熱研生物資源室よりトピックスをお届けします
培養あれこれ,こぼれ話

==== これらは裏技ではありませんが,
線維芽細胞も含めて,原虫の
in vitro 培養のための,
ちょっとしたコツ二三を取り揃えました.
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【 その一 : CO2ガスは不必要 】

蓋と本体との間に隙間のある開放型の培養プレートや,やはり開放型のフィルター・キャップのフラスコなどを使用した実験でないならば,つまり,完全に密閉できるキャップのフラスコで線維芽細胞を培養するのであれば,CO2ガスは必要ありません.37℃前後に維持できる恒温器があれば,CO2ガス・インキュベーターがなくても線維芽細胞の継代培養ができます.これを利用しますと,海外での設備が十分に整っていないラボでも線維芽細胞の継代培養と維持ができますから,クルーズ・トリパノソーマ原虫のトリポマスティゴートの培養がそこでも可能です.

 

【 その二 : 火炎は不必要 】

線維芽細胞や原虫の培養であれば,その操作に必ずしも,(ガスの)火炎は必要ありません.しかし,操作中に,チューブ,フラスコ,プレート,ボトル,ピペットなどのどこにも一滴の培養液も落とさない,こぼさない,という技術が必要です.それができる実験者には,火炎は不必要です.よって,海外で実験室にラミナ・フロウはあっても,クリーン・ベンチがないラボでも培養操作は可能です.

培養操作中に,ほとんどの実験者は,おまじないのようにキャップや培養ボトルの口を火炎にかざします.しかし,培養プレートの蓋を火炎にかざすことはありませんね.キャップや培養ボトルの口を火炎にかざせば,コンタミを完全に防げるものではありません.実は,火炎を使用した場合と使用しなかった場合とでは,コンタミのおこる率に差がありません.では,どうしてコンタミがおこるのでしょうか.一つは,実験者が着用する白衣も含めて,手まで届く長い袖口です.白衣を着れば,自分はきれい,という錯覚があるようです.

では,不用意に,培養液をポトリと落とした場合は,どうするか,ですが,実験台ステージ上に落とした場合は,火炎のある場合も拭き取るでしょうし,ポータブル小型ガスライターなどを使うのがよいでしょう.

要は,必要でもない操作を省くことによって,培養操作を効率よくおこなうことです.

 

【 その三 : フェノール・レッドはとても重宝 】

培養液を自分で調製した場合,pHメーターでチェックし,調整が必要なことがしばしばあります.こういうとき,pHメーターに代わって,フェノール・レッドの指示薬を使うことをおすすめします.濾過滅菌ですと,濾過する前にpHをチェックできますが,オートクレイブ(高圧蒸気滅菌)による滅菌ですと,折角滅菌をしたのに,その後にpHをチェックするのが躊躇われます.培養液でしたら pHメーターで正確にチェックする必要がなく,フェノール・レッドの色合いからpHがわかります.フェノール・レッドが含まれた培養液や緩衝液を普段から使っていますと,その色合いから培養使用前のpH,培養中のpHの変化なども分かるようになります.オートクレイブをかけた直後は,温度が高いですから,色調が違いますので,温度が下がってから判断しましょう.フェノール・レッドのpH指示薬でpHを知るのは,慣れが必要です.

 

【 その四 : 自分で調製する培養液 】

クルーズ・トリパノソーマ原虫の,エピマスティゴートの培養液は,一般に LIT 培養液を用います.ATCCが掲載している組成はつぎのとおりです.

https://www.atcc.org/~/media/A3C1C35EC052430E858006C6E92ECFFD.ashx

ATCC medium: 1029 LIT medium

Liver Infusion Broth (BD 226920).........9.0 g

Tryptose (BD 211713).....................5.0 g

NaCl.....................................1.0 g

Na2HPO4 .................................8.0 g

KCl......................................0.4 g

Glucose..................................1.0 g

Fetal bovine serum (heat-inactivated)..100.0 ml

Hemin...................................10.0 mg

Distilled water to.......................1.0 L

Adjust pH to 7.2 and filter-sterilize.

Dispense aseptically in 5.0 ml aliquots into 16 X 125 screw-capped test tubes.

 

組成を混合したあとの滅菌法は,濾過滅菌となっていますが,海外のラボではオートクレイブの機器はあっても,濾過滅菌用フィルターを持っていないところもあります.そのようなところでは,オートクレイブでの滅菌を勧めています.しかしながら,自分で調合したLIT培養液もオートクレイブするとき,守らなければならない約束があります.

もちろん,①血色素成分や牛胎児血清など熱変成してしまうのはオートクレイブにかけられませんから,除いておかなければなりません.それ以外に,②グルコースとリン酸がいっしょに混ざった状態ではオートクレイブにかけられませんので,グルコースは高濃度(たとえば,20%重量/容量)のを別につくっておいて,オートクレイブにかけ,あとで,必要量だけ加えます.このようにして作製したLITコンプリート・メディウムを用いて,クルーズ・トリパノソーマ原虫のエピマスティゴートが増殖しなかったことはありません.また,オートクレイブで滅菌したLIT培養液で,ランゲリ・トリパノソーマ原虫のエピマスティゴートも増殖します.ATCCのプロトコルでは,試薬の調合後,pHの調整をする,となっていますが,当方ではpHの調整が必要だったことはありません.しかし,pHのチェックをしなかったときは,原虫が一向に増殖しなかったのが,調整後,増殖し培養がうまくいくようになった,というケースも聞いていますので,pHのチェックをされる,とよいでしょう.

当方で,LIT培養液にかかわらず,自ら調製する培養液や緩衝液のほとんどには,フェノール・レッドを入れており,使用前や使用中のpHをその色から判断し,フェノール・レッドを重宝していることは上に述べたとおりです.

【 その五 : LIT培養液用ヘミンやヘモグロビンの代替品 】
LIT培養液に添加する血色素成分のヘミン(やヘモグロビン)を加える際は,水溶性にするためにアルカリにしておいてのちにpHを調整したりする必要があるため,それに代わって,自分で hemolysates を調製してそれを加える方法もあります.この調製は簡単ですし,これを使ったLIT培養液での原虫の増殖も盛んです.白血球などから由来する核酸物質が培養液中に含まれると困る場合は,使用期限切れの赤血球製剤を用い,血液由来の核酸物質が含まれていても支障がない,継代だけが目的のLIT培養液でよいならば,自分の血液でhemolysatesをつくればよいことになります.hemolysates調製の全行程を無菌的操作でおこないます.抗凝固剤で採血後,遠沈し,血漿を取り除き,packed-cell volume 1容量に対して,滅菌純水9容量を静かに重層します.水を加える際も,そのあとも,絶対に混和してはいけません.少なくとも1週間冷蔵庫で静置します.この上澄み(hemolysates)だけを静かにとり,LIT培養液1,000mlに対して10ml内外を加えるとよいでしょう.一旦混和してしまいますと,赤血球膜(ghost)をあとでフィルターを用いても取り除くことができません.原虫の培養にghostが含まれていても問題がないのでしたら,この限りではありません.

 

【 その六 : 原虫は,試薬を選ぶ? 】

これは,培養だけに限ったことではありませんが,同一名の試薬でありましても,原虫が試薬メーカー(あるいは販売会社)を選り好みするのを経験しています.培養がうまくいかないときは,文献の記載にしたがって,同一メーカーから販売されている試薬に替えて見るのも一法です.



原虫の培養法にご関心のある方は当室へご連絡ください.また,原虫のin vitro培養がうまくいかないでお困りの方は,原虫種と問題点をお伝えいただき,当室へご相談ください.
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protozoatm.nagasaki-u.ac.jp へお送りください.