長崎大学長 永安 武

「長崎大学のプラネタリーヘルス実現に向けた3つのアプローチと人材育成」

長崎大学は、熱帯医学・感染症、放射線医療科学分野、先端創薬、および総合海洋研究など、これまでに積み上げてきたグローバル並びにローカルな研究成果と長崎という地域的優位性を生かし、3つの観点――“グローバルヘルスグローバルエコロジーグローバルリスクを支柱に、プラネタリーヘルスの実現を目指しています。 

 グローバルヘルスの分野では、熱帯医学研究所をはじめ、ケニアなどの途上国での熱帯医学研究の実績をもとに、BSL-4施設、高度感染症研究センター、医歯薬学総合研究科、熱帯医学・グローバル研究科、長崎大学病院の5部局が連携し、「感染症研究出島特区」を開設しました。ワクチン研究開発等を通じて、今後のグローバルな健康リスクへの対応と感染症研究資源の統合的運用、人材育成を展開しています。 

 また、グローバルエコロジーの分野では、異分野の連携を強化し、持続可能な海の食料生産を目指すブルーエコノミー・イノベーション推進、カーボンニュートラル実現に向けた潮流発電の活用、スマートブイと海洋ロボットによるマイクロプラスチック対策、次世代ネットワークを利用した遠隔診療支援システムや広域ドローンによる薬剤運搬などを導入し、長崎県沿岸の海洋微生物抽出物ライブラリーを用いた次世代中分子医薬の創出、底生ザメ重鎖抗体由来の次世代抗体薬であるナノボディ創薬等を推進しています。

 グローバルリスクの分野では、原爆後障害医療研究所がウクライナや福島をフィールドとして放射線健康リスクや放射線災害医療に資する研究教育を行い、核兵器廃絶研究センター(RECNA)では北東アジアの平和と安全保障に向けた政策提言や情報発信を行っています。また、「総合知」に基づくグローバル巨大リスク研究も、多文化社会学部などと連携して推進しています。

 このように、本学では、地域に根ざした視点とグローバルな視点を横糸に、グローバルヘルス、リスク、エコロジーの3つの分野における強みを縦糸として、プラネタリーヘルスという布を織り成すことにより、地域の課題解決や新たな学術領域の創生と人材育成を目指しています。

 その実現には、いくつかの戦略が必要です。特に、国際人材の育成と国際ネットワークの構築は不可欠な要素です。2023年は、日本とケニアが国交を樹立して60年になります。また、3年後の2026年には、本学とケニアとの関係も60年を迎えます。本事業を契機に、本学とケニアの若人が、あらゆる分野での交流・協力し、ケニアさらにはアフリカと日本をつなぐ架け橋となる未来の人材として、巣立ってゆくことを願っています。