熱研生物資源室よりトピックスをお届けします

国内の医療機関で,シャガス病を疑うとき

====  血液検査のためのサンプルの取り方とそれに続く検査法 ====


(1) 過去の事例 :

10年ほど前には,アジアを除いても,中南米だけからの家族を含めての移住労働者数が国内に40万人弱居住していましたので,その家族や労働者の中にはT. cruzi原虫保有者も含まれていました.現に,日赤での献血者の中に,T. cruzi原虫に対する抗体陽性者がいたにも関わらず,それを見逃してしまい,その血液が輸血用に使用されたことがあとで判明したことがありました.当室では,抗体陽性者は,T. cruzi原虫感染者と同等としています.つまり,完全な治療を受けていない限り,T. cruzi原虫保有者に同じになります.

http://www.jrc.or.jp/activity/blood/news/160822_004211.html

http://www.jrc.or.jp/activity/blood/news/150421_003547.html

http://www.jrc.or.jp/activity/blood/news/121015_001782.html

http://www.yakuji.co.jp/entry32948.html

当室でも,常日頃からシャガス病を疑う患者の血液検査を請け負っていますが,南米からの一時帰国者や滞在者の検査材料から,抗体陽性しかもT. cruzi原虫を分離したケースが複数例あります.


(2) 国内における検査手順と検査材料の採取 :

国内医療機関では,感染症に限らず,患者として来院した以上は,診断に正確性を期すために,半ば強制的ですが血液をはじめ他の検査材料を採取します.シャガス病検診の場合も,二度手間を避けるために,血清学的診断結果が出る前の段階で,つまり,順序として血液培養の必要性がまだ分からないときに,抗体検査用と血液培養用の採血を同時にします.また,その患者の担当医になりますが,血液検査を依頼する側は,検査法は,当室が実施できるどの方法も駆使するよう注文がきます.つぎの例は,シャガス病ではありませんが,マラリア原虫を血液塗抹染色標本で確認し,また種の同定もおこない,さらに念を入れてICTキットでも確認しましたあとにも,PCR診断実施の注文があります.これは検鏡などの結果よりもPCR結果の方が質的に優っており,その結果を極上無比とする偏見からこのようなことがおこります.


(3) 採血
 :

シャガス病を疑う場合,検査材料として血液を使用するのであれば,国内の医療機関では,①EDTA,②ヘパリン,③プレインの3本で採血します.①PCR 用には,K でも Na のどちらでもよいのですが,そのときの2.5ml から3ml の血液はすべてPCR に使用しませんので,PCR 用に必要な分だけ,たとえば,200μLDNA抽出1回分もしくは2回分)を無菌的に分注します. 一般にDNA抽出は複数回おこなわず,1回おこなえば,以降のPCRでもそのときのをtemplatesと使用しますので,PCR用としてはじめに200μLとっておけば十分でしょう.

②血液培養用にはヘパリンで採血します.血液培養用には,できるだけたくさんの血液量から培養を始めれば,それに越したことはありません.つまり,5ml よりも 10ml の方が原虫検出率(血液培養陽性率)を高めることができますが,全身中の血液すべてを血液培養できるわけがありませんので,血液培養用の採血量は,ある程度のところで妥協しなければなりません.③血清分離用プレインで採血した,チューブ底にできる血餅(clot)も血液培養に回しますが,血清分離のために分離剤が入っているのは,クロットだけを分離剤からきれいに分けることができませんので,血清分離剤が入っている採血管は推奨できません.

これまでの当室の経験では,DNA を安定化させるEDTA 採血も,ヘパリン採血も,プレインで採血後のクロットからも血液培養が陽性になっています.しかし,フィールドでの採血は,PCR よりも血液培養を優先しますので,ヘパリン採血にしています.この理由は,トピックスの別のページに既述しています.


(4) 血液サンプルの移送 :

国内の他の医療機関でシャガス病を疑う患者から採血した検査材料を,ご丁寧に低温,あるいは,ときには,冷凍で当室へ送付してくる検査依頼者もいます.このような条件で送付する依頼者は,温度が低ければよかろう,ということで,この先,この検査材料がどのように使われるか,まで考えが及んでいません.つまり,検査の依頼さえすれば,その先,検査結果が返送されてくるのを待つだけのスタイルです.このようなケースはよくあることです.国内での,検査材料の移送時間は,最長遠くて(長くて)も当方までにかかるのは二泊三日です.その間の温度条件は室温厳守です.氷詰めなどは,厳禁です.ましてや,冷凍はいけません.冷凍すれば,細胞は凍ってしまい死滅してしまいます.逆に,国内の夏場の移送は,途中車内の温度が上がらないかを心配しなければなりません.だからといって,血液培養のサンプルについては,冷蔵とか冷凍条件での送付はできません.


(5) 国内での抗体検査 :

検査依頼者から当室へ送付されるまでに日数もかかりますし,被験者は後日再度医療機関を必ず訪れますので,それまでに抗体の有無についての結果が出ればよいことになり,必ずしも抗体検査用迅速簡便診断キットを使わなくてもよいことになります.一般に,抗体検査では,他の原虫種や他のタンパク質との交差性を排除し,T. cruzi原虫に限定した特異性を高めるためと,世界のどこで検査しても同じ結果が得られるように標準化を目指して,人工的に産生した組換えタンパク質抗原を使う傾向にありますが,たとえ,特異性に優れており,反応を増強させる系を使いましても,どうしても感受性が下がるのは否めません.そこで当室では,精製したtrypomastigotes 細胞全体のlysates由来の可溶性タンパク質を使って,多少なりとも抗体があればそれを引っかける目的でT. cruzi原虫に対するポリクロナル抗体を捉える系を用いて抗体検査をおこないます.この系で抗体陽性であった場合,その血液培養が高率に陽性になるのを経験しています.


(6) 血液培養 :

シャガス病流行地のフィールドでは,ヘパリンを使って採血しましたが,国内では,3種の採血管で採血するのはすでに述べています.それらは,みな無菌的に遠沈し,液体成分は取り除き,それぞれ別々に complete LIT medium と混合し,incubate して,その後,原虫が増殖してくるのを定期的に観察するのは,トピックスのページ「クルーズ・トリパノソーマ原虫の分離のための血液培養」に既述しています.また,血液培養用の培養液調製法は,トピックスの別のページ 「培養あれこれ,こぼれ話」のところに既述していますので,それをご覧ください.


国内の医療機関等で,シャガス病を疑うケースがありました場合は,当室へご相談ください.

protozoatm.nagasaki-u.ac.jp を@にかえてご連絡ください.