平成13年2月27日 特別講演  

「新種マラリア原虫の発見」

名古屋大学医学部 川本 文彦教授 

 

  1900年代初頭には多くのマラリア学者が新種の記載を報告したが、1922年の卵形マラリアの発見以来、ヒトマラリア種は4種のみとされて今日に至っている。我々は、新種あるいは新型の変異種が存在するに違いないと考え、1994年から東南アジアを中心にマラリアの分子疫学調査を行ってきた。この調査では、毎年4−5千名の血液検査を行い、千名以上のマラリア陽性者を検出してきたが、1998年9月にミャンマー南部のダウェイと北部カチン州ミッチィーナにおいて新型と考えられる2種類のマラリア原虫が検出された。

  2種類ともに、形態学的には4日熱マラリア原虫に近く、マラリア原虫に特有のバンド形、シゾント、生殖母体を有していた。しかし、幼弱栄養形はリング形を示さず、クロマチンは2−3個に分かれていた。18S ribosomal RNA遺伝子とCS遺伝子の全塩基配列を調べた結果、四日熱マラリアに非常に近い種類であることが判明したが、これまでの遺伝子配列とも異なっていた。その後の調査から、ミャンマー全域にこれら新型2種類が分布していることが判明している。

 また、古い文献を調べた結果、1914年に報告されたPlasmodium vivax,variety minuta とP.tetanue として報告された原虫とまったく同一の形態を呈していることが判明した。領主友に今日では熱帯熱マラリアの変異型であると考えられているが、今後は、新たに再発見された2種類が新種のヒトマラリアであるのか、あるいは単に四日熱マラリアの変異型なのかについて明らかにしたい。特に、P.tetanue 型は南米のサルマラリア、P.brasilianum と形態、遺伝子がよく似ており、南米のサルマラリアと東南アジアのヒトマラリアとの関連が注目される。いずれにせよ、これら2種類は80年以上過ぎて再発見された原虫と考えられ、今後のマラリア原虫の分類、系統樹に関する研究に大きなインパクトを与えるものと思われる。