熱研生物資源室よりトピックスをお届けします
砂糖があれば, クリプトスポリジウム原虫を正確に検出できま~す.
==== 
目から鱗が落ちる, とは, このことでしょうか.
      自画自賛ですが, まさしく妙技と言えるでしょう.
        でも, 位相差顕微鏡だけはどうしても必要です  ====


クリプトスポリジウム症は, 免疫不全患者への日和見感染の対応も含めて, 上水や飲料水などがクリプトスポリジウム原虫で汚染されると, その被害が甚大になる, と警鐘されて, 久しくなりますので, 今ではもう忘れかかっている原虫感染症の一つですから, すでにトピックではありませんが 
蛍光顕微鏡や一連のPCR機器などの設備が潤沢でない海外の検査所でも, 誰もが簡単にクリプトスポリジウム・オーシストを検出できる変法(modified method), この場を利用して再度ご紹介しましょう.
クリプトスポリジウム・オーシストは, ショ糖浮遊法で, 濃縮することができるのは周知のところです. 

ここからが妙技の伝授です. お手元に, クリプトスポリジウム・オーシスト(ホルマリンで固定済のが安全)をお持ちでしたら, 一度試してみてください. こんな方法があったのか!と, きっと驚かれることでしょう. 

この手法には, 
クリプトスポリジウム・オーシスト検出のための柳法という名がついています.
Yanagi's method for the detection of Cryptosporidium oocysts with sugar water solution

(1)
試薬のショ糖(Sucrose)の代わりに, 砂糖(グラニュー糖でもよい)を使います. 砂糖20gに水13ml(比重1.3)26ml(比重1.2)の割合の, 非常に濃い, ドロリとした砂糖水を作ります. 
水は水道水でよく, 実際のところ砂糖20gも必要なく, 6.513mlに砂糖10gの砂糖水を作れば, たくさんの検体を調べることができます. 一検体に使うその砂糖水は一滴で足りるからです.
ただし, この水の量に, これだけの砂糖を全部完全に溶かすのは(可能ですが), すぐにはできず時間がかかります.

(2)
検体である糞便, 通常は下痢便ですが, グラス・スライドの真ん中ではなく, 1/3のところに, ほんの少量(割り箸にひっかかるぐらいで十分です)載せ, その上に, (1)の砂糖水を一滴落とします. 砂糖水は, 濃いためにかなりの粘性があります. 
クリプトスポリジウム感染者が糞便中に排出するオーシスト数は毎度大量であるため, 少量の糞便中にもオーシストが含まれていますので, 検査に供する糞便量はごく少なくても問題ありません. 陰性の結果が心配であれば, この手法による検便を複数回実施するとよいでしょう.

 (3)  18x18mm のカバー・スリップの角で糞便と砂糖水とを30秒間ぐらいかけてよく混ぜ, そのあと, 混ぜるのに使ったカバー・スリップを空気が入らないように端からそっと被せます. カバー・スリップを載せる位置は, グラス・スライドの真ん中ではなく, 端の1/3のところに置きます. 他の2/3はこれから使用する部分ですので, 空けておきます.
ここまでのステップは, 従来から紹介されているグラス・スライド上での, クリプトスポリジウム・オーシスト簡易検出法です.

(4)  (3)
のカバー・スリップを被せてから, 3分間待ったあと, 別の, もう一枚のカバー・スリップを取りだし, そのカバー・スリップを, 現在砂糖水と糞便を混ぜてその上に載せているカバー・スリップの横(), カバー・スリップの縁どうしがくっつくように, そっとおきます. そうしますと, みるみるうちに, 一枚目のカバー・スリップ内の液体が隣の二枚目のカバー・スリップ側に移動してきて, 二枚目のカバー・スリップ内を満たします.

(5)
さて, そこで, 次は, いよいよ観察ですが, どこを観察すればよいのでしょうか?
二枚目のカバー・スリップの, 周囲()だけを検鏡すればよいのです. 
一枚目のカバー・スリップのところは全く観察する必要がありません. また二枚目のカバー・スリップの全域ではなく, 周囲だけ観察すればよく, それ以外のところも観察する必要がありません. あっという間に, クリプトスポリジウム・オーシストの陽性か, 陰性かを判定できます.

(6)
この手法の優れているのは, グラス・スライド上の, 二枚目のカバー・スリップ内で, オーシストを濃縮することです.

(7)
使用する顕微鏡は, 位相差顕微鏡に限ります. 倍率は接眼レンズ x10 のとき, 
対物レンズ x10 では, 慣れないと, 検出は無理です. 
少なくとも, 対物 x20 が必要です. 
対物 x40 ですと, オーシストの見逃しはありません.
ただし, 対物レンズの倍率と位相差スリットは必ず組み合わせてください.

(8)
オーシストを見つけるには, オーシストに焦点を合わせられるように, そのコツを呑み込むことです.
オーシストは, カバー・スリップの真下にくっついていますので, 焦点はカバー・スリップの真下に合わせます. 砂糖水の底である, グラス・スライドの上面に焦点を合わせてはいけません. 

(9)
位相差・対物 x40 で観察しましても, オーシストの大きさは, 決して大きいものではありません. 初心者にとっては, こんなに小さいものか!と, いう最初の印象となるでしょう.
オーシストは, まん丸ではありません. 少し, 楕円形と思ってください.
色は白色です. 糞便と砂糖水の混合物は多少灰色から緑がかった有色ですので, オーシストが陽性の場合は, オーシストが白色ですから, 光っている白い同じ大きさの丸い形のものに注目すれば, すぐに見つけられます.
1
個のオーシスト全体は, 白色ですが, 中に, 黒みがかった小さな構造物が見えますので, 一見マラリア原虫の,リング・フォームか, クルーズ・トリパノソーマ原虫のアマスティゴートのようにみえます.





(10)
以上は, 位相差顕微鏡を用いたときの, クリプトスポリジウム・オーシストの見え方ですが, 位相差顕微鏡でなく, 通常の顕微鏡を用いた場合はどうでしょうか?

まず, 初心者には, ショ糖浮遊法であっても, 通常の顕微鏡でオーシストを見つけることは至難のことです. 無理と言っていいでしょう.

通常の顕微鏡を使用して, ショ糖浮遊法を適用する場合, コンデンサーを十分に下げて, 像に, 陰影がつくようにします.
焦点を合わせる位置は, 位相差顕微鏡のときと同じです.
位相差顕微鏡では, オーシストは, 白色に光って見えますが, 通常の顕微鏡では, ピンクがかって見えます. 中の構造は, 位相差顕微鏡のときのようにははっきりと見えません. ピンクがかった同じ大きさの丸い形のものを多数観察しますと, オーシストである可能性が高くなります.

クリプトスポリジウム・オーシスト検出のための柳法 : Yanagi's method for the detection of Cryptospotidium oocysts with sugar water solution
を実際に利用され, その効果のほどをご経験された方は当室までご一報ください.
メールアドレス protozoa○tm.nagasaki-u.ac.jp ○を@に変えてお送りください。