国際保健学分野
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平成21年度第3回国際連携セミナー


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開催: 平成21年9月4日 熱帯医学研究所 大会議室(坂本キャンパス)


講師: 橋本道雄内閣府政策統括官(科学技術政策・イノベーション担当)付企画官


演題: 「日本の科学技術外交の展望と課題」


 総合科学技術会議において、「成果を社会に還元する科学技術」というスローガンを基に第3期科学技術基本計画では、研究開発の成果をイノベーションに繋げていくという従来からの社会還元論に加え、日本の科学技術の成果を「日本のソフトパワー」と位置づけ、外交や国益の実現に活用していこうという新たな還元論「科学技術外交」が提唱され、政府を挙げての取り組みが続いている。橋本道雄氏は内閣府政策統括官として「科学技術外交」の先端におられる方である。今回、総合科学技術会議における検討を中心に外交は科学技術をどう使っていくのか?また、科学技術は外交を使って強くなれるのか?日本の科学技術外交の今後の展望と抱える課題について講演していただいた。

 第3期科学技術基本計画では1. 社会・国民に支持され、成果を還元する科学技術 2. 人材育成と競争的環境の重視?モノから人へ、機関における個人の重視 を基本姿勢として掲げている。また、「人類の英知を生む」、「国力の源泉を創る」、「健康と安全を守る」を理念とし、「飛躍知の発見・発明」、「環境と経済の両立」、「生涯はつらつ生活」、「科学技術の限界突破」、「イノベーター日本」、「安全が誇りとなる国」を大目標としている。

 平成19年4月の総合科学技術会議有識者議員の提言から、平成20年5月に科学技術を国内のみではなく外交と連携させ、相互に発展させる「科学技術外交」の推進のための四つの基本的方針が発表された。1. 我が国と相手国が相互に受益するシステムを構築する。2. 人類が抱える地球規模の課題の解決に向け、科学技術と外交の相乗効果を発揮させる。3. 科学技術外交を支える「人」づくりに取り組む。4. 国際的な存在感(プレゼンス)を強化する。これらの基本的方針を実地に行うために、1. 地球規模の課題解決に向けた途上国との科学技術協力の強化 2. 先端的な科学技術を活用した協力の強化 3. 科学技術外交を推進する基盤の強化が提案された。

 科学技術外交を進める上で日本の研究開発システムの国際化は不可欠と考えられる。第3期科学技術基本計画では外国人研究者の活躍促進(優秀な人材が、国籍を問わず日本の研究社会に集まり、活躍できるようにする。)と国際活動の戦略的促進(科学技術を戦略的に進めること。相手国や状況に応じた競争、協調、協力、支援の実施)を国際化(国際活動)と位置づけている。
 国際活動の戦略的展開には、「国際活動の体系的な取組(二国間科学技術協力協定や多国間プロジェクトの実施および科学技術外交の取組の推進。国際活動を担う人材の養成。)」、「アジア諸国との協力」、「国際活動強化のための環境整備と優れた外国人研究者の受入」に取り組むことが重要であると考えられる。

 近年日本はアフリカ諸国に科学技術協力を実施している。平成20年8月に第1回日アフリカ科学技術大臣会合が行われた。この会合での議論の結果は議長サマリーとしてまとめられた。科学技術分野での協力を拡大するために「相互理解促進のための政策対話メカニズムの創設」と「日本・アフリカ間の科学技術協力の拡大」の二つの取り組みを行うことで合意した。また、平成21年2月にアフリカ諸国の科学技術政策の現状を知るためのアフリカ科学技術調査ミッションが行われた。アフリカ科学技術ミッションから1. 科学技術協力は有効(農業生産の向上、感染症治療法開発、経済発展を実現する重要な手段)2. 多様なパートナー、多様な対応(科学技術水準の多様性と地域協力の存在)3. 日本の開発援助の有効性と科学技術協力への橋渡しの必要性4. 日本留学組の存在(彼らの存在は極めて貴重。ネットワーク化とサポートが必要)5. 現地での研究者へのサポート(治安や衛生面での障害を関係機関間の連携により減ずる対策の必要性)の5つの教訓が得られた。これらの教訓は日本のこれからの「科学技術外交」を推進する上で非常に重要である。

 日本の技術力を活かした国際貢献(具体的には環境・エネルギー、貧困対策、感染症対策、農業生産性向上、教育水準の向上)をいかに外交の世界で活用していくかがが「科学技術外交」の鍵となる。そのためには、外交を狭義の外交官や国連の行為と捉えるのではなく、広義の国益の実現と考える必要がある。

 日本の科学技術を外交のソフトパワーとしてだれとなにをいっしょに展開していくかの戦略的熟慮が広義の国益を実現することになるだろう。国を挙げての「科学技術外交」に取り組む体制作りが急務と考えられる。
 今回の橋本氏の講演から、長崎大学熱帯医学研究所も新興感染症ネットワークというかたちで「科学技術外交」の一端を担い、広義の国益の実現に寄与していることが再認識できた。

 

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