L 学会賞受賞講演: 世界規模でのフィラリア症根絶計画に寄与するための基礎的・応用的研究

日時:2006年10月11日(水)14:50-15:30
場所:第1会場(大ホール)
座長:竹内 勤(慶応義塾大学 医学部)
L-1
世界規模でのフィラリア症根絶計画に寄与するための基礎的・応用的研究
Basic and Operational Researches to contribute to the Global Elinination of Lymphatic Filariasis
木村 英作1
1愛知医科大学医学部寄生虫学   
1997年、WHO総会でリンパ系フィラリア症の根絶が決議された。2000年にはGlobal Programme to Eliminate Lymphatic Filariasis (GPELF) が開始され、2020年までに世界からのフィラリア症根絶を目指す。その基本戦略は流行地の全住民を対象とする集団治療(MDA)で、年一回実施し5年間繰り返す。治療薬はジエチルカルバマジン(DEC)+アルベンダゾ-ルである(但し、アフリカの一部ではDEC + イベルメクチン)。2003年までに世界の83流行国のうち36ヶ国でMDAが開始され、同年の治療者総数は7千万人である。(1)DECの年一回投与法 DEC治療は、1日6 mg/kg、12日間投与(総量72 mg/kg)が世界の基準であった。しかし、6 mg/kgを年に1回投与するだけで著明か効果がみられることは既に1962年以来ブラジル、フランス領ポリネシアで報告されていた。我々は、この事実をサモアで再確認するとともにサモア政府、WHOの支持を得て1982年より年1回MDAに基づく全国一斉のフィラリア症対策を開始した。MDAは1982、1983、1986年に実施されミクロフィラリア (仔虫) 陽性率は5.3%から2.3%に減少した。世界的根絶計画が開始される18年前に南海の小さな島国で現在と同じようなプログラムが進行していた。その後、南太平洋の国々ではWHO一盛和世博士の努力によりPacELFが開始され大成功をおさめた。(2)尿診断法とその応用 夜間採血による仔虫検査は住民側、検査者側共に辛い経験である。免疫診断の開発は昼間の検査を可能にしたが、やっかいな採血を避けて通ることはできなかった。我々は尿を検体とする免疫診断法を開発し、その野外応用を試みている。尿ELISA法は感度、特異性ともにすぐれており、sentinel populationである子供達の検査が容易である。尿ELISAはMDA効果の判定、流行再燃の監視および根絶の確認に利用できる。

LL 学会長講演: 熱帯医学と国際保健における人類生態学的アプローチ

日時:2006年10月13日(金)9:00-9:30
場所:第1会場(大ホール)
座長:中村安秀(大阪大学・次期日本国際保健医療学会総会 大会長)
LL-1
熱帯医学と国際保健における人類生態学的アプローチ
Human Ecological Approaches in Tropical Medicine and Health
門司 和彦1
1長崎大学熱帯医学研究所附属熱帯感染症研究センター   
30年ほど前、土木衛生工学を勉強した若者がパプアニューギニアで約1年間のフィールドワークを行い、「生業と生存:太平洋地区における農村の生態」という論文集を同僚と編集出版した。その中で、フィールドワークに基づいた「人類生態学としての衛生工学」という水系感染症の論文の他に、全章のレビューとして「人類生態学者はスーパーマンか?」という序論を書いた。研究者がある地域に長期滞在し、参与観察的に人々の活動を観察し、時には砂金採りと間違えられ、また時には専門外の社会人類学的手法を用いて専門家から批判を浴びながらも、そこに住む人々の生存や健康の成り立ちを考えることが何を意味するのか、また、そのような学問領域として広まりつつあった人類生態学に何ができるかという問であった。彼は、その当時、大規模に実施された国際生物学事業計画(IBP)などが、multi-mono-disciplinaryな研究に終わっていること、また、アフリカでは同種の研究が少なく、不適切な介入計画が実施されていることをあげて、このような個人の小規模な人類生態学的研究の重要性を指摘した。 Professor Richard Feachemはその後、アフリカ等で多くの仕事に就き、ロンドン熱帯医学校の校長となり、世界基金の総裁として活躍している。彼の行動原理の基礎にはEngaの人々と暮らした経験が横たわっていると思う。夫人と二人の長期のコミュニティとの距離の近い調査を実施し、それを科学的にまとめる過程は、熱帯医学や国際保健の重要な訓練の一つになるであろう。若いときに経験してもらいたいアプローチである。 一方、果たしてそれだけで良いのだろうか?30年間の学問の進歩を考えれば、そこにとどまってはいられない。また、当然ながら、人類生態学者はスーパーマンではない。人類生態学的視点をもった熱帯医学者、国際保健専門家を如何に組織的に育成し、研究成果を組織的に蓄積・活用していくべきか、を考えたい。