熱研生物資源室よりトピックスをお届けします

トキソプラズマ原虫は in vitro 培養器のなかでもシスト形成をおこなうか?
== トキソプラズマ原虫弱毒株は、フラスコ内でシストを形成する!! ==

トキソプラズマ原虫は、それが感染した動物の脳内や筋肉内でシストを形成しますが、in vitro 培養器、たとえばフラスコの中でもシスト形成することがすでに報告されています。

参考文献:
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1383576912001638
http://www.scielo.br/scielo.php?script=sci_arttext&pid=S0074-02762009000200007
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3109641/
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC106833

ところで、当室でも、今回、トキソプラズマ原虫 T.gondii Beverley 株をフラスコ内のマウス由来線維芽細胞に感染させたところ、シスト様の構造物を倒立顕微鏡下で観察*しました。

ただし、シスト様構造物中の、増殖虫体が tachyzoites(急増殖虫体)ではなく、真の bradyzoites(緩増殖虫体・cystozoitesとも呼ばれる)であるかどうかは、両者間に相違点**がありますので、それらを確認しなければ、最終的にシスト様構造物が「真のシスト」であるかどうかの結論を出すことができません。

**相違点とは:形態学的には、虫体中の核の位置、rhoptry の形状、microneme や polysaccharide(amylopectin)granuleの数、lipid body の有無、periodic acid-Schiff(PAS)染色性、性状としては、pepsin-HCL に対する抵抗性や虫体に特異的な抗原の有無、などです。

*顕微鏡下で、観察したシスト様構造物の特徴は次の通りです。

ただし、ここでは説明上、シスト様構造物をシストとみなし、それを cyst wall が取り巻き、その中で増殖している虫体を bradyzoite と仮定しています。

(1)フラスコ内で形成される典型的なシスト(画像①と画像②)
(2)参考画像:T.gondii Beverley 株に感染したマウス脳内に観察するシスト(未染色:画像③、ギムザ染色:画像④)
(3)マクロ的には、in vitro 培養器内での tachyzoite 増殖部位は、線維芽細胞を浸潤的に初感染部位から周囲に向けて破壊していき、カルデラ状の plaque 様CPE(cytopathogenic effect)を形成し(画像⑤と画像⑥)、火口の中心部にはすでに線維芽細胞がありません。tachyzoites の増殖部位は、カルデラの囲う周辺部になりますが、一方、cyst を形成する部位ではそのような CPE を観察しません(画像⑦)
(4)1個の線維芽細胞内に、複数個のシストを形成することがあり、それらのシストはお互いに分離していて、bradyzoite はそれぞれの cyst wall で隔離されています(画像⑧と画像⑨)。つまり、線維芽細胞に侵入したその虫体は、tachyzoite になるのではなく(cyst を形成する)bradyzoiteになるよう運命付けられていることが分かります。
(5)シストから bradyzoites が外へ出てしまうと、そのあとに、bradyzoites の抜け殻である cyst wall が残ります(画像⑩と画像⑪)
(6)フラスコ内に形成されたシストは、どのくらいの時間(日数)シストとしてその形態を維持できるかは、線維芽細胞内でシストが形成されたときのその容積の大きさで決まるようです。つまり、シスト内で、bradyzoites が増殖を続けると、cyst wall は持ちこたえられなくなって、破れ(rupture)ます。したがって、シストが10日間も20日間もそのままフラスコ内に留まり続けることはありません。
(7)画像⑫は、トキソプラズマ原虫が、一つの細胞内に2個の娘細胞が生ずる分裂法(内生二分裂 endodyogeny といいます)で増殖している様子を示したものです。シスト形成を示した図ではありません。

in vitro 培養系内で、トキソプラズマ原虫がシスト形成する現象をご経験された方は当室へご一報ください。
メールアドレス protozoa○tm.nagasaki-u.ac.jp ○を@に変えてお送りください。


画像①                   画像②                   画像③
  

画像④                   画像⑤                   画像⑥
  

画像⑦                    画像⑧                  画像⑨
  

画像⑩                    画像⑪                    画像⑫