熱研生物資源室よりトピックスをお届けします

原虫の分離:サシガメから その二

==== 媒介昆虫を使用した診断法(Xenodiagnosis) ====

シャガス病流行地の,抗T. cruzi原虫抗体陽性者の居住している人家で捕獲したサシガメからのT. cruzi原虫の分離方法については,先に述べていますから,それを見ていただき,ここでは,かっては,シャガス病の診断法の一つであったxenodiagnosis(外因診断法)によるサシガメからのT. cruzi原虫の分離法をご紹介しましょう.

無菌的な培養設備が備わっていなかった時代には,T. cruzi原虫保有者もしくはシャガス病の診断法としてxenodiagnosisが重宝していました.シャガス病を疑うとき,血液培養をする代わりに,研究室で飼育された未感染の複数のサシガメに被験者の血液を吸血させ,その後それらのサシガメを少なくとも2ヶ月間ぐらい飼育して,サシガメ腸管内のT. cruzi原虫増殖の有無を調べることによって,被験者がT. cruzi原虫感染に感染しているか,どうかを診断する方法です.

この診断法をxenodiagnosis(外因診断法)と言います.この方法には一長一短があります.まず,未感染のサシガメ集団グループ(population)を実験室内にいつもかなりの数を維持していなければなりません.それらの集団を維持するためには,新鮮な血液を供給できる動物が必要です.ほ乳類ですと,そのほ乳類が一旦T. cruziに感染してしまいますと,xenodiagnosis用にせっかく未感染サシガメ集団をつくっていましても,意味がなくなってしまいます.よって,これらの未感染グループを維持するための血液源はニワトリです.なぜ,ニワトリが未感染クループを維持するための吸血源になるのでしょうか?

他方,xenodiagnosisの長所は何でしょうか.現在でも使用されます.それは,ラボからシャガス病調査地まで到達するのに,1週間以上かかる遠い場合です.現地での調査に数日かかるとすれば,ラボと調査地の往復には20日ぐらいになります.これでは,調査地で血液培養のための採血をしましても,ラボへの帰途の間の血液サンプルの維持にも心配しなければなりません.ところが,ここで,ラボから調査地までxenodiagnosis用サシガメを持参し,現地で被験者から吸血させて,ラボへそれらのサシガメを持ち帰りましても, その道中,サシガメの維持のためには,極端な温度変化がなければ,何ら心配はいりません.

シャガス病の流行地がプロットされた中南米の地図を見ますと,アマゾン川流域とその奥地にはシャガス病流行地はないようにみえますが,実は,シャガス病がアマゾン川流域にあるのか,ないのかが不明なために,プロットされていないのであって,アマゾン川流域にシャガス病流行地があるかもしれません.この広大な地域の調査がまだできていないのです.この地域にシャガス病流行地があったとき,その地域での原虫分離には,Xenodiagnosisを利用した方法が重宝するかもしれません.

添付している画像は,最近まで実施されていました当診断法に用いていたサシガメを入れる容器です.成虫のサシガメは,診断判定までに死亡することもありますので,成虫は使いません.内径3cmぐらいの木製の容器に数匹の幼虫サシガメを入れて,ガーゼ状の布で蓋をし,それを3個ほど上腕内側に紐でくくりつけ,サシガメが吸血し終えるのを待ちます.被験者はこの容れ物の中に,サシガメが入っているとは知りません.被験者に伝えなければ,この診断法は非倫理的な手法になるでしょう.教科書には,Xenodiagnosisは,アレルギーによる皮膚炎が生ずるために被験者はこの診断法を嫌うとありますが,当室は確認していません.

T. cruzi原虫のXenodiagnosisを実施経験された方は,当室へご連絡ください.

protozoatm.nagasaki-u.ac.jp の○を@にかえて,お送りください.