熱研生物資源室よりトピックスをお届けします

原虫の分離 その二 サシガメ以外の媒介昆虫から

===== 媒介昆虫 ハマダラカ,サシチョウバエ,
ツェツェバエなどから原虫の分離は,果たして可能か 
=====


実験室内で人工的に感染させた媒介昆虫は別にして,フィールドで捕獲したサシガメからの原虫分離が可能ならば,同様にフィールドで捕獲したハマダラカからのマラリア原虫,サシチョウバエからのリーシュマニア原虫,ツェツェバエからのアフリカ・トリパノソーマ原虫もそれぞれ分離できるはず,と期待されるのはごもっともですが,しかしながら,それが難しいか,もしくはできないのです.

それは,なぜでしょうか.
フィールドで捕獲したハマダラカやサシチョウバエから原虫を分離できないのはハマダラカやサシチョウバエの大きさが,成虫のサシガメのそれに比べてとても小さいために,そのような小さな昆虫の唾液腺や腸管内を観察したり,解剖したりするのが難しいからではありません.ツェツェバエの大きさは,幼虫のサシガメより大きいですが,やはり,ツェツェバエからの原虫の分離は難しいのです.それは,フィールドで捕獲した媒介昆虫の原虫保有率が非常に低いからです.ハマダラカにしても,ツェツェバエにしても,フィールドで捕獲した1,000個体のうち,原虫を保有していのは,もちろん捕獲した場所にもよりますが,10個体あるかどうかがふつうです.よって,フィールドで捕獲した媒介昆虫を片っ端から解剖していきましても,原虫を保有しているのに出くわすのは,めったにないことになります.また,フィールドで捕獲した昆虫を生かしたままラボまで輸送するのが,分離が困難な理由の一つにもなります.

では,屋内で捕獲したサシガメから原虫を分離できる確率が,ハマダラカやサシチョウバエやツェツェバエに比べてなぜ高いのでしょうか.それは,サシガメの原虫保有率が高いからです.そもそも,原虫を保有している可能性の高いサシガメが棲息している場所で捕獲するからです.すでにトピックスの別のページ(原虫の分離 その一 サシガメから)で述べていますように,そこは,クルーズ・トリパノソーマ原虫に対する抗体陽性者が居住している家屋です.一般家庭では,台所と食料庫と寝室(多くて2部屋)ですが,多数のサシガメを捕獲する住居では,部屋ごとにサシガメを入れる容器を別々にします.サシガメを捕獲した者が容器にdormitorio(寝室)もしくはrecamaraと記載したサシガメを調べますと,これまでの経験では,少ない場合でも半数の個体から原虫を検出しますし,ときには,捕獲したサシガメすべてに原虫を検出することがあります.

ところで,ハマダラカやサシチョウバエとは違って,サシガメはその家屋から外には出ません.寝室に棲息している限り,食餌(ヒトからの吸血)にありつけるのですから,わざわざ屋外へ出ていく必要がありません.その場で卵を産み,屋内だけで世代の交代が可能です.また,サシガメの寿命が長いことも原虫保有率と原虫分離率を高めています.実験室内で人工的に T. dimidiata を飼育しますと,卵から幼虫を経て成虫になったあとも吸血を繰り返しおよそ2年間も生存します.

人家の敷地内に棲息するのは,屋内型サシガメと見なしてよいでしょうが,鶏小屋以外では,人家の敷地内の薪等が無造作に置かれているところの重なっている木材をめくれば,そのあたりに隠れているサシガメを見つけることができます.しかし,屋内に比べて捕獲の効率が下がります.他方,人家のまったくない野外に棲息する(sylvan / sylvatic)サシガメの捕獲は困難,と先に書きました.野外棲息型のサシガメは,ヒト以外の動物からの吸血ですが,屋内(domestic)棲息型サシガメより原虫保有率が高いか,低いかは当室では調べていません.

実験室内で飼育しているハマダラカやツェツェバエを固有の原虫で人工的に感染させて,それらの昆虫の唾液腺や体液や中腸から原虫を回収することは可能ですが,それらの昆虫は飛翔力がありますので,ヒトに感染する病原体を用いての昆虫への感染実験は周到な準備なしにおこなうと,事故の可能性もあるわけですから,,みだりにそのような実験をしないのがよいでしょう.
ランゲリ-・トリパノソーマ原虫は,アフリカ・トリパノソーマ原虫グループと同様に,吸血時に唾液腺からヒト体内に注入される salivarian species ですからたとえ非病原性でありましても,実験設備が不完全なところでのサシガメへの感染実験は控えるのが無難です.

サシガメ,ハマダラカ,ツェツェバエからの原虫分離法で,ご不明の点がありましたら,当室へお問い合わせください.

メールアドレス protozoatm.nagasaki-u.ac.jp の○を

かえてお送りください.