ベトナム拠点の概要

開所式
開所式


設立の経緯:

 

20063月に新興・再興感染症研究拠点形成プログラムのもとに、長崎大学ベトナム拠点(Vietnam research StationVRS)はベトナム国立衛生疫学研究所(NIHE)内に設立されました。その後20104月から始まった感染症研究国際ネットワーク推進プログラム(J-GRID)に引き継がれて今日に至っております。VRSの中心となるNIHE-長崎大学フレンドシップ研究室はNIHEキャンパス内にあるハイテクセンターの2階にあり、同センター3階部分には日本政府の無償資金協力により設置されたBio Safety Level 3 (BSL3)実験施設が設置されております。ハイテクセンターにはプロジェクトに参加するNIHEウイルス部、病害動物部が実験室を持つため、情報交換等が容易な環境といってよいでしょう。

熱帯研究所とNIHEとの共同研究の端緒が開かれたのは1985年の頃のようで、五十嵐章 長崎大学名誉教授主導で日本脳炎やデング熱の診断法やワクチン国産化の技術支援が行われたことによります。2000年度には日本学術振興会(JSPS)の拠点大学交流事業に採択され、NIHE職員を博士課程大学院生として熱研を中心に受け入れた実績があります。ベトナムには中国を模した「科挙」の制度があったように学問を尊ぶ文化があり、この交流事業が熱研とNIHEとの関係を加速したといってよいでしょう。

長崎大学はVRSを大学の重要な資産と位置づけ、それをテコにして様々な研究、教育の中で活用してきております。2001年度に長崎大学とNIHEとの間に学術交流協定が締結され、2003年度には文部科学省21世紀COEプログラム、グローバルCOEプログラムに採択されました。2012年度には「熱帯病・新興感染症制御 グローバルリーダー育成プログラム」が採択され、国際的なリーダーとして活躍できる人材を育成するための大学院教育の中で、VRSを熱帯医学のOn-the-Job-Trainingの場として活用すると位置付けております。このように、様々な先人の努力で熱研とNIHEとの研究交流事業は充実期を迎えていると言って良いでしょう。

 

国内拠点:長崎大学熱帯医学研究所
長崎大学熱帯医学研究所

これまでの主な研究成果:

第一期プログラムでは拠点形成、研究実施体制の構築が進み、様々な研究の成果が出てくると同時に、新たな研究テーマが抽出されてきました。第二期プログラム(J-GRID)においてはそれにこたえる形で、「病原微生物生態学」および「感染症臨床疫学」を2本の柱として感染症予防介入につながるような研究を実施してまいりました。その過程の中で若手研究者の育成のほか、相手国政府、国際機関等への政策提言や、感染症の知識の啓蒙等を期した市民公開講座など、研究成果の社会への発信を心がけた活動をしてまいりました。そのうちのいくつかを紹介いたします。

ベトナム拠点:国立衛生疫学研究所(NIHE)
国立衛生疫学研究所(NIHE)


ナムディンウイルスの報告:

ベトナムの脳炎の多くは日本脳炎ウイルスが原因とされてきました。しかし日本脳炎ワクチン接種が開始されると、相対的に原因不明のウイルス性脳炎の割合が増加しました。そこで患者および媒介動物などにおいてウイルスの探索を行った処、ヒトに吸血嗜好性を示す蚊から新種ウイルスを分離しました。このウイルスは+鎖RNAウイルスで、球状でエンベロープを持ち、その遺伝子は約20,000塩基で複数のORFを持つ事が判明しました。これをナムディンウイルスと名付け、新種のニドウイルス目としました。これまでに発見されたニドウイルス目に分類されるウイルスは大きな遺伝子サイズを持つコロナウイルス科、小さな遺伝子サイズを持つアルテリウイルス科などの報告はありますが、その中間のサイズの遺伝子をもつウイルスの報告はありませんでした。ナムディンウイルスは中間のサイズの遺伝子を持ち、系統樹解析からは独立した新しいウイルス科に分類されるべき特徴を持っている事が解明され、メソニウイルス科と令名しました。遺伝子進化の連続性を考えるとき、本ウイルスの発見により、今後この領域に含まれる多くのウイルスの存在が明らかになるであろうことが期待されます。今後ナムディンウイルスの、ヒトや動物への感染性や病原性に関する調査が必要です。


アジア諸国での急性下痢症の積極的動向調査:

 2010年の報告によると、全世界では年間約80万人の5才以下の乳幼児が下痢症により命を落とすとされています。下痢起炎微生物の調査は数多く行われているが、ウイルス、細菌、原虫を含む体系的な解析はまだ十分とは言えません。長崎大学では、2012年度からベトナム北部および南部の小児病院にて急性下痢症治療目的で入院した患者から下痢検体および疫学情報を収集し、胃腸炎ウイルス、下痢原性細菌および下痢原性原虫を含む25 カテゴリー以上の微生物の広範な検出・同定を進めています。その結果、201412月現在で南北ベトナムから合計で約2,000検体が集積されました。解析の結果、ロタウイルス、ノロウイルス、下痢原性大腸菌等が南北ベトナムの小児下痢症において重要な役割をはたしている事が推定されました。また南北ベトナム間で起炎微生物の検出率を比較した処、北部では全下痢症に占めるロタウイルスの割合が南部に比べて比較的高く、また南部では全下痢症に占める細菌性下痢症の占める割合が、北部に比べて高い傾向が見られました。北部ベトナムと南部ベトナムとでは温度や降雨量等気候的に差が見られ、それらが下痢原性微生物の分布の違いの原因となる可能性があります。




ベトナムにおける人口密度と上水道整備がデング熱発生リスクに与える影響:

デングは年間約5,000万人の患者が発生し、熱帯諸国を中心に約25億のヒトが感染のリスクを負うとされています。ベトナムでも毎年多くの患者が発生し、特に南部ベトナムでは大きな社会問題となっています。デングの発生リスクを、2006年以来整備したカンホア省ニャチャン市およびニンホア地区のコホートを用いて解析した処、同地域では、2005年から2008年にかけて2回のデングアウトブレイクが報告されています。位置情報が特定された75,000世帯と、デング熱による入院患者を解析した処、アウトブレイクが発生した地域は井戸水を使用している地域で、上水道が整備されている地域ではアウトブレイクは見られませんでした。また、人口密度、一平方キロメートルあたり3,000から7,000 人が居住する地域でアウトブレイクが発生しやすい事も示唆されました。デング熱アウトブレイクの対策を取る上で、上水道の整備を進めると同時に、人口密度、一平方キロメートルあたり3,000から7,000 人の地域を優先する事が、より効果的である事が示唆されました。

人材育成:

長崎大学ベトナム拠点では、若手研究者の積極的登用、感染症分野での教育への貢献、を実施してまいりました。ベトナム人研究者の教育に関しては、拠点スタッフとして6名を雇用し、NIHE職員10名程度をプログラム活動を通じて研究指導してまいりました。また長崎大学や他大学医学生や修士課程学生を受け入れ研究指導を実施いたしました。例えば、2010年度において長崎大学側から様々な研究経費を利用して、20人近くの若手研究者がVRSにおいて研究を行い、12人の博士課程学生が学位論文に係る研究を行いました。また、長崎大学医学部・国際医療保健枠(AO)の学生を中心に臨床感染症学の早期研修(early exposure)や、広島大学医学部による研究室配属の枠組みの学生を、2か月程度受け入れ、基礎研究に触れさせる試みも実施してきております。2012年度からは長崎大学医歯薬学総合研究科・新興感染症病態制御学系専攻(博士課程)・熱帯微生物学分野が設置され、VRSにおいて博士課程学生教育が実施できる体制が整いました。これをうまく運用すれば、博士課程のほとんどの時間をVRSでの研究に当てる事ができる事となり、熱帯医学や感染症のフィールド研究の専門家を志す者には朗報であろうと思われます。また、若手事務職員の研修・教育を行い、感染症研究をロジ面で支える人材の育成に取り組んでまいりました。

 長崎大学がNIHEに研究拠点を設置した2005年度から現在までに20人近くのベトナム人若手研究者が長崎大学の大学院生として教育を受けております。学生はNIHEやホーチミンパスツール研究所らの若手研究者で、熱研を主体とした研究室で研鑽を積んできました。初期トレーニングさえきっちり施せば、こつこつとデータを出すようで、受け入れ研究室での評判は良いようです。近年その卒業生の一人がNIHEの疫学部門の部長に抜擢されました。このように長崎大学で教育をうけた者からNIHEの中枢を担う者が出てくるのは喜ばしい事です。



アウトリーチ活動:

長崎大学ベトナム拠点が実施してきたアウトリーチ活動は以下の二つに大別できます。一つはハノイ在留邦人向けの市民公開講座の開催、二番目はベトナム政府の保健医療行政の支援です。在留邦人向け市民公開講座は毎年2月に開催され、2014年度で第7回を数えました。感染症に関連のある演題を毎年2つ選び、在留邦人に感染症の重要性をわかりやすく解説する機会となっております。毎年40人~50人程度の参加者があり、アンケートの結果を見ても好評のようです。ベトナムと日本との交流は毎年さかんとなり、日本貿易振興機構(JETRO)によるとベトナムの日本関連商工会には、1,200社以上の日系企業が登録をしているとの事であり、約1万人の邦人が滞在するとされます。邦人にとってベトナムでの生活は感染症の話題は決して他人ごとではありません。ベトナムでは2010年の初夏、中部の一地域で謎の集団皮膚炎の発生が問題となりました。その際NIHEからの依頼を受け、長崎大学ベトナム拠点が窓口となり、大阪大学微生物研究所とともに次世代シークエンサーを用いた検討を行いました。結局原因を特定するには至りませんでしたが、ベトナム政府保健省より感謝状が授与されました。




Steering Committee Meeting
Steering Committee Meeting



第1回ハノイ在住邦人対象公開講座
第1回ハノイ在住邦人対象公開講座(2008年10月開催)


トップページへ戻る≫