熱研生物資源室よりトピックスをお届けします

クルーズ・トリパノソーマ原虫の,ふっくらトリポマスティゴートと,ほっそりトリポマスティゴートの両者の働きの違いは一体何?

== 培養フラスコ内でstout(あるいは broad,あるいは stumpy)trypomastigotes 集団 と slender trypomastigotes 集団をそれぞれつくり分けることが可能です.==

 まず最初に, ふっくら(ずんぐり)トリポマスティゴート (以下,ふっくらトリポ)と ほっそり(痩せ)トリポマスティゴート(以下,ほっそりトリポ)の画像をご覧ください. ずいぶん形が違うでしょう.

ふっくらトリポマスティゴート     痩せトリポマスティゴート


もともと, クルーズ・トリパノソーマ原虫のエピマスティゴートやアマスティゴートやトリポマスティゴートのそれぞれの形を比較しますと, これらがみな同一種とは思えないぐらい形が違っていますが,その中の,トリポマスティゴートだけに注目しましても,ふっくらトリポとほっそりトリポでは,その形はかなり違っているのはおわかりいただけるでしょう

 上の画像の左右とも、同一株(Tulahuen strain)で,しかも同一のフラスコ内の培養のクルーズ・トリパノソーマ原虫のトリポマスティゴートです. ほっそりトリポは,のちにふっくらトリポへ形態を変化する,とか,株(strain)の違いによって,in vitro でも in vivo でも,ほっそりトリポとふっくらトリポの割合が異なる,とかの報告はありますが,当室では,培養中の同一フラスコから、ふっくらトリポ集団とほっそりトリポ集団を別々に取ることができます.このような報告はまだありません.

 in vitro 培養の観察から,当室では,つぎのように考えています.
宿主細胞に侵入したトリポマスティゴートがアマスティゴートへ変化し,そのアマスティゴートが細胞内で増殖後,宿主細胞内で再びトリポマスティゴートに戻り(下に添付の動画が, 宿主細胞内で,アマスティゴートからトリポマスティゴートへ戻って,それらがうごめく様子を示しています),宿主細胞が壊れて培養液中に出てきたのがふっくらトリポであり一方,ほっそりトリポは,この過程を全部通らずに,細胞外にこぼれ出たアマスティゴートから形態変化したものであり,最後のプロセスまで宿主細胞を必要としません.また,ほっそりトリポはいつも二分裂後(あるいは,多分裂後)に完成します.


 ところで,ほっそりトリポは, 37℃の宿主細胞(線維芽細胞)との培養中にも,in vivo の感染マウスの末梢血液中にも出現しますが, これとは異なる別の培養条件下にも出現します. それは, クルーズ・トリパノソーマ原虫保有者からの, LIT 培養液を用いた26℃の血液培養中です.培養開始後約半年間以内の初代培養に高い頻度で出現します. このほっそりトリポは,実験的に感染させたマウス由来の血液培養中にも出現します.当室では,このほっそりトリポマスティゴートを「へびトリポマスティゴート(以下,へびトリポ)」と呼んでいます.しかも,へびトリポは二分裂後に完成します.へびトリポの出現も,37 in vitro 培養中の,ほっそりトリポも,どちらも宿主細胞フリーのところから出現するのが共通しています.これらの,37℃培養中に出現するほっそりトリポや26℃の血液培養中に出現してくるへびトリポの形態は,おなじく26℃でエピマスティゴートを培養する LIT 培養液中に出現してくるメタサイクリック・トリポマスティゴート(以下,メタ・トリポ)の形態とは違っています.一般にメタ・トリポの形態は,ほっそりトリポやへびトリポよりも短い細胞です.

  いずれもトリポマスティゴートですが, これほど形に違いがあれば, 両者の機能(働き)に違いがあるだろう, と考えるのは原虫生物学をやっている者にとっては, ごく自然の疑問です.

こんなに形が異なるふっくら(ずんぐり)トリポとほっそり(痩せ)トリポの, それぞれの働き(機能)の違いは一体何でしょうか?

 アフリカ・トリパノソーマ原虫(T. brucei グループ)に感染した哺乳類の末梢血液中に検出する血流型(bloodstream form)にも,ほっそり(slender)血流型とふっくら(stumpy)のとがあり,当室の HP 中のトピックス・ページにもすでにそれらの形態と機能について示しています.そもそも,アフリカ・トリパノソーマ原虫は細胞内に侵入しませんので,クルーズ・トリパノソーマ原虫とアフリカ・トリパノソーマ原虫とを同一視することはできないのですが,アフリカ・トリパノソーマ原虫の血液型の形態変化とその機能の相違を,クルーズ・トリパノソーマ原虫のそれらにシフトさせる(同等にしている)見解もあります.しかし,当室では,クルーズ・トリパノソーマ原虫のほっそりトリポの機能を確認する実験をまだやっていません.

アフリカ・トリパノソーマ原虫のほっそり血流型とふっくら血流型
 

「ふっくらトリポマスティゴート」と「ほっそりトリポマスティゴート」の形態やその機能にご関心のある方は、当室へご一報ください。
メールアドレス protozoa○tm.nagasaki-u.ac.jp ○を@にかえてお送りください。