概要Outline

► multiplex技術とは?
► 研究の内容
► 研究の意義
► フィールドでの試験

multiplex技術とは?

ここでは、抗体の検出を例に説明します。

直径 5.6μmほどの小さな球体(マイクロビーズと呼んでいます)に検出したい病原体の抗原を固定します。一つの病原体抗原に対し、特定の色のついたマイクロビーズを割り当て、固定します。つまり、一つの色のビーズに、一つの病原体抗原となり、病原体抗原とビーズの色は、1:1の対応になります。要するに、ビーズの色が解れば、その色に固定した病原体抗原の種類が特定できるようになります。

例えば、10種類の異なる病原体の抗原のそれぞれに、10種類の異なる色のマイクロビーズを割り当てたとします。それらのビーズを混ぜ合わせ、ヒト血清と反応させます。すると、抗原に血清中の抗体が反応します(抗体抗原反応)。

さらに蛍光をつけた抗ヒト抗体を反応させるとマイクロビーズに固定した抗原についたヒト血清中の抗体に、さらに蛍光を付けた抗体が結合します。

このような状態で、測定器に流して、測定します。測定器は2種類のレーザービームを持っており、一つは、マイクロビーズの色のを把握し、ビーズの数を数えます。もう一つのレーザービームは、蛍光度を測ります。つまり、何個のマイクロビーズを測定したのかが解ると共に、そのマイクロビーズに固定された抗原に反応した抗体がどのあるのかを蛍光度により判定することが可能となります。

10種類の場合は、10種類を一度に行うことが可能となります。このようにして、一括の診断が可能となります。

現在、100種類の異なる色のマイクロビーズが販売されていることから、理論上は、100種類の異なる抗原を一括に診断する事が可能となります。

 

※本研究では、Lumiex社の機器を用いて現在、顧みられない熱帯病の一括診断を開発しています。


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研究の内容

1.複数感染症に対する一括同時診断技術・開発のアフリカ拠点整備
同時診断技術において用いられる診断用のマイクロビーズの作成に必要な分子生物学的操作をケニアにおいて可能とすべく、機器の整備を行う。このことにより、病原体のサンプル入手から病原体の分離、さらには、遺伝子組み換え技術を用いたタンパク精製、DNAシークエンスなど一貫した研究と開発が、病原体の日本国内への搬送を経ずして行うことが可能となる。また、国や地域の感染症対策のニーズに合わせた開発・研究を行うことも可能となる。

2.一括同時診断技術を応用した網羅的監視体制の確立と運用
開発された診断キットを用い、広域でかつ複数の感染症の分布を把握する事が可能となる仕組みと体制を構築する。具体的には、sentinel 地域(監視用に設定した幾つかの地域)において、定期的かつ長期的にサンプリング調査を行う仕組みを構築し、検体搬送の仕組みも完備する。また、幾つかの病院において、ある特定の症状の患者に関してサンプリング調査を行い、感染の実態を把握、全土的な監視網の一部に組み込む。

3.学校保健を基盤とした村落レベルでの統合的啓発活動
上記感染分布から得られる情報を基盤に、住民自らが能動的に参加し、対策を効果的に押し進めることを可能とする啓発活動推進プログラムの開発と実施、評価を行う。具体的には、現在、散発して行われているWHO の進める対策活動を見直し、学校保健を基盤とした統合的な健康教育により効率的継続性のある啓発活動の導入を狙う。

4.監視網の周辺国、さらにはサブサハラ以南アフリカへの拡張への布石
厚生労働省、外務省、文部科学省、寄生虫学会等のメンバ―でなるNTD小委員会には、長崎大学、国立国際医療センターが参画しており、世界保健機関(WHO)本部及び世界保健機関アフリカ地域事務所(WHO/AFRO)との強い連携協力体制を構築してきている。これを利用し、一括診断の国際標準化と監視網の周辺国・地域への普及(ネットワーク化)を模索する。

5.人材育成
上記の協力内容のそれぞれにおいて、人材の育成に取り組む。アフリカの若手研究者のみならず、日本の若手研究者にとっても貴重な教育拠点となるはずである。

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研究の意義

九州・沖縄サミット(2000年)において感染症の問題が主要議題として初めて主要国首脳会議において取り上げられて以来、三大感染症(エイズ、結核、マラリア)について、世界エイズ・結核・マラリア対策基金等の新しい資金メカニズムの確立につながり、一定の効果が上がっている。しかし、その他の感染症、特に「顧みられない熱帯病(NTD)」や貧困層を中心として蔓延している感染症については、解決に向けての対応が不十分であり、このことについては、2008年5月、TICAD IV(第4回アフリカ開発会議)の横浜宣言で、我が国はアフリカのNTD対策への支援を初めて表明して以来、同年の洞爺湖G8サミット(国際保健に関する洞爺湖行動指針25項)、2009年クライラG8サミット(イタリア、G8首脳宣言122項)、2010年ムスコカG8サミット(カナダ、首脳宣言15項)においても、NTD対策の重要性が述べられている。また、このような貧困層を中心とする感染症が、さらに貧困を生むという負のスパイラルがある状況において、ミレニアム開発目標を2015年までに達成するためには、これらの感染症対策を急いで行う必要に迫られている。
世界保健機関(WHO)では、2008年にNTD部門を設立し、その対策を急いでいるが、対策の主体が、1)同じ治療薬で効果がある複数の疾患に対する治療、2)類似の媒介動物への対策の2つであり、「感染実態の把握」や「地域住民に対する啓蒙活動」等の戦略が欠けている。そのため、対策は思うように進んでいない。従って、この欠けた2つの要素、つまり、貧困層に蔓延する感染症を簡易にさらには広域かつ網羅的に監視できる体制の整備とその情報を対策に生かし地域住民が積極的に参加できる対策活動の支援が急務となっている。
そのような状況を鑑み、長崎大学では、平成21年度より旧科学技術振興調整費(科学技術戦略推進費)により少量の検体を用い、一度の操作で、数十種の感染症を同時に診断する技術の開発(代表研究者:金子 聰 平成23年度終了)を進めている。本提案提出時点での同時診断が可能となっている病原体は、HIV、熱帯熱マラリア、3日熱マラリア、トキソプラズマ、内蔵リーシュマニア、コレラ、フィラリア(バンクロフト糸状虫)、結核、赤痢アメーバの9種類であり、検討中の病原体が、ロタウイルス、フラビウイルス、アフリカトリパノソーマ、ランブル鞭毛虫となっている。
本提案では、この技術開発拠点をアフリカに移築し、診断対象となる病原体の追加と研究・開発に携わる人材の育成を図り、貧困層に蔓延する感染症を網羅した広域監視網の整備による実態の把握とその対策を統合したパッケージを構築することにより、アフリカにおける感染症問題の自己解決機能を充実させることを目的とする。


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フィールドでの試験

 今回のプロジェクトで開発した技術は、ケニア共和国において我々が展開しているフィールドにおいて地域の感染率調査を行い、技術の評価を行うことを計画しています(2011年8月18日現在、進行中)。


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