ポスター発表

P1-01
開発途上国における助産活動体験による自己認識の拡大変化 − 達成感ある助産活動の指標 −
兼頭 みさ子1、小林 祐美子2、鈴木 享子3
1成増産院    2埼玉協同病院    3首都大学東京   
目的:1)我が国の開発途上国における助産活動実績を概括し、2)助産活動体験者の自己認識の変化および、3)より達成感ある活動を遂げるための指標を明らかにする事である。
方法:調査期間2005年8月15日〜11月24日、文献調査および面接調査。文献調査は、外務、法務、厚生等各省、国際協力機構(JICA)及びNGO17団体への電話・メール等などによる直接問合わせ。プレテストで作成した半構成的質問紙(活動前・活動中・活動直後・現在を柱とした全26項目)で、同意が得られた助産活動体験者4名への面接調査。
結果:1)主な派遣団体のJICAでは、1973年かの33年間、39途上国で336名の日本人助産師が継続的に幅広く活動した。自己認識の変化を(1)活動前の助産能力の程度、(2)事前準備の程度、(3)途上国での助産活動に対する「自分にもできる気持ち」の3つの視点から評価したが、活動当初は異文化に対し戸惑うが、徐々に共通性を見出し人間の本質的な部分を見つめるきっかけを得ていた。当初、現地のニーズを見出せず助産技術が発揮できない状態に困難を感じても、異文化に適応するうちに助産の本質的な部分が定かになり国や人種に差のない助産観を持つようになった。自己認識は広がり、その後の人生に大きな影響を与えた。言語習得程度や活動期間に影響される傾向はある。異文化に適応し、理解・尊重する姿勢で関わることによって、現地の人々のニーズを見出すことができる。ニーズのある場面での助産活動には、手ごたえややりがいを強く感じる傾向があった。
結論:1)途上国における助産活動者は、今後ますます増加していくと推察できる。2)途上国における助産活動は、人間としても助産師としても多くの学びを得る機会であり人生を変える大きな体験となっている。3)現地のニーズを見出した助産活動をすることは、達成感を得る上で重要な一つの要因であると示唆された。
P1-02
人間中心の国際保健医療協力をめざして―ケニア国西部地域保健医療サービス向上プロジェクトの実践的活動報告―
中村 安秀1、島本 護1、北川 由美子1、鈴木 葉子1、川井 理恵子1、横田 雅史1
1特定非営利活動法人 HAND (Health And Development Service)   
【はじめに】ケニアは、妊産婦死亡率が1000(出産10万当り)と世界でも最も高い国の一つである。しかし、近年、国際機関やドナー機関がHIV/AIDSやマラリアなどの感染症対策に重点を移し、基礎的な母子保健医療サービスの整備は遅れている。【活動目的】HANDSは2005年3月から、ケニアの中でも保健医療水準の低い西部地域のキシイ県(人口53万人)・ケリチョー県(55万人)において妊産婦ケアの向上を主目的として「ケニア国西部地域保健医療サービス向上プロジェクト」を実施してきた。【成果と教訓】基礎調査により、98%の妊婦が妊娠中の検診を希望しているが、出産場所は約50%が自宅であり、42%の妊婦は保健医療スタッフに満足しておらず、身近な医療施設である保健センターが十分に活用されていないことが明らかとなった。保健センターの施設整備として、住民自身が工事の進捗状況をモニタリングするという手法で、給水施設、排水溝、柵や門といった基本的な改修工事を行った。妊産婦研修の前半は、看護スタッフと地域住民が同じ講義を受けるというケニアでは前例のない「住民統合研修」を行い、地域住民の妊産婦ケアに対する関心が高まり、住民と行政職員の連携が深まった。このように、本プロジェクトでは、住民自身の発想で主体的に参加できるような場づくりをめざしてきた。しかし、日当を払わない研修に中央政府からフレームがつくといったように、従来の「援助する国される国」という意識からの脱却の必要性は日本側だけでなく、相手国側にも存在していると思われた。【考察】遊牧民のキプシギス族が住民の大半をしめるケリチョー県と、住民の90%以上が農耕民のグシイ族であるキシイ県では、民族、歴史、地理環境、伝統的な身体観や医療観などにも大きな違いがある。それらの文化的背景を最大限に考慮しながら、一つのプロジェクト目標をどのように達成していくのか、今後に残された大きな課題である。
P1-03
エクアドル共和国ロハ州のL公立診療所管轄地域の実態
濱口 陽子1
1足立病院   
【目的】エクアドル共和国ロハ州のL公立診療所は都市部に位置し、都市部から村落部と幅広い地域を管轄している。都市部と村落部では母子保健の実態が異なることが考えられ、それぞれのニーズに合わせたサービスの提供が重要である。そこで、管轄地域の実態を把握し、提供すべき母子保健サービスについて検討した。【方法】ロハ市内のデータバンクで、ロハ州の有資格者による分娩介助の有無、母親の出産年齢、20歳未満の若年出産と35歳以上の高齢出産の出産数などについて情報収集し、エクアドル全体とロハ州の都市部、村落部を比較した。さらに、診療所の診療記録から外来妊婦の初診時の年齢と初診週数、初経年齢、体重などを情報収集し、管轄地域の妊婦の状況を把握し、診療所の医師やスタッフとともに、ロハ州の母子保健における問題点を明確化し、提供すべき母子保健サービスについて検討した。【成績】ロハ州の村落部では都市部に比べて有資格者の分娩介助を受けていなかった。また、ロハ州の都市部、村落部ともエクアドル全体と比べて若年出産、高齢出産の割合が高かった。診療所のデータからも20歳未満の若年妊婦が多かった。さらに、初診時の妊娠週数が30週以降の割合が高かった。また、初診時の体重が標準以上であるものの割合が42%と高く、そのうち35歳以上の高齢層が64%であった。【結論】L公立診療所の管轄地域に必要な母子保健サービスとして、村落部においてTBAへの講習を実施することや都市部、村落部ともに家族計画指導と栄養指導の必要性が示唆された。以上の結果をふまえ、診療所では、産婦人科の外来で個別相談や両親学級において家族計画指導と栄養指導を開始し、村落部においては診療車で訪問し、地元のNGOと協働で管轄地域の保健ボランティアや地域住民を対象に家族計画指導と栄養指導を実施し始めた。
P1-04
フィリピン共和国の母子保健と日本の協力
村上 いづみ1、山岸 信子1
1国際協力機構 フィリピン事務所 母子保健プロジェクト    
フィリピン共和国は妊産婦死亡数低減のため、90年代後半まで妊産婦検診を推進し伝統的産婆研修等を盛んに行ってきた。しかし、2000年代から現在は伝統的産婆研修が妊産婦死亡数を低減するために効果がなかったとする国連機関の報告を受け研修を終了して、より臨床医療を重視し、熟練介助者による施設分娩を推進する方向に進んでいる。その後2003年からは、依然として遠隔地で重要な位置を占める伝統的産婆を活用するため、女性の健康アプローチが取り入れられている。これは、伝統的産婆を助産婦がリーダーとなる女性の健康チームの一員として生かし、女性と住民の意識向上と行動変容を推進する活動である。 日本は保健省と協力し、2005年3月から産科救急システム強化を中心とした母子保健プロジェクトを開始した。活動はドナー連携による総合的な妊産婦の健康改善に向けたアプローチを実施するため、母子保健担当部、NGO, UNICEF, UNFPA, WHO等の他のドナーと共同し、基礎産科救急研修のマニュアル開発と印刷、研修施設への機材供与、コミュニティに根ざす助産師への分娩介助技術研修用教材開発、教師用指導要綱開発、コミュニティの女性健康チーム結成のための教材開発を実施し、研修することである。また、プロジェクトの対象地域の保健所においては、フィリピン保険公社の補助金を受けて財政を安定させ、サービスの質の強化を図るために、施設整備と機材供与、研修実施を予定している。これらのシステム強化によるトップダウン活動と、コミュニティの既存する人材を活用した安全な出産を推進するボトムアップ活動の両方を、関係者が一丸となって推進することは、比国において新しいアプローチである。しかし、ミレニアム開発目標に掲げられた妊産婦死亡率、乳幼児死亡率の効果的な低減のためには、この連携が重要な鍵を握るものである。
P1-05
モデル地域での活動経験を全国展開に活かす方法論の開発 −ベトナム・ベンチェ省の母子健康手帳プログラム−
板東 あけみ1、中村 安秀1、DINH PHUONG HOA2、VU ANH DAO3、NGUYEN QUOC THOI4、HUYNH THI THANH BINH5、野中 路子6、岩花 みゆき7
1大阪大学大学院 人間科学研究科 ボランティア人間科学講座 国際協力論    2ベトナム保健省 リプロダクティブヘルス局    3ベトナム児童基金    4ベンチェ省医療短期大学    5虹色クラブ障害児センター    6兵庫県立塚口病院 小児科    7尼崎保健センター   
【背景】1998年からベンチェ省(137万人)の人民委員会と日本のNGOが協働で、妊婦・乳幼児健診、発達、予防接種、栄養の記録を含む40ページ余りの母子健康手帳を導入した。すでにベトナムには薄い記録簿はあったがそれは主に妊産婦情報が中心で、子どもの発達を長期に渡って記録するページはなかった。NGOの活動では障害児に焦点を当てていたため、障害の早期発見と早期治療の視点から薄い記録簿では物足りなかった。この新たな母子健康手帳は1999年以降改訂を繰り返し、2004年には省内全域で配布されるようになった。【現状分析と研究課題】ベンチェ省の活動に関心をもったベトナム児童基金は、ベンチェ省と同じ内容の母子健康手帳を2005年秋にバクザン省とタイビン省各15村、計30村のモデル村において配布した。現在ベトナムには、妊娠期から5歳までの各種記録を記入する全国統一の母子健康手帳はない。2006年11月にベンチェ省で開催される第5回国際母子健康手帳シンポジウムに、ベトナム全省の代表を招待し国内外の経験を学び、その後参加省への還元状況を調査する。また2005年から母子健康手帳を導入して母子保健改善事業を行っている北部2省での介入調査により母子保健の課題解決の手立てを明らかにすると共に、この一連の調査をまとめてハノイで報告会を開き経験や情報を共有して、母子健康手帳の全国普及へ意識を高める。【今後の課題】ベンチェ省から始まった母子健康手帳を今後全国レベルに展開させるには、以下のような課題が考えられる。ひとつは、省・郡レベルでの関係各機関へのアドボカシーが必要であり、また村レベルでの母子健康手帳に関する協働作業の強化や実践的な研修が望まれる。また印刷費の確保も重要である。全国展開をするためには、期限のある国際機関や他国ドナー機関の資金だけに頼ることなく、継続的且つ安定した自前の印刷資金の確保が必要であろう。
P1-06
タジキスタン共和国「母と子のすこやか支援プロジェクト」―有効なアクションプラン作成への戦略ー
山岸 映子1、金川 克子2、吉村 香代子3、田中 理3
1石川県立看護大学 母性・小児看護学講座    2石川県立看護大学 大学院看護学研究科    3独立行政法人 国際協力機構 北陸支部   
【はじめに】2005年11月〜12月(約2ヵ月間)に、タジキスタン共和国の南部ハトロン州から保健局次長および地区中央病院長、産科医、看護師ら6名の研修員を受入れた。研修は乳幼児死亡率の削減や妊産婦の健康改善のために、PHCの原則にもとづき地域母子保健活動体制の確立を目指すものである。帰国後の活動に向けてアクションプランは大変重要であり、有効なものが作成できるよう検討する。
【作成プロセス】研修プログラムは、現地での事前講習会とカントリーレポート提出に始まり、本邦でのカントリーレポート検討会、講義、討議、見学・意見交換、演習、PCM研修を踏まえてアクションプランが作成され、最終報告会において発表し終了する。
【課題】タ国は、1)英語が全く通じない(タジク語・露語)、2)旧ソビエト連邦の国である、3)国土の90%が山岳地帯である、4)電気や水の供給状況が悪い、5)経済状態が良くない等課題が多い。
【結果・考察】アクションプランは、1)実行および実効性が高いこと(より具体的で、効率性が高く、持続可能で、今ある資金や設備で工夫して実施できる)、2)優先順位を付け、実施時期や期間を明記する、3)責任者や担当者を明記する、4)評価法を検討すること等が求められるが、タ国の状況から困難が多い。当初作成されたアクションプランは乳幼児・妊産婦健診および健康教育の実施と母子健康手帳導入に向けたものであったが、具体性等において求められる内容ではなく、徹夜での作成し直しとなった。しかし、JICAクエスチョネア集計評価によると、一番(複数)有益だった項目に、ほとんどの研修員がアクションプランをあげていた。
【まとめ】有効なアクションプラン作成の戦略として、1)モチベーションを高める研修内容、2)ことばが母国語以外の場合、コーディネーター兼通訳を研修プログラムに深く巻き込む、3)研修員たちが自分たちで考え、苦労して作成したという実感を持つことが重要である。
P1-07
出生時健康状態からみた出産後2時間までの児の意識レベルと授乳行動
−中央アフリカ共和国・バンギ市診療所での観察結果より−
中尾 優子1、徳永 瑞子1、大石 和代1、西浜 佳子2、永冨 由紀子3、門司 和彦4
1長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科     2聖母大学    3横浜労災病院    4長崎大学熱帯医学研究所熱帯感染症研究センター   
中央アフリカ共和国の産院で新生児を出産後2時間まで継続観察し、その間の意識レベルと授乳行動が出生時の児の健康状態で異なるかを検討した。方法は同一者が出産から2時間継続して観察する非参加型観察法とした。全例19例の内、最初の5例の観察から観察項目を列挙し、その後の14例を出生1分後の児のアプガースコア(Apgar score:AP1分値)で2群に分け、それぞれ分析を行った。その結果、AP1分値8点以上で正常に出生した児の覚醒時間は出生直後から平均57.6分(SD:12.1)であり、その後、朦朧状態を経て、入眠するまでの時間は平均109.1分(SD:7.16)であった。入眠までは静覚醒の後に、口唇を閉じた状態から活発に開け、吸啜対象の探索が始まり、吸啜行為へと移行する一連の流れとして確認された。出生時のAP1分値が7点以下で5分後に8点以上に回復した児5例の覚醒時間は平均29.6分(SD:4.9)、入眠までの時間は平均36.8分(SD:6.5)であった。口唇の開大はみられたが弱々しく、吸啜対象の探索及び吸啜行為は見られなかった。また、出生時の健康状態を示すAP1分値は覚醒時間(r=0.73)及び入眠までの時間(r=0.89)と強い相関を示した。結論として、出生時の健康状態により、出産後2時間までの意識レベル及び授乳行動に違いが生じた。
P1-08
カンボジアにおける緊急産科ケアニーズ充足度の地域差
松井 三明1、Keth Ly Sotha2、Uong Sokhan2、Srey Sopha2、Po Chin Samuth2、小原 ひろみ1、Koum Kanal2
1国立国際医療センター 国際医療協力局    2National Maternal and Child Health Centre, Phnom Penh, Cambodia   
【目的】妊産婦死亡は特に開発途上国において測定が難しく誤差が大きい。我々はカンボジアで、プロセス指標を用いた緊急産科ケア利用を測定し、医療ニーズに対するサービス提供の充足度について検討した。
【方法】対象は首都プノンペン市と周辺農村部(カンダール州)とした。De Brouwereが提唱したUnmet Need for Major Obstetric Interventionsの方法を用いて、対象地域からアクセス可能と考えられ、かつ帝王切開手術を提供できる全医療施設で、2001, 2003, 2005年の各1年間に実施した産科手術(帝王切開術、子宮摘出術、子宮破裂修復術、切胎術・胎児穿頭術)症例の居住地、手術適応を調査した。そして対象地域内の推定分娩数に対する産科手術率、および絶対的母体適応(上記産科手術なしには母体死亡に至ると考えられる合併症:前置胎盤、常位胎盤早期剥離、子宮破裂、横位・肩胛位・顔位・頤位、重症分娩第3期出血)に対する産科手術率を求めた。
【結果】2001, 2003, 2005年の産科手術率は、プノンペン市で4.21, 5.72, 6.85%、カンダール州で0.67, 0.95, 1.07%と、それぞれ経年的に増加していた。また絶対的母体適応に限定した産科手術率は、プノンペン市で0.78, 0.92, 1.09%で増加、カンダール州では0.33, 0.34, 0.34%と不変であった。
【考察】De Brouwereらによると絶対的母体適応に対する帝王切開術は、全分娩の1.1-1.3%に必要とされている。プノンペン市では産科合併症に対するケアの提供は改善傾向であるが、カンダール州では産科手術率の増加にもかかわらず救命的緊急産科ケアニーズに対する充足状況は低く、変化していないと考えた。
カンボジア農村部ではいまだ必要なケアへのアクセスが不十分で、多くの母体死亡が発生していると推定される。本結果は医療施設・人材配置等に有用であると考えられ、カンボジア政府の保健医療政策に資することができるよう提言を行う予定である。
P1-09
カンボジアにおける重症産科合併症産婦の受療阻害要因
柳澤 理子1、ウム ソポル2、若井 晋3
1信州大学 医学部 保健学科    2保健科学大学(カンボジア)    3元東京大学大学院医学系研究科   
【目的】
カンボジアにおいて家庭分娩し、重篤な産科合併症を有した産婦の適切な医療受診を阻害する要因を明らかにする。
【方法】
過去3ヶ月間に分娩した女性(1046人)中、多量出血、遷延分娩、産後の高熱、痙攣があり、症状が重篤で生命に危険が及ぶ可能性があった者で、調査に同意が得られた者23人。データは半構成的面接法により収集した。データは承諾を得た上で録音し、クメール語で逐語録を作成、英語に翻訳して分析した。分析は両語を介する研究者が行い、適宜クメール語版を参照した。受療阻害要因は次の3段階で抽出した。1)異常の認知及び受療決断、2)医療機関へのアクセス、3)医療機関到着後の適切な治療。
【結果】
23人の年齢の中央値は29歳で、多くが農業従事者であった。6人が初産婦、9人が5経産以上で、識字者は5人であった。産科異常は多量出血14、遷延分娩9、産後の高熱4、痙攣2(重複あり)であった。14人が最終的に医療専門家を受診した。受療阻害要因は、3段階のすべてで見出された。第1段階では「重篤度の誤認」「伝統的施療者の技術的過誤」が、第2段階では「経済的近接性」「地理的近接性」「利便性」「希薄な社会支援」「嗜好」「公的医療機関への不信」「産婦の身体状況」が、また第3段階では「構造的不適切性」「組織的不適切性」「技術的不適切性」が、阻害要因として見出された。重篤な産科合併症を経験しながら医療専門家を受診しなかった女性の中には、長期にわたって慢性的な不健康状態を有する者がみられた。
【結論】
重篤な状態にも関わらず、医療機関を受診しない農村女性の行動は、知識不足を初めとする女性自身(第1段階)の問題として論じられることが多い。しかし実際には、第2段階、第3段階の阻害要因が多く存在する。適切な医療を受けない女性が、不健康なまま子育て、次児の妊娠出産に向かう可能性が示唆された。
P1-10
ラオス国ウドムサイ県における新生児家庭訪問の実績報告と今後の課題
池田 絹代1、CHANKAM TENGBRAECHEU2、岩本 あづさ3、KHAMPHANH XAYAVONG2
1JICAラオス国子どものための保健サービス強化プロジェクト    2ラオス国ウドムサイ県保健局    3国立国際医療センター 国際医療協力局   
【目的】ラオス北部のウドムサイ県では小児保健サービスマネージメントの向上を目指しJICA KIDSMILEプロジェクトが実施されている。昨年カウンターパート研修を受講した県スタッフが日本での学びを参考に新生児家庭訪問を開始した。その経過と支援状況を報告する。【経過】スタッフは2005年1月研修に参加後、7月に県保健局へ新規計画として、県病院で出生した新生児の家庭訪問を申請した。訪問というラオスでは新しいスタイルの活動は、県病院周辺地域に限定はされるが、対象家庭だけでなく近隣住民への母子保健サービスへの啓蒙にもなることが期待された。その後記録用紙の作成等の準備を行い12月より開始、以後実施者−計画者−専門家間の報告検討を定期的に行い、記録用紙の変更やフォロー体制の確認を実施している。【結果】2006年5月までの訪問件数は69件で、母子の診察と授乳指導、健康教育、家族計画指導等の他、予防接種や要観察児の日程確認を行っており、今後再受診時のフォローアップでそれらの効果の確認が期待される。スタッフは当初、日本で見学したような家庭訪問実施のみを考えていたが次第に、実施後のフォロー体制の整備や記録の活用等この活動全体のマネージメント改善の重要性にも気づき始めた。また実施者はこの活動をやりがいと感じ、日当なし、ガソリン代後払い、等厳しい状況下で綿棒を自費で購入したり、周囲からの物品支援を受ける等自主的に実施している。【課題】訪問をただ実施するだけでなく、内容を共有できるような記録用紙やより実用的な健康教育教材の開発、使用等、質の改善が今後の課題である。さらに今後も現在の実施者やその他のスタッフの意欲が持続し、この活動に関する情報が地域住民にサービスとして還元されるとともに県内他地域にも広がり、最終的に県郡全保健施設での健診や分娩等母子保健サービスへのアクセス増加につながることを期待したい。
P1-11
ラオス国における破傷風トキソイド接種と清潔分娩の現状分析
増野 華菜子1、Somthana Douangmala2、Alongkone Phengsavanh3、Duangpachan Xaysomphoo3、黒岩 宙司1
1東京大学大学院 医学系研究科 国際保健計画学教室    2National EPI and surveillance, Vientiane, Lao PDR    3National Medical University of Lao PDR, Vientiane, Lao PDR   
【目的】新生児破傷風根絶は、生産児1000人あたり1症例未満と定義されているが、2001年にUNICEFがラオス国で行った調査では、生産児1000人あたり8.6人から10.5人が新生児破傷風により死亡したと推定されている。このような状況をふまえ、ラオス国の首都ビエンチャン特別区において、5歳未満の子供を持つ女性の破傷風トキソイド(TT)接種状況及び清潔分娩の現状を調査することを目的とした。【方法】5歳未満の子供を持つ女性を対象とし、質問紙を用いた横断研究として行った。2段階クラスターサンプリングにより調査対象を抽出した。予測変数は社会経済的要因とし、結果変数は末子分娩時のTT接種状況、分娩介助者、分娩場所とした。TT接種状況に関しては、単なる接種回数のみならず、接種と分娩の間隔を考慮したProtected-At-Birth(PAB)法に準じてインタビューを行った。TT接種状況の確認は、予防接種記録カードにより行った。【成績】5村212世帯から有効回答を得た。TT接種率は79.7%、医療者(医師、看護師、助産師)による分娩介助があったものは68.4%、医療施設における分娩は63.7%であった。多変量解析の結果、出産経験、予防接種に関するカウンセリング経験、情報源と、TT接種状況や清潔分娩の間に統計学的に有意な関連がみとめられた。回答者の大多数が、周産期の伝統的な習慣を実行していた。【結論】適切なTT接種および清潔分娩の実施率向上のためには、村長を中心とした組織による情報伝達方式の活用が有効であること、また、予防接種と母子保健をそれぞれ管轄するEPI局とMCHのパートナーシップ強化が必要であることが示唆された。周産期の伝統に関しては、特定食物の摂取制限、火鉢用の器具による過熱等が含まれており、妊産婦及び新生児の健康に及ぼす影響に関しての更なる調査が必要である。
P1-12
ラオス国ビエンチャン県におけるクリニカルIMCI記録システムの改善
Keomahavong Vienmany1、Sourpaset Soukphathai1、Kazue Sone2、Hironori Okabayashi3、Azusa Iwamoto3
1Vientiane provincial health office in Lao P.D.R    2JICA KIDSMILE project    3International medical center of Japan   
Background and Objective
Clinical IMCI method requires one both-side printed recording form for each patient, and it is difficult to continue providing the forms, because it costs much. To reduce the cost, we created IMCI recording book in cooperation with the central IMCI technical team instead of the original form. After introducing the recording book, we succeeded more than 90% of the cost reduction (the monthly expenditure changed from 50US to 4.4US). However, we also need to evaluate the quality of examination with using the recording book. We want to report the comparison of each quality of the original form and the new recording book.

Method
We evaluated 1) accuracy of assessment for danger signs, four main symptoms and other four information, and 2) giving immunization and counseling about feeding on that day. We used WHO's IMCI follow-up sheet for the evaluation, and 20 cases from both the original forms and the recording book were randomly selected at Keoudom District Hospital.

Result
Average of accuracy of assessment improved from 90.5% (the original form) to 97.5% (the recording book). However, immunization and counseling on that day reduced almost by half.

Discussion and conclusion
The quality of assessment was kept good enough, whereas, real implementation of immunization and counseling became worse, because, we suppose, the new record system doesn't have enough and independent space to describe such information. Further study at more facilities is needed and if necessary, revision of the recording book should be considered.
P1-13
ラオス農村部のClinical IMCIが導入された医療施設における母乳育児に関する意識調査(第2報)
岩本 あづさ1、米川 明美2、高橋 謙造3、池田 絹代4
1国立国際医療センター 国際医療協力局 派遣協力第二課    2九州看護福祉大学 看護福祉学研究科 看護学専攻修士課程    3順天堂大学 医学部 公衆衛生学教室    4JICA KIDSMILE プロジェクト   
【目的】昨年のラオス都市部に引き続き農村部のClinical IMCI(以下IMCI)が導入された医療施設で意識調査を行い、完全母乳率がIMCIの適切な指標となりえるかどうか継続検討する。【対象及び方法】JICA KIDSMILEプロジェクトがIMCI研修を導入した、ラオス北部のウドムサイ県フン郡(県都から約90km)病院外来で、子どもの保護者計100名を対象に構造化面接(思い出し法)による出口調査を実施した。【結果】回答者100名の内訳は、完全母乳75名、母乳にもち米等の補完食を加えた者23名、村の祈祷師モーピーから母乳育児を禁止され補完食のみ与えた者1名、混合栄養1名。栄養法に関するアドバイスは郡病院の医師(48%)、母方祖母(32%)、ラジオ(9%)から受けていた。完全母乳の理由は「赤ちゃんに最善の栄養法だから」が最も多く44名(59%)、次に「完全母乳が最善という説明を受けたから」が22名(29%)であった。一方母乳以外の補完食を与えた理由としては、「他の母親達も与えているから」「補完食を与えるよう説明されたから」「母乳が足りないから」が挙げられた。補完食の適切な開始時期を「生後6か月」と答えた人は全体の49名(49%)、実際の開始は全体平均6.5か月、補完食群(24名)は平均1.9か月でありうち8名は1か月未満で開始、内容はお粥ともち米が多かった。初乳の重要性を認識しているのは全体の65名(65%)、「母乳の方が人工乳より赤ちゃんによい」と認識しているのは91名(91%)であり、「授乳回数は子どもに合わせる」と答えた人は94名(94%)だった。【考察】今回の調査結果から、「完全母乳」か「母乳と出生直後からの補完食開始」かの選択には郡病院医師のIMCIに基づいた指導と、文化的慣習を反映した母方祖母のアドバイスの両方が影響していることが示唆される。次回はIMCIが導入されていない施設での意識調査を行い、今までの調査結果と比較して完全母乳率がIMCI実施効果の指標として有効かどうか継続検討したい。
P1-14
インド農村部のサブセンターでのAuxiliary Nurse-Midwivesの助産活動
清水 範子1
1聖路加看護大学大学院 国際看護学   
【はじめに】インド政府は、農村部にサブセンターを設置し、Auxiliary Nursing-Midwife(以下ANM)を配置している。インド国家計画とMDGsの一つである妊産婦死亡数軽減のため、ANMの助産活動は重要な領域である。本研究は、サブセンターでのANMの助産活動の知識・態度・実践の特徴と課題を探索し、看護の国際協働の可能性を考察する。【方法】2006年6月〜8月に、インド北部ラジャスタン州トンク地区の4つのサブセンターで働く4人のANMを対象にCase Study(Yin,2003)を実施した。【結果】トンク地区は63%が自宅分娩で、そのうち分娩時立会いの42%がANM、40%がTBAであった(Health Family Welfare,2005)。4つのサブセンターのうち、1つのサブセンターは分娩室を所有し、1つのサブセンターは移動式であった。助産活動の知識に関するインタビューでは、妊産婦死亡原因、産後出血のアセスメントが不明であった。態度に関して活動形態は、駐在から通勤まであった。実践は、4人中3人はバイタルサインや腹部触診を行なっていなかった。ANMの特徴は、多忙でTBAと連携し助産活動を行なっていた。【考察】サブセンターの課題は、人員不足と労働環境の不備であり、現在ラジャスタン政府で取り組まれている。ANMの課題は、リスクアセスメント能力不足であり、ANMの緊急時判断能力を強化するため、リスクアセスメント能力の向上を目指した継続教育領域の国際協働が必要である。【謝辞】本調査は、Society of Midwives, Ministry of Health & Family Welfare, UNICEF of Rajasthan, Chief Medical Health Office of TONK など多くの方々から、大変貴重なご指導・ご協力を感謝する。
P1-15
ボリビア国サンタクルス県での一次医療施設におけるIntegrated Management of Childhood Illness (IMCI) の普及に関する考察
田中 由紀枝1、野崎 威功真1、杉浦 康夫1、ブルン リリアン2、ピラール マリア3、秋山 稔1
1国立国際医療センター 国際医療協力局 派遣協力課    2サンタクルス県保健局    3オビスポサンテステバン保健管区長   
【目的】 近年、IMCIに関する総括的な報告が散見され、その論旨は「戦略としては効果的であるが、実施面において普及が充分ではない」というものである。ボリビアにおいても、1997年ごろよりIMCIが導入され、現在、小児保健戦略の中心を担うものであるが、その普及は充分とはいえない。今回、我々はJICA「サンタクルス県地域保健ネットワーク強化プロジェクト」の活動を通じ、一次医療施設におけるIMCIの普及に携わったので報告する。【方法】 サンタクルス県の保健管区オビスポサンテステバン(人口16万人)の一次医療施設12施設を対象に、2005年4月から2006年6月に3回のIMCI戦略ワークショップが実施され、そこで収集されたデータをもとに、各施設の5歳未満の小児受診数に対するIMCIの用紙を用いた診療数をIMCI実施率と定義し、分析を行った。【成績】 第1回ワークショップで明らかとなった各施設の医療従事者(計90名)のIMCI研修受講率は65%であった。IMCIの実施率は1施設で84%と高いほかは、5施設で0%、他の施設でもほとんど実施されていなかった。第2回ワークショップでは、8施設で実施率が増加したが、第3回ワークショップでは2施設のみが90%以上に向上し、8施設は10%未満と、IMCI実施率は二極化する現象がみられた。IMCIの実施拡大に伴う明らかな患者数の増減は観察されなかった。【結論】 ボリビア国の小児保健国家プランにおいて、IMCI普及のプロセス指標として研修を受けた医療従事者の数を重視しているが、研修から実際にIMCIを実施するには隔たりがあり、これを乗り越えるための要素を明らかにする必要がある。今回普及がみられた2施設では診療長のIMCIに対する強い指導力が見られており、IMCI普及のための重要な要素のひとつと考えられた。
P1-16
危険な中絶を予防するヘルス・アウェアネス・アプローチ:思春期向け紙芝居の創作
Shigeko Horiuchi1、Henaku Rosemary1、Akiko Mori1
1St. Luke's College of Nursing,Tokyo,Japan.   
INTRODUCTION: Maternal mortality is a challenging issue confronting Ghana.Current health statistics reveal there are 540 maternal deaths per 100,000 live births of which a major cause, 30%, come from induced abortions.The maternal mortality ratio has not improved remarkably due to the high rate of unsafe abortion among fertile women between ages15-44 years.Many of these deaths could be prevented and hence,the need to promote awareness of this alarming situation. PURPOSE: This study analyzed unsafe abortions, with the aim of proposing measures for its prevention. Existing data,interviews,and discussion with health promotional agencies provided data for this study.PLANNED PROGRAM: Picture dramas were used to create awareness within communities and health centers.The dramas depict adolescents who engaged in a sexual activity leading to unwanted pregnancy with unpleasant consequence.Health promotional songs with details such as: love your body, negotiation skills, using and insisting on condoms, respect of partner's opinions, and honest communication were used as an awareness approach to achieve our objectives.
P1-17
親のモニタリングと女子高校生の性行動に関する研究
Shigemi Iriyama1、Susumu Wakai2
1Department of Nursing, School of Health Science, Nagasaki University    2Department of International Community Health, Faculty of Medicine, The University of Tokyo    
Objectives: This study aimed to examine whether parental monitoring is related to delaying initiation of sexual intercourse among Japanese female adolescents from a socio-ecological perspective. Methods: The 158 female’s tenth-graders completed anonymous self-reported questionnaires without a teacher being present in nine high schools. The response rate was 12.5%. To assess the measure of maternal and paternal monitoring through adolescents’ reports, the author adopted ‘the Parental Monitoring Scale’ developed by Small. The study used multivariate logistic regression analysis to show ecological variables, previously identified in the literatures, which were associated with the initiation of sexual intercourse.Results: Adolescent female students who perceived a high score of maternal monitoring were significantly less likely to engage in sexual intercourse than those who perceived a low score of maternal monitoring in multivariate logistic regression analysis. Perceived paternal monitoring and perceived maternal monitoring on daughter’s menstruation were not significantly associated with delay of sexual intercourse experience. Maternal discussion of sexual issues significantly increased sexual intercourse experience. Peer social norms of sexual intercourse were strongly associated with delay of sexual intercourse experience. Discussion and conclusion: Perceived maternal monitoring can protect adolescent female students from early sexual initiation even after controlling for the effect of peer influence. Further research should assess the impact of perceived maternal monitoring on sexual initiation using a longitudinal study design to confirm the results of this cross-sectional study. The interpretation of maternal discussion of sexual issues needs further examination using a longitudinal study design to assess cause-effect relationships.
P1-18
マダガスカルの地方都市レファラル病院における死産率、早期新生児死亡率と、周産期の死亡のリスク因子
永井 周子1、中山 健夫1、米本 直裕2、池田 憲昭3、RAFARALALAO Lucienne4、ANDRIAMIANDRISOA Aristide Benjamin4
1京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻 健康情報学分野    2京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻 医療統計学分野    3国立国際医療センター 国際医療協力局 派遣協力課    4STAFF NEONATAL, CHU Mahajanga, Madagascar   
【目的】
マダガスカル共和国マジュンガ大学病院(地方都市のレファラル病院)における死産率および早期新生児死亡率を算出する。また、周産期の死亡のリスク因子を明らかにする。
【方法】
2003年1月1日〜12月31日の産婦人科入院台帳、新生児台帳、新生児カルテを用いて後ろ向きに調査した。
【結果】
1年間の総分娩数は1063件で、記載不備、双胎を除いた出産数は、828人であった。死産率は出産千対105、早期新生児死亡率は出生千対28であった。
リスク因子に関しては、母親の妊婦健診受診では「4回以上受診」に対して、「受診2〜3回」relative risk[RR] = 2.78 ; 95%信頼区間[95%CI] 1.80 - 4.30、「受診1回」RR = 3.29 ; 95%CI 1.43 - 7.56、「受診なし」RR = 4.83 ; 95%CI 2.21 - 10.54であった。破傷風予防接種では、「2回以上接種」に対して、「接種1回」 RR = 1.90 ; 95%CI 1.05 - 3.46、「接種なし」RR = 2.36 ; 95%CI 1.34 - 4.16であった。
また、私立医療施設経由の入院、都市周辺部在住、子供を亡くした経験、高血圧、24時間以上の前期破水、在胎37週未満での出生、骨盤位でリスクが高かった。
【考察】
お産の10件に1件が死産であるという結果は、マダガスカルにおける母子保健の現状の厳しさを改めて認識させられる値であった。本調査の死産率、早期新生児死亡率の結果は、WHOのマダガスカルに対する推計(Neonatal and Perinatal Mortality, 2006)と比べ高い値であったが、他国の先行研究でもレファラル病院では同様の傾向がみられており、得られた数値としてはほぼ妥当な値かと思われた。
また、妊婦健診の受診回数、破傷風予防接種の接種回数がマダガスカル政府が推奨している回数(妊婦健診:4回以上、破傷風予防接種:2回以上)に対して少ない場合、死亡リスクが高いことが示された。今後は健診、接種の時期や内容(質)の検討が必要と思われる。
P1-19
マダガスカルの地方都市レファラル病院産婦人科における入院患者の実態調査
永井 周子1、中山 健夫1、米本 直裕2、池田 憲昭3、RAFARALALAO Lucienne4、ANDRIAMIANDRISOA Aristide Benjamin4
1京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻 健康情報学分野    2京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻 医療統計学分野    3国立国際医療センター 国際医療協力局 派遣協力課    4STAFF NEONATAL, CHU Mahajanga, Madagascar   
【目的】
マダガスカル共和国マジュンガ大学病院(地方都市のレファラル病院)の産婦人科病棟(31床)における入院患者の実態(入院理由、属性、入院経路、経過、転帰)を明らかにする。
【方法】
2003年1月1日〜12月31日の産婦人科入院台帳を用いて後ろ向きに調査した。
【結果】
産婦人科への全入院患者数は1683人で、うち出産目的が1063人、出産前のみの入院(妊娠悪阻、切迫早産、等)が198人、出産後のみの入院(自宅分娩後、胎盤遺残、等)が26人、子宮・卵巣疾患が216人、乳腺疾患が12人、不明が168人であった。出産目的の1063人は、856人が在胎22週以後もしくは児の出生体重が500g以上の出産で、うち帝王切開は217人(23.4%)であった。
患者の平均年齢は27.5歳(最小13、最大76)で、子宮・卵巣疾患、乳腺疾患の患者でやや年齢が高かった。妊娠歴の中央値は3回(最小0、最大15)、出産歴の中央値は1回(最小0、最大13)、流産歴の中央値は0回(最小0、最大8)であった。出産歴0回で子宮・卵巣疾患で入院した患者は54人おり、うち24人は子宮・卵巣摘出術を施行されていた。
入院経路は、直接入院が11.7%で、出産目的の入院では公立一次医療施設経由が多く、出産以外では私立医療施設経由が多かった。
入院から出産・手術開始までの経過時間の中央値は、正常経膣分娩が4時間、帝王切開が7時間、子宮・卵巣疾患が13.5時間であった。入院日数の中央値は、正常経膣分娩が4日、帝王切開が8日、子宮・卵巣疾患が7日であった。
死亡は全体で12人(全入院患者の7.0%)おり、出産時が7人(うち流産時2人)、子宮・卵巣疾患が2人、不明が3人であった。死亡患者の平均年齢は27.5歳(最小16、最大45)であった。
【考察】
対象施設の全体像を把握する基本的なデータが得られ、地域のレファラル病院としてある程度の受け入れ機能を果たしていることもわかった。台帳の記入やデータ管理の質の向上は今後の課題である。
P1-20
妊産婦がアクセス可能なSkilled Birth Attendantとは?〜マダガスカル国マジャンガ州ブエニ県の事例〜
小山内 泰代1、松井 三明1、加藤 紀子1、RAKOTOMAHEVA MAURICE2、RAHARINJAKA ELEONORE2、ARISON NIRINA RAVALOMANDA2
1国立国際医療センター 国際医療協力局    2Regional Direction of Health and Family Planning of Boeny, Ministry of Health and Family Planning, Mahajanga, Madagascar   
【目的】国連ミレニアム開発目標では「妊産婦の健康改善」の指標のひとつに "Skilled Birth Attendant (SBA) の立会いによる出産の割合" を掲げている。しかし“Skill”とは何か、また誰が、どこで、どのように立ち会うべきかなどは、様々な考え方が混在しており一律に定義できない。同時に、女性の妊娠出産に関わるサービス利用状況を把握することは、「SBAの立会い」を可能にする体制を構築する上で非常に重要である。私たちはマダガスカル北西部マジャンガ州ブエニ県の農村、漁村において、妊娠・出産・産褥期に必要とされるサービス内容と提供者のあり方を考察する目的で、実態調査を行った。
【方法】ブエニ県の2カ所の第1次医療施設の管轄範囲から3つの村を選択し、1歳未満の子供を持つ女性を対象に、質問紙を用いて半構造化面接調査を実施した。調査内容は、出産場所と出産介助者、それらの選択理由、妊娠出産ケアに対して望むことなどとした。
【結果】16名中12名が家庭出産であった。また女性は自宅から最も近くに住む有資格者を選択していた。女性が望む出産場所は、家族が近くにいることができ、できるだけ移動の必要がなく、水があり衛生的で、また産後を考え手伝いに負担のかからない、ということが重要であることが示された。
【考察】女性は、「自宅出産」や「自分の身近にいるSBA」を求めている傾向があった。SBAへのアクセスを向上させるためには、第一に女性の希望と、出産ケアの現実を踏まえ、助産師の労働像を探ることが必須である。その上で、長期的視野に立ち「私の村の助産師さん」を確保できるような保健体制を構築することが大切と考えた。
一方で、マダガスカルは広大な地域に人口が散在しており、充分な医療従事者を確保することは容易ではない。したがって、短期的には既存の自助・共助・公助の仕組みを活用すること、また地域で活動している伝統的治療者などとの連携を行う必要があると考えた。
P1-21
看護大学生に対する国際緊急医療援助活動の実践的教育について
兒玉 幸子1、新地 浩一1、古川 真三子1、矢野 潔子1、松崎 由美1、溝田 理恵1、北村 奈美1、前川 昭子1
1佐賀大学 医学部 看護学科 国際保健看護学分野   
【目的】看護大学生への国際緊急援助活動を含む災害医療の教育は、極めて重要であり、国際的な医療救援活動に参加する人材の育成は、必要不可欠である。著者らは、医学部看護科の学生に対して、国際緊急医療援助活動のシミュレーション演習による実践的教育を実施し、その教育的効果を検討した。【方法】平成17年度および平成18年度の4月から6月において、国際保健医学入門を選択した医学部看護科4年生の学生96名に対して、2004年12月26日に実際に発生したスマトラ沖地震及び津波災害をモデルに、国際緊急医療援助活動のシミュレーション実習を実施した。5、6名の学生を1グループとして、被災後6日目の2005年1月1日に、日本を出発する国際緊急医療チームとして派遣されるという想定の下で、情報集収、現地での医療活動の立案、個人携行品の準備、梱包までの実習を行った。実習は、国際保健医療入門(30時間)の講義時間のうち4時間を利用して実施した。教育や状況の付与は、実際に国際緊急援助活動の経験のある教官が担当し、実習前に、3時間の国際緊急援助活動に関する総論の講義を行った。実習後に、すべての学生に対して、自記式質問調査票による教育効果の判定を実施した。【結果】教育後の学生の評価では、98.9%の学生が、この実習が実践的・教育的で役立つと考えており、94.8%の学生が面白くて興味が持てたと解答した。一方情報収集を含む準備期間として、平均11.1日の時間的余裕が要望され、計画立案のためのDiscussionの時間も平均3.6時間が必要とされた。【結論】このような実際に発生した大災害をモデルとしたシミュレーション演習は、国際緊急医療援助活動の学生教育に有用であり、教育的、効果的であることが判明した。今後、このような実践的な災害医療の教育を、継続的に実施し、大規模災害における救援医療の現場で活躍する人材を育成していきたいと考える。
P1-22
国際緊急援助活動における看護師の役割 ―国際緊急援助活動参加経験者および未経験者に対する意識調査―
古川 真三子1、新地 浩一1、福山 由美2、高村 政志3、加来 浩器4、小野 健一郎5
1佐賀大学大学院 医学系研究科 国際保健看護学分野    2名古屋市立大学大学院 看護学研究科 感染予防学    3熊本赤十字病院 国際医療救援部    4東北大学大学院 医学系研究科 内科病態学講座 感染制御・検査診断学分野    5陸上自衛隊 第7師団   
【背景】効率的で効果的な国際緊急援助活動を行うためには、看護師の役割は非常に重要である。しかし、国際緊急援助活動における看護師の役割は、派遣されたそれぞれの医療チームの裁量に委ねられており、状況によっては、トリアージや切開などの準医師的な業務を実施したとの報告もある。これまで活動経験の報告や、災害時における看護師の役割について災害サイクルに合わせた看護活動の基本と原則は論じられているが、実際どこまでの業務範囲が看護師の役割として適切であるか検討された報告はほとんどない。
【目的】従来あいまいであった国際緊急援助活動における看護師の役割について、医師および看護師がどのような意識を持っているのかを明らかにし、どのような業務を看護師の役割として考えるべきかを検討した。
【方法】過去に国際緊急援助活動に参加経験のある医師30名および看護師21名、未経験の看護師136名を対象に自記式質問紙調査票を配布し、先行研究等で過去に看護師が実施したと報告された業務内容を抽出し、看護師の役割として適切であるかについて調査、分析した。
【結果】「診療介助」「病歴調査等の診療補助業務」「日本国内での看護行為」「物品管理」「医療廃棄物管理」「内部配置」「チーム員の健康管理」については看護師の役割として適切と考えられ、「トリアージ」「創洗浄」も教育や研修を受けていれば適切であるとされた。しかし、「デブリードメント」「縫合」「切開」「抜糸」については困難であると考えられた。また、準医師的業務群の項目に関しては、職歴年数が増すごとに、看護師も積極的に実施すべきであるという意見が強くなる傾向であった。そして、準医師的業務を看護師が実施することに関して、看護師よりも医師の方が積極的な意見が強く、職種間の積極性の認識に有意差が見られた。
P1-23
参加型地域救急法事業報告(第一報)−津波発災後のアチェ州で実施したKAP調査報告−
Chiyuki Yoshida1、Marzuki Samion2
1International Medical Relief Dept, Japanese Red Cross Wakayama Medical Center, Wakayama, Japan    2Indonesia dept, Japanese Red Cross   
Background:As a consequence of the earthquake and the tsunami that struck the Indonesian province of Aceh and North Sumatra on 26th of December 2004, Japanese Red Cross has supported the Community Based First Aid service (CBFA) in the affected area in order to be better prepared for disaster and enhance the capacities of the communities in dealing with health issues.Objectives:To clear the baseline data related to the community's knowledge, attitude, and practice (KAP) in basic health regarding access to sources and utilization of water, and responses for health problems.Methods:The survey conducted in all of 5 sub-districts using cluster sampling with probability-proportional-to-size (PPS). The sample size was 786 families in 99 selected villages.Results:For water quality, 30.4 % expressing its water sources is turbid; and who expressing the water is turbid, coloured and smelled was 21.9%. After Tsunami, family member suffered from Cough (67.7%), high fever (51.8%), and diarrhae (43.9%).Percentage that belong vaccination card is only 21.8%. Conclusion:Clean water source and hygiene required to be improved. Community health center have to increase the quality of services through running various health education, need the make-up of knowledge, attitude, and society action of through various form of community education.
P1-24
NGO「カレーズの会」の活動報告4―リサイクル物資の再利用の検討―
レシャード カレッド1、小野田 全宏1、前里 和夫1
1NGOカレーズの会   
【目的】最近世界情勢が不安定になり地域的な紛争も激しくなり、その犠牲者が日増しに増加している。また、イラクやアフガニスタンにおいても治安が悪化し、連合軍の空爆、テロや地雷等による死傷者や避難せざるを得ない人々も増加している。
当カレーズの会が医療と教育の面で支援しているアフガニスタン・カンダハール地区においても内戦状態が続き、その中で日常診療や地方の無医村で行われている教育(寺子屋方式)の活動にも支障が出ている。今回は、この状況下で行われている活動を報告し、また、日本から送付したリサイクル物資のアフガニスタンにおける再利用についても、合わせて報告する。
【方法と結果】当会が現地に設立しているカンダハール市内の診療所の4年間の患者総数は90475名となり、依然と成人では女性患者が多い状況にある。一方、日本において行政が廃棄処分とした救急車を譲り受け、中古の超音波装置とともに送付して、現場で再利用をすることとした。それに加えて、飲料水による消化器系感染症の予防対策の一環として飲料水の光触媒チップ1200個を現地へ搬送し、七つの村と四つの難民キャンプに配布した。今回もその効果が大いに期待できるので、結果に関して学会において報告する予定である。
【考察】日本国内における再利用可能な物品を第三国で再使用して、より安価に活用できることはリサイクルとして環境にやさしい試みである。しかし、常に搬送にかかる運搬費が問題となるため、今回はNGO草の根支援無償資金協力(開発協力事業)を獲得して実行したことは有意義であった。この方式では、このような物資の提供は発展途上国での利用者と今まで利用していた日本国民の心の繋がりにもなるため有意義な手段と思われ、今後も進める予定である。現地におけるその効果を検証し、報告する。
P1-25
国際保健医療支援における心理社会的ケアの重要性について
桑山 紀彦1
1NPO法人「地球のステージ」、二本松会上山病院、診療科長、精神科医   
心理社会的ケア(Psychosocial Care)は、国際医療支援現場において益々その重要性が認知されているが、日本ではまだまだなじみが少なく、じっさいに取り組んでいる現場が少ないのが実情ではないだろうか。 筆者らは90年代後半の旧ユーゴスラビア紛争において心理社会的ケアを現地で実践し、ノルウエー、オスロ大学附属心理社会難民センター(Psychosocial Centre for Refugees)への留学、実地研修、その後のイラン南東部大震災(2003年12月)以来、スリランカ津波被害(2004年12月)、パキスタン北部大震災(2005年10月)、ジャワ島中部大震災(2006年5月)と、連続する災害支援にこの心理社会的ケアを実施してきた。一方で2003年5月よりパレスチナ自治州ガザ地区、ラファ市に日本の団体としては初めて事務所を設置、日本人駐在を置いて、現場で心理社会的ケアを3年以上にわたって途切れることなく継続してきている。これは、現地の団体を支援するという方式ではなく、筆者らの団体がオリジナルでプログラムを作成、運営しているものである。 当日は描画、クレイモデル、演劇ワークショップ、廃材打楽器ワークショップ、スポーツ系ワークショップを通して、どのように子どもたちにアプローチし、どのようなワークショップを提供し、どのようにそれを評価してきているか、詳細に述べたい。 心理社会的ケアは「入力」→「出力」→「評価」→「再入力」→「再出力」という対象者とのやり取りを通して、「情緒的なつながり感の確保」→「自己表現の増強」→「自己コントロールの強化」→「理性的なつながり感の確保」というプロセスを経る中で、トラウマやストレスを処理し、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を予防するという理論に則って展開されている。当日は描画、演劇ワークショップ、廃材打楽器ワークショップの実践を紹介しながら、その可能性について議論したい。
P1-26
技術移転の場としての緊急医療支援
松尾 敏明1、宮坂 善之1、梅原 香代子1、中村 幸司1、萩原 幹郎1、當麻 俊彦1、清水 徹郎1、中村 燈喜1、橋爪 慶人1
1TMAT (Tokushukai Medical Assistance Team)   
【背景】
特定非営利活動法人TMAT(Tokushukai Medical Assistance Team)は平成7年1月の阪神淡路大震災で医療法人徳洲会グループの医師らが中心となり救援活動を始めたことをきっかけに発足したNPOです。TMATの災害医療救援活動は国内だけにとどまらず、国境を越えた医療支援を実現し世界医療の向上にむけて活動を行っております。現在までに、サハリン地震(1995.5)、台湾921大地震(1999.9)、新潟県中越地震(2004.10)、スマトラ島沖地震(2004.12)、福岡県西方沖地震(2005.3)、パキスタン北部地震(2005.10)、レイテ島地滑り災害(2006.2)などで緊急医療支援を行ってきました。
【目的】
インドネシア・ジャワ島中部地震における医療支援活動の活動報告と、創傷治療の開放性ウェットドレッシング療法(ラップ療法)を例に技術移転についての考察を行う。
【活動報告】
活動期間:平成18年5月26日から6月12日
活動場所:インドネシア ジョグジャカルタ バントゥル地区 ヌルヒダヤクリニック
Counterpart:インドネシア共和国タバナン病院スタッフ、ヌルヒダヤクリニックスタッフ
活動内容:(1)外傷患者の診療。(2)インドネシア医師、看護師など医療従事者に対して創傷治療の技術移転。(3)救急患者への対応。(4)現地総合医からのコンサルテーションへの対応。(5)被災地へ出向き腰痛などを訴えている方々への湿布の配布。
【考察】
今回のジャワ島中部地震では、地元クリニックにおいてインドネシア人スタッフと共同で主に外傷患者の診療に当たった。創傷治療においては消毒や抗生剤投与を極力行わず生理食塩水により創を洗浄し、その後創を湿潤環境に保つというラップ療法を行った。このラップ療法はインドネシア人医療スタッフに好評であった。ラップ療法のように比較的安価な資材で効果を生むことができ持続可能性が期待できる技術であれば、緊急医療支援の現場は効率的に技術習得を行える場であると思われた。
P1-27
パキスタン北部地震におけるICRCフィールドホスピタルでの被災者救援活動と課題
伊藤 明子1、石川 清1、白子 順子1
1名古屋第二赤十字病院 国際医療救援部   
【背景】2006年10月8日パキスタンの北東部で、MG7.6の地震が発生し、赤十字国際委員会(以下ICRCと略)は、発災直後よりムザファラバード(カシミール地域の中核都市)で被災者救援活動を行った。医療救援活動は各国赤十字社と協力のもと、基礎保健 (以下BHCと略) と病院の両面から支援を行った。BHC支援活動は、地震前に機能していたBHCを拠点として被災地の職員と共同で活動を行い、最終的にICRCは5ヶ所でBHC支援活動を展開した。地震により山岳地帯への陸路は遮断されたため、重症者はイスラマバードにヘリコプターで搬送されていたが、イスラマバードの医療施設は許容量を超えていた。【活動】ICRCのフィールドホスピタルはムザファラバードに約100張のテントで設営した最大150床の病院であった。1病棟は約20床で、イスラム教を尊重した患者収容病棟にし、ICUのみ10床とした。検査室、レントゲン室、全身麻酔での手術が可能な手術台及び麻酔器2台を備えた手術室、帝王切開等の異常分娩を対象とした分娩台1台を備えた分娩室を設置した。各国から派遣された医療スタッフは常時40人前後で英語を公用語とし、また150人の現地スタッフを雇用し病院運営を行った。他の医療救援団体との重複をさけ役割分担を明確にするため、入院患者基準を作成し、被災地における ICRCフィールドホスピタルの役割と治療の限界を明確にし、これをWHOとパキスタン軍主催の医療関係者会議の席上、説明し文書を配布した。地震発災後から撤収までの総入院患者数は816例、総手術件数812件、分娩件数80件(うち20件は帝王切開)、死亡件数14件、であった。【課題及び考察】 ICRCフィールドホスピタルは後方支援病院としての役割を担い、パキスタン軍、WHO、現地の基幹病院、BHC、そしてNGOとの連携により、被災地での救援活動に貢献できた。しかしながら、ベッド稼動に伴う退院可能患者や栄養障害児の治療と継続看護について課題もあった。
P1-28
災害医療支援活動における不十分な初期治療がもたらす問題
坂西 信平1、浦部 大策1、藤堂 景茂1、井手 義雄1、富岡 正雄2、矢野 和美2、杉本 勝彦2、鵜飼 卓2
1聖マリア病院     2災害人道医療支援会   
【はじめに】平成18年5月27日に発生したインドネシア・ジャワ島中部地震災害での医療支援活動にNGOチームの一員として参加した。我々が被災地で活動を開始した時点では既に発災後一週間経っており、殆どの被災者は何らかの医療施設で初期治療を受けていた。しかし創部に重症感染を起こした症例が多数存在し、初期治療のあり方に問題を感じた。【活動方法】我々は、Indonesia・Thamrin病院、Kalimasada病院、医療NGOのHuMA(Humanitarian Medical Assistance)、聖マリア病院で合同チームを作り、Kalimasada病院を拠点として診療活動を行った。またチーム内部で巡回診療チームを作って被災地を巡回し、問題のある患者を発掘し高度の処置が必要な患者はKalimasada病院に搬送した。重症患者は被災を免れた近郊の総合病院へ紹介した。【結果】我々が6日間で加療した患者総数は183名で、うち外傷患者92名であった。92名の内59名が創部感染を起こしていて切開排膿が必要であった。2名の患者は患趾が壊死に陥っていたため、切断が必要であった。近郊のSardjito総合病院、Bethesda病院にて手術待ちをしている患者の多くが、創部に感染を起こしていた。【考察】外傷処置において、一般に汚染のひどい開放創は縫合を急ぐべきではないとされているが、今回診察した外傷患者の多くは初期治療で縫合された創部に感染を起こしていた。初期治療は地元の医療施設や国内外の緊急医療支援チームから受けていた。災害医療支援活動において、不十分な初期治療は見かけ上の患者数を減少させるが、創部感染によって潜在的な医療ニーズを増加させ、社会への負荷が大きくなる原因になる。災害医療支援活動に関わる人々に対して災害時の治療指針の徹底を図るなど、関係者への啓蒙が必要と考えられた。
P1-29
民間病院における国際緊急災害援助〜台湾中南部水害,ジャワ島中部地震を通して〜
小出 泰道1、松本 安代2、小向 潤1、大西 律人1、塩川 智司1、船戸 正久1、二宮 宜文3
1淀川キリスト教病院 脳血管内科    2神戸大学医学部附属医学医療国際交流センター    3特定非営利活動法人 災害人道医療支援会   
淀川キリスト教病院は2004年7月の台湾中南部水害、2006年5月のジャワ島中部地震に対して緊急災害医療援助を行った。台湾中南部水害は2004年7月台風7号による豪雨で、台湾中南部の山岳地域を中心に生じた河川の氾濫や土砂災害で、死者不明者は30名ほどに達し、台湾では過去25年で最も被害の大きなものであった。ジャワ島中部地震は2006年5月27日ジャワ島ジョグジャカルタ近郊にて発生したマグニチュード6.3という大規模な地震であり、死者5716人、倒壊家屋126,326軒と大きな被害があった。2004年は当院の姉妹病院である台湾南投県の哺里キリスト教病院への医療協力という形での援助を行った。本年のジャワ島中部地震では特定非営利活動法人として国際緊急災害医療活動の経験を数多く持つHuMA(Humanitarian Medical Assistance, 災害人道医療支援会)の活動に参加するという形であった。いずれの活動についても地元のカウンターパートと共に医療活動を行い、多くの患者の診療に携わる事ができた。活動の概要とこれらの貴重な経験を通じて感じた民間病院における国際緊急災害援助のあり方について考察を行い報告する。
P1-30
新たな東ティモール緊急事態へのシェアの取り組み −住民和解や保健教育を重視した支援活動を目指して
本田 徹1、成田 清恵1、池田 敬1、伊藤 洋子1、小泉 香織1
1特定非営利活動法人 シェア=国際保健協力市民の会   
1. はじめに
シェアは1999年10月の準緊急支援以来、東ティモールで活動し、2002年4月から5年間の「保健教育促進プロジェクト」を展開している。人口10万余のエルメラ県で、保健スタッフ、小学校教師、村のリーダーを対象とした保健教育者養成研修を実施し、計253人を育成してきた。
今回の騒乱は、2006年2月、国防軍内部で東部出身司令官が西部出身兵士を待遇面で差別しているとして約600人の西部出身兵士が抗議したことに端を発する。東ティモールには民族的差異はないに等しいが、大統領と首相の政治的対立に、失業者や貧困層が巻き込まれ、さらにティモール海の石油・天然ガスをめぐる国際的な利権争いが絡んで、東西の対立構造がつくりあげられた。99年の緊急事態がインドネシアからの独立闘争に起因するのに対し、今回は国内問題が主な原因とされる。

2. 緊急活動の開始から2006年9月現在の状況・活動報告
シェアは、99年の緊急時に協力関係にあったディリのバイロピテ診療所を通じた緊急医療支援として、6月上旬に医薬品・医療器具購入のための資金援助及び巡回診療用の車両貸与を行った。7月中旬には医師1名を短期派遣し、国内避難民の救援活動に参加した。8月には看護師と調整員各1名を長期派遣し、他団体との調整を図りながら、ディリ市内・近郊の避難所及びバイロピテ診療所における保健教育実施を中心とした活動を行っている。保健教育実施状況を報告するとともに、騒乱の影響による重症感染症の事例を挙げる。また、二次資料として、避難民の数、避難所の数・分布、疾病統計を提示する。

3. 考察・結び
緊急救援のフェーズが収束するに従い、避難民及びコミュニティに帰還した住民に対する予防のための保健教育の重要性は高まると考えられる。シェアは99年と同様、今回も緊急の段階から関わり、住民自身が自らの健康を守っていけるよう、再度、和解・復興・開発のプロセスを住民と共に歩んでいく。
P1-31
スリランカ、トリンコマレ州における眼科支援事業の現状と課題
大津 聡子1
1日本赤十字社和歌山医療センター    2日本赤十字社    3スリランカ赤十字社   
【目的】スリランカ、トリンコマレ州は2004年12月26日にスマトラ沖地震により大津波に被災し、世界各国から救援復興支援事業が行われた。しかし2002年に内戦が停戦したものの現在スリランカ北東部を中心に、再び政情が不安定になっている。日本赤十字社(日赤)はスリランカ赤十字社(ス赤)ととともに2005年9月からトリンコマレ州において眼科支援事業を行っている。政情が不安定な地域に自然災害が起こった地域における保健医療支援活動としての眼科支援事業の実際とその対応について考察したので報告する。【検討項目】日赤はス赤と協力しスリランカ、トリンコマレ州において2005年9月より白内障治療および視力回復事業を行っている。この活動記録の分析と生活状態、医療、保健衛生に関して現状分析を行い、政情が不安定な上に自然災害が重なった地域における保健医療支援活動の要点についての検討を行った。【結果】(1)活動した村々には眼科治療を全く受けたことのない村人が多く存在し、当事業に対するニーズは現在も大きい。(2)眼科支援事業はス赤の現地スタッフとボランテアが計画段階から中心となって活動するよう日赤要員が調整を行い、紛争状態になった現在も継続されている。(3) 政情が不安定であるため、状況について情報収集や活動時間の考慮、人材確保や交通手段の確保が事業継続に重要な要素である。【結語】視力障害は、厳しい生活環境化におかれている人々にとって生活再建や教育機会を奪い、社会生活への制限が甚大である。結果的に失明に至った眼疾患の多くが治療可能であった疾患であるといわれている。政情が不安定な地域における保健医療支援活動として眼科支援事業は有意義であると考えられた。また事業開始時から現地の人々を中心に事業運営を行えるよう調整をすることは状況が変化した時に事業継続を可能にさせる重要な要因であると思われた。
P1-32
フィリピン・ピナツボ山噴火10年後のアエタ族被災民再定住地における公的保健サービスの状況分析
林 真砂美1、中村 正聡2、MICHELLE P. DAES3、LYNN DE SAN AGUSTIN3、GENOVEVA EXALA3
1日本福祉大学大学院 国際開発研究科 修士課程    2東北大学 国際保健学科    3Botolan Rural Health Unit II   
【はじめに】1991年7月にフィリピンルソン島ピナツボ山の噴火は、ピナツボ山麓に大きな被害をもたらし、そこに居住して移動焼き畑を行っていたアエタ族の生活を一変させた。噴火当初、多くの被災民は避難民センターでの生活を余儀なくされ、感染症の流行により多くのアエタ族の人々が死亡した。その後、被災民は、政府やNGOによって提供された再定住地で生活する事となった。再定住地では、各国の緊急援助やNGO 活動等の外部支援に支えられ、生活が営まれてきた。しかし、噴火後10年以上たった現在、外部からの支援は激減し、生存のための生活パターンの多様性が見られるようになってきた。保健サービスにおいても、当初はNGO に多くを依存していたが、現在では既存の公的保健サービスへの依存度が高まってきている。この背景のもとで、演者らは住民の生活パターンの多様化と保健所活動の関連について分析を行った。【方法】調査は、サンバレス州ボトラン町にあるアエタ族の再定住地2箇所を管轄する保健所を対象とし、保健所の活動記録とスタッフに対する聞き取りを行った。さらに住民の生活パターンや受診行動については、質問紙調査と聞き取り調査を用いて行った。【結果・考察】再定住地の住民の行動は、さまざまな理由でピナツボ山麓の被災前の元の村に戻ったり、元の村と再定住地の両方に家を持ち、人々の生活の場が多様化していることが明らかとなった。保健所は元の村で生活する人々に対して、単発的な巡回診療を行うのみで、予防接種、母子保健等の公衆衛生活動は行っていなかった。その結果、元の村での麻疹の流行や、マラリアの発生が起こっていた。しかし、被災前の元の村で生活する人々が病気に罹患した時に、保健所やその他の医療機関を利用している現状も明らかとなった。
P1-33
ソロモン諸島における民族紛争が子供の心に及ぼす長期的影響
内海 孝子1、川端 眞人2
1神戸大学 大学院 医学系研究科 国際環境医科学講座 国際保健学    2神戸大学医学部附属医学医療国際交流センター   
【はじめに】災害がもたらす心理的影響には災害体験そのものと、慣れ親しんできた環境の喪失による二次的なものがある。子供たちは、心的外傷後、高頻度でPTSDを起こし、その影響が長期化することも知られている。本研究では、ソロモン諸島の民族紛争後5年経過した時点で、子供たちのPTSDの遷延化がどの程度認められるかを調査し、その要因についても検討することを目的とした。【対象と方法】2006年2月及び7月、ガダルカナル島の2地域とマライタ島において高校生203名を対象に半構造的インタビューを行った。質問項目は基本属性、紛争の被害状況、紛争に関連する感情であり、調査時点でのPTSD症状に関してはIES-R(Impact of Event Scale Revised)を使用した。更に対象者を、「紛争当時いた場所」により4地域に分類し、IES-R成績とその要因について検討した。Aは紛争の被害が甚大であった地域、BはAに準ずる被害を受けた地域、Cはガダルカナルから多数の帰還者が流れた地域であり、紛争の影響があまり及ばなかった他州をコントロール地域Dとした。【結果】被害の大きかった2地域(A、B)では、Cよりも紛争に関連する感情が有意に認められた。特にAでは、男女間の被害の大きさに有意差はないが、これらの感情の出現は男子に有意に認められた。IES-R得点はA=33.4点、B=30.0点、C=34.5点であり有意差は認められなかった。D=16.5点(コントロール地域)であった。また、A、Bでは男子が有意に高かった。【考察】IES-R得点は3地域共高値を示しPTSDの遷延化を示唆している。紛争の被害と紛争に対する感情には関連が認められるが、PTSDの遷延化と紛争被害との明白な関連は認められなかった。男子におけるIES-R得点の高値は、これまでの女子に高値であるという報告とは異なっていた。
P1-34
ソロモン諸島で起きた民族紛争によって首都近郊住民のライフスタイルはどう変わり,健康状態はどうなったか
中澤 港1
1群馬大学 大学院 医学系研究科 社会環境医療学講座 生態情報学   
ソロモン諸島は南太平洋の島嶼国の1つで,首都ホニアラはガダルカナル島にある。本研究の調査対象地である東タシンボコは,ホニアラの50km東に位置し,1976年から10年間で2667人から4646人へ人口が急増した地域である。アブラヤシなどのプランテーションが労働力の流入をもたらしたこと,橋や道路の建設が進み首都へのアクセスが改善されたこと,プランテーションの診療所で簡単に診療を受けられるようになったことで感染症による死亡が減ったことが大きな原因である。1995年末から約2ヵ月のフィールドワークにより,栄養摂取過剰な住民の出現と,マラリア原虫陽性割合が20-30%と高いままであり,かつ無症候が多いことがわかっていた。ホニアラではマライタ島出身者が多く雇用されており,ガダルカナル島の住民は,そのことを長らく不快に感じていた。その不満が爆発したのが,2000年から2001年にかけての民族紛争であった。ガダルカナル島の武装グループがマライタ島出身者を追い払ったり,マライタ島の武装グループが報復したりといった戦闘が起こった。マイクロバスは失われ,橋や道路も破壊されたため,物資の流れも途絶えた。診療所も破壊されたので,医学的治療を受ける機会も減った。その後,多国籍軍の活動によって,ホニアラは政治的安定を取り戻し,壊された橋も既に多く再建された。しかし,紛争前の職には復していない人が多いし,交通も元通りにはなっていない。2006年2月上旬の調査で聞き取った範囲では,直接民族紛争で命を落とした人はいなかったが,心理的な後遺症は残っているようである。190人分のスポット尿を検査した結果,陽性例は白血球12,亜硝酸塩6,タンパク12,潜血6,ケトン体2,ビリルビン1,ブドウ糖3であり,陽性割合としては10年前と大差なかった。しかしアルカリ尿の人の割合が増えており,購入食品を入手しにくくなったと示唆される。
P1-35
転換期の国際保健:日本の対応
瀧澤 郁雄1
1大阪大学 大学院 人間科学研究科 博士後期課程   
国際保健は、今、二つの大きな転換を経験している。一つ目は、開発途上国における健康課題の転換であり、多産多死から多産少死を経て少産少死へと到る「人口転換」の進展、栄養不良・感染症・周産期に起因する疾病中心から生活習慣・人口高齢化に起因する疾病中心の構造へと到る「疾病構造転換」の進展、保健医療サービスへの物理的・経済的アクセスの確保から、医療費の国民経済への負担抑制や各種制度整備へと政策課題が変質する「保健システム転換」の進展がそれにあたる。
二つ目は、開発途上国の健康問題に対する国際協力の枠組みの変化であり、特定疾病対策(1960年代以前〜)、プライマリーヘルスケア(1970年代〜)、子供の健康(1980年代〜)、リプロダクティブヘルス(1990年代〜)、ミレニアム開発目標(2000年代〜)等に見られる「援助重点課題の変化」、プロジェクトアプローチから、プログラムアプローチ或いはセクターワイドアプローチの台頭に見られる「援助モダリティの変化」、従来の多国間・二国間援助機関とは異なる、世界エイズ・結核・マラリア対策基金やゲイツ財団等民間基金の登場に見られる「援助機関(ドナー)の変化」からなる。
翻って、日本政府の保健分野国際協力における取組みも、変革期を迎えている。具体的には、NGOや大学等を含めた民間部門とのパートナーシップの拡大に見られる、国際協力に関わる「国内リソースの変革」、そのような変革をさらに促進する効果が期待される、技術協力プロジェクトの法人契約化や草の根技術協力の拡大等の「実施形態の変革」、更には、技術協力・無償資金協力・有償資金協力の実施体制の一元化や、政府内における開発援助政策立案の戦略性強化を目指す「組織・機構の変革」が挙げられる。
現代の国際保健においては、これら変化に応じたダイナミックな対応が必要とされており、学会・実務者のより一層の協力が求められている。
P1-36
1990年代に施行された開発途上国54カ国の医療制度改革の総括
Yukiyo Nose1、Moazzam Ali2、Chushi Kuroiwa2
1Bureau of International Cooperation, International Center of Japan, Tokyo, Japan    2Department of Health Policy and Planning, Graduate School of Medicine, University of Tokyo,Tokyo, Japan   
Objectives:
To evaluate the implementation of health sector reform in less developed countries in the 1990s for effective future policy-making.
Methods:
One hundred eighteen policy papers on the implementation of health sector reform (86 policy articles and 32 Master Plans) in 54 less developed countries were reviewed in the six pillars of the reform: organizational reform, health finance, human resources, pharmaceutical sectors, management information system and the management and coordination.
Results:
In an organizational reform, decentralization contributed the quality improvement, while effective decentralization was hindered by the top-down management system. In the domain of health finance reform, exemption of unemployed and the poor in the health insurance remained an issue. Human resources reform was challenged by pluralism and employment of personal connection, while in the pharmaceutical sector, essential drug system was delayed in implementation due to financial problems. Reform on information management supported the process of reforms in other domains. Ultimately, the capacity of the Ministry of Health determined the success, while donors often took leaderships in the process.
Discussion:
Health sector reform was often implemented in political or economical transition, to adjust the system to the new environment. It is vital to systematically evaluate the health sector reform from the view of its five objectives, namely, efficiency, equity, sustainability, effective and quality. For effective future planning, a database on health sector reform should be established.
Conclusions:
There is a need to systematically evaluate the implementation of health sector reform, to be compiled for future policy-making and an effective planning.
P1-37
GISを用いた保健投資計画の策定―ザンビア保健施設センサスの経験より―
鈴木 葉子1、穂積 大陸2、中村 安秀3
1特定非営利活動法人 HANDS    2聖マリア病院 国際協力部    3大阪大学 人間科学研究科   
[背景]途上国の乏しい資源を有効的に活用するため、施設の修復や建設などの投資計画策定と投資にかかるコスト概算は政府関係者のみならずドナーから望まれている。これに対し、国際協力機構は保健施設センサスの一環として、保健投資計画策定のための、根拠に基づいた優先順位を決定する技術支援を実施している。本報告ではザンビアで実施しているデータに基づいた保健施設の現状分析とその結果を用いた投資計画策定支援の実施上の問題点について述べる。
[手法] 2005年2月から7月にかけて、ザンビア全国の公営、及び宗教系列の保健施設(1,397施設)を調査した。県保健局担当者が直接訪問し、保健施設の分布や建物の状態、基礎医療機材、医療サービスなどについてGeographic Positioning System (GPS)や質問票を使用してデータ収集を行った。
[結果] 各施設で提供されるサービス、サービス利用状況、主な疾病の患者数、設備の有無、建物の状態などのデータを、保健施設の分布地図と人口分布を重ね合わせて比較した。施設から半径5kmの診療圏内に居住している人口はザンビア全体の約50%、半径8km以内でも69%であった。都市部と地方部での差は大きく、地方の州では70%以上の住民が保健施設から半径5kmの診療圏外に住んでいることが明らかになった。
[考察]人口分布や各種保健データを保健施設分布地図に重ね合わせ、視覚的に現状を分析する手法は分かりやすく、県保健局関係者に好評であった。しかし、現状分析の結果を優先順位に反映させ投資計画に結び付けるには、政治的背景などの根強い要因が影響を及ぼすことがあり、今後の課題である。また、保健省や県保健局のそれぞれの優先課題に対応する介入の投資額の予測をつけ、予算に反映させる必要がある。そのためのデータ収集、及び能力強化について今後実施していく予定である。
P1-38
国際保健協力における保健システムのマネジメント強化に関するシステム理論的検討
神谷 保彦1
1長崎大学 熱帯医学研究所   
近年、国際保健は、インフラ整備や技術移転のインプット、プロセス、技術重視から、New Public Managementに平行して、選択と集中やヘルスパッケージなどの公共選択論やミレニアム開発目標といった成果中心マネジメントの重視に移行しつつ、実際には、新旧の複数のパラダイムが共存している。その中で、保健システムのマネジメント強化の問題点をフィリピン、ケニアなどでの経験を元に、システム理論的に検討した。途上国の保健システムは、国民国家強化との相乗形成やシステム自身の自己組織化が弱かったため、近代的な規律化、標準化さえも不十分である。にもかかわらず、現代ビジネスモデルによるマネジメント手法が、短期間に圧縮された形で導入される傾向がある。そのため、マネジメント過剰と欠如が共存し、マネジメントの両義性も、先進国以上に現れている。ターゲット、パフォーマンス指標の過剰さ、会議やレポートに関わる時間など、transaction costの増大、さらに援助システム側のパフォーマンス、プレゼン重視を増幅する形で、途上国の保健システムでは、マネジメント強化を通して、実質的な改善よりも、パフォーマンス達成を呈示するゲーム化、その中での政治化に偏る可能性が強い。保健システムにマネジメント強化は不可欠であるが、その有効性を楽観視し、適用方法を熟慮しないと、現場の潜在力を軽視し、継続的な改善に結びつかない。現場経験の豊富なスタッフによる、共同作業や対話を通したケアサービス自体の向上が重要であり、指標もcoverageよりunmet needsなど公平性を重視した設定が必要である。現在、自主的質改善、リーダーシップ、信頼といった、自己実現、人間関係、感情労働を重視したポストフォーディズム的経営管理も先進国から途上国に移入されつつあり、その功罪も見守る必要がある。
P1-39
カンボジアの地域保健行政における管理運営能力の強化
岡本 美代子1、明石 秀親1、宇井 志緒利1、木下 真里1、川口 レオ1、吉崎 基弥1、青山 温子1
1名古屋大学大学院 医学系研究科 国際保健医療学   
開発途上国の多くでは、保健行政の地方分権化が進められているが、地方の行政能力不足が問題となっている。カンボジアでは、郡レベルの保健行政単位としてOperational Health District(以下、OD)が設置されたが、ODの管理運営能力は必ずしも十分ではない。このような中、カンボジア保健省はサービス向上を目的に、ODの管理運営をNGOに委託する事業(以下、事業)を、一部ODで実施してきた。本研究の目的は、ODの管理運営状況について質的調査を行い、効果的な管理運営能力を強化するための要因を分析することである。タケオ州において、事業下にあるOD 2箇所と事業下にないOD 3箇所の管理職員13名に、各ODでの管理運営状況について半構造的面接調査を行った。また、保健省・州保健局の職員、地域住民、事業管理運営に携わるNGO職員に対して面接調査を行った。尚、USAIDで使用されているInstitutional Development Framework(IDF)に一部修正を加えたものを用いて、結果を分析した。IDFでの分析から、事業下にあるODの方が、事業下にないODより、全般的な管理運営能力が向上していた。OD管理職員への面接調査では、管理運営に関する知識の習得、経験の蓄積の重要性が挙げられた。しかし、権限委譲がされていない人事管理等では、上位レベルからの指示待ちにならざるを得ないとの意見も多かった。事業下にあるODでは、NGO職員と協働する中で日常的なsupportive supervisionがなされ、知識の習得や経験の蓄積等に役立ったと考えられる。しかしsupportive supervisionがあっても、上位レベルに権限が限定されている場合は、ODの管理運営能力は強化され難く、権限委譲は不可欠と考えられた。一方、事業下にないOD でも財政面の管理運営能力が向上していた。これは、診療費に関する権限がODに委譲されたことで、自律的な管理運営が可能となったためと考えられる。
P1-40
ラオス国ビエンチャンにおける病院職員の針刺し事故の研究
松原 智恵子1、ALI Moazzam1、PHENGSAVANH Alongkone2、VONGVICHIT Eksavang3
1東京大学大学院 医学系研究科 国際保健学専攻 保健計画学教室    2The National University of Laos, Vientiane, Lao PDR    3Friendship Hospital, Vientiane, Lao PDR   
【目的】HIV/AIDSやB型肝炎などの血液を媒介とする感染症に対する取り組みが世界中で緊喫の課題となっており、職業安全上の観点からも“針刺し事故”への取り組みが、医療従事者にとって重要となっている。ラオス国の首都ビエンチャン市の友好病院においては、平成8年からフロントライン計画(JICA/JOCV)により、職員のB型肝炎に対する血液検査およびワクチン接種が行われ、医療廃棄物分別のためのゴミ収集コンテナの設置や、消毒液の供与などが行われた。日本の活動終了後は韓国(KOICA)によって血液検査およびワクチン接種が続けられている。 1997年12月〜1998年1月にJOCV隊員による病院職員の針刺し事故の聞き取り調査が行われたが、その後の調査はない。本研究の目的は友好病院における針刺し事故の現状調査、および、先行研究との比較を行うことである。【方法】2006年6月、ラオス国友好病院にて、ラオス人調査員によりラオス語の質問紙を用い、医療職および非医療職の針刺し事故の聞き取り調査を行った。【結果】今回の調査では、1回以上の針刺し事故経験者は42.4%、28歳以下の職員における針刺し事故経験者の割合(28.6%)、勤続年数が3年未満の職員における針刺し事故経験者の割合(23.3%)が低くなっていた。これに対し、先行研究では針刺し事故経験者が66.2%、勤続年数1年未満の職員の約72%、1〜3年未満の職員の約85%が針刺し事故を経験していた。 針刺し事故後の処理方法については、“事故後に何の処置もしない”という回答が前回調査では7%あったが、今回の調査では0であった。【考察】針刺し事故経験の低下と事故後の処置に対する変化は、針刺し事故の針刺し事故の重大性に対する認識が、病院全体に浸透してきていることを示すと考えられる。将来の世代へもわたる、国際協力による大きな成果といえるであろう。
P1-41
中国某医科大学の学生における血液媒介型感染症の職業安全性に対する知識、態度及び行動
Zhuo Zhang1、Li Li2、Chushi Kuroiwa1
1Department of Health Policy and Planning,Graduate School of Medicine,University of Tokyo,Tokyo,Japan    2National Immunization Program,Chinese Center for Disease Control and Prevention,Beijing,China   
【Objective】Students in medical university are thought to be at the risk of transmission for blood-borne pathogens (BBP) such as human immunodeficiency virus (HIV), Hepatitis B virus (HBV) and hepatitis C virus after injury with a contaminated needle. How ever, there have been few researches exploring these problems in China. Thus, this study aimed to investigate occupational exposure on BBP and factors of risk among students in a medical university in China.【Methodology】A cross-sectional study was conducted among 1,070 of over 4,000 stratified randomly selected undergraduate students at a medical university in China in 2005. 35 items anonymous questionnaire was sent and 970 (90.6%) students responded. 【Result】12.6 % (122) students had experience of at least one time sharp injury during practice training. Most incidences occurred at academic year 5 (24.7%) and academic year 4 (23.4%). Dentistry had the highest rate (20.6%) followed by clinical medicine (16%), nursing (12.2%) and other majors of its students reporting an injury. In general, the students had a good grasp of knowledge of occupational safety on BBP, A positive attitude toward improving safety and a low intention to live with people with HBV or HIV than to attending class were also reviewed.【Conclusion】Students in academic years 4, 5 and dentistry were at the highest BBP contamination perception risk and rate of sharp injury. Intervention for strengthen education on occupational exposure to BBP was needed at the medical university in China.
P1-42
タバコパンデミックの近年の趨勢について
坂野 晶司1、中田 ゆり2
1足立保健所 中央本町保健総合センター    2東京大学大学院 医学系研究科 国際地域保健学   
はじめに
パンデミック(汎流行)とは、感染症が全地球的に流行することを指す。では、なぜ「タバコ」が「パンデミック」なのであろうか。いくつかの視点でタバコが世界を被覆してゆく経緯とその対策について、論考する。

方法
文献等のレビュー

結果
1970年代より喫煙による健康上の害が次第に明らかとなり、先進国でのタバコ消費は減少した。この事態をタバコ産業は座視せず、開発途上国に新たな活路を求め、積極的に多国籍企業化をすすめた。
喫煙が感染症リスクを高めることは数々の研究で知られており、Miguez-Burbano MJによると喫煙はHIV感染症におけるPneumosistis Carinii 肺炎のリスクを倍化させ(p=0.01)、結核のリスクも倍加させ(p=0.04)、また抗HIV治療の効果を40%低下させると指摘している。HIV感染症に関しては、HAART(Highly Active Anti-Retroviral Therapy)導入により予後が改善しつつあるが、高コストであり、途上国でのアクセスの障害である。喫煙によりこの効果が40%も低下することは、タバコの負の経済効果の大きさを示している。
タバコによる森林破壊には二面性がある。前者は栽培耕地獲得のための森林伐採である。タバコは連作障害が出やすく、次々耕地を確保する必要がある。後者は葉タバコ乾燥用の燃料を得るための森林伐採である。Geist-HJ によると、毎年20万haの森林がタバコ栽培のため破壊されており、全森林破壊のうち、タバコの占める割合は4.6%と試算している。
タバコ対策に国際協調が不可欠である。そのため、WHOではタバコ規制枠組み条約(FCTC)を制定し、日本をはじめ多数の国が批准している。この「条約」は「決議」と違い、国内法に対する拘束力を有する。たとえばFCTCではタバコパッケージの警告表示を主要面の50%を占めるよう求めているが、わが国は未達である。FCTCは強い拘束力を持つ国際条約であるので、各国がその趣旨にそった立法措置行うよう監視する必要がある。
P1-43
わが国と世界各国の青少年の喫煙行動の比較
尾崎 米厚1、谷畑 健生6、大井田 隆5、簑輪 眞澄4、鈴木 健二3、和田 清7、神田 秀幸8、林 謙治1
1鳥取大学 医学部 環境予防医学分野    2国立保健医療科学院    3鈴木メンタルクリニック    4聖徳大学    5日本大学医学部    6厚生労働省    7国立精神・神経センター研究所    8福島県立医科大学   
【目的】Global Youth Tobacco Survey (GYTS)に対応した全国調査を実施し、わが国の青少年の喫煙行動の実態と世界各国の状況を比較する。【方法】全国の中学、高校を無作為に抽出し、2004年度に教室での無記名の喫煙行動を尋ねる調査を実施し、13-15歳の者のデータを解析した。全国で240校を抽出し、179校(74.6%)の回答があり、42,041通の調査票を回収し、42,041通の有効回答を得た。【成績】喫煙経験者率は男子19.8%、女子15.2%、男女計17.5%、現在喫煙者(月喫煙者)率は、男子5.7%、女子4.1%、男女計4.9%、毎日喫煙者率は男子1.6%、女子0.8%、男女計1.2%であった。喫煙経験者のうち10歳以前に喫煙を経験したものの割合は、男子23.6%、女子21.9%、男女計22.7%であった。現在喫煙者のうち1日平均6本以上吸う者の割合は、男子33.7%、女子26.0%、男女計29.8%であった。世界各国の中央値と比較して、喫煙率は低く、経験年齢が若い者の割合はほぼ同様で、喫煙本数の多い喫煙者の割合が高い傾向にあった。家で吸う現在喫煙者の割合は男子55.5%、女子61.7%、男女計58.6%で世界各国の中央値よりも高かった。店でタバコを買う現在喫煙者の割合は、コンビニ等からは男女計14.0%であり、世界各国の値より低いが、自動販売機で買う者の割合は男女計60.2%と高かった。この30日間で年齢を理由にタバコを売ってもらえなかった経験がない(いつでも売ってもらえた)現在喫煙者の割合は男子39.0%、女子43.2%、男女計41.1%であった。世界各国の値よりは低いが多くの者が簡単にタバコを手に入れていた。タバコをやめたいと思っている現在喫煙者の割合は男女計18.1%、実際止めようと取り組んだ経験のある者の割合は男女計20.0%と世界各国の値より低かった。【結論】日本の13-15歳の喫煙者率は世界の中でも比較的低いほうである。現在喫煙者になってしまった者は、諸外国の現在喫煙者に比べ喫煙行動が習慣化している傾向が伺える。
P1-44
女性のための国際ヘルスプロモーション:乳癌予防ピンクリボン活動の評価
帖佐 理子1、帖佐 徹2
1医療法人 大誠会 若松記念病院     2:国立国際医療センター 国際医療協力局   
【目的】女性が女性自身の健康を考える上で、ヘルスプロモーションの戦略としての有効性を検討する。【方法】現在、国際的な女性のためのヘルスプロモーションとして、乳癌予防ピンクリボン活動が、日本や欧米だけでなく中国など途上国でも実施されている。活動の中心となっているのが、乳癌を罹患したことのある<サバイバー>と呼ばれる女性たちであるのが特徴であるが、実際のキャンペーン活動評価を通じて、そのピア・エデュケーション効果を解析する。【成績】<サバイバー>が中心となって、メディアなどで一般女性に乳癌検診などを訴える活動は、一般参加を促進する効果があり、啓発効果が大きい。とくにウォーキング・ラリーなどキャンペーン活動は世界的規模で実施されており、2005年にはアメリカ、フィリピン、中国、日本などで<サバイバー>によるタスキ・リレーが行なわれた。これらは、条件の異なる国々の、一般女性だけでなく、政府レベルへの波及効果もあり、乳癌検診率向上などに有効であったと考察される。【結論】途上国女性が自身の健康を考えるための、ピアによる自助ヘルスプロモーション戦略は、途上国においても行動変容の重要な戦略と思われる。
P1-45
マーシャル諸島在住ミクロネシア人の糖尿病調査の検討
峯岸 道人1、藤盛 啓成2、土井 秀之1、宮田 剛1、関口 悟1、渡辺 道雄2、中島 範昭2、大友 浩志3、大内 憲明2、里見 進1
1東北大学大学院 医学系研究科 先進外科学分野    2東北大学大学院 医学系研究科 腫瘍外科学分野    3東北公済病院   
<目的>マーシャル諸島共和国(Republic of the Marshall Islands:RMI)は北緯4°に位置するミクロネシア人の国である。他の熱帯諸島の国々と同様に糖尿病患者の増加とその合併症対策は深刻な問題である。しかし,同国において糖尿病のマススクリーニングが行われたことはない。我々は2006年2〜3月に同国首都Majuroにおいて甲状腺癌検診を行った。受診者を対象にHbA1cを用いた糖尿病のスクリーニング検査を行い、糖尿病とBody Mass Index(BMI)の相関、糖尿病有病率を調査することを目的とした。<方法>甲状腺癌検診受診者1374人中850人(男性320人,女性530人)に対して全血を採血し,DCA2000(バイエルメディカル社)を用いてHbA1cを測定した。日本糖尿病学会の診断補助基準に従いHbA1c 6.5%以上を糖尿病(DM)群としてあつかった。検査は口頭と文書によるインフォームドコンセントのうえ行われた。年齢調整は2005年のRMIの年齢階級別人口を用いた。<結果>対象者の平均年齢は50.9(±12.2)歳、平均BMIは30.3(±5.5)であった。850人中394人(46.2%)がHbA1c 6.5%以上(DM群)であった。DM群の平均年齢は54.2歳 で、 非DM群の48.3歳(P<0.01)に比し有意に高齢であった. DM群の平均BMIは29.9 で、 非DM群の30.6(P>0.05)に差を認めなかった。年齢調整有病率は20歳以上で23.5%、30歳以上では38.0%であった。<考察>RMIにおける糖尿病有病率は、これまで報告されている他の熱帯諸島の国々に比べ高値であった。また糖尿病とBMIとの有意な関係は見られなかった。
P1-46
フィリピン・東ミンドロ州の日本住血吸虫症流行地における患者住民のメタボリック症候群に関する基礎調査
杉本 貴子1、西田 裕明1、小堀 郁博1、デグラシア ロウェーナ2、アパサン マリアレスリー2、テラド ライローズ2、イラガン ユーニス2、千種 雄一3、林 正高4、松田 肇3
1獨協医科大学 医学部 医学科    2フィリピン保健省    3獨協医科大学 熱帯病寄生虫学教室    4市中甲府病院   
フィリピン共和国の農村地域における住民のメタボリック症候群に関する調査は現在までなされていない。 今回演者らはその基礎的調査を行ったので報告する。 対象は東ミンドロ州のVictoria市とNaujan市の村落に在住する日本住血吸虫症患者である。 調査項目は1)腹囲、2)血圧、3)血糖値、4)トリグリセリド値、5)HDLコレステロール値である。 これらの1)〜5)のデータを全て測定できた成人患者数は男性109名・女性18名であった。腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上を呈した被検者は男性27名(24.8%):女性0名(0.0%)、収縮期血圧130mmHg以上を呈した男性55名(50.5%):女性4名(22.2%)、拡張期血圧85mmHg以上を呈した男性31名(28.4%):女性5名(27.8%)、血糖値110mg/dl以上を呈した男性46名(42.2%):女性5名(27.8%)であった。 その他にトリグリセリド値150mg/dl以上、HDLコレステロール値40mg/dl未満の者及び尿検査も施行した。メタボリック症候群は必須項目としては腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上があり、その他に上記2)〜5)のうちの2項目以上があてはまるものを同症候群としている。(日本内科学会雑誌 94(4), 188, 2005)今回、フィリピンの農村部で初めて基礎調査を行い、必須項目の腹囲が基準値を超える者が男性で24.8%検出された。 女性は被検者が18名と少数であったため基準値を超える者はいなかった。 メタボリック症候群は開発途上国では従来問題視される事はなかったが、想像を上まわる存在が示唆された。 今後、フィリピンの農村部においても同症候群が増加する可能性があると思われるので、寄生虫疾患の予防・治療のみでなく生活習慣病の予防に関しても留意すべきと思われる。
P1-47
Asthma and Risk Factors among School Children in Vientiane Capital, Lao PDR.
Phathammavong Outavong1、Moazzam Ali1、Phengsavanh Alongkon2、Hiroshi Odajima3、Chushi Kuoiwa1
1Department of Health Policy and Planning, Graduate School of Medicine, the University of Tokyo, Tokyo, Japan    2Faculty of Medical Science, National University of Lao    3Fukuoka National Hospital, Fukuoka, Japan   
Introduction: The epidemiological studies have shown high prevalence of asthma and other allergic diseases among children and adults in the developed and developing world in the past three decade. The study therefore investigates the prevalence of asthma and other allergic diseases in the school children residing in Vientiane city; to investigate risk factors of asthma and to explore correlation between asthma and intestinal parasitic infestation. Method: The school based cross sectional study was conducted from December 2005 to February 2006 in 4 elementary and 4 high schools located in Vientiane Capital. The interview using ISAAC questionnaire, lung function test, stool examination and anthropometry measurement were performed for children aged 6-7 years and 13-14. Result: Of 536 children, 186 and 350 children were participated from elementary and high school, respectively. The prevalence of asthma like symptom, rhinoconjunctivitis and eczema in this questionnaire indicated 7.6%, 9.3% and 11.8%, respectively. Of 299 (55.8%) children who tested stool, the parasite positive rate was 38.1%. However, there was no significant association between the asthma like symptom and intestinal parasitic infestation. The study revealed that the infant pneumonia increased the risk of current asthma like symptom (p=0.02). The measles infection and family history of asthma were associated with high self report of asthma (p=0.02). Pneumonia and measles infection were also associated with children with rhinitis and eczema. Conclusion: The prevalence of asthma was smaller than previous study, and pneumonia and measles infection would be risk.
P1-48
バングラデシュの農村の5歳児の気管支喘息の発症要因―肺炎罹患の影響
竹内 治子1、Zaman Khalequz 2、Yunus Mohammad2、Chowdhury Hafizul R 2、Arifeen Shams EL2、Baqui Abdullah 3、若井 晋1、岩田 力4
1東京大学大学院 医学系研究科 国際地域保健学    2 Public Health Sciences Division, ICDDR,B: Centre for Health and Population Research, Dhaka, Bangladesh    3Department of International Health, Johns Hopkins University, Bloomberg School of Public Health, Baltimore, USA    4東京家政大学家政学部児童学科   
【はじめに】バングラデシュの気管支喘息は都市部より村落部に多く、諸外国の傾向と一致しない。気管支喘息はアレルギー素因が発症に関与するが、上下気道感染症の影響も見逃せない。肺炎の罹患が過去1年間の喘鳴の有無に影響するかを、農村部の5歳児について検証した。【方法】対象はバングラデシュ・マトラブの51か村に住む全5歳児1705人のうち、調査に同意した1580人。International Study of Asthma and Allergies in Childhood(ISAAC)の質問票で、前1年間に喘鳴のあった子となかった子を選別した。肺炎既往の情報は、前調査と登録の記録より得た。全症例と無作為抽出した対照者に血清、便、寝具の埃の提供を依頼し、症例219人対照183人の、血清総IgE値、特異IgE値、腸管寄生虫感染の有無、寝具のダニ抗原量の測定を行った。【結果】1850人の対象集団で、0歳時に肺炎にかかると5歳時に喘鳴のある危険性は、肺炎1回ごとに1.50倍[95%CI:1.05−2.12]になった。1〜3歳時の肺炎では、危険性はそれぞれ1.60倍[95%CI:1.08−2.39]、2.93倍[95%CI:1.82−4.72]、3.58倍[95%CI:1.53−8.36]となった。オッズ比(OR)は、性別、アレルギーの家族歴、燃料としての葉の使用の有無で調整した。402人の部分母集団でも、5歳時に喘鳴のある危険性は0〜2歳時の肺炎1回ごとにそれぞれ1.67倍[95%CI:1.17−2.39]、1.82倍[95%CI:1.22−2.70]、3.09倍[95%CI:1.50−6.34]となった。ORの調整には上記に、総IgE値・特異IgE値と腸管寄生虫感染症の有無を加えた。【解釈】気管支喘息は多因子疾患ではあるが、バングラデシュの農村部では肺炎の既往と関連があった。気管支喘息の特徴である気道過敏性は肺炎既往者に多いので、貧困ゆえの不全治療が気管支喘息を増やす危険性に注意したい。
P1-49
中部ミャンマーにおける障害を持った在宅ハンセン病回復者の社会状況調査
Yutaka Ishida1、Myint Kyaw2
1Bureau of International Cooperation, International Medical Center of Japan    2 National Leprosy Control Project, Department of Health, Ministry of Health, Myanmar   
Background:After Myanmar eliminated leprosy in 2003, the prevention of disability (POD), as well as that of worsening disabilities (POWD) and rehabilitation became among three national strategies of leprosy control. Since the social life of PAL with deformities was not well-known, a small scale of a survey was done in July 2006 on what sort of situation they were put in their community. Methods:We interviewed 94 PAL about several social issues, who lived in communities in 9 townships of three divisions, Mandalay, Sagaing and Magway.Results:86 PAL answered that they were accepted by their community and 51 of them (54%) attended special occasions held in a village, such as funeral or marriage.8 PAL, who answered that they were not accepted (8/94), did not attend them.73 PAL answered they did not have any social problems, 49 of whom attended them (67%). 21 PAL answered they had social problems, 13 of whom attended them (61.9%). Discussions:All the PAL seem to have settled down in their communities for a long time and live undistinguished and unrecognized. Many of the PAL with rather severe deformities (35/86) decided that they would not attend special occasions, even though they were invited by the community. Those who developed leprosy at their early age, that is teens and are disfigured sometimes stay single and are dependent on their brothers and sisters at their older age.Disabled ex-patients’ isolation from their social community life could be caused by deep-rooted stigma.
P1-50
何故、野宿者は50代で死亡するのか
新宿連絡会健康相談記録 年齢階層別分析
大脇 甲哉1、平林 靖子2、中久木 康一3、金沢 さだ子3、稲葉 剛3
1港町診療所    2立川相互病院    3新宿連絡会・医療班   
【目的】
黒田らは大阪府監察医事務所の2000年死体検案・解剖資料から、大阪市内の野宿者213例の平均死亡年齢が56.2歳であったとしている。50歳代の野宿者の健康がいかに蝕まれているかを知ることがこの研究の目的である。
【対象と方法】
1996年3月から2006年3月まで、第2日曜日に開催した新宿連絡会定期健康相談会を訪れた野宿者2886名、そのうち症状が重篤で医療機関を受診した875名。受診者を年齢別に50歳未満・50歳代・60歳以上の3階層に分類、相談記録をもとに既往歴と受診時の疾患(疑いを含む)を各階層別に比較検討した。
【結果】
健康相談者の平均年齢は53.2歳、年齢レンジは20歳から84歳であった。各階層の健康相談者数 / 医療機関受診者数は50歳未満:838/221、50歳代:1185/405、60歳以上:806/249であった。医療機関受診時の疾患で3つの年齢層の内受診数に対する割合が最も多かったものは、50歳未満では湿疹、蜂か織炎、胃腸炎、骨折など。50歳代では結核、胃潰瘍、糖尿病、白内障、アルコール依存、肝硬変、虚血性心疾患など。60歳以上では高血圧、腰痛、脳血管障害などであった。また既往歴の各年齢層の回答者数に対する割合は、50歳未満では骨折、椎間板ヘルニア、痛風など、50歳代では胃潰瘍、糖尿病、アルコール依存、肝硬変、虚血性心疾患など、60歳以上では高血圧、結核、脳血管障害などであった。
【考察】
50歳代では胃潰瘍・糖尿病・肝硬変・虚血性心疾患などの重篤な生活習慣病が受診疾患・既往歴共に多く、これらの疾患は適切な治療を継続しなければ死に至ることもある。また受診疾患では結核が多く、現実には結核死も起こっている。他の年代に比較して50歳代では、死に至る可能性もある重篤な生活習慣病に健康を蝕まれていることが推察される。
P1-51
国際協力において行なわれる栄養活動の検討 − 問題と対策
長谷部 幸子1、石川 みどり2、和田 耕太郎3
1天使大学 看護栄養学部 栄養学科    2名寄市立大学 保健福祉部 栄養学科    3ヘルス・マネジメント・コンサルタント   
【背景・目的】多くの国で、栄養・食生活の改善をめざす活動が行われてきているが、個々での活動が多く、その経験をわかちあう場は多くない。そこで、第20回国際保健医療学会の自由集会『国際栄養ネットワーク』において「国際協力において栄養活動をするうえで問題となることは何か」、「どうしたら解決に向けることができるのか」を明らかにするためにグループディスカッションを試みた。その結果と今後の課題について報告する。
【方法】2005年11月6日の本学会自由集会において、上記の2点について、2時間半のグループディスカッションを実施した。
参加者:集会参加者 11名(発展途上国で栄養・食生活の改善をめざす活動経験者:経験年数5年以下6名、6年以上5名、活動経験のある組織:NGO、JICA(専門家、JOCV)、国連機関)、ファシリテーター 2名、記録者 1名。
方法:(1)カードにそれぞれの活動を通して困難だったこと、問題点を一つずつ書く、(2)それらを分類していく、(3)それぞれの困難さ・問題点の解決・改善策につながる経験をわかちあう、(4)今後の方針を検討する。
【結果】国際協力において栄養活動をするうえで問題となることとしては、44の内容が出され、9グループ(専門分野についての自分の力不足など活動者自身にかかわるもの、情報ソースの不足、相談相手がいないなど情報不足地域の問題他職種との連携他分野との連携所属機関の問題施設の問題異文化の問題自然環境の問題)に分類された。
解決の方法としては、対策が重なるものをまとめ、5つの問題に対し、11の具体策が挙げられた。今後の課題として、まず、実施可能なこととして、情報不足という問題に対しての解決策として挙げられた、報告書等など文献から事例・情報を集め、参考にしたい人がアクセスできる環境をつくるなどについて取り組んでいくことが検討された。
P1-52
NIHN fellowship program on “Shokuiku” in Japan: a case report
Miki Miyoshi1、Nurhan Unusan2、Naomi Aiba3、Nobuo Yoshiike1
1Project for International Research and Development, National Institute of Health and Nutrition, Tokyo, Japan    2Faculty of Education, Selcuk University, Konya, Turkey    3Project for Shokuiku, National Institute of Health and Nutrition, Tokyo, Japan   
Introduction: The National Institute of Health and Nutrition (NIHN) launched the fellowship program for overseas researchers in 2003. One of the fellows in 2006 works on a research to prepare a nutrition education model for Turkey, by learning the methodology of “Shokuiku” in Japan. “Shokuiku” is basically a term referring to the promotion of not just healthy eating, but all aspects of a sensible diet, from selecting the food through enjoying taste. This time, we investigated the possibility of applying “Shokuiku” concepts in other countries, as well as to examine the outcomes and future action needed for fellowship programs on “Shokuiku”.
Methods: Information on Shokuiku was obtained from the literature/documents available through websites. Field visits and interviews with the concerned persons were also performed.
Results and Discussion: In June 2005, “The Basic Law on Shokuiku” was established which is a notable policy in Japan, as such national legislation on food education can not be seen in other countries. One of the most important features of “Shokuiku” can be regarded as sustainability in many settings and targets.
Since “Shokuiku” has just started, the available documents are limited, especially in English. Information on its outcome is not yet available and thus it is difficult to assess the validity in other countries at this stage. With a growing concern on “Shokuiku” in overseas too, more efforts should be made to improve the environment for overseas nutrition experts to understand “Shokuiku”, which is one of the prioritized issues in the NIHN fellowship program.
P1-53
日本とモンゴル国における国民栄養調査の比較とその課題
野末 みほ1、Dorjdagva Ganzorig2、三好 美紀3、由田 克士1
1独立行政法人 国立健康・栄養研究所 栄養疫学プログラム 国民健康・栄養調査プロジェクト    2Maternal and Child Nutrition Section, Nutrition Research Center of the Public Health Institute, Ministry of Health, Mongolia    3独立行政法人 国立健康・栄養研究所 国際栄養プロジェクト   
【目的】 日本の国民栄養調査(健康増進法の施行に伴い、2003年より国民健康・栄養調査)の歴史は、終戦直後に諸外国からの緊急食糧援助を受けるための基礎資料を得ることを目的として、1945年に実施されたことに遡る。現在、調査は栄養のみならず、生活習慣全般に拡充されている。これらの結果は、健康・栄養分野での基礎資料として広く利用されており、「健康日本21」では、目標の設定や達成のための評価において、重要な役割を持っている。一方、モンゴルでは、子どもの栄養不良に関する基礎資料を得ることを目的とし、1992年にUNICEFの援助を得て、初の国民栄養調査が実施されて以来、これまでに5回の調査が行われている。本研究では、両国の国民栄養調査のシステムを比較し、日本の栄養調査の経験をモンゴルにどのように生かすことができるのかを検討する。また、最新の両国の栄養調査の結果も報告する。
【方法】 日本とモンゴルの国民栄養調査に関する文献やデータについて検討した。両国の最新の国民栄養調査(日本:2003、2004年、モンゴル:2005年)を用いて比較検討を行った。
【結果と考察】 日本において、国民栄養調査は法律に基づいて行われているため(1952年〜栄養改善法、2003年〜健康増進法)、継続的にデータを得ることができているが、モンゴルでは法的な整備はなされていない。また、モンゴルにおける栄養調査は、対象者・年齢層などが調査により異なるため、経年変化を検討することが難しい。日本の国民栄養調査の特徴として、栄養に関わる部分は栄養士が担当しているという点がある。モンゴルにおいて、栄養調査のシステム作りでの日本の貢献はもちろん期待できるが、栄養調査の質的向上やこれらの結果に基づいた栄養改善・ヘルスプロモーションの展開のために、栄養士の養成及び活動、という分野においても日本の経験を生かすことができると考えられる。
P1-54
モンゴルにおける子どもの栄養状態の変遷について
Ganzorig Dorjdagva1、Miki Miyoshi2、Miho Nozue3、Katsushi Yoshita3、Nobuo Yoshiike2
1Nutrition Research Center, Public Health Institute, Ministry of Health, Mongolia    2Project for International Research and Development, National Institute of Health and Nutrition, Tokyo, Japan    3Project for the National Health and Nutrition Survey, National Institute of Health and Nutrition, Tokyo, Japan   
Background: In the past, the prevalence of malnutrition was high in Mongolia. In order to improve the nutrition situation in the country, the Nutrition Research Center was established in 1992, under the Ministry of Health. Since then, many programs have been implemented so as to improve the nutritional status of children. So far, the nationwide nutritional surveys were undertaken five times, which shows the gradual decrease in malnutrition prevalence during the past decade. In this study, therefore, we attempt to compare the data between two national surveys undertaken in 2001 and 2004, in order to explore the changes of nutritional status among under five children.
Methods: Secondary analyses were undertaken using the dataset of “Survey Assessing the Nutritional Consequences of the Dzud in Mongolia, 2001” and “3rd National Nutrition Survey, 2004”.
Results and Discussion: Compared to the previous survey, prevalence of underweight (WAZ< -2) and stunting (HAZ< -2) decreased 1.76 times and 1.35 times respectively in 2004. No significant gender difference was observed in 2001, whereas the 2004 survey revealed a clear difference in the prevalence of malnutrition among boys and girls. For example, stunting prevalence among boys aged 6-59 months was 1.35 times higher than girls.
Since 2000, all under-two children were embraced by monthly growth monitoring in Mongolia, which possibly contributed to a rapid decrease in the malnutrition rate. However, the current Mongolian growth chart uses the NCHS/WHO girls’ growth reference, on which it is necessary to take actions to avoid the underestimation of nutritional status among boys.
P1-55
ウズベキスタンにおける鉄欠乏性貧血(IDA)に対する取り組み
野村 真利香1、IRODA AFTAMOVA2、小野 聖佳3、高橋 謙造1、西宮 宜昭4、丸井 英二1
1順天堂大学 医学部 公衆衛生学教室    2上智大学総合人間科学部教育学科    3岩手県立水沢高等看護学院    4JICAウズベキスタン事務所   
看護分野および医療機関を対象としたプロジェクトをはじめ、保健医療は、JICAウズベキスタン事務所での重点分野3本柱のひとつ「社会セクターの再構築」として、積極的に取り組まれている。一方、栄養・食生活問題については、PEMパターンの栄養不良は見られないが、内陸性の地理的特徴から、鉄欠乏性貧血(IDA;Iron Deficiency Anemia. 以下IDAとする)等の微量栄養素欠乏が問題となっている。JICAウズベキスタン事務所では、このIDA対策に対し、UNICEFとのマルチバイ協力により支援を行っている。
報告者は、2005年10月〜12月、JICAウズベキスタン事務所にインターンとして所属し、ウズベキスタンにおけるIDAに関する栄養・保健課題の総括を目的に、事務所でのブリーフィング及び専門家のヒアリング、UNICEF,保健省,JICA資料の文献精査、農村部の視察を行った。また国内でも貧困地域と言われ、UNICEFによるIDA対策プロジェクトの対象地域でもあるアラル海周辺部の視察を行った。
ウズベキスタンのIDA問題は、「栄養不良」と「リプロダクティブヘルス/ライツ」の両要因が複雑に関係すると考えられた。これにはムスリム文化に基づくウズベキタン特有の家族のあり方が根底にあり、さらに政治,経済,文化,伝統習慣,宗教,社会システム等の社会環境要因が複雑に絡み合っていると思われる。UNICEFとJICAのマルチバイ協力により実行された補給プログラムは成功し、次段階の食品添加プログラムへと移行している。今後は、生活改善,ジェンダー,リプロダクティブヘルス/ライツの視点を踏まえ、学校保健などを通したコミュニティベースの戦略が期待される。
P1-56
「東北ブラジル健康なまちづくりプロジェクト」における社会関係資本の現状
中馬 潤子1、湯浅 資之1、上野 貞信2、蝋山 はるみ2、牧山 深雪2、de Sá Ronice Franco3、de Melo Filho Djalma Agripino3
1国立国際医療センター 国際医療協力局 派遣協力課    2東北ブラジル健康なまちづくりプロジェクト    3ペルナンブコ連邦大学 公衆衛生社会開発センター   
【目的】近年、国際開発の領域で注目を浴びている社会関係資本は、地域社会の個人や組織間の関係性の強さを表す概念で、社会関係資本が高い地域では人々の協働が生じやすいとされている。JICAは2003年12月から未だ貧困が大きな社会的課題である東北ブラジルにおいて「健康なまちづくりプロジェクト」を支援しており、住民と地方行政の協働による「健康なまちづくり」活動が自律的に実施されることを目指している。そこで、パイロット市町村の協働を促すために必要な社会関係資本の現状を知るために介入前において調査を実施したので報告する。【方法】東北ブラジルペルナンブコ州にある5つのパイロット市町村(総人口10万人)とそのコミュニティにおいて、世界銀行が開発した社会関係資本測定ツール(SOCAT)を準用しベースライン調査を実施した。【結果】調査対象全てのコミュニティにおいて、コミュニティリーダーを中心とした既存の多くの自主的な活動が確認された。中でも教会を中心とした活動は政治的な影響を受けにくく、継続的に活動が実施されていた。一方で、地方行政の主導で実施したコミュニティ活動は、一部のメンバーにのみ恩恵をもたらす単発的なものが多く見受けられた。その結果、地方行政とコミュニティの関係は希薄となり、住民が地方行政に不信感を抱いているケースが多く見られた。また、一部の市町村では住民主体の多くの組織や協会が既にあり、強いリーダーシップも確認されたが、組織間の連携した活動が見られた事例は少なかった。【まとめ】調査対象の住民には潜在能力があり、コミュニティに対する帰属意識や連帯感を確認できたが、他組織との連携能力に問題があった。他方、政治的な影響を受けやすい東北ブラジルの農村部で、住民と地方行政が協働して活動することは容易ではなく、「健康なまちづくり」を実施する際の地方行政の巻き込みが課題であることが明らかになった。
P1-57
西アフリカ・ベナンにおけるPeace Corpsの活動報告
Mina Shapiro1、Kenzo Takahashi1、Eiji Marui1
1Department of Public Health, Juntendo University School of Medicine, Tokyo, Japan   
The Peace Corps, established in 1961 by President Kennedy, is a federal agency of the United States of America that is devoted to world peace and friendship. Its six sectors include: Education (34%), Health & HIV/AIDS (20%), Environment (14%), Business (16%), Agriculture (6%) and Youth (3%). The average age of Volunteers is 28 years, and the oldest Volunteer is currently 79 years old.

The Peace Corps mission has three goals:
(1) Providing technical expertise and assistance as requested by the host countries
(2) Promoting a better understanding of Americans on the part of the peoples served
(3) Promoting a better understanding of the world and its people on the part of Americans

The author served in the Republic of Benin in West Africa as a Health/Rural Community Development Volunteer from 1997 to 1999. Some of the activities include:
→ Organizing a training program on the use of soy to combat infant/child malnutrition
→ Establishing and conducting infant growth monitoring programs
→ Designing and presenting health sessions to literate and illiterate populations on:
-Disease prevention
-Nutrition
-Hygiene
-HIV/AIDS
-Mud stove building
→ Organizing and promoting Women in Development activities including:
-Take Our Daughters to Work Project
-International Women’s Day girls’ soccer tournament
-Girls’Scholarship Program

The Peace Corps and the JOCV share many similarities as leading volunteer organizations for international cooperation. However, while the JOCV emphasizes the provision of technical expertise, the Peace Corps’ emphasis--unchanged for 45 years--is the promotion of peace and friendship in our world.
P1-58
Health seeking behavior at villages using Health Notebook in Lao PDR
Pheophet Lamaningao1、Yasuo Sugiura2、Somchit Akkhavong3、Sengthong Bilakoun4、Bountang Douangtaphak4
1Public Health Department, Kansai Medical University, Osaka, Japan    2International Medical Center of Japan    3Dept. of Hygiene and Disease Prevention, Ministry of Health, Lao PDR    4Health Dept. of Vientiane Capital City, Ministry of Health, Lao PDR   
“Health Notebook" is a simple tool for recording information of sick people in a village. The objective of this study is to investigate health seeking behavior using the Health Notebook.
In October 2003, we introduced the Health Notebook to two rural villages in Oudomxay province. In November 2005, we also, two villages in Vientiane Capital City (VTE), introduced. Village volunteers were selected to manage the Health Notebook and record of sick family members in a household every month. The details of collecting information include date, name, symptoms, treatment, visited place to consult, and maternal and child health issue.
We found different health seeking behavior among the four villages in VTE and Oudomxay. At the two villages in VTE, visiting hospital was the most favorite health seeking behavior. Western medicine and private clinic were the second and third favorite, respectively. At the two villages in Oudomxay, western medicine was the most favorite health seeking behavior and no medication and traditional medicine were the second favorite.
As a next step, in order to seeking for better health in the villages, we are planning to have dialogue between the village people and health workers about diseases and health seeking behavior with evidence based on the Health Notebook. Thus, the Health Notebook in a village is a simple tool for getting health seeking behavior, and it could be a useful tool for recognizing their own health situation together with health workers in a village.
This research is supported by the International Cooperation Research Grant(17C5).
P1-59
開発途上国における医療倫理学研究の重要性―ラオス人民民主共和国における医療人類学的知見をもとに
岩佐 光広1
1千葉大学大学院 社会文化科学研究科   
国際保健の活発化を一つの契機とし、開発途上国においても生物医療(あるいは近代西洋医療)の利用が急速に拡大している。それに伴い、医療システムが徐々に整い、技術的水準が高まる一方で、医療者の”態度”を問題視する声が患者側から起こってきている。患者やその家族との関係において医療者がいかに振る舞うべきかという、ケア提供者としての姿勢が問われている。こうした問題は、日本を含む欧米諸国では”医療倫理(あるいは生命倫理)”として活発に議論され実践されている。しかし開発途上国における医療倫理の議論はまだまだ少なく、また国際保健活動においてもこの点が明確な形で言及されることは少ない。開発途上国において生物医療がヘルスケアシステムの重要な位置を占めつつある現在、ケアの技術的水準や実施運営の効率だけでなく、そこに関わる医療者の”倫理的態度”もまた重要な論点として生起しつつあるのである。とはいえ、西洋哲学的伝統に深く根差した医療倫理学の普遍的抽象的傾向性に対する批判も多く、その概念をこうした異なる社会-文化的背景を有する問題に無批判に導入することは事態をさらに混乱させるだけである。それぞれの地域で展開される価値観の動態性、多層性、異種混淆性の中に埋め込まれた現象としてこれらの問題を把える”人類学的理解”に基づいた取り組みが必須なのである。本発表では、ラオス人民民主共和国において2003年10月から2006年10月にかけて断続的に実施した医療人類学的調査より得られた知見をもとに、医療者側と患者側の意識のズレや、生物医療を契機としたローカルな価値規範の可変性と多層性を素描していく。その分析を踏まえ、開発途上国において生起している医療倫理的問題の性質を描き出し、これらの地域において医療倫理学研究を実施することの重要性と、そのとき民族誌という人類学的手法が果たす役割について論じたい。
P1-60
ラオスの看護状況に関する現状分析−青年海外協力隊の報告書を用いた質的分析から−
東 亜紀1、高橋 謙造1、Shapiro 美奈1、望月 経子2、丸井 英二1
1順天堂大学 医学部 公衆衛生学教室    2JICAラオス ラオス国看護助産人材育成強化プロジェクト   
〈目的〉ラオス国の看護現状の基礎資料とするため、青年海外協力隊の報告書の分析を行った。
〈対象と方法〉ラオス国青年海外協力隊報告書3年分を用い、KJ法により質的に分析した。
〈結果と考察〉【不明瞭な看護業務規定】【職務責任の自覚不足】【患者優先意識の欠如】【看護過程を踏まえていない看護実践】【On the job Trainingの不整備】【不十分な感染対策】【資源の欠如】の7大カテゴリが抽出された。特に重要な2カテゴリを中心に分析する。
1.不明瞭な看護業務規定
【不明瞭な看護業務規定】の元での看護が行われ、〔看護の定義がない〕ことが看護師の【職務責任の自覚不足】を招いていた。〔管理職務の不明瞭さ〕が〔不十分な看護管理〕を招き、看護部の〔不十分な運営計画〕、〔職分による連携不足〕と関連していた。〔不十分な看護管理〕は【On the job Trainingの不整備】に影響し、〔研修で得た知識の共有不足〕、〔学内で得た知識を病院内で適用していない〕等とつながっていた。
2. 看護過程を踏まえていない看護実践
【看護過程を踏まえていない看護実践】により、対象を把握し必要なケアを考えられず、〔患者状態に対する観察不足〕〔バイタルサインの曖昧な扱い〕を招いていた。〔患者記録の不正確さ〕は、ケアの評価を不可能にしていた。看護実践の一つである感染対策では、〔感染対策に対する知識不足〕のため、「注射器の使いまわし」「手洗いの不徹底」等の〔不正確な実践〕を招いていた。しかし、そこには注射器やシーツ等の〔物質的欠如〕も関与していた。ラオスは伝統的に家族の紐帯が強く、家族は患者の世話をし、病院内で衣食住を共にする。点滴の終了を知らせるのは家族であり、看護師は点滴管理をしない。看護師の【患者優先意識の欠如】は、〔患者家族とのコミュニケーション不足〕〔患者および家族への負担〕を増強させていた。
P1-61
メキシコシティにおける高齢者の生活意識〜高齢者文化センター利用者を対象として〜
松岡 広子1、山口 英彦2
1愛知県立看護大学    2神戸大学大学院国際協力研究科博士後期課程   
【目的】開発途上国の多くでは人口の少子高齢化が急速に進みつつある。本研究はメキシコにおける高齢者の生活実態の一端を明らかにする。
【方法】メキシコ国立高齢者機構(INAPAM)は社会参加支援サービスの1つとして文化センターを開設している。メキシコシティにおける同センターを利用する高齢者を対象にアンケート調査を実施した。その内容は先進国で実施された「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」を参考にして、高齢者の役割、諸活動、意識などについてである。
【結果】アンケート用紙配布の結果、利用者91名(男性20名、女性71名)から回答が得られた。年齢構成は59歳以下5名、60歳代47名、70歳代30名、80歳代9名であった。家族構成は独居者が17名であった。家庭内の役割については家事を担っている(61名)が一番多かった。健康のために心がけていることは健康診査などを定期的に受ける(66名)、休養や睡眠を十分とる(64名)、散歩や運動をする(62名)などであった。日常生活上の悩みやストレスについては「いくらかある」とした者が68名おり、その内容は家族との人間関係(40名)、生活費(31名)、自分の健康や病気(31名)などであった。
【考察】先進国で実施されたアンケート結果と比較すると、家庭内の役割や健康のために心がけていることについては同様の傾向が見られた。しかし、日常生活上の生活費についての悩みは先進国よりも深刻であり、年金制度の脆弱さを反映しているものと考えられる。また、メキシコの場合、家族との人間関係の悩みをより多くの高齢者が抱えており、ラテンアメリカに特徴的な広く密接な家族・親族関係の存在がその背景として考えられる。途上国の高齢者は多くの場合、社会保障の不備により家族との同居を選択せざるを得ないが、社会参加の促進は家族との良好な関係の維持にも貢献していると推測される。
P1-62
NEEDLE STICK & SHARP INJURES (NSSI) IN HEALTH CARE WORKERS IN ULAANBAATAR, MONGOLIA
Moazzam Ali1、Chushi Kuroiwa1、Enkhtuya Budbazarr 2、 altankhuu Mordorjyn2
1Dept of Health Policy and Planning, Univ of Tokyo, Tokyo, Japan    2NCCD, Ulaanbaatar, Mongolia   
【目的】Healthcare workers are at risk of acquiring infections from their patients, particularly those that are blood borne. Our main objectives were to analyze the prevalence and assess the knowledge, attitude and practices (KAP) of health care workers regarding needle stick injuries in hospitals in Ulaanbaatar, Mongolia. 【方法】It was a cross sectional survey conducted in two main hospitals in Ulaanbaatar, Mongolia. A total of 621 health care workers were included using semi-structured questionnaire. 【成績】The result demonstrated the mean age as 38 years and majority was females. The average length of service was 16 years and 46% were also having night shift duty (2.5 nights’ duty / week). The prevalence of NSSI in both the hospitals was 840 / 1000 HCW/ year (84%) and majority of injuries occurred among nurses (p<0.00). Mostly common cause was disposable syringe. Index finger is most common site and injuries occur during recapping, and opening of ampoule or vial.Many consider needle re-sheathing not important and majority didn’t report injuries and neither seek any treatment after injuries. It was clear that injuries were less among trained health workers (p<0.00). Health worker working 3 or more nights duties/week and more than 36 hours duty per week (p<0.05) were more prone to injuries.【結論】Hospitals should provide supporting attitude for NSSI and look into duty hours and work overload .It needs to develop a proper data base and strict mechanism for reporting injuries. Needle stick injuries can be reduced through education and proper usage of protective devices.
P1-63
「アマゾンの森とともに生きるーアマゾン地域保健強化プログラムー」
地引 英理子1、定森 徹1、鈴木 葉子1、川井 理恵子1、中村 安秀1
1HANDS (Health and Development Service) プログラム部門   
【はじめに】ブラジル国アマゾナス州マニコレ市(人口約4万人)は、州都マナウスから333Kmの距離にあり、マデイラ河とその支流沿いに点在する225の大小コミュニティを九州ほどの面積に抱えている。市街地の病院や保健センターでは看護師が不足し、遠隔地コミュニティでは医療施設へのアクセスが非常に困難である。【活動目的】HANDSは2003年10月から06年3月まで、コミュニティ・ヘルスワーカー(CHW)の機能能力向上を目的とした「アマゾン地域保健強化プログラム」を実施した。対象地域では、下痢症、リーシュマニア症、マラリア、デング熱などの感染症に加えて、妊婦検診受診率は50%以下と低く、乳児死亡率(出産千対)が48と高かった。【成果と教訓】マニコレ市のCHWは衛生局より任命され、わずかな給与が支給されていたが、技術面での支援はほとんど行われていなかった。プロジェクトでは、HANDSのローカルスタッフが定期的に遠隔地を船で巡航して回る「支援的スーパーバイズ」、CHWの教育水準に適合した「手作りの保健教育教材」、血圧計や体温計などの最も基本的な器材などを継続的に提供した。プロジェクト終了時評価では、CHWのモチベーションの向上を含めた、明らかな機能能力向上が見られた。CHWの活動に満足する住民の割合は、市街地ではプロジェクト開始前の12.0%から79.0%に、遠隔地では74.3%から94.9%に向上した。【考察】ローカルスタッフがCHWを支援的にスーパーバイズするなかで、CHWが自信を持って活動できるようになり、コミュニティの人々がCHWを信頼し、その信頼に応える形でCHWが自己の技術を研鑽していくという「信頼」に基づく関係性ができあがりつつある。今後は、コミュニティの人々がCHWをスーパーバイズするという当事者主体のコミュニティ・ヘルスをめざしていきたい。
P1-64
東ティモール地方公立保健所における処方の現状
樋口 倫代1
1Public Health & Policy Department, London School of Hygiene & Tropical Medicine   
【目的】
東ティモールでは、復興当初から「保健サービス基本パッケージ政策」の下、医薬品使用にも影響があるとされるプログラムも各種行われてきたが、治療者による医薬品使用に関しての評価はまだない。本調査では、保健所での処方と治療ガイドラインへの準拠(adherence)の現状を明らかにする。(本調査は、複数のデータソースによる医薬品使用に関するケーススタディーの一部である。)
【方法】
レベル2保健所(原則無床)56ヵ所から、飛び地県、首都市街地、予備調査及びプレテストの対象の計11ヶ所を除き20ヵ所を無作為抽出し、それぞれの2005年の患者台帳から無作為に100例ずつ抽出した。
【結果】
2保健所で台帳が保管されていなかった。1800例の平均処方数は2.44種類、抗生物質、ビタミン剤が処方されていたケースはそれぞれ43.5%、38.5%であった。各結果は保健所によりばらつきがあった。急性呼吸器感染症、マラリア、下痢症が正しく記載されたケースのうち、処方が治療ガイドラインに準拠していたのは68.1%であった。保健所別ではadherenceの割合と抗生物質処方ケースの割合に負の相関が見られた。
【考察】
INRUD/WHOの指標で、処方数、抗生物質処方ケースの割合が高いことが各国からの報告で問題にされてきたが、東ティモールではWHOに集められた35カ国の平均値よりいずれも低かった。記載された処方の2/3は併記の臨床診断の標準治療に準拠するもので、標準治療の普及が伺われたが、保健所間で較差があった。先行研究は、診断から処方の段階よりも、診断に至る段階の方のガイドラインへのadherenceの割合が低いと報告している。患者台帳から後者を評価することはできないが、本調査でも保健所間の診断数のばらつきから診断の正確さに疑問が残った。これに関しては同時に収集した直接観察結果から分析していきたい。また、adherenceに関わる因子はその他の質的データも合わせて分析していく予定である。
P1-65
スリランカ国:義肢装具クリニックにおける切断端管理の問題点
飛永 浩一朗1、加藤 尚子2、井手 睦3、浦部 大策4
1聖マリア病院 リハビリテーション科、JICA    2JICA    3聖マリア病院 リハビリテーション科    4聖マリア病院 国際協力部   
【初めに】JICA青年海外協力隊一般短期派遣により理学療法士として6ヶ月間、スリランカのNGO(Colombo Friend in Need Society)で活動を行った(派遣期間:2006年3月21日から9月20日)。この施設ではソケットがプラスチックもしくはアルミニウム製で、Jaipur footという足部の義足を多くの肢切断患者に提供しているが、義肢使用後に傷が切断端に発生するケースをしばしば経験した。傷を形成した切断端は義肢の不適合のみならず、全身性の感染症を誘発するなど肢切断者に二次的問題を引き起こす。【調査期間・対象、結果】2006年6・7月の2ヶ月間に入所し追跡調査が可能であった入所下肢切断患者39名を対象に不具合の発生状況を調査した。対象者の下肢切断原因は交通事故(列車事故を含む)14名、糖尿病による合併症14名、その他11名。このうち初めて義足を作製する患者は22名、2足目以降の患者は17名であり、退所時には全員が独歩もしくは杖歩行が自立していた。義肢使用後に切断端に傷を形成した患者は7名(17.9%)であり、全員が初回作製者であった。傷は断端先に生じたもの6名、荷重支持部分に生じたもの1名であった。【考察】日本では下肢切断後の義肢による不具合が発生した場合、適切な対処をするため傷が発生するケースはほとんど見られない。Colombo Friendにおける切断端管理の問題の原因として 1)手術操作・術式の問題 2)義足製作および装着後の評価や対処における問題 3)創に対する問題意識および対処能力の不足、などの状況が考えられた。改善の為にはまず現状の問題を把握し、作製時の採型方法・評価方法・問題時の対処法の獲得が必要でありこれらは国状を考慮したうえで実地介入を行いながら、支援していくことが重要であると考えられる。
P2-01
バヌアツにおける遺伝子多型の地理的分布とマラリア感染による選択圧
菊池 三穂子1、安波 道郎1、奥田 尚子2、塚原 高広3、佐藤 智生2、松尾 恵2、Ratawan Ubaree2、LUM KOJI J.4、金子 明5、平山 謙二2
1長崎大学 国際連携研究戦略本部    2長崎大学 熱帯医学研究所 環境医学部門 疾病生態分野 分子免疫遺伝学    3東京女子医科大学 国際環境 熱帯医学    4Department of Anthropology, Binghamton University, Binghamton, New York, USA    5Malaria Research Laboratory, Karolinska University Hospital, Stockholm, Sweden   
現在全世界で年間約270万人の死亡原因となっているマラリアは、蚊に媒介される原虫感染症であるが、人類の進化上では比較的最近にヒトに感染するようになったもので、諸民族集団が形成される前後の時代の新興感染症と位置づけられる。いくつかの赤血球の遺伝的異常は宿主にはある程度有害であっても、マラリア原虫の寄生・増殖を抑制するためにマラリアの流行地においては宿主の生存に有利に働くと考えられる。アフリカ集団での鎌状赤血球症、東南アジアのαサラセミアなどは、マラリア選択圧によってそれぞれの民族集団に固定したものと考えられる。バヌアツ諸島はパプアニューギニアの南東に位置し、マラリア媒介蚊の生息域を規定するバクストン線の内外に亘る80余りの島からなる。約4000年前に移動した民族がそのまま定住しており、元々同一の起源の民族がマラリアのためにゲノム多様性にどのような影響を受けたかを解析できる。本研究では免疫関連遺伝子にマラリアの選択圧が存在するかを遺伝子近傍のマイクロサテライト多型を用いて解析した。
【方法】小学校就学児を対象としたマラリア感染調査時にろ紙採血し、マラリアの流行状況が異なる6島から各島95検体を全ゲノム増幅して解析に用いた。各島のアリル頻度を算出し、マラリア感染頻度あるいはαサラセミア遺伝子頻度との相関を解析した。
【結果】FasL、ACP1、CR1、STAT1、TLR2、TLR9, HFE、TNFA, IFNgR1近傍のマイクロサテライト多型のうちACP1, TLR2とTNFA近傍の座位でサラセミア遺伝子頻度、及びマラリア感染頻度と有意な相関を観察した。
【考察・結論】免疫関連遺伝子群にもマラリア選択圧の存在が示唆された。今後、周辺多型との連鎖不平衡解析から、この相関が遺伝子機能の相違を反映するものであるかを、また患者-対照研究により疾患の重症度に関連するかを検証する計画である。
P2-02
インドネシア国フローレス島におけるG6PD変異の多様性について
笠原 優一1、林 多恵子1、Tantular Indah S.2、川本 文彦3、松岡 裕之1
1自治医科大学 感染免疫学講座 医動物学部門    2アイルランガ大 熱帯医学    3大分大学 研究支援センター   
グルコース6ーリン酸脱水酵素(glucose 6-phosphate dehydrogenase)の欠損症は先天性代謝疾患で、最も罹患率の高い遺伝性疾患として知られており、世界中で分析がおこなわれている。遺伝子レベルでは100種以上の変異が報告されており、新しい変異も次々報告されている。D6PD欠損症には同一の変異型を示すものが多い国(ミャンマー・カンボジア)と、さまざまな変異型が混在する国(インドネシア・ベトナム・マレーシア・タイ)がある。 今回、インドネシアのフローレス島の2地区(A:Lewolasa 7例・B:Pruda11例)のG6PD変異を分析した。A地区では7例中5例(71.4%)のG6PD Chatham(1003G→A)がみられたが、B地区では11例中0例であった。この変異は最初インド人で発見されたが、インドにおけるG6PD Chathamの頻度は2%程度である。しかし、イラン北部のMazandaran地域においてG6PD変異を分析したグループの報告によるとG6PD Chathamは27%(74例中20例)と高頻度で発見された。G6PD Chathamが異なった2地域で別個に起きた可能性もあるが、フローレス島のLewolasaの人たちとイラン北部Mazandaranの人たちは先祖を同じくしている可能性もあるのではないかと考察している。
P2-03
ラオス・カムアン県マラリア流行地域で行った熱帯熱マラリアのCommunity-based screening調査と、GISを活用した調査結果のフィードバック手法について
白山 芳久1、Phompida Samlane2、三好 美紀1、黒岩 宙司1
1東京大学大学院 医学系研究科 国際保健計画学教室    2Center of Malariology, Parasitology & Entomology, Ministry of Health, Lao PDR   
【背景】
研究地カムアン県における、2001年度のマラリア感染者数は、42,237人(県人口の13.6%にあたる)と報告されている。これまでマラリア対策として、薬剤浸透蚊帳(ITNs: Insecticide-Treated Nets)の配布や、マラリア教育プログラムが行われてきた。このような対策によって県内のマラリア対策が順調に進んでいるか確かめるため、2005年6月から7月にかけて雨季の間に、県内23箇所において迅速診断キットを用いた熱帯熱マラリアACD調査(Active Case Detection survey)を行った。調査には、403世帯、1,711人が参加した。以前には何人ものマラリア患者が見つかったとされる村においても、今回の調査ではマラリア陽性が一人も見つからないなど、マラリア対策が順調に進んでいると思われる結果であった。しかしながら、中心地から遠く離れた場所では、マラリア陽性が数名でるような村も見つかり、地域ごとの状況に応じた対策が今後必要になってくると考えられる。

【目的】
ACD調査の結果(マラリアの診断結果・マラリアに関連するファクターについての質問紙調査結果)を、より良く視覚的にも理解しやすい形にするため、GPS地理情報とリンクさせたGISマップを作成し、これらを検討することで今後のマラリア対策に活かされる提言を目指す。

【方法】
GPS地理情報データは、Garmin社の携帯用受信機を用いて測定した。GPS情報データのコンピュータへの取り込み、マップ加工、及び調査データとGPSデータとの関連付けに用いるソフトウェアプログラムは、非営利目的であれば無償で利用可能なものを用いることにした。また、Windowsに標準装備のInternet ExploreにGISマップを出力し、専用のビューワーソフト等がなくても表示・操作できるようにした。当日の発表では、GISマップと、方法の紹介など展示予定。

P2-04
東南アジアにおけるマラリア患者の自然免疫機構の動態
渡部 久実1、谷口 委代1、マヌール カイサール2、李 長春1、佐藤 良也2、當眞 弘2
1琉球大学 遺伝子実験センター 感染免疫制御分野    2琉球大学 医学部 熱帯寄生虫学分野   
【目的】病原微生物の感染に対する宿主の防御反応は、感染初期に働く自然免疫とその後の獲得免疫機構により担われることは広く知られ、マラリア原虫をはじめとする原虫感染症における感染抵抗性誘導と病態形成の機構については、自然免疫機構の役割も重要であることが報告されている。自然免疫を担う細胞群としては、NK細胞、NK細胞抗原を持つT細胞(NKT細胞)やγδT細胞、さらに自己抗体を産生するCD5+B細胞などが知られており、演者らはマウスモデルでの詳細な解析を進めてきた。本研究では、ワクチントライアルへの基礎的知見を得る目的で、東南アジア諸国における熱帯熱マラリア患者及び三日熱マラリア患者の免疫機能、特に自然免疫機能の解析を行ってきたので報告する。
【対象と方法】タイ、ラオス及びスリランカ国の熱帯熱マラリア及び三日熱マラリア患者を対象とした。患者末梢血より血清及びリンパ球を分離し、リンパ球サブセット及び血中サイトカイン等の解析を行った。
【結果と考察】熱帯熱マラリア患者では末梢血中のNKT(CD56+T、CD161+T、Vα24+T)細胞が有意に増加すること、治療後ではNKT 細胞のサブセットであるCD57+TとCD161+T細胞は増加しVα24+T細胞は減少したが、重症度との関連は明確ではないことが示された。また、γδT細胞についても、熱帯熱及び三日熱マラリア患者で有意な増加傾向を示し、しかも特定のγδT細胞サブセット(Vγ9-細胞)が活性化していた。マラリア感染と血中抗核抗体(自己抗体)価に関しては、タイ国の熱帯熱マラリア患者で有意に高値を示したが、CD5+B細胞の変動は軽度であった。しかし、parasitemiaと抗核抗体価は重症マラリア患者において負の相関が見られた。血中サイトカインレベルでは、IFN-γとIL-10が増加していたが、治療後早期に低下した。これらの結果から、熱帯熱マラリア患者では、自然免疫を担うNKT細胞やγδT細胞が感染防御や病態形成に深く関与することが示唆された。
P2-05
ネズミマラリア原虫 (Plasmodium berghei) merozoite surface protein 1をウィルスビリオン上に提示した組換えバキュロウィルスのワクチン効果
荒木 一美1、吉田 栄人1
1自治医科大学 感染・免疫学講座 医動物学部門   
MSP-1は、マラリアワクチンの候補抗原として精力的に研究されているが、ヒト臨床治験では今までのところ明確なワクチン効果は確認されていない。MSP-1分子をマラリア原虫で発現しているのと同じ立体構造を維持した形で提示することができれば、このワクチン効果を飛躍的に上昇できることが期待される。今回我々は、独自に開発した新規ベクターを用いてMSP-1分子を発現し、そのワクチン効果をネズミマラリアモデルで検討した。ネズミマラリア原虫(Plasmodium berghei)のPbMSP-1分子のC末領域19 kDaをコードする遺伝子pbmsp-119をバキュロウィルスベクターに挿入して、組換えバキュロウィルスAcNPV-PbMSP-119を構築した。AcNPV-PbMSP-119ウィルスビリオン上にはPbMSP-119分子が提示されており、P. berghei感染血清とも強く反応した。さらにAcNPV-PbMSP-119で免疫したマウスの血清にはP. berghei メロゾイトおよびシゾントと反応することが免疫染色IFATにより観察された。この結果は、メロゾイト表面のPbMSP-119 native formに非常に類似した立体構造を保持していることを示している。AcNPV-PbMSP-119免疫マウスには高い抗PbMSP-1抗体価が誘導されていたが、P. bergheiによるチャレンジ実験ではすべてのマウスが感染し、パラシテミアの上昇、死亡時期はコントロール群と差は見られなかった。もう一種のネズミマラリア(P. yoelii)では大腸菌発現の組換えPyMSP-119の感染防御効果が報告されている。今回のPbMSP-119の実験結果を踏まえて、ネズミマラリアを用いたワクチン基礎研究の問題点についてDiscussionする予定である。
P2-06
海洋生物由来のレクチンを発現する遺伝子操作蚊のマラリア伝播阻止効果
嶋田 陽平1、近藤 大介1、上妻 由章2、吉田 栄人1
1自治医科大学 感染・免疫学講座 医動物学部門    2茨城大学 農学部   
マラリア原虫は、吸血によりハマダラカの体内に運ばれて受精を開始するが、この受精にはハマダラカ中腸内の環境が適合しており、他の蚊ではマラリア原虫は分化・増殖することはできない。本研究ではハマダラカ中腸内の環境を変えることにより、マラリア原虫を伝搬しないトランスジェニックハマダラカの作製を目指している。トランスジェニックに導入した分子は、なまこの一種であるグミから単離されたレクチンCEL-IIIである。CEL-IIIは強い血液凝集・溶血活性をもっており、マラリア原虫がハマダラカ中腸内に入ってきた瞬間に合わせてCEL-IIIを中腸内に分泌できればマラリア感染赤血球が凝集・溶血を起こし受精を成し遂げられず、ライフサイクルを断ち切ることができると期待される。そこで消化酵素であるカルボキシペプチターゼプロモーター下にCEL-III遺伝子を導入したCEL-IIIトランスジェニックハマダラカを作製し、実験を行なった。CEL-IIIの血液凝集・溶血活性には種特異性があり、ヒト、ラット赤血球を溶血するが、マウス赤血球は溶血しない。それ故、P. berghei-ラット感染系を作製し、CEL-IIIトランスジェニックハマダラカに吸血させた。24時間後、10日後に中腸を解剖してオオキネート、オオシスト数をカウントし、20日後に唾液腺を解剖してスポロゾイト数をカウントした。コントロールハマダラカと比較した結果、オオキネート、オオシスト、スポロゾイト形成数が有意に低下し、伝搬阻止率は91 %に達した。また、これまでに報告されているマラリア非媒介トランスジェニックの効果はネズミマラリアに限定されており、実際のマラリアベクターコントロールには新たなトランスジェニック作製が必要と考えられていた。CEL-III トランスジェニックは、マラリア伝搬阻止率も高く、さらにこの効果はすべてのヒトマラリア原虫株・種に有効であると予想されるので、マラリアベクターコントロールとして非常に期待できる。
P2-07
ヘモグロビン変異モデルマウスに対するPlasmodium Yoelii 感染の影響
Tamon Nishino1、Junko Yaegashi2、Toya Ohashi1、Nana Arakaki2、Yoshitugu Matsumoto2、Yoshikatsu Eto1
1Department of Gene Therapy, Institute of DNA Medicine, Jikei University School of Medicine, Tokyo, Japan    2Department of Molecular Immunology, School of Agriculture and Life Sciences, University of Tokyo, Tokyo, Japan   
Malaria, caused by Plasmodium species has great impact on human generations. Our current research is focused on understanding defense mechanism against this disease, especially effect of human fetal hemoglobin expression in hemoglobin variants to plasmodium species. Here we use transgenic mouse expressing human fetal hemoglobin which simulates human hereditary persistence of fetal hemoglobin(HPFH) (PNAS 86:7033) to investigate whether fetal hemoglobin itself has a protective effect against Plasmodium infection in vivo.Design: We injected 1,000 Plasmodium yoelii infected RBCs(Red blood cells) to HPFH transgenic mice (n=5) and C57BL6J mice (n=8). Blood smears were obtained daily and smears were stained with Giemsa. Parasitemia was calculated from about 1000 RBCs.5 days after injection, infected RBCs was 26.4±4.7% for C57BL6J and 32.66±17.3% for HPFH transgenic mouse. We couldn’t show significant difference between these groups. And 60% of C57BL6J mice (3 of 5) were recovered from illness. In contrast, 20% of transgenic mice (1of 5) were recovered from illness.These results demonstrate HPFH transgenic mouse may not have advantage against Plasmodium yoelii infection. These results are probably due to relatively low amount of human fetal hemoglobin expression in HPFH transgenic mouse. Recently we found out that hybrid of thalassemia model mouse and HPFH transgenic mouse expresses significant amount of fetal hemoglobin compared to HPFH transgenic mouse. (13.7%±1.3% vs. 2.7%±0.3% of total hemoglobin) (British Journal of Hematology in press) Now we’ve been testing fetal hemoglobin expansion in thalassemia model has a protective effect on Plasmodium infection and the results will be presented at the meeting.
P2-08
脳性マラリアで認められた非感染赤血球の血管外漏出
新垣 奈々1、三條場 千寿1、片貝 祐子1、服部 正策2、狩野 繁之3、PONGPONRATN EMSRI4、LOOAREESUWAN SORNCHAI4、松本 芳嗣1
1東京大学大学院 農学生命科学研究科 応用免疫学教室    2東京大学 医科学研究科 奄美病害動物研究施設    3国立国際医療センター 研究所    4Faculty of Tropical Medicine, Mahidol University, Bangkok, Thailand   
脳性マラリアにおける病理組織学的所見として、脳実質における輪状出血像(ring hemorrhage)および脳内小血管における感染赤血球の栓塞像(sequestration)が知られている。我々はこれまでに、昏睡を来す重症熱帯熱マラリア発症リスザルにおいて、病理組織学的に脳に輪状出血像が観察されたことを報告した(第71回日本寄生虫学会)。今回、これらの感染リスザル脳のHE染色標本において、最大径600 μmに及ぶ輪状出血像に加えて、数個から数十個程度の小規模な赤血球血管外漏出を多くの血管周囲に認めた。輪状出血像では、血管外赤血球に感染赤血球が認められるのに対して、小規模な血管外漏出においては漏出した赤血球に感染赤血球は認められなかった。透過型電子顕微鏡による観察において、血管内には感染赤血球が認められるものの漏出赤血球はすべて非感染赤血球であった。さらに漏出した赤血球に隣接した血管の内皮細胞に変性が認められた。非感染赤血球は感染赤血球と比較して可塑性に富むことから、内皮細胞の変性や透過性の亢進が非感染赤血球の漏出の原因となることが考えられた。これら実験動物モデルにおいて認められた所見が脳性マラリアを発症した患者にも認められるかを検証するため、タイにおいて脳性マラリアで死亡した患者の脳の病理組織学的解析を行った。患者由来試料は、本研究のため患者家族の同意のもとマヒドン大学熱帯医学部研究倫理審査委員会の承認を受けて得られたものである。その結果、輪状出血像や感染赤血球の栓塞像に加え、リスザルで観察されたと同様の数個から数十個程度の小規模な赤血球の血管外漏出が認められた。ヒトにおいても、漏出赤血球はすべて非感染赤血球であった。これらの結果より、非感染赤血球の血管外漏出像は脳性マラリアの特徴的な病理組織学的所見の一つであると考えられた。
P2-09
抗マラリア薬の偽造・規格外医薬品の流通実態について−オセアニアおよびコートジボアールの事例から
奥村 順子1、植木 俊行1、谷本 剛2、木村 和子1
1金沢大学大学院 自然科学研究科 薬学系    2同志社女子大学 薬学部   
目的】毎年3−5億人がマラリアに感染し,そのうち150−270万人が死亡している.このような状況下で,開発途上国を中心に流通する抗マラリア薬の偽造薬や規格外医薬品は,治療効果の低下のみならず,薬剤耐性菌出現要因ともなっている.本研究は,オセアニアおよびコートジボアールにおける抗マラリア薬の偽造・規格外医薬品の流通実態を把握し,その出現要因を探ることを目的とする.
方法】2004年7月より2005年9月にかけて,パプアニューギニア,バヌアツ,ソロモン諸島,およびコートジボアールにおいて、アルテスネイト(AR, n=45),クロロキン(CQ, n=89),スルファドキシン/ピリメサミン(SP, n=52)を収集し,合計186検体を得た.これらにつきHPLCによる有効成分の含量測定,外観試験,出所起源調査を実施した.データの解析にはSPSS11.5 for Windowsを用いた.
成績および考察】AR,CQ,SPそれぞれ39検体,53検体,20検体の合計112検体につき出所起源調査を完了した結果,AR 2検体,CQ 4検体,SP 13検体が偽造薬と判明した.全検体につき定量分析を行った結果,ARについては偽造薬も含めて有効成分の含量に問題はなかった.CQおよびSPでは,規定に比べ含量に問題のあるものがそれぞれ65検体(73%)と11検体(21%)であった.目下,医薬品の販売許可の有無,露店販売,製造国などの要因が偽造薬および規格外医薬品の出現にどのような影響を及ぼすかについての解析を進めているところである.ARの例にみられるように偽造薬でも有効成分を規格どおりに含む製品が存在する.その一方で,国が販売許可を与えた医薬品でもその製造技術の未熟さから有効成分の含量に問題のあるものがある.この点についても考察し発表する予定である.
P2-10
スリランカの象皮病多発家系における罹患同胞対解析を用いた疾患感受性遺伝子の探索
高木 明子1、W.V. MIRANI2、菊池 三穂子3、伊藤 誠4、木村 英作4、安波 道郎3、吉浦 孝一郎5、新川 詔夫5、平山 謙二1
1長崎大学 熱帯医学研究所 環境医学部門 疾病生態分野 分子免疫遺伝学    2Dept. Parasitology, Fac. Med., Univ. Ruhuna, Matara, Sri Lanka    3長崎大学 国際連携研究戦略本部    4愛知医科大学 寄生虫学教室    5長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 附属原爆後障害医療研究施設 変異遺伝子解析研究分野   
バンクロフト系糸状虫症では、寄生した糸状虫成虫が寄生部位であるリンパ管を閉塞することにより、慢性期には下肢リンパ浮腫や象皮病を発症する。感染した人の全てが象皮病を発症するわけではなく数パーセントのみが発症するが、その発症機序は明らかとなっていない。原因としては、免疫反応、二次性細菌感染が考えられているが、宿主側の遺伝要因に関する報告もある。象皮病とHLA遺伝子アレルとの相関(HLA-B15, HLA-B27, DQ5, DR3)や、最近では、ベトナム、ハイチでの家系調査から、家族集積性が認められる事が報告がされた。
スリランカは、高度浸淫地で人口の約半数が感染する危険性がある地域に居住している。これまでの疫学調査により、南部Matara地区に象皮病多発家系が存在することが示された。これら多発家系を対象についてマイクロサテライトマーカーによる連鎖解析を行い、感受性あるいは抵抗性に寄与する遺伝子を同定することを目的として本研究を行った。
家族に2人以上の発症者が認められた12家系の患者33名(男8人、女25人、平均年齢56.09歳)の患者及び同胞者を対象者とし、ABI Prism Linkage Mapping Sets MD-10を用いて、罹患同胞対解析(ペア数29)を行った。現在までに、計15本の染色体の解析が終了しているが、16番染色体長腕上(16q12.1)に設定されたマーカーD16S415にLod scoreで2.076327(多点解析)と、少ないサンプル数としては比較的有意と考えられるスコアを得た。全染色体の解析結果を若干の考察を加えて報告する。
P2-11
中国、洞庭湖周辺地域の漁村における水接触行動と日本住血吸虫症感染
Shouhei Takeuchi1、Yuesheng Li2、Yongkang He2、Huan Zhou3、Kazuhiko Moji1、Ryutaro Ohtsuka4、Chiho Watanabe5
1Research Center for Tropical Infectious Diseases, Institute of Tropical Medicine, Nagasaki University, Nagasaki, Japan    2Hunan Institute of Parasitic Diseases, Hunan, China    3Huaxi school of public health, Sichuan University, Sichuan, China    4National Institute for Environmental Studies, Tsukuba, Japan    5Department of Human Ecology, School of International Health, Graduate School of Medicine, the University of Tokyo, Japan   
Although identification of water contact patterns is one of the most important factors for the prevention of Schistosoma japonicum infection, it is still insufficient for clarifying specific high-risk behaviors and their implications. Parasitological studies and behavioral observations were carried out in a rural village, the Dongting Lake region, China. A time-allocation study conducted by a time-saving spot-check method was implemented to quantify the behavioral risks. Of the 122 participants, 18 (14.8 %; 95% confidence interval: 8.5, 21.0) were positive for S. japonicum. Among those diagnosed, the median (25-75% quartile) eggs per gram was 8 (8-16). A significant positive correlation with worm intensity was found among people who repair ships on the marshland (p < 0.001), and this potential risk was consistent with previous suggestions. Although the parasitological techniques and study design require further improvements, our observational methods may be of use to explicitly identify behaviors at the local level that could be relevant to prevention.
P2-12
ケニア国沿岸州クワレ地区ムサンガタム村における医療協力プロジェクト終了後のビルハルツ住血吸虫症の現状
阿部 眞由美1、ゲテ ムホホ2、門司 和彦3、嶋田 雅曉3、青木 克己4
1長崎大学 熱帯医学研究所 寄生行動制御分野    2ケニア中央医学研究所 微生物研究センター    3長崎大学 熱帯医学研究所 熱帯感染症研究センター    4長崎大学 熱帯医学研究所 寄生行動制御分野   
【背景】
ムサンガタム村では、1985年から1994年まで、JICA医療協力プロジェクトのもとでビルハルツ住血吸虫症対策が行われた結果、村全体の虫卵陽性率は59%から23%に低下した。プロジェクト終了とともにJICAによる住血吸虫症対策は終了したが、1996年にNGOが湧水利用の安全水を供与し、住血吸虫症対策は部分的に継続されている。
【目的】
ビルハルツ住血吸虫症の現在の感染率と水接触行動の実際を追跡調査することにより、プロジェクト終了後のムサンガタム村での現状を明らかにする。
【方法】
ムサンガタム村は山岳地域内に位置する人口2,400名220世帯を有する村落である。調査は2006年1−2月に行い、尿試験紙とフィルター法による集団検査、水の利用状況についての聞き取り調査、及び直接観察を実施した。
【結果と考察】
住民1,232名(うち学童457名)に対して尿検査を実施したところ、肉眼的血尿12.5%,(学童17.7%)、尿潜血48.1%(学童63.0%)、虫卵陽性率54.1%(学童73.3%)であった。また成人住民242名から聞き取り調査を行った結果、回答者の85%が安全水を利用しており、75%が水道施設に満足している一方、70%がいまだに河川水を利用していた。一方、水道施設と河川の水場で延べ864名の水利用・接触状況を観察した結果、水道水では90%が水汲みに利用していたのに対し、河川水では水汲み利用は42%にとどまり、接触の内容は多岐にわたった。河川水との接触時間は平均8.7分間であり、またセルカリア数がピークとなる午後の時間帯における水接触行動が多くみられた。
結論として、安全水は高率で利用されてはいるが、河川水は依然広範囲の目的で日常的に利用されており、プロジェクト開始当時と同様に感染が起きていると考えられる。
【謝辞】
本研究費をご援助いただきましたFASID、及び現地調査にて多大なご協力をいただいたKEMRI他関係者の方々へ、感謝申し上げます。
P2-13
ラオスメコン住血吸虫再流行地域における学童の疾病認識と保健教育の必要性
中村 哲1、松田 肇2、ビロージュ キティクーン7、波部 重久3、松本 志4、二瓶 直子8、鈴木 琴子5、中津 雅美1、コンサップ アッカボン6、ブニョン ブーパ6
1国立国際医療センター 研究所     2獨協医科大学医学部熱帯病寄生虫学講座    3福岡大学医学部アニマルセンター・微生物免疫学講座    4北海道大学大学院獣医学研究科    5東京学芸大学教育学部    6ラオス国立公衆保健院、ビエンチャン、ラオス人民民主共和国    7マヒドール大学熱帯医学部    8国立感染症研究所昆虫医科学部   
我々はメコン住血吸虫症の現況に関し、ラオス国南部のチャンパサック県コーン郡で同症が再流行し、学童がハイリスクグループであることを明らかにしてきた。今回は本年4月に実施した疾病認識に関わる基礎調査結果について報告する。調査地および対象:チャンパサック県コーン郡南部に位置するコーン(Khorn)島内の2カ村Khorn ThaiおよびKhorn Neuaの学童を対象とした。方法:各学童に質問票を配布し回収した。質問内容は住血吸虫症の認識、身近な同患者に関わる認知、ベクターとなる中間宿主貝の認知、水浴び回数、下痢・腹痛または発熱の頻度、同島からの外出頻度および受療に関わる項目である。結果と考察:質問票を回収した166人について、分析を行った。住血吸虫症について知っているかとの問いに対し、知っていると答えた学童は15%に過ぎず、7割以上の学童が知らないと答えていた。また身近の患者に関する体験、媒介貝の知識についても同様の傾向であった。前回の2004年の調査で、この地域の住民・学童の糞便中のメコン住血吸虫虫卵検出率は極めて高く、また住民が日常的に利用するメコン支流には同症媒介貝が多数生息している。同年内にラオス政府により集団駆虫が実施されたが、上記の結果からは、保健教育的介入が不十分と見受けられた。メコン支流での毎日の水浴びは2−3回が最も多かった。家庭の過去1か月間の腹痛・下痢、発熱の割合はそれぞれ10%ほどであった。この地域のメコン住血吸虫症は治療後も再感染の可能性は極めて高い。今回の調査結果からは、ラオスのメコン住血吸虫流行地の学童を含む住民に対する効果的な疾病予防対策の1つとして、学校教育カリキュラムに地域の実情に応じた保健教育を展開することが急務であるといえる。
P2-14
ラオスにおける人肺吸虫症の原因種の同定
波部 重久1、八尋 眞一郎2、VEASNA DUONG3、PETER ODERMATT3、HUBERT BARENNES3、MICHEL STROBEL3、中村 哲4
1福岡大学 医学部 微生物・免疫学    2丸山病院    3Institut de la Francophonie pour la Medecine Tropicale, Vientiane    4国立国際医療センター研究所   
演者らはラオス共和国ビエンチャン特別市北部の肺吸虫流行地のカニから<1>Paragonimus harinastai 、P. bangkokensis、 P. heterotremus</1> および<1> P.westermani</1>4種の肺吸虫の存在を明らかにした。 当地では、前2種はカニに高率に寄生しているが、後者2種の寄生は極めて少なかった。 当地での患者6名の喀痰から得た虫卵の形態を観察したところ、<1>P.westermani</1>とは明らかに異なるが、他の3種のどれにあたるかは判定できなかった。そこで、遺伝子工学的手法を用いて原因種を調べた。肺吸虫症患者の喀痰から回収した虫卵を破砕してribosomal DNAの internal transcribed spacer 2 region をPCRにかけて増幅した。これらのPCR産物 はおよそ500 bpであり、DNA配列を解析したところすべての配列が<1>P. heterotremus</1>と 完全に一致した。このことから<1>P. heterotremus</1>がラオスの人肺吸虫症の有力な原因種であることが明らかになった。さらに、<1>Paragonimus harinastai</1> および<1>P. bangkokensis</1>はヒトに感染しがたいと考えられる。
P2-15
当院で経験したフィリピン毛細虫の1例
坂部 茂俊1、藤永 和寿1、辻 奈苗1、辻 幸太1
1山田赤十字病院 内科   
症例:29才男性.既往歴:特記事項なし.家族歴:特記事項なし.職業:エンジニア.タイ東北地方出身.2006年3月に会社(日系)の研修で来日した.5月より上旬より顔面四肢の浮腫を自覚し5月19日に当院外来を受診した.来院時の採血で血清プロテイン3.8g/dlアルブミン1.9g/dlと著明な低蛋白血症を認めた.尿中蛋白を認めず,明らかな肝障害なく,蛋白吸収障害あるいは蛋白漏出性胃腸症の可能性を考えたが来院までに下痢,腹痛などの症状は一切なかった.入院のうえ精査したところアルファワンアンチトリプシンクリアランスに著明な上昇を認め,蛋白吸収障害,蛋白漏出性胃腸症による低蛋白血症と判断した.便検査で虫卵を得,フィリピン毛細虫と同定された.メベンダゾールを投与し症状は改善した.フィリピン毛細虫の腸管感染はタイ,フィリピンを中心にエジプト,台湾などで報告され,本邦でもこれまでに数例記録されている.本症例は消化器症状に乏しく診断が困難であった.
P2-16
寄生虫対策におけるインドセンダンの有効利用
Jun Maki1、R.e. Brandt2、Sen-ichi Furudate3、Masahiro Kuwada4
1Dept of Environmental Infections, Kitasato University School of Medicine,Sagamihara,Japan    2Dept of Medical English,Kitasato University School of Medicine, Sagamihara,Japan    3Dept of Animal Sciences,Kitasato University School of Medicine,Sagamihara,Japan    4Dept of Nutritional Science, Faculoty of Human Health, Hachinohe University,Hachinohe,Japan    
Azadirachta indica(neem tree) is thought to be indigenous to India and other tropical areas, and grows widely throughout the world, especially in tropical countries. It is a tall, evergreen tree popular with the local people.The various parts of the neem tree have been utilized to help sustain daily life in many cuntries. The present authors briefly describe this plant with special emphasis on the potential utility for the treatment of parasitoses in the worldwide tropical zones, though negative data were obtained on Angiostrongylus cantonensis and Trichinella spiralis. Cooperative studies on A.indica have been carried out among Dept.of Parasitology, Institute for Tropical Medicine, Nagasaki University, Dept.of Traditional Medicine, Kenya Medical Research Institute, Dept.Pharmacognosy, School of Pharmaceutical Sciences, Tohoku University and present authors. Some research papers (Maki et al., 1997; Maki et al., in press) have been published. Our presentation for this time includes general information on A.indica(distribution and components), utility in daily life, possible antiparasitic action of the drug from the plant and feasible plans for the utilization of the plant against parasites in tropical and subtropical areas.
P2-17
イノコズチによるハブ毒中和機構
出口 晃三1、有村 美紀1、平郡 和弥1、渡邉 裕美子1、倉園 友江1、水上 惟文1
1鹿児島大学 医学部 保健学科   
【目的】イノコズチ(Achyranthes japonica)は九州から種子島、屋久島から石垣島までの琉球列島に広く分布する植物で、鹿児島ではマムシ咬傷の民間療法として使われている。本研究では、イノコズチのハブ毒に対する効果、作用機序を明らかにする。【方法】イノコズチの葉は細断し、すりつぶし、ろ過液を5000rpm、20min、5℃で凍結乾燥した。この凍結乾燥粉末を以下の実験に用いた。動物は、抗致死、抗壊死、鎮痛作用の測定には、雄性成熟ddYマウスを用い、抗出血作用の測定には、雄性成熟日本白色ウサギを用いた。動物はフロンティアサイエンス研究推進センター動物施設内で行い、餌、水は自由摂取させた。また、実験計画は鹿児島大学動物実験委員会の承認を得て行った。【結果】抗致死作用は、マウスをペントバルビタール麻酔後、希釈ハブ粗毒もしくは希釈ハブ粗毒・イノコズチ混和液を投与し、48時間後の生存率を調べたところ、イノコズチはハブ毒の致死活性を43%減少させた。抗出血作用は、ハブ毒1.0mg/kgB.W.投与時の出血斑の大きさを50mg/kgB.W.イノコズチ添加により半減させた。また、イノコズチはテールピンチによる痛みを容量依存的に減少させた。しかしハブ毒による壊死はイノコズチでは抑制できなかった。また煮沸後のイノコズチ水溶液ではハブ毒に対する抗毒素効果が消失したので、ハブ毒抗毒素作用の本体はイノコズチに含まれるタンパク質であると思われた。そこでポリアクリルアミドゲル二次元電気泳動を行うと、イノコズチには分子量15〜84KDの数種類のタンパク質が認められた。ハブ毒・イノコズチ混和液では高分子ベルトの消失が認められたことから、イノコズチはハブ毒タンパク質をペプチドに分解したと考えられる。
P2-18
奄美大島属島における糞線虫症の疫学的研究
渡邉 裕美子1、有村 美紀1、出口 晃三1、平郡 和弥1、倉園 友江1、水上 惟文1、松尾 敏明2
1鹿児島大学 医学部 保健学科     2加計呂麻徳洲会診療所   
【目的】我々は過去4年間にわたり奄美大島の龍郷町住民を対象に糞線虫症の疫学調査と保健学的手法によるコントロールを行ってきた。調査の結果、龍郷町ではどの集落でも糞線虫仔虫保有者がおり、糞線虫の感染率は約3%前後であることが確認された。現在、糞線虫症は鹿児島県本土以北ではほとんど見られないが、南西諸島とくに奄美諸島および沖縄諸島では特に多いといわれている。奄美諸島の他の島々についても現状を調査する必要があった。そこで昨年、全人口約2000人の加計呂麻島について調査をおこない糞線虫仔虫陽性率は、1.6%であることが確認された。今回は、請島について調査する機会があったのでその結果を報告する。【方法】調査地は、人口約160人の請島の請阿室、池地地区とした。調査の対象は、同意の得られた住民とその飼い犬とし、指定された日に集まった糞便について直接塗抹法により糞便中の虫卵、幼虫の存在の有無を調べた。持ち帰った糞便は、普通寒天培地上で3日間培養した寒天平板培養法による検査も行った。【結果】請島の被検率(被検者数/住民数)は、請阿室地区49%(36/74)、池地地区55%(46/84)であった。直接塗抹法での糞線虫仔虫保有者数は、陽性率が請阿室地区2.7%(1/36)、池地地区2.1%(1/46)であった。イヌ(1頭)からは、糞線虫は検出されなかった。寒天平板培養法での仔虫保有者数は、陽性率が請阿室地区6.5%(3/46)であった。以上の結果から、奄美大島、加計呂麻島のみならず請島にもいぜんとして糞線虫症が残っていることが確認された。検出法としては、直接塗抹法より寒天平板培養法のほうが優れていると確認されたが寒天平板培養法では鈎虫と糞線虫の区別ができなかった。
P2-19
奄美大島龍郷町における寄生虫症の保健学的研究
有村 美紀1、出口 晃三1、平郡 和弥1、渡邉 裕美子1、倉園 友江1、水上 惟文1、再田 育乃2
1鹿児島大学 医学部 保健学科    2鹿児島県大島郡龍郷町役場保健福祉課   
【目的】日本における寄生虫症は、糞線虫症が唯一、沖縄と奄美で現在でも広く蔓延していると言われており、最近の調査もコントロールも行われていない。そこで我々は平成15年より奄美の龍郷町をフィールドに糞線虫症の調査と保健指導を行ってきた。その結果、秋名・幾里・赤尾木・大勝地区での糞線虫保有率は過去の調査と同程度に高く、奄美は依然として糞線虫症の湿淫地であることを確信するに至ったので報告する。【方法】調査の対象は同意を得られた住民とその犬とし、事前に検便調査票と指定容器を配布後、指定された日に提出された糞便について直接塗沫法により、糞便中の虫卵、幼虫の存在の有無を調べた。このうち幼虫が認められた便は、ビニール袋に密封し室温(最低気温30℃以上)に放置し、翌日24時間後、糞便中の仔虫の存在を直接塗沫法により確認した。種の同定はフィラリア型仔虫の全長・食道長を計測することで鉤虫との鑑別を行った。仔虫陽性者には直接連絡し治療を受けるよう促した。また、前年度までの陽性者は再調査を行った。【結果】各地区の被検率(被検者数/住民数)は、秋名地区28.2%(80/284)、幾里地区28.6%(70/245)、赤尾木地区18.5%(132/713)、大勝地区6.5%(45/692)、手広地区12.0%(30/249)、芦徳地区9.0%(26/288)であった。糞線虫仔虫保有者数は、秋名地区で73歳女性(陽性率1.3%)、幾里地区で87歳男性、70歳男性、3歳女性(陽性率4.3%)、赤尾木地区で70歳男性、60歳男性、62歳男性、60歳女性、54歳女性(陽性率3.8%)、大勝地区・手広地区・芦徳地区では糞線虫仔虫は認められなかったが、これは被検率が6.5〜12.0%と極めて低かったためで、必ずしも糞線虫がいないわけではないと考えられる。また2地区の計10頭の飼いイヌからも糞線虫は検出されなかった。
P2-20
5歳未満児駆虫の小児貧血へのインパクト:ネパール全国駆虫プログラムの評価と持続性の検証
岡村 恭子1
1国連児童基金(ユニセフ)   
【目的】ネパールでは、5歳未満児の78%が貧血である。小児貧血に関しては有効な対策が確立されていないが、近年、駆虫が5歳未満児の貧血と成長に与える影響が注目されており、ネパールでは全国駆虫プログラムが実施されている。その効果と持続性について検証する。【方法】2003年2月に駆虫プログラムが開始されていなかった22郡のうち4郡を調査対象地域とし、多段抽出法により、各郡30クラスターから各16世帯、合計1920人の2−5歳児を無作為抽出した。ベースラインから第4次調査(第3回駆虫後)まで、半年毎に腸管寄生虫感染(標本取得率88〜93%)及び血中ヘモグロビン濃度(同99〜100%)を測定した。【成績】貧血罹患率は、ベースライン時47%から、第2次調査で29%、第3次調査で11%に減少、第4次でも11%にとどまり、第3次調査の妥当性が確認された。減少傾向は全ての対象年齢において見られた。重度貧血は0.4%から0.1%、中度貧血は21%から2%、軽度貧血は26%から9%に減少した。鉤虫罹患率は、ベースライン時20%から、第2次調査で8%、第3次で6%に減少した(第4次調査で7%)。駆虫剤の利用率は、第1回駆虫で86%、第2回87%、第3回95%と増加した。【結論】本調査により、5歳未満児の駆虫が小児貧血対策に大きく寄与する可能性が示唆された。中度貧血が2%まで減少したこと、効果が3歳未満のグループにも見られたことは、特筆に値する。既存の全国ビタミンAプログラムを利用しているため、導入以来平均90%以上の利用率を維持しているうえ、駆虫導入時に要した初期研修費用は子ども一人当り約20円、現在は、保健省予算で購入している駆虫剤(国内生産)分のみとなっており、子ども一人当り年間約1円である。学校保健の一環としての駆虫に加え、早急に5歳未満児駆虫プログラムを拡大することが必要である。
P2-21
ラオス南部の低地農村部における児童のタイ肝吸虫症の罹患要因の検討のための予備的調査
友川 幸1、小林 敏生1、門司 和彦2、金田 英子2、Boungnong BOUPHA3
1広島大学    2長崎大学    3National Institute of Public Health, Ministry of Health,Vientiane, Lao P.D.R.   
目的タイ肝吸虫症は、ラオス南部及び東北タイを流行地とし、生魚および不十分な加熱調理をされた魚を摂取することで感染する吸虫症である。2006年2月、5月、6月に流行地のひとつであるラオス人民民主共和国サワンナケート県ソンコン郡ラハナム地域において、児童のタイ肝吸虫症への感染リスクとなり得る因子を検討することを目的とし、予備調査を実施した。方法当該地域で摂取されている魚に関するフォーカスグループディスカッションを行い、それぞれの魚の捕獲頻度、捕獲場所、季節による捕獲量の違い、捕獲される魚の大きさ、生摂取の可能性、鱗の有無、小骨の有無、匂い、味等を尋ねた。また、調理法を実践してもらい、調理の手順、材料、加熱の時間等の観察を行った。さらに、対象地域の20歳から40歳までの女性72名に面接を実施し、魚の摂取について尋ねた。結果調査の結果から、当地域では、感染のリスクのある魚が頻繁に捕獲され、生で調理されていることが分かった。感染のある魚の特徴として、主に川で捕獲されている、小型(30cm以下)である、鱗がある、においがない等の点が見られた。また、実践されている調理法の中には、完全な生食と半生(50℃程度のお湯で、5秒程度の湯通しを行う)での調理法があり、生での摂取以外にも、半生での調理法による感染のリスクが疑われた。さらに、鱗がある、匂いがない、小骨がないといった条件を揃えている魚が生で頻繁に摂取されていることが分かった。さらに、感染のリスクを持っている魚の多くが生で食べることのできる条件を満たしていることが分かった。リスクのある魚の生、あるいは半生での摂取の頻度が感染のリスクとなり得ることが考えられた。また、母親によって子どもに魚を生で摂取させはじめる時期などが異なることが分かり、感染に関する一要因となる可能性が指摘された。
P2-22
SARS(新型肺炎)の血清学的診断法確立並びに血清疫学的研究
Fuxun Yu1、Shinogo Inoue1、Futoshi Hasebe1、Maria del carmen Parquet1、Kouchi Morita1
1Department of virology, Institute of Tropical Medicine, Nagasaki University   
To develop a safe and reliable serodiagnosis method for SARS-CoV infection, the whole range and the N-terminal 121 amino acids truncated SARS-CoV nucleocapsid proteins (N protein and Nδ121 protein) were expressed and purified in E. coli. Recombinant N protein and Nδ121 protein based indirect IgG ELISA and IgM-capture ELISA were established. Serum samples collected from 175 healthy volunteers in Vietnam before the SARS outbreak and serially collected serum samples from 37 SARS patients were used to for the assessment of our newly developed ELISA systems. For the IgG ELISA, the N protein-based ELISA showed relatively high nonspecific reaction. The Nδ121 protein-based ELISA, with a nonspecific reaction drastically reduced compared to that of the N protein-based ELISA, resulted in higher rates of positive reactions, higher titers, and earlier detection than the SARS-CoV-infected cell lysate-based ELISA. For the IgM capture ELISA,the specificity was 100% and the sensitivity was 97.3%. Comparing the serocoversion time of IgM and IgG antibody after SARS-CoV infection, the mean seroconversion time for IgM was 3 days earlier than that for IgG and by the second week after the onset of illness, the IgM positive rate was significantly higher than IgG (P<0.005), indicating that the IgM response appears earlier than IgG after SARS-CoV infection, consistent with other pathogens. Our data indicate that the newly developed SARS-CoV Nδ121 protein-based IgG ELISA and IgM capture ELISA system are safe, specific and sensitive test for diagnosing SARS-CoV infection.
P2-23
インドネシアの鳥及び新型インフルエンザ対策における疫学分野支援ニーズ評価
中島 一敏1
1国立感染症研究所 感染症情報センター   
【背景と目的】 2006年8月23日現在WHOへ報告された累積死亡者数で、インドネシアはベトナムを抜き世界一となった。インドネシアで初症例が発生した2005年、日本政府は、同国に対しラボ、臨床、疫学分野で緊急支援を行った。演者は、2005年11月13日から11月26日まで第4次隊の一員として、疫学分野における中長期的支援ニーズ調査を行ったのでここで報告する。【方法】 一般の感染症及びヒトAI症例サーベイランス評価、地方レベルにおける保健行政の現状評価及びヒト症例調査の実態評価等の目的で、保健省担当部局からの資料収集、同省関係者のインタビュー、症例現場視察と管轄地方保健セクター視察と情報収集、病院視察、WHO関係者や米国海軍医学研究所2関係者との意見交換等を行った。【結果と考察】 人材不足やインフラの不足から、地方レベルでは、十分な症例探知、評価、報告の能力が不十分であった。また、2001年に大規模な行政機能の脱中央化・地方分権化が実施されており、ヒトAI症例サーベイランスを含むあらゆる行政サービスにて中央政府と地方政府との分断がみられた。ヒト報告症例分布は、鳥における発生分布とは一致せずジャカルタ近郊に集中しており、サーベイランスは不十分だと思われた。20年以上続くFETPは、大学の学位授与コースの機能しかなく、保健行政の人材育成という本来の目的は果たしていなかった。症例やイベントの発見、報告、疫学調査、評価、対策立案などの能力開発、中央と地方を結ぶネットワークの強化のニーズは極めて高い。この機能強化は、IHR(2005)やWHOの掲げるアジア太平洋新興感染症戦略にも準じており優先順位は高いと考える。 今後、日本は、WHO等と連携し、cost-effectivenessの高いネットワーク構築や実地疫学の人材育成支援を行うことが重要と考える。
P2-24
多遺伝子解析でアウトグループに位置した Paracoccidioides brasiliensis IFM 54648株
佐野 文子1、Itano Eiko Nakagawa2、高山 明子1、Ono Mario Augusto2、鎗田 響子1、宮治 誠1、亀井 克彦1、宇野 潤1、三上 襄1、西村 和子1
1千葉大学 真菌医学研究センター    2パラナ州立ロンドリーナ大学生物科学研究所   
輸入真菌症の 1 つパラコクシジオイデス症 (Pbと略) は中南米に限局する風土病で,危険度レベル 3 の Paracoccidioides brasiliensis を原因菌とし,我が国では,現在までに 18 例の報告がある.最近,本菌種に関しても多遺伝子解析に基づいた遺伝子分類がなされ,各種遺伝子情報が充実している.今回,当センターに保存されている臨床分離株(35株)について rRNA (ITSおよびD1/D2),glucan synthase, chitin synthase,glyoxalase I mRNA, heat shock protein 70 mRNA, 43kDa 糖蛋白抗原 (gp43),urease (Ure) 遺伝子の8種について配列を決定し,クラスター解析を行ったところ,ブラジルのパラナ州 Pb 患者の頸部腫瘤から分離された株(IFM 54648)の配列はいずれの遺伝子においてもアウトグループに位置した.とくに P. brasiliensis の同定に有用とされている gp43 では 90%以下の相同性で,2004 年に発表した loop mediated isothermal amplication method (LAMP法) による同定のためのプライマーセットでは増幅しないことが判明した.一方,真菌の同定に広く使用されている rRNA 遺伝子の相同性は 99%以上であった.本株は温度依存性の二形性変換をし,最高発育温度は38℃,酵母様細胞は多極性出芽をし,教科書的記載に一致していたことから,形態・生理学的にも本菌種を否定する要素は見当たらない.一方,近縁種の Coccidioides spp.では各種遺伝子の相同性が 99%以上であっても別種としているので,今後,この株のような配列を持つ株が多く発見されると, Paracoccidioides 属菌種の新種が記載される可能性があり,新たな遺伝子同定法開発も必要である.
P2-25
リベリア・ハーパーにおける感染症の現状と血液ドナーに対するSTDの現状
ミラー 真里1
1岡山大学大学院 保健学研究科 検査技術科学   
リベリアは1990年代、2002〜4年と長期にわたり内戦が続いており、今でも情勢不安定にある。そのため、援助機関の一時避難や撤退を余儀なくされ、一般に公表されている統計は少ない。そこで今回は、私が2002年4月〜10月に臨床検査技師として参加させてもらったMSF(Medecins Sans Frontieres: 国境なき医師団)のマラリア・結核プログラムで得たデータの一部を報告したい。
まず、一般患者に関する検査結果についてだが、マラリアが疑われる患者のギムザ染色 Thick smear陽性率は32.8%、パラチェック(Rapid test)陽性率は40.3%であった。また、AFB陽性率24.9%、Skin snip陽性率27.6%、妊娠検査陽性率35.2%であった。
次に血液ドナーに関する報告だが、アフリカの国々で血液バンクが存在することは稀で、リベリアも例外ではない。リベリアで輸血用血液が必要なときは患者の親類縁者または友人に血液ドナーとなってもらうことが当たり前である。今回のデータは血液ドナー候補者のみから得た結果(2002年4月〜9月)を取り上げた。
まず、ドナーになるためには問診(年齢、体重、献血歴、性的背景)をクリアし、Hb12g/ml以上、HBs-Ag, HCV, 梅毒RPR法, HIV-I IIの全てが陰性であることを必要条件としていた。問診とHbをパスしても感染症スクリーニングで陽性となるドナー希望者が多く、特にHIVの陽性率は13.9%であった。また、他の感染症に関してもHBs-Ag陽性率11.6%、RPR陽性率8.3%と低くはなかった。しかし、HCVに至っては陽性者はいなかった。
今回のターゲットであるハーパーは隣国アイボリーコーストとの国境まで約10Kmと近く、人の流動が激しい所に位置する。そのため、感染症の拡大が容易に起こりやすい。また、未婚で父親がそれぞれ違う数人の子供を持つ母親が多く、その結果、STDを蔓延させやすい。
最後に、今回データ使用に許諾していただいた、リベリア国保健省、MSF-France、MSF-日本の皆さんに感謝する。
P2-26
日本、バングラデシュ、タイ、ベトナムにおけるアイチウイルスの分子疫学
Ngan Pham thi kim1、Pattara Khamrin1、Anhtuan Nguyen1、Dey Shuvra kanti1、Giatung Phan1、Shoko Okitsu1、Hiroshi Ushima1
1Department of Developmental Medical Sciences, Graduate School of Medicine, Univ of Tokyo, Tokyo, Japan   
Introduction: Aichi virus is the type species of a new genus, Kobuvirus, of the family Picornaviridae and associated with acute gastroenteritis in human. Up to date, there has been a limited knowledge about epidemiology of Aichi virus infection in Asian countries other than Japan and Pakistan.

Materials and Methods: A total of 912 fecal specimens, all of them were negative for Rotavirus, Adenovirus, Norovirus, Sapovirus, and Astrovirus, collected in Japan (215 samples, from 2002-2003), Bangladesh (405, 2004-2005), Thailand (107, 2002-2004), and Vietnam (185, 2002-2003) were used for this study. To detect Aichi virus, reverse transcription - PCR (RT-PCR) were conducted using primers for amplifying the 3CD junction region. Nucleotide sequence analysis was also performed by using PCR amplification products.

Results: Aichi virus was detected in 14 of 215, 10 of 405, 1 of 107, and 3 of 185 fecal specimens collected in Japan, Bangladesh, Thailand, and Vietnam, respectively. The nucleotide sequences of the 14 isolates from Japan, Bangladesh, Thailand, and Vietnam were determined. The phylogenetic analysis revealed that 6 Janpanese strains, 2 Vietnamese strains, 1 Thai strain, and 1 Bangladesh strain belonged to genotype A, while 4 other Bangladesh strains were members of genotype B.

Conclusion: This study provides a better understanding about epidemiology of Aichi virus in Japan and the first finding of Aichi virus in fecal specimens from Bangladesh, Thailand, and Vietnam.
P2-27
Emergence of type G9 rotavirus in Turkey.
Kamruddin Ahmed 1、Gulendam Bozdayi2、Bora Dogan2、Sinan Sari3、Ilknur Bostanci4、Buket Dalgic3、Yildiz Dallar4、Seyyal Rota2、Akira Nishizono5
1Division of Infectious Diseases, Department of Social and Environmental Medicine, Institute of Scientific Research, Oita University    2Department of Medical Microbiology, Faculty of Medicine, Gazi University,     3Department of Pediatric Gastroenterology, Faculty of Medicine, Gazi University,    4Department of General Pediatrics, Ministry of Health Ankara Training and Education Hospital,     5Division of Microbiology, Department of Infectious Diseases, Faculty of Medicine, Oita University   
Globally, diarrhea caused by rotavirus is one of the major causes of child mortality and morbidity. A surveillance study was done to understand the current situation of rotavirus infection in Ankara, Turkey. Stool samples were collected from children under 5 years of age attending at Gazi University Hospital and Ankara Training and Education Hospital. From October 2004 till March 2005 a total of 319 samples were collected, among which 128 (40.1%) were positive for rotavirus by ELISA. Genomic dsRNA was extracted from stool samples for electropherotyping by polyacrylamide gel electrophoresis (PAGE) and G typing by RT-PCR. A total of 32 samples subjected to PAGE revealed 5 different electropherotypes. RT-PCR was done on a total of 93 samples using primers for G1, G2, G3 and G4 types. Among them 50 (53.8%) was of G1 type, 1(1.1%) was G2, 3 (3.2%) was G3, 3(3.2%) was G4 and 36 (37.1%) were untypable. The VP7 genes of eight untypable samples were subjected to nucleotide sequencing. It was found that two of them were type G1 and 6 were of G9. Our study indicates that, although G1 is the dominant strain, G9 is prevalent and emerging in Turkey. The current vaccines for rotavirus are not targeted for G9 type rotavirus infection.
P2-28
2001年から2003年に日本、中国、ロシア、タイ、ベトナムにおいて分離されたヒトロタウイルスG1, G2, G3, G4のVP7の遺伝子解析
Quang Trinh duy1、Anhtuan Nguyen1、Gia tung Phan1、Pattara Khamrin1、Hainian Yan1、Shoko Okitsu1、Hiroshi Ushijima1
1Departmento of Developmental Medical Sciences, Graduate School of Medicine, Univ of Tokyo, Tokyo, Japan   
Background: The pattern of rotavirus G-type distribution seems to be changing in many parts of the world. This study was conducted in order to learn the trend of the VP7 gene of the 4 common rotavirus G types G1-G4 in some Asian countries.

Materials and Methods: PCR products of the VP7 encoding gene of 76 human isolates of rotavirus G1-G4 isolated in China, Russia, Thailand, and Vietnam during 2001-2003 were sequenced and their deduced amino acid sequences were compared to representative strains.

Results:The Japanese and Chinese G1 strains had an aa substitution at the position 91 (Thr to Asn) belonging to antigenic region A. In comparison to the G2 prototype strain DS-1, 2 considerable aa substitutions of the G2 strains were identified at position 96 (Asp to Asn) in antigenic region A and position 213 (Asn to Asp) in antigenic region C, the same changes as other global strains isolated since 1996 in previous studies. For the Chinese strains isolated in 2001-2003, in comparison with the G3 strains circulating in China during 1986-1992, a wide range of aa substitutions (up to 16 in the VP7 antigenic regions) was identified and the considerable changes were located at position 96 (Asp to Asn) and position 213 (Asp to Asn). For the Japanese G4 strains isolated in 2002-2003, there was one major change at position 146 (Ala to Thr) in antigenic region B.

Conclusion: These findings may explain why G3 rotavirus was found to be the most prevalence in China during 2001-2003.
P2-29
バングラデシュ、ダッカにおけるノロウイルス胃腸炎の分子疫学
Shuvra kanti Dey1、Anh nguyen Tuan 1、Gia phan Tung1、Shoko Okitsu1、Hiroshi Ushijima1
1Department of Developmental Medical Sciences, Graduate School of Medicine, Univ of Tokyo, Tokyo, Japan   
Background: Diarrhea, over the years, has killed millions of people and continues to be a major threat in Bangladesh. Norovirus, a member of the family Calciviridae is one of the major causative agents of viral gastroenteritis affecting all age group.
Objectives: To determine the incidence of norovirus infection in infants and young children with acute gastroenteritis in Dhaka City, Bangladesh; to characterize the detected norovirus according to genogroup and genotype.
Study design: A total of 917 fecal specimens were collected from infants and children with acute gastroenteritis in Dhaka City, Bangladesh during the period of October 2004 to September 2005. All fecal specimens were examined for norovirus by reverse transcription-polymerase chain reaction.
Results: Norovirus were detected in 41 of 917 fecal specimens. Molecular analysis of norovirus was carried out by sequencing methods. Norovirus detected in this study was clustered into only one distinct genogroup II and the norovirus genogroupII clustered into one genotype (GII/4). In this study, norovirus GII/4 was predominant strain. Our results clearly indicated that norovirus infections were most commonly observed in winter and rainy seasons in Dhaka City. The common clinical symptoms of norovirus infected patients were diarrhea (90%), vomiting (75%) and abdominal pain (46%).
Conclusions: To our knowledge, this is the first epidemiological research of norovirus in Bangladesh. This is the first epidemiological research of norovirus in Bangladesh. Norovirus is one of the common enteropathogen responsible for viral gastroenteritis among infants in Bangladesh
P2-30
ベトナムの水系環境から分離したVibrio choleraeの薬剤感受性について
比嘉 直美1、トーマ クラウディア2、Nguyen Binh Minh4、岩永 正明5、安田 正昭3、鈴木 敏彦2
1琉球大学 大学院医学研究科 病原因子解析学分野・大学院連合農学研究科 生物機能開発学    2琉球大学 大学院医学研究科 病原因子解析学分野    3琉球大学 大学院連合農学研究科 生物機能開発学    4ベトナム国立衛生疫学研究所 微生物    5アワセ第一医院   
【目的】ベトナムでは、2000年以前には可動性薬剤耐性遺伝子群(SXT ICE)を有し多剤耐性を示すコレラ菌によるコレラの流行が報告されていた。しかし2001年にコレラの発生が見られず、その後2004年までの患者分離コレラ菌はSXT ICEを持たない感受性株であった。世界的には今尚、多剤耐性菌が蔓延していることから、環境中に棲息するコレラ菌の薬剤感受性を調査することで、その耐性機序を明らかにしたい。【方法】ベトナムでコレラ流行のあった14地域の川・池などから収集したVibrio choleraeについてスルファメトキサゾール(SU)-トリメトプリム(TM)合剤(ST合剤)、ストレプトマイシン(SM)、テトラサイクリン(TC)、クロラムフェニコール(CP)、ナリジクス酸(NA)に対する薬剤最小発育阻止濃度(MIC)を寒天平板希釈法により検査した。被検薬剤に対する耐性遺伝子や、SXT、Class Iインテグロンなどの存在をPCR法で確認した。SXT ICEには外来遺伝子が入りやすい領域(Hotspot)が4つ存在することから、これらHotspotについて解析した。【結果】収集したV. cholerae 20株の血清型はすべてnon-O1, non-O139であった。ST合剤のMIC値は全ての株が高度耐性を示したが、その他の薬剤のMIC値は様々であった。20株中SXT ICEを有するものは5株であった。このうち2株は多剤耐性で、CP、SM、SUの薬剤耐性遺伝子が確認されたが、TCやTMの耐性遺伝子は確認できなかった。【考察】今回初めて、ベトナムの水系環境中からSXT ICEを有する多剤耐性株を分離した。SXT ICEを有する5株とも薬剤感受性に違いが見られ、薬剤耐性遺伝子の伝達が環境中で頻繁に行われていることが推測された。
P2-31
コレラ菌の線維状ファージfs2のattL, attR領域の解析
江原 雅彦1
1長崎大学 熱帯医学研究所 病原因子機能解析   
【目的】コレラ菌の線維状ファージfs2はコレラ毒素の産生を亢進する遺伝子、rstCを有し、またCTXφとまったく同じattを有することから、fs2がコレラ菌染色体遺伝子にsite-specific integrationしていることが予想され、左右のjunctionを決定する。【方法】TLC, CTXφ,RTX, fs2のattの両側のプライマーを作製し、Polymerase chain reactionを行って各junction を調べ、それぞれのampliconの塩基配列を決定する。【成績】fs2はCTXφの左側のjunction,attL より下流で同じ、Ig-1内にsite-specific integrationが確認され、コレラ菌では3種類(classic, El Tor, O139)ともに同じ部位にjunction が確認された。Junction: 5’-TAATACGCACTAAGGCGG-3’【結論】コレラ菌の線維状ファージはコレラ患者のすべての下痢検体から検出され、病原性に及ぼす因子については多くが不明のままであった。しかしfs2遺伝子の解析の結果、rstCが存在することが判明し、今回site-specific integration が確認され、線維状ファージのもつhorizontal gene transferの機能の重要性が示唆され、またこのファージに感染したコレラ菌は予想以上に毒性が生体内では強いことが予想された。
P2-32
柑橘抽出デバイスを利用したサルモネラ検出法のラオスにおける調査
翠川 裕1
1鈴鹿医療科学大学 保健衛生学部 医療栄養学科   
【目的】柑橘由来成分が、サルモネラの増殖に対し特異的に影響を及ぼすかを調べた。柑橘を用いて新しく開発したサルモネラの検出法を用い実際にラオスで食品や検便からサルモネラの分離を試みた。
【方法】サルモネラ(ネズミチフス)株(マックファランドNo.1×1/2)をDHL培地に一面塗抹し、柑橘成分を直径10mmペーパに100μlしみ込ませ、乾燥させたディスクを間に置き、24時間培養後に観察した。アスコルビン酸0.89モルとクエン酸1.41モルのディスクを用いて、ラオス食品23検体とヴィエンチャン郊外の農村住民63人の便検体を用いてサルモネラの検出を試みた。
【成績】柑橘抽出成分で、アスコルビン酸とクエン酸は、ディスクの周りに硫化鉄黒環を形成した。食品23検体中、11検体からサルモネラが検出された。63人中、18人の便からサルモネラが検出された。
【結論】アスコルビン酸ディスク、クエン酸ディスクは、サルモネラの検出に有効であることが考えられた。ラオスの市場の生鮮食料品は、サルモネラの汚染が顕著で、調査したラオス、農村のサルモネラ菌感染率は日本に比べ非常に高く、約280倍もの感染リスクがあった。
P2-33
バングラデシュにおけるコレラの季節変動を制御する気象因子
Masahiro Hashizume1、Ben Armstrong1、Yukiko Wagatsuma2、Asg Faruque3、Taiichi Hayashi4
1London School of Hygiene and Tropical Medicine, London, UK    2University of Tsukuba, Tsukuba, Japan    3International Centre for Diarrhoeal Disease Research, Bangladesh, Dhaka, Bangladesh    4Kyoto University, Kyoto, Japan   
Introduction: Cholera shows a bimodal seasonality in Bangladesh: the first peak is before the monsoon and the second peak is at the end of the monsoon suggesting that weather factors could play a role on this clear seasonality. Little epidemiological research, however, addressed the role of climate on seasonality of cholera. We aim to quantify how much climatic factors attributed to seasonal variation in cholera incidence in Bangladesh.Methods: We conducted a time-series analysis on the weekly number of cholera patients using a Diarrhoeal Disease Surveillance data of the International Centre for Diarrhoeal Disease Research, Bangladesh (ICDDR,B) Dhaka Hospital. Poisson regression models were used to predict weekly case counts adjusted for rainfall and ambient temperature, respectively. Fractions of seasonal variations attributed to rainfall and ambient temperature were estimated by comparing the predicted case counts in each week with a minimum value of the predicted case counts. The analysis was conducted before and after monsoon separately.Results: Some of the seasonal variations of cholera can be explained by high rainfall and high ambient temperature. Fractions attributed to high rainfall and high ambient temperature were different between before and after the monsoon. The detailed results will be presented in the poster.Discussion: The potential effect of other weather variables, sensitivity to model assumptions and generalisability of the findings will be discussed.
P2-34
フラクトオリゴ糖継続摂取がバングラデシュ都市部スラム街小児の体重増加および下痢発症抑制に及ぼすプレバイオティク効果-無作為二重盲検プラセボ試験-
中村 禎子1、SA Sarker2、MA Wahed2、我妻 ゆき子3、奥 恒行1、 門司 和彦4
1県立長崎シーボルト大学 大学院 人間健康科学研究科    2国際下痢症研究センター    3筑波大学大学院人間総合科学研究科    4長崎大学熱帯医学研究所熱帯感染症研究センター   
【目的】 開発途上国における小児下痢症は深刻な健康問題である。本研究は、下痢症状に対する難消化性オリゴ糖のプレバイオティク効果を観察するために、バングラデシュ都市部スラムに在住する小児に、難消化性甘味糖質であるフラクトオリゴ糖(FOS)を市販飲料に添加した溶液を6ヶ月間継続的に経口摂取させ、体重増加に及ぼす影響ならびに下痢発症に対する抑制効果を検討した。【対象および方法】 バングラデシュ・ダッカ市のミルプール地区に在住する25〜59ヶ月の男女児を無作為にFOS飲料摂取群(F群)とプラセボ群(P群)に75名ずつ割付けた。F群には市販粉末飲料(ポカリスエット、大塚製薬(株))1.85gを蒸留水50mLに溶解してFOS(明治製菓(株))2gを添加し、P群にはブドウ糖(日本食品化工(株))1gを添加したものを調製し、現地アシスタントが毎日各児に直接経口投与した。体重測定は隔日に1回、身長と上腕周囲径測定は1ヶ月に1回実施した。また、母親への面接調査を実施し、排便回数、便形状、その他の症状、抗生物質投与の有無を記録した。【結果および考察】 6ヵ月後の体重増加はF群では0.86(0.55)kg、P群では0.89(0.48)kgで、成長に及ぼすFOS摂取による有意な影響は観察されなかった。下痢の回数、下痢1日あたりの排便回数に有意差はなかったが、6ヶ月間の下痢総日数はF群3.3日、P群6.3日でF群が有意に少なく(p=0.039)、下痢1回あたりの日数もF群2.5日、P群3.2日とF群が有意に短かった(p=0.008)。また、呼吸器症状と抗生物質投与がほとんどの乳児に観察された。以上の結果、FOS継続摂取による成長・発育に対する効果は観察されなかったが、下痢症状に対する改善効果のあることが示された。また、抗生物質投与の影響を排除する必要性が示唆された。
P2-35
システインプロテアーゼ阻害剤によるEntamoebaの脱嚢及び脱嚢後アメーバの発育の抑制
牧岡 朝夫1、熊谷 正広1、小林 正規2、竹内 勤2
1東京慈恵会医科大学 熱帯医学講座    2慶応大学 医学部 熱帯医学寄生虫学教室   
システインプロテアーゼ(CP)は消化酵素として細胞の増殖を担うとともに赤痢アメーバの病原性因子の一つとしてその重要性が明らかになっている。しかし、アメーバの脱嚢および脱嚢後アメーバの発育への関与に関しては報告がみられない。そこで今回、脱嚢・発育へのCPの関与を調べるため、CP阻害剤を用いて検討した。赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)の脱嚢・発育のモデルとなるE. invadensの系を用い、その栄養型を嚢子形成液に移し3日間培養することにより嚢子を得、この嚢子を栄養型培養液に戻すことにより脱嚢を誘導した。種々の濃度のCP阻害剤存在下で脱嚢したアメーバ虫体数を比較した結果、用いた6種のCP阻害剤のうち、Z-Phe-Ala-DMKとE-64dの存在下で、濃度に依存したアメーバ虫体数の減少が認められた。一方、これらのCP阻害剤は嚢子の生存率には影響を及ぼさなかった。脱嚢したアメーバの発育をその核数により調べた結果、これらのCP阻害剤は発育も抑制することが明らかになった。一方、他の4種のCP阻害剤Z-Phe-Phe-DMK、E-64、ALLMおよび cathepsin inhibitor IIIの脱嚢抑制効果は弱かったが、嚢子の抽出液中のCP活性は抑制することができ、E-64が最も強い阻害活性を示した。E-64dはE-64の膜透過型アナログであり、嚢子壁透過により阻害効果を示したと考えられた。ゼラチンゲル電気泳動により検出された嚢子と栄養型のプロテアーゼのバンド・パターンには違いがみられ、その多くがCP阻害剤Z-Phe-Ala-DMKの存在下で消失した。脱嚢直後および発育の進んだアメーバのバンド・パターンを嚢子および栄養型と比較した結果、脱嚢直後のアメーバのプロテアーゼは嚢子タイプであるのに対し、発育の進んだアメーバでは栄養型タイプに変化していることが判明した。以上の結果から、システインプロテアーゼはアメーバの脱嚢・発育にも関与しており、ひいては感染の成立に貢献していることが示唆された。
P2-36
米国の節足動物媒介感染症サーベイランス―マサチューセッツとニューヨークでの経験―
蜂矢 正彦1
1国立国際医療センター 国際医療協力局 派遣協力第二課   
米国東海岸では過去に黄熱病、マラリア、東部ウマ脳炎、西ナイル脳炎などが公衆衛生上脅威とされ、種々の対策が取られてきた。演者は最近マサチューセッツ(MA)州とニューヨーク(NY)州において節足動物媒介感染症サーベイランスに携わる機会があったので、当地での業務経験を紹介する。【MA州立ラボラトリ】州保健局の施設であり、疫学情報の収集と解析、特殊検査、ワクチンの製造配布などを行っている。演者はフルタイム臨時職員として、フィールド担当者、ラボ担当者、統計学者と共にヒト、ウマ、トリ、カの疫学解析を行った。サーベイランスは主として東部ウマ脳炎を対象としていた。【MAの東部ウマ脳炎】1979年以来CDCトラップを一定の方法で設置し、捕獲されたカのウイルス検査を行っていた。そこで1979-2004年に報告された東部ウマ脳炎ヒト患者数と比較したところ、蚊のウイルス感染率および感染蚊数がヒト患者数と有意に相関していた。【NYサフォーク郡保健局】演者が大学院研究室に所属していた際、パートタイムコンサルタントとして節足動物媒介感染症対策の有効性評価を委託された。サーベイランスは主として西ナイル脳炎を対象としていた。【NYのWN脳炎】2000-2004年のサーベイランスデータ(ヒト、ウマ、トリ、カ)を用いて、年次別・季節別に西ナイル脳炎のリスクを評価した。トラップの種類、設置地点、設置時期が一定でないため、カの捕捉数や感染率が経時的に評価できなかった。カを減らすために殺虫剤を散布していたが、殺虫剤の種類、量、濃度が地域により異なっていたため、散布効果の評価できなかった。【考察と結語】MAと比較するとNYではサーベイランス方法が一定しておらず、感染症リスクの評価が困難であった。節足動物媒介感染症サーベイランスには公衆衛生学者と昆虫学者の協力が必須と思われる。
P2-37
ベトナム国中部ナチャン市の乾季におけるデング熱媒介蚊Aedes aegypti幼虫・蛹の発生源とその分布
都築 中1、Vu Trang Duoc2、比嘉 由紀子1、Le Viet Lo3、後藤 健介1、Le Trung Nghia3、野内 英樹1、Nguyen Thi Yen2、高木 正洋1
1長崎大学 熱帯医学研究所     2ベトナム国立疫学・公衆衛生学研究所    3ナチャン市国立パスツール研究所   
デング熱媒介蚊調査や対策に利用されてきたHouse Index(HI)、Breteau Index(BI)、Container Index(CI)などの幼虫採集指標は効率的な媒介蚊対策を実施するための指標として不十分なものであることが近年報告されている。ベトナム国中部の地方都市における幼虫・蛹発生源の属性の詳細を本研究で明らかにする。2006年7月24日より8月5日の間に、市内2地区(A、B地区)の全家屋と1地区(C地区)から無作為に選ばれた26家屋を訪問し、敷地内で確認された全ての保水容器の属性(容器の容量や所在場所等)、媒介蚊幼虫・蛹の有無と個体数、について調べた。採集された蚊幼虫・蛹は実験室内で個体数と種の同定を行った。合計270家屋の中で無人家屋や調査への参加を拒否した23家屋を除く247家屋(A地区120、B地区124、C地区26家屋)での媒介蚊調査を実施した。幼虫・蛹陽性家屋の割合(HI)は39.6%〜46%であった。確認された1032個の容器の中で幼虫・蛹陽性容器の割合(CI)は17.8%〜19.0%であった。100家屋あたりの幼虫・蛹陽性容器数(BI)は17.7〜19.1であった。それぞれの調査地区で確認された容器の34.1%〜43.6%は花瓶、35.1%〜37.8%はポリバケツであり、この2種類の屋内容器はいずれの調査地区でも最も多く見られた。幼虫・蛹陽性容器の中でも花瓶は31.4%と最も多かったが、採集幼虫・蛹個体数に関してはそれぞれ全採集数の中に占める割合は低かった(10.9%、6.9%)。一方、コンクリート貯水槽は全容器数の1.9%であったにも関わらず多数の幼虫、蛹が採集された(幼虫数・蛹数それぞれ全体の12.9%、26.0%)。容器数、幼虫・蛹陽性容器数では花瓶が最も多かったにも関わらず幼虫・蛹の数採集個体数では容器数の少ないコンクリート貯水槽や古タイヤで採集された幼虫・蛹数の方が多くこれらの容器はナチャン市内の乾季終盤における重要な発生源容器であることが示唆された。
P2-38
一般市民におけるウエストナイルウイルス感染症の認知状況とワクチン需要予測調査
鈴木 智之1、大日 康史2、多田 有希2、ポール キツタニ2、登坂 直規1、菅原 民枝2、岡部 信彦2
1国立感染症研究所 感染症情報センター 実地疫学専門家コース(FETPJ)    2国立感染症研究所 感染症情報センター   
ウエストナイルウイルス(WNV)感染症については厚生労働省や自治体によってホームページやパンフレット等を用いた情報提供がなされているが、一般市民におけるWNV感染症の認知状況は把握されていない。本研究では、一般市民のWNV感染症の認知状況を把握すること、またWNVワクチン接種に対する需要を予測することを目的として、2005年9月と10月(日本人初の輸入発症例報告の前後)に、質問票(郵送法)による調査を行った。第1回調査の対象者は、調査会社の保有する全国25万世帯が無作為抽出されているパネルから地域・年齢郡で層別抽出し、第2回調査は第1回調査の回答者に対して行った。回答者数は1回目5987名、2回目4268名であった。調査内容は、1.日常の屋外活動時間、2.被蚊穿刺状況、3.居住環境、4.蚊対策状況、5.WNV感染症の認知、6.認知時期、7.死亡リスクの認知、8.感染経路の認知、9.WNV感染症の日本への侵入リスクとした。また、WNVワクチンの費用、流行程度等に基づく接種希望の有無を同質問票において質問した。第1回調査においてWNV感染症の認知率は20%、死亡リスクは15%、感染経路は12%であった。第2回調査においては、認知率は22%、2005年10月の輸入発症例を知っているものは21%であった。ワクチン需要予測は、接種費用を5000円、副反応率1/1000万として現在の状況で導入した場合、接種希望率は、小児15%、成人8%、高齢者5%であった。費用が1000円上がると9%, 3%, 0%に低下し、国内感染が確認された場合は23%, 15%, 16%に、死亡例が確認された場合は60%, 46%, 47%にそれぞれ増加した。本研究によって、一般市民に対する更なる情報提供の必要性が示唆された。また、本症に対するワクチンが導入される場合の接種体制においても本研究は重要な示唆を与えると考えられる。
P2-39
東南アジアおよび太平洋州におけるチクングニアウイルス感染症の分布
井上 真吾1、Nemani Talemaitoga3、A. Aryati4、Mohammed A. Islam5、Efren M. Dimaano6、Ronald R. Matias7、Wimal Abeyewickreme8、大石 和徳2、Filipinas F. Natividad7、森田 公一1
1長崎大学 熱帯医学研究所 分子構造解析分野    2長崎大学 熱帯医学研究所 感染症予防治療分野    3National Center for Scientific Services on Virology and Vector Borne Diseases    4Department of Clinical Pathology, School of Medicine, Airlangga University    5Bangladesh Agricultural University    6Blood Borne Diseases, San Lazaro Hospital    7Research and Biotechnology Division, St. Luke's Medical Center    8Department of Parasitology and Molecular Medicine, School of Medicine, Kelaniya University   
【目的】チクングニャウイルス(CHIK)はトガウイルス科アルファウイルス属に属し,主としてAedes aegyptiによって媒介されるアルボウイルスである。本ウイルスの地理的な分布は東南アジア、アフリカおよび西太平洋の島々である。本病は臨床症状がデング熱と似ており、十年に一度という長い周期でしか流行が起こらない事から通常の検査項目に含まれておらず、デング熱として診断および治療がなされている。本研究では5カ国から採集した臨床的にデング熱と診断された患者血清を用いてCHIK感染の例がどのくらいあるのかを調べた。【方法】2001年から2005年にかけてフィリピン、インドネシア、ベトナム、スリランカ、フィジーの5カ国から採集した305検体の血清を用いてCHIKに対するIgMならびにIgGをIgM-captureELISAおよびIgG-indirect ELISAにて測定した。【結果】全体でCHIK IgM陽性が15例(4.9%)、CHIK IgG陽性が41例(13.2%)検出された。CHIK IgM陽性率が最も高かったのがフィリピン(11.1%)、最も低かったのがバングラデシュ(0%)であった。CHIK IgG陽性率が最も高かったのがインドネシア(25.0%)、続いてフィリピン(14.3%)で、最も低かったのがフィジー(4.9%)であった。【考察】CHIKは東南アジアに広く分布しており、特にインドネシア、フィリピンなどで高率であった。フィジーにはCHIKは存在しないとされているが、今回CHIK抗体陽性例が認められた。同国では同じアルファウイルス属のロスリバーウイルスが1979年に流行した事が報告されている。その後も散発例が症例報告されているので、今回のCHIK抗体陽性例がCHIK感染によるものかロスリバーウイルス感染によるものかについて現在同定中である。
P2-40
デングウイルス二次感染症における血小板減少への静注用γグロブリン大量療法の効果
齊藤 麻理子1、井上 真吾2、本田 章子1、有吉 紅也1、大石 和徳3
1長崎大学 熱帯医学研究所 感染症予防治療分野    2長崎大学 熱帯医学研究所 分子構造解析分野    3大阪大学 微生物病研究所 感染症国際研究センター 高病原性感染症研究部門   
背景:デング熱(DF)およびデング出血熱 (DHF) はデングウイルス(DV)によって惹起される蚊媒介性疾患であり、熱帯・亜熱帯地域の都市近郊を中心とした流行が見られる。我々は以前本症における血小板減少症へのPlatelet-associated IgG(PAIgG)の関与を報告し、血小板上の抗DV抗体のFcを介したマクロファージクリアランスが起きているという仮説を提唱した。今回、静注用γグロブリン(IVIG)大量療法をDV感染患者に施行し、大量のγグロブリンによるマクロファージのFcRブロックが血小板減少を抑制するか否かについて検討した。
方法:フィリピン、マニラ市のサンラザロ病院に入院し臨床的、ウイルス学的にデングと診断された患者のうち、発熱後5日以内で末梢血血小板数2万−8万/μLの患者を登録した。登録患者をIVIG投与群と非投与群とに分け末梢血血小板数およびPAIgG値の推移を比較した。またWHO診断基準によるDF、DHF重症度診断を行った。
結果:DV感染患者34症例を登録した。IVIG投与群17例(DF:8例、DHF:9例)、非投与群17例(DF:10例、DHF:7例)で比較したところ、両群間に血小板数の有意な差は認められなかった。重症度別の比較では、DF症例での入院3−4日目の末梢血血小板数はIVIG投与群で非投与群よりも有意な低値を示したが、DHF症例では差が認められなかった。一方、入院後2、5、10日後に測定したPAIgG値はいずれも両群間の差は認められなかった。
考察:今回の結果では血小板減少におけるIVIGの効果は認められず、Fcレセプターを介したマクロファージ貪食による血小板減少は否定的であった。しかしながら補体レセプターを介した貪食の可能性も残っており、今後この点について検討を進める予定である。また今回はDF, DHF I, II症例のみの検討であったため、より重症のデングショック症候群(DSS)を対象とした研究も必要と考えられる。
P2-41
デング出血熱症例の末梢血動態の検討(タイラヨーン県における)
花房 茂樹1、Charnchudhi Chanyasanha2、Dusit Sujirarat2、鈴木 忠1
1東京女子医科大学 救急医学    2マヒドン大学公衆衛生学   
(はじめに)デング出血熱はデングウイルス感染症の重症型であり、ショックに移行することが知られている。その予後は、適切な診断と循環管理に依存しているが途上国においては可能な検査も限られておりその診断には身体所見以外に血算の特異的な変化を追うことがデング感染症の臨床診断に有用であると考えられている。今回、我々はデングの浸潤地域であるタイ王国ラヨーン県立病院においてデング出血熱例の末梢血動態の検討をしたので報告する。(方法)2004年9月から2005年9月の間にデング感染症の診断でラヨーン県立病院に入院した症例のうちWHOのデング出血熱の診断基準に合致する162例を対象とした。対象症例をショック例と非ショック例の2群に分けそれぞれの末梢血動態をショックの出現するとされる解熱日を中心に比較した。(結果)対象症例は非ショック125例、ショック37例であった。両群とも白血球数は解熱日前後にて最低値となりその後増加する傾向を認めた。ショック例では非ショック例に比べて入院中の白血球の最低値が低かった(p<0.05)。白血球分画ではリンパ球比率は解熱日では非ショック例がショック例に比して有意に高かった(p<0.05)。しかし、デング感染症に高頻度に発現する異型リンパ球の比率は両群では有意差を認めなかった。血小板数は解熱日と翌日に最低値となりその後増加する傾向を認め、ヘマトクリット値は解熱日に最高値となりその後減少する傾向を認めたが両群間に有意差を認めなかった。(考察、結果)以前に報告されていたように白血球数、血小板数は解熱日に最低値を示す傾向が示された。しかしデング出血熱のWHOの診断基準の項目であるヘマトクリット値や血小板数ではショック群、非ショック群間に有意差を認めず、重症度の指標とはならなかった。白血球分画の比率が重症度の指標になる可能性が示唆された。
P2-42
デング熱回復者リンパ球を用いたヒトFabライブラリーの構築と抗デングウイルス3型中和モノクローナル抗体の分離
上地 玄一郎1、山城 哲2
1長崎大学 国際連携研究戦略本部    2熱帯医学研究所   
デング熱は世界中で広く発生する感染症だが、ワクチンなどの有効な予防法および治療法は確立されておらず早期の効果的な治療法の確立が急務である。 前回我々は有効なデングウイルス感染症予防および治療法開発の一環として、ファージパニング法を用いてチンパンジー検体よりデングウイルス4型(DEN4)を効率よく中和するFab抗体を分離し、それを元にヒト化完全型IgG1を作製した(J. Virol. Vol. 78, 2004)。 今回は、デングウイルス3型(DEN3)を効率よく中和するヒトFab抗体の分離を試みた。 2003年9月、サンラザロ病院(フィリピン、マニラ)デング感染病棟にて回復期にあり同意を得られた成人入院者のうち、デングウイルス特異的IgM抗体陽性の8人から2週間後に末梢血を採取しリンパ球を分離しライブラリーを作製した。 ELISAプレートに固層化した精製DEN3(H-87株)に対してパニング(生物学的濃縮)後、コロニーハイブリダイゼーション法およびELISA法により精製DEN3を認識するFab発現大腸菌を選抜した。 DEN3に対する中和活性能を有するFabをFocus reduction法により選別した。 その結果、構築したヒトFabライブラリーのサイズは約3.5×107cfuであった。 DEN3を効果的に中和するFab発現クローンが選択され、プラスミドの塩基配列およびそのコードするアミノ酸配列を決定した。 パニングにより得られたFab(3G6)は4.68 μg/mlの濃度で50% focus reductionを示した。 ヒトFab抗体はチンパンジー由来のヒト化抗体と比較し、HACA(human anti-chimeric antibodies)出現などが少ない可能性があり、実用化に向けて、迅速な進展が予見される。*本研究はサンラザロ病院倫理委員会の承認を得、Elizabeth F.O. Telan医師、 MA. Theresa Alera医師の協力の下に行われた。
P2-43
パラグアイにおけるデング3型ウイルスの分子疫学
Jose Diaz aquino1、Wei-feng Tang1、Ryuichi Ishii1、Yoshihiro Makino1
1First Dept of Public Health, Oita Univ, Oita, Japan   
Dengue virus type-3 (DENV-3) was reintroduced into the American region in 1994, causing a major epidemic of dengue fever (DF)/dengue hemorrhagic fever (DHF) in Nicaragua and a small outbreak associated with DF in Panama. DENV-3 has since been circulating in Central America. It has been reported in Guatemala and El Salvador, and it has also spread southwards into Venezuela and Brazil, thus causing major outbreaks. In this study, we determined the nucleotide sequence of the entire envelope gene on 11 strains of DENV-3 isolated in Paraguay from 2002 to 2004 and the findings were then compared with the published DENV-3 sequences to determine the lineage of these isolates. The results showed that the Paraguayan strains are clustered into subtype III-B and are most closely related to the Brazilian and Martinique strains, followed by the Cuban, Venezuelan, and Mexican strains. A phylogenetic analysis indicated geographical movement of the subtype III-B strains: The Paraguayan strains were transmitted from Central America through the Caribbean islands, Brazil, and finally to Paraguay over a period of about eight years. This is the first genomic characterization of the DENV-3 strains from Paraguay.
P2-44
バングラデシュにおける2002年のデング流行に関する分子生物学的ならびに臨床学的解析
Islam Mohammed a.1、Ahmed Muzahed u.2、Begum Nasima3、Chowdhury Naseem a.3、Khan Afjal h.1、Parquet Maria del c.1、Inoue Shingo1、Hasebe Futoshi1、Suzuki Yasuo4、Morita Kouichi1
1Department of Virology, Institute of Tropical Medicine, Nagasaki University, Nagasaki, Japan    2Department of Medicine, Faculty of Veterinary Science, Bangladesh Agricultural University, Mymensingh, Bangladesh    3Shaheed Suhrawardi Hospital, Dhaka, Bangladesh    4Department of Biochemistry, School of Pharmaceutical Science, University of Shizuoka, Shizuoka, Japan   
【Objectives】 During the febrile illness epidemic in Bangladesh in 2002, 58 people out of 6132 affected, died. Two hundred hospitalized patients were analyzed clinically, serologically and virologically to determine the features of this dengue infection. 【Methods】 Among the 10 to 70 year old age group, 200 clinically suspected dengue patients were examined by virus isolation and IgM-capture ELISA. Of the 100 dengue confirmed cases, the possible dengue secondary infection rate was determined by Flavivirus IgG-indirect ELISA. Sequence data for the envelope gene of the Bangladeshi isolates were used in a phylogenetic comparison with same DEN serotype from other countries.【Results】 A hundred (50%) were confirmed as dengue cases by virus isolation and dengue IgM-capture ELISA. Of the 100 dengue confirmed cases, the mean age was 29.0 (± 12.4). The possible dengue secondary infection rate determined by Flavivirus IgG-indirect ELISA was 78%. Eight dengue virus strains were isolated, the first dengue virus isolation in the country and all were dengue virus type-3 (DEN-3). A phylogenetic analysis revealed that all 8 strains of DEN-3 were clustered within a well-supported independent sub-cluster of genotype II which were closely related to the Thai isolates from the 90’s. 【Conclusion】 It is likely that the currently circulating DEN virus in Bangladesh were DEN 3 and they entered from neighboring countries.
P2-45
デングウィルス感染症のHLA解析
Lan p.t. Nguyen1、Mihoko Kikuchi2、Michio Yasunami2、Huong q.t. Vu3、Ngu t.t. Vu3、Dao n. Hoang3、Tham d. Vo4、Dat v. Tran5、Ha q. Do3、Toshifumi Oyama1
1Department of Molecular Immunogenetics, Institute of Tropical medicine, Univ. of Nagasaki, Nagasaki, Japan    2Center of International Collaborative Reserch, Univ. of Nagasaki, Nagasaki, Japan    3Arbovirus laboratory Pasteur Institute, HCMC, Vietnam    4Pediatric Hospital No.2, HCMC, Vietnam    5Center for Preventive Medicine, Vinh Long Province, Vietnam    6Department of Virology, Institute of Tropical medicine, Univ. of Nagasaki, Nagasaki, Japan   
Dengue fever (DF) provoked by Dengue virus infection is getting a serious public health problem in the tropics. Severe forme of DF namely Dengue Hemorrhagic fever (DHF) and Dengue Shock Syndrome (DSS) develop on day 3-4 in some % of DF patients that are characterized by bleeding tendency and plasma leakage. In this study, we made an experimental design to identify the host gene(s) contributing to the development of DHF, or DSS in Vietnamese by hospital-based case control study.
The patients with DF, DHF or DSS were clinically diagnosed by WHO criteria, and their peripheral blood samples were collected at the Center for Preventive Medicine, Vinh Long Province (VL), and the Pediatric Hospital No.2, Ho Chi Minh City (NDII) in 2002 to 2005. The patients’ age ranged between 10 months and 15 years. Two hundreds age and sex matched control samples were collected in VL. The number of the patients with DF was 114, with DHF was 206, and with DSS was 413 in total from two sites. HLA class I (HLA-A, B), class II (DRB1) and TNF-α promoter SNPs typing were performed.
HLA-A*24 was significantly increase in DHF/DSS (Chi square for trend: DF/DHF/DSS = 15.384, p= 0.0001) and HLA-DRB1*0901 was significantly decrease in severe patients (Chi square for trend: DF/DHF/DSS = 15.127, p= 0.0001). These HLA-DRB1*0901 patients also showed resistance (P value= 0.012) to the most virulent serotype - dengue virus serotype 2. The DRB1*0901 allele might contribute to resistance and A*24 might contribute to susceptible to DSS in Vietnamese.
P2-46
日本脳炎迅速診断のためのReal Time RT-LAMP法の開発とその評価
Kouichi Morita1、Sr Santhosh2、Pk Dash2、Nk Tripathi2、P Saxena2、P Ambuj2、Ak Sahni2、Pv Lakshmanarao2、Manmohan Parida2
1Division of Virology, Inst of Trop Med, Univ of Nagasaki, Nagasaki, Japan    2Division of Virology, Defence Research & Development Establishment, Gwalior, M. P., 474002. India.   
The standardization and validation of a one-step single tube accelerated quantitative RT-LAMP assay is reported for rapid and real-time detection of Japanese Encephalitis virus (JEV). The RT-LAMP assay reported in this study is very simple and rapid wherein the amplification can be obtained in 30 min under isothermal condition at 63oC by employing a set of six primers targeting the E gene of JEV. The RT-LAMP assay demonstrated exceptionally higher sensitivity compared to RT-PCR with a detection limit of 0.1 PFU. The specificity of the selected primer sets were established by cross reactivity studies with other closely related members of the JEV serocomplex as well as evaluation with healthy human volunteers. The comparative evaluation of RT-LAMP assay for clinical diagnosis with limited number of patient CSF samples revealed 85% concordance with conventional RT-PCR with a sensitivity and specificity of 100% and 86% respectively. The concentration of virus in most of the clinical samples was 0.1 PFU to 100 PFU as determined from the standard curve based on their time of positivity. In addition, the monitoring of gene amplification can also be visualized with naked eye using SYBR Green I fluorescent dye. The easy operation without requirement of sophisticated equipments make it a valuable tool for the rapid and real-time detection of JE virus not only for the well-equipped laboratories but also for peripheral diagnostic laboratories with limited financial resources in developing countries.
P2-47
Evidence of a pH-dependant conformation specific structural epitope in Japanese encephalitis Virus.
Edward g. m. Mathenge1、Masaru Nawa2、Kouichi Morita1
1Department of Virology, Institute of Tropical Medicine, Nagasaki University, Nagasaki ,Japan    2Department of Microbiology, Saitama Medical School, Saitama, Japan   
Background:Previous studies reveal E protein epitopes in Japanese encephalitis virus (JEV) to be important neutralization targets. A dorsally located site straddling the confluence of domains 1 and 2 of the envelope protein, was identified as epitope 503 (Ep503).Objective:To gain further understanding of the mechanisms of neutralization effected by monoclonal antibodies targeting Japanese encephalitis Virus epitopes.Material & Method:JEV strain JaGAr01 was analyzed under varying pH conditions using a combination of plaque assay, comparative ELISA against neutralizing monoclonal antibodies and under electron microscopic (EM) observation.Results and Conclusions:We found that the JEV neutralizing monoclonal antibody 503 (mAb503), targeting the Ep503, demonstrated decreased epitope interaction in JEV exposed to increasingly acidic conditions. This indicates that the pH induced transition of the E protein from the normal dimer to its fusogenic trimer conformation interfered with Ep503 conformation and accessibility.EM analysis show that the 503 epitope becomes distorted with pH change mAb 503 is hindered from direct access due to the torsional conformational changes that occur as part of the pH-triggered E protein transformation leading to formation of the virus’ fusogenic conformation.Electron micrographs of JEV and West Nile flaviviruses exposed to acidic conditions showed presence of pH dependant nodules that co-locates to the flaviviral trimeric conformation.Based on these results we postulate that monoclonal antibodies targeting dorsally located epitopes on the E protein can act as trimer conformation blockers and development of therapeutic agents targeting the same or similar, epitopes may offer a therapeutic avenue for infection management.
P2-48
KAP survey on rabies and pet care in Kandy District, Sri Lanka, 2006
Gc Matibag1、T Kamigaki1、Tg Wijewardana2、Pvr Kumarasiri3、Aw Kalupahana2、Dra Dissanayake2、Ddn De silva2、Gsp des Gunawardena2、Y Obayashi1、H Tamashiro1
1Graduate School of Medicine, Hokkaido University, Sapporo, Japan    2Faculty of Veterinary Medicine and Animal Science, University of Peradeniya, Sri Lanka    3Faculty of Medicine, University of Peradeniya, Sri Lanka   
Background
Despite its control efforts to combat the disease since the mid-1970s, rabies still remains endemic in all provinces of Sri Lanka.
Objective
To assess the knowledge, attitudes, practices about rabies and pet care among the study population in Kandy District, Central Province.
Materials and Methods
This cross-sectional study, performed on 8-25 May 2006, utilized in-person interviews using structured questionnaires in the urban, rural and estate sectors of Kandy District. After randomized selection, the sample consisted of 6,925 persons from 1,570 households.
Findings
More respondents from urban and rural areas (90%) than from estate areas (71%) knew that dogs are the most common reservoirs in Sri Lanka. About 88% knew that rabies could be prevented by regular animal vaccination. Majority preferred to seek treatment from physicians if bitten (95%). More estate respondents (71%) would report animal bite episodes to authorities than urban (45%) and rural respondents (56%). About 86% favored animal population control. Rural and urban respondents (35%) were more likely to let their pets roam around than urban respondents (22%). Urban respondents were more likely to cohabit with their pets (15%) than rural and estate respondents (8%). Although most pet dogs were vaccinated (76%), only 48% of immunization cards were shown during the interview.
Discussion and Conclusion
There is a direct relationship between rabies knowledge and socio-economic group of respondents. Public health education, responsible pet ownership, and regular vaccination campaigns, especially in estate areas, would be vital to increase community participation and thereby eradicate the disease.
P2-49
Evaluation of health-seeking behavior among exposed persons in the community, Central Province, Sri Lanka
Gc Matibag1、T Kamigaki1、Tg Wijewardana2、Pvr Kumarasiri3、Aw Kalupahana2、Dra Dissanayake2、Ddn De silva2、Gsp des Gunawardena2、Y Obayashi1、H Tamashiro1
1Graduate School of Medicine, Hokkaido University, Sapporo, Japan    2Faculty of Veterinary Medicine and Animal Science, University of Peradeniya, Sri Lanka    3Faculty of Medicine, University of Peradeniya, Sri Lanka   
Background
Rabies remains endemic in all provinces of Sri Lanka with an annual dog bite incidence of 2,000 per 100,000 and human deaths at 0.4 per 100,000.
Objective
To establish the benchmark data on medical care-seeking behavior and treatment compliance among the exposed persons in selected localities of the Central Province.
Materials and Methods
This cross-sectional study, performed on 8-25 May 2006, utilized in-person interviews using structured questionnaires in randomly selected areas of Kandy District, Central Province. The sample consisted of 6,925 persons from 1,570 households.
Findings
A total of 357 animal bites (5,112 per 100,000) and 2 rabies deaths (29 per 100,000) have been encountered 12 months prior to the survey. One was a documented case while the other died at home. Eighty-eight percent of injuries fell within 6 to 64 years of age (mean: 33.84±2.11 years). Bites on the legs and feet were the most common (60%). Half the cases occurred at home. Most patients have consulted physicians for treatment (96%). Only 14% of exposed persons had completed post-exposure vaccine. Dogs were the most frequently attacking animals (93%) and were mostly pets (75%) that were vaccinated (47%). One case of feline rabies has been encountered (14 per 100,000).
Discussion and Conclusion
The incidence of animal bites and human rabies are well above the reported national average. It is of paramount importance to carefully examine the existing surveillance and reporting systems. We highlight the importance of universal pet immunization coverage to prevent potential rabies transmission.
P2-50
開発援助と精神医学 -文化結合症候群の視点から-
吉田 尚史1
1東邦大学医療センター大橋病院精神神経医学講座   
開発援助と精神医学 -文化結合症候群の視点から-
International Development and Psychiatry -from a Perspective of Culture-Bound Syndromes-

東邦大学精神神経医学講座 吉田尚史

文化結合症候群は、Culture-Bound Syndromes(CBS)の邦訳であり、精神医学者や文化人類学者によって、主に研究がなされてきた。本発表の主旨は、CBS概念を用い、開発援助における精神医学領域の諸問題を批判的再検討することにある。CBSは、狭義のCBSから、それに続く広義のCBSへ、さらに近年では、広義のCBSに含まれる新しいCBSについての報告へと変遷している。1980年に出版されたDSM-3から始まり、現在のICD、DSMに続く、精神疾患の操作的診断体系は、今日のグローバル化が精神医学領域でなされ、規格化されたものである。それら精神疾患の分類、つまり国際診断基準の使用を非西洋世界で行うとき、開発援助と精神医学が、非西洋世界と交差すると考える。その際に生じる諸問題を、CBSの視点から、考察することができよう。
初期の文化精神医学は、19世紀後期に、Kreapelinが、ジャワ島に赴き、西洋世界の精神医学の「普遍性」を検証したことに始まる。西洋世界からみた、非西洋世界の珍奇なCBSが、20世紀初期に至るまで多数報告された。CBSは、「普遍的ではなく、精神症状の成立と症状が、ある文化的特徴に関連している」と定義される。狭義のCBSは、未開民族の原始的な反応という西洋世界の自民族中心主義の見方からはじまり、特徴的な症状と限定された地域的な分布をもつと考えられた。その後、CBSは、広義のCBSとして拡大され、広範な診断学的スペクトラムをもつと定義された。今日では、新しいCBSとして西洋世界の精神疾患を指摘する報告がある。CBSの視点から、精神医学の「普遍性」(ただし、西洋世界における)を再検討する作業を通し、開発援助という臨床現場におけるローカルな実践への提言を行っていく。
P2-51
カンボジアの助産師継続教育の現状
鈴木 里美1、平井 さよ子2、飯島 佐知子3、賀沢 弥貴4、柳澤 理子5
1岐阜県立看護大学    2愛知県立看護大学    3愛知県立看護大学    4愛知県立看護大学    5信州大学医学部保健学科   
〔背景・目的〕カンボジアの妊産婦死亡率は出生10万対440と高く、保健省は継続教育による助産師の能力および技術強化を目指しており、国際協力機構は母子保健センター研修、Reproductive and Child Health Alliance はLife Saving Skills研修、ドイツ技術協力公社はMidwifery 4 month研修(以下3研修)の実施に協力してきた。2000年、保健省はヘルスセンター(HC)助産師研修の標準教材としてMinimum Package Activity Module(MPAM)を作成したことから、本研究は、3研修の実態およびMPAMの活用状況について分析し、助産師継続教育の現状について考察する。〔方法〕保健省文書、助産師継続教育資料等の1次資料を収集し、援助機関の助産師継続教育担当者、保健省人材育成部長4名に半構成的面接を行った。得られたデータを助産師継続教育の現状を分析するためのデータに分類し考察した。〔結果・考察〕1.研修の評価は、短期的には研修終了時に知識や実技が確認され、長期的にはHC訪問によるフォローアップが行われていた。評価は研修カリキュラムに反映され、効果的な研修サイクルが運用されていた。2.3研修は、カンボジアの政策による産科ケアの基準を一部満たしていなかった。研修内容にオキシトシン、胎盤用手剥離等を盛り込み、住民に最も近いHCの助産師が救急時に対応できる必要性が示唆された。3.3研修を受講した助産師が配置されているHCは全国で53.1%、州別では首都近郊6州が50%以下と低い状況であった。今後、助産師研修の継続、そのための予算確保が必要と考えられた。4.MPAMを未活用と回答した援助機関もあったが、3研修は共通の項目を含み活用されていた。今後、保健省、研修機関、援助機関の支援体制の強化によって、HCレベルの助産師研修を作成していくことが課題である。 本研究は、愛知県立看護大学大学院看護学研究科修士論文を一部加筆・修正したものである。
P3-01
南アフリカにおけるHIV感染予防対策としての女性用コンドーム普及に係る調査
水元 芳1、青木 美由紀2、津山 直子3、橋本 秀美4
1JICA 南アフリカ事務所    2シェア=国際保健協力市民の会    3日本国際ボランティアセンター    4JICA 南アフリカ事務所   
【背景】
南ア政府は女性主導のHIV感染予防を推奨し、2002年、地域を選択して女性用コンドーム(FC)の無料配布に着手した。FC配布については賛否両論、様々な議論が交わされる中、政府のFC無料配布の拡大は足踏み状態となっている。
【目的】
FCの利点と問題点を分析し、女性主導のHIV感染予防について今後の課題を考察する。
【方法】
2006年3月から5月にかけて、リンポポ州のHIV予防対策関連女性ボランティア計53名を対象に、自記式質問票とグループ・ディスカッション(GD)による横断的調査を実施した。調査対象者の多くはFCを使用したことがないとの事前情報から、FC配布前の意識調査、使用についてのワークショップ開催、配布、配布1カ月間の使用状況と使用後の意識調査、GD実施、という手順で調査を行った。
【結果】
配布前、90%が「使用したい」と回答したのに対し、配布後実際に使用したのは全体の54%であった。利点として、「性交渉を始める前から準備できる」(使用者の56%)、「男性用より使用感がよい」(使用者の44%)等が挙げられた一方、質問票オープン・エンド、およびGDにおいて、「レイプされた時に感染を防げる」との利点が数多く記載、言及された。問題点として、使用者の中からは「リングが固すぎる」等、製品そのものの改良を求めるものが多く、使用しなかった人においては、「最初の交渉が難しい」、「男性パートナーが嫌がった」、「使用を試みたがうまく装着できなかった」等が挙げられた。
【考察】
FC配布にあたり、パートナーと予防についてのコミュニケーション力をつける、FC使用方法に関するサポート体制を充実させることが重要であった。また、女性への予防対策は女性が複数パートナーを持つことではないという共通認識を広げることも必要だと考えられる。
P3-02
南アフリカ共和国リンポポ州ベンベ郡マカド地区における在宅/コミュニティケア現状把握調査
青木 美由紀1、津山 直子2、磯田 厚子2、TV AAP3
1(特活)シェア=国際保健協力市民の会    2(特活)日本国際ボランティアセンター     3Tivoneleni Vavasati Aids Awareness Project   
【はじめに】
南アフリカ共和国では総人口の約13%にあたる530万人がHIVに感染していると報告されており、特に15〜49歳の成人陽性率は21.5%で510万人にも及ぶ。在宅/コミュニティケア(Home/Community-Based Care、以下、HCBC)は1999年に公布された「国家HIV/AIDS対策戦略計画2000−2005」に基づいて保健・社会開発省によって2000年に開始された。しかし、全国で統一されたHCBC実施者の登録システムやモニタリングシステムが整備されておらず、ケアサービスの現状把握、およびサービスの質の管理がされていないのが実情である。

【目的】
日本のNGOであるシェア、JVC、および現地NGO・TVAAPとの共同プロジェクト実施開始前に、当該地におけるHCBCの現状把握を行い、今後の同サービス強化のために有効な提言を抽出し、活動計画に生かすことを目的とした。

【調査対象と手法】
保健行政官、ヘルススタッフ、ソーシャルワーカー(9名)、NGO(8団体)、ボランティア(25名)、ケアギバー(4名)、トレーナー(3名)、村長・女性グループ(9名)を対象とした個人インタビュー、フォーカス・グループ・ディスカッションに加え、文献調査、活動視察を実施した。

【結果と考察】
南アにおけるHCBCプログラムの9割はNGOにより実施されており、サービスはわずかな手当てを支給されている「地域のボランティア」(主に女性)によって提供されている。今後のHCBCプログラム強化のためには、現場で働くボランティアたちの声を吸い上げ、サービスの向上に生かしていくためのモニタリングシステムの構築、現場のニーズに即したトレーニングの強化、医療機関との連携強化、ボランティア同士のネットワークの強化、ケア・サービスの質向上のためのNGO運営能力強化などが急務と考えられる。
P3-03
マラウイ共和国リロングウェにおける抗レトロウィルス剤の服用について−医療従事者、服薬援助者、患者の役割
木曽 正子1、Ali Moazza1、Nyasulu Yohane2、黒岩 宙司1
1東京大学大学院 医学系研究科 国際保健学専攻 国際保健計画学教室    2Kamuzu College of Nursing, Malawi   
1.緒言「3 by 5」施行後、マラウイ政府は郡レベルへ治療を拡大するにあたり、Guardian Supported therapyを導入した。本研究の目的は、医療従事者のARTについての理解度、患者の服薬におけるガーディアンの役割と患者のARTにおいて直面している問題点を明らかにすることである。2.方法調査は、マラウイ共和国リロングウェ郡にある8ヵ所のHIV/AIDSクリニックで、2005年6月から7月にかけて実施された。調査対象は調査参加への同意を得た医療従事者、ガーディアンそして患者であった。医療従事者への自記式質問紙調査、ガーディアンへの質問紙を用いたインタビュー、患者へのインタビューと患者記録の写しがデータとして収集された。3.結果医療従事者は21名で、医師2名、準医師9名、看護師10名だった。看護師のARVsの副作用に関する理解度が、処方医(医師及び準医師)のそれよりも有意に低かった(36.0 vs. 21.6, p<0.01)。その一方で、医療従事者の多くは(16/21)は自分のARTに関する知識に自信を持っていた。ガーディアンの参加は13名だった。彼らのARTについての認識は高かったが、一方で飲み忘れた時の対処法については答えられなかった。患者記録117例から、患者のアドヒアランスの平均は91%(SD 2.1)であった。治療期間5ヵ月未満(AOR=0.35, 95%CI: 0.17-0.71)と治療開始時WHOステージIV(AOR=4.51, 95%CI: 1.84-11.02)が95%以上アドヒアランスの予測因子と考えられた。また患者へのインタビューから、ほとんどの患者が治療の効果に満足をしていたが、治療継続のための更なる支援を必要としていた。4.考察マラウイにおけるARTの充実を図るためには、医療従事者とガーディアンへの継続的、効果的な教育プログラムの実施と特にガーディアンへの治療参加のサポート体制の構築、患者・医療従事者・ガーディアン間の連携のあり方の再考、それと同時に患者への治療継続のための支援制度の導入が必要である。
P3-04
ナイロビのスラムにおけるエイズ・インパクトとその対処戦略―エイズ・インパクト緩和政策のインプリケーション―
関根 一貴1
1London School of Hygiene and Tropical Medicine   
【目的】HIV・エイズの猛威により過去数十年で得た開発の進歩が蝕まれており、予防だけでなくエイズ・インパクト緩和の研究と政策の発展が急務である。エイズがケニアの都市部に住むエイズ患者をもつ家庭の資産にどのようにインパクトを与えたかを特定し、そのインパクトにどのように家庭が対処しようとしたかを調査する。その調査結果からエイズ・インパクト緩和政策のインプリケーションを考察する。【方法】半構造的インタビューを22の家庭のエイズ患者もしくはその配偶者に行った。資産を分析するフレームワークとしてMoserが考案した「資産脆弱性フレームワーク」を使い、エイズ・インパクトが家庭の持つどの資産に影響し、どの資産を使って対処したかを見た。【結果】労働力関連ではエイズにより低下した労働力や家庭内労働者の欠如を補うために、家庭内の労働者数の増加、労働時間の延長、収入源の多様化が見られた。低い生産資本所有率のためか、生産資本関連のインパクトと対処戦略はほとんど見つからず、いくつかの世帯ではミシンやラジオが清算された。人的資本関連では食費・医療費の削減、子供を学校から退学・不登校にさせるインパクトや対処戦略が確認された。家族関係関連では家庭内労働力再配分でインパクトに対処していることがわかった。社会関係資本は対処戦略の中でNGOやCBOからの援助やコミュニティの結束により他の資産の剥奪を埋め合わせる補完的役割を果たすことが認められた。【結論】エイズ・インパクト緩和プログラムの拡大、女性世帯主の家庭の優先的配慮、対処戦略の障害となる商売許可・女性の相続権・エイズ患者への拒絶・差別の是正の推進、草の根で活動しているNGOとCBOの支援、エイズ孤児の教育支援、ARVsの無料提供とプライマリー・ヘルス・ケアの拡充を緩和政策のインプリケーションとして提示した。
P3-05
ジンバブエ共和国マシンゴ州HIV母子感染予防プロジェクト進捗の検討
橋本 尚文1、内山 雄太1、垣本 和宏2、宮村 和夫2、石田 裕2
1ジンバブエ共和国マシンゴ州HIV母子感染予防プロジェクト JICA専門家    2国立国際医療センター 国際医療協力局   
【目的】 ジンバブエ国2006年の15歳以上49歳以下人口のHIV感染率は、20.6%であり、HIV母子感染予防は重要課題である。マシンゴ州は妊婦の感染率が高く、2005年11月より「マシンゴ 州HIV母子感染予防(PPTCT)プロジェクト」が開始された。本研究では、その進捗状況を検討する。【方法】プロジェクトは、HIV(+)母親のPPTCTサービスの利用率の向上、PPTCTサービスサイトの増加、州及び郡保健局のエイズ対策マネージメント能力強化を通じた、垂直感染減少を目的としている。現在までの活動の2006年9月時点での成果を検討する。【結果】IEC教材開発ワークショップを2006年4月開催。マシンゴ郡看護師への研修を2006年5−10月実施中。78名の看護師にPPTCT研修を、20名の看護師に迅速HIV抗体検査研修を既に実施。現在はHIV(+)母親の児への授乳栄養指導研修を実施中である。マネージメントについては、2005年11月に長期派遣専門家1名、2006年1−2月に2名、2006年6月に1名、2006年9月に2名の短期派遣専門家が派遣され、関係者のプロジェクト運営管理に対する意識が徐々に高まりつつある。【考察・結語】ジンバブエには、複雑な政治体制、年間1200%の超インフレ、男性上位の文化風土など多くの障壁が存在する。保健においても、保健医療関係者の転職・移動、PPTCTサイトの少なさ、HIV抗体検査受診率、検査後カウンセリング率の低さなど問題が多い。まず、充分な数の看護師を育成し包括的サービスを提供できる医療施設を増やすことが必要である。また一般人口への地道なsensitizationも必須である。今後はこれらに重点を置いた活動が中心となると思われる。【謝辞】JICA本部及びジンバブエ国JICA事務所江口秀夫所長のご理解とご支援に深謝する。
P3-06
ガンダのHIV感染者に対する7価肺炎球菌コンジュゲートワクチンと23価肺炎球菌ワクチン併用接種の血清免疫学的効果に関する研究
陳 蒙1、黒木 麗喜1、吉嶺 裕之1、有吉 紅也1、大石 和徳2
1長崎大学 熱帯医学研究所 感染症予防治療分野    2大阪大学 微生物病研究所 感染症国際研究センター 高病原性感染症研究部門   
【目的】近年、途上国においても抗HIV療法 (ARV)の実施が可能になり、末梢血CD4数が200/μl以下ではARVが推奨されている。一方、肺炎球菌感染症の高リスク群であるHIV感染者に対する肺炎球菌ワクチンの役割は明らかでない。そこで、我々はCD4 200/μl以上のHIV感染者に対する7価コンジュケートワクチン(CV)と23価ポリサッカライドワクチン(PV)併用接種後の莢膜ポリサッカライド(CPS)に対する免疫誘導を比較検討したので報告する。【方法】対象として、Joint Clinical Research Center, Ugandaで1) Group A:HIV感染者で末梢血CD4細胞数200 ̄500/μl(n=40,平均36.5歳)、2) Group B: HIV 感染者でCD4細胞500/μl以上(n=30, 平均37.3歳)、3)Group C: HIV非感染者 (n=30, 平均27.1歳)を登録した。ワクチン接種は、CVとPVを2ヶ月の間隔で一回ずつ接種し、接種前、CV接種後2ヶ月とPV接種後1ヶ月の血清中CPS14とCPS4特異IgG抗体濃度と抗体のオプソニン活性を測定した。【結果】CV接種2月後の血清中CPS特異IgG濃度(GMC; μg/ml)は接種前に比較して有意に増加した(CPS4:Group A; 前1.47, 後3.96, Group B; 前0.85, 後3.99、Group C; 前0.83, 後6.75。CPS 14:Group A; 前5.06, 後22.25, Group B; 前5.1, 後41.54、Group C; 前4.58, 後51.43)。抗体のオプソニン活性も接種前に比較して有意に増加した。ワクチン接種後IgG濃度とオプソニン活性の相関が増加した。抗体応答レベルは末梢血CD4細胞数に依存していた。PV接種1月後の血清中特異IgG濃度とオプソニン活性の増加は認められなかった。【結論】CD4数200/μl以上のHIV感染者においてCV接種はそのCD4数に応じて特異抗体濃度と抗体のオプソニン活性を増加させるが、CV接種後のPVの効果は認められなかった。
P3-07
ウガンダにおけるHIV孤児に対する社会保障・生活保護制度
Yukiyo Nose1
1 Bureau of International Coopearation, International Medical Center of Japan, Tokyo, Japan   
Objectives:
To develop the effective social security system in the foreseeable future to prevent HIV affected children who are subject to HIV infection, the current social security system to protect HIV affected children were investigated in Uganda.
Methods:
The combination of interviews, focused group discussions and the field visits were used to investigate the social security system in Uganda; 93 and 183 key stakeholders were interviewed and invited to focused-group discussions, respectively.
Results:
Community level and NGO level’s social security system were well established, offering the support that well met personal needs. Donors including UN organizations offered a wide range of social security system that covered the largest number of population. While NGO and donors’ interventions had largest financial amount, involving the largest personnel in implementation, their approaches were often project-based that have limitations in sustainability and continuity. While small in scale, the central and local government's interventions were constant and more formal.
Discussion:
For sustainability, there is a need to recognize the strengths and weaknesses of each key stakeholder in the social security system and coordinate multi-sectorally, namely, health, education, social, economic and legal.
Conclusions:
For sustainable HIV control and prevention in sub-Saharan Africa, there is a need to establish an effective social security system, and break the vicious circles between HIV and child labour. There is a need to coordinate both formal and informal social security systems that are currently run at different levels and different sectors.
P3-08
カンボジア国首都プノンペンにおけるHIV検査受検決定要因に関する考察
佐々木 由理1、垣本 和宏2、Ou Saroeun3、Vong Sathiarany3、Moazzam Ali1、Koum Kanal3、黒岩 宙司1
1東京大学大学院 医学系研究科 国際保健計画学教室    2国立国際医療センター 国際医療協力局    3カンボジア国立母子保健センター   
【目的】 2001年にカンボジア国立母子保健センター(NMCHC)でHIV母子感染予防(PMTCT)サービスが開始し、これまで、パートナーのPMTCTへの関与とHIV検査受検率の関連について報告してきた。そこで今回はHIV検査受検に「パートナーの許可」を必要とする母親の率及び、受検決定要因について検討した。【方法】 2005年12月から2006年2月にかけて、NMCHCの小児予防接種外来に生後6ヶ月から24ヶ月の乳幼児と訪れた312名の母親を対象に、半構造的質問票を用いた個別質問を行った。基本属性及び「パートナーの許可」の必要性について尋ね、受検決定要因の分析には多変量ロジスティック回帰モデルを用いた。【結果】 対象者312名のうち、HIV検査受検していた母親は192名(61.5%)であった。又、「受検にはパートナーの許可が必要」と回答した者は、264名(84.6%)であり、受検者の88.0%(169/192)、非受検者の79.2%(95/120)を占めた。受検要因として子供が第一子であったこと(OR:2.22、p=0.003)、10年以上教育機関に通っていたこと(OR:2.75、p=0.002)、家庭で水道水を利用していること(OR:2.23、p=0.006)が挙げられた。 【結論】 多くのHIV検査受検者はパートナーの許可を得て受検したと考えられ、「パートナーの許可の必要性」そのものは受検要因として関連がなかった。第一子妊娠時よりパートナーを適切にPMTCTサービスに関わらせることで、HIV検査受検率をより高められるものと推察された。
P3-09
タイ北部カレン族のアンフェタミン使用とHIV感染リスク
小堀 栄子1、ウィスルタラタナ スラシン2、嘉田 晃子3、ウォンチャイ シリポーン2、木原 雅子1、木原 正博1
1京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻 国際保健学講座 社会疫学分野    2タイ保健省チェンマイ県保健局    3国立循環器病センター   
背景】タイの北部上部地域は東南アジアのエイズ流行地の1つである。山岳地帯には、歴史・言語・文化などが異なる10あまりの山岳少数民族が暮らしているが、近年、労働や教育の機会を求めて町との接触が深まり、HIV感染のリスクが報告されている。
目的】本研究は、タイ北部の山岳地帯の村に居住するカレン族の村人において、HIV感染リスク行動及びそのリスク要因を明らかにする目的で実施された調査の中で、薬物使用に関するデータを中心に分析した。
対象】調査対象の2村に居住する15-54歳の男女全員を対象とした。村の開発レベルが人の行動に影響することを仮定し、対象村は、舗装道路・電気のある村とない村を選んだ。
方法】フォーカスグループインタビューの結果を踏まえて質問票を作成し、プレテストの後、他記式面接調査を行った。性規範、性行動、薬物使用経験などに関してはイラスト入りの回答用紙を別に用意し、自記式で行った。
結果】566人(A村371人、B村195人)から回答を得た。回答率は81.9%。過去1年間の薬物注射の使用者は1名(男性)。アンフェタミン、アヘン、ヘロイン、大麻のいずれかの使用者は12.9% (N=73)で、アンフェタミン使用者が薬物使用者中74.0%を占めた。性感染症(STI)の罹患歴は、性経験者全体の2.9% (N=11)に見られた。アンフェタミンの使用は、男性、町での仕事の経験、STI罹患経験と、それぞれ独立、有意に関連していた。
考察】カレン族の村人におけるアンフェタミン使用は、村の開発レベルよりも、労働機会を通じた町との接触に関連することが示唆された。また、STI罹患歴とも関連が見られた。以上より、HIV感染流行地に位置し、町との接触を深めているカレン族のコミュニティーに、アンフェタミン使用を介したHIV感染リスクの潜在的な可能性があることが示唆された。
P3-10
タイ北部の小学生のエイズに関する知識および態度−エイズの影響を受けた子どもをとりまく学校環境調査より
石川 尚子1
1School of Lifelong Education & International Development, Institute of Education, University of London   
【目的】エイズの影響を受けている子どもたち(エイズで親を亡くした子どもやHIV感染者を親に持つ子ども、またはHIVに感染している子ども)をとりまく学校環境を理解するために、小学生のエイズに関する知識及び態度を調査する。
【方法】タイ北部のA県内の5つの小学校において3年生から6年生(8〜12歳)までを対象に、エイズの影響を受けた子どもにかかわる内容を中心とした質問紙調査及びフォーカスグループ討論を実施した。
【結果】質問紙の回答者513名のうち471名(92.9%)が過去にエイズという病気について聞いたことがあると答えた。日常生活でのHIV感染のリスクに関しては、HIV感染者と同じコップを使うことによって感染すると答えた生徒が349名(74.4%)、同じ家で生活することによって感染すると答えた生徒が229名(48.8%)、HIVに感染している子どもと一緒に遊ぶことによって感染すると答えた生徒が206名(43.9%)であった。態度に関しては、HIV感染者を親に持つ子どもには近づかないと答えた生徒が120名(25.6%)、なるべく近づきたくないと答えた生徒が227名(48.5%)名、気にしないと答えた生徒が121名(25.9%)名であった。またHIVに感染している子どもと遊ぶのはいやだと答えた生徒が215名(45.8%)、あまり遊びたくないと答えた生徒が218名(46.5%)、普通に遊ぶと答えた生徒が36名(7.7%)であった。フォーカスグループ討論では、HIV感染を恐れる気持ちが、エイズの影響を受けた子どもに対する否定的な態度につながっていることを示唆する発言が多く聞かれた。
【結論】多くの小学生が日常生活におけるHIV感染のリスクを過大評価しておりその誤った知識が彼らの態度に影響を与えていた。HIVの非感染経路についての正しい知識を持つことにより、エイズの影響を受けた子どもたちへの態度が改善する可能性が示唆された。
P3-11
タイ東北部におけるHIV/AIDS患者の抗レトロウイルス剤治療と感染予防行動
小林 廉毅1、北島 勉2、Pagayia Nonglak3、佐藤 元1、豊川 智之1、Suggaravetsiri Pornapa4、Nasungchon Kittisuk5
1東京大学 大学院医学系研究科 公衆衛生学分野    2杏林大学総合政策学部    3Sirindhorn College of Public Health    4Faculty of Public Health, Khon Kaen University    5Sirindhorn General Hospital   
【目的】HIV感染予防として性的パートナーからの感染予防は重要である。先進国ではHAART (highly active antiretroviral therapy) の普及と患者の性行動の変化に関する研究が既にいくつか報告されているが、途上国における研究はほとんどない。そこで、タイ国のHIV/AIDS患者におけるART (antiretroviral therapy) 受療と安全な性行動との関連について調査した。【方法】タイ国東北部の国立総合病院(旧・感染症病院)に通院するHIV/AIDS患者のうち、18歳以上のART受療者150人及び非受療者150人を調査対象とした。調査方法として、外来受診時に看護師が調査趣旨を当該患者に説明し、協力を要請した後、承諾を得られた者に対して社会経済状況や医療サービスの利用状況について聞き取り調査を行い、さらに自記式質問票により生活習慣、性行動、最近の体調などを尋ねた。なお、調査にあたってタイ国保健省の研究倫理審査を受けた。【成績】対象条件に適い、データの揃ったART受療者146人と非受療者134人について分析した。このうち、配偶者等性的パートナーと過去3か月以内に性行為のあった者は118人であり、コンドームを常時使用した者68人(58%)、時々使用あるいは使用しなかった者50人(42%)であった。ロジスティック回帰分析の結果、コンドーム常時使用と関連する要因は、ART受療(p<0.01)と職業あり(p<0.05)であった。この理由として、ART受療者における定期的なカウンセリングの効果、「延命できている」ことの実感、健康に対する意識の高まりなどの可能性が考えられた。今後、ART受療継続に伴う対象者の生活習慣や性行動、体調の変化について追跡調査を行う予定である。【結論】ART受療と職業に就いていることが安全な性行動と関連していた。
P3-12
東アフリカ在住の出稼ぎ中国人のHIV/AIDSに関する意識・知識調査
蔡 国喜1
1長崎大学 熱帯医学研究所 熱帯感染症研究センター   
ケニア、タンザニアの成人HIV罹患率は、7−9%に達している。一方、経済のグローバル化によってこの地域に出稼ぎにくる中国人が年々増えている。タンザニアのダルエスサラームには3000人、ケニアのナイロビには10,000人前後の中国人が居住している。在東アフリカ在住中国人の特徴は、建築現場などで2年程度の単純労働に単身で従事する低学歴の若者が多いことである。彼らは、HIV罹患率0.1%以下中国から、感染率が高く文化と言葉の異なる東アフリカに移住し、どんな生活をし、どんなリスク行動をとるのか。また、当地のHIV/AIDS 状況をどう理解しているのか、エイズに関する知識、エイズ感染者に対する態度はどうか。以上を理解するための予備的研究を実施した。
【対象と方法】当地新華社の紹介により10事業所の男性121名の中国人滞在者に半構成的インタビューを行った。調査期間は2005年8月3日から25日までであった。【結果と討論】車修理場の工員1人を除いて全員がエイズについて聞いたことがあった。彼らは当地のsex workerとの接触も多く、89%は自分がエイズに感染する恐れがあると感じていた。しかしHIVの検査を受けたものはいなかった。80%エイズが治らない病気と認識し、エイズのワクチンが「ない」と答えた人が69%であった。感染経路については9項目の感染経路に関する知識を聞いた質問ではすべて正解した人は31%であった。中国では上記の1名以外はエイズに関する情報をテレビ、雑誌、ラジオなどから入手していたが、アフリカでは情報ソースがないと答えた者が38%に達した。英語、スワヒリ語をほとんど理解しないため、十分な情報を現地で得ることができていなかった。この種の人口が多いこと、および中国でのHIV検査体制の不備を考えると、母国語によるエイズ健康教育や、中国語によるVCT(voluntary counselling and testing)を実施する必要性が感じられた。
P3-13
ARTのadherence測定手法に関する文献レビュー
野崎 威功真1、垣本 和宏1、帖佐 徹1、石田 裕1
1国立国際医療センター 国際医療協力局 派遣協力課   
【目的】 近年、開発途上国におけるantiretroviral therapy (ART)の拡大が目覚しい一方で、低adherenceによる薬剤耐性について危惧されている。日本の国際協力としても今後ARTの拡大支援の機会が増えると予想されるが、adherenceの意味や測定方法は標準化されておらずその評価は困難である。そこで、過去の研究論文からARTのadherenceの測定方法についてどのような手法が用いられているかを明らかにし、問題点などを検討した。【方法】Ovid Full Textを用いて「HIV」と「adherence」をキーワードに2002年以降の原著論文を対象に検索を行った。検索で抽出された81の論文のうちadherenceの測定手法について明確に述べられている50の論文を選定し研究対象とし、各論文について調査項目の要旨を一覧表として作成した。【結果】研究対象国は米国、カナダ、英国、がそれぞれ28件(56%)、5件(10%)、3件(6%)で、アフリカや南米は10件(20%)であった。測定手法としては、セルフレポートが31件(62%)、薬局での処方記録が11件(22%)、Pill-countが9件(18%)、投薬事象監視システムが14件(28%)、検体検査が7件(14%)、これらを組み合わせたものが12件(24%)であった。対象者数は平均が581.2名(24―6288名)であった。【結論】ARTのAdherenceに関する多くの研究は先進国で実施されているが、測定手法の多くはセルフレポートやpill-countなどを用いられていることが判明した。開発途上国におけるadherence測定は今後ますます重要な課題となることから、日常的に実施できるような簡便でより客観的な測定方法についてさらに検討が必要である。
P3-14
タイにおける日本人勤務者のHIV感染リスクに関する研究
Chiaki Ito1、Hideki Yanai2、Lisa Imadzu3、Chantanavich Supang4、Chushi Kuroiwa1
1Department of International Health Policy and Planning, Univ of Tokyo, Tokyo, Japan    2The Reaserch Insitute of Tuberculosis and Nagasaki University    3The Reaserch Insitute of Tuberculosis    4The Asian Research Center for Migration, Institute of Asian Studies, Chulalongkorn University   
Introduction: Thailand, among the countries where a large number of Japanese business expatriates live, happens to have one of the highest HIV prevalences in the world. However, no study has yet focused on sexual behavior and risk of HIV infection among the Japanese business expatriates in Thailand.This study tried to reveal their sexual behaviors and assess their risk of HIV infection. Methodology: A structured questionnaire was used for this cross-sectional study. To supplement the questionnaire, focus group discussion was also conducted. Results: A total of 1,452 Japanese business expatriates in Thailand participated in the questionnaire survey. 42.6% (619/1,452) increased the frequency of sex and 51.0% (741/1,452) increased number of sexual partners since coming to Thailand. The risk of HIV infection was confirmed at least among 193 of 806 respondents (23.9%) as they did not use a condom with a non-regular partner in their last sex in Thailand. Workplace HIV/AIDS intervention was found to be one of the significant factors in reducing their risk behavior in Thailand. In addition, 94 respondents were considered high HIV risk individuals because they became sexually more active since coming to Thailand and also conducted HIV risk behavior in Thailand at the same time. Conclusion: Population mobility of Japanese expatriates to Thailand shaped associations for active sexual behavior and represents HIV risk behavior. Thus, this study warrants behavior modification programmes for the study population on condom use with a non-regular partner in Thailand.
P3-15
AIDS発症した無資格滞在タイ人の一例 第1報:臨床経過
小澤 幸子1、高山 義浩1
1佐久総合病院 総合診療科   
【緒言】HIV感染症の広がりとともに結核を発見する機会が増えている。とくに当院では、なかなか受診行動につながらないタイ人において播種性結核発症例が散見されている。今回我々は、多発性脳結核腫にてAIDS発症したタイ人の一例を経験した。その臨床経過を報告して、緊急に求められている課題について提言する。
【症例】42歳、タイ人男性。約10年前に来日し、無資格滞在で無保険であった。当院受診の約1ヶ月前より倦怠感と咳を自覚、言動異常もみられた。近医を受診したところ、結核を疑われると同時にHIV抗体検査を施行され、同陽性のため当院紹介受診となった。来院時るいそう著明であり、胸部CTにて著明な心拡大と少量の胸水、右上肺野に浸潤影および末梢に結節影、右傍気管領域に5cm大のリンパ節腫大をみとめた。なお頭部MRにて脳実質に無数に散在する一部リング状造影効果のある小結節をみとめた。喀痰、髄液、胸水、心嚢水の各培養では結核菌は証明されなかったが、心嚢水のADAは 67.8 IU/L と異常高値であった。脳結核腫を疑って4剤による抗結核療法を開始したところ、逆説反応を経て、治療への反応は良好であった。約1ヶ月で経口摂取可能にまで回復し、画像上も病変の縮小を認めた。第132病日に帰国支援となったが、その経緯は第2報にゆずる。
【考察】本症例では、HIV感染と播種性病変、ADA高値より結核感染を強く疑って治療を開始した。とくに脳病変については稀な病像であり、診断に苦慮したが、逆説反応ののちに軽快したことから、臨床的に多発性脳結核腫と診断した。平成17年に当院を受診した新規HIV感染者は11名。そのうち4名がタイ人で、すでに3名がAIDS発症していた。その内訳は、本症例を含む粟粒結核2名、消耗性症候群1名であった。無資格滞在外国人に対する、早期受診と治療導入を可能とするシステムが早急に求められている。
P3-16
AIDS発症した無資格滞在タイ人の一例 第2報:帰国支援
高山 義浩1、座光寺 正裕2、小澤 幸子1
1佐久総合病院 総合診療科    2九州大学 医学部   
【緒言】多発性脳結核腫によりAIDS発症した無資格滞在タイ人について、支払い能力のないままに132日間の入院治療を実施した。経済面での限界もあったが、言語を含む文化面でも入院治療には多くの困難が伴った。我々が経験した障壁を紹介し、帰国支援へと至った経緯と課題を検討する。
【経過】言語の障壁にて、医療行為への納得同意が得られず、患者には拒否的態度がしばしばみられた。また、食や整容など生活習慣の違いから、入院生活への適応も困難な様子であった。長期の寝たきり状態のため歩行不能となったが、食事は自力摂取が可能なまでに回復した。生存を可能にするのはHAART導入であるが、無保険のため、我が国においては現実的でなく、帰国支援が唯一の治療と考えられた。本人も帰国を強く希望したため、在日タイ大使館およびNGOの協力をえて、紹介状を持たせて航空機搬送により帰国させた。しかし、5ヵ月後に患者の自宅をフォローアップ目的で訪問したところ、帰国後は通院することなく、自己判断で抗結核療法も中断して自宅静養していたことが判明した。
【考察】当院では、2006年8月までに38名のタイ人HIV感染者を診療してきたが、その転機の内訳は、帰国支援19名、通院中9名、行方不明8名、死亡1名、他院紹介1名であった。すなわち、我々にとって帰国支援は最大の選択肢となっている。ところが、タイ人コミュニティからの情報によると、当院より帰国支援させた患者たちはことごとく死亡しているとのことである。これは、帰国支援を実施しても、現地の医療機関を受診しなかったり、経済的な理由で継続できなかったりしているものと考えられる。こうした現状は、「帰国支援」とは単なる患者の「たらい回し」に過ぎなかったことを露呈している。今後、当院が責任ある医療を行うためにも、現地の医療事情を把握し、現地の医療機関と連携してゆくことが求められている。
P3-17
在日タイ人HIV陽性者の帰国後の確実な治療へのアクセスとstigma軽減のための取り組み
李 祥任1、内野 ナンティヤ2、枝木 美香2、沢田 貴志1
1(特活)シェア=国際保健協力市民の会    2HIV/AIDS在日外国人支援ネットワーク    
【背景】 タイでは、2003年に全国の公立病院でARVの提供が始まり、エイズ医療体制の急速な発展を遂げてきた。その一方で、母国から長年離れて滞在を続ける在日タイ人の中ではエイズに対するstigmaが極めて強く医療費や言語の不安等もあり、検査を受けずに重症化して初めて病院を受診する場合が多い。この結果、日本で亡くなる場合が多く、これまでは帰国しても治療に結びつく例が稀であった。
【活動】 シェアは在日タイ人HIV陽性者の治療へのアクセスに向けて、タイ王国大使館やHIV/AIDS在日外国人支援ネットワークと連携して、母国側の医療情報提供や帰国後の医療機関との橋渡し、医療通訳派遣を実施した。また、病院に対し緊急医療の提供に向けた提言をする他、タイ人を対象にしたエイズの予防啓発活動も実施した。
【結果】 2006年上半期において、6件の通訳派遣と20名のタイ人HIV陽性者へ母国の医療情報提供を行った。また、情報提供を行ったタイ人HIV陽性者(29人:2004-2005年)のうち、帰国後の連絡先を教えてもらえた12人中11人が、帰国後間もなくARV治療を始め、体調を回復したと確認出来た。更に、支援に関わってきた東京近郊の在日タイ人を中心としたボランティアグループが結成され、タイ人へのエイズ予防啓発に主体的に取り組むようになった。
【考察】 連絡が取れた帰国者のほとんどがARV治療にアクセスしていたことから、母国の具体的な情報提供を含めた帰国準備支援が極めて効果的であったといえる。今後の課題として、在日タイ人コミュニティー全体に対してタイのエイズ治療の進歩について伝え、早期受診する事の意義を伝えていくことが急務である。また、東京近郊のみならず関東甲信越地域に拡大し、タイ人HIV陽性者のための通訳や母国の医療情報を提供することができるボランティアの発掘と育成に向けた取り組みを進めていく事が必要である。
P3-18
タイ東北部における喀痰塗抹検査の質評価
南川 真理子1、Singthong Seri2、Tesana Nongluck2、北島 勉3
1杏林大学 大学院 国際協力研究科    2第6疾患予防対策事務所    3杏林大学 総合政策学部   
【背景と目的】喀痰塗抹検査は結核診断と治療方針の決定に重要な検査として広く実施されている。この検査の質を高いレベルで維持することは非常に重要な課題であり、精度保証体制を構築することが必要であるとしてWHOなどの国際機関から指針も示されている。このような背景の下、対象地域における現在の喀痰塗抹検査の質を総合的に評価し、今後の課題を検討する。
【対象と方法】タイ東北部のコンケン県とウドンタニ県の12公立病院を対象に、12質問群合計108項目から構成される質問票を用い、聞き取りと直接観察、検査済み標本の評価により情報を収集した。回答はあらかじめ準備した評価基準に従い得点を付与し、医療の質評価のアプローチである「構造」「過程」「結果」の側面に分類し分析した。
【結果】1)全体として「過程」と「結果」側面の評価に相関が見られた(r=0.67, P<0.05)が、「構造」側面とそれ以外の側面の評価に有意な相関は見られなかった。2)2県の比較で評価に差は見られなかった。3)施設規模により3分類した比較では、いずれの評価側面においても30床規模の地域病院の評価が高く、質問別では顕微鏡、検体採取、鏡顕と報告、標本評価に関連する質問群で、30床規模の地域病院は他群に比べ高かった。
【考察】タイ東北部の喀痰塗抹検査は、検査設備、人材など「構造」側面は一定のレベルに達しているが、「過程」側面では改善すべき点が多々見られ、それが「結果」となって現れていると思われる。疾病構造の変化に伴い大規模施設ほど、検査室業務全体に占める喀痰塗抹検査の割合が低くなり、同時に喀痰塗抹検査に払われる関心も薄くなり、喀痰検査が軽視される傾向にあることが背景要因として考えられる。喀痰塗抹検査の質の向上を図るためには、1)喀痰塗抹検査指針の普及の徹底、特に検体採取と標本作成、2)無資格者を含めた再教育体制の充実、3)検査精度保証活動の導入が重要である。
P3-19
パキスタン結核対策プロジェクトにおける結核対策モデル県の治療成績の報告
宮城 裕人1、塚本 幹夫2、加藤 誠也2、石川 信克2
1聖マリア病院 国際協力部    2結核予防会結核研究所   
【背景】パキスタンにおいては世界保健機関(WHO)の推奨するDirectly Observed Treatment Short Course(DOTS) 戦略を基本とした結核対策プログラムが2000年7月より精力的に実施されている。パキスタン結核対策プログラムの質の向上を目的として日本国際協力機構(JICA)の技術協力プロジェクトが2002年12月より実施された。結核対策プロジェクトの主な活動としてDOTS Programの拡大支援、結核対策モデル県の構築、サーベイランス・システムの強化、及び喀痰塗抹検査精度管理プログラムの支援が行われた。今回、結核対策モデル県の一つであるグジュラート県における結核の治療成績と喀痰塗抹検査精度管理プログラムの成績、及びパキスタンの結核サーベイランス・システムに関して報告する。【成績】グジュラート県の人口約220万人、人口増加率2.2%。2004年の新規結核患者登録数、患者発見率、治癒率、治療脱落率は各々、1721人、41%、73%、5%であった。2005年の患者登録数、患者発見率、治癒率、治療脱落率は2279人、49%, 93%, 3%であった。喀痰塗抹精度管プログラムによる2005年の喀痰検査のSensitivity 90%, Specificity 80%, 一致率97%であった。【考察)】日本の技術支援によりグジュラート県においては他の県と比較的して高い治癒率が得られ、塗抹検査精度管理プログラムの実施により塗抹検査の精度の向上が認められた。モデル・ディストリクトの構築とサーベイランス・システムの強化は、パンジャブ州の結核治療成績の向上に寄与していると思われる。今後、患者発見率の向上と喀痰塗抹検査精度管理プログラムの全国的規模での拡大が求められる。また、全国の治療成績向上の為には研修システムの強化と巡回指導の強化が肝要と思われる。
P3-20
イエメンサナア市におけるDOTSパートナーとしてのNGO保健ボランティアによる結核対策支援の試行
Akihiro Ohkado1、Hamood Mahyub1、Isam Ali-hussein2、Amin Al-absi3
1Department of Research, Research Institute of Tuberculosis, Japan Anti-Tuberculosis Association, Tokyo, Japan    2National Tuberculosis Institute, Ministry of Public Health, Sana'a City, Yemen    3Charitable Society for Social Welfare, Sana'a City, Yemen    4National Tuberculosis Control Programme, Ministry of Public Health, Sana'a City, Yemen   
Objective
It aims to show the feasibility of the involvement of health volunteers of NGO like CSSW (Charitable Society for Social Welfare) as DOTS partner in the NTP case-finding as well as in the NTP case-holding in Yemen.
Methods
Two districts in Sana’a City with around 400,000 population were selected as pilot sites. Investigators collect necessary data in Sana’a City overall so as to calculate the case-notification rates and the treatment outcomes of new smear-positive pulmonary TB cases before and after the interventions. Investigators conducted a series of the training courses for health volunteers and for health staff at health centres in the two pilot districts and did routine monitoring and supervision visits with local TB coordinators responsible. Investigators also conducted a Focal Group Discussion with relevant health staff in the middle of the study.
Results
Sputum conversion rate at 2 or 3 month of the treatment course and cure rate indicated 94% (90 / 96) and 91% (62 / 68) respectively among patients on due. Focal group discussion showed that health volunteers and TB patients had positive impressions about the daily observation during the intensive phase of the treatment. Some management issues were raised to solve for strengthening the collaboration between the NTP and the CSSW. Impact on the TB case-finding has not been assessed yet.
Conclusion
So far a trial to involve CSSW health volunteers as DOTS partner in Sana’a City seems to be encouraging on TB case-holding activities.
P3-21
こどもの結核感染リスク
Hiroshi Nakaoka1
1Dept of Internal Medicine, Institute of Tropical Medicine, Nagasaki University   
Children in contact with adults with pulmonary tuberculosis (TB) are at risk for infection. Tests based on interferon-γ (IFN-γ) expression in response to Mycobacterium tuberculosis antigens may be more sensitive than the tuberculin skin test (TST). Risk for infection was assessed by using TST and an IFN-γ-based assay (QuantiFERON Gold in Tube [QFT-IT] test) for 207 children in Nigeria in 1 of 3 groups: household contacts of adults with smear-positive TB, household contacts of adults with smear-negative TB, and community controls. For these 3 groups, respectively, TST results were ≧10 mm for 38 (49%) of 78, 13 (16%) of 83, and 6 (13%) of 46 and QFT-IT positive for 53 (74%) of 72, 8 (10%) of 81, and 4 (10.3%) of 39 (p<0.01). Most test discrepancies were TST negative; QFT-IT positive if in contact with smear-positive TB, and TST positive; QFT-IT negative if in contact with smear-negative TB or controls. TST may underestimate risk for infection with TB in children.
P3-22
米国の結核の再興に対するアドボカシー戦略から学ぶ
小原 尚美1、石川 信克1
1結核予防会結核研究所   
[目的] 1990年代始めに米国の結核対策の予算が増えた背景と要因を分析し、米国の結核対策の予算を維持してきたアドボカシー戦略を考察する。[方法] 文献レビュー及びニューヨーク結核対策課、米国胸部疾患学会へのインタビューを行った。[結果] 米国の結核は、1986年と1992年の間に急増した。その背景には、HIV/エイズ流行、結核高まん延国からの移民の急増、刑務所等の施設での結核の急激な発生、そして1970年から1980年の間の結核の減少に伴う結核対策の予算の減少などがある。この事態を受けてアメリカ政府は、1992年に結核対策への国家予算を大幅に増加し、徹底したDOTや医療従事者への研修等の対策の強化を行った。その結果、1993年から1997年の間、年平均5%〜7%の結核の減少が見られるようになった。この予算増加の背景には様々なアドボカシー活動が行われていた。米国肺協会と米国胸部学会が結核根絶諮問委員会(ACET)を国会に認めさせ、CDC指示の基、ACETは結核根絶戦略計画を作成した。また新たに結核連盟や結核対策者協会が結成された。さらにCDC長官がメディアに対し、結核の情報を報道するように要請した。約1億ドルの予算は、結核が減少した今でも維持されている。[考察] 政治的な意思を作り出すためには、1一般の人々の結核についての認識、2技術的な意見の統一、3地域の指導者など対策の外にいる人の関心、4メディアの関心、5国会議員・官僚への働きかけ、6パートナーシップの構築が重要である。我が国の結核対策予算が減少し、結核予防法の感染症法統合について検討されている中、結核対策を円滑に行える環境を整備するためには、十分な結核対策予算と人材の確保が必要である。そのためには、国と都道府県レベルのアドボカシー計画を立て、メディア戦略を強化し、パートナーシップを構築することが重要である。
P3-23
留学生の健康観に影響を及ぼす要因分析
菅原 友美1、丹野 かほる2
1国立国際医療センター    2新潟大学 医学部 保健学科   
【背景・目的】 近年の国際化に伴い保健・医療・福祉の分野においても外国人を対象とすることが多くなってきている。平成16年5月1日現在新潟大学の留学生は417人である。留学生の健康生活や健康観に影響を及ぼす要因を分析し、留学生が異文化の中で健康な生活を送るために必要なことは何かを検討・考察した。【方法】 新潟大学の留学生を対象に、無作為抽出により78人に質問紙法による自記式調査を行った。出身地域は東南・南アジア、東アジア、中南米、中東・北アフリカ等である。【結果】 留学生の90%以上が留学前後ともに・スポーツや規則正しい生活等の行動を継続して行っており、中には伝統的な健康法を行っている人もいた。病気の対処行動には学部による違いがあった。日本で受診・治療経験があるほぼ全員が保健医療サービスに満足しており、利用した保健医療施設で最も多かったのは本学の保健管理センターであった。80%以上の人が費用、言葉、受診できる施設を心配しており、約半数の人が日本の気候・風土に影響を受けていた。留学後に食生活の見直し、自己責任の再認識、健康に対する意識の向上等がみられた。【考察】 留学生は留学後も健康に対する意識を持ち続けており、医学専門知識や受診・治療経験を持つ人はより高い意識を持って健康管理を行っている。生活習慣や生活状況も健康に影響を及ぼす要因となっている。言葉は健康を左右する間接的要因の一つであり、医療職者の語学習得が求められている。気候や風土も健康に影響を及ぼしており、季節により適切なサポートが必要である。また、宗教が影響する食行動や宗教の持つ精神性も健康観に影響を及ぼすと考えられる。留学生にとって身近な保健管理センターが受け入れ態勢を充実させ、外部の保健医療施設とより連携を図ることが求められている。留学生の健康観には種々の要因が関連しており、それらを理解し、尊重して関わっていくことが重要である。
P3-24
さいたま市在住のフィリピン人既婚女性が直面している問題 - 対処経験とソ−シャルネットワ−ク -
Nobuyoshi Watahiki1、Eiichi Hata1、Etsuji Okamoto1、Nobuyuki Hyoi1、Artemio r. Licos jr.1、James Ssekitooleko1、Joyce Lyimo e.1、Nyamragchaa Chimedtseren1、Tigist Gebremicheal1、Akiko Hayashi1、Emiko FUkuda1、 Kaori FUkuzawa1、Yumiko Kitagawa1
1 National Institute of Public Health, Saitama, Japan   
【Objectives】The objectives were set in order to enhance well-being of Filipino women married to Japanese men: to find out (i) their coping behaviors in solving their problems; (ii) the social network they utilized in mitigating their problems.
【Methods】A study was conducted involving face to face interview with 18 Filipino women respondents married to Japanese men living in the Saitama city in October, 2005.
【Results】The most frequently mentioned problems were: language and communication (15 respondents), relation with family (8 respondents) loneliness and homesick (7 respondents) and difference of value and custom (6 respondents).
According to type of problems they were faced with, Filipino women took coping actions varying from asking help from somebody to dealing with it by herself. Some of the coping actions could solve problems but others could not. It may be partly because that problem require time to be solved (such as language ability) or were hard to be changed by individual efforts (such as health services and discrimination).
Majority of Filipino women’s social networks tended to fall in families and friend’s circles. Overall, among persons and organizations who offered help, husbands ranked first, followed by Filipino friends, Japanese friends and language classes (Tanpopo-no-kai and others).
【Conclusion】Expansion of social network enabling access to assistance from actors outside families’ and friends’ circles may facilitate Filipino women’s coping with difficulties they encounter in their married life in Japan.
【Master of Public health in International Health】A.R. Licos Jr., J. Ssekitooleko, J.E. Lyimo, N.Chimedtseren, T. Gebremicheal, A.Hayashi, E. Fukuta, K. Fukuzawa, Y. Kitagawa
P3-25
在日外国人の医療保障と慢性疾患の治療継続の関連について
レシャード カレッド1、前里 和夫1
1医療法人社団 健祉会   
【目的】在日外国人の割合は年々増加し、2005年の日本の人口での割合は2.5%となり、演者がいる静岡県では2.9%を占めている。特に県西部における割合はより高く、今や外国人の社会参加なくして一般の生活が不可能となっている。そこで、今回は当診療所を訪れた外国人の診療状況を医療保険の有無との関連を検討し、特に慢性疾患の治療においてその継続性と効果を中心に報告する。
【対象】過去10年間に当院を訪れた外国人患者172名を対象とした。これは全患者数の0.01%に当たる。性別では男性46%、女性54%であり、全体の18%が14歳以下の小児であり、全般的には若年者が大多数であった。慢性疾患としては当院が呼吸器科専門であることもあって、気管支喘息患者が66例と多く、肺気腫5例、肺結核5例、高血圧および胃潰瘍は各4例等であった。国別では、ブラジル国籍55名、ペルー24名、米国22名、フィリピン19名、タイ11名の順に多く、イスラム圏の患者も17名を数えた。
【結果】これら症例のうち医療保険を有する者は105例(61%)で、残りは自費で67例(39%)であり、急性疾患は50例、慢性疾患は101例であった。急性疾患々者の有保険者は23例(46%)、慢性疾患々者の有保険者は72例(71.3%)であった。これらの疾患のうち急性疾患で継続的に2回以上の受診を、慢性疾患で1ヶ月以上受診を長期継続例としたところ、継続的に受診した患者は急性疾患の有保険者では77%、慢性疾患では69%であったが、自費の患者では急性患者32%、慢性疾患58%に受診率が低下し、有保険者においてより確実な治療が行われたことが判明した。
【結論】在日外国人のうち医療保険を有するものは継続的に治療を受けることができ、より治癒率の高い値が得られた。一方、自費例では経済的な理由によって継続的な治療が行われず途中で中断していた。このことより、在日外国人のADLや健康を向上させるためにも医療保険の存在が不可欠である。
P3-26
告知・終末医療場面等での医療通訳者に関する研究
村松 紀子1、庵原 典子1、横山 雅子1
1医療通訳研究会   
【目的】
在日外国人受診の場面は増え続けており、「言葉」の壁を専門性の高い医療通訳者を活用することによって取り除くことが、平等な医療アクセスへの権利保障の第一歩である。しかし、終末期医療や告知等の重篤な場面においては、患者の悲しみやつらさが直接伝わるために、通訳者自身が同じ経験をしたかのようにショックをうけたり、トラウマになったりという二次受傷を体験していると考えられる。 それにもかかわらず通訳者へのケアの重要性がまだ認識されていない。こうした通訳者のニーズをほりさげ、熟練の通訳者が終末医療や告知の場面、または非常に重篤な精神疾患治療の場面で、どのように感じているかついての研究を行い、外国人医療の現場で医療通訳者に何が起きているのか明確にすることを目的とする。
【方法】
日本国内(北海道・山形・群馬・千葉・東京・神奈川・静岡・愛知・大阪・滋賀)において活動している医療通訳者への面談調査(15名)およびアンケート調査(依頼件数33名中有効回答数30)を、2005年10月〜2006年2月に実施した。
【結果・考察】
今回の調査では、医療通訳者の立場・状況によって様々なタイプの「二次受傷」体験がみられた。具体的に次の4つのケースが浮かび上がった。
(1)重篤な精神疾患のケース、(2)身近な親族の通訳、子供が通訳をするケース、(3)告知通訳のケース、(4)死に直面したケース
通訳者には本来「共感性」は必要なく、むしろ倫理に反するといわれることが多々ある。しかし医療場面において通訳者は人間であり、利用する患者、医療者も人間である。通訳者が共感を求められ、かつ人間であることを考慮して、通訳者の二次受傷の可能性も視野に入れながら、医療チームの一員としてソーシャルワーカー、コーディネーターと共に治療に参加できるようなシステムを構築していく必要がある。
P3-27
2003-2005長野県外国人健診 (3年間の)受診者の健康状態とその推移
田代 麻里江1、林 良江2、内坂 由美子3、松村 隆3
1長野県看護大学 看護学部 看護学科 国際看護学    2元長野県看護大学    3北信外国人医療ネットワーク   
【目的】長野県では県の委託事業として、国際課、衛生部、7つのNGOと県看護大学が協力し、県内7箇所で外国籍住民の健康診断を実施している。03年から05年までに本健診を利用した外国人の健康状態と3年間の推移を報告する。【方法】03年度から05年度に長野県外国人健診を利用した者うち、同意の得られた1,049人を分析対象とした。健診結果データはSPSS12.0にて記述統計分析を行った。【結果と考察】男女比はほぼ半数で05年に女性が67.2%と多かった。出身国は39カ国に及ぶが、毎年ブラジル出身者が半数以上を占めた。その他はタイ、中国、フィリピン、スリランカ、ペルーなどであった。平均年齢は32.31(SD15.1)歳で05年が最も高く、平均滞在年数は6.2(SD4.6)年で、やはり05年が最も長かった。生産年齢(15-64歳)の受診者を対象とした分析では、3年間を通じ肉体労働が首位で半数以上、次いで主婦、教師、芸能関係であった。約8割の者が自覚症状を訴えて受診し、健診の結果約7割の者に何らかの異常が認められ、その約半数が要精検であるという割合は、3年間を通じてほぼ変化なく、出身国による目だった違いもなかった。肥満者の割合は30-40%、高血圧の割合は常に20%前後でいずれも05年が最も高く、3年とも男性、ブラジル出身者に多かった。可能性のある病気を指摘された者は、3年を通じて6-7割であり、高脂血症、高血圧、肝機能障害、高尿酸血症、貧血、腎臓疾患などが多く見られた。タイ、フィリピン出身者に肝機能障害、ブラジル、フィリピン出身者に高血圧の者が目立った。以上より、出身国、職業、年齢、滞在年数、性別などが受診者らの健康状態に関与していることが伺えた。外国人らの滞在長期化に伴い慢性疾患を持ちながら就労している者が増加傾向にあることから、外国籍住民への慢性疾患予防対策の必要性が示唆された。
P3-28
途上国に長期滞在する者の健康管理について
田中 孝明1、中野 貴司1、庵原 俊昭1、赤野 友美2
1独立行政法人 国立病院機構 三重病院    2元青年海外協力隊員   
【背景と目的】国際協力に従事する者が活動を円滑に進めていくためには、心身ともに健康であることが大切だが、派遣される地域は一般的に衛生状態や医療事情が劣悪な環境であることが多く健康管理は容易でない。青年海外協力隊員に対して帰国後にアンケート調査を行い、その集計結果から国際協力専門家や渡航者の健康管理を検討する。
【対象と方法】数年以内に途上国へ派遣され、帰国した青年海外協力隊員を対象とした。自記式質問紙票を用い、電子メールでの返信により平成17年に実施した。調査項目は、年齢、性別、滞在地域、滞在期間、ワクチン接種、罹患した病気、マラリア予防薬内服とした。
【結果】20歳から30歳代の45名から有効回答が得られ、派遣地域はサハラ以南アフリカ29名、ほか中南米、アジアなどであった。派遣前に接種したワクチンは破傷風と狂犬病が9割以上でA型肝炎、B型肝炎も高い接種率を示した。マラリア流行地への派遣者28名のうち、予防内服を継続した者は4名であった。マラリア罹患者は11名で、うち9名は予防内服を継続していなかった。派遣前健康管理の指導については現状のままでよいという意見、派遣先での疾病流行・医療機関に関する情報の提供を希望する声が目立った。
【考察】途上国では各種感染症が蔓延しており、適切な予防が何よりも重要である。今回の調査で青年海外協力隊員は高い予防接種率を示し、ワクチン予防可能疾患の罹患者は一人もおらず、派遣前の健康管理システムは有効であったと思われ、一方マラリア予防策は今後改善の余地があると思われる。以上の結果を、今後の途上国への渡航者に役立てることが可能と考える。
P3-29
当院を受診した海外渡航者の検討
菅沼 明彦1、今村 顕史1、味澤 篤1、根岸 昌功1
1東京都立駒込病院 感染症科   
【目的】近年、海外渡航者は増加傾向を示しており、海外で罹患した渡航者への診療機会が増加している。今回我々は、当院感染症科を受診した海外渡航者について検討を行ったので報告する。
【方法】2004年8月〜2006年8月までの2年間に当科を受診した海外渡航者について、背景、受診時期、渡航目的、症状、実施検査、入院例、受診回数について、診療録を基に調査した。
【結果】症例は252例であり、性別は男性152例、女性100例であった。受診者数は、8-9月及び3-4月にピークを認めた。年齢は、20歳台が112例(44%)と最も多く、次いで30歳台(27%)であった。渡航目的は、観光150例(60%)、商用47例(19%)、NGO・ボランティア11例(4%)などであった。渡航先は、アジア210例(83%)と最多であり、国別では、インドネシア42例、インド37例、タイ27例、ベトナム17例が多くみられた。症状は、下痢を162例(64%)、発熱を126例(50%)に認めた。診断は腸管感染症が検査として、便培養166例(66%)、便原虫検査27例(11%)が実施された。便培養陽性65例(2菌種以上同定 12例)、原虫検査陽性は6例であり、検査実施者における陽性率はそれぞれ39%、22%であった。
【結論】当科を受診した海外渡航者は、青年層が多く長期休暇の時期に受診者数の増加を認めた。渡航先は、アジアが多数を占めた。下痢、発熱を呈するものが多く、腸管感染症の頻度が高い。便培養及び便原虫検査の陽性率は高く、海外渡航者における腸管感染症の診断、治療に有用性が高いと思われた。
P3-30
タイに滞在する日本人小児の受療疾患に関する検討
酒井 理恵1、高橋 謙造1、Suchart Laobhripatr2、福島 慎二3、Somarch Wongkhomthong2、丸井 英二1
1順天堂大学 医学部 公衆衛生学教室    2バンコク病院    3海外勤務健康管理センター   
【目的】平成17年10月1日現在、海外に長期滞在および永住する日本人は101.2万人に達している。この長期在留などで家族を帯同する場合、子どもの健康管理が重要な課題の一つとなる。今回我々は、タイ国バンコク市に所在するバンコク病院を受診する日本人の診療記録を解析し、海外に長期滞在する日本人小児の疾病構造について検討を行った。
【対象と方法】2005年1月から2005年12月までの1年間にバンコク病院を受診した日本人で、タイに長期滞在している14歳以下のべ4529名の記録を対象とした。このうち、英語での診断表記があったもの2397名をICD10にしたがって分類した後、健康診断の目的で来院した487名を除外した。
【結果】「呼吸器系の疾患」が703名と最多であった。次に「消化器系の疾患」278名と続いたが、「消化器系の疾患」には「歯科疾患」が含まれており、それらを除いた消化器系の疾患の患者数は52名にすぎなかった。続いて「健康状態に影響を及ぼす要因および保健サービスの利用」(健康診断以外)228名、感染症 171名、皮膚疾患 133名、眼付属器疾患 124名、耳鼻科疾患 117名であった。月別の患者数推移では1月、4月、8月に一時的な受診数の減少を持つ、3峰性を示した。
【考察】1月、4月、8月の一時的な受診者数の減少は長期休暇の時期と一致しており、多くの者が一時帰国中であることが考えられる。「健康診断」のための受診が487名と多いことから、在留邦人家族の子どもに対する健康管理の意識が高いことが伺えた。現地の医療機関とも協力し、海外における充実した小児保健サービスを提供できるよう努力する必要があると考えられる。
P3-31
2005-2006年のスリランカ国立病院狂犬病外来を受診した外国人旅行者における動物咬症の疫学的検討
Amila Gunesekera1、Taro Kamigaki2、Hiko Tamashiro2
1Rabies Treatment Unit, National Hospital of Sri Lanka, Colombo, Sri Lanka    2Department of Global Health and Epidemiology, Division of Preventive Medicine, Graduate School of Medicine, Hokkaido University, Sapporo, Japan   
Rabies is endemic in most parts of Sri Lanka. Mostly rabies is found among dogs, and occasionally found in cats, monkeys, squirrels, mongoose, and other mammals. Fifty five human cases were reported in 2005 despite continuous rabies prevention and control programme.

The National Hospital in Colombo has been one of the most advanced state hospitals in the country with its Rabies Treatment Unit since April 2005. Both local and foreign animal bite victims could receive post exposure prophylaxis (PEP) for free. Appropriate patient's record is provided and maintained for every victim after consultation.

Over 10,000 victims, 30 foreign travelers are recorded and received rabies PEP from April 2005 to August 2006. These tourists come mainly from the UK, Japan, Canada, the Netherlands, Finland, Sweden, Germany, Italy, China, and other countries.

Most of the time, foreign travelers were bitten by dogs after provocation. Dogs attacked the travelers who were trying to approach them with sympathy. Many of these tourists had not received any pre-exposure rabies vaccines.

Any travelers who wish to visit Sri Lanka should receive information on rabies and, if bitten and treated, establish some feedback mechanism from their own countries for the evaluation of outcomes of treatment. This mechanism would also minimize the threat of "importing rabies" in their respective countries
P3-32
ソロモン諸島におけるB型肝炎ウイルス感染の疫学
内海 孝子1、矢野 嘉彦2、林 祥剛3、川端 眞人3
1神戸大学 大学院 医学系研究科 国際環境医科学講座 国際保健学    2神戸大学 大学院 医学系研究科 応用分子医学講座 糖尿病代謝・消化器・腎臓内科学    3神戸大学 医学部附属医学医療国際交流センター   
【はじめに】ソロモン諸島はHBV感染の高度流行国であり、国策としてHBVワクチン接種を推進している。しかし、技術・経済上の理由からHBV関連検査には制約があり、HBVの全容は明らかではない。本研究では、HBV感染の血清疫学、HBV遺伝子型及びその民族特異性を解析することを目的とした。【対象と方法】2004年9月、血清サンプルはソロモン諸島ウェスタン州の住民564名(メラネシアン308名、ミクロネシアン118名)から採取された。HBsAg陽性者については、HBeAg/anti-HBe antibodies、遺伝子型の判定及びウイルス量の測定を行った。【結果】全体のHBsAg陽性率は21.5%であった。メラネシアンに優勢なHBV遺伝子型はC型 (100%)、ミクロネシアンに優勢な遺伝型はD型 (86.1%) であり、他の遺伝子型は見られなかった。HBeAgは遺伝子型Cに高い傾向にあり、HBeAgからHBeAbへのセロコンバージョンは遺伝子型Dで遺伝子型Cより若年期に起こっていた。また、遺伝子型CにおけるHBeAg陽性率はウイルス量との関連が大きかった。【考察】HBV遺伝子型は明らかな民族特異性を示し、これは対象とした2集団が独立した居住地を持つことと関係している。HBeAgからHBeAbへのセロコンバージョンやウイルス量から見れば、遺伝子型Dが遺伝子型Cと比較し予後が良いと推測されるが、HBV関連疾患患者における血清サンプルでの解明が重要である。遺伝子型の民族特異性、遺伝子型とHBeAg/HBeAb陽性率との関連はソロモン諸島の予防接種プログラムにおけるプライオリティの決定に寄与するものと考える。【謝辞】本研究は、科学研究費補助金基盤研究(A)「オセアニア地域住民の成人病ハイリスクに関する遺伝生態学調査研究」の一環として行われた。
P3-33
タイ国北部の献血者におけるB型肝炎ウィルス遺伝子型の分布
鳥山 寛1、千馬 正敬1、Jutavijittum Prapan2、Yousukh Amnat2
1長崎大学 熱帯医学研究所 病変発現機序分野    2チェンマイ大学 医学部 病理学部門   
【はじめに】B型肝炎ウィルス(HBV)遺伝子型は8型(A-H)に分類され、BおよびC型はアジアに、AおよびD型は西ヨーロッパやインドに多く、E型とF型はそれぞれアフリカと中南米に限局するなど、その分布に地理的あるいは民族的な違いが見られる。また、感染後の重症化、慢性化、肝細胞癌への移行などに関してもそれぞれの遺伝子型によって病原性に差が認められる。今回我々はタイ国北部4州の献血血清から、HBs-Ag陽性例を採取し、HBVの遺伝子型検索をおこない、その分布状況を調べたので報告する。【方法】1998年から2000年にわたってタイ国北部、チェンライ、チェンマイ、ランプーン、ランパンの4州で採取した216例(男性:164例、女性:52例;年令:16〜52才)のHBs-Ag陽性血清を材料にPCR法(Naito et al., 2001)をもちい、HBV遺伝子型6型(A-F)の検索をおこなった。「結果」216例中193例(89.3%)はC型(男性:144/164=87.8%、女性:49/52=94.3%)、16例(7.4%)はB型(男性:14/144=8.6%、女性:2/52=3.8%)、2例(0.9%)はB型とC型の重複感染(男性のみ)、1例(0.5%)はA型(男性)、4例(1.9%)は不明であった。4州のHBV遺伝子型分布に明らかな地域差は認められなかった。【考察】タイ国北部4州におけるHBV遺伝子型分布では、タイ国中央部のバンコクや南部地域からの報告と比較し、1)遺伝子型C型の頻度が非常に高い、2)遺伝子型B型およびA型の頻度が低い、3)遺伝子型D型は認められない、などの特徴が見られた。遺伝子型C型の感染は他の遺伝子型の感染に比べ、症状が重く慢性化しやすく、かつ肝細胞癌への移行率が高いと報告されている。タイ国においては1992年よりEPIプログラムの一貫として全国的に新生児へのHBVワクチン接種がおこなわれているが、以前に我々がおこなった調査ではその有効性が充分でないことが明らかになっており、適切で効率的なHBV感染防御態勢の確立が早急に望まれる。
P3-75
トンガにおける肥満の個人差に関連する食行動
Shoko Fukuyama1
1Department of Human Ecology, The University of Tokyo, Tokyo, Japan    
The Kingdom of Tonga, located in the South Pacific with hundred thousand population, shows the world second highest prevalence of obesity (BMI ≧ 30) of 58%. They have gained much weight recently, and the prevalence of type II diabetes doubled from 7.5% in 1973 to 15.1% in 1998-2002. Regarding this health issue, there have been some genetic studies, which did not find any genetic traits that can explain the individual difference in the degree of obesity. The present study, therefore, aimed to find a specific food intake behaviour that can explain the individual difference in obesity. In order to adjust for the daily fluctuation, repeated 24-hour recall survey was conducted for 14 days for 34 participants (15 males and 19 females) aged 34 to 59. The mean (SD) of height was 174.0 (5.4) cm in males and 164.1 (5.8) in females and that of weight was 97.5 (11.6) kg in males and 98.1 (15.6) kg in females. During the 14-days study, significantly higher energy intake was observed on three days, when most of the subjects had feast according to their tradition. The mean energy intake on feast days was 3229 kcal for males and 3786 kcal for females, whereas that on non-feast days was 2808 kcal for males and 2447 kcal for females. The feast/non-feast ratio of energy intake was negatively correlated with BMI (p = 0.016) and it was suggested that lower ability to adjust for the excess energy intake on feast-days might lead to higher BMI among Tongans.
P3-34
ネパール村落部学校を中心とした学校生徒と家族への手洗い推奨活動
杉野 美礼1、辻 立世1
1兵庫大学 健康科学部 看護学科   
【目的】ネパール村落部の貧困家庭においては水不足や衛生知識の不足により手洗いを適切に実践することが難しい。手洗いは、寄生虫症、腸チフス、コレラ等の消化器系感染症を予防するために重要なであるが、衛生的な手洗い習慣の必要性は認識されているものの、家庭において日常的に実践するためには、継続的な啓蒙活動と、実践するための具体的支援が必要とされる。地域にある学校を中心とした活動を展開することにより、学校生徒とその家族への衛生知識と生活習慣の向上をめざす。【方法】2005年度、ネパール村落部にあるNGO運営の学校生徒とその家族に衛生習慣調査を行い、トイレや手洗いの習慣、衛生知識の認識度の実態調査を行った。教師と協議を行い、学校での啓蒙活動を行った。2006年度は、実践的な手洗い活動の展開方法についての生徒と学校教師とのワークショップをもち、具体策を考えた。ワークショップで出た具体策案については、生徒家族からも意見を聞き、具体策を改善する。【成績】2005年度の実態調査では、衛生的なトイレや手洗い習慣の必要性は認識されているものの、具体的な日常実践度は個人差によるばらつきが見られた。衛生的なトイレ習慣を啓蒙するために、「トイレの歌」の作成と生徒への指導、トイレを主題にした保健新聞の配布を行った結果、意識の向上がみられた。学校のある地域では、地域共同体という意識がなく、貧困層には衛生教育を受ける機会が乏しいことも明らかとなった。学校を通じて家族の衛生教育を行っていく重要性が認められた。また、教師との協議から、教師自身が保健活動のトレーニングを受けることの必要性をもっていることも明らかとなった。2006年度は、研究者がプログラムを主導するのではなく、教師と生徒が主体となって手洗い活動を展開し、各自の健康意識を向上させ、持続的な保健活動となっていくように取り組みを行った。
P3-35
アフリカの寄生虫対策の経験
天野 皓昭1、Charles Mwandawiro2
1元 JICA国際寄生虫対策プロジェクト、現:横浜勤労者福祉協会    2ケニア中央医学研究所 ESACIPAC   
故橋本元総理のバーミンガムG8サミットでの提案とコミュニケ、その基礎となった国際寄生虫対策検討会報告書「21世紀に向けての国際寄生虫戦略」に基づき、日本政府はアジア・アフリカでの国際寄生虫対策を支援するため、JICAを通じて3つのプロジェクトを立ち上げた。ケニアの国際寄生虫対策プロジェクト(ESACIPAC)もその一つであり、プロジェクトは平成13年4月から本年4月まで5年間の活動を終了したが、4年8ヶ月プロジェクトに参加した経験から、アフリカ各国が自主的なプログラムで寄生虫対策を進めるにあたっての基本的な取り組み方法を私見として提言する。結論:1.保健省と教育省との連携組織を、国家レベルと地域レベルで組織するための政策合意、2.地域の医療環境、対策の経済効率を考慮すると、統一寄生虫対策(駆虫活動)はdivision level(ケニアでは60から100校規模)で実施することが有効、3.寄生虫対策の導入口としては、駆虫が有効、持続的効果には、初歩衛生教育や衛生環境改善の組み合わせが必要、4.学校教師による駆虫薬投与のため、事前研修実施とマニュアル作成、5.対策実施前baseline surveyはWHOガイドラインに準拠するが、国及び地域の医療体制を考慮して実施すべき、(検査数:対象地域内10%校選択し、第3学年全学童を対象に検査実施)、事前健康調査検査は最小限に。検査費用と治療費の経済投資効果バランスを考慮、6.学校駆虫対策を学校保健の入り口、学校保健をprimary health careの入り口と位置付け、7. 使用薬剤は保健省を通じて供給し、研修時に配布。未就学児童も対策の対象、8.地域の協力理解を得た地域住民参加型とするため、各種レベルの集会を開催、 9.地域主導型で実施できる公衆衛生活動としての寄生虫対策と科学的裏打ちを保障するための研究的側面を上手く結合させる事が重要
P3-36
途上国の小学校における寄生虫対策保健教育の妥当性と有効性
友野 順章1、Njomo Doris2、Wasunna Beatrice 2、Kihara Jimmy 2、Muhoho Dominic 2、三井 義則3、天野 皓昭2、Mwandawiro Charles 2、竹内 勤4
1横浜労災病院 小児科    2ケニア中央医学研究所    3長崎大学熱帯医学研究所、寄生行動制御分野    4慶応大学医学部熱帯医学・寄生虫学教室   
目的途上国の寄生虫対策において小学校での健康教育は有効な一つの手段として考えられているが、その妥当性、有効性についての検討はこれまで十分な報告はない。今回我々はアフリカの1地域において、小学生を対象にマンソン住血吸虫症(Sm症)対策を実施し、その妥当性と有効性を検証したので報告する。方法Sm症対策は、ケニア共和国中央州キリニャガ県ムエア地区にある56の全ての公立小学校を対象で実施し、Smの感染率はKato-Katzにて2004年1月、2005年1月、2006年1月に調査した。治療は在校生全員を対象としたMDA(集団薬物投与又は治療)で、2004年3月、2005年3月と、2006年3月にプラジカンテル40mg/kgを投与した。保健教育/ヘルスプロモーションのSm症への有用性及び妥当性の評価は、6校をパイロット校とし2005年2月より開始した。また対照校では2005年9月より実施した。2005年及び2006年1月の糞便検査より有効性を、また2005年11月の全国統一学力試験の結果により妥当性を検討した。結果対照校ではSmの感染率は若干上昇していたが、パイロット校では低下していた。またパイロット校で学力試験結果は対照校よりも良かった。結論寄生虫対策に関する小学校での保健教育/ヘルスプロモーションはSm症対策において有効であり、学校本来の学業の妨げにならないことが示された。(本検討は国際協力機構(JICA)ケニア国国際寄生虫対策プロジェクトの活動モニタリングの一環として行われた。)
P3-37
寄生虫対策をエントリーポイントとした学校保健推進活動 〜WACIPAC〜
林 栄治1、原 樹2、粟沢 俊樹3、森中 紘一4、Kwabena Bosompem5、Michael D. Wilson5、David Ofori-Adjei5、門司 和彦6、太田 伸生1、竹内 勤7
1東京医科歯科大学大学院 国際環境寄生虫病学教室寄生虫病学分野    2久留米大学 医学部 寄生虫学講座    3JICA 専門家    4WACIPAC チーフアドバイザー    5野口記念医学研究所    6長崎大学 熱帯医学研究所 熱帯感染症情報センター    7慶応義塾大学 医学部 熱帯医学・寄生虫学教室   
1998年のG8サミットにおける橋本イニシアティブの提言から10年が経過し、活動の3拠点である ACIPAC,ESACIPAC,WACIPACは東南アジア、アフリカにおいて寄生虫対策と学校保健の必要性を広く浸透させつつある。当初、手探りであった方法論あるいは問題の所在もより明確になり、単なる寄生虫対策から進展し、より包括的な学校保健を構築するエントリーポイントとしての寄生虫対策という捉え方が完成したといえる。今回、西アフリカでのWACIPACの取り組みについて報告する。 上記3センターでは国際機関とも協力して周辺諸国とのネットワークを構築し寄生虫対策の人材育成と情報交換等を促進し、日本が腸管寄生虫制圧に成功した経験を基に途上国に貢献することを目的としている。西アフリカでは10カ国の拠点としてガーナ・野口記念医学研究所が選定され、それまでの感染症対策プロジェクトに組み入れる形で2002年より寄生虫対策活動が行われた。2004年からは引き続き周辺国において寄生虫対策をエントリーとした学校保健活動に関係する様々なレベル(政策決定者、関係部局管理者、現場技術者等)の人材の育成及び情報ネットワーク構築を目的とするプロジェクトが進捗中である。 WACIPACはガーナ・ダンベイースト郡の小学校をモデルとして、2002年にベースラインサーベイを行ない、2003年より土壌伝播線虫症、住血吸虫症に対する検査・駆虫、寄生虫症に対する教育活動などが行われている。この寄生虫対策を通じて、より包括的な学校保健活動を推進できる人材の育成にも取り組んでいる。就学率の低さや活動の持続性も残された課題であり、今後の活動のあり方も含めて報告する。
P3-38
アフリカの学校におけるHIV・エイズ予防プログラム―文献レビューとケニア政府への政策提言―
関根 一貴1
1London School of Hygiene and Tropical Medicine   
【目的】アフリカの学校で行われた効果的なHIV・エイズ予防プログラムの特徴を特定する。また、その効果的予防プログラムの特徴とケニア政府が行っているHIV・エイズ予防プログラムを比較し、ケニアでより効果的な予防プログラム実現のために政策提言を行う。【方法】アフリカの学校で行われた7つのHIV・エイズ予防プログラムを評価した文献をレビューし、プログラムの評価結果をまとめた。ケニアの学校のHIV・エイズ予防プログラムを知るために、教育省役人と学校教師・学校カウンセラーに半構造的インタビューを行い、高等学校の生徒にフォーカス・グループ・ディスカッションを実施した。【結果】文献レビューの結果として、知識レベルとエイズ患者に対する姿勢はすべてのプログラムで顕著な向上がみられ、コンドーム使用の意図にもある程度の向上が報告された。HIV感染の感受性の認識は統計的有意な向上はなく、性行動変容もほとんどのプログラムで有意な改善はなかった。コンドーム使用はひとつのプログラムで直後の調査で改善があったが、ほかのプログラムでは統計的有意な向上は見られなかった。特徴的に、積極的学習手法を採用したプログラムや若く性的に未経験な学生を対象にしたプログラムのほうが行動変容を引き起こしやすいことがわかった。また、プログラム実施者のトレーニングは効果的なプログラムの重要な要素である。インタビューの結果として、ケニア教育省は禁欲政策を推進し、参加型・スキル開発型の予防プログラムを採用しているが、実際に学校で行われている手法は非参加型で知識の教授に終始していることがわかった。予防教育の時間と教師のトレーニングも不十分であった。【結論】ケニア政府は参加型でスキル開発型のHIV・エイズ予防プログラムを実践し、予防教育にかける時間を増やし、教師とカウンセラーのトレーニングを拡充し、プロのカウンセラーの配置することを提言する。
P3-39
小学校でのライフスキル教育:タンザニア・ドドマ市での教師主導による参加型ピア教育の事例から
Shiro Nakata1、Shinichi Takenaka2
1Former JICA volunteer, JICA Tanzania Office    2Center of International Collaborative Research, Nagasaki University   
Issues: Studies have indicated that young children in Dodoma were sexually active. Some children experienced sexual intercourse at the early of their teenage. However those young children were not adequately provided with relevant knowledge and skills necessary to understand or practice safer sex behavior. In 2005 the Dodoma Municipal Council has updated the school program and initiated a new approach, teacher-led, participatory, HIV/AID peer education program, in collaboration with JICA volunteers.

Description: The new program targeted primary students in the higher classes of primary schools (standard 5 to 7). Total 53 head teachers, 110 teachers and 648 peer educator students from 53 schools were trained on basic knowledge on HIV/AIDS and reproductive health and life-skills. Those teachers and peer educators were selected by the students themselves. The trainings were conducted through various participatory teaching methods such as small group discussions, Q&A, role-play, dramas etc.

Lessons learned: The replicated program in a different school effectively worked. All the schools started teaching life-skill education to students and 17,500 students participated. The teachers were equipped with good knowledge and highly motivated, and it's reported that some students showed improvement in their knowledge and sexually safer behaviors. Also parents identified the importance of HIV/AIDS and reproductive health education to their children. However, the teachers took themselves 3 months to utilize participatory teaching method.

Recommendations: The program is feasible and replicable in other schools. The teachers selection by students ensured success of the program. And supervision and support to the peer educators will help the program be sustainable.
P3-40
途上国における学校歯科保健の成果に影響を及ぼす因子
深井 穫博1、矢野 裕子1、中村 修一2、蒲池 世史郎1
1ネパール歯科医療協力会    2九州歯科大学国際交流・協力室   
【目的】
学校歯科保健は、途上国において生涯にわたる口腔保健およびヘルスプロモーションに有効な対策である。一方、都市化による食生活や健康情報源が急激に変化している地域では、学校保健と併せて地域および母親へのアプローチが課題となる。演者らは、1994年からネパール王国で,現地自立型の学校歯科保健の開発と支援を行ってきた。本報告では、これまでの活動を評価し、その成果に影響を及ぼす要因について検討した。
【方法】
対象地域は、ネパール首都近郊ラリトプール郡の4つの農村である。各村の学校歯科保健の開始時期は、Thecho村が1994年であり、Dhapakhel村1998年、Chapagaon村2001年、Sunakothi村2001年である。プログラムの内容は、教師を対象としたヘルスワーカーの養成と研修、生徒への口腔保健教育、ヘルスワーカーによる口腔内評価、フッ化物洗口(週1回法)の4項目である。調査対象は、これら4村の19校6歳〜16歳440名であり、自記式アンケートと口腔検診を実施した。学校歯科保健プログラムの成果として、甘味摂取頻度およびう蝕罹患状況を取り上げ、これらと、性別、親の職業、種族、居住地、口腔清掃、歯科治療経験、親の関心度、健康情報源(教師、両親、TV)、口腔保健知識の9項目との関連について検討した。統計的解析は、SPSS13.0Jを用い、多重ロジスティック回帰分析(変数減少法)を行った。
【結果】
11歳〜13歳の甘味摂取頻度(Titauraを1日1回以上)に影響する因子は、性別(男性)、親の職業(農業)、健康情報源(両親)、健康情報源(TV)の4項目が選択され、オッズ比は0.32〜0.67であった。う蝕罹患(DMFTが1以上)では、種族(Brahman, Chetri)、居住地(Thecho, Dahpakel)、健康情報源(両親)、健康情報源(TV)の4項目であり、オッズ比で0.45〜0.66であった。
【結論】
本調査結果から、学校歯科保健プログラムに両親へのアプローチと健康情報リテラシーの導入が求められた。
P3-41
途上国における口腔保健専門家養成プログラムの問題点と課題
蒲池 世史郎1、中村 修一2、矢野 裕子1、平出 園子1、安部 一紀1、深井 穫博1
1ネパール歯科医療協力会    2九州歯科大学国際交流・協力室   
【目的】
演者らは1989年からネパールにおいて保健医療協力を開始し、1994年からは口腔保健専門家(Oral Health Worker)養成を行なっている。本報告では、口腔保健専門家の履修後の定着度と継続的な養成プログラムについて検討した。
【方法】
対象地域は、ネパール王国カトマンズ近郊ラトプール郡の隣接する4つの農村(テチョー村、ダパケル村、スナコチ村、チャパゴン村)である。
【結果】
1.口腔保健専門家の養成システム
口腔保健専門家養成は、毎年12月の1週間に、初級コースと上級コースで行われた。養成当初は日本人隊員が講師を務めていた。その後、上級コースの卒業生の中から、学校での実践を通して力をつけてきた口腔保健専門家が、隣接する村を対象とした養成コースで講師を務めるようになった。1994年から2005年の間に190名の口腔保健専門家の養成を行なった。履修者は、学校の教師が120名と最も多く全体の63%を占め、ヘルスポスト職員19名、マザーボランティア20名、カウンターパート(NATA)14名、その他17名である。
2.学校における口腔保健専門家の在籍状況
4つの村の学校における口腔保健専門家の養成数は103名であり、2005年現在の在籍数は62名である。これを村別に見るとテチョー村(12年経過)では養成数42名に対し在籍19名、ダパケル村(8年経過)では養成29名に対し在籍数は13名である。2002年より参加のスナコチ村、チャパゴン村では2名の退職者を出した1校をのぞけばほぼ全員在籍している。養成された口腔保健専門家と学校や地域とのつながりを強化するために、2001年には、口腔保健専門家の代表とカウンターパート、日本人隊員で構成する口腔保健専門家委員会を設立した。
【結論】
学校教師を対象とした口腔保健専門家の養成は学校歯科保健の開発と定着に有効であるが、安定した活動の持続のためには自立的な口腔保健専門家の養成プログラムが必要である。
P3-42
ネパール王国カトマンズ郊外の農村の離乳食の実態
安部 一紀1、中村 修一2、奥野 ひろみ3、深井 穫博1
1ネパール歯科医療協力会    2九州歯科大学国際交流・協力室    3静岡県立大学看護学部   
【目的】
自給自足の食生活を基盤としていた都市近郊の農村も、近年、急速に近代化し、食生活スタイルも大きく変化してきた。このことは学童の口腔保健の状態にも強く影響を与えている。このため、5歳児以下の口腔管理が重要と考え、人の食の出発点である離乳食の現状を把握することを目的として実態調査を行った。
【方法】
調査方法は聞き取り調査で、対象者はネパール王国ラリトプール郡Thecho村の乳児の母親80名である。
【結果】
離乳は早い人は3ヶ月(7.5%)から始めるが、6ヶ月〜8ヶ月(85%)から始める人が主流であった。母乳は2才ごろまで与えていたが、近年はお誕生を目処にしている人が多い。離乳食は、重湯のようなリトから始め、8ヶ月目頃から米に野菜を加えたおじやのようなジャウロを与える。リトはお誕生ごろまでで、お誕生をすぎるとジャウロが主体となる。砂糖とミルクをリトに加えたミックスリトは市販されていて、伝統的穀類・豆類の粉末主体のリトも、砂糖添加のものが市販されていた。牛乳(水牛の)やヤギ乳も約6割の人が使っていたが、お誕生すぎて使用するようである(約80%)。使用目的は、母乳不足を補う意味ではなく、栄養補給にあった。ビスケットやラーメンは37.5%の人がジャウロやリトと併せて利用していた。味付けは、塩やターメリックであるが、約5割の人はリトに砂糖を加えていた。
【結論】
母親の年齢は約7割が10代〜25才と若く、夫の職業で農業主体は約1割であり、あとは兼業となっていて、現金収入を目指した生活スタイルとなっている(母親もパートに出るケースが多い)。このため、離乳食も次第にハンドメイドのリトやジャウロから、市販の砂糖入りのリトやミックスリト、またはビスケットやラーメンといったインスタント加工品にお金を出しても時間的に便利なものへシフトしはじめている。偏食のための低体重児や砂糖のための虫歯をもった乳児がみられはじめた。
P3-43
モンゴル国における口唇口蓋裂治療の現状について
上谷 美幸1、夏目 長門2、トデブドルジ エルケンバートル3、神馬 征峰4
11)(特活)日本口唇口蓋裂協会 2)愛知学院大学口腔先端科学研究所 国際協力研究部門 3)東京大学大学院医学系研究科 国際地域保健学教室    21)(特活)日本口唇口蓋裂協会 2)愛知学院大学口腔先端科学研究所 国際協力研究部門    3モンゴル国立母子病院    4東京大学大学院医学系研究科 国際地域保健学教室   
モンゴル国は日本の約4倍の国土を有し(人口密度:約1.6人/km2)、全人口の約40%が遊牧生活を営んでいる。同国では旧社会主義時代の医療インフラや医療技術が未だに存在しており、その改善を目的とした各国からの援助が行われている。また、地方部では過疎地帯が多く医療における都市部と地方部の格差が問題となっている。口唇口蓋裂はアジア人種でその発生率が最も高い先天異常の一つであるが、モンゴル人の発生頻度は比較的低いことが報告されている。未だ不十分な医療状況下で頻度の低い口唇口蓋裂治療に対する優先順位は低いと考えられ、同国における口唇口蓋裂治療法、治療機関や患者への支援体制、治療状況および都市部と地方部の治療時期の差について調べることを目的とした。ウランバートル市母子病院に勤務する口腔外科医4名へのインタビュー調査を行うとともに、都市部(ウランバートル市)および地方部(バヤンホンゴル県)における治療を視察した。また、地方部と都市部の治療状況を調べるため、1996年〜2003年にウランバートル市および地方部13県で行われた口唇口蓋裂初回手術時期について月年齢を指標とし、調査した。モンゴル国ではウランバートル市にある国立母子病院が中心的に口唇口蓋裂治療を実施している。治療は口唇形成術、口蓋形成術を行っているが、顎裂骨移植術、矯正歯科治療、言語治療などは技術や機材が不十分なことからほとんど行われていない。また、初回手術時期はその中央値が口唇裂初回手術において都市部8.5ヶ月、地方部40.0ヶ月、口蓋裂初回手術において都市部47.0ヶ月、地方部61.0ヶ月と、地方部の手術時期が都市部に比べ遅く、地方部の患者が適切な時期に治療を受けることが困難であることが明らかとなった。今後、口唇口蓋裂患者治療を向上する上で、不足する分野の技術支援や機材についてサポートするともに、地方部の患者支援について考える必要があることが示唆された。
P3-44
東京の野宿者における口腔内の状況
中久木 康一1、小室 貴子1、大脇 甲哉1、金沢 さだこ1、稲葉 剛1
1新宿連絡会・医療班   
【目的】
新宿連絡会医療班では、定期的な健康相談会で歯科相談を受け、野宿者の口腔保健を支援しているが、その実情を明らかにしたものは少ないため報告する。
【対象と方法】
2000年9月から2006年3月までに、歯科相談を受けた400名(のべ433名)を対象とし、相談記録から疾患の傾向を検討した。
【結果と考察】
平均年齢は53.5歳(24〜82歳)であり、男性が97.8%を占めた。居住形態は78.4が野宿、15.8%がテントであり、その他は喫茶店やサウナなどだった。野宿期間は平均2.9年(3日〜20年)であり、健康保険に加入していたのは1名のみであった。主訴は、歯の疼痛31.5%、歯の欠損による咀嚼障害22.8%、義歯作成18.0%、歯の動揺12.5%などであった。
う蝕罹患率は77.8%、一人平均う歯数(DT)は4.3、一人平均処置歯数(FT)は3.0であり、同年代の全国調査よりもう蝕罹患率は高く、DTは多く、FTは少なかった。歯周病罹患率は92.5%と高率であり、同年代の全国調査における歯肉の有所見率を上回っていた。同様に、歯肉の所見による保存処置困難歯は13.3%と全国調査の倍以上で、除石処置が必要な歯石沈着は47.0%に認められた。一方、一人平均喪失歯数(MT)は10.8と同年代の全国調査と大きな開きはなかったが、義歯の使用は12.2%に留まり、何でも食べられるものは31.3%のみで、37.5%は軟らかいものだけ、30.4%は全て丸飲みの状態であった。その他口腔外科疾患としては、顎骨周囲炎や歯性上顎洞炎などの炎症や、線維腫や血管腫などの腫瘍、そして、下顎前突症、顎関節症、三叉神経痛などが散見された。
以上、野宿生活者においては、う蝕や歯周病などに起因した多数歯欠損により、咀嚼が困難である者が多く、64.3%に義歯の作製が必要と判断された。
【対応】
福祉事務所の理解、地域歯科医院との連携のもと、要治療者の受診も徐々にスムーズとなってきたが、生活環境の整わない中で口腔衛生をどう向上できるのかが課題である。
P3-45
医学部(医学科)における国際保健医療に関する教育実態調査
山中 早苗1、中村 安秀1、石井 明2、川端 眞人3
1大阪大学大学院 人間科学研究科     2実践女子大学 生活科学部    3神戸大学 医学部   
【目的】国際化が進むなかで、医学教育においても国際保健医療に対する関心と需要が高まっている。平成17年度厚生労働省国際医療協力研究委託事業として、国際保健医療協力に携わる人材の養成のあり方を体系的に検討し、それらの人材を効果的に活用するための登録システムを構築することを目的とした実践的研究を行っている。その研究の一環として、全国の医学部(医学科)における医学教育の中で、国際保健医療教育がどのように行われているのかを明らかにする目的で調査を行った。
【対象と方法】日本国内の総合大学および単科大学の医学部(医学科)に対し、全数調査を行い、対象は80校であった。調査期間は平成18年3〜5月で、医学部(医学科)に質問紙を郵送し、大学および学部名を明記した回答を得た。質問紙の回収は同封した返信用封筒により郵送で行った。
【結果】回答数は65部で、回収率は81.3%であった。そのうち分析対象となったのは60校(有効回答率75.0%)であった。「国際保健医療学を科目として教えている」大学が60校中20校(33.3%)、「他の科目で教えている」28校(46.7%)、「全く教えていない」16校(26.7%)であった。医学部における国際保健医療教育のあり方については「もっと積極的に取り組むべきだと思う」という回答が58.3%と高かった。また、教育上の問題点として「学内で指導できる教官が少ない」(70.0%)、「時間が足りない」(38.3%)、「教員の理解が乏しい」(36.7%)などがあげられた。
【考察】国際保健医療教育の必要性は強く認識され、多くの医学部(医学科)で広く取り組まれていることが明らかとなった。また、海外での実習に関する関心も高かった。今後は、国際保健医療学を教育する教官の確保と標準的なカリキュラムの作成が必要であろうと思われた。
P3-46
「国際保健」に関する大学生の意識調査について
矢野 潔子1、新地 浩一1、松崎 由美1、兒玉 幸子1、古川 真三子1
1佐賀大学 医学部 国際保健看護学分野   
【目的】看護学生、医療系学生(PT・OT)、一般学生(経済学部、理工学部、農学部、文化教養学部)に対して、国際保健に関する学生のイメージについて明らかにすることを目的として、自記式質問紙調査票を用いて調査を実施した。【方法】2005年4月〜2006年9月の期間において、「国際保健医療入門」を選択した大学生を対象に第1回目の講義の際に自記式質問紙調査票を配布し、回答を得た看護学科4年生96名、医療系学部1年生41名、一般学部91名について分析を行った。(回答率100%)【結果】国際保健についてのイメージについての質問(複数回答可)では、「発展途上国における保健衛生」と回答したものが看護学生99.0%、医療系学生97.6%、一般学生93.4%、「欧米等の先進国における保健衛生」と回答したものは、看護学生92.7%、医療系学生100%、一般学生73.6%であった。「大規模災害時における救援医療活動に参加してみたいと思いますか」については、「是非参加したい」と回答したものは、看護学生36.8%、医療系学生53.7%、一般学生10.0%、「短期間であれば、参加したい」と回答したものは、看護学生54.7%、医療系学生36.6%、一般学生61.1%であり、看護学生の91.5%が参加したいと回答している。「将来、青年海外協力隊で、発展途上国で仕事をしたいと思いますか」については、看護学生80.0%、医療系学生72.5%、一般学生53.9%が肯定的な回答であった。【考察】「将来、発展途上国で医療関係の国際協力に従事してみたいと思いますか」という問において、医療系学生や看護学生の50%以上が「是非してみたい」「短期間であればしてみたい」と前向きであった。また、大規模災害時における救援医療活動への参加意欲の高さは看護学生、医療系学生、一般学生の順であり、看護学生および医療系学生の意識は高いことから、彼らに対する国際保健や国際看護、災害医療活動に関する教育は重要であると考えられた。
P3-47
国際保健を目指す学生の意識と実践活動に関しての考察
仲佐 保1、阿部 麻理恵2、飯山 きえ2、井上 愛2、門井 謙典2、香取 さやか2、杉原 淳2、長嶺 由衣子2、山道 拓2
1国立国際医療センター    2日本国際保健医療学会 学生部会   
【目的】国際保健医療に関心があり、将来の進路として国際保健を目指す学生の数は増加しており、自主的に様々な活動を行っているが、学生時代にどのような活動が将来のキャリアパスにつながるかに関しての知見は少ない。今回、国際保健医療に興味を持つ学生が共に学ぶための場の向上を目的に設立にされた日本国際保健医療学会学生部会が中心となり、国際保健を目指す学生の意識と実践活動に関しての考察を行ったので報告する.【方法】国際保健医療に興味を持つ259名の学生に対しての国際保健に関する質問表調査とと国際保健トレーニング合宿に参加した24名の学生の合宿実施前後の知識、考え方に関しての質問表調査。【結果】国際保健に関しての質問表調査では、聴講型の講演会には7、8割の学生が参加した事があり、国内での勉強会には半分以上の学生が参加経験を持っているが、期待として、短期研修、海外実習、先生とつながるイベント、勉強会の実施、大学への働きかけが挙げられた。この結果を受けて実施された国際保健トレーニング合宿参加者への調査では、学生並びに先生方へのネットワークの形成や将来のキャリア形成に役立ち、国際保健の基礎的な知識や技術に関して、知識や新たな言葉、新たな考え方は習得したが、明確には技術としては、言語化されてはおらず、習得され表現できるまでには時間がかかるとの結果であった。合宿終了後、24名の学生の中にその後海外実習を経験したものもおり、現在、6ヵ月後の変化に関しての調査を実施、検討中である。【考察】際保健を目指す学生のニーズに沿った短期研修や海外実習を実験的に実施しているものである。経過としてまだ約10ヶ月を経過しただけであり、十分な考察は不可能であるが、知識や技術の座学による研修並びにその後の海外フィールドにおける実践経験は、その後の国際保健への興味の持続と知識、技術の継続に結びつくものと考えられる。
P3-48
看護系における国際協力に携わる人材育成に関する研究
喜多 悦子1、松尾 和枝1、中村 光江1
1日本赤十字九州国際看護大学   
目的 本研究は、国際協力活動できる看護職の人材育成の現状と問題点を明らかにするために、看護系大学を対象に、どのような教育がなされているのか全体を概観する。方法1)調査対象 看護系大学 128校3)データ収集・分析方法a)WEB上で公開されているホームページから基礎データを収集。b)看護系大学128校中、カリキュラムが不明な14校を除く、114校のデータを分析対象。c)基礎データに基づき、14校から28科目のシラバスを入手し、教育内容に関わるキーワードを抽出、分析。結果 a)対象114校中、国際関係科目を持っている大学は、61校115科目。b)115科目中、教育の概要が明示されている55科目のうち、必須指定は9科目にとどまり、残りの46科目は選択。c)さらに、14校から入手した28科目から教育内容に関わるキーワードを抽出し、分類考察 多くの教育機関は、世界の健康問題や保健医療制度、各国の諸情勢、国際機関とその働き、および看護を含む、国際的な保健医療活動を含むカリキュラムで構成されていた。対象となる国や地域に関しては、先進国および開発途上国の両方についても記述されており、国際の意味する所は、各施設の担当者に委ねられている。また国際に特化したものではないが、看護の対象となる人々の理解を深める視点から、異文化理解に関わる知識や、多様に応用可能な(看護)理論を織り込んだものもみられた。国際協力に関して具体的に項目立てられていると見なせたものは、28科目わずか3に過ぎず、具体的に教育されているとはいい難い状況にあった。結論 現在、大学看護教育では、総論的には、国際化に対応し、諸外国と協力できる能力を持つ看護職の育成を目指してはいるものの、各論では、一定しておらず、国際に関する教育を普遍化し、さらに標準化するという考えには至っていないと考える。
P3-49
小児科臨床医、医学生に対する国際小児保健医療協力入門セミナーの試み
栗嶋 クララ1、伊藤 智朗1、浅野 祥孝1、奈倉 道明1、西山 綾子1、山口 文香1、森脇 浩一1、高橋 謙造2、中村 安秀3、田村 正徳1
1埼玉医科大学総合医療センター 小児科    2順天堂大学公衆衛生学教室    3大阪大学人間科学国際協力論講座   
【背景】近年、小児科医および医学生において途上国への支援への関心が深まっているが、国内におけるトレーニングやセミナーの機会が少ないのが現状であり、セミナー企画への要望が高まっている。
【目的】埼玉医科大学総合医療センター小児科では2003年より、将来国際小児保健医療協力を希望する小児科医および医学生を対象に国際小児保健医療協力入門セミナーを開催してきた。参加者側からのセミナーの評価ならびに、参加者の国際協力活動に対する意識調査を行い、過去3年間の調査結果をまとめた。
【方法】医学生、小児科医を対象に医学部構内の掲示板、メーリングリストなどにて希望者を募った。セミナーは2日間開催され、4名の講師による講義後、ケーススタディーをグループに分かれて行い、最後にプレゼンテーションを行った。
【結果】アンケート回答者は合計143名(回収率95%)で(2004年医学生25名、小児科医20名、2005年医学生29名、小児科医22名、2006年医学生19名、小児科医27名)であった。国際保健の経験・知識に関して5段階で評価してもらったところ「なし」34.3% 、「少しあり」47.2% 、「まあまああり」12.0% 、「結構あり」4.9% 、「ベテラン」1.4% であった。セミナーに参加して国際協力に対する気持ちがどう変化したか:68.5%の参加者がますます興味が増えたと回答し、セミナーの評価については65.7%が非常に得るものが多かったと回答しており、期待していた以上に収穫があった、期待通りであったと回答したものを含めると96.5%にのぼった。
【考察】アンケート結果を見る限り、過去3回のセミナーは全体として充実したものであったと考えられる。また、セミナー参加者の約2/3が国際保健の経験を持っており、国際保健医療協力入門編とした今回のセミナー企画内容は今後、初級、中級編とより発展していく必要があると考えられた。
P3-50
保健医療従事者のインセンティブ−発展途上国や移行国での課題の検討
Nobuyuki Hyoi1
1Dept of Human Resources Development, Nat Inst of Public Health. Wako, Japan   
Objectives】To review the current issues and challenges on incentive packages for health workforce in a context of health sector reform.
Methods】To review literature on the incentives and motivations for health workforce.
Results and Discussions
1. Human resources development issues commonly identified were, 1) balance of health personnel in terms of a skill balance (shortage/surplus) and labour market supplies and demands, 2) poor distribution of health personnel in rural and remote area, 3) Low salary and poor incentives, 4) inadequate training (in-service training, continuing education, career development), 5) lack of a career pathway, and 7) low managerial capacity. These issues were also associated with different needs of health personnel. At the primal level, the needs for security must be fulfilled such as job security. At higher level, needs for esteem and needs for accomplishment and achievements are to be satisfied with award, reputation, increased responsibility, etc.
2. In public sector, salary system was the core of financial incentive together with allowance and bonus. Non-financial incentives comprised of competence ensuring the access to continuing education, in-service training as well as carrier pathway, esteem and fulfillment. Loyalty to the organization and knowledge sharing are essential.
3. It is necessary to consider following individual coping strategies to develop sufficient and satisfactory incentives package; namely, dual practice, public-to-private brain drain, rural-to-urban brain drain, sales of drugs, under-the-counter fees, and donor funded benefit. Also training/educational institutions deserve attention and action. Specific needs may differ among different levels of services and each job classification.
P3-51
マラウイ国における医療技術者養成に関する課題
荒木 京子1、中村 安秀1
1大阪大学大学院 人間科学研究科   
【目的】マラウイ国の保健医療機関において、医師、看護師、薬剤師などの医療免許保持従事者による充足率は非常に低い。保健医療従事者の人材育成の問題のなかで、とくに保健医療機関の免許保持者の配置状況や充足率に関する状況分析調査と要請機関におけるインタビュー調査を行い、医療技術者養成に関する課題とその改善方法について検討を行った。【方法】マラウイ保健人口省に「医療技術者養成計画」JICA短期派遣専門家として派遣された1999年3月から9月にかけて、保険医療短大および看護短大(5か所)、中央病院・地域病院・ミッション病院・(10か所)、中高等学校(3か所)においてインタビューを行った。また、医療機関における医療免許保持者数及び人材配置状況に関する資料(WB/WHO,1999年・2003年)をもとに分析を行った。【結果】保健医療機関における充足率は60%と非常に低く、著しい人材不足が判明した。医療免許保持従事者の70%は、都市部に居住しており明らかな偏在を認めた。また、保健医療短大の教員の多くを欧米からの支援に頼っている状況が明らかになった。【考察】医療免許保持従事者を増加するために、要請校の整備が急務の課題である。保健医療短大や看護短大における自国出身者の教員を養成することが必要である。また、入学資格の増加を図るためには、中高等学校学生の理数科教育の充実を行う必要があり、中長期的な人材養成計画が求められている。
P3-52
日本赤十字社での国際救援要員育成〜インドネシア赤十字社ボゴール病院支援事業を通して〜
関塚 美穂1、伊藤 明子1、白子 順子1、石川 清1
1名古屋第二赤十字病院 国際医療救援部   
【背景】国際赤十字の要員として活動するためには、赤十字国際委員会と国際赤十字・赤新月社連盟が定める基礎研修を受講、合格することが条件となっている。実際の派遣には経験者への要請が多いため、新人要員の派遣の場が少なく人材育成が進まないという問題があった。そこで、日本赤十字社は赤十字のネットワークを生かし、インドネシア・フィリピン・タンザニア・ジンバブエでの事業に新人要員を派遣することで、人材育成の場とする試みを始めた。演者は、平成17年12月より平成18年3月までの3ヶ月間インドネシア赤十字のボゴール病院支援事業に派遣された。【研究目的と方法】インドネシア赤十字のボゴール病院支援事業での実地研修を修了した要員の活動内容と、国際救援要員としての自己の課題について聞き取り調査を実施し、その結果を分析することにより、新人要員育成のあり方について考察する。【結果】各要員は、「開放性骨折患者に対する看護介入」「ゴミの分別や手洗いなどの感染管理」「救命救急物品の管理」に着眼し活動しており、これは各要員の専門性を生かした内容であった。今後の課題としては、就業開始時刻や会議開始時刻が守られないといった時間の感覚の違いや、貧富の差による差別意識の存在といった異文化理解、自身の活動を円滑に進めていくために必要なキーパーソンに対する交渉能力、実際の活動を実施する上で必要となる指導能力の向上と、ストレスマネジメントであった。【考察】派遣地での活動内容は様々であったが、抽出された課題には共通するものが多かった。よって、派遣前に学習・訓練可能なもの、派遣中にしか学べないものを明確にし、戦略的に学習・訓練を実施することは新人要員のレディネスを高めることができ、人材育成の鍵となると考える。
P3-53
インドネシアにおける難聴予防、治療、リハビリテーションプロジェクト 第16報:長崎佐賀地区ロータリアンと耳鼻咽喉科医の貢献
江上 徹也1、重野 浩一郎2、鈴木 淳一3、中井 義明3、中川 雅文4、三好 彰4、武井 洋一5、本城 好春5
1長崎西ロータリークラブ、江上耳鼻咽喉科医院    2長崎県耳鼻咽喉科医会    3Hearing International    4日本ヒアリングインタナショナル    5国際ロータリー2740地区   
1992年、世界耳鼻咽喉科学会連合(IFOS)と国際聴覚医学会(ISA)により難聴対策を推進する Hearing International(HI)が組織された。HI-Japan(HIJ)は耳鼻咽喉科医を中心にNews Letterの刊行やインドネシアにおける難聴対策を行っている。長崎で本学会が開催されるのを機にこれ迄の活動を総括し、長崎、佐賀地区のロータリアンと耳鼻咽喉科医の貢献について報告する。
政府系の援助としては、1995〜郵政省ボランティア貯金の支援で中耳炎手術教育チーム(シニア・ジュニア医師のペアー)をインドネシアに派遣。1997〜国際協力事業団(JICA)の医療専門家派遣。外洋クルーザーによる巡回診療(保健省、海軍、陸軍)。聾学校の支援。言語聴覚士の指導。1999〜外務省民間団体支援計画による側頭骨(耳)手術実習室の完成と研修コースの定期的開催。インドネシア各地に耳科センター設立。インドネシア研修医の日本での3ヶ月留学研修、シニア医の招請などがある。民間援助としては日本各地のロータリークラブ(RC)が現地のクラブと共同で国際ロータリー財団の同額補助金を申請し耳科検査手術器機を贈呈してきた。2001:長崎佐賀地区RCはバリ島の州立眼科耳鼻科医療施設に、2006:ジャカルタの民間病院などへ器具贈呈を行った。国際ロータリー100周年、長崎西RC創立20周年などに現地を再訪問し活動状況の点検、機材不足分の補充を行った。市民への啓蒙、一般健聴者向け英文教科書である「Hearing Impairment」にこれまでのロータリアンの貢献を紹介し同額補助金の活用法を紹介した。
HI会員でもあるロータリアン、耳鼻科医の継続的な現地への訪問、実技指導、講演などで、耳科学全般のレベルが向上し、本年ジャカルタで開催された”Ear Seminar”では、本プロジェクトで育った耳科医が500名参加した。インドネシア各地の大学、基幹病院で研修システムが整備され“インドネシア耳科学”の自立が期待される。
P3-54
当院の国際コース研修医に対する地域保健研修プログラム
浦部 大策1、高岡 宣子1、穂積 大陸1、中野 博行1、藤堂 景茂2、井手 義雄3
1聖マリア病院 国際協力部    2聖マリア病院 院長    3聖マリア病院 理事長   
【初めに】地域保健活動は、或る地域に住む不特定多数の人々を対象に実施する医療活動である。そのため、地域保健活動に関わる上では、地域住民という漠然とした対象を客観的に把握し、介入活動により対象の変化が見えるように「論理を構築する」事が極めて重要である。それは国際保健の実践においても同様である。そこで当院では、国際保健希望の研修医二人に対して海外フィールド研修を入れながら「論理構築」実習を中心にした地域保健研修を試みた。【研修目標と内容構成】研修目標を「論理の組み立て方を理解する」と設定し、研修医に地域における或る保健医療の問題事例に対して、それを改善するためのアクションプランを作成させる事を中心に研修を構成した。研修期間は1ヶ月で、海外研修に先立ち国内でアクションプランの作成方法について指導し、論理の組み立て方の演習を行った。その後、当院が中心となって立ち上げた医療NPOであるISAPHの協力を得てフィールド活動を行った。【フィールド活動】研修医二人のうち1人は母乳、もう1人はビタミンAをテーマに村で聞き取り調査を行い、対象地域の現状分析、分析結果を基にした活動の目標設定、戦略と活動内容の選定、進捗状況のモニタリング、評価指標の設定、等の内容からなるアクションプランを作成した。【結果】言葉の持つ曖昧さを理解し、公衆を対象とした地域保健問題に取り組む際の論理を組み立てる事の意義を理解できるようになった。【考察】一人の患者と向き合う臨床と違って、地域保健は公衆という実態の把握しづらい対象に向かって実施する医療活動であるから、その実践においては対象に向き合う手法を理解する事が重要である。今回の研修を通して指導した「論理の組み立て方」は、国際保健を含む地域保健領域での活動を希望する者への教育内容として意義の大きいものであると感じられた。
P3-55
民間病院における国際医療協力の試み〜国際交流に関する意識調査を通して〜
松本 安代1、塩川 智司1、小出 泰道1、船戸 正久1、川端 眞人2
1淀川キリスト教病院    2神戸大学 医学部 附属医学医学医療国際交流センター    
【目的】淀川キリスト教病院における海外研修・医療協力参加者に国際交流に関する意識調査を行い、民間病院における国際医療協力のあり方を考察した。【方法】対象は台湾研修および医療協力の参加者21名、バングラデシュへの参加者41名とした。質問内容は1参加動機 2参加前の期待3参加前の不安4良かった点 5 悪かった点 6今後の希望 7今後研修・派遣先と当院の関係はどうあるべきか 8研修・派遣先で知ったこと 9研修・派遣によって得たもの 10今後当院の国際交流はどうあるべきか の10項目とした。【成績】回答は台湾17名、バングラデシュ26名からあり、平均在職年数は台湾13.4±8.3年(Mean±SD)、バングラデシュ13.7±7.1年であった。1は現地医療への興味、2は現地の医療や文化等の新たな発見、3は台湾群がコミュニケーションであり、バングラデシュ群は体調だった。4は現地医療の見学や実地、人との交流であり、5は特になかった。6は医療協力の実践、7は台湾群が長期派遣も含めた実務的な研修や協力であり、バングラデシュ群は継続した研修・医療協力チームの派遣であった。8は現地の生活や文化、医療、9は院内の友人、次に台湾群は海外の友人、バングラデシュ群は国際医療協力に関する興味や今後の展望であった。10は台湾群が姉妹病院との共同プロジェクトの実行、院内の若手スタッフの参加であり、バングラデシュ群では現地訪問継続の重要性であった。【結論】海外研修・医療協力にスタッフは未知の国の医療への興味から参加し、実際に現地の生活・文化・医療を体感することに意義を感じていることが分かった。台湾とは長期派遣や共同プロジェクトの実践を、バングラデシュへは医療協力チーム派遣とともに国際医療協力への意識の高いスタッフ養成のためにも研修旅行の継続を求める声が高かった。また院内の部署を越えたネットワークの広がりが考えられた。
P3-56
民間病院における国際医療協力の試み 〜とくに外科的医療協力について〜
塩川 智司1、松本 安代2、加地 政秀1、花垣 博史1、永井 緑1、船戸 正久1
1淀川キリスト教病院    2神戸大学医学部付属医学医療国際交流センター   
【はじめに】当院は、設立の当初より積極的に海外に目を向け、特にアジア諸国に医療協力を行ってきた。とりわけバングラデシュとの医療交流は古く、5年前からは職員の現地医療研修をはじめたが、この研修をとおして職員から医療支援の声があがり、現地からも医師派遣の要請があったため、これまで2回にわたり外科医療援助チームを派遣した。この活動を振り返り、民間病院における国際医療協力の意義について考察し報告する。【方法】派遣は2005年11月および2006年7月の2回で、それぞれ約10日間活動した。多数の少数民族が居住し、国内でも特に保健・医療対策が遅れたチッタゴン丘陵地帯にあるチャンドラゴーナ・キリスト教病院で診療した。第1次派遣は、小児外科医、形成外科医、産科医、研修医各1名、外科系看護師2名、事務職員1名の計7名、第2次は外科医、形成外科医、産科医各1名、計3名であった。活動内容を予め現地キリスト教団体、NGOに連絡し、かれらの活躍により患者は地区各所から集った。われわれが帰国後の術後管理は、他の援助チーム、現地スタッフに申し送った。【結果】期間中、外来受診患者は70名で、うち48人に49件の手術を行った。手術患者の年齢は2ヶ月〜70歳、15歳以下22名で、男性27名、女性21名。疾患は熱傷・外傷後瘢痕拘縮13例、口唇・口蓋裂、尿道下裂など体表奇形12例、鼠径ヘルニア7例、腫瘍7例、虫垂炎、胆石、イレウスなど腹部外科疾患5例、異物・外科的感染症3例、その他2例であった。【考察】民間病院の限られた人的・経済的資源のなかでの海外医療協力は、現地医療機関、NGOとのネットワークが不可欠である。短期の医療協力では外科系援助が有用で、ことに発展途上国では、広く外科疾患に対応できる外科・整形外科医、形成外科医の需要が大きい。民間病院が継続的に海外医療援助を行うには、職員、特に医師派遣に伴う負担は重大で、それを支える病院の理念、土壌が必要である。
P3-57
関西国際保健勉強会(ぼちぼち)の歩みと将来展望
岡田 幸恵1、橋本 洋之2、小倉 健一郎3、團野 桂4
1東大阪市 保健所 地域健康企画課    2市立貝塚病院産婦人科    3相原第二病院    4大阪大学微生物研究所   
○目的○
ぼちぼち創設からこれまでの長年に渡る活動を振り返り、また勉強会参加者を対象としたアンケートを実施し、さらに良い形で将来へ発展させていくための鍵を探った。
○抄録本文○
ぼちぼちとは、関西で一月に一度開催されている、国際保健医療に関する勉強会で1997年に発足後、やがて10年を迎えようとしている。毎回ゲストスピーカーを招き、ゲストからのレクチャーを通して理解を深めてゆこうという趣旨で、途上国における持続的な医学研究や災害医療救援活動から世界規模での感染症対策、ヘルスシステム、保健政策など多岐に渡る話題が提供されており、国際保健に関心を持つ学生から社会人までの幅広い年代層が参加し、自由参加形式にもかかわらず毎回20名前後の人数を集めている。
本学会ではぼちぼちの過去の活動を振り返るとともに、参加者の国際保健経験やぼちぼちへの参加理由、参加して為になったことなどについてアンケートを実施したのでそれを報告する。
ぼちぼちが国際保健の現場に出るまでの情報収集の場として、また国内外問わず、保健医療の発展につながる一助となるよう願っている。
P3-58
臨床の医師、看護師によるスタディーツアー実施へのプロセス
梶 藍子1、仲佐 保1、横本 理恵1、下田 佳奈1
1国立国際医療センター BRIDGE   
【目的】医療従事者の中で、国際協力分野へ興味を持つ人は多いが日々の生活が忙しく国際協力へのモチベーションを失っていく人も多い。そこで、国際医療センターでは国際協力へ興味がある人を対象にBridgeというサークルを作り、講演会・セミナーを通じてモチベーションの維持に努めている。今回国際協力局からの協力を得、ラオスへスタディーツアーを企画し実施したのでそのプロセスを報告する。【方法】期間:2006年1月11日〜7月23日(企画から実施まで)【結果と考察】臨床という立場の中ツアーを企画するのは大変であった。勤務の都合上話し合いに参加できる人数も限られ週一回が集まりの限度であった。話しあいは勤務終了後に行うため毎回夜遅く、時には話しあいが12時までに及ぶことがあった。ラオス保健省、県保健局にあてたオフィシャルレター等の作成にあたり現地で赴任されている先生方及び諸関係者の方々と交わしたメール受信数は約140通。参加者間での負担の不公平がありツアーの存続も危ぶまれたこともあった。ツアー応募参加者が始め13名であったの対し最終的な参加者は9名。実際にツアーを達成できたこと自体が自信につながった。また、協力局、JICA主催であるキッズスマイルプロジェクトに関わる医療機関等の視察は、臨床経験を持つ医療従事者として今ある日本の臨床とラオスの現状を結びつけ非常に考え深いものであった。その学びから国際協力という分野が手の届きそうなところにあるように感じられた。ツアー後、参加者全員がなんらかの形で国際協力に関わりたいと述べていたのが、このツアーの最大の成果であったと言える。臨床を抱え多忙の中モチベーションを維持するのは困難であり、国際協力への志を失っていく人もいるかもしれない。しかし、臨床経験を持ってツアーへ参加することは自信とモチベーションの向上となり国際協力分野の人材育成に一翼を担うものになり得るであろう。
P3-59
国際学術共同研究の新たなスキーム
今田 美穂子1、Tuda Josef2
1慶応義塾大学 医学部 熱帯医学寄生虫学教室    2サムラトランギ大学 医学部 寄生虫学教室   
国際保健の分野で、学術的共同研究の重要性が強調されるようになってきた。 しかし、先進国と途上国の間には、様々な分野で大きなギャップがあり、学術的な共同研究を行うことは容易ではない。JICAシニア海外ボランティア事業に端を発し、5年間の期間を経て、三日熱マラリア 原虫の全長cDNAライブラリ作成するに至った我々の経験から、国際共同研究のひとつ の事例を紹介し、提言を述べる。 研究助成金は、JICA、平和中島財団、日本学術振興会から順次、計5年間に渡りサポートが得られた。今田は、2001年JICAシニア海外ボランティアとし て、 インドネシア北スラベシ州にある国立Sam Ratulangi大学医学部に派遣された。2年間の活動期間中に、分子生物学基礎実験室をスタートし、実験指導を行った。同時に、日本人を対象とした「熱帯フィールド研修」を開始した。これまでに8回開催され、合計13名が参加者したこの研修はイン ドネシアの医師らの指導によりマラリアの講習を行う1週間のセミナーで、参加費から必要経費を除いた収入をもたらすと同時に、インドネシア側の自主性を育むこととなった。 2003年、TudaがJICAのカウンターパート研修を受ける機会を得た。日本の大学の研究室を見学したことはインドネシア側のモチベーションを高めることとなり、「三日熱マラリア原虫の全長cDNAライブラリ作成」という先端的研究の源である、フィールでのサンプル調整を根気よくやり遂げる原動力となった。学術振興会の支援で、インドネシアグ ループが来日した際には、東京大学、東京医科歯科大学、日本 大学、慶応大 学からも技術指導のサポートを受けることができた。 継続的かつ広範な支援、途上国の自主性を引き出し育てる工夫、両国の大学の活用が、国際共同研究の成功への鍵となるのではないかと考える。
P3-60
効果的な予防接種対象児童事前登録の研究
帖佐 徹1、疋田 和生1、小林 誠1、村上 仁1、石田 裕1、蜂矢 正彦1
1国立国際医療センター 国際医療協力局   
【目的】予防接種拡大事業(Expanded Programme on Immunization)を進める上で、対象児童人口の把握は最も重要である。その戦略の一つとして、今回は接種キャンペーン事前登録の効果を検討する。【方法】中国貴州省、青海省は麻疹罹患率、死亡率が2004年までのデータでは国内で最も高い省であったため、2004年−2006年に、全省レベルの麻疹接種キャンペーンを実施した。そこで対象児童数把握のため採用されたのが、事前登録戦略であり、就学前児童は村衛生室、就学児童は学校が責任機関となって登録した。その結果と、その後の麻疹発症率を比較し、効果を検討する。【成績】両省のキャンペーン直後の接種率は現場サーベイにおいても極めて高く、キャンペーン1年後の麻疹発症率は大幅に低下し、国内でも最低となった。事前登録の成功には、行政関与、セクター間調整・協力、トレーニング、社会動員、住民宣伝などが主要因となっている。とくに宣伝に関しては、両親通知書、知事によるTV放送、新聞記事、ポスター、垂幕さらには携帯電話など、あらゆるメディアの活用が評価できる。サービス提供者側のロジスティックスでは、明確なガイドラインが重要であり、学校を臨時接種ポイントとすること、接種前の保護者説明・問診・登録・接種・観察・ワクチン副反応対応・安全注射と医療廃棄物処理などが指導されていた。【結論】貴州や青海のような困難な省で、キャンペーンが効率的に運営できたことは、事前登録の効果の証明であり、今後のパイロットになり得る。
P3-61
ラオス国における予防接種率低迷の原因解明に関する研究−第ニ報 ワクチンカード記録に基づく接種率算出調査−
高橋 謙造1、黒岩 宙司2、丸井 英二1
1順天堂大学 医学部 公衆衛生学教室    2東京大学 大学院医学系研究科 国際保健学専攻 国際保健計画学教室   
【目的】ラオス国では、EPI(Expanded Program on Immunization)ワクチン接種率が50%前後で低迷を続けているといわれている。接種率算出の分母(郡,県レベルでの出生コホート)は、1995年センサスを基本とした推定データである。一方、2005年に新センサスが行われた結果、人口ピラミッドは「つぼ型」を呈し、出生率が低下傾向であることが明らかになった。つまり、実は接種率が上昇傾向だが、接種率分母が大きすぎるために見かけ上の接種率低下が生じていた可能性がある。本研究は、直接観察した予防接種記録(EPIカード)を基に、郡レベルでの接種率を算出し、保健省データと比較する。
【対象と方法】調査は2004年12月に行われた。対象は首都Vientiane Municipality(以後VM)から2郡、VM東部に位置するBolikhamxay県(以後BXY)から2郡を選定した。接種担当スタッフが日帰りで往復できる村全てを対象とし、1歳以上5歳未満の児を持つ世帯を全村から5世帯ずつ無作為抽出した。
上記の世帯を個別訪問し、1歳以上5歳未満児全員のEPIカードからポリオ3回完遂(OPV3),麻疹ワクチン(MCV)接種歴を記録した。郡毎に生後12-23ヶ月、24-35ヶ月、36-47ヶ月の年齢層に分け接種率を算出した。
【結果】総訪問世帯数は475世帯(回収率98.9%)であった。各郡とも、年齢層が若くなるほど接種率が向上し、近年になるほど接種率が向上する傾向が見られた。例として24-35ヶ月群における4郡の接種率はOPV3(85.4, 63.5, 55.0, 77.8%), MSV(81.3, 58.7, 55.6, 66.7%)であった。
【考察】本調査ではアクセス良好な村に限定されたものの、接種率は保健省データより高かった。このことから、「接種率が低い」とされる原因として、1)アクセスが悪い村の接種率のみが低い可能性、2)分母データの問題で低く算出されている可能性の二つが考えられた。今後、アクセスの悪い村での接種率の調査,既存データの2005年コホートに基づいた接種率再算出を検討している。
P3-62
ラオス国におけるポリオ根絶後の定期接種率停滞の解明研究
前川 正治1、どあんぐまら そむたな2、黒岩 宙司3
1国際協力機構     2National Center for Mother and Child Health, Laos    3東京大学 大学院 医学系研究科 国際保健計画学   
【目的】ラオスの予防接種拡大計画(EPI)は1979年に始まった。1982年に121郡中10郡、1992年には97郡(80%)に拡がり、1991年から世界ポリオ根絶事業に参画し2000年に地域根絶を達成した。1992、1995、1999年で三種混合ワクチン(DPT3)は23%, 54%, 56%;ポリオワクチンは27%, 64%, 64%;麻疹ワクチンは46%, 68%, 71%と増加しポリオ根絶事業はポリオ以外のEPIにも好影響を及ぼしたが、根絶達成を機に援助機関がEPI支援から撤退すると2000, 2002, 2004年でDPT3は53%, 55%, 45%と停滞した。この研究は接種率停滞の因子解明を目的とした。【方法】2005年2−3月、ラオス、ウドムサイ県の2郡16村で12−56ヶ月の子どもを持つ母親341人を対象に聞き取り調査を行った。社会経済的要因、予防接種に関する母親の知識・態度・行動、予防接種の情報源を変数とした。【結果】DPT3は72%、ドロップアウトは22%だった。予防接種に有意差があったものは居住地、民族、識字率、家畜の有無、また母親の予防接種対象疾患名、麻疹接種計画、予防接種回数の知識、予防接種の支払い意思などだった。家庭訪問による予防接種の情報提供、分娩前の予防接種情報取得が予防接種率を上げ、家庭訪問の情報提供では、低就学者、非識字者、施設外分娩者、アウトリーチ利用者が接種率を上げた。【考察】公的な報告より高い接種率だった。母親の基本知識が高く、効果的な家庭訪問、劣悪なインフラを克服するuniversal accessを目指したアウトリーチなどPHCアプローチが成功しているが、公的報告システムの改善が必要だ。ドロップアウトが高いが基礎教育を充実し母親の理解が得られれば接種率の改善が可能だろう。ラオスの文化や自主性を尊重し国際機関は市場拡大のためにキャンペーンや保障のない新技術を利用すべきでない。
P3-63
わが国における1971年から2000年までのワクチン由来ポリオ麻痺のリスク
Lixin Hao1、Satoshi Toyokawa1、Yasuki Kobayashi1
1Department of Public Health,Graduate School of Medicine, the University of Tokyo, Tokyo, Japan   
Objective: To estimate the risk of VAPP in Japan between 1971 and 2000.Methods: The number of VAPP cases between 1971 and 2000 and the number of OPV administered between 1987 and 2000 were acquired from the website of Ministry of Health, Labour and Welfare. The number of OPV administered between 1971 and 1986 were calculated from reported immunization coverage (Handbook of Immunization, Kimura etc.) and the number of target children (from website of Statistic Bureau). Risk was calculated as the ratio between the number of VAPP cases and the number of OPV dose administered. Runs test was used to analyze temporal trends. Results: 33 cases of VAPP were recorded during 1971-2000; one case occurs per year approximately. 18(55%) cases were OPV recipients and 15(45%) cases were OPV contacts (including the cases which vaccination history are not clear). There were no changes of temporal trends for the occurrence of VAPP cases during 1971-2000(P=0.35).The estimated total doses of OPV administered during 1971-2000 were 66.8 million doses. The overall risk for VAPP during this period was 1 case per 2.0 million doses of OPV administered and the estimated VAPP burden was 0.74 cases per million-birth cohort.Discussion: Several reported estimates on VAPP occurrence in Japan were based on doses distributed. Instead, our estimates were based on doses administered to get the true risk of VAPP in Japan.Conclusions: The occurrence of VAPP is rare, but the risk of VAPP remains continuing and stable in Japan in the case of OPV using.
P3-64
パキスタンにおける予防接種拡大計画と女性保健従事者プログラムの連携
小林 誠1、櫻田 紳策2
1国立国際医療センター 国際医療協力局    2国立国際医療センター 研究所   
【目的】パキスタンの定期接種率は低く、DPT3回接種の報告接種率は71%(2003年)であった。予防接種(Expanded Programme on Immunization, EPI)を受けるため、母親は子供を保健施設(Basic Health Unit, BHU)に連れて行く必要があるが、EPIに関する知識・情報不足やイスラム社会では女性の外出が制限されているために、母親が子供をBHUに連れて行くことが困難であることが、EPI低迷の一つの原因と考えられている。この状況を改善するために、パキスタン政府は村に住んでいる女性保健従事者(Lady Health Worker, LHW)がEPIを実施することを決定した。今回パキスタンの北西辺境州(NWFPと略す)で、EPIとLHWの連携について調査を実施したので報告する。【方法】2006年7月に保健省、NWFP保健局、S県、およびUNICEFパキスタン事務所を訪問し、関係者の面談、関連資料の収集を通して、LHWの背景情報、EPI実施のためのトレーニングに関し、調査を行った。またS県のBHU1箇所を訪問し、8人のLHWのインタビューも行った。【結果】(1).BHUは人口2万人毎に設置されている一方、LHWは人口1000人に1名配置されている。(2).LHWは、8年以上の学校教育(中学程度)を受けた、20歳から45歳の女性で、1年3ヶ月の基礎的な保健教育を受けている。S県(人口150万人)には約1000人のLHWが配置されている。(3).トレーニングは、6日間の座学、1ヶ月間のEPIの見学、3ヶ月間のBHUでの実習、2ヶ月間のLHWの自宅での実習である。(4).トレーニングを受けたLHWは、EPI実施に特に不安を感じてはいなかった。ただ1回のセッションで接種する子供の数が少なく、1アンプルに10ドースのワクチンが入っているため、ワクチン廃棄量が増加している可能性があった。【考察】LHWによるEPIの実施が接種率向上につながる可能性はある。一方ワクチンの廃棄量が増加するという問題が示唆された。今後LHWによるEPIの実施の功罪についてさらに調査する必要がある。
P3-65
予防接種率電算システムの導入による途上国における予防接種事業評価の試み
五十嵐 久美子1、佐々木 諭2、金 容林2、田辺 直仁1、鈴木 宏1
1新潟大学 医歯学総合研究科 公衆衛生学    2JICAルサカ市プライマリーヘルスケアプロジェクト    3JICAルサカ市プライマリーヘルスケアプロジェクト   
【目的】ワクチン接種により予防可能な感染症対策事業においては正確な予防接種率測定が重要である。予防接種率測定手法として、1歳未満児人口当たりの接種率が使用されるが、人口統計の信憑性が低い途上国において正確な予防接種率を算出することには限界がある。今回、ザンビア国ルサカ市において実施されている「JICAプライマリーヘルスケアプロジェクト」の対象地区における予防接種事業評価として、予防接種率電算システム(新大方式)の導入を試み有用性を検討した。
【方法】無作為抽出標本として得られた、2000年出生児126名と2003年出生児196名の生年月日と6種類の対象ワクチン(BCG・OPV・DPT・麻疹)接種日を電算システムに入力し、月齢毎の予防接種率を算出し予防接種事業評価を実施した。
【結果】2000年と2003年出生児における6種類の対象ワクチン接種時期および接種率を比較した。第1に接種時期(接種率が70%を超える月齢)としては、麻疹を除く5種のワクチンは標準接種月齢に近づいた。第2に、生後12ヶ月時点での予防接種率の検討では、同様に麻疹を除く3種類のワクチン接種率は有意に改善した(BCG:72.2→86.9%、OPV3:62.7→77.8%、DPT3:70.6→80.3%、p<0.05)。第3に、1歳までの完全予防接種率(全てのワクチン接種の完了率)が改善した(46.0→57.6%、p<0.05)。
【考察】汎用されているExcelを利用した電算システム(新大方式)により、コンピューターおよび関連技術の不備が多い途上国においても、正確な予防接種率の算出に基づく適切な予防接種事業評価が可能となり、本システムの途上国における有用性が示された。さらに今回の事業評価において麻疹ワクチン接種率が低いままで推移されていることが示され、本事業への更なる強化が重要な課題であることが明確となった。
P3-66
ベトナムにおけるB型肝炎ワクチン出生時接種:実施の現状とコスト
村上 仁1、グエン・ヴァン クオン2、リン フィン3、デービッド・バリー ヒップグレーブ4
1国立国際医療センター 国際医療協力局 派遣協力第一課    2ベトナム国家拡大予防接種計画    3フルブライト研究員    4ユニセフ・インドネシア事務所   
【目的】B型肝炎の母子感染予防には、出生直後の児へのワクチン接種が有効である。ベトナムのB型肝炎キャリア率は10%を超え、事業の保健インパクトは大きい。2004年より、全国で、出生時接種が開始された。出生直後の接種は、途上国の地域レベルでは困難が多い。実施の現状とコストを明らかにし、ガイドライン作成に資する目的で、調査を実施した。【方法】ベトナム全国から、地理的社会的に異なる4省を選び、それぞれから1郡、2コミューン(10-15村からなる行政単位)を作為抽出し、キーインフォーマント面談、予防接種者と6ヶ月未満児の母親それぞれ対象のフォーカスグループ討論(FGD)、FGD結果を確証するための簡単な質問表調査を実施した。【成績】出生時接種実施のメカニズムは、多様性に富み、その最大規定要因は、ワクチン保存場所であった。これらは接種コストの主決定要因でもあり、ワクチンを郡レベルに保存し、コミューンや村での出生毎に取りに行く場合、移動手当てを主要支出項目としてコストが高く、アクセスが悪い地域ほどコストも高かった。コミューン保健センターに冷蔵庫を配備した場所では、電気代がかかったが、コストは最も低かった。接種率と適時性(生まれてから接種までの時間)は、ワクチン保存場所よりも、以下のような要因が決定していた。1)接種禁忌状態の解釈(低出生体重等)、2)地域での妊娠モニタリング、3)私設助産所と予防接種事業の関係、4)都市の大病院と予防接種事業の関係、5)家族(特に祖父母)の接種に対する認識。【結論】B型肝炎ワクチンは室温でも通常3ヶ月以上は効果を失わないため、今後ワクチン検定機関が冷蔵チェーン外のワクチン保存、使用を認めれば、出生時接種はさらに容易になり、移動や電気代も不要になる。結果に述べた接種率と適時性の決定要因解決の、具体的ノウハウを盛り込んだガイドライン発行が期待される。
P3-67
IDENTIFICATION OF CAUSATIVE PARASITES OF LEISHMANIASIS IN PAKISTAN BY CYTOCHROME b GENE ANALYSIS (Report NO.2)
Chomar Km1、Yutaka Asato1、Hirotomo Kato2、 bhutto am 3、Soomro fr4、Jun Matsumoto5、Marco Jd6、 ken Katakura5、Hiroshi uezato1、Yoshihisa hashiguchi6
1Dept of Dermatology, Faculty of Medicine, University of the Ryukyus, Okinawa, Japan    2Dept of Veterinary Hygiene, Faculty of Agriculture, Yamaguchi University, Yamaguchi, Japan    3Dept of Dermatology, Chandka Medical College Hospital, Larkana, Sindh, Pakistan    4Leishmaniasis Office, Chadka Medical College Hospital, Larkana, Sindh, Pakistan    5Lab of Parasitology, Dept of Disease Control, Veterinary of Medicine, Hokkaido University, Hokkaido, Japan    6Dept of Parasitology, Kochi Medical School, Kochi University, Kochi, Japan   
Pakistan is one of the Leishmaniasis endemic areas. The reported causal organisms for this area are L.(L.) major and L.(L.) tropica . Subjects and Methods: From 2003 January to 2005 September, seventy patients (45 males and 25 females, 10 months to 50 years old) were diagnosed, based on the clinical presentation, Giemsa staining, culture and cytochrome b gene analysis. The causative parasites were identified by following procedures. The genomic DNAs from biopsy specimens and/or cultured parasites samples were extracted according to the Genomic Preparation Cell and Tissue DNA isolation Kit protocol. PCR was done with consensus primers of Leishmania cytochrome b gene analysis, and the purified PCR product was directly sequenced by using ABI machine.Results: The DNA analysis shows 17 cases of L.(L.) tropica and 52 cases L.(L.) major . One case from Jacobabad was unknown species. In this study, three types of polymorphisms of L.(L.) major were found: one case of type I, 38 cases of type II and 5 cases of type III , and only one case of L.(L.) tropica in lowland area and 6 cases of L.(L.) major type II in highland areas of Pakistan. 16 L.(L.) tropica cases were found around Quatta city, a mountainous region. Polymorphisms findings of two L.(L.) major cases were not yet typed precisely. Discussion: These findings will contribute to eco-epidemiological study in Leishmaniasis of Pakistan.Acknowledgements: We appreciate the support of Dr. Momen MZ, Dr.Tareen MI and Dr. Tareen IK.
P3-68
Cytochrome b遺伝子を使用したリーシュマニア原虫の系統樹解析の検討
安里 豊1、KM Chomar1、山本 雄一1、上里 博1、Marco JD2、加藤 大智3、三森 龍之4、Gomez EA5、橋口 義久2
1琉球大学 医学部 医学科 皮膚科学教室    2高知大学 医学部 寄生虫学    3山口大学 農学部 家畜衛生学    4熊本大学 医学部 保健学科    5エクアドル国 カトリカ大学 医学部 熱帯医学教室   
リーシュマニア原虫のCytochrome b遺伝子(Cyt b遺伝子)は約1080bp(1078bp-1080bp)で、その構成は2つの領域(edited領域〔20-22bp〕とnon edited領域〔1056bp〕)に分けられる。我々は今までこのCyt b遺伝子を使用してリーシュマニア原虫種の同定と系統樹解析を行ってきたが、今回新たに26種(29系統)の解析を行い、系統樹を作製し検討した。対象と方法:リーシュマニア原虫種はWHOに登録されている株と患者から分離培養した株である。PCRはCyt b遺伝子のconsensus primerで増幅されたPCR産物をdirect sequencingを行い、塩基配列を決定した。それをもとにコンピューターソフトで系統樹解析を行った。結果:作製した系統樹からリーシュマニア原虫は6つのカテゴリーに分類された。Lainson & Shaw (1987)が提唱したL. tropica、L. donovani、L. mexicana 、L. braziliensis complex以外にEndtrypanum group、その他のgroupに分類可能と思われた。考察:我々が行っているリーシュマニア原虫種のCyt b遺伝子による分子系統樹解析は、過去に報告された原虫の分類方法と比較しても十分有効な方法と考えられる。また、我々の分子系統樹はLainson & Shawが提唱した分類法とほぼ同一であったが、以下の点でわずかな相違点と疑問点を認めた。 1)L. tropica complexは2つのサブグループに分けられる。2)L. tarentolaeSauroleishmania属に分類されているが、Viannia亜族に近い位置にある。3)Lainson & ShawによればL.(L.) deaneiL. hertigi complexに分類されているが、我々の結果での分子系統樹ではEndotrypanum属に位置している。4)トカゲ感染性のL. turanica、またL. arabicaはヒト病原性リーシュマニア原虫種に近くあり、Endotrypanum属とは離れた位置にあった。5)L.(L.) aristidesiはいまだ人への感染性が不明であるが、分子系統樹ではヒト病原性のL. mexicana complexに属していた。
P3-69
The usefulness of modified polymorphism-specific-PCR (MPS-PCR) in the diagnosis of American tegumentary leishmaniasis (ATL) and its contribution on the identification of Leishmania spp. involved
Jorge Marco1、Tatsuyuki Mimori3、Paola Barroso1、Maria Mora2、Pamela Cajal 4、Manuel Calvopina1、Masataka Korenaga 1、Miguel Basombrio 2、Nestor Taranto4、Yoshihisa Hashiguchi 1
1Dept of Parasitol, Kochi Med Sch, Kochi Univ, Kochi, Japan    2IPE, Univ Nacional de Salta, Salta, Argentina    3Dep of Microbiol, Sch of Health Sci, Kumamoto Univ, Japan    4IIET, UNSa, Orán, Salta, Argentina.   
In order to improve the diagnosis of ATL and direct Leishmania species identification, the performance of MPS-PCR was tested. This technique was done on boiled dermal scraping specimens taken from lesions of 69 patients with suspected ATL in Salta, Argentina. Forty-four of them were previously diagnosed as "ATL cases" and 19 as "no cases" based on the combination of smear specimens, leishmanin skin test, and clinical histories. The sensitivities of MPS-PCR, smears and the MPS-PCR - smears together were 80.95, 70.45, and 97.62% (p < 0.05), and their specificities were 84.21, 100 (defined), and 83.33% (p > 0.05) respectively. From nine patients with mucocutaneous leishmaniasis (MCL), eight were detected by MPS-PCR, but only two of them by the smears (p < 0.05). Out of 31 species-identified cases in this study, 28 were L. (V.) braziliensis (90.3%); the remaining two, L. (V.) guyanensis (6.5%), and one showed L. (V.) panamensis (3.2%). The clinical forms associated with L. (V.) braziliensis revealed MCL, single (SCL), multiple (MultCL), and disseminated cutaneous leishmaniasis; L. (V.) guyanensis, MultCL; and L. (V.) panamensis, SCL. In three samples assigned to Viannia subgenus, we were unable to identify the species by this technique. However, the MPS-PCR significantly improved the quality of the diagnosis of ATL, especially in MCL cases (the most sever clinical form of ATL), using non-invasive sampling methods. Besides, it also allowed the rapid Leishmania spp. identification in 70.5% of the ATL cases.
P3-70
In vitro anti-leishmanial activity of green tea (Camellia sinensis) catechins against L. (L.) amazonensis and L. (V.) braziliensis.
Paola Barroso1、Jorge Marco1、Manuel Calvopina1、Yukihiko Hara 2、 masataka Korenaga 1、Yoshihisa Hashiguchi1
1Dept of Parasitol, Kochi Med Sch, Kochi Univ, Kochi, Japan    2Mitsui Norin Co., Ltd., Tokyo, Japan   
The green tea has been the most popular beverage worldwide because of its characteristic aroma and health benefits. Most of its antimicrobial, anticancer, antioxidant activities and anti-inflammatory effects are related to the polyphenol fraction, the green tea catechins (GTC). In the present study, we investigated the anti-leishmanial effects of (+)-catechin (C), (-)-epicatechin (EC), (-)-gallocatechin (GC), (-)-epigallocatechin (EGC), (-)-epigallocatechin gallate (EGCG), (-)-gallocatechin gallate (GCG), (-)-catechin gallate (CG) and also the polyphenon E (PE) against L. (L.) amazonensis and L. (V.) braziliensis. Promastigotes were cultured in complete RPMI medium and incubated in presence of different concentrations of GTC and meglumine antimoniate (MA). The parasite viability was assessed by MTT assay. The 50% inhibitory concentration (IC50) for GC, EGC, EGCG, GCG and PE was in a range of 20 to 39 μg/ml against L. (L.) amazonensis, and >60 μg/ml for L. (V.) braziliensis except for PE with an IC50 of 34 μg/ml. Interestingly, the anti-leishmanial activity of these catechins on L. (L.) amazonensis was 35 fold more effective than MA (IC50=976 μg/ml). On the other hand, C, EC and CG showed IC50 values ranging between 133 to >290 μg/ml for both Leishmania species. Comparing the sensitivity to GTC between L. (L.) amazonensis and L. (V.) braziliensis species, we found that L. (L.) amazonensis was more sensitive to GC and GCG than L. (V.) braziliensis (p<0.05). In conclusion, GTC showed anti-leishmanial activity against promastigotes of L. (L.) amazonensis as well as L. (V.) braziliensis. Further assays in a macrophage-amastigote model are ongoing.
P3-71
クルーストリパノソーマ感染に関与する分子であるGp82 遺伝子の機能解析
Dujdow Songthamwat1、Kazuo Kajiwara1、Mihoko Kikuchi2、Haruki Uemura3、Tetsuo Yanagi3、Hiroo Higo4、Michio Yasunami2、Kenji Hirayama1
1Dept. of Molecular Immunogenetics, Institute of Tropical Medicine, Nagasaki University, Nagasaki, Japan    2Nagasaki University Center of International Collaborative Research, Nagasaki, Japan    3Dept. of Protozoology, Institute of Tropical Medicine, Nagasaki University, Nagasaki, Japan    4Dept. of Parasitology, Kyusyu University, Fukuoka, Japan   
The infective forms of Trypanosoma cruzi, the causative agent for Chagas disease, are metacyclic trypomastigotes in excreta of triatomine vectors and trypomastigotes in the blood stream of mammalian hosts. Metacyclic trypomastigotes express stage-specific glycoprotein(s) of 82 kDa (gp82), which play a crucial role in the invasion in to the host cell. Although the sequence of a single gp82 gene was reported so far, the functional gp82 can be encoded by a multigene family of sialidase-related proteins. Therefore, we studied a family of gp82 to elucidate the role of this molecule in the pathogenesis. We could define four subfamilies of gp82-related proteins, A (most closely related to the original sequence of gp82 of G strain), B, C and E, each of which shared more than 80% of amino acid residues in Peru-1 strain, one of human isolates found in Peru. The copy numbers of the A, B, C and E genes were estimated as 17, 8, 3 and 6, respectively, in the genome of Peru-1 strain. The expression of all for subfamilies was enriched in metacyclic trypomastigotes, as reported for the original gp82 sequence in G strain. Further, we performed an invasion inhibition assay by subfamily-specific peptide sequences corresponding to the portion known as host cell-binding motif of gp82. The results suggested that at least two different gp82 subfamilies (A and E) were utilized in invasive process to similar extent to the original copy of gp82 gene.
P3-72
濾紙採血試料を用いたDot-ELISAによるT.Cruzi感染検査方法に関する検討
関 健介1、三浦 左千夫2、下川 洋3、金子 哲也1
1杏林大学 保健学部 環境保健学研究室    2慶應義塾大学 医学部 熱帯医学・寄生虫学教室    3Municipal Hospital de Palhano, Palhano-Ceara-Brazil   
【目的】T.cruzi感染症(Chagas病)は一過性の急性期の後、長い期間無症状な場合が多い。健康診断時などで感染状況を把握することが感染拡大予防として重要である。特に流行地である中南米の貧困地域で利用するスクリーニングは安価で簡素な方法が望まれる。そこで我々は濾紙採血試料を用いたDot-ELISA法の有用性を検討した。
【対象・方法】血清試料を用いた凝集法検査の陽性者78名と、陰性者22名とから採血用濾紙にて血液を採取した。採血後よく乾燥させ4℃で保存した。これから測定時にPBSにて血液成分を再溶出させ、Dot-ELISA法を施して、発色強度により「−、±、+、++」の4段階で評価した。
【結果及び考察】Dot-ELISA法の発色強度と凝集力価との間には高い相関性が認められた。抗体濃度に応じて反応したと考えられる。しかしながら、陰性者22名中21名では、微弱な反応が認められ、「±」以下を陰性とみなした。この基準では、Dot-ELISA法と凝集法との診断一致率は97.0%であった。また、濾紙試料は4℃・3ヶ月の保存期間後でも判定に十分な反応が確認できた。濾紙試料によるDot-ELISAクリーニング検査は、試料の採取方法、保存方法が簡単であることに加え、従来法に劣らぬ結果が得られ、高い有用性が認められた。
今後は同一シート上に複数種の抗原を用いるMultiple-Dot-ELISA法の実施可能を検討し、医療施設や医療スタッフが十分でない地域における有用性を高めたい。
P3-73
寄生虫におけるプォスファーゲンキナーゼ遺伝子の分子生物学的研究
吾妻 健1、長瀧 充1、Wickramasinghe Susiji1、Yatawara Lalani1、矢野 弘子2、渡部 嘉哉2、宇田 幸司3、鈴木 知彦3
1高知大学 医学部 看護学科    2株式会社ソフィ    3高知大学 理学部 物質科学科   
フォスファーゲンキナーゼ(PK)は、生体内におけるエネルギー代謝に重要な役割を果たす酵素群の総称であるが、基質となるグアニジノ化合物の違いによって、creatine kinase(CK)など8種類のPKが存在し、脊椎動物ではすべてCKのみが分布する。一方、無脊椎動物では、8種類のPKが観察されるので、寄生虫とヒトは異なるPKを有することが考えられ、寄生虫PKのみを阻害する薬剤開発の可能性を示唆する。今回、日本住血吸虫、肝蛭、イヌ回虫、ブタ回虫の4種からのcDNAの塩基配列を明らかにするとともに、その組み換え蛋白質を合成してその活性を測定したので、報告する。まず、クローニングしたcDNAの全長は、それぞれ2416bp、1745bp(部分配列)、1300bp、1264bpであった。塩基配列の解析の結果前2者は、2ドメインタイプ、後2者は、1ドメインタイプであることが分かった。また基質特異性に重要な役割のあるGS領域(Guanidino Specific Region)の解析から、イヌ回虫およびブタ回虫はアルギニンキナーゼ(AK)であるが、日本住血吸虫と肝蛭はこれまでにはない新規のPKであることが示唆された。今回は、イヌ回虫およびブタ回虫の酵素活性を測定し、Km、kcat、Kd、Vmaxなどを求めた結果、現在既に知られている種々のPKと比較すると、両種においてKmが特に低値を示す事がわかった。イヌ回虫およびブタ回虫では、GS領域のアミノ酸配列が他種のAKと異なっており、Kmの低値と関係があるものと示唆された。
P3-74
在日ラテンアメリカ人のシャーガス病と献血対策
三浦 左千夫1、肥後 廣夫2、下川 洋3、IVO CASTERO4、竹内 勤1
1慶應義塾大学 医学部 熱帯医学寄生虫学    2九州大学 大学院 医学研究院 感染免疫熱帯医学分野    3Hospital de Palhano.,Munincipal de Palhano.,Ceara-Brazil    4Dept.Patologia. Nuculeo de Medicina Tropical.,UFC.,Ceara-Brazil    5慶應義塾大学 医学部 熱帯医学寄生虫学   
我が国ではラテンアメリカからの定住者が既に35万人余りと言われている。Chagas病の疑いで検査依頼のあった者のうち、Trypanosoma cuzi (T,cruzi) 抗体陽性者12/29(41.38%)と約半数がChagas病慢性期を示唆する結果が得られた。感染者達はその幼少期を本疾患の主媒介昆虫(サシガメ)の棲息地域で育っていた。母国で受けた輸血感染の明らかな例もあった。Chagas病の発症は病原体の感染から20〜30年経過して発症をすることが普通である。定住化しているブラジル人の中にはChagas病感染を知らず来日、日本の医療機関で始めて心臓の異常を指摘される例が殆どである。このようにChagas病は本人さえ気付かずに慢性期に至っている。最も注意したいことに、多くの慢性感染者ではその末梢血液中に病原体T.cruziが検出されることである。
東北ブラジルとボリビアにおいて我々が行った疫学調査でも多くの慢性感染者からT.cruziを検出した。最近のラテンアメリカ諸国での感染の多くが輸血感染である。わが国の医療機関としても不慣れな疾患への対応を余儀なくされている現状がある。我々は彼らが育った環境を良く理解し、彼らにはChagas病感染の可能性があったことを考慮する必要がある。更に、感染予防の観点から、献血者に対する抗体検査の導入などを即急に検討すべきである。