熱研生物資源室よりトピックスをお届けします

=== 意外と容易な,腸管寄生アメーバ原虫の分離培養法 ===

腸管内には,細菌類やカビ類などの微生物が種々雑多に含まれていますので,そのよう条件ですと,腸管内のアメーバ原虫を分離するのは難しいように感じますが,しかし,実際にやってみますと,案外容易にできるのです.

ただし,分離培養できるのは,Entamoeba coli, E. dispar, E. histolytica, E. nuttalli の類いのアメーバ原虫で,もちろん糞便中にこれらのアメーバ・シストを検出していなければなりません.ここでは,初代培養に方法について述べ,初代培養中には,細菌類もカビ類もアメーバ原虫と共存した状態(xenic culture)ですので,アメーバ原虫の栄養体(虫体)がどんどん増殖してきましたら,アメーバ原虫以外の微生物を培養から除外する(除菌する)必要があります.抗生剤や抗真菌剤を使用し,また途中,米粉に代わるエサをあてがう必要もありますので,除菌のプロセスには複数の段階を踏むことになりますが,純培養(axenic culture)へのシフト法は他を参照してください.

(1)培地の準備:

分離培養のための培養液で準備しやすいのは,田辺・千葉培地です.その組成を下に示します.田辺・千葉培地は,(A)半固相(寒天ゲル)と(B)液相の二相からなる培地で,(C)アメーバ原虫のエサとして米粉を加えます.

A15mlの耐熱性のプラスティック・チューブに,オートクレイブで滅菌済みの寒天を5~7mlほど流し込み,斜面培地をつくります.

B)一方,血清を加える前の液体培地の滅菌は,オートクレイブが可能です.加える血清は,馬血清でも牛血清でもどちらでも使え,最終濃度を10%に調製します.血清は使用前に非動化しておきます.MEM のような細胞培養に用いる培養液は,細菌類の増殖を極端に促しますから,アメーバ原虫分離のための培養液に使うことはできません.

C)米粉は,耐熱性の15ml のプラスティック・チューブの複数本に分注して入れ,キャップを固く閉めて,オートクレイブで滅菌しておきます.

A)半固相培地:

CaCl22H2O           0.58 g

KCl                        0.30 g

NaCl                       8.30 g

L-asparagine monohydrate   0.5 g

Agar                       15.0 g

Water                     1,000 ml

pH 7.2

B)液相培地:

Na2HPO412H2O      7.0 g

KH2PO4                    0.27 g

NaCl                         8.0 g

L-asparagine monohydrate    0.5 g

Water                     1,000 ml

抗生剤を入れましても,細菌類は増殖してきますので,アメーバ原虫の栄養体(虫体)を検出してから,抗生剤を含む液体培養にしてもよいでしょう.

(2)培養の前段階:

シストを検出した糞便には,しばしばブラストシスティスなどの栄養体が含まれていますので,これらを取り除く必要があります.15ml のプラスティック・チューブ(滅菌は不必要)に,糞便を綿棒の先2個分ぐらいと約10mlの純水を入れて,キャップをしたあとよく振って混和し,室温で翌日まで立てて静置します.水処理をせずに,直接培養を始めますと,培養開始後数日のうちにブラストシスティスだらけの培養になってしまったりします.水処理は,主にブラストシスティスの栄養体を除去するのが目的ですが,糞便中にアメーバ原虫以外のシストも含まれており,田辺・千葉培地で増殖可能な原虫でしたら,それらが起源となって増殖しはじめ,水処理の効果はないことになります.

アメーバ原虫のシストが経口的に摂取されたとき,胃を通過しますので,シストは胃酸に曝されるということから,培養の前段階として,シストを含む糞便サンプルを人口胃液で処理する,という方法も紹介されていますが,その前処理は必須ではなく,培養チューブの中で脱嚢(excystation)してアメーバ虫体(栄養体)が増殖してきます.シストを含む糞便サンプルをただちに培養にもっていくことができない場合は,糞便中の夾雑物を取り除いたのを水洗いしたのち,後日培養をしはじめても培養は可能ですが,多少なりとも分離効率が下がります.

(3)培養の実際:
水と混和して一日静置したのち,沈んでいる沈殿物のうち,夾雑物は取らず,ピペットの先で吸引できる微細なものだけを取り出し,寒天斜面培地に数滴垂らします.分離培養の効率をあげるために,一糞便サンプルにつき,少なくとも3本の寒天培地に数滴ずつ移します.その上に,液体培地を約10ml加えて,米粉を耳かき半分くらい落とします.キャップをきっちり閉めて3536℃ でインキュベートします.寒天面を上向きにしてチューブを斜めに置いてもよいですが,直立でも構いません.

(4)培養の観察:

培養開日を0日として,培養3日から斜面培地の底から1滴取りだし,顕微鏡下で観察します. 動く虫体(栄養体)を観察しましたら,他の培養チューブに継代し,培養チューブを増やします.準備した培養チューブ中,アメーバ原虫が3本ともに陽性になる場合もあれば,1本だけが陽性になる場合もあります.糞便サンプル中には,アメーバ原虫のシストを検出しておりましても,3本とも陰性の場合もあります.培養開始10日まで観察し,その時点で虫体を検出しなければ,その後虫体を検出することはほとんどありませんので,そのサンプルの培養を中止します.また,虫体がどんどん増殖してきた培養チューブのアメーバ原虫は,雑菌やカビ類もいっしょ(xenic culture)ですので,そのまま当培地で維持しておりましても,アメーバ原虫を消失してしまうことがありますので,その後の解析に便利なように雑菌を取り除き,順次アメーバ原虫だけの純培養(axenic culture)へシフトしていきます.

田辺・千葉培地で増殖してきたアメーバ虫体の画像:
画像(A)と(B)は,E. coli
画像(C)と(D)は,E. nuttalli

画像(A)                        画像(B)
 


画像(C)(低倍率)                   画像(D)
 

糞便サンプルからの腸管内寄生アメーバ原虫分離のための初代培養法にご関心のある方は,当室へご連絡ください.

protozoatm.nagasaki-u.ac.jp の〇を@にかえて,お送りください.