熱研生物資源室よりトピックスをお届けします

ランゲリー・トリパノソーマ原虫は果たして非病原性か?
== ヒトから分離したランゲリー・トリパノソーマ原虫の摩訶不思議の解明に挑む ==

中南米でのシャガス病住民検査の際、抗体陽性者から病原体のクルーズ・トリパノソーマ原虫を分離できますが、交差反応のあるランゲリー・トリパノソーマ原虫も分離することがあります。

これまでにランゲリー・トリパノソーマ原虫に関しての共通の知見は、
①哺乳類体内での分裂像を検出しない。
②実験的にマウスに感染させても、接種後2週間もたてば、血液中から原虫が消失する。
③細胞内へ侵入している病理像はない。
④アフリカ・トリパノソーマ原虫にみられるような細胞膜表面(Surface coat)の抗原性を変異(VSG)させる機能(VAT)はない。
⑤37Cのin vitro培養器内でもまったく増殖しない。
⑥よって、ランゲリー・トリパノソーマ原虫は非病原性となっています。
では、ヒト体内で増殖しない当原虫を、静脈からの5ml未満の少量の血液からなぜ分離することができるのでしょうか。
中南米に生息するサシガメがヒトから吸血する際に、ランゲリー・トリパノソーマ原虫が人体へ注入され、ヒトへの感染が成立します。このとき注入されたランゲリー・トリパノソーマ原虫が感染後何ヶ月も、あるいは何年も経過してからの採血時に偶然にも注射器に吸引される確率は非常に低く、ヒトからの分離は極めて困難なはずです。

すでに繰り返し報告があるにも関わらず、当室では、ヒトから分離できる事実の解明に向けてランゲリー・トリパノソーマ原虫の生物学的性状を敢えてもう一度明らかにしようとしています。


ヒトでの感染実験ができないために、実験動物(マウス)をつかっての感染実験を追試してみたところ、接種後3ヶ月後の血液培養が陽性になったことから、マウス体内でランゲリー・トリパノソーマ原虫が少なくとも3ヶ月間は生存し続けていることが明らかになりました。
宿主の免疫系から逃れるためのVAT機能も持たず、宿主の細胞内にも侵入せずに、3ヶ月間どこに潜んでいたかを今後解明していきます。

ランゲリー・トリパノソーマゲン原虫のライフ・サイクルや、哺乳類体内での抹消血液中の原虫密着度に関した知見をお持ちの方、また当原虫を用いた実験や研究に興味のある方は、当室へご連絡ください。
メールアドレス protozoa○tm.nagasaki-u.ac.jp ○を@に変えてお送りください。

マウス抹消血中の T. rangeli trypomasitigote



in vitro 培養から得た T.rangeli trypomastigotes



マウス末梢血中の T. cruzi trypomastigotes