕獲用のトラップを設置しているところ。

ベトナムにはコウモリを食用とする地域があり、われわれ研究チームはコウモリを捕獲、またはコウモリハンターが食用に捕獲したコウモリを購入して、 コウモリの血清中のニパウイルス、SARSコロナウイルス、日本脳炎ウイルスやチクングンヤウイルスに対する抗体価の測定を行っています。また、コウモリハンターによるコウモリの捕獲方法やコウモリの料理を出すレストランでの調理法などの調査も行い、 コウモリーヒト間の病原体感染の危険性についても検討を行っております。 コウモリ採血
コウモリからの採血(DakLak省のTIHEにて。

ある特定のコウモリ種に新興ウイルスに対する抗体陽性例が見つかっており、更なる調査研究活動が必要とされています。 コウモリ調査と並行して蚊媒介性のウイルス感染症(アルボウイルス感染症)の調査も行っております。
デング調査に際して採血前の説明会。

アルボウイルスにはデングウイルス、 日本脳炎ウイルス、チクングンヤウイルスといった多くのヒトに重篤な症状を引き起こす重要なウイルスが多く含まれます。 ベトナム南部を中心にデングウイルス感染症は毎年10万人を超す患者が発生しています。一方、ベトナム北部では数千人もの脳炎患者が発生しその多くが 日本脳炎患者と考えられています。

われわれは、ベトナム北部で脳炎の調査を行い、デングの調査ではホーチミンのパスツール研究所との共同研究で デング患者からウイルスを分離してウイルスの性状や遺伝子の解析を行っています。



デング調査のための住民からの採血風景。

右の写真はパスツール研究所のスタッフと筆者です。