熱研生物資源室よりトピックスをお届けします

クルーズ・トリパノソーマ原虫に対する抗体検査 その一

====  凝集法による抗体検査  ====

当室が実施しているクルーズ・トリパノソーマ原虫に対する抗体検査をご紹介しましょう.これは,シャガス病流行地のフィールドで使用可能な目的のために開発した手法です.当トピックスの【シャガス病流行地のフィールドで実施する住民健診(1)】のところに述べていますように,数滴の血液で,簡便に,迅速に,正確に,安価に検査できるなどの条件を満たしています.

その方法は,ラテックス・ポリマーミクロスフェアを用いた凝集反応を利用します.1μmの色つき粒子に抗原をコートします.使用している抗原は,in vitro培養から得たtrypomastigote由来抗原【trypomastigote細胞全体のlysates由来の可溶性タンパク質,いわゆる粗〔crude〕抗原】を使っていますので,他の原虫(たとえば,T. rangeli 原虫)との交差反応があることは否めませんが,粗抗原を使用することでクルーズ・トリパノソーマ原虫に対する抗体を効率よく拾います.コーティング方法は,ELISAプレイトへのコーティングに準じています.反応させる凝集板は,1枚に10穴ある凝集プレートを利用します.被験者血清と同時に,必ず,陰性対照と陽性対照も同時に試験します.陽性対照は,クルーズ・トリパノソーマ原虫を分離した被験者の血清を使います.どの血清も希釈せずに使いますので,非特異的反応が起こらないキットを作製する必要があります.感作粒子3μlと同量の血清をチップの先でよく混ぜ合わせ,直径8mm弱の円形を作ります.凝集プレイトの縁をもって,両者がよく混ざるように,斜めにしながら回転(こまの首振り運動)させます.その際,液体をなるべく早く乾燥させるように意識します.5分間の「みそすり運動」を済ませましたら,平らなところにプレイトを置いて判定します.住民を待たせること約5分間で判定でき,瞬く間に乾燥しますので,凝集結果をラボへ持ち帰ることが可能です.下はその画像です.

左側:陰性           右側:陽性



クルーズ・トリパノソーマ原虫に対する抗体検査は,シャガス病流行地のフィールド・ワークでも,医療機関の検査所でも,現在rapid ICTimmun. chromat. test)を実施するようになりましたので,当室が開発した手法は,現在ではフィールド・ワークで使う必要がなくなりました.しかしながら,当室では,国内の医療機関から依頼されたシャガス病を疑う患者の抗体検査を請け負っていますので,まず当法の凝集テストをはじめにおこない,その結果の再確認のために,ゲル内沈降テスト(トピックスの別のページに掲載)も重ねて実施しています.シャガス病を疑う被験者の抗体検査サンプル数は,当室への依頼時に複数検体になることはまずありませんから,ELISAや顕微鏡を用いての形態学的に確認する蛍光抗体法などを,一件のサンプルのために実施することはしません.要は,抗体陰性か陽性かが分かることの方が定量的な抗体価を知ることより大事です. 本法では,ICTと同じく陽性か陰性かを判断できるにとどまります.なお,市販ICTキットの取り扱い説明書に,抗原についての記載がありません.

現在すでに普及しているICTによる,シャガス病流行地のフィールドで実施した検査結果の一例を下に示しています.
二本線が陽性.#1,#2,#3,#4,#5,#6,#7,#8,#11,#12, ... ...

当室のラテックス・ポリマーミクロスフェアを用いた凝集テストによるクルーズ・トリパノソーマ原虫に対する抗体検査にご興味のある方は当室までご連絡ください.prototozatm.nagasaki-u.ac.jp の〇を@にかえて,お送りください.